覚る母が子育てします   作:小鈴ともえ

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内容がまとまらなかった
難産でしたね


無意識の遺伝子

 うぅ……お腹が痛い。でも不思議と不快ではない。数十年ほど前にも一度経験したような痛みだからこれがどういう意味を持っているのかももちろん分かっている。

 

「もしかして私にももうすぐ妹ができるの? 楽しみだわ」

「確かにそうなんだけれどね、さとり……できれば分かっていても黙っていて欲しかったわ」

 

 この話を伊吹が何処かで聞いているかもしれない。あいつが今何処にいて何をしているかは知らないけど、霧になれば何処にでも行けるようなやつの行方を想像する方が馬鹿らしい。

 基本的にはよほど薄くなければ霧状のあいつにも気づけるけど、最近は気づけないくらいに薄くなっていることも多い。

 

 と言うかもうすぐはたてが来るのではないだろうか。昔からさとりの遊び相手になってくれている彼女には感謝してもし足りないかもしれない。

 私は彼女の親だから頭が上がらない、なんてことにはならないんだけども。

 

「母さんはそれで良いの? はたては母さんを慕っているようだけど……母親が自分の娘の世話を投げるなんて」

「そう言われると弱いねぇ。ま、とにかく行ってらっしゃい」

 

 

 さとりも私の心を読むことができる。まあ私も昔はさとりの心を読みながら世話をしたんだから逆の事も当然できるわな。

 さとりが私の心を読むせいで禁忌とも言える秘密がバレてしまった。すなわち千年以上後の時代から転生してきた事である。とてもありがたい事に、あの子は随分と聡いので私の秘密を他の者に言うことは無い。

 だから今のところは私とさとりの秘密になっている。秘密を知る者が増えれば増えるほどそれが漏れる可能性も高くなる。もうすぐ生まれてくるこの子もそれを知ることになるだろう。

 

 他人の秘密を秘密であると認識することは容易い。だがそれをずっと隠し続けるのは難しい。まだ五十くらいにしかなっていないさとりがそれを実行できていることは驚きだ。

 私なら絶対にできないね。自信をもって言える。紫がさとりを優秀って言っていた理由もよくわかる。私よりは優秀だろう事は私自身も分かっていたことだけど。

 

 でもちょっと母親としては心配。私の知識の一部を共有しているからなのか、同い年くらいの妖怪と比べても落ち着きが凄い。特にはたてと比べるともはや異次元に住んでいる者同士であるように思える。

 はたては自分の興味のある事があればすぐさまそれを確かめようとするけど、さとりは先ず頭で考えてから行動している。だからこそさとりの世話ははたてに任せているんだけどね。

 だって私が世話をしてもあの子ほど元気には動き回れないし、どうしても頭を使うつまらない遊びになってしまうから。子供にはもっとアクティブに遊んでほしいものだ。動くことを厭わないような子になってほしい。

 

 

 それにしてもお腹が痛い…………これでも人間よりかは幾分かマシなはずなんだけどなぁ。世の母親は強いよ。本当に。私はこの程度の痛みでも苦しんでいるのにさ。

 

 

 

 

 

 

 お腹が痛いお腹が痛いと何度も聞こえてくるし叫ぶような声も聞こえてくるのでうるさくて仕方がない。やまこのやつそんなに笑い転げるような物を見つけたのだろうか。

 ははーん、さてはさとりちゃんが何か拾ってきたのかな? それともはたてのやつか?

 

「おーいやまこ、何か面白い事でもあったのかい? 私らにも見せてくれよ」

「おいおい萃香、あれは面白い物を見た時の声ではないわよ。何かに中ったのかもしれないわね」

 

 斡子はこう言っているが本当だろうか。あいつに限って食中りするようなものは食べないと思うんだが。さとりちゃんは普通に遊びに行けるくらい元気だったみたいだし、今もはたてと遊んでいるようだ。死にそうな顔をしているのは疲れているからだろう。お腹が痛そうな様子は全くない。

 

「で、結局どうなんだい? ……………………その子誰?」

 

