マギアレコードRTA noDLC みかづき荘チャートAny%   作:なぁ……相撲しようや……

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Part8 : 真実を知る必要は無いの

 ……目が覚めると、灯花ちゃんとみふゆさんの姿は無く、ゆりちゃんとさなちゃんとフェリシアちゃんもいなくなっていました。この場に残っているのは私、やちよさん、鶴乃ちゃんの三人だけで、皆たった今みふゆさんの記憶から戻って起きたところでした。

 

「あなた達は、マギウスの翼?」

「違うよ!?」

「灯花ちゃんの勧誘なら断りましたよ!」

「そう。という事はここには、その勧誘に頷かなかった人が放置されていたのね」

 

 やちよさんの言葉から考えると、逆にここにいなかった三人……ゆりちゃん、さなちゃん、フェリシアちゃんの三人は、マギウスの翼に入ってしまったという事に……

 

「やちよ、他の三人が頷いたとは限らないよ?」

「えぇ。素の状態ならあり得ないでしょうね。でも、私たちは追体験を通じ、みふゆの記憶に影響されてしまっている。その状態で勧誘を受けたら? センチメンタルな気持ちのままだったら、気の迷いで頷いてしまってもおかしくないわ」

 

 確かに。私も、かなえさんとメルちゃんの事でとっても悲しくなって、マギウスの翼に入った方がいいんじゃないかという考えが頭の片隅から生えてきていました。

 他人の心の中を見るというのはこういう事なんですね。その人の悲しいと思った気持ちが直接私にも雪崩れ込んできて、ゆりちゃんはこんな気持ちを味わいながらも私達に寄り添うように……あれ? そういえばここには——

 

「——ゆりちゃんもいないんですよね? ゆりちゃんは他の人の気持ちを読む事には慣れてるはずですけど、そんなに簡単に他人の記憶に影響されたりするんでしょうか?」

「つまりは……さっきの発言の一部を撤回するわ。これは影響なんて生易しい物じゃない。もはや洗脳よ」

「みふゆの記憶に同調させられて、マギウスの翼に無理矢理入れられたのだとしたら、今すぐ探しに行かないと。黒羽根の中に紛れ込ませられたら探し出すのは難しいよ」

 

 三人で顔を見合わせて、今やるべき事を決めました。残りのみんなを出来るだけ早く探し出て、マギウスの翼から連れ戻す。

 そして変身した瞬間、辺りを異様な魔力——ウワサの結界が包みました。

 

「記憶ミュージアムのウワサ……!? 誰か内容覚えてる?!」

「覚えてるよ! 多分、みふゆの記憶で洗脳されていないと判断されて排除されそうになってるんだと思う!」

「ウワサを倒す為以外の目的でウワサの結界に入ったのは初めてですね、試した事も無かったですけどウワサを倒さずに結界から出る事って出来るんですか……?」

「出口はあるだろうけど、ウワサの目的が私達の排除である以上、脱出しても即座に再び捕まるわ。先にウワサを倒してからの方が結果的に早く動けるかもしれないわ」

「分かりました。早く倒してしまいましょう!」

 

 みんなが待ってる。ここで足止めされる訳にはいかない。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 プレイヤーキャラクターがロストしても、そこでゲームは終わりません。スタンダードモードであれば、最も好感度の高いキャラクターに乗り移り、ゲームを続行させる事が出来ます。この仕様を利用し、現在は環いろはの操作中です。

 里見灯花にはしてやられました。まさか、こうまで確実な洗脳を施してくるとは。

 虹絵ゆり、二葉さな、深月フェリシアの奪還は絶対にやらなければなりません。この三人無しに第十章のクリアは成し遂げられません。

 二葉さなと深月フェリシアがいなければラスボス——エンブリオ・イブの弱体化イベントが発生せず、また、虹絵ゆりがいないとマギウスによるワルプルギスの夜の招待が阻止出来ないのです。

 フルスペックのエンブリオ・イブとワルプルギスの夜を同時に相手取るなど当然想定しておらず、戦力の用意が全く出来ていないので……第七章終了までにみかづき荘メンバーの再集結が叶わなければ、間違いなくリセットになります。

