魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter 作:戸礼太
そして、過ぎ去った時間が
変わる事もない。
だけど、
庭園内部の中心部。
次元震による振動でガラガラバキバキと音を立てながら崩壊していく。
プレシア・テスタロッサは容器に収められた愛娘の亡骸を見つめ、立ち尽くしている。
「あと…もう少し……ッ!?」
突然、揺れがピタリと止んだ。
一体何が!? と思う前に通信音声が彼女の耳に届く。
『プレシア・テスタロッサ』
思わず振り向く。
実際に彼女の背後に人が立っている訳ではなかったが、そうせずにはいられなかった。
声の主は分かっている。
庭園内の別地点で、エメラルドグリーンの魔方陣を展開しそこに浮上している女性。
時空管理局次元航行部所属・艦船司令官。
リンディ・ハラオウン。
『終わりですよ、次元震は私が抑えています。駆動炉も、じき封印。貴女のもとには執務官が向かっています』
彼女が行使している魔法は『ディストーションシールド』。
空間歪曲を利用した広域防御。大規模破壊に対する空間防御として使用され、発動には莫大な魔力を必要とするがリンディはアースラからの魔力供給を受け取る事でこれを達成している。
『忘却の都 アルハザード…かの地に眠る秘術。そんなものはもうとっくの昔に失われているはずよ』
「違うわ…アルハザードは今もある。失われた道も、次元の間に存在する」
『仮にその道があったとして…、貴女はそこに行って何をする?』
「取り返すわ……私とアリシアの過去と未来を……。取り戻すの…こんなはずじゃなかった世界の全てを……!」
こんなはずじゃなかった。
多分誰もが一度くらい、そういう事を考えたり思い描く事もあるだろう。
しかし、そう夢想する事はあっても実際にそれを実現すべく行動する者は普通はいないだろう。
しかし、この言葉を人類滅亡レベルに引き上げるだけの事を、プレシアは実行しようとしている。
ドゴッ!!
青白い光線が壁を突き破った。
プレシアの正面上方に降り立った一人の少年。
時空管理局次元航行部所属・執務官。
クロノ・ハラオウン。
「知らないはずが無いだろう…?」
ここに到着するまでの戦闘で被弾したのか、額から血を流して左目を閉じている。
S2Uを構えて彼は告げる。
「どんな魔法を使っても…過去を取り戻す事なんかできやしない…!」
「_ッ?」
何か言おうとしたが、その時、二つの人影が見えてきた。
プレシアのもとへ駆け寄ろうとしているフェイト・テスタロッサと使い魔アルフ。
プレシアはフェイトの方を向き、彼女達もプレシアを見据える。
「ぐふっ…!ゴホッゴホッゴホッゴホッ!!」
不意に口元を押さえて咳き込む。吐血している。
「母さん!」
驚きつつ心配そうな顔で更に駆け寄るフェイト。
プレシアは苦痛を我慢して顔を上げ、フェイトに告げる。
「何を…しに来たの…?」
「っ!!」
拒絶の意志を感じ、思わずピタリと立ち止まった。
「消えなさい…もうあなたに用は無いわ」
それでも、フェイトは敢えて下がらず、真っ直ぐな視線を向けて言う。
「あなたに…言いたい事があって来ました…」
そんな彼女を黙って見守るアルフ。
クロノもデバイスを構えたまま、敢えて横槍を入れずに見ている。
「わたしは…ただの失敗作で…偽物なのかもしれません。アリシアになれなくて…期待に応えられなくて…いなくなれって言うなら遠くに行きます…。だけど…、生み出してもらってから今までずっと…今もきっと…母さんに笑ってほしい…幸せになってほしいって気持ちだけは…本物です」
プレシアは答えない。
だが、一瞬ハッとした顔になる。
僅かに微笑み、ゆっくりと手を差し出した。
「わたしの…フェイト・テスタロッサの…本当の気持ちです」
想いと願いは、確かに伝わったのかもしれない。
プレシアに嫌悪を表す表情は無い。
だが、自分の残された寿命と運命をどこか悟っていた。
卓越した研究者であり魔導師である一方で、個人としての生き方は不器用な彼女は、差し出された手を取る事はしなかった。
「ふ…、くだらないわ…」
目を背けて告げた。
カッ!!
