魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter   作:戸礼太

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新たなる力の起動と、再戦

八神はやては、小学3年生相当の女の子。

学校は休学中。

現在は古代遺産(ロストロギア)『闇の書』と、その守護騎士達の主人である。

はやてのスライド式の携帯電話がピピピッと着信音を鳴らす。

 

「ん…?」

 

友人の月村すずかからのメールだった。

 

「すずかちゃんやー♡ 時間通りに、到着予定…と♪皆もおったらええねんけどなー」

 

最近は彼女の騎士達は色々忙しい様子。

リーダーのシグナムは、近所の剣道場で非常勤の講師。

末っ子のヴィータは、近所の老人会のゲートボールチームに入れてもらって、そこのおじいさんおばあさんの人気者。

シャマルはご近所の奥様方との交流とか皆のお買い物とか。

ザフィーラは大抵、3人の誰かと一緒。

 

「まあ、皆それぞれやりたい事があるんはえー事やな。皆がウチに来たばっかの頃は、ほんまにずーっと一緒やったんやけどなー」

 

この街に馴染んで溶け込んでいる事を、嬉しく思う一方で一抹の寂しさは感じていた。

 

「まー、しゃーないんかな」

 

その後、すずかがケーキを持参して訪問してきた。

駅前商店街の翠屋(みどりや)で、すずかの友達の両親が開いていて、皆大ファンとの事。

すずかははやての事を友達に紹介したがっているのだが、中々タイミングが合わなくて残念がっていた。

ティーブレイクしながら談笑する。

 

はやては思う。

月村すずかは、凄く優しい。

基本的にはどう見ても怪しい我が家の家族構成の事も、はやての車椅子やその理由の事も。

出会ってから今まで、一言も聞かない。

しかし、自分が話したらきっと静かに聞いてくれて、全部受け入れて笑ってくれる。

 

「…何やろなー、そんな気がするんよ」

 

「?」

 

「あ、あはは何でも~。お茶のおかわりどーやー?」

 

考えていた事が口に出ていた。

慌てて手を振り、誤魔化す。

その後しばらくして、ヴィータとシャマルが帰宅。

シャマルとはやてが夕食の準備に取り掛かり、しばらくすずかはヴィータと雑談した後、晩御飯に誘われるもお稽古を理由に辞退しお暇した。

数時間後、シグナムが帰宅。

 

「ただいま戻りました」

 

「あ、シグナム帰ってきたー」

 

家族が揃い、夕食を囲む。

彼女は準備しながら、静かに思う。

 

(わたしは闇の書のマスターやから、守護騎士一同の衣食住、きっちり面倒見なあかん。皆の笑顔がわたしの宝物。こんな時がどうか、少しでも長く続きますよう……)

 

食事に手をつけたシグナムとヴィータが、一瞬固まる。

僅かに表情が青い。

 

「この微妙な味付けは…シャマルだな」

 

「え?ええっ!?」

 

「シャマルはもーちょいお料理精進せなあかんなー」

 

 

 

次元の海に浮かぶ巨大コロニー「時空管理局本局」にて。

 

「ありがとうございました」

 

そう言って、医務室から出てきたのは高町なのは。

彼女は先日まで、魔力蒐集の被害を受けて魔法の行使が困難になっていたのだが、

 

「なのはー!」

 

「検査結果、どうだった?」

 

なのはの元に、ユーノ・スクライア、フェイト・テスタロッサ、アルフが駆け寄る。

彼女はニッコリと柔和に微笑んで、グッと右手を上げて嬉しそうに告げる。

 

「無事、完治!」

 

「こっちも、完治だって」

 

フェイトは言って、修理完了したバルディッシュを見せ、ユーノもレイジングハートを手にしている。

嬉しくなって笑い合う4人の背後から、陽気な声が飛んでくる。

 

「…次元の海という特殊空間のど真ん中に、時空管理局の本局という巨大なコロニーが浮かんでるってか。いやースゲェなここ。地球からすりゃあ全部オーバーテクノロジーの塊だよな。あっちこっち目移りして、いくらでも探検してたいぐらいだ」

 

なのはがそちらへ振り返ると、そこに、モスグリーン色のジーンズに黒いトレーナーを纏った目に掛かるほどの茶色い髪の少年が、おのぼりさんよろしくキョロキョロと辺りを見回しながら歩いて来た。

見覚えのある端正な顔立ちに鋭い眼光。

両手をよくズボンのポケットに突っ込んでいる見覚えのある仕草。

 

「あ…あ……ッ!?」

 