 

 読心魔法を持たない環いろはでは行動の幅は狭いですが……二葉さな深月フェリシアの脱出イベントは何も行動を起こさずとも確実に起こるので、そちらの方の心配はあまり必要ありません。問題は、虹絵ゆりです。

 早々に融合ウワサと共に前線に出てくれるのであれば早期の奪還が期待できるのですが、ホテルフェントホープ内に拘置されてしまうと、第九章の本拠地襲撃まで全く手出しできなくなってしまいます。

 ただ……里見灯花が最後に言った言葉、わたくしたちの為にたっぷり働いて……ここから推測するに、フェントホープ内での飼い殺しは可能性低いのかな、どうだろう。環いろは達のログを見るに、魔法少女理論応用二の講義を行ったのは虹絵ゆりに対してのみのようですが……

 

 記憶サーキュレーターのウワサの使い魔、記憶スタッフのウワサに襲われました。梓みふゆの記憶に影響された選択を行わなかったので出てきたようです。

 記憶スタッフのウワサはイワシのように群れて飛び、体当たりをしかけてくる攻撃方法を取ってきます。虹絵ゆりであれば曳火射撃によって一網打尽に出来る場面ですが、環いろはは手数に頼るタイプであるので少々厳しい物があります。七海やちよと由比鶴乃にこの場は任せ、こちらはサポートに徹します。

 

 記憶スタッフの攻撃を退けながら、反応を辿って記憶サーキュレーターのウワサの所まで辿り着きました。印刷機型の前時代的でかつ前衛的なデザインのウワサの彼は、印刷した紙を飛ばして攻撃してきます。この紙は耐久力が皆無である為、連射速度に物を言わせて全て迎撃します。

 記憶サーキュレーターが攻めあぐねいている内に、二人に本体の撃破をさせます。ブラストゴリラやただのゴリラなどと揶揄されるレベルに彼女達の火力は高い水準にあるので、火力に関しては全面的に頼った方が結果的に撃破は早いです。

 虹絵ゆりの火力支援という意味でのサポートとは違い、環いろははエンチャンターやヒーラーという意味でのサポートタイプであるので虹絵ゆりと同じノリで操作してはいけません。どんな状況でもサポートの立ち位置から逸脱しない覚悟を持っておきます。

 

 記憶サーキュレーターのウワサを撃破しました。これでもうミュージアム内で邪魔をしてくる存在はいません。里見灯花の所まで一直線に——

 ——いや。そういえばマギウスの翼化ルートを選んだから、ここで立ち塞がってくる存在はもう一人いるんでしたね。

 

 ——巴マミ。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 背後から飛んできた銃撃。やちよさんが咄嗟に私を伏せさせてくれなかったら、その銃撃が私の首を貫いただろう事が想像できました。

 

「あら。バレていないと思ったのだけれど」

「魔力は隠してても、殺意が隠せてないのよ、巴マミ……!」

 

 巴……さん……?

 立ち上がって、背後を振り返ると、そこに立っていたのは確かに、巴さんで……

 

「どこに、行ってたんですか……? まどかちゃん達、探してるって言ってましたよ……? 家にも学校にも、どこにもいないって……」

「それは、そうよね」

 

 巴さんはゆりちゃんとは対極的な煌びやかな意匠の銃を作り出して、その銃口をこちらに向けて——

 

「だって、マギウスの翼に入ってから戻ってないもの」

「いろは!」

 

 咄嗟に身を捻りました。その銃口の先から逃れるように。でも避けきれず、銃弾は私の首の横を掠めていきました。

 さっきもそうだったけど、間違いなく巴さんは私を殺す気だ。確実に——

 

「神社の時はドッペルを嫌悪してたのに、どうして……」

「うふふ。別に不思議な事でもなんでもないのよ。あの時の私にとってあれは人に化けた魔女でしかなかった。でも今はちゃんと理解しているわ。ドッペルが解放の象徴であると」

 