杖形デバイスで地面を叩き、魔法を行使する。
それに呼応したジュエルシードが再び活発化し次元震が再発した。
大きな次元震が庭園を破壊する。
別地点のリンディの足場が壊されディストーションシールドが阻害されてしまう。
『艦長ダメです!庭園が崩れます!クロノくん達も脱出して!』
エイミィ・リミエッタが有視界通信で叫んで告げる。
『崩壊までもう時間が無いよ!!』
「了解した!フェイト・テスタロッサ!フェイト!」
応答したクロノはやむなくプレシア逮捕より脱出優先を決意しフェイトへ声をかけるが、彼女は答えない。
アリシアのカプセルによろめきながら寄り添うプレシアを、黙って見ている。
フェイト達以外にも有視界通信を通して、リンディもユーノもなのはも、垣根も、その様子を見ていた。
「私は行くわ…アリシアと一緒に…」
「母さん…」
プレシア・テスタロッサは、フェイト・テスタロッサへセリフとは裏腹に、忌み嫌う相手に対してとは思えない表情で、静かに告げる。
「言ったでしょう…?私はあなたが 大嫌いだって…」
直後、ゴガッ!! と足場が崩落し墜ちて行く二人の親子。
「母さん!アリシア!」
思わず叫びながら駆け寄ろうとするが、崩壊し降ってきた残骸が行く手を阻んだ。
粉塵が視界を塞ぎ、一瞬見失った時には、もう手が届かないほど二人は遠くに離れ、墜ちて行っていく。
(アリシア……。いつもそうね…。いつも私は…気づくのが…遅すぎる…)
プレシアの最期の思いは誰にも届かない。
届きようもない。
プレシア・テスタロッサは自らの意志で発生させた次元震で命を落とした。
その最後の瞬間まで、愛娘アリシア・テスタロッサの遺体とは片時も離れる事は無かった。
「アリシア…母さん!!」
そんな彼女達に崩落した崖から、身を乗り出し届くはずのない手を伸ばすフェイト。
「フェイト…!」
フェイトが落ちないように後ろからアルフが抱き締める。
悲運の母子は旅立ってゆく。
永遠が、そこにある事を願って。
深淵に沈み、見えなくなってゆく二人を涙を浮かべて見ている事しかできなかった。
「フェイトちゃん!クロノくん!」
桜色の光線が壁を突き破り、高町なのはが合流する。
それを見てクロノは即断した。
「脱出する!エイミィ、ルートを!」
『了解!』
轟音と大振動の後、爆発しついに崩壊する庭園。
「庭園、崩壊」
「クロノ執務官はじめ魔導師達の帰還を確認、全員無事です!」
アースラのブリッジオペレーターのアレックスとランディが順に報告。
エイミィが続いて、
「次元震動停止。断層発生、ありません!」
「ふぅ…了解…」
一足先に帰還して艦長席で見届けていたリンディは、ひとまず胸を撫で下ろした。
中規模の次元震こそ発生したものの断層は発生せず、周辺世界への被害はごく僅少となった。
死亡者は犯人であるプレシア・テスタロッサのみ。
『遺失物の違法略取及びそれによる故意の次元災害発生未遂』
二人の少女が出逢い、対立した一連の出来事は『ジュエルシード事件 又は プレシア・テスタロッサ事件』として一応の解決をみて、
本事件はそのような形で結末を迎えた。
「…フェイトは、この事件の重要人物だし、このまま無罪放免という訳にはいかない」
「ま、そりゃそうだろうな」
アースラの食堂でエイミィと並んでクロノは向かい側に座るなのはとユーノ、ついでに相槌を打った垣根に説明している。
フェイトとアルフは一時拘留室で待機し、リンディが一緒に食べるつもりで食事を届けに向かっていた。
