魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter   作:戸礼太

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VS 未元物質(ダークマター)

とある管理世界の辺境。

 

守護騎士ヴォルケンリッターの将、シグナムが少々息を上げて立っていた。

彼女のすぐ脇には、魔力を有する巨大な現地生息の生物が複数倒されていた。

全て魔力の源のリンカーコアがシグナムによって奪われている。

 

「少々数が多かったな。大丈夫かレヴァンティン」

 

『Ja』

 

闇の書完成を目指して、守護騎士達は各地世界に散開して魔力蒐集活動に勤しんでいた。

彼女は別世界へ向かっている仲間へ通信を行う。

 

「シグナムだ……、こっちは済んだ。ヴィータ、ザフィーラ、そっちはどうだ?」

 

 

海鳴市内外で隠密行動しているヴィータが始めに答える。

 

「目下捜索中だよッ!忙しいんだからいちいち通信してくんなっ!」

 

『そうか』

 

更に別ポイントにいるザフィーラが反応した。

 

『捕獲対象はまだ見つかっていない。見つかり次第捕らえて糧とする』

 

「もう良いな!切るぞッ!」

 

元々、喜怒哀楽が激しい性格のヴィータの今の口調は、分かりやすく焦りと苛立ちを感じ取れた。

それを理解した上でシグナムは告げる。

 

「ああ…気を付けてな」

 

『分かってらッ!』

 

そう言い放つとブツッと通信を切った。

 

『ヴィータちゃん苛立ってるわね』

 

ゆったりとした柔らかい声が聞こえる。

ヴォルケンリッターの1人で後方支援担当のシャマルだ。

彼女は通信や治療といった補助技能に優れている。

 

「シャマルか。そっちはどうだ?」

 

『広域探査の最中。順調とは言えないけど、何とかやってるわ。状況が状況だから無理もないけど、ヴィータちゃん無理し過ぎないかしら……』

 

シャマルは探査を継続しながら、心配そうな表情になる。

 

「一途な情熱はあれの長所だ。焦りで自分を見失うほど子供でもない、きっと上手くやるさ」

 

『……そうね』

 

シグナムの言葉を聞いて気を取り直し、更に深く広く探査を続ける。

シャマルも今、別世界から戻ってきて海鳴市で広域探査を行っていた。

ダメ元に近かったが、たった今ヒットした。

 

『さ……、新しい捕獲候補を見付けたわ。ヴィータちゃんが近いわね。魔力は大きくないけど管理局の事もあるから、シグナムも一休みしたら向かってね』

 

「いや……、すぐに向かう。良いなレヴァンティン」

 

『Verstehen』

 

言って、シグナムも通信を切った。

 

シャマルは探査を続行しつつヴィータのサポート準備に取り掛かりながら、独り呟いた。

 

「さあ……今夜もきっと、忙しいわ」

 

探査の網にかかったターゲットの有する魔力は大きくない。

一般的な管理局の武装局員より若干小さいくらいだ。

しかし、油断はしない。もしかしたら管理局側が自分達を捕らえる為に仕掛けた撒き餌かもしれないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

夜の海鳴市、喧騒とした市街地。

 

魔力蒐集の対象を捕捉した鉄槌の騎士ヴィータは、平和な下界を睥睨し意を決して呟いた。

 

「やるぞ、グラーフアイゼン」

 

Einverstanden(了解)

 

彼女は愛機を振りかぶって構える。

グラーフアイゼンのコアが紅く輝き、正三角形状の魔方陣が展開する。

 

『封鎖領域』

 

瞬時に街一帯が巨大なピラミッド形の捕獲結界が展開され呑み込まれた。

街中の人々も自動車も、生物全てが姿を消す。

このヴィータによる結界は指定条件に適合するもののみを残し、それ以外の人間や動物を排除する仕様になっている。

元々ヴィータは『大型魔力反応の持ち主』のみを残すよう設定して発動していたが、今回はシャマルからもたらされた対象の魔力反応の情報を元に、下方修正を行っていた。

 

彼女は、結界内に取り残された人間を目視する。

両手をズボンのポケットに突っ込み、当てもなさそうにゴーストタウンと化した街中をほっつき歩く1人の男。

背格好からして、自分達の主と同年代の子供だろうか。

魔力反応の程度からすれば、魔導師としてのレベルは高くないだろう。この前の白ずくめや黒ずくめの少女達よりは御しやすいはずだが、前述の通り罠の可能性を念頭に置き、その上でヴィータは奇襲すべく動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Communications down(通信断絶)

 

左手で握ったカード状のものが展開するホログラムにはそう表示されていた。

これはクロノ・ハラオウンから借用している待機状態のストレージデバイス。

それを見ているのは、街中の歩道を歩く1人の男。

彼は歩きながらも『能力』を発動すべく、演算し周囲の目一杯に素粒子(ダークマター)を散布する。

自分を狙ってくるであろう敵をサーチする為に。

 

「思ったよりあっさり掛かったな。そんなに魔力蒐集に急いでいるのか、それとも餌だと分かってて来たのか、それか両方か……」

 

ストレージデバイスをポケットにしまいながら小さく呟く。

背後の夜空から一筋の赤い流星が迫る。だが彼は振り向かない。

対象の視界の外から放たれ、対象に向かって軌道修正しながら飛ぶ誘導射撃弾。

魔法による誘導弾は設定や種類によって、一定以上の速度で動くものを追尾するものや、熱量の高いものを追尾する等の条件を決めて発射する。

垣根に今放たれている誘導弾は、対象の魔力反応を追尾するタイプだった。

真っ赤に輝く誘導弾は無防備な少年の背中を捉えてまっすぐ進み、正確に着弾した。

 

ドゴォォォォンッッ!!!!