 斡子に先立ってやまこの住処に入った私の目に飛び込んできたのは血を流して倒れ伏したやまこと小さな赤子。よく見れば随分前のさとりちゃんに似ている。髪色は全く異なるが、それはさとりちゃんとやまこも同じだから気にすることでもないのだろう。きっと。

 

「し……死にそう。うえぇぇえ…………はあぁ、さとりの時はここまでではなかったんだけどねぇ。歳かしら」

「馬鹿言わないの。たった数十年で何が変わるのよ」

 

 まあそもそも「歳かしら」にも驚くほど感情が込められていなかったし冗談のつもりだっただろう。聞くところによれば私たちよりも若いようだし、斡子の言う通りやまこが数十年程度で変わるとは思えない。

 さとりちゃんの時よりも辛かったのはこの子が元気だからじゃないだろうか。叫び声だとも思った人間の赤子に勝るとも劣らない泣き声はさとりちゃんには絶対出せないだろうと思う。

 

「さとりちゃんと対になるように元気だね。これならはたてのやつにもついて行けそうだ」

「はたてもじきに天狗としての生活を強いられるようになるだろうけどね…………うっ……あぁありがとう虎熊。できれば水の方がよかったけど」

 

 やまこは水の方が良いなんて言っているが、疲れた時こそ酒に限る。楽しい時は酒。悲しい時は酒。疲れた時は酒。酒は百薬の長。華扇の枡を考えればあながち間違いとも言えない。

 それでもやっぱり沈んだ心にも荒んだ心にも酒は潤いを与えてくれる。水よりもよほどいいと思うんだけどねぇ。

 

「伊吹はそれでよく素面でいられるものだよ。酒量は全鬼の中でも一つ抜けているかもね。で? 虎熊はこの子をじっと見てどうしたのさ……へぇ、なるほど。じゃあこの子は『こいし』にしようか。名付け親は虎熊ね」

 

 いったいどんなやり取りがあったのだろうか。やまこのやつは斡子の心を読んで一人納得しているようだが私には全く理解できない。そも、恋ひしなのか小石なのかが全く分からない。斡子が心の中で提案したのか? 私にも分かるように教えてくれ。

 

 

 

 

 

 

 伊吹の予想が全く間違っているというわけではない。むしろかなり惜しいところまでは行ったように思う。こいしは伊吹の予想の一つにあった恋ひしから付けている。虎熊がこれを提案してきたわけではないけど。

 

 虎熊がこの子をじっと見つめたうえで抱いた感想が恋ひし(懐かしい)だった。虎熊がかつて小人の一人に退治された事は四天王と関わりのある者ならば皆知っている。

 どうやら当人はその小人をこの子に重ねたらしい。大きさとしては確かに似ているのかもしれないが、戦闘力としては桁違いだと思うよ。あの時の勝負をもう一度したいと思っているようだがやめてほしい。覚と鬼の勝負など結果を予想するまでもない。

 だから名付け親にしてこの子を傷つけないようにしたのだ。まあこいしという名前を虎熊の心中から取ったのは事実。こいしは私が守ってやらねば……まあ随分と元気だから私が守られる側になっても不思議ではないけど。

 

「へぇ、まあ斡子とまともにやりあえる奴なんてほとんどいないからねぇ。こいしちゃんがそこまでの存在になれるかはまだ分からないけど……うんうん、出産祝いに一杯どうだ?」

 

 阿呆か。まだ気分が悪いっての。自分の腹掻っ捌くようなものなんだから再生が速い妖怪でなければ死んでるくらいなんだよ。だから水が飲みたかったというのに、まともな方だと思っていた虎熊でさえも酒を渡してきやがった。気づきもしなかった伊吹に比べれば随分とマシだが。

 

 それにその直後に一杯勧めてくるってねぇ。どうしようもない酒好きだ。気分の悪い時の酒は薬にもならないし逆効果だよ。血が酒でできているような奴らには分からないんだろうけど。




サブタイトルは早々に決まっていたのに「こいし」になった理由で行き詰って筆を止めてからなかなか執筆できていませんでした。本当に申し訳ございません
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