「だけど、彼女は真実を知らなかった…。言い方は悪いが道具として利用されただけだ。情状酌量の余地はある。少なくとも、執行猶予は取れるよう働き掛けてみるよ」
「へえ、やっぱ堅物真面目キャラの割りにはお優しいねえ、執務官」
「責務を忠実にこなしているだけだ。茶化すな軽薄メルヘン野郎」
「心配するな、自覚はある」
薄く笑って横槍を入れた垣根帝督に毒吐いて言い返した。
垣根もヘイヘイと引き下がる。
それを聞いていたなのはが、ホッとしたように微笑む。
「ありがとう…クロノくん」
「ただ、この手の裁判はけっこー長引くんだよねぇ…」
エイミィが両腕を後頭部に回して告げた。
最短でも半年、長ければ二、三年かそれ以上。
その間も保護責任者の元で「良い子」でいれば割りと普通に過ごせる。
しかも、その保護責任者にはリンディ・ハラオウンが買ってでた。
ある意味一番信用信頼でき、安泰だと言える。
事件は終わり、生き残った者達は現在を生きてゆく。
罪の行方とその重さ。
伝え合えたのか分からないままの気持ち。
これから生きてゆく事になる未来。
そして、帰宅後、一夜が明けた朝。
自室でそれぞれ寝ているなのはと
鳴り響く携帯電話の着信音で目を覚ます。
「んん…?」
発信者番号通知には『時空管理局』の表示が。
「え…えええっ!?」
一気に目がさえて飛び起きる。
「はい!もしもし!」
『ああ、なのはさん?ごめんなさいね、朝早くに』
電話の主はリンディだった。
「いえ!」
『フェイトさんの裁判の日程、来週から本局行きって決まったわ』
「はい」
『でね、その前に少しだけなんだけど_』
電話のやり取りの声でユーノも目を覚ました。
通話後、携帯電話を抱き締めて嬉しそうななのはを見て、
「なのは…どうしたの?」
尋ねてみると、目を爛々とさせて笑顔で答える。
「フェイトちゃんと少しだけど会えるんだって!」
「そうなんだ!?」
ユーノも顔を綻ばす。
少女は待ち望んだ知らせを聞いた。
フェイト・テスタロッサが『会いたい』と言ったのだ。
なのはは、小さな胸を弾ませていた。
海鳴臨海公園の波打ち際の欄干には、フェイト・テスタロッサ、アルフ、クロノ・ハラオウンの三人が……いや、クロノとリンディ、エイミィの三人がかりに半ば強引に起こされて不機嫌そうな顔のスエット姿の垣根帝督もいる。
「なあなあ執務官、俺いらねえだろ?何で俺まで呼び出した?」
「自分から散々首を突っ込んできたんだ。最後まで付き合うのが筋じゃないのか?」
「いや、もっともらしい雰囲気で言ってるけど、事件と内容的にゃ関係ねえだろ。あの後も散々茶化した仕返しか?」
「ご想像にお任せしよう」
フッと小さく笑ったクロノに垣根は眉をひそめた。
フェイトとアルフはそのやり取りを苦笑いで見ている。
「テメェ……」
ムカついたが、早朝とはいえ公衆の面前で地球世界外の人間相手に暴れる訳にはいかない。
そこへ、
「フェイトちゃーん!」
制服姿で左肩にフェレットモードのユーノを乗せた高町なのはが駆け寄ってきた。
走ってきた彼女は若干息が上がっていたが、構わずフェイトと笑い合う。
「僕達は向こうにいるから」
「あ…うん…ありがとう」
「ありがとう」
クロノの気遣いに礼を言う二人。
三人が離れると、二人は再び見つめ合う。
いざこうしてみると少し照れ臭くなって互いに頬を赤らめた。
「あはは…いっぱい話したい事あったのに、変だね、フェイトちゃんの顔を見たら忘れちゃった」
「わたしは…そうだね…わたしも上手く言葉にできない。だけど、嬉しかった…」
欄干から海を眺めて言葉を交わす。
「真っ直ぐに向き合ってくれて…」