 そう言って、巴さんはペンダントに手を触れました。私の記憶が間違っていなければ、そのペンダントはマギウスの翼が付けているのと同じ物に見えます。つまりは、そういう事なんですね。

 

「巴さん、どうしてマギウスの翼に入ったんですか! まどかちゃんとほむらちゃんに心配をかけてまで!」

「私は天からの啓示を受けて、自分の使命を理解したの」

「使命……?」

「魔法少女の解放。その為に邪魔な存在は力づくでも排除するわ」

 

 巴さんの体が光に包まれたと思うと、姿が別の物に変わっていました。魔法少女衣装からの更なる変身。白いベールに身を包み、黄金の冠を被ったその姿は、さながら聖女のようです。

 聖女の姿になった巴さんは、沢山の銃を作り出し、その全ての銃口をこちらに向けてきました。

 

「例えそれが、鹿目さんの友達だとしても」

 

 連続で鳴り響く轟音。何十何百もの銃口から次々に弾が撃ち出され、咄嗟に全員で物陰に隠れました。

 

「なんなのあの重機関銃の陣地みたいな弾幕! これじゃ顔を出す事すら出来ないよ!」

「一発一発が神社の時に環さんのドッペルを屠った攻撃と同等の威力だわ。ほら、この壁だってあと十秒保たなさそうよ」

「でも、巴さんを止めないと、ゆりちゃんの所には行けないんですよね」

 

 なら、腹は決まりました。この弾幕を掻い潜って、巴さんを倒します。

 銃撃の一つが遮蔽を貫通しました。もうここには隠れていられません。飛び出して、次の遮蔽に向かいながら巴さんにクロスボウを撃ち込みます。ダメ。巴さんの銃が盾になって、本人には矢の一つすら届かない——!

 そもそも攻撃を通す事すら出来ないとなれば、魔力切れを狙うしかないけど、巴さんの持つ魔力量は私には測りきれないほど膨大です。私たちの魔力が切れる方が間違いなく早い。

 見てみれば、やちよさんの槍も鶴乃ちゃんの炎も、私と同じように防がれて効果が無いようです。魔法少女としての魔法が通用しないのであれば、もうこれしか……

 

「環さん? ……何してるの、いろは!」

「大丈夫、大丈夫です! 前は制御出来てませんでしたけど、今ならきっと、大丈夫!」

 

 胸の奥が冷たくなってくる。凍り付くような感覚。暗くて禍々しい、自分の底へと意識が吸い込まれていく。

 これが私の、本当の気持ち。

 

「前は、一撃で倒されていたのに。今度は何発も弾いてる……?」

「凄いよいろはちゃん、まるで戦車だよ!」

 

 意識が現実に引き戻されました。問題なくドッペルは私の制御下にあるみたいです。大きい体のせいで巴さんの攻撃に晒され続けていますが、全く効いていないようでした。この力なら、行ける……!

 

「待って、いろは! 懐に飛び込んだらダメ!」

 

 柱の合間を飛び、照準を絞らせないように動き、巴さんとの距離をどんどんと詰めていきます。そうして巴さんの目の前に出たと思ったら——そこにあったのは巴さんではなく、大砲の砲口でした。

 発射された砲弾を私は避けきれず、右手に受けて、手首から先が、無——

 

「ぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

「痛覚を切って! ソウルジェムと体のリンクの痛覚だけを切るのよ! 早く!」

 

 痛覚だけを? ソウルジェムと、体の、リンクの……やちよさんの言う通りにしたら、痛みが治りました。でも血は垂れ流しのままで、どうしたら……

 

「まずやちよの方まで行って、それから治してきて! ほら早く!」

 

 分厚い炎が巴さんの弾から私を守るように辺りを取り囲みました。見れば既に私のドッペルはいなくなっていて、代わりに鶴乃ちゃんの背中から、ドッペルが——

 

「暴れて……!」

 

 金の豚のような姿のドッペルは、油を辺りに撒き散らし、点火して激しい炎を生み出しました。……い、今のうちに動かないと。そう思った矢先にやちよさんが向こうからこっちに来て、そして私の無事な方の手首を掴んで手近の柱の裏へと引っ張っていきました。