 

轟音を響かせ大爆発し黒煙と粉塵を撒き散らす。

 

「でやぁ!!」

 

黒煙の中心目掛けて、ヴィータはグラーフアイゼンを基本の『ハンマーフォルム』で振り下ろした。

 

しかし、

 

「ッ!?」

 

彼女の一撃はブワッと空を切っただけだった。

手応えが無い。文字通り空振り。

黒煙の中心地にいるはずの対象が消えている。

ヴィータは咄嗟に構え直しながら後退し、着地して周囲に目を走らせた。

 

(消えた!?やっぱ罠だったのか?ならヤツはどこに!?)

 

「後ろから不意打ちとはご挨拶だな」

 

「ッ!!」

 

幼さの残るアルトボイスがヴィータの鼓膜を震わせる。

煙が晴れると、その少し後方に紺色のカジュアルジャケットを纏った茶色い髪の少年が立っている。

 

無傷。

 

長めの前髪から覗く、人生の裏道を歩き続けた者にしか宿らない暗い眼光に、己に絶対的な自信を有しているかのような口元の薄い笑み。

自分に不意打ちを仕掛けてきた襲撃者が数メートル前にいながら、その両手はズボンのポケットに突っ込んだままだった。

 

(こいつ……あたしの弾が『当たる前に自分で爆発を巻き起こしてから後ろに飛び跳ねた』ってのか…?)

 

つまり、この男はヴィータの誘導弾が命中する直前で何らかの方法で爆発を引き起こして被弾のダメージを相殺しつつ、自身が起こした爆発からはノーダメージでいる。しかも舞い上がった黒煙と粉塵で目眩ましをしてその隙に後方へ回避していた。

ギリッと歯噛みして少年を鋭く睨み付ける。

 

(しかも魔法を使った感じがしねえ…。どーなってんだ?)

 

ストレージデバイスは待機状態でズボンのポケットにしまったまま。魔力反応はあるが魔法を行使している様子が見られない。

 

(…魔導師じゃない……?)

 

「おいどうしたよ。何黙って固まってんだ?チビ助」

 

余裕綽々の態度で悪態を吐いてきた。

管理外世界の、得体の知れない人間。

だが、それでも魔力を諦める訳にはいかない。

 

守りたいものがある。大切な人がいる。その為ならば…、

 

「誰がチビ助だ!……テートリヒ・シュラーク!!」

 

『武器への魔力付与による打撃力強化』がベルカ式魔法の基本形。

ヴィータはホバリングするように宙に浮き、赤髪の密編みをなびかせて回転し肉薄、得物を少年へ振り下ろす。

彼は突っ立ったまま避けようともせず薄く笑っている。

また爆発で相殺されるかカウンター攻撃を受ける可能性を考えて防御障壁を展開できるようにしつつ打撃を命中させた。

 

ドゴッッッッ!!!!!!

 

彼女の一撃を、避けようとも防ごうともせず受けた少年があっさりと後方へ吹き飛ばされる。

歩道に面したビルの中へと突っ込み、バキバキと内装を破る音が連続した。

しかしヴィータの顔には不快感しかない。 手応えを意図的に外された感触が得物を通して掌に残っている。

直前まで余裕そうな顔をしていただけに、今の攻撃が効いたかどうかも怪しい。

だがそれでも、彼女は追撃すべく次の一撃を仕掛ける。

 

「…っせぇい!!」

 

彼女は3つの鉄球を放り、ハンマーヘッドで叩いて飛ばす。

 

シュワルベフリーゲン。

 

打撃によって初速を得た高重量の鉄球弾は高い威力を誇り、追尾性能を持って少年のいるビルの内装へ吸い込まれる。

 

ドドドッッッ!!!!!!

 

突き破られたビルの穴からもうもうと粉塵が舞う。

しかし悲鳴も何も聞こえてこない。

 

「…逃げられたか?」

 

しかし、脱出したなら他の位置に新たな穴が空いているはずだし、転移魔法か何かで姿を消したなら魔力反応も消えているはずだ。

つまり、攻撃を受けた彼は確かにそこにいる。

 

「ったく、痛ってえじゃねえか」

 

爆弾テロにでも遭ったようなボロボロのビルの内部から、そんな声が聞こえてきた。

 

「チッ…やっぱ効いてねえ……ッ!」

 

聞こえてくる声色には緊張感も呼吸の乱れも感じない、平淡で呑気な声。きっとロクにダメージも受けていない。

一体どうやって無事でいるのか訳が分からない。

 

「今俺に打ってきたのは魔力弾じゃなくて鉄球か。なるほどなるほど、鉄球をそのハンマーで魔力を付与して打ち出したって訳か」

 

やはり無傷。

 

ビルから歩いて出てきた少年の全身を、白い繭のようなものが包んでいた。

いや違う。

ひとりでに、ギチリと奇妙な音を立てて広がったそれらは、翼だ。

天使のような長さ2メートルほどの6枚の白い翼が、夜の街中で神秘的な光をたたえて彼の背でゆったりと羽ばたく。

 

(翼!?何なんだあれ!?どうなってんだ!!!?)