「うん!友達になれたら良いなって思ったの」
なのはは満面の笑顔を向けた直後、残念そうな表情に変わりうつ向いてしまう。
「でも今日、もうこれから出かけちゃうんだよね?」
「そうだね、少し長い旅になる」
「また…会えるんだよね?」
フェイトは、深く頷く。
「少し悲しいけど…やっとほんとの自分を始められるから」
言っている途中でまた照れ臭くなったのか頬を赤くして顔をなのはから逸らして続ける。
「来てもらったのは、返事をするため。……君が言ってくれた言葉…、友達になりたいって」
「ああ…うんうん!!」
「わたしにできるなら…わたしで良いなら…って!」
胸に手を当てようやく言える。
しかし、自信が無さそうに下を向いていた。
「だけどわたし、どうして良いか分からない…だから教えてほしいんだ…どうしたら友達になれるのか」
そんな彼女に、なのはは優しく告げる。
「簡単だよ。友達になるの、すごくカンタン!」
フェイトはハッとうつ向いた顔を上げてなのはに向けた。
彼女は柔和な笑みを浮かべて、
「名前を呼んで。始めはそれだけで良いの。君とかあなたとか…そういうのじゃなくて、ちゃんと相手の目を見てはっきり相手の名前を呼ぶの」
そこまで言った所で、視線を一度ずらす。
フェイトは不思議に思ってなのはの視線の先に目を向ける。
彼女の視線はクロノでもアルフでもなく、両手をズボンのポケットに突っ込んでかったるそうにしている垣根帝督。
「もちろん、どこかの誰かさんみたいにお前とかみたいな柄の悪い呼び方はもっての他!」
その一言にフェイトはクスッと失笑してしまった。
垣根をダシに軽口を挟んだ後、彼女達は再び向き合った。
「わたし、高町なのは!なのはだよ」
「なのは…」
「うん…!そう!」
フェイトは初めて、なのはの名前を口にした。
「なのは…なのは!」
「うん…!」
なのはもフェイトも嬉しさでうっすら涙が浮かんできた。
なのはは両手でフェイトの左手を握る。
「ありがとう…なのは…」
「うん…!」
「なのは…」
手の温もりを感じ、何度も名前を呼ぶ。
「うん…!」
触れ合えた想いと 伝え合えた言葉。
初めて交わした、優しい笑顔。
呼び合えた、互いの名前。
「君の手は温かいね…なのは」
フェイトの言葉に感極まり、なのはの目から涙が零れた。
フェイトはソッと彼女の涙を優しく指で拭う。
「少し分かった事がある。友達が泣いてると、同じように自分も悲しいんだ」
「フェイトちゃん!」
フェイトの胸に抱き着いたなのは。フェイトも優しく抱き返す。
「ありがとう、なのは。今は離れてしまうけど、きっとまた会える。そうしたらまた、君の名前を呼んでも良い?」
「うん…うんっ…!!」
フェイトからも涙が流れていた。
「会いたくなったら、きっと名前を呼ぶ」
なのはが顔を上げてフェイトを見つめた。
「だからなのはも…わたしを呼んで。なのはに困った事があったら、…今度はきっとわたしがなのはを助けるから」
すれ違いの果てに、やっと繋がった絆は強く。
離れて過ごす時間にもきっと、負けないほどに。
誰より強くぶつかり合って、
触れ合って分かり合った
二人はもう、「友達」だから。
二人の様子を見て、貰い泣きしているアルフ。
一緒に見守っていた、クロノがゆっくりと歩み寄ってきて告げる。
「時間だ…そろそろ良いか…?」
彼の方を向く。
「うん…」
「フェイトちゃん!」
なのははフェイトを再び呼ぶと、自分の髪を留めていた白いリボンを外して差し出す。
いつものツインテールの髪型が解けてセミロングになっていた。
