魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter   作:戸礼太

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第二候補(スペアプラン)

東京都西部の内陸部に位置する教育研究機関であり、人口約二三〇万人のうち学生が八割を占める学生の街であり、外部より数十年進んだ最先端科学技術が研究・運用されている科学の街、学園都市。

 

特徴的なのは、人為的な超能力開発が実用化され学生全員に実施されており、超能力開発機関の側面が強い。

二十三の学区で構成され、それぞれの学区で独自に学園都市法令とは別に条例が制定されている。

基本的に平坦な地形で緑地は少なく、外周は高さ五メートル以上の厚さ三メートルの壁に囲まれ、完全に外部から隔離されたつくりになっている。

 

学生は、それぞれが通う学校で「時間割り(カリキュラム)」を始めとする宿題・試験・補習などの学習を行って、夏休み等の長期休暇、部活動、放課後の自由時間等を過ごすといった一般的な生活を送る。 学園都市には就学前教育機関から高等教育までの全ての教育課程が揃っているので基本的に一度学園都市に入学した学生は内部の学校に進学する。

学園都市における「超能力」とは、オカルト等の類いとは明確に区別される。

能力開発は薬品投与、催眠術による暗示、直接的な電気刺激、極端な例では脳を改造する等の施術をし、脳の構造を人為的に開発し科学的に作り出される等の様々な開発方法がある。

 

原理は『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』を確立する事でミクロの世界を操り、それによって超常現象を引き起こして自在に操作するというもので、基本的には一定の時間割りカリキュラムを受ければ誰でも能力開発が可能だが、系統や種別は各個人の先天的資質に大きく左右され、どんな能力が身に付くかは開発しないと分からず、能力は一人につき一種類しか使えず、一度発現した後では種類の変更等は不可能だとされている。

自分だけの現実(パーソナルリアリティ)は、能力者が個々に持つ感覚であり能力発現の土台となる根本法則。

平たく言うと妄想や思い込みに近く、非常識な現象を現実として理解、把握し、不可能を可能にできると信じ込む意思の力とも言える。

より強い個性を保ち、強靭な精神力や確固たる主義を持つ事がの強さに繋がるとされる。

 

能力者は一部例外を除き、全て学園都市在籍の学生であり、能力の誘発方式は思春期の心性を利用したもので、年齢制限は五~三十代まで。 能力開発とは有り体にいえば人体実験と言える。

能力者とはいえ、能力を有する以外は普通の学生で一般的な生活を送っている。基本的には成績としての意味しかない。

 

能力は全て六段階の「強度(レベル)」に分類される。

 

無能力者(レベル0)

最低ランク。

全く能力が無い訳でもなく、目に見えるほどの変化がない、非常に薄い効果や微弱な力という意味が強い。

実際は半数程度の学生が占めているとされる。

 

低能力者(レベル1)

無能力者よりは上だが、日常生活ではほぼ役に立たない軽度能力。

 

異能力者(レベル2)

いくらか効果は上だが、あまり役に立たない程度の能力。

学園都市全学生のほとんどがこのレベル以下に含まれる。

 

強能力者(レベル3)

効果が目に見えて強く、日常生活で便利に感じられる程度の能力。

ただし最先端科学技術で十分再現できるほどの現象しか起こせない能力が多く、戦闘等での応用はあまり利かないとされる。

 

大能力者(レベル4)

外部技術では再現不可能なほどの超常現象を再現できる。

戦闘等での軍隊で戦術的価値を得られる程度の大能力で、ここから極端に人数が少ない。

 

超能力者(レベル5)

最高位。

将来的にその素養を持つ者も確認されているが、現状順位含めて確定しているのは、第一位と第二位の二人だけとなっている。

能力そのものの威力、効果、応用範囲、更には工業的利用価値等が高く、単独で軍隊と戦闘できるとされる。

努力だけで到達する事は完全に不可能で、いずれも、これから現れるであろう超能力者(レベル5)も天性的な才知と技術で発現するとされる。

 

前置きはこれぐらいにして、この物語はそんな超能力者(レベル5)の一人、学園都市第二位の(かき)()帝督(ていとく)という男にスポットを当てようと思う。

 

 

 

置き去り(チャイルドエラー)

 

学園都市の社会問題の一つ。

預けられた後、親が蒸発してしまった捨て子・孤児の事、またその行為、社会現象。

初めから子供を捨てる目的で最初の学費だけ払って消えてしまう親も少なくない。

保護する制度や専用施設も存在するが、施設の敷地面積によって受け入れ人数に制限があり、待遇改善が逆に外部からの育児放棄を加速させる恐れもあると、学園都市の主権ー司る最高意思決定機関の統括理事会も対策には慎重で、追加支援も進んでいない。

身寄りの無い事を逆手にとって、非人道的な実験に利用しようとする暗部の研究機関が存在し、マッドサイエンティストに改造された「置き去り(チャイルドエラー)」の都市伝説も流れている。