 

まるで異世界から直接引きずり出したかのような白い翼を見て、驚愕に染まり、着地して凍りつくヴィータ。

翼を生やしたまま立ち尽くす、ガラの悪そうな少年は何故か何もしてこない。

両手をズボンのポケットに入れ、相変わらず薄い冷笑を浮かべたまま、ヴィータを見ている。

まるで、次のこちらの攻撃を待っているかのようだ。

 

(ッッッッ!!舐めやがってぇッッ!!!!)

 

馬鹿にしている。

そうとしか思えなかったヴィータの頭が沸騰し、顔が憤怒に染まる。

追撃すべく2個の鉄球を左手の指に挟み、更に彼に向かって悪態を吐く。

 

「ケッ!似合わねーな!その翼!!」

 

だが少年はニヤリと笑って返事する。

 

「よく言われる。それに自覚はある」

 

2人は言葉を交わし、ここでようやく動き出した。

 

「ンのヤローッ!!」

 

「はん」

 

飛行魔法を駆使して再び宙に浮き、突進するヴィータに対し、白い翼で空気を叩いた少年……垣根帝督は真横へ飛んだ。

一息で歩道から車道へ飛び出し着地した垣根を目掛けて、接近しながら2発の鉄球を放つヴィータ。

 

ズザァッ!!

 

勢い良く翼が羽ばたき、無数の羽が翼から散って舞い上がる。

巻き起こった烈風が向かってくるヴィータと鉄球のスピードを殺し動きが一瞬止まる。

 

「クッ!!」

 

彼はその隙を見逃さず、再び翼をしならせて放つ。

 

ズァァッ!! ガギン!!

 

翼の羽ばたきで烈風が吹き荒れ、同時にシュワルベフリーゲンの鉄球2発に翼が叩き付けられ物凄い勢いで打ち返された。

砲弾と化した空気の塊と鉄球が、空中のヴィータを撃ち落とそうとする。

 

「クッ!!!!」

 

烈風を紙一重でかわし、鉄球を咄嗟に展開した魔方陣形の防御障壁で防ぐ。

 

ドンッ!! ガガン!!

 

標的から外れた烈風がヴィータの背後の高層ビルに当たって窓ガラスを粉々に砕いて粉塵を撒き散らし、防御障壁に当たった鉄球が甲高い音を響かせた。

 

「クソが……ッ!?」

 

彼の方へ向き直ると、道路に立っていたはずの垣根帝督は6枚の翼を広げていつの間にか上空へ舞い上がっていた。

といっても鳥のように常にバタバタと羽を動かして空気を叩いている訳ではない。

飛行魔法を使っている訳でもないのに、まるで重力を無視しているかのように宙に浮き、君臨している。

 

(この野郎…どんなカラクリか知らねーが、叩き落としてやる!!)

 

さっきと同じように用心しつつ、グラーフアイゼンを構えて突進する。

 

「よお」

 

垣根が接近してくるヴィータに声を掛けた。が、彼女は無視して叩き落とそうとグラーフアイゼンを振り上げた。

そんな彼女に向かって彼は、月を背にして翼を広げて、告げる。

 

「今日は月が…綺麗だな!」

 

垣根が言った途端に、彼の白い翼が、ゴバッ!! と凄まじい光を発した。

 

「熱…ッ!?」

 

不意に目映い光に全身を照らされ、ジリジリと焼けるような痛みを感じたヴィータは思わず垣根から距離を取り、それから事態の異常さに気づいた。

自分の体を見回すと、帽子とグローブやスカートの裾からうっすら煙が出ている。

愛用の帽子をも焦がされ、ヴィータは激怒した。

 

「今の何だ!?光線!?……テメェ、一体何したんだ!!!!」

 

しかし怒鳴られた垣根は嘲笑っている。

 

「さてね、自分で考えてみな。まあ仮に種明かしした所でテメェの脳味噌で理解できるかどうか」

 

「馬鹿に…しやがってッ!!!!」

 

コケにされ激怒し、グラーフアイゼンを振りかぶって再び、垣根帝督を叩き落とそうと今度は真横から肉薄する。

しかし垣根も6枚の翼を器用に動かして避けながら後退し、空振りさせ、その間に距離を取って再び翼に力を込めて烈風を放つ。

 

ズァ!!

 

だがヴィータも飛行しながら烈風をかわして再び近付き殴り掛かる。またそれもかわされ、堂々巡りになりながら猛スピードで縦横無尽に市街地の上空を駆け抜けて行く。

 

「魔力も大して無い、魔法も使ってないっぽい。なのにダメージを殺したり、その翼で守ったり飛んだり変な光出したり。テメェ一体何モンなんだ!!」

 

「ハッ。だから言ってんだろうが、種明かしした所でテメェにゃ理解できねえってな」

 

「馬鹿にすんなぁああああああッッ!!」

 

更に加速し、ありったけの力を込めて突撃するも、またもや易々とかわされる。

垣根は笑いながら翼を構える。

 

「まあでも、特別に少しだけ教えてやる。…確かに、俺の能力(チカラ)は魔法じゃねえ。それに俺は魔法使いじゃねえしそもそも魔法が使えねえ」

 

「ッ!!」

 

だが、と彼は呟いて、

 

「それ以上は教えてやる義理はねえな。どうしても知りたきゃ、この俺をブッ倒して無理矢理にでも聞き出してみろ」

 

「この野郎!!だったらお望み通りブッ倒して、魔力ぶん取ってから聞き出してやる!!」

 

ギュンッ!!