「思い出にできるもの…こんなものしか無いんだけど…」
「じゃあ、わたしも…」
言って、フェイトも自分の黒いリボンを外して差し出した。
互いに手を重ね、ゆっくりと交換した。
「ありがとう、なのは」
「うん、フェイトちゃん」
「きっとまた…」
「うん!きっとまた…!」
いつの間にかなのはの背後に立っているアルフが、彼女の肩にそっとユーノを乗せた。
彼女はアルフの方に振り向く。
「ありがとう、アルフさんも元気でね」
アルフはニッコリ笑う。
「ああ、色々ありがとね。なのは、ユーノ」
「それじゃあ僕も」
「クロノくんも、またね」
「ああ」
クロノも僅かに肩を竦めて答えた。
三人が並んで立つと、青白い魔方陣が発生し、転移魔法が展開される。
そこへ、垣根帝督が両手をポケットに入れたまま、のそのそとようやく歩いてきた。
「別れの挨拶は終わったか?」
フェイトは垣根の顔を見て、
「あ………。ごめん、ちょっと待って!」
とクロノに一言断りを入れると魔方陣から飛び出して、なのはの隣に立ち止まった垣根のそば近づいた。
垣根は不思議そうにしている。
この女が自分に用があるとは思えなかった。
はっきり言ってフェイト・テスタロッサと垣根帝督の関係や面識は、なのは達とは比べ物にならないほど希薄だと言える。
早い話、一度交戦したり事件最終時に一時行動を共にしたぐらいで、お互いに関係者という事以外には分かっている共通点は無いはずだ。
フェイトは異世界の魔導師で、垣根は学園都市の能力者。
しかしそれでも、彼女は、一度くらいはまともに言葉を交わしておきたいと思ったのはなのはの影響か。
「あの……ちゃんと自己紹介してなかったから。わたしはフェイト・テスタロッサ。一応…ね、一応(クロノ達から聞いた事はあるけど)あなたの名前を教えてほしいんだ」
正直、声をかけられた事も改めて自己紹介されて自分の名前も尋ねられるとは夢にも思っていなかった。
クロノに呼び出されたとばっちりとしか自覚していないし、終始傍観者として終わるつもりだった彼は内心少なからず驚き、数秒絶句してしまった。
それを察したのか、フェイトのすぐ後ろのクロノとアルフが一瞬プッと吹き出したのが見えてムカついたが、時間も無いのでここは敢えて無視する。
「……、ああ、そうだったな。俺の名前は垣根帝督っつうんだ」
「うん。て「ああだから垣根で良い」_え!?」
素早く名前呼びを阻止した。
当然なのはが咎めるように口を挟む。
「もう!フェイトちゃんにまで!」
「だって俺は友達とかじゃねえし」
「むぅ!…あ!じゃあ今からわたし達と「なる気もねえよ」_もう!!ワガママ!!」
「お前がな」
「お前じゃなくて、わたしは高町なのは!!な の は !!!!」
「だから高町で良いだろ。なあ?テスタロッサ」
「え、ええ……?」
軽い漫才と化した状況で話を振られて困惑するフェイト。
感動的な空気が、すっかりぶち壊しになってしまい苦笑するアルフ。
クロノは呆れた表情で空気を読め、と目で語っている。
「フェイトちゃん、この人の言う事は聞かなくて良いからね!!」
「なのは!?」
垣根に対してだけ態度がガラリと変わるなのはにフェイトは更に困惑しだす。
「だってずっとガサツで失礼な帝と「馴れ馴れしい、垣根で良い」_ッ!!もー!!そっちこそ名前に関してうるさいよ!?何でそんなに頑固なの!!」
「自覚はある」
軽く頬まで膨らませてプリプリと怒り出すなのはとは裏腹に、垣根は薄く冷笑し飄々としている。
フェイトは苦笑しながら、
「えっと……二人は、仲が良いんだね?」
「良くねーよ」