 

非常に高い科学技術と生活水準を有する一方で、裏では生命倫理や人権倫理を無視した非人道的な研究や戦闘兵器開発が進められていたり、非合法な闇取引を行う業者や犯罪組織等も密かに暗躍していて、「風紀委員(ジャッジメント)」「警備員(アンチスキル)」とは別に暗殺や破壊工作等の表沙汰にできないような任務を請け負う暗部組織が多数存在している。

 

 

弱冠八歳にして『未元物質(ダークマター)』を操る学園都市第二位の超能力者(レベル5)垣根帝督(かきねていとく)は、統括理事会直下の実行部隊の一つとして、最近創設された「スクール」に所属していた。

彼以外の正規要員はまだ現状おらず、他は数十人規模の下部組織がある状態だ。

垣根は今、学園都市の「外」にいた。

それも小間使い同然の暗部としての任務に駆り出されて。

依頼内容は至ってシンプルで、とても暗部墜ちしたばかりの子供とはいえ、超能力者(レベル5)に任せるようなものではなかったのだが…………。

 

「はあ、はあ、…………!くっ、行き止まりか?は、早く逃げないとあいつに……!」

 

学園都市の「外」。

そのすぐ近くの薄暗い路地裏を逃げるように走る一人の男。

黒いジャケットに濃い目サングラスを着けた、いかにもな風体の男は、学園都市からの逃亡を図り、学園都市外部の闇組織に仲介して身を隠す算段だったのだが……、

 

「_おい、雑魚があんまり逃げんな」

 

声変わりもしていない、幼さの残る少年の声が男の耳に届く。

思わず身震いし、恐る恐る声のした方を向く。

 

「こっちは命令されたとは言え、わざわざ出向いてんだ。手間を掛けさせるなよ」

 

黒いジーンズに黒い襟つきポロシャツを身に付けた痩身で天然茶髪の少年。

彼は心底下らなさそうに吐き捨てるように言う。

 

「垣根、帝督……。もう追いつかれたのか……!」

 

男は、その少年を知っていた。

忌々しそうに呻く。

 

「クソッ!何で俺を消すために学園都市第二位なんて出てくるんだ……!」

 

「はあ、そりゃ俺が聞きたいくらいだよ。何で俺がこんなつまらねえ事させられてんだ」

 

「な、なあ、頼む!見逃してくれないか!?金も出す、何でもする!だから命だけは助けてくれ!!」

 

男はすがるような声で懇願するが、

 

「ハッ。助けてくれ?おいおい、それは言う相手を間違えてるぞ。命乞いするだけ無駄だ。……だから、大人しく死んでろコラ」

 

ザシュッ!

 

垣根帝督の背中から何か白いようなものが一瞬飛び出し、男を貫いた。 貫いた何かはすぐ消える。

 

「……?」

 

不思議と痛みは無い。何ともない。

だが、次の瞬間、既に『未元物質(ダークマター)』の影響を受けた人体が細胞から変化する。

 

「そ、そんなっ……あ、うあああぁぁぁーっ!!」

 

ズザーッという音と共に一瞬で下半身から身体が砂に変わっていく。

身体だけでなく衣服もろとも。

僅かな断末魔を上げ、黒服の男は風化し消滅した。

 

「……チッ、くだらねえ仕事だ」

 

任務は無事完了したが、垣根の表情は浮かない。

 

「この俺が小間使いでもできる事をやらされるとは。……元はと言えばあの街のトップのクソ野郎が、俺を第二候補(スペアプラン)なんかに位置付けやがったせいだ。何故あんなチンケな能力の『一方通行(アクセラレータ)』が第一候補(メインプラン)で、俺の『未元物質(ダークマター)』が第二候補(スペアプラン)なんだ。納得がいかねえ……!」

 

彼は今の自分に、自分の能力の『未元物質(ダークマター)』に揺るぎ無い自信を持っていた。

故に気に食わない。

 

「噂の第一位はいまだに自身の能力も制御し切れて無いって話じゃねえか。そんな中途半端な状態のヤツより俺は格下だって言うのか……?」

 

ぶつぶつと文句を垂れながら、来た道を戻りアシとして乗ってきたミニバンに向かう。

 

(だが、このまま上の思惑通り第二候補(スペアプラン)で居続けるのも願い下げだ。一体どうすれば第一候補(メインプラン)になれる?)