 

「ほら、いろは。傷の所に魔力を集中させて。妹の病気の治療を願ったのだから、回復魔法だって使えるはずよ」

 

 言われた通りに魔力を集中させましたが、治りません。いえ、治っていない訳ではないんです。出血の勢いは少し落ちました。でもそれだけで、完治はおろか、傷口を完全に塞ぐのさえ時間がかかって……

 

「まさか……! ……やられたわ。巴さんの魔力が手首の所に纏わりついてる。これが回復を妨害してるんだわ」

「そんな毒のような事も出来るんですね、魔力って……」

 

 傷口の部分を強く縛ってもらって、それで出血そのものはだいぶ落ち着いてきました。めまいがして、胸の奥が物理的に少し冷えてきているような気がするので、体調は万全とは言えません。

 

「彼女、魔力の扱いに相当慣れているわ。魔力から銃を連続で生み出しているのもそうだし、その回復妨害もそうだし、何より戦い方が百戦錬磨のそれよ。膨大な魔力量に驕る事なく、いろはの手を奪ったあの攻撃のように搦め手も使う。逃げるにしても、足でも止めさせないとすぐに追いつかれるでしょうね」

 

 そう話すやちよさんの目は、どこか、覚悟を決めたような物で……まさか!

 

「そんなのダメですやちよさん! やちよさんがいなくなったら、私も、鶴乃ちゃんも……さなちゃんやフェリシアちゃん、ゆりちゃんだって知ったら悲しみます! だから思い直して!」

「え……」

「私はやちよさんの仲間です。仲間の私がやちよさんを守ってみせます!」

「待って待って待って待って何言ってるの何の話よ!」

「巴さんと刺し違えて自分も死ぬ、そんな目をしてたでしょ?!」

「ドッペルを使う覚悟を固めてただけよ?!」

 

 ……あぁ、そういう……

 

「え、何? もしかして、あなたの想像で私は振り回されたの?」

「……そう、みたいです」

「そんな想像しなくてもいいわよ、勝つ為じゃなくて逃げる為にやるんだから。申し訳ないけど、二葉さんやフェリシア、ゆりさんの事は今回は諦めるしかないわ」

 

 三人で戦ってるのに、巴さんを止める事すら出来ない。ドッペルですら、勝算を引き込む事が出来ない。それだけの実力差があるのだとしても、私は諦めたくない。このタイミングを逃したらもう、みんなを助けられなくなるかもしれないから。

 ……ですけど、ここで戦い続けたら、間違いなくかなえさんとメルちゃんに続く三人目の死者に私がなってしまいます。

 みんなを助ける事が出来たとして、代わりに無理をした私が死ぬのは、違いますよね……

 

「分かりました。でも、みんなをマギウスの翼から連れ戻すのは絶対諦めませんからね!」

「当然よ。うちの住民をポコポコ引き抜かれて、黙ってはいないわ。今は退くけれどね」

 

 やちよさんはそのまま目を閉じて、ドッペルを呼び出しました。

 

「おいで……」

 

 サソリのような姿に変わったやちよさんは、そのまま巴さんに向かっていきました。私も、もう一度——

 

『いろははそこで待ってなさい、今度は手だけじゃ済まないかもしれないわよ』

 

 ——行こうと思った気持ちは、手を持っていかれた時のあの痛みがフラッシュバックした瞬間、霧散していきました。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 金色の豚に吊るされた鶴乃が、炎を撒き散らして場を錯乱させていた。巴さんは炎のせいで鶴乃を見失っているようだったけど、銃が通った後の隙間から辺りを見渡そうとしているようだった。

 

「お待たせ、鶴乃」

「遅いよ! 一人で相手取るの大変だったんだから!」

「ごめんなさい。作戦変更よ。巴マミを倒すのは不可能。だから何かしら追いかけて来れないよう仕掛けをして、それで逃げるわ」

「オッケー……見つかった! 避けて!」

 