「良くないよ!」
「ええ~……」
打ち解けていてくだけた関係なのかと思ったが、本人達はシンクロで即否定した。余計に困惑するフェイト。
いい加減、この無駄なやり取りに痺れを切らしたクロノが軽く咳払いする。
「そろそろ良いか?時間も無いからそれくらいにしてくれ。フェイト、彼に言いたい事があるんだろ?」
「あ……ごめんなさい…」
「ったく、高町が絡むから」
「わたしのせい!?」
自分だけ謝るハメになり理不尽に思うが、時間が無い事に変わりはないためグッと我慢する事にした。
この男に不平不満を言うのは後にしようと思った。
フェイトは気を取り直して、少し照れ臭そうに垣根の顔を見上げる。
「えっと……何か他にも言いたい事があったと思うんだけど、今ので吹き飛んじゃったから…一言だけ……」
「まずお前が俺に用があるとは思わなかったがな」
「うん……。じゃあ、…………………………………………………………ありがとう」
「……あん?何が?俺はお前に何か礼を言われるような事をした覚えはねえんだがな??」
素直に意味が分からず、怪訝そうに首をかしげて眉をひそめた。
「自分でも、何でかよく分からない……。けど、そうあなたに言っておきたい気分だった」
ゆったりと微笑むフェイトに対して垣根はそうかい、と興味の薄そうな反応をした。
「次に会った時は、あなたの事ももっと教えてほしいんだ。あなたは確か…魔導師じゃなくて、行使していたのも魔法じゃないんでしょう?少し興味もあるから…」
「そこらについては粗方そこの執務官やら艦長やらに話してはいるから、時期見てそいつ等から訊けば良い」
「そうだったんだ?じゃああなた自身の事でも良い?」
「もし本当に次に会う事があって、気が向いたらな」
「絶対だよ?忘れたりはぐらかしたりしないでね」
「分かった分かった」
垣根は目を細めて鬱陶しそうに答える。
フェイトは知るよしも無いが、実際、次に垣根と会える保障はどこにもない。
しかし、このそこはかとない口説さ、一体誰の影響なのやらと彼は横のなのはをチラリと見た。
フェイトは魔方陣で待っている二人の元に戻ってなのは達の方に振り向く。
転移魔法が発動し魔方陣が輝いた。
「バイバイ…またね……」
なのはは三人を少し名残惜しそうに見つめ、
「クロノくん……アルフさん……フェイトちゃん……!」
フェイトが微笑みながら手を振る。
なのはも大きく手を振った。
彼女の肩のユーノも小さく手を振り見送る。
カッ!! と青白い閃光が三人を包み、次の瞬間にはいなくなっていた。
〈なのは…〉
立ち尽くしているなのはにユーノが念話で話し掛けた。
なのははニッコリ笑う。
そしてゆっくり空を見上げる。
「うん…!平気。きっとまた…すぐに会えるもんね」
出逢い、ぶつかり、すれ違いながらも分かり合った二人の少女。
想いを込めて手を伸ばした少女と、伸ばされた手を取った少女。
思い出となるリボンを交換し、二人は涙と笑顔の別れを迎えた。
「それじゃ、帰るか」
クルリと回れ右をしてゆっくり歩き出す垣根帝督。
なのはがパタパタと小走りで彼を追い掛ける。
「あ、待ってよ!帝督く「垣根な」むぅ!何でそんなに名前で呼ばれるの嫌がるの?自分の名前が嫌いなの?」
身内や友人等とは名前で呼び合う事が普通のなのはにとって、確かに友人関係とは言えない相手の垣根だが、頑なに名前呼びを拒んで
「別に?馴れ馴れしいのが嫌なだけだ」
「もしかして……わたしの事が嫌い…?」
言い合いする事が少なくなかったとはいえ、見知った相手にストレートに嫌われていたら流石に傷付くな、と内心思っていたが、