なのはは思わず口を半開きにして固まった。

彼女は彼に、実に半年以上に会う事になる。

学園都市の能力者、垣根帝督。

 

「あああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!?」

 

思わず指を差して叫ぶが、垣根は何でもなかったかのように反応する。

まるで先日の出来事など無かったかのように。

 

「よお高町、久しぶりだな」

 

しらばっくれているのか、素なのか分からない。

なのはの様子を見て苦笑いする3人。

ユーノとアルフも学校での出来事を愚痴混じりに聞かされていた為、件の理由を知っている。

あああ、と左手人差し指を彼の方へ向けたままプルプルと震えるなのはをよそに、垣根は歩み寄って告げる。

 

「デバイス直ったんだな。で、魔法はもう使えるのか?」

 

「あ、うん。もう完治だってなのはが…」

 

プルプル震えながらフリーズしているなのはに代わって、フェイトが答えた。

 

「へえ、そりゃ良かったな。…って、どうした高町?何バカ面下げて固まってんだ?」

 

唖然としていると、久しぶりに会った相手に開口一番に毒吐かれ、ハッとする。

そしてワナワナとうつ向いて震えている間にフェイトが再び垣根に言う。

 

「いや、分かるでしょ?この前の事。なのははそれでこうなってるんだよ?しかも開口一番に毒吐いて…」

 

「あ?」

 

垣根が僅かに首を傾げた時、高町なのはという爆弾が炸裂した。

 

「もーーーーーー!!垣根くんッッッッ!!!!!!!!!!」

 

「おお…何だよ?」

 

至近距離で怒鳴られ、思わず鼻白む。

彼女は今まで溜まりに溜まった彼への不平不満を片っ端からぶつける。

 

「久しぶりに会ったのにいきなり何で毒吐いてくるの!!!?何で電話無視するの!!!!何でメール返さないの!!!!何で学校来ないの!!!!何で海鳴市(こっち)に来たの黙ってたの!!!!何で_ッ!!!!」

 

「…お前こそいきなり質問攻めすんなよ、うるせえな。……チッ、だから会いたくなかったんだ」

 

半年以上振りに会ったというのに、あからさまに面倒臭そうな態度の垣根になのはは余計に憤慨する。

ユーノとフェイト、アルフがまあまあと宥めようとするが全く効かない。

 

「わたしが怒ってるのは垣根くんが悪いんでしょ!!!?」

 

「高町、どうどう」

 

「わたし馬じゃないもん!!」

 

「高町、ハウス」

 

「わたし犬じゃないもん!!ホラッ!!またわたしの事からかってるし!!!!」

 

握り拳で両腕を小さく振り、プンプンと分かりやすく怒るなのは。

が、彼女の怒りの元凶は相変わらず飄々としている。

 

「おいフェイト、ユーノ、アルフ。こいつうるさい。黙らせろよ」

 

「え、ええ………?」

 

「え……いや……」

 

「む、無理でしょ……」

 

垣根に無茶振りされ、フェイトもユーノもアルフも顔を引き吊らせてたじろぐ。

そしてこの一言もなのはに燃料投下する結果になり、再び爆発。

 

「うるさいって何!!!?怒らせてる自覚あるの!?」

 

「心配するな、自覚はある」

 

ニヤッと薄く悪どい笑みを浮かべてきた。それがまた腹が立つ。

 

「もー最低だよ!!…って、あ!!」

 

「それも自覚はある。…ん?」

 

ここで、彼のある発言で彼女はハッとして、一瞬黙り込み、垣根もフェイト達も怪訝な顔になる。

なのはは分かりやすく、それはもう分かりやすく、ジトーっとした視線を垣根帝督へ向け、一気にトーンダウンした口調で告げる。

 

「……今、垣根くん、フェイトちゃんの事名前で呼んでたよね?」

 

「あ」

 

「何で?何でフェイトちゃんは名前で呼んで、わたしは『高町』のままなの?ねえ何で?」

 

垣根も半ば無意識だったらしく、無言で失言したかのようにバツの悪そうにし始める。

 

「……別に、俺の勝手だろ」

 

「前はテスタロッサって呼んでたよね?何で今になって変えたの?」

 

「……何となくだよ」

 

「嘘だよ!頑なに名前で呼び合うの嫌がってた垣根くんらしくない!絶対何か理由あるよね!?」

 

ジトーっとした視線のまま、ずいずいと垣根に詰め寄るなのは。

垣根は都合の悪そうに目を逸らしている。

 

「…フェイトちゃんと友達になったの?」

 

「違う」

 

(そこは即答するんだ…)

