覚る母が子育てします   作:小鈴ともえ

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大した量も書いていないのにここまで遅くなるとは思ってませんでしたorz


大江山悉皆殺し

 私が暮らしているのは基本的に山の中。前までは大江山で、今は懐かしき諏訪の地に帰って来ている。私の生まれた場所であり、一応ながらさとりの産まれた場所でもある。覚えているはずもなかろうが。

 

 相変わらずこの山に人間が入ってくることは少ない。一番近い集落からでも日帰りは難しいためだろう。妖怪も結構いるしね。石長姫様は別に人間を守護してくれるわけでもないし。

 そう言えば最近石長姫様が八ヶ岳の麓(住処から二つほど嶺を超えた先)の国の神と何やら話をしたのだったか。その時に何故か私に会わせる約束をして帰って来たらしい。

 

 曰く人間に迷惑をかけるわけでもないのに嫌われるという妖怪に興味がある、とのことだったが……これは恐らく上っ面だけの文言だろう。考えられる本心としては私が本当に人間に害を与えないのかを量りたいといったところか。

 どうやら相手さんは一国を治める強い神らしいし、周囲の山にいる妖怪を警戒するのもまあ当然ではあるかもね。山の妖怪って動物由来の者が多いから。動物由来とはすなわち人間を喰らって妖怪化してしまったということでもある。

 

 はたてなんかがいい例だろう。彼女の場合は妖怪として幼い頃から私が教育したから理性のある子に育ってくれたが、普通ならば妖怪となった後は自力で生きていくために無差別に人間を襲うようになる事の方が多い。

 人間の血の味って忘れがたいほどらしいからね。私が口にすることは無いだろうけど。

 

 

 

 

 

 紫が訪ねてきた。こうして現実世界で会うのはもう何十年ぶりだろうか。時間感覚がおかしくなっているだけで実は百年以上経っているかもしれない。

 人間なんて六十年生きればいい方なのに妖怪は暢気なものだよ。百年経っても見た目はほとんど変わらないしねぇ。頭ばかりが大きくなるだけ。悪くはないけど不便ではある。人間の子供だと思われて襲われることもしばしば。飛んで逃げればすぐ撒けるから良いんだけど面倒ではある。

 

「久しぶりだね。それにしても紫の方から訪ねてくるなんて珍しい。何かあったの?」

「変わらないわねぇ…………そも、貴方から訪ねてくることなぞ無いでしょうに。それとも夢ではない、という事を言いたいのかしらね」

 

 どちらにせよ私の方から訪ねているけれど、と紫は言いたいようだ。

 確かに言われてみればその通りである。私から訪ねた事なんて今までに一度たりともない。普段紫が何処にいるかなんて知らないからね。探しても会えないだろうし。

 夢で会うにしても紫が勝手に入りこんできているだけだしね。結局は紫の方からしか会いに来れないんだよね。滅多に会わないのもそのせいなのだろう。

 

「ま、挨拶のようなもので別にそこまで考えて言ったわけではないよ。それで? 何かあったから来たんでしょう?」

 

 紫は確か石長姫様を避けているように感じるし……いや逆かな。紫がいる間は本当に出てこないもんね。

 

「妖怪の山、覚えているかしら?」

 

 そう来たか。

 

 忘れるはずもない。過去に二度も棲んだ場所。めんどくさいが親しい友人や娘同然の子も棲んでいる場所。

 そしてもう百年も前に逃げ出してしまった場所。

 

 あの山のその後がずっと気になっていながらも聞くに聞けなかった。

 恐ろしかったからだ。親しい者が傷つけられるということの意味をまだ知らない私にとって、腕の立つ人間に襲われた鬼たちのその後など聞けようはずも無かった。

 でもあれから百年あまり。流石に心の整理はついた。今なら聞いても衝撃は少ないだろう。

 

「あの山は、結局どうなったの?」

 

 紫からしてもこの質問がされるだろうという事は分かっていたはずだ。させるために先の質問をしてきたのだろうから。

 そのうえで渋い顔をしているのは演技なのか違うのか。そこまでは読めそうにない。

 

「私も当時の山の状況を自分の眼で確かめたわけではないから真実は分からない、というのが本音よ。それでも当時の事を記した書物はいくつか戴いてきたわ」

 

 戴いたと言っても紫のことだからどうせこっそり盗んできただけだろう。

 その記すところは

 