「別にお前の事は好きでも嫌いでもねえよ」
垣根はなのはに目も向けずに、両手をズボンのポケットに突っ込んだまま歩き続ける。
好き嫌い以前にあまり興味が無さそうな雰囲気だった。
「じゃあ別に良いよね?無理に友達になれって言ってる訳じゃないんだから。わたしはなのはって呼んでほしい」
「ただ単に苗字呼びの方が慣れてんだよ。あと_」
「あと?」
垣根は横を歩くなのはに少し顔を向けて告げる。
「
ポーカーフェイスだが目が笑っていた。
からかう気で言ったのが見え見えだった。
それに直感で気づいたなのはは憤慨し再びプリプリと怒り出す。
「何それ酷いよ!!あなたってつむじ曲がりでひねくれてるしあまのじゃくだよ!!」
「……それ全部同じ意味だからな?」
意味が同じセリフが三重に重複しているのを静かにツッコむが、導火線に火が点いた突撃ロケットは止まらない。
「そっちがその気なら、こっちも考えがあるよ!」
「考え?」
「わたしと名前で呼び合ってくれるまで、垣根くんのお家まで付いてくから!」
ビシッと言い放ったなのはに垣根は一瞬、絶句した。
「……は?な…何でだ??」
それは誰が得するんだ? と意味が分からず呆れ顔になる彼を見て、なのははイタズラっぽく笑った。
「垣根くんって多分今は海鳴市に住んでるよね?だからお家まで付いてくから。それが嫌なら名前で呼び合って!あと連絡先も教えて」
言ってスッと二つ折りの携帯電話を取り出す。
「いや、何サラッと要求増やしてんだよ。つーか嫌だし、お断りだ」
「ならお家まで付いてくからね!あ、そうだ!せっかくだから垣根くんのご家族にも挨拶しに行くよ!」
名案!と言わんばかりポンッと両手を叩く。
しかし彼女も年相応の小学生だからか、根が善良過ぎているのか、すぐ思い付いた嫌がらせや悪戯目的の事の内容がチャチで安直だった。
(つーか俺に家族いねーから)
と思っていたが、これを言うと別の意味で話が拗れそうなので敢えて口には出さない。
何故そこまでして執着するのか訳が分からなかった。
いや、自分に執着しているというより、彼女自身も半ば無意識なのだろうが変にムキになっているだけの可能性が高いと彼は推測し、羞恥心を誘って追い返そうとニヤリとしながら軽口をたたく。
「そんなに俺の事好きなの?小学生で付き纏いにストーキングとは業が深いな」
「なッ!?ち、違うよ!!そんなんじゃないよ!!」
効果は適面。
不意打ちと恥ずかしさでサァッと彼女の頬が赤く染まり慌てて必死で否定し始めた。
「どーかなー?散々絡んできて今も鬱陶しく付き纏っているし、そういう風にも受け取れるぜ?」
「だからそんなんじゃないって!……まだそういう好きとか分かんないし………」
(そらそら、そのまま恥ずかしがってヘソ曲げて、とっとと帰っちまえ)
しばらく顔を真っ赤にして手をバタバタしていたなのはだが、途中でハッとして、垣根にジト目で見つめる。
「……もしかして、そうやってわたしを追い返すつもりだった?」
図星だった。
ニヤついていた表情が固まる。
(何でこんな時だけ無駄に察しが良いんだよ)
「あ、そうだ!そう!し、シャクニサワルからだよ!!垣根くんの意地悪がしゃくにさわるから!!わたしが怒ってるんだよ?」
しかも強引に結論を出してきた。
垣根帝督のセリフを引用してきてまで。
「…イントネーションちょっとおかしいぞ。お前意味分かって言ってんのか?あと、お前文系ちょっと苦手だろ」
「ッ!!そ、そんな事ないもん!」
一瞬なのはの肩がビクッとしていた。どうやら図星らしい。