 巴マミの発射した砲弾が、こちらへと飛んできた。いろはの手を抉ったのと同じ。それをドッペルの尾を使って弾き飛ばした。弾き飛ばされた砲弾が遠くで着弾し、爆発した音が聞こえた。榴弾まで使えるのね……

 鶴乃の火を目眩しにして隠れ、巴マミの死角に回り込む。いろはの時のあの攻撃の仕組みが分からないと、どんなに近づけたとしても攻撃するまでは踏み切れない。

 一直線に誘導していたから罠があるとは思ったけれど、まさか巴マミが砲台と一瞬にして入れ替わるなんて。まさか幻覚魔法? だとしたら困ったわ。みふゆの幻覚魔法でさえ全く見破れないのに、どうすれば巴マミの幻覚を破れるのかしら……?

 直撃コースの砲弾を弾き、更に続けて放たれた斉射から逃げるように跳び、着地した先で、何か紐のような物を踏んだ。これは——ブービートラップ!?

 咄嗟に屈み、トラップによって発生した爆発をドッペルに吸わせて身を守る事は出来た。でも代わりにドッペルはダメージによって消えてしまった。もう攻撃を受ける手段が無い。だから直後に追加の砲弾が目の前に飛んできた時、私は死を覚悟した。——のだけど、その砲弾を、どこかから飛んできた消火器が受けて防ぎ、そして中身を壮大に周囲へぶち撒いた。

 

「ゲホッ、ゲホッ……」

「ごめん! 緊急だったから! どういう状況なのか分からないけど、火事になってるよ! とりあえず全員外に避難して!」

「あ、この炎、私の魔法だから大丈夫だよ。ほら」

「そうなんだ……」

 

 巴マミの銃撃を緩和していた、鶴乃の炎が晴れた。見れば、巴マミは新たに現れた魔法少女を目にし、困惑しているようだった。

 水色の髪に、フォルテッシモの記号の形の髪飾りを付けた、いろはと同じぐらいの年の子。その子は二つ目の消化器を胸に抱えており、消火活動に来たのだろう事が容易に見て取れる。

 

「美樹、さん……?」

「マミさん!? なんでこんな所にいるんですか、すっごい探したんですよ!」

 

 美樹と呼ばれた彼女と巴マミとは知り合いのようだった。鹿目さんも巴マミを探していると言っていたけど、美樹さんとも知り合いなのかしら。

 

「心配かけてるわね。ごめんなさい。でもまだ帰る訳にはいかないのよ」

「どうして? 一体何をやっているんですか、こんな所で!」

「美樹さんが真実を知る必要は無いの。あと少し、あと少しだけ待てば、こんな残酷な真実は無くなる。知らないままでいられるのよ? だから、今はこのまま帰って……」

「どういう事か分かりませんよ、本当に納得させる気があるのなら、ちゃんと一から全部説明して下さい!」

 

 美樹さんは、とても怒った様子だった。それは、そうよね。鹿目さんの話によると、巴マミはなんの事前連絡もせず、蒸発したかのように消えた。口寄せ神社の時に顔を見た事を伝えたら、電話越しに心底ほっとしたような声が聞こえるぐらいには、心配され、想われていた。

 にも関わらず、そんな彼女たちに気をやるでもなく、魔法少女の解放だけに注力する巴マミの姿に、強い苛立ちが湧いてくる。

 ……あぁ、そっか。仲間を作らないと決めた時の私も、ももこからはこう見えていたのかしら。絶交階段以来、なぁなぁで縁が戻りそうになっているけど……これはちゃんと、ケジメを付けないとダメね。

 

「あなた……もしかして美樹さんの為に魔法少女の解放を願っているのかしら? だとしたら、解放とはどういう事か、しっかり説明した方がいいわよ。今のあなたは魔法少女向けの新興宗教にハマった人にしか見られていないわ」

「あ、それってまどかちゃん達のことですか? でもあれって説明の仕方が悪かったせいなような……」

「え、まどかの言ってたいろはちゃんって、もしかしてあなたの事!?」

 