 

車内で彼は思案する。

 

(既に超能力者(レベル5)になった以上、今更、頑張るだの努力だのするつもりは毛頭ねえ。そんなのは信じてる他の能力者共がやれば良い。だが、このまま現状維持で過ごしていくつもりはない。俺はナメられたまま腐る器じゃねえ。例えどれだけ時間が掛かろうとも、必ず奪い取る。見てろよ)

 

携帯電話に着信が入る。

 

『初仕事御苦労様』

 

「テメェか」

 

電話の相手は『スクール』の制御役で連絡係。 主に仲介や指示、情報伝達等の役割を果たす。素性は一切不明。男女すら分からないが、垣根帝督にとってはとりあえずどうでも良い事だった。

 

『そう不機嫌そうにするなよ。ギャラは内容の割には高めだし、早速もう振り込まれるんだし』

 

「うるせえよ、用事は済んだんだ。とっとと撤収させろ」

 

『それがそうもいかなくなったんだ』

 

「ああ?まだ俺に外部で小間使いになれってのか?」

 

少年の眉間にシワが寄る。

 

『まあそう言うなよ。これはまた別件なんだけどな、監視衛星の一つが先ほど学園都市外の某所で謎のエネルギー反応が一瞬だけ観測されてな。その発生源とエネルギーについて調査が必要になったんだ』

 

「そんなもん衛星で監視を続けながら、学園都市で研究チームでも作って向かわせれば良いだろうが。一瞬だけで監視衛星の1基しか反応しなかったってんなら誤作動って事もあり得るだろうが。本当に有るんだか分からないその謎エネルギーとやら調べにこの俺が行けだと……?」

 

苛立ち、声色が荒くなる。

 

『そういきり立つなよ。逆に言えばそれなりの理由があるんだ』

 

キレる寸前の垣根帝督を宥めるように、制御役は説明を続ける。

 

『ついさっき監視衛星をメンテナンス用ワークローダーを通してチェックしたらしいんだが、確かに反応記録は有ったと結論付けられた。ただ、スペック不足なのか文字通り未知の代物なのか解析はサッパリで計算式も文字化けしたみたいに要所々おかしくなっていたとの事だ。しかも学園都市は、今は特に超能力者(レベル5)の能力開発が途上の状態。正直研究機関は今手一杯なんだ。そして序列含めて確定しているのは第一位と第二位だけ。しかも能力制御が安定しているのは現状第二位の「未元物質(ダークマター)」だけだ』

 

「派遣人材を最小限に抑えつつ、できるだけ損耗リスクの低い高スペック解析機材の要員としてお鉢が回ってきたって訳か」

 

『そういう訳だ』

 

解析不能な謎のエネルギー反応。

というのも仮称で、そもそも何なのかも分からない。

現時点ではっきりしているのは一瞬だけその現象が確かに有ったという記録だけだ。

他は謎そのもの。

学園都市製の最先端技術で造られた人工衛星でさえ満足に解析できなかったモノとは一体何なのか。

自分なら、『未元物質(ダークマター)』ならそれを解析する事ができるのか。

今学園都市内でくすぶるよりは良い、もしかしたら何か得るものがあるかもしれないし、僅かだが興味がわいた。

 

「……良いぜ、承けてやる。どこで何をすれば良い?期間は?」

 

『学園都市から送られる機材等と能力を使って調査観察活動、まあやり方は任せる。滞在地の寝床や経済支援は全てこちら持ち、そっちは定期連絡と有事の際のレポート提出等。あとは『身体検査(システムスキャン)』の指示が出れば必ず学園都市に帰還する事。期間は未定……とりあえずはこんな具合だ。追加があれば追って連絡する』

 

「了解。ま、せっかくだ。正直覚えてねえが、久しぶりにシャバの空気でも存分に吸わせてもらうわ」

 

『出所したての犯罪者みたいな口振りだな』

 

「うるせえ」

 

そう言って通話を切った。

 

行き先の地名は、『海鳴市』。

 

海に面した地形の、外部では特別変わった所のない市街地であった。

夜中の道路を走行するミニバン。

車窓から見える海を眺めながら、垣根帝督は物思いにふける。

 

(海……か、そういや海なんざ覚えてる限り初めて見たかもな。これだけでも出た甲斐はあったか?)

 

書類上、垣根は外部への一時留学という事になっている。

もちろん実態は違う訳だが。

表向きは海鳴市内の某校に入学手続きが既に済んでいて、必要な全学費等は既に学園都市を通じて支払われている事になっているが、いつから登校できるかは未定で事実上の自由登校可能な幽霊児童と化している。

ちなみに形式上の転入先は、公立校よりは都合が良いとされるが何故か制服のある私立校が選ばれた。

登校する気は全く無いが、一応そこの男子児童用制服を確認してみる。

 

「…………………………………………………………………………………………………………………、これは無いな。良かった、登校義務なくて」

 

思わず顔をしかめる。

デザインが気に入らなかった。

制服を無造作に放ると、彼は車窓に視線を戻す。

 

(さて、どうなるかね。空振りに終わって観光紛いな事だけして帰るハメになるか、それとも本当に何か未知の存在でも見られる事になるか、せいぜい楽しませてもらおうか)

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