 

6枚の翼の内1枚が伸びてヴィータの急所を狙うが、咄嗟に防御障壁で阻む。

 

ドカッ!!

 

攻撃を防がれたにもかかわらず、垣根は笑ったまま。

ヴィータはそんな彼を忌々しそうに睨みつつも、次の一手に出る。

 

「グラーフアイゼン!ロード…カートリッジ!!」

 

『Explosion』

 

彼女はデバイスを上に掲げる。

グラーフアイゼンはバシュッと蒸気を噴出して、変形し始めた。

 

『Raketenform』

 

片方のハンマーヘッドから大きなトゲが出てきて、反対側は3基のバーニアに変化した。

 

「ラケーテン…!ハンマー!!!!」

 

轟音を響かせ、ハンマーがロケットのように一気に突っ込んできた。

 

「でえぇっ!!」

 

「ははっ!面白い。こっちからすりゃまだまだ小手調べみたいなもんなんだ、もっとテメェの実力見せてみろよ!」

 

上昇と下降、左右に急旋回を繰り返して空中を恐ろしい速度でぶつかり合う2人の小柄な男女。

2人が通過した空中には噴射炎の煙と羽ばたいた翼から散った無数の羽がヒラヒラと舞っていた。

 

「俺が負けたら俺の魔力をくれてやるし、このスキルの種明かしをしてやる。だがテメェが負けたら『テメェ等』の事を詳しく聞かせてもらおうか。それでもし、もっと楽しい仲間を呼ぶべきだと判断したら、テメェは解放してやる。ただし半殺しにしてな!!」

 

「ハッ!テメェこそできるもんならやってみろよ!!このクソ野郎が!!」

 

ヴィータは垣根の懐に勢い良く飛び込んでハンマーヘッドを突き刺すが、彼は翼を使って身を守った。

翼に突き刺さると同時、自らの翼の1枚を無数の羽に変換しばら撒く事で、衝撃が自分自身の体へ伝わるのを阻害する。

しかし複数回被弾し、その度に防御で翼を消耗し、ついに6枚全ての翼を喪失した時点でヴィータは、一瞬でも隙ができたと見て再び急接近し彼を叩き落とそうとする。

しかし、

ゴウッ!! という風の唸りと共に、垣根帝督の背中から再び6枚の翼が生えた。

 

「チィッ!でえぇっ…!やあッ!!」

 

右側3枚の翼で再度迫るラケーテンハンマーから身を守るも、衝撃吸収をし損なってまともにショックを受け、ドォン!! と地面に墜落した。

いや、バランスまでは崩れず足から着地している。

それを上空から確認したヴィータは回転を維持しながら急降下して、隙ありだと目映い噴射炎を吹かして叩き付けた。

 

ラケーテンハンマーは、ラケーテンフォルムから放たれる推進加速打撃。

機体後部から噴射される推進剤によって、ヴィータ自身の飛翔速度も上昇する。

回転の遠心力によって打撃力向上、攻撃命中後も連続噴射によって対象を破壊する事が可能。

垣根帝督は6枚の翼全てでラケーテンハンマーを迎え撃った。

 

「ハッ、上等!」

 

「ブチ抜けえッ!!」

 

『Jawhol.』

 

ガギィンッ!!!!

 

フルパワーで噴射し更に翼へハンマーヘッドが深々と突き刺さる。

防御を突き破られる気配は無い。しかし、

 

ズ…ズズ…、と少しずつ彼の足が押され始めた。

 

ここに来て初めて、垣根の表情が変化する。

怪訝な顔になっていた。

 

(威力を殺し切れてないだと…?)

 

衝撃と圧力でビリビリと震える白い翼。

このままだといずれ、確実に押し負ける。

 

(射撃型の高町が押し負けたのも頷けるな。確かにこりゃ強い。中、近距離の戦闘センス。強力な衝撃に追撃力、質量に圧力と……。並の能力者なら簡単に殺れるな。学園都市なら最低でも大能力者(レベル4)か、もしかしたら超能力者(レベル5)の格付けされても不思議じゃねえな)

 

学園都市の高位能力者でも、同じプロの魔導師でも、彼女に打ち勝つ事は普通は困難だろう。

 

だが、

 

「…俺にその常識は通用しねえ」

 

バギンッ!!