 やっぱり美樹さんは鹿目さんの知り合いだったのね。……それと、いろは。

 

『出てくるなって私言わなかった……?』

『手ならさっき治ったので、そろそろいいかなって……』

 

 テレパシーに返事が返ってきた。今度は手だけじゃ済まないかもしれないって言ったのに。覚悟は出来てるみたいだから、私からはもう何も言えないけども……

 

「新興宗教にハマったなんて、そういう目で見てもらっても構わないわ。それでみんなが魔法少女の宿命から解放されるなら、私は苦渋だって、なんだって呑んでみせる。……時間稼ぎは十分のようね。さようなら、環さん、由比さん、七海さん、それから……美樹さん。全魔法少女の悲願の成就の後に、また会いましょう」

 

 そう言い残し、巴マミはマスケット銃の発砲煙を煙幕代わりにして、どこかへと消えていった。

 

「待ってよマミさん、どこに行くの!」

「あなたこそ待ちなさい! 今追いかけたら、マギウスとも同時に遭遇するかもしれない。魔法少女のシステムに干渉できるほどの力を持った相手方の親玉よ。ここは退くしかないわ」

 

 美樹さんを呼び止めて、私たちは一度記憶ミュージアムを出ることにした。道中、マギウスの翼側に行ってしまったであろう三人の顔を見る事はおろか魔力の検知でさえ叶わなかった。巴マミに足止めされている間に、遠くに運ばれてしまったのかもしれない。

 神浜記録博物館跡地の近くにあった公園に集まり、どうやってみんなを助け出すか、思考を巡らす。

 

「——というのがドッペルで、魔女との違いは——」

「——今まで狩ってきた魔女は本当は——」

 

 裏では鶴乃といろはが美樹さんに事情の説明を行っている。……待って、二人には魔女化について話さないよう事前に言っておいたはずなんだけど。会話の端々を聞く限り魔女化まで含めて全て話してしまっていないかしら。鶴乃にテレパシーを繋いで、意図を確認した。

 

『ねぇ、今はまだそれを話す時期じゃないと思うのだけど……』

『早すぎるかな? でも、友達のマミが巻き込まれている以上、さやかちゃんも無関係の人ではないよ。関係者になったのなら、マミのこだわる魔法少女の解放について、しっかりと知っておかないといけないと思ったんだけど……違うかな?』

『それも、そうね。ただ……』

 

 魔法少女の真実を知った美樹さんは、ひどく動揺して、思い詰めたような表情をしている。命に関わる病気を突然宣告された様なものだもの、当然だわ。

 

『もっと落ち着いた場で話した方が良かったかもしれないわ』

『そうかも。いなくなった友達が見つかったと思ったら、今度は魔法少女の真実だもんね。一度に与える情報が多すぎて混乱させちゃったかも』

 

 多少狼狽えながらも徐々に落ち着きを取り戻していき、最後には美樹さんは、一度この話を持ち帰り、鹿目さん達とも共有する事を決めた。

 

「あの、ごめんなさい……助けてもらったのに急にこんな話をして……」

「いや、聞いたのはあたしだし、いずれ知ることなんでしょ。それなら知るのが今だったってだけだよ」

「美樹さん、あまり根詰めて考えないで。もしも何か聞きたいことがあれば、いつでも来てちょうだい」

「はい。もしもの時は、電話します。それじゃあ、また……」

 

 そう言って、美樹さんはそのまま帰っていった。彼女、本当に大丈夫かしら……

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 奪還に失敗しました。巴マミがマギウスの翼になるルートを選んでいた以上、戦闘に負けてしまうのは仕方ないのですが……もしも操作ミスによる被弾の治療に時間を取られていなければ、また違った展開があったかもしれません。いろはちゃんの一時離脱によって劣勢になり、さやかちゃんの介入による戦闘の強制終了イベントが起きてしまったので、もう追跡は不可能です。

 こうなったらこの場では帰り、第七章のイベントを順当にこなしていくしかありません。最速の場合に比べるとどうしても遅くなりますが、それでもこれが一番リカバリー策の中ではいいと思います。

 