 

フェイトが少しだけ寂しい気持ちになる。

それを知るよしも無い垣根は続けて言う。

 

「何かあったとしても、それをお前なんぞに話す義理はねえな」

 

「酷いよ!!っていうか、フェイトちゃんをそう呼んでるならわたしもなのはって呼んでよ!!」

 

「嫌だ」

 

「何でよー!!」

 

そこへ、フェイトがなのはに小声で話し掛ける。

僅かに思い出し笑いをして。

 

「(……噛んだの)」

 

「(……噛む?)」

 

「(……うん、わたしのファミリーネーム噛んだの。テしゅタロッサって)」

 

「(……、……へえ~、そーなんだ~…)」

 

プンプンと怒っていた、なのはの表情がみるみるうちに明るくなる。

彼女の顔が柔和な笑顔に変わっていく。ただし、含み笑いというマイナスの意味で。

フェイトはヒソヒソとなのはへ耳打ちを続ける。

垣根は彼女達のやり取りを察して、クルリと背を向けて立ち去り始めた。

 

「(……彼、何でか分からないけど、頑なに噛んでないって言ってるんだ)」

 

「(……へえ~…へえ~。そーなんだ~。意外な所があるんだね~)」

 

「(……ね?ちょっと可愛いでしょ?)」

 

「(……変な所で子供っぽくて可愛いかも♪)」

 

クスッとしたり、ニマニマしたりと、柔和だが一物抱えた笑顔を浮かべ合う2人の少女。

事情を知らなければ微笑ましく見える光景だが、

 

「ね、ねえ……、何かフェイトもなのはも、あんまりらしくない笑いをしてるよね…?」

 

アルフがユーノに静かに告げ、

 

「うん……、何て言うか、こう……笑顔なんだけど、悪戯っぽいっていうか……、そう…真っ黒に輝いてるよね…。2人とも……」

 

ユーノは苦笑しながら、なのはとフェイト、静かに逃亡を図る垣根を交互に見て呟いた。

なのはとフェイトは、垣根が立ち去ろうとしている事に気付いて慌てて追い掛ける。

 

「あ!ちょっと待ってよ!」

 

「どこ行くの!」

 

ズボンのポケットに突っ込んでいる両手に、フェイトは彼の左手首を、なのはは彼の右手首をガシッと掴んだ。

 

「おい、放せよ」

 

面倒臭そうな顔の垣根帝督とは対照的に、高町なのはとフェイト・テスタロッサはニマニマと柔和な含み笑いを浮かべていた。

 

「さっきフェイトちゃんから聞いたよ?噛んだ事で意固地になってるって」

 

「っせえ、噛んだ訳じゃねえ」

 

「『テしゅタロッサ』って、絶対に噛んだと思うんだけど?」

 

「あーそういや、そろそろ学園都市から定時連絡が来る頃だな」

 

「いや、ここだと普通の通信は繋がらないはずだよね」

 

なのはに続き、フェイトが更なる逃走の口実をすかさず潰して退路を塞ぐ。

 

「チッ……」

 

忌々しそうに舌打ちの音を立てる垣根と、柔和な笑顔で嬉しそうななのはとフェイト。

たかが名前を噛んだだけで、それを認めず意地になっただけで、攻守が逆転した。

日頃の鬱憤を晴らすといわんばかりのなのは。それに嬉々として加勢するフェイト。

この2人はおそらく、垣根が噛んだ事を認めるか、

 

「わたしもフェイトちゃんと同じように『なのは』って名前で呼んでくれたら、もう止めても良いし、今までの事チャラにしても良いよ帝督くん(・・・・)♪」

 

「……ッ!!」

 

この提案を呑むかしない限り、どれだけウザがられようが絡み続けるだろう。

垣根はイラッと眉を動かしてなのはを鬱陶しそうに睨むが、今の彼女には堪えない。

彼の右手首を左手で掴みながら、ニコニコと愉しそうに笑っている。反対側のフェイトも同じようにしている。

 

(こいつ等、分かっててやってやがる……ッ)

 

彼女達の後方に立ち尽くすユーノとアルフは、苦笑いしつつも止める気は無いらしい。

基本的に彼等は当然、なのはとフェイトの味方なのだ。

もう折れてあげたら?と目で言っているようだった。

 

「……、」

 

四面楚歌を自覚し、しばし無言で考え決意した。

ただし彼女達に折れる訳ではない。

プライドの高い彼はその選択肢を簡単に選ばない。

故に、多少下品な事を承知の上で、強引な手段に出る。

 

