魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter   作:戸礼太

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再会と邂逅

海鳴市でのハラオウン家として、臨時駐屯地としても機能しているマンションの一室。

昼下がりの今、執務官補佐官エイミィ・リミエッタも交えてリビングで寛ぎながら、垣根帝督は引き続き件の『闇の書』に関する説明をクロノから受けている。

 

「闇の書の最大の特徴は、そのエネルギー源にある。闇の書は魔導師の魔力と魔法資質を奪う為に、リンカーコアを喰うんだ」

 

「なのはちゃんのリンカーコアも、その被害に……」

 

「ああ、間違いない。闇の書はリンカーコアを喰うと、蒐集した魔力や資質に応じてページが増えてゆく。そして、最終ページまで全てを埋める事で、闇の書は完成する」

 

「完成すると、どうなるの?」

 

エイミィは、怪訝な顔で声を発した。

クロノは少しうつ向き、静かに答える。

 

「……少なくとも、ロクな事にはならない」

 

ソファーに座る垣根はそれを聞いて、

 

(学園都市の敷地で完成とかして、そのロクな事にならない事態になったら、面白いかもな)

 

全く関係無い物騒な事を考えていた。

ガチャッと鍵を開け、玄関のドアが開く音が聞こえた。

誰か帰ってきた。買い物に行っていたリンディ・ハラオウンだろうか。

 

「ただいま」

 

「!」

 

予想していなかった声が聞こえ、垣根帝督は意外そうな顔をした。

リビングに入ってきたのは、白いセーラー服風の女子児童制服を纏った、長い金髪を太めの白いリボンで結んでツインテールにしている。端正な顔立ちの大人しそうな雰囲気の少女。

 

フェイト・テスタロッサ。

 

しかも散歩帰りなのか、赤い体毛の子犬を連れていた。

 

「ただいまクロノ。あ、エイミィも来てたんだ_ッ!?」

 

「あ、フェイトちゃんおかえりー」

 

フェイトはクロノ、エイミィの顔を見て微笑んだ直後、想像もしていなかった男の顔が目に映り、絶句する。

なのはと同じく約半年ぶりに会った、一度だけ刃を交えた魔導師ならざる存在。

 

「…ただいまって?一緒に住んで……ああそうか。艦長さんがこいつの保護責任者だからか」

 

垣根は最初は訳が分からなくなったが、リンディの事を思い出して納得する

 

「ああ、まあ厳密には本局にもう1人フェイトの保護責任者はいるんだが」

 

と、クロノが補足した。

ポカーンとしている1人と1匹。

垣根はへぇーっと軽く返事してフェイトから目を逸らし、通称『リンディ茶』をズズッと啜る。

しばらく口を半開きにしたまま呆然としているフェイトと子犬(アルフ)だったが、ハッと我に返って再び垣根帝督の方を見た。

彼は事も無げにリビングで変わらず寛いでいる。

クロノからもエイミィからも、リンディからも誰からも聞いていない。垣根がここに来る事など全く。

フェイトは慌てて垣根に近づいて矢継ぎ早に告げる。

 

「え、え?ええ!?ち、ちょちょっと待って!なな何で!?何で垣根(あなた)がここに!?いつ来たの!?何で!?どうして!?」

 

「近い近い、落ち着けよお前」

 

「あ…ッ!ご、ごめん……!」

 

言いながら無意識にお互いの鼻が当たりそうになるほど顔を近づけてしまい、垣根が鬱陶しそうに眉をひそめてシッシッと手を振る。

フェイトも気付いて恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら退いた。

 

「つーか言ってなかったのかよ執務官?」

 

彼はジロリとクロノを見る。クロノは涼しい表情で、

 

「ああ、色々あって言いそびれた」

 

「確信犯じゃねえのか?」

 

「それはお互い様だ」

 

悪びれた様子の無い彼に舌打ちをして、そっぽを向く。

と、ここでようやく子犬に気付いた。

いつから犬を飼うようになったのか?何だか見覚えのある色の体毛、見覚えのある雰囲気、そういえば彼女の使い魔は赤い毛並みの狼だったか。…そう、ちょうど狼形態のアルフを小さくデフォルメしたら、こんな感じになるんじゃないのか……?