 そんな訳で帰宅すると、みかづき荘ではももこさんが待っていました。やちよさんとの関係について明確に清算していなかった場合、このタイミングで確定でももこさんは関係の清算にやってきます。面白いのがスタンダードモードだと数日間放置してもずっとみかづき荘にいるんですよね。これで更に放置しても、ももこさんが飢えて倒れるよりもワルプルギスの夜襲来イベントの方が早いという。

 やちよさんがチーム解散の理由を述べ、ももこさんがそれを聞いて、これでこの清算イベントは終了です。よりなんか既に戻ってるも当然の状態であり、後はやちよさんがチーム解散の理由さえ話せば万事解決だったので、清算そのものは割とあっさり味です。

 

 大事なのはここから。しがらみの無くなったももこさんが、マギウスに捕まったみんなの捜査に協力してくれます。とはいっても捜査班に直接参加する訳ではなく、裏方の支援がメインです。

 この支援というのが大変ありがたく、毎日一つか二つグリーフシードを持ってきてくれるという有能どころの話じゃない働きをしてくれます。稼ぎを行わなくとも貯蓄のグリーフシードが見る見る内に増えていくって……お前……

 そんなももこさんの協力を取り付けることが出来たところで、本日は就寝です。

 

 朝になりました。考える事はあるものの、学業という強制イベントには逆らえません。では放課後まで飛ばします。

 

 やちよさんと、鶴乃ちゃんに、神浜ローラー作戦……原作ではうわさを消すツアーという名称の付いていた作戦ですね。これを実施する事を話します。

 原作マギアレコードにおけるうわさを消すツアーは、マギウスの翼の守るウワサを消して回るという派手な行動を取る事によって黒羽根や白羽根を釣り、そこから情報を入手するという目的の物でした。

 しかし今回のRTAにおけるツアーは、ウワサを消す事そのものが目的です。神浜うわさファイルから特に危険度の高い物を優先して選んで潰し、エンブリオ・イブへと供給されている感情エネルギーを停止して、里見灯花の利用できる魔力を制限してしまいましょう。絶対許さねぇからなおガキ様。

 

 神浜全土を対象にする事を話すと、やちよさんから東のボスである和泉十七夜についての話題が出ます。十七夜と書いてかなぎとかパッとは読めんて……

 東西間の問題は魔女の増加した今ではほぼ起きていませんし、協力を要請してみる事を提案します。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

「そっちこそ大変みたいね……えぇ……分かったわ」

 

 十七夜との通話の終わった後のやちよの顔はそう暗い物ではなくて、悪い返事ではなかった事が窺える。

 

「快諾だったわ」

「そっか、良かった」

 

 ももこのほっとしたような声に、わたしも同意する。一時期は色々あったから、協力を得られる事になって本当に良かった。

 とにかく、これでいろはちゃんの話した、わざと目立つ行動を取ってマギウスの翼に顔を出させて、そこを捕らえて情報を吐かせるという作戦が実行出来るようになった。

 東西のリーダーが一丸になってウワサを消して回るようになったら、マギウス側は絶対に何らかの動きを取らないといけない。放置したらエネルギーを集める役割のウワサが全部消えちゃうもんね。

 フェリシアちゃん、さなちゃん、ゆりちゃん、待っててね。絶対にマギウスの手中から奪い返してみせるから。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 なぎたん……あぁ、十七夜さんの愛称です。かなぎだからなぎたん。なぎたんとの会談は明日。連絡を受けた翌日に設定する辺り、旧友であるやちよさんとの再会が純粋に楽しみな様子。

 

 会談に先んじて、神浜うわさファイルに纏められているウワサを地図上に纏めてみます。するかなぜかウワサの全く存在しない空白地と、逆に周囲と比較して密集している地域がある事に気付きます。前者の空白地の発見は車両基地捜索に、後者の密集地は万年桜のウワサの発見に繋がるフラグです。ロスなく拾えるのでここで拾っておきます。

 

 今回はここまでです。ご視聴ありがとうございました。




これ第七章中の奪還いけるんですかね……?
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