 

「くうッ!!?」

 

彼の体を包むように重なっていた翼が突如広がり、突き刺さって圧していたラケーテンハンマーとヴィータを力ずくで無理矢理突き飛ばす。

威力を殺し切れないまま相手を押し返した為、反動で足を踏ん張り切れず自分と相手の両方とも後方へ弾き飛ばされる形になり、10メートルほどの距離の位置に同時に着地した。

グラーフアイゼンからバシュウッ!という蒸気音と同時に薬莢が3つ排出され、地面に落ちた使用済みカートリッジの薬莢がチャリチャリと甲高い音を立てる。

封絶型の捕獲結界の中で再び対峙する2人。

軽くフウッと息を吐くヴィータと、6枚の翼をゆったりと羽ばたかせ、相変わらず両手をズボンのポケットに入れて呼吸一つ乱れていない垣根帝督。ただし、今は冷笑を浮かべていない。

垣根が先に口を開いた。

 

「なるほどな」

 

「ああ?」

 

「大したもんだ、高町(あいつ)がコテンパンに負けたのも納得だな。この俺が初めて押し切られそうになったよ」

 

「はん!そいつァどーも!」

 

嬉しくねーけど、と呟きながらグラーフアイゼンを担いで再びキッと睨み付ける。

ヴィータからすれば、垣根の終始不遜な態度が気に食わない。

そこで、突然ヴィータのそばに剣を構えた女、続いて薄緑色の服装の女性と筋骨隆々の男が、どこからともなく現れた。

 

「シグナム…それにシャマルとザフィーラまで」

 

守護騎士達が勢揃いし、ヴィータは内心驚くも静かに言った。

 

「増援…全員手練れで4対1か。流石に分が悪いかな?」

 

垣根帝督はそう呟いたが、やはり声にも態度にも緊迫感は無い。

これだけの状況でも、これだけの脅威に独りで晒されても、少なくとも『負けない』『魔力をみすみす取られない』だけの自信はあるようだ。

先にアクションを起こしたのは守護騎士達の方だった。

不意に垣根の周りの、四方八方から緑色の発光する糸が現れ、彼の体に絡み付いて拘束する。

 

「お?何だこれ?バインドみてえなもんか?」

 

シャマルによる捕獲魔法、『戒めの糸』。

彼女の補助型デバイス、クラールヴィントから伸ばしたワイヤーで対象を絡め取り、動きを止める。

糸に切断効果を持たせて対象を殺傷する事も可能だが、シャマルはその機能は使わず、捕獲用のみに留めている。

垣根帝督を拘束し、蜘蛛の糸のように張り巡らした糸を操りながら、シャマルは真剣な眼差しを彼に向けて告げる。

 

「ごめんなさいね。ちょっとだけ、じっとしてて」

 

そのセリフを聞いて、垣根は展開していた背中の翼を消し、思わず小さく笑った。もちろん大人しく降参した訳ではない。

一見有利な状況とはいえ、この女含めて全員、多少の差はありつつも敵愾心を向けてきてはいるが、悪意や殺意の類いは皆無。

そういうものを肌で知っている彼には理解できた。

彼女達からはそういうものを全く感じない。何なら敵を気遣ってすらいる。

どのような理由や事情を抱えているのかは知らないが、その優しさや甘さに思わず笑えてきてしまった。

あくまで第一印象だが、ある意味でこの者達は、高町なのはやフェイト・テスタロッサに負けず劣らず善良なのかもしれない。

垣根帝督以外、悪党らしい悪党が見当たらない。

故に呆れ混じりに笑って、彼女達に告げる。

 

「俺にそういう気遣い(・・・・・・・)は不要だよ。アンタ等が『前に襲った』ヤツ等と違って、……俺は外道のクソ野郎だからな」

 

少年の雰囲気が、次第に変わる。

 

「それにベルカ式魔法、確かに色々構造や計算式に差異はあるが、魔法としての基礎は同じと見て良い。実体的な攻撃が多い分、分かりやすい所もあるしな」

 

「…一体何を言って_?」

 

得体の知れない少年が向けてきたのは、

10歳にも満たない幼い子供とは思えない、裏社会を生きてきた人間にしか宿る事の無い、暗い眼光。

 

「「「「ッ!!」」」」

 

殺意と悪意を織り混ぜた敵意を感じ、全員が臨戦態勢となる。

彼はそんな彼女達に構わず、続いて言う。

 

「_逆算、終わるぞ」

 

言葉と同時に、

 

ゴァッ!!

 

と垣根の中心から正体不明の爆発が巻き起こる。

それは彼を拘束する『戒めの糸』を粉々に破壊し、周囲にも無差別に衝撃波を撒き散らした。付近の街路樹や街灯をもぎ取り最寄りのビルや地面に突き刺さっていきガラスの破片やアスファルトの破片が舞い散った。

守護騎士達は瞬時に回避しつつシャマルとザフィーラが正面に展開した防御障壁で彼の攻撃を防いだ。

 

「ごめんなさい、拘束を解かれてしまったわ」

 

シャマルは糸が切られた、というより砕かれたような風に破壊され、指先に奇妙な違和感を覚えていた。

 

「いや構わない。あの力、やはり魔法ではない…?魔導師ではないのか?」

 

シグナムの疑問にヴィータが答える。

 

「ああ、自分で言ってたぜ。『魔法じゃねえし、魔導師でもねえし魔法が使えない』ってな」

 

ザフィーラがシャマルの直衛に入りながら怪訝そうに言う。

 

「ならばアレは一体何なのだ?それに、あの子供の目、とても年端も行かぬ子供の目をしていない。何者なのだ?」

 

「分かんねえ……あいつ自身もあいつが振るってるチカラも……。分かったのは、魔法じゃねえ事と得体の知れない翼で攻撃も防御も飛行もできる。さっきまで戦ってみて、あたしの攻撃を散々受けてもケロッとしてるほど、殆ど得体の知れねえチカラって事くらいだ。満足にダメージ受けてんのかも怪しい…」