 

長徳元年、源頼光を長とした四天王と藤原保昌らが酒吞童子なる鬼を退治せし。身の丈七尺にもなろうかという大男としてげに恐ろしき面をしたる。人肉を喰らい血と酒を好みたる。その様まさに鬼と言うに相応しく、頼光もその姿を見て恐れ慄きたる。

酒吞童子の曰く汝らは何者かと。頼光の応えて曰く我らは山伏なりと。

童子、人の己を滅さんとするところを知っていたり。故に頼光は鬼を欺き、己の素性を語ることなし。これは偏に八幡三神の加護のありし故なり。八幡神の頼光らに伝えて曰く童子に汝らが欲するところを悟らせる可からず。

さらに酒を渡したり。こは神変奇特酒なる酒で、如何なる鬼でもたちどころに眠らせる毒の入りたる酒なり。人が呑めどもゆめゆめ酔うことなし。故にこは神便鬼毒酒とも呼ばる。

頼光眠りし鬼どもの首を掻き、酒吞童子の首をも搔き斬らんとす。されど童子、ひとえに煙が如く霞み消えたり。辺りを見ばそこに宴の跡は無し。狐に化かされたかあやしと思いつつ山を降りる。

半刻ほど下ったのちに頼光気配をば感じ取る。綱もまた異なる気配を感じ取りき。太刀一閃。綱が刀は茨木童子の腕を斬り落としたり。茨木童子は酒吞童子の右腕たる鬼なり。なればこの刀を鬼切丸と名付く。また頼光が刀は酒吞童子の首を正しく掻き斬りたり。今度こそ手ごたえあり。首とともに髭まで斬られていたり。なればこの刀を髭切と名付く。

首なお抗い頼光に噛みつかんとす。頼光は公時の兜を重ねてこれを避け即ち箱に封ず。これにて鬼はさながら退治されし。それより後、女子供が攫われることなし。その首と腕とは未だ都という。

 

 

「どうだったかしら? これが当時の人間の書の一つ。他も大差ない物だったわね」

「自分の眼で確かめたわけではないけど明らかにおかしいと思うよ」

 

 酒吞童子ってのは伊吹の別名だったはず。男じゃない。あいつが女装してたのなら別だがそんなことをするとは思えない。身長に関しては何とも言えない。自在に身体の大きさを変えれるような奴だから。

 最も不可解な所は茨木の名が出ているのに星熊や虎熊の名が出ていないことだ。特に星熊。この中では一番暴れそうな奴の名が出ていないことは明らかに不自然だ。

 

 これのどこまでが本当の事なのか全く判断できない。恐らくほとんどは人間の都合によって作られた嘘だろう。頼光らが自分たちをより大きく見せるために誇張して伝えたと考えるのが妥当とまで思える。

 

 だが途中途中に挟まれている出来事は本当臭いのだ。例えば煙のように霞んで消えた、とかは伊吹の能力が関係しているに違いない。

 人間がそれを知っているわけはないので、これに関しては頼光が本当の事を伝えたのだろうと推測できる。鬼だけが酔い、人間は決して酔わない酒と言うのは神の醸造した酒と考えるならばまああり得ない話ではない。

 神力は妖力と相性が良くない上に八幡神ってかなり強かった気がするし。

 

「伊吹達がこんなに簡単にやられるとは考えにくい。それにあの山の鬼はかなり多かったし強かったはず。たかが人間数十人で落せるようなものじゃないよ」

「本当にそうかしらね。人間が悪知恵を働かせれば妖怪など塵と吹き飛ぶ。その程度の存在よ。私たちは。私は当時を見たわけではない。それでも今、確実に言える事はあの山には既に鬼がいないことだけよ。一匹たりとも、ね」




酒吞童子関連の文章はwikiからとって来た情報と捏造した設定を混ぜて適当書いているだけです。古文も得意ではないので文法的な間違いには目を瞑るか指摘して頂ければ。現代仮名遣いなのはわざとです
自分が如何に古文の授業を蔑ろにしていたかを実感しました。表現が乏しすぎますね


わざわざ茨木童子を酒吞童子の右腕と書いたのは切り落とされた腕が右だから。これが酒吞童子の統治の終わりを暗示している、という設定。本文から分かる通り酒吞童子は厳密には萃香ではないんですが。
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