「…あー、急にウンコが出たくなったわ」

 

「えっ?」

 

「え…?」

 

予想外の一言にピキッと固まる2人。更に後ろの2人もポカーンとしている。

 

「つー訳で手ぇ放せ。俺、便所行ってくるわ」

 

「「あ」」

 

掴まれていた手を無理矢理振りほどき、スタスタと立ち去っていった。

数秒固まっていたなのはだが、ふと我に返り告げる。

 

「…フェイトちゃん」

 

「…何、なのは」

 

「さっきの垣根くんのって、多分嘘だよね?」

 

「うん、わたし達から逃げる為に苦し紛れに言ったんだと思う」

 

「…でも下品過ぎるよね?」

 

2人ともさっきの彼のセリフが脳裏を過り、ドン引きし表情も引き吊っている。

 

「うん…下品だね。そこまでするほど逃げたかったのかな…?」

 

「分かんない……、あの子が何考えてるのか…ホント分かんないよ…。ただ…」

 

顰蹙買ってでも逃れたかったのか、垣根帝督は意地とプライドを守る為に別の何かを失った気がした。

そんな彼に、届かない事を承知でなのはとフェイトは小さく告げる。

 

「最低だよ、垣根くん……」

 

「最低だよ、垣根……」

 

ユーノとアルフは最後まで何も言わず、苦笑いするしかなかった。

 

 

海鳴市内の駐屯地でアラートが鳴り響く。

指揮を執るリンディ・ハラオウンに有視界通信で武装局員の1人が報告する。

 

『都市部上空にて捜索指定の対象を2名捕捉しました。現在、結界内部で対峙中です』

 

「相手は強敵よ、交戦は避けて外部から結界の強化と維持を!」

 

『はっ!』

 

「現地には、執務官を向かわせます!」

 

夜の市街地。

10人の武装局員が包囲しているのは、ヴィータとザフィーラ。

彼女達は背中合わせで局員達と対峙している。

 

「管理局か…」

 

「でも、チャラいよこいつ等。返り討ちだ」

 

ヴィータは睨みを利かせ、グラーフアイゼンを振り上げる。

突然、自分達を取り囲んでいた武装局員達が散開する。

 

「っ!?」

 

「上だ!」

 

怪訝な顔のヴィータにザフィーラが告げた。

見上げると、そこには無数の蒼白い魔力刃を展開し上空に浮いている執務官クロノ・ハラオウンの姿があった。

 

「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!!」

 

スティンガーブレイドの中規模範囲攻撃で、魔力刃の一つ一つに環状魔方陣が取り巻いており、発動時に一斉に目標へ狙撃できる。

100本以上の魔力刃が照準を定め、

 

「てぇッ!!」

 

一斉に猛スピードで降り注ぐ。

ザフィーラが前に出てバリアを発生させる。

バリアとスティンガーブレイドの衝突で光華と粉塵が巻き起こる。

魔力刃が爆散し視界攪乱を誘発する。

クロノは演算と魔力を消費し、呼吸を乱しながらも撃った方向を睨み続けている。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…、少しは…通ったか……?」

 

煙が晴れると、防御を担ったザフィーラの左肩と腕にバリアを突破した合計3発の刃が刺さっていた。

 

「ザフィーラ!」

 

ヴィータが叫ぶが、当のザフィーラが受けたダメージは小さいようで、

 

「気にするな。…この程度でどうにかなるほど、柔じゃない!」

 

バキン!と腕に力を込めて刺さった魔力刃を砕く。

それを見てヴィータも好戦的な笑みを浮かべる。

 

「…上等!」

 

クロノと守護騎士2人が再び睨み合う。

 

『武装局員、配置終了!オッケークロノくん!』

 

オペレーターのエイミィ・リミエッタが通信で彼に告げる。

 

「了解!」

 

『それから今、現場に助っ人を転送したよ!』

 

「え?」

 

辺りを見回すと、ビルの屋上に2人の少女が立っている。

高町なのはとフェイト・テスタロッサ。

 

「なのは!フェイト!」

 

それだけじゃない。

彼女達の後方には、ユーノ・スクライアと使い魔アルフの姿もあった。

いいや、それだけじゃない。

彼女達とは少し離れた位置だが、ヴィータ達はすぐに気付いた。

暗い眼光に茶色い髪、ズボンのポケットに両手を突っ込んで立っている、口元に薄い笑みを浮かべている少年。

魔法ならざる謎のスキルを行使してくる、得体の知れない人間、垣根帝督。

 

「あいつ等…ッ!!」

 

上空を見つめなのはは左手