 

忌々しそうに言うヴィータを見て、シグナムは意外そうな顔をした。

 

「ほう?お前の攻撃を受けてか。ならば、次はこの私が相手しよう」

 

「気を付けろよ、本当に何してくるか分かんねーから!あいつただのガキじゃねえ、いや絶対マトモじゃねぇ!平気で何人も殺ってきた悪党みてえな目ェしてやがる!」

 

「ああ、目を見れば分かる。案ずるな。1対1でベルカの騎士に負けはない。しかし…主と変わらぬ歳のようだが、一体どんな人生を送ってきたのか…」

 

全員が飛行し距離を取りながら、シグナムはレヴァンティンを基本形の剣型、シュベルトフォルムで構え、煙を突き破って6枚の翼を羽ばたかせた垣根帝督へ白兵戦を仕掛ける。

シャマルは後方支援に。ザフィーラは彼女の直衛に。ヴィータはシグナムの後衛を担う事にした。といっても、シグナムの邪魔をしないだけ程度の事だが。

ヴィータの時と同様に、垣根帝督は6枚の翼を弓のようにしならせて一気に放った。

 

ザァッ!!

 

シグナムは烈風という砲弾を易々とかわすと、一気に彼の目の前にまで迫り斬りかかった。

 

ガギィンッ!!

 

垣根は翼で斬撃を受け止めた。

そしてバシッ!!と弾き飛ばす。

シグナムと垣根は互いに横へ飛び、相手の出方を窺う。

 

(打撃や剣撃を受け止める翼……。ただの翼ではない。いや…そもそも翼なのか…?)

 

斬り合った時にレヴァンティンを通して伝わった、今まで感じた事の無い奇妙な感覚、感触が、奇妙な違和感を彼女に与えた。

そう、例えるならまさに、この世のものとは思えない不気味さ。

一方、垣根は再び烈風を放つ。今度はより一層強烈になり変質させた衝撃波に近い一撃。

しかし彼女は剣を横凪ぎに振って、文字通り切り裂いた。

 

(斬っただと?)

 

しかし彼の攻撃はそれで終わらず、振るわれた翼が一斉に伸びてシグナムの急所6ヶ所を狙う。

彼女は航空剣技で対応する。

航空剣技とは、主にベルカの騎士による空中での近接武器打撃戦の総称。

地上での剣技とは異なる、三次元的な立ち回りが必要。

 

シグナムは剣技で翼3枚をいなし、2枚は鞘で受け流して最後の1枚は、パンツァーシルトという攻撃を弾いて逸らすシールド系防御魔法で翼を弾いて逸らした。

 

(俺の翼を弾きやがった)

 

空中で恐ろしい速度でぶつかり合い、白兵戦を演じながらシグナムは言う。

 

「貴様の事は、先ほどヴィータから聞いた。それに、貴様はどうやら私達に何か疑問を抱いているようだが、いらぬ心配だ。我等は手加減等の悠長な事をされるほど弱くはない。それにその資格も無いだろう」

 

(手を抜いたつもりは、無いんだがな…っ)

 

彼は胸中で小さく呟く。

再び6枚の翼を構えた垣根帝督と、剣と鞘を構えたシグナムは空中で激突しながら縦横無尽に飛び回り、猛スピードで街中を駆け抜けてゆく。

 

『Schlange,beissen.』

 

剣を一度鞘に収め、再び一気に抜く。

シュランゲバイセン。

放たれたレヴァンティンの第2形態、連結刃シュランゲフォルムから繰り出す攻撃。

翼を振り回しながら飛翔する垣根を包囲するように、伸ばした刀身を広げて動きを阻害しながら、高速飛翔する切っ先によって攻撃する。

 

『Angriff』

 

垣根は6枚の翼を上下左右に振り回して、連結刃を駆逐しようとする。

 

「そんな攻撃!」

 

数十メートルにまで一気に翼を伸ばして連結剣を叩き、弾き飛ばした次の瞬間、シグナムが垣根の目の前まで肉薄していた。

 

(速いッ)

 

伸ばして巨大化した翼で空気を叩き、間合いを取るべく後退し翼のサイズを2メートル程度まで戻す。

そんな彼へ再び突進し斬りかかっているシグナムに、6枚の翼の内1枚を伸ばして構え、彼女の剣と鍔迫り合いをする。

レヴァンティンと白い翼がギリギリと音を響かせ火花を散らす。

 

(こいつ…あの赤いチビよりずっと速いし強いじゃねえか)

 

「これも受け止めたか。つくづく不思議な羽だな」

 

毅然と垣根を睨み、一気に打って出る。

 

「レヴァンティン」

 

『Explosion!』

 

カートリッジをロードし薬莢が排出される。

 

「紫電…」

 

瞬間、レヴァンティンの刀身が炎に包まれた。

 

「一閃!!」

 

「ッ!!」

 

横凪ぎに振るわれた炎を纏う剣撃は、垣根帝督の体を正確に捉える。

シグナムの剣撃『紫電一閃』は、彼女が保有する『炎熱変換』を生かして自身の魔力と炎を宿した一撃を放つ。

防御側は斬撃の威力だけでなく、接触時に超高温になる刀身にも対処せねばならなくなる。

 

「ハッ、上等!!」

 