 

「……アルフの子供?」

 

「違うよ!あたしだあたし!アルフだよ!」

 

子犬が喋った。

 

「うわっ、犬が喋っ…!え、本人?お前がアルフ?」

 

「そーだよ」

 

「え?お前もっとデカい犬じゃなかったか?」

 

「あたしは狼だっての!まあ地球じゃフェイトの魔力にも、燃費の良いようにしたんだ。主にこの新形態『子犬フォーム』でね!」

 

確かに声も聞き覚えがあったが、小さくなった影響か声色が見た目同様に幼くなっている。

垣根は興味津々といった調子でソファーから立ってアルフの側に歩み寄ってしゃがみ、ジロジロと物珍しそうに見る。

何故かアルフもアルフで誇らしそうにしている。

 

「へー、使い魔って、必要に応じて姿をそこまで変えられるんだな。スゲェな。…あ、いや、人間形態と狼形態を使い分けてる時点で今更か」

 

「へへん♪」

 

「……所でアルフよ」

 

「ん?何だい?」

 

「『子犬フォーム』って名乗った時点で、結局犬っコロ確定だな」

 

「うっさい!!」

 

ガブリッ!!と垣根の左手に噛み付いた。

 

「痛ってええええええええええええぇぇぇェェェええええええッ!!!!」

 

 

数十分後、黄色と白の横縞模様のトップスに白のデニムスカートという私服に着替えてきたフェイトがリビングに戻る。

クロノとエイミィ、買い物から帰ってきたリンディ、アルフに噛まれて歯形ができた左手をヒラヒラと振っている垣根が待っていた。

噛み付いたアルフは子犬フォームのまま、垣根からプイッとそっぽ向いている。

 

「……それで、何でここに?」

 

フェイトは垣根に聞きたい事が色々あったが、ひとまず一番聞きたかった事から聞いてみた。

垣根は簡潔に告げる。

 

「単刀直入に言うと、借りパクした端末返すついでにこの件にも首突っ込みに来た」

 

「ええ……?」

 

フェイトは身も蓋もない彼の物言いに、顔を引きつらす。

特に正義感や大義名分も無く、フェイト(じぶん)達に会いに来た訳でもなく、ただの興味と好奇心で一枚噛もうと思っているのだ。

ハァッと溜め息を吐くクロノ、あははと苦笑いするエイミィ、何故かクスクスと微笑むリンディ。

そんな3人を尻目に、垣根は特製抹茶ラテの残りを飲み干した。彼は湯呑みを置くと、フェイトの顔を見て告げる。

 

「それよか、お前が帰りに着てたの確か高町んとこの学校制服か?」

 

「あ、うん。リンディさんの薦められて、留学生って形で聖祥小学校に通う事になったの」

 

「へえ、良かったじゃねえか」

 

「うん…。学校通学自体が初めてで、不安で戸惑ったけど、なのは達が色々と助けてくれたから…。明日からも学校が楽しみなんだ」

 

フェイトは頷いて、今日の出来事を思い出し嬉しそうに微笑む。

そんな彼女に、垣根は目を合わせないままうっすらとした笑顔(無自覚だが見方によっては冷笑に見える)で告げる。

 

「まあ、お前は一見内気で天然っぽいけど性格も良いし、妬まれでもしない限りは大丈夫だろ。学習しながら学校生活を楽しめば良い」

 

もし何かあってもお前の(ダチ)が助けるだろうしな、と彼は小さく呟いた。

 

「うん!あ、垣根は普段、学園都市ではどうしてるの?そこの学校って、どんな感じ?」

 

フェイトの質問に垣根は少し意外そうな顔をした。自分の事を聞かれるとは思っていなかった。

 

「あん?別に変わった事はしてねえよ。お前等の学校が具体的にどうかは知らねえが、俺の学校も多分普通だと思うぞ」

 

嘘である。

 

クロノとリンディ以外の殆どには秘密にしているが、一応超能力者(レベル5)の第二位で暗部に身を置いている垣根帝督も表では小学生。『時間割り(カリキュラム)』を始めとする、宿題・試験・補習等の学習を行い、夏季と冬季の長期休暇や部活動、放課後の自由時間といった一般的な日課を送る事になっている。

もっとも、暗部の活動の方が優先順位の高い都合上、垣根の登校日数は少なく、あまり年相応の学校生活は送っていない上本人もその意欲が低い。

 

「そうなんだ…」

 

フェイトは味気無い返事に少し残念そうな表情になるが、彼は構わずくだらなさそうに告げる。

 

「別に俺の事なんざどうでも良いだろ。今大事なのはお前のスクールライフなんだろうから」

 

話を逸らそうとした時にフェイトは別の事に気付いて、あ!と声を出す。そして、彼女らしくない含み笑いを浮かべてソファーに座る垣根のすぐ側に座ってきた。

 

「何だ?何がしたいんだお前?」

 

垣根は怪訝な顔をする。フェイトは変わらず含み笑いで見つめて告げる。

 

「お前、じゃないよ。わたしはフェイト・テスタロッサって名前があるんだから、名前を呼んでね」

 

垣根はハッ、とくだらなさそうに鼻で笑った。

 

「わりぃわりぃつい癖になってた。名前で呼ばれねえのムカつくもんな、テしゅタロッサ_」

 

「え……」

 

「……、」

 

「……、」

 

「……、」

 

フェイトだけでなく、同じくソファーに寛いでいたクロノもエイミィもリンディも、言葉を失った。

当の垣根帝督はしらばっくれた顔をしている。フェイトは彼のセリフを反芻する。

 

「てしゅたろっさ……」

 

「っせえ、噛んでねえ」

 

「噛んだよね」

 

「噛んでねえっつってんだろ!」

 

噛んだのは明白だが、指摘されればされるほど彼は意固地になり、ドンッとテーブルを左拳で叩く。

エイミィもクスクスッと笑って口を挟む。

 

「絶対噛んだよね」

 

チッと舌打ちをして立ち上がる。左手首の腕時計を見て、リビングを出ようと歩き出した。

 

「あーもうこんな時間か。そろそろお(いとま)するわ」

 

(噛んだ…)

 

笑いを我慢して、口元を不自然に歪めたクロノが尋ねる。

 

「もう行くのか?時間的にはまだ早いんじゃないか?」

 

まだ、明るい昼過ぎ。″例の″作戦をやるにはまだ早い。

 

「良ーんだよ。どうせ長居する気も無かったし、時間まで適当に道草食って時間潰しするさ」

 

垣根は振り向かずに左手をヒラヒラと振って告げ、お邪魔しましたと足早に出ていった。

 

 

垣根帝督が去ってから数分後。

 

「…絶対噛んだよね?」

 

フェイトがポツリと呟く。

 

「うん、垣根くん意地になってたけど。意外と可愛いとこあるんだね~♪」

 

てしゅたろっさって、とエイミィもニマニマして面白そうに言う。リンディも微笑ましそうな顔で、

 

「案外、年相応に子供らしい所もあるのね。ちょっと安心したわ」

 

「本人が聞いたら余計に怒りそうだけどね」

 

クロノもフッと少しだけ笑い、続けてこうも思った。

 

(しばらく彼はエイミィにこの事で(いじ)られるかもな。少しだけ同情する)

 

彼は垣根に心の中で合掌した。

フェイトはふと、リビングの隅に畳まれた黒いコートに気付く。クロノのものかと思ったが、リンディもそれに気付いて、

 

「あら、垣根くんコート忘れてっちゃったわね」

 

「あのコートは垣根の…わたし、届けてくる」

 

フェイトが立ち上がるが、クロノが制止した。

 

「いや、大丈夫だろう。気付いたら彼から取りに来るだろうし、そうでなくても明日取りに来るだろう」

 

「でも、寒くないの?」

 

「まあ大丈夫だから構わず外に出たんだろう」

 

「そうね。それに…、あの子に常識は通用しないから……」

 

クロノとリンディだけは垣根帝督が学園都市第二位の超能力者(レベル5)だという事、『未元物質(ダークマター)』という能力も大雑把には理解していた。ただし他言無用の条件で。

 

「「???」」

 

その事情を知らないエイミィとフェイトは、訳が分からず首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、テしゅタロッサと噛んだ垣根帝督は、海鳴市内の図書館に来ていた。

 

ここに来るまでに市内のあちこちを寄り道していた。そもそも時間潰しの為に当てもなく闊歩していただけで、何となく最後に辿り着いただけだった。

週刊漫画雑誌のページをめくって閉館まで暇を潰す。

 

(件の闇の書ってヤツは確か666ページ…。この雑誌1冊半分くらいか…)

 

彼の視界の端を、車椅子に座る茶色いボブヘアーの髪型の少女と、並行する黒紫色の長い髪に白いカチューシャの、聖祥小学校の制服の上に学校指定の茶色いダッフルコートを纏った少女が通り過ぎた。

聖祥の制服に一瞬目が行くが、すぐに戻した。高町なのはやフェイト・テスタロッサが通っている事、垣根帝督も書類上所属している(退校手続きを行っていなかった)事というだけで、この図書館に来るまでに何人か男女問わず制服姿の児童を見掛けていた。そう考えれば珍しくも何ともない。

そして1時間少々。日が傾き始めた夕方、閉館を知らせる館内放送が流れ、垣根は漫画を閉じて棚に戻す。

ゆっくり立ち上がり、2ヶ所ある出入口の1つに向かった。

自動ドアのすぐ外には、複数の男女がたむろしていた。いや違う。何か口論になっているように見える。聖祥の制服姿の女子小学生と車椅子の同年代の少女と、学ランを弛く着崩したチンピラ風味の男子中学生4人が言い争っている。

ちょうど出入口を男子中学生達が塞いでいた。

 

不良やチンピラの類いは学園都市にも存在する。

それ等が集まり犯罪行為等を行ったりする事もある、主に無能力者(レベル0)の武装集団、スキルアウト。

 

(やっぱ学園都市の外にも、こういうヤツはいるんだな)

 

スキルアウトにはいくつか派閥や集団、非行の程度にも幅があるが、本筋とは無関係なので割愛させていただく。

 

「邪魔だな」

 

 

 

「…だから、道を空けてくださいって頼んでるだけじゃないですか…」

 

月村すずかは困ったように少年達に言う。

しかし彼等はヘラヘラしながら真面目に聞く耳を持たない。

 

「だから通れば良いじゃん。階段は人1人分は空けてんだし」

 

2人の少女達の片方が車椅子なのを分かってて言っている。

 

「見て分かるでしょう?はやてちゃんは車椅子だから、そこのスロープからじゃないと通れないんです。スロープさえ空けてくれたら後はあなた達に何も言いませんから、お願いします」

 

「えー、ヤダ♪」

 

「他人にお願いする割りには態度がなってねーな」

 

「頭ぐらい下げろよ。あ、今の態度のお詫びも兼ねて、土下座だな。こりゃ」

 

どーげーざ、どーげーざ、手を叩きながら少年達が好き勝手に悪ふざけを始める。

流石にカチンときて、すずかは語気を強める。

 

「いい加減にしてください!何でそんな意地悪するんですか!何が楽しいんですか!」

 

「すずかちゃん、ええよ。わたし、この人達が帰るまで待つから…」

 

薄ピンク色のセーターとマルーン色のミニスカートにタイツとソックスを履いて、その上にストールを纏った車椅子の少女、八神はやてはすずかの左袖をクイクイと軽く引いて宥めるように言った。

 

「でも…」

 

「ええんよ。仕方ないわ」

 

済まなさそうなすずかを苦笑を浮かべながら止めようとする。

自分のせいで話が拗れて、彼女に迷惑をかけたくなかった。

それを見て不良中学生達はニヤニヤしながら、口々に言う。

 

「お、そっちの車椅子の子はお利口だねー」

 

「聞き分けいーねー。そーゆー子、お兄さん達好きだよー?」

 

「オラ、そっちの君も見習えよ」

 

「あ、そうだ。ただ待つだけなのも退屈で暇だろ?折角だから俺達と喋らない?何なら場所変えてゆっくりしよーぜ」

 

マッチポンプそのもの。最初からこれが狙いだったのか、ただ単にその場のノリで始めた悪ふざけなのかは分からない。だが、彼女達の感情を逆撫でするには十分な言動だった。

月村すずかは夢中で追い返したかったが、車椅子ですぐに動き回れない八神はやてもいる。

彼等を不用意に怒らせて、手を出されたら自分だけでなく彼女にまで危険が及ぶだろう。

怒りとは裏腹に具体的な抵抗も打開策も無く、口元を固く閉じて歯を食い縛り、キッと悔しそうに少年達を睨み付ける。

その視線に気付いた1人がすずかにツカツカと歩み寄り、馴れ馴れしく肩へ腕を回して顔を寄せる。

 

「なーに睨んでんのー?もっと楽しめよ。一緒に遊ぼーぜー」

 

「な……やめてください……っ!!」

 

「すずかちゃ_っ!?」

 

「そーそー、どーせ暇だろ?俺達も暇してるんだから付き合ってよ」

 

心底嫌そうに表情を歪める。はやてもすずかを心配して声をかけた時に、反対側から近寄ってきたもう1人に肩へ腕を回され、驚きと嫌悪感で絶句した。

 

「つーか、この()達小学生っぽいけど結構カワイイじゃん」

 

「だな、これからどっか行く?」

 

ここで月村すずかの堪忍袋の緒が切れる。

 

「いい加減に_「取り込み中か?」っ!?」

 

「え?」

 

「「「「ん?」」」」

 

図書館の出入口の内側、少女達から見て左手側の方から、声が聞こえて一斉にその方向を向いた。

紺色のカジュアルジャケットを纏った痩身の少年が、両手をズボンのポケットに突っ込んでゆっくり歩いてくる。

身長はすずか達より少し高そうだが、彼女達に絡んでいる中学生達よりは低い。

声変わりもしていない幼さの残るが平淡で冷たい印象の声色。

前髪の長い茶髪で殆ど隠れているが、鋭く暗い瞳。

年相応に端正な容貌だが、悪い目付きと相まって何だかガラの悪そうな雰囲気の少年。

 

少女達からすれば助けに入ってくれたように見えるが、見た目はどちらかと言うと不良サイドにカテゴライズされそうな男。

 

垣根帝督。

 

彼は少年達と少女達との等距離の辺りで立ち止まり、くだらなさそうに告げる。

 

「まあ俺にゃ関係無いな。口喧嘩やらナンパやらは勝手にすれば良いが、通り道を塞ぐんじゃねえ。邪魔だよどけよ」

 

突然口を挟みに来て横槍を入れ、まるで野良犬を追い払うようにシッシッと手を振ってきた。

おそらく年下であろうこの男の、自分達を対等な人間としても見ていない態度、一言一句が失礼で馬鹿にしているとしか思えなかった。

 

「て、めぇ…!何しゃしゃり出てんだよ!!」

 

「邪魔すんじゃねえ!消えろクソガキ!!」

 

突っ立っていた2人がキレ出す。

 

「まーまー、女の子の前でヒーロー気取りでカッコ付けたい気持ちは分かるけど、男はお呼びじゃねーんだよ。帰りな」

 

「そーそー、4対1で立ち向かうなんて馬鹿だぜ?それにガキの癖に年上に対する礼儀がなってねえな。…大人しく帰らないとお兄さん達ボコっちゃうよ?」

 

少女達の肩へ腕を回している2人はギャハハハ!!と笑い、彼を煽りつつも追い払おうとするが、当の垣根は何言ってんだコイツ等、とつまらなさそうな顔をしているだけだった。

 

「いや、帰りてえからどけっつってんだよ」

 

「出入口はもう1ヶ所あるだろ?そっち行けよ」

 

「そっちもう閉まってるからこっち来てんだよ、時間見りゃ分かるだろ。ダサいナンパに知恵を使う前に一般常識身に付けろ。…それとも、テメェ等の頭蓋骨にゃ脳味噌入ってねえのか?試しに振ったり叩いたりしてみたらどうだ?空っぽなら良い音がするかもよ」

 

散々な物言いにいい加減全員が腹を立てた。

 

「ふざけんじゃねえ!!」

 

「何なんだてめえ!!これ以上邪魔すんなら容赦しねえぞ!!」

 

「女の前だからってカッコ付けてんじゃねえよ!!」

 

「ブッ殺すぞクソガキ!!」

 

次々に怒号が響くが、垣根の表情は変わらない。不良少年達の威嚇を歯牙にもかけない。

 

「だからテメェ等のダサいナンパの邪魔はしねえっつってんだろうが。大人しくどいてくれりゃそれで良い。そこの女は知り合いでも何でもないし、興味もねえ。…つーか、現在進行で俺の通行の邪魔してんのはテメェ等だろうがクソボケ」

 

勝手気ままに言って、再び少年達に向かってシッシッと手で払う。

終始この態度が少年達に不快感を与える。

 

「ほら、もう良いだろ?さっさと失せろよカス。何なら帰って良いぞ」

 

ついに不良少年達がキレた。

 

「ナメてんじゃねーぞ!!」

 

「ブッ飛ばす!」

 

1人が垣根帝督の胸ぐらを掴んで顔を殴った。

 

「「ああ!!」」

 

月村すずかと八神はやてが悲鳴を上げた。……が、

 

「痛ってえな」

 

「「「「ッッ!?」」」」

 

「「え!?」」

 

殴られたはずの垣根は倒れたりも仰け反ったりもしなかった。

殴りかかった少年の右拳が突き刺さった左頬から僅かに顔が傾いただけで、両手をズボンのポケットに突っ込んだまま、鉄柱のように微動だにしていなかった。

本当に痛いのか怪しいほど、表情1つ変えずに彼は自然に言った。

 