「しつこい女だって言われないか?お前。懲りろよ」
「言われた事無いもん!!」
歩きながらそんなくだらないやり取りをしている間に仮住まいの高級マンションに近付いていた。
流石に『表』の人間を暗部組織の仮アジトに上げる訳にはいかない。
しかし、このままでは最後まで食い下がるつもりだろう。
垣根帝督には、決断の時が迫っていた。
「……はぁー分かった分かった」
鬱陶しそうに顔をしかめ、後頭部を軽くかく。
「あ、じゃあ…!」
パアッと花が咲くようになのはが笑顔になる。
何がそんなに嬉しいのか、垣根には理解できなかった。
「でも、家に上げるのはダメだし名前呼びもしない「えー!?」_うるせえな、だが、連絡先の交換というご希望には応えてやるから、今日はそれで手打ちにしてくれないか?」
分かりやすく不満そうななのは。
垣根は私用の携帯電話をポケットから出した。
なのははうー、としばらく躊躇していたが、ようやく妥協した。
赤外線通信で番号とアドレスを交換し、彼女は帰宅する事になった。
「またねー!」
(
垣根は手を振りながら歩くなのはとユーノを突っ立って見送り、ようやく一人になれた。
彼女達の姿が見えなくなった所で、私用携帯をしまって反対側のポケットから仕事用の携帯を取り出し『スクール』のエージェントに連絡を入れた。
「撤収する。…ああ、残留反応らしきものもここ数週間皆無だし、ひとまず学園都市に戻るから対応を頼む」
通話を切ると、彼はマンションに帰宅し荷造りを始めた。
『事件』が終わった以上、異変と言える異変はこの先
アンノウンがこの先観測される事があるとしたら、発生源は十中八九、高町なのはかユーノ・スクライアだろうし観測される可能性自体が僅少かつ稀なのだから。
そうなった以上、それ目当てでここに来た
数日後、高級マンションは引き払われ垣根は学園都市へ帰還した。
ちなみに私用携帯は電源を切りなのはからの連絡ができないようにしていた。
帰還後、垣根帝督は『スクール』のアジトで一人寛いでいた。
ボーッとしながら、ポツリと呟いた。
「今生の別れだったかもしれねえんだから、俺が
『P・T事件』の現地処理は全て終了。
事件担当の『アースラ』スタッフは現場から撤収。
重要参考人フェイト・テスタロッサは使い魔アルフと共に、この先も続く裁判に向けて前向きに艦内で過ごしている。
民間協力者の高町なのはは、嘱託魔導師資格の取得を視野に入れつつ、管理局及び自身の『魔法』との関係を考慮していくとの事。
こちらも前向きに日々を過ごしている。
裁判が開かれている間は重要参考人と外部の人間の直接接触を許可する事はできないが、『文書及び録音音声・録画映像での通信』ちついては通常対応として認可した。
同じく民間協力者(仮)だった
学園都市内で表向きは学校通学をサボりがちな高位能力者のエリート児童学生。裏では統括理事会直下の暗部組織『スクール』のリーダーとして従事し暗躍していた。
「……あ、管理局から借りてた通信端末返してねーや。ま良いか、電源切ってるし面倒臭いし、借りパクしちまおう」
-終-
通称無印編と言われている、この章はこれで終わりです。
今作を書き始めたのはもう八年以上前で、自分にとって初めての物書きで初めての二次創作でした。
そして書き直す前は今から見たら控え目に言ってガサツもガサツ。
できうる限りの修正をまずはしたいなと思い、始めましたが、結果ほとんど書き直しと変更を行う事になりました。
何はともあれ、こんな拙作を読んでくださりありがとうございます。