しかし垣根も6枚の白い翼にありったけの力を込めてシグナムへ差し向けた。

 

そして激突。

 

空気が爆発し、数秒遅れて、ズバァ!!という爆音が鳴り響く。

両者の中間で波と波が激突し、炸裂し、爆発した。

衝撃波と空気の津波が周囲の建造物の窓ガラスを粉々に叩き割り、轟音が響く中ギシギシと揺れている。

シグナムは炎を突破してきた翼に騎士服の肩口や裾を切り裂かれ、

 

「がはっ」

 

垣根は超高温の強烈な斬撃を、至近距離でまともに食らって弾き飛ばされ、近くのビルに激突し奥の奥へ叩き込まれた。

『炎熱の斬撃魔法』と『未元物質(ダークマター)』の激突で街並みはメチャクチャになり、 高層ビルの窓ガラスが砕け、信号機はへし折れて歩道に倒れかかり、街路樹や街灯が根元から吹き飛んでコンクリートの壁に突き刺さっていた。

 

「ふむ…やったか……?」

 

しかし、

 

ゴッッッッ!!!!!! と。

 

垣根帝督が叩き込まれたビルが、彼が突っ込んだ階より上から丸ごと中から粉々に爆砕し、大量の瓦礫や粉塵の雨をシグナムに浴びせる。

 

「ッ!!小賢しいな…!」

 

彼女は炎を纏った分、長大化した剣撃で瓦礫を焼き斬り粉塵を吹き飛ばした。

粉塵が晴れると、垣根帝督が立っている。

服が所々薄汚れ、顔や茶色い髪もうっすらと煤汚れている。

しかし、不思議と怪我も火傷も全く負っていなかった。

彼の背には、6枚の翼。

 

「ほう、驚いたな。これだけの攻撃を受けて、傷一つ無しか……」

 

「1発もらって確信が持てた。フェイト(あいつ)が負けたのも納得だな」

 

鋭い視線を互いに向ける。

 

「ヴォルケンリッターが将、シグナムだ。お前は?」

 

彼は意外そうな顔をして、フッと小さく笑った。

 

「まさか、ここで自己紹介されて名前を聞かれるとはな。良いだろう敢闘賞だ、名乗ってやる。…俺は『未元物質(ダークマター)』を操る学園都市第二位の超能力者(レベル5)、垣根帝督だ」

 

「垣根か…。こんな状況でなければ、心踊る戦いだったかもしれないが……」

 

シグナムは居合い抜きのような構えになる。

垣根は6枚の翼を広げる。

 

「今はそうも言ってられん。貴様のような手練れ相手では、殺さずに済ませる自信は無い。この身の未熟を許してくれるか?」

 

「ハッ。そいつはこの俺に掠り傷の一つでも付けさせてから言え」

 

互いに軽口を叩いて再び上空へ舞い上がる。

 

「敵にそんな寝言ほざく暇があるんなら、テメェ自身の心配でもしてるんだな。…それに、もう遊びは終わりだ」

 

彼の殺意が膨張する。

シグナムは相手の意図を掴もうと正面を睨み付けると、垣根は薄く笑っていた。

 

「テメェの魔法とその変換資質も、もう逆算終わってんだよ」

 

「ッ!!」

 

ザァッ!!

 

何かを察して初めて回避に移ろうとした時、既に6枚の内1枚の翼は放たれていた。

今度は単なる撲殺用の鈍器として。

避け切れないと判断した彼女は再びパンツァーシルトを展開しレヴァンティンと合わせて受け止めようとした。

 

が、

 

ゴンッ!!!!

 

という鈍い音がシグナムの体内で炸裂する。

白い翼がパンツァーシルトを無視して(・・・・・・・・・・・・・)シグナムの体に命中。

バランスを崩した彼女の体が勢い良く吹き飛ばされ、上空から一気に地面へ叩き付けられた。

 

「がッ!!!!!?」

(障壁が効いていない!?いや、効かないというよりすり抜けた、のか!?)

 

咄嗟に墜落する直前に防御魔法の応用した事と、騎士服の恩恵でダメージの軽減に成功しすぐに立ち上がり、翼が槍のように次々と音も無く伸びてシグナムを貫こうと迫る。

 

「クッ!!」

 

紙一重でかわす。

避けられた翼は、

 

カッ!!

 

と近くの街路樹を、巨大なナイフのように綺麗に斬り倒した。

その後20メートル以上に達した翼は巨大な剣のように見え、垂直に構えられた彼の翼は、まるで塔が崩れるようにシグナムへ振り下ろされた。

ギリギリでそれもかわすと、翼は周囲のビルを一気に切り刻んで粉塵を撒き散らす。

 

「…ッ!!」

 

再度、空中を高速移動しながら対峙するシグナムと垣根帝督。

槍のようにランダムに次々と突き出される6枚の白い翼に、シグナムはレヴァンティンと鞘で突き出されてくる翼と白兵戦をしつつも押され始めてきた。

 

「おら、殺さずに済ませる自信は無いんじゃねえのかよ?」

 

ズザァッ!!

 

風切り音を響かせて、垣根帝督が挑発してくる。

 

「クッ!!」

 

シグナムは防御障壁が何らかの理由で無力化された事を悟り、剣圧を素早く飛ばす『空牙』をぶつけ、急所を狙う翼の軌道を逸らす。

そしてその間にカートリッジをロードし、刀身に再び炎が纏う。

 

「飛竜一閃!!」

 

垣根帝督目掛けて、剣に溜めた炎を叩き込む。

 

「無駄だ!」

 

6枚の翼が思い切り羽ばたく。

シグナムの強力な炎が垣根の白い翼をもぎ取り、垣根の白い翼が烈風を伴ってシグナムの炎を吹き消した。

ベルカ式魔法と超能力(レベル5)の激突で爆煙が巻き起こり、両者の視界を奪う。

 

「ッ!?」

 

爆煙を突き破って、シグナムへ6枚の翼が伸びてきた。

彼女の頭と心臓、両手足へ照準が正確に定められ迫ってくる。

悪意を宿した槍が、殺意に尖る先端が、6ヶ所の標的へと殺到していく。

 

『Schwalbe fliegen Claymore!』

 

「おおおおおっ!!」

 

ヴィータが横槍を入れる。

 

ドゴォォォォォンッッ!!

 

シグナムを貫こうとした翼の先端に中型サイズの鉄球が命中し、炸裂して羽の軌道を逸らし彼女に当たるのを阻止した。

 

シュワルベフリーゲン・クレイモア。

 

シュワルベフリーゲンの応用形で、中型サイズの鉄球を使用し命中時に鉄球を爆砕させる事で広範囲を破壊する。

ヴィータがシグナムを援護した直後、彼女が叫ぶ。

 

「シグナム!何してやがる!!」

 

「ああ…すまない」

 

いつの間にか、空中に浮く垣根帝督の背後に位置するビルの屋上には、シャマルが立っている。

彼女の前にはザフィーラが構えている。

シャマルは垣根のリンカーコア摘出をしようと魔法を発動するが、

 

「チマチマやってても仕方ねえか……!」

 

手を伸ばす直前にクルリと垣根が彼女達の方を振り向いた。

 

「「ッ!!」」

 

(あの女が参謀役か)

 

彼女達の方へ左手をかざし、くんっと軽く振り下ろす。

 

「潰れろ」

 

ズンッ!!

 

突然シャマルとザフィーラの立つ半径10メートルの円形に、地面に押し付けられるような感覚に襲われる。

 

「わっ!わっ!何これ!?この踏み潰されそうな感じ!?」

 

「ぬぅぅぅぅッ!!」

 

何が起きたのか分からず、混乱し膝間付く2人。

 

「不意打ちで魔力引っこ抜かれちゃ堪んねえしな。先にテメェからブチ殺_」

 

「させっかよ!!」

 

「やらせん!!」

 

ヴィータとシグナムが同時に打撃と斬撃を垣根帝督に向ける。

 

「_チッ」

 

それをギリギリで避けるも、シャマルとザフィーラから遠ざけられた。

 

〈シャマル、この隙に!〉

 

〈ええ!〉

 

シャマルはやむ得ずリンカーコア摘出を中止し、捕獲結界の外に転移して後方支援の体制に戻る。

結界外部から『遠見の水鏡』によって戦況全体を把握、現場に指示を出す。

これにより、シグナム達は最大効率で任務を行う事が可能となる。

故にここでシャマルをやらせる訳にはいかない。

戦闘にザフィーラも加わりたちまち乱戦状態になった。

シャマルがこの時、管理局側に察知された事に気付いた。

 

「局の増援…?武装隊員に結界魔導師がたくさん…」

 

こちらに向かってくる局員の中には、執務官のクロノ・ハラオウンの姿があった。

シャマルの表情が曇り、戦略的にも不利を悟る。

 

〈包囲が早いわ。このままじゃすぐ詰められちゃう。皆、撤退の準備を〉

 

彼女は仲間のヴォルケンリッター全員に念話で指示を出す。

 

「やむを得んか…」

 

「心得た」

 

「ちっ…」

 

〈結界内に閃光弾を出すわ。その隙に…〉

 

言って、彼女の魔方陣が大幅に拡大する。

結界の中央にライムグリーンの強烈な光が輝く。

 

「あん?何だ?」

 

垣根帝督が怪訝な顔をする。

 

「すまん、この勝負は預けた」

 

シグナムが垣根から離れる。

ヴィータも同じく離れながら告げる。

 

「ヴォルケンリッター、鉄槌の騎士ヴィータだ!今回は魔力は諦めてやる。だから今は邪魔すんじゃねー!」

 

2人は撤退をし始める。

 

「テメェ、逃がすかよ!」

 

ブォ!!

 

彼は2人に向かって串刺しにするつもりで翼を伸ばし、差し向けるが、

 

「クラール・ゲホイル」

 

シャマルが左腕を上にかざして魔法を発動する。

その瞬間、結界内を強烈な光と音が覆い尽くす。

 

「クッ!この野郎…ッ!」

 

虚を突かれ、垣根は敵を見失い結界の消滅を感じ取り、やむ得ず最寄りのビルの屋上に着地した。

クラール・ゲホイルは、シャマルが使用する閃光炸裂弾。

激しい光と音によって対象の視覚や聴覚を無力化し、索敵阻害能力によって探索・追跡を阻害する。

 

「チッ、音響兵器みたいなマネを…。取り逃がしたか」

 

既に結界は消え、ヴォルケンリッター全員の姿も見えなくなっていた。

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