「そしてムカついた。こっちは道さえ空けてくれりゃ、何もしねえで素通りしてやるっつってんのに。……まあこれで正当防衛は成立するよな?」

 

「ああ?何言って_ッ!?」

 

ゴンッ!!と、言い終わる前に殴りかかった少年の顔面に垣根の右ストレートが炸裂し、一気に吹き飛ぶ。

ノーバウンドで近くの街路樹に激突した少年の体がずるずると地面へ落ちていく。

しかも鼻が折れてひん曲がり、前歯も2本ほどへし折れて気絶してしまった。

 

「この野郎!!」

 

「やっちまえ!!」

 

「半殺しにしてやる!!」

 

残り3人が一斉に襲い掛かるが、

 

「チッ、うぜえな」

 

誰も気付く事はなかったが一瞬、彼の体からヂッ、と音が出る。

 

ずむっ!!ずむっ!!と、

 

「がッッ!!!?」

 

「ばうッッ!!!?」

 

鈍い音(気持ち的には呼び鈴の音)を響かせ先行した2人は股間を棒蹴りの要領で蹴り上げられた。悶絶しうずくまる2人。

 

「ぐあッッ!!」

 

最後の1人も左ストレートが鳩尾に命中し沈んだ。

 

「ったく、ザコの癖に何で自滅したがるんだか。さて…」

 

一瞬の出来事でポカンとしている2人の少女には目もくれず、垣根は立ち去ろうと歩き出した。

しかし、そこで鳩尾を殴られた男が激痛を堪えて何とか立ち上がり、カッとなってポケットに忍ばせた折り畳み式のナイフを取り出す。そして歩き始めた垣根帝督の後ろからナイフを突き出して走る。

 

「こんのぉ……クソガキがぁぁぁああああああッッ!!!!」

 

「あ…!危な…ッ!!」

 

すずかが叫ぶが、間に合わない。はやても思わず目を背けて顔を両手で覆った。

しかし、彼はクルリと振り向いて両手をポケットに入れたまま右足を振り上げる。

ドゴッ!!と右足の靴底が少年の顔に命中した。

 

「ごぐっッ!?」

 

反動で来た方向へ弾き返され、仰向けに倒れる。衝撃でナイフを手放してしまった。

 

「しつけーんだよ。通行の邪魔だから失せろっつってんだろうが」

 

垣根は倒れた少年の顔に、グシャッ!!と思い切り靴底を叩き付ける。

 

「がぁぁぁっ!!」

 

顔を踏みつけられ鼻血を垂れ流す不良少年。

垣根はグリグリと靴底を押し付けながら、冷え切った視線を向け小さく笑って告げる。

 

「死にたくなかったら二度とこの俺に楯突くな。つーか現れんな。次会ったら殺す」

 

「あ、ああ……あばばば……が…ぐ……が……!」

 

「返事は?はいかイエスかしかねえけど」

 

ゆっくりと靴を退かすと、顔の真ん前にピタリと止まって再び狙いを定めて、垣根はギロリと睨む。

意図的に提示した答え以外は認めない。認めていない返事をしたら、その顔を踏み潰すと暗に示している。

 

「あばば!?……は……ひ……!!ひひひはひやは…は…ひゃ。は……は……は、はい!!」

 

半ば泡を噴くように悲鳴を上げ、失禁し、ようやく返事を絞り出した。

その声を聞いてようやく彼は足を地面に下ろした。直後、不良少年は黒目をぐりんと上げて意識を手放した。

 

「ふん、くだらねえ三下風情が。弱い癖にイキッてんじゃねえよ」

 

ボコボコにされて気絶した不良少年達と、状況の変化に付いてこれず唖然呆然としている少女達を一瞥し、再び背を向けた。

 

「…あ、あの……、すみません!」

 

「…あ!あ…あの……ありが_」

 

月村すずかと八神はやてが歩き出した垣根帝督に声をかけたが、彼は最初から彼女達も眼中に無く、振り返りもせず無視してさっさと立ち去ってしまい姿が見えなくなってしまった。

残された2人の少女とボコボコにされぶっ倒れている4人の不良中学生。自分達に絡んできた迷惑な人達だったとはいえ、怪我人を放置して帰るという選択を2人はできなかった。

やむを得ず、すずかが携帯電話で119番通報をして救急車を呼び、彼等が搬送されるのを見届けてから2人は帰る事にした。

 

 

余談だが、この時お互いに全く意識していなかったが、月村すずかと八神はやてと、垣根帝督との初の邂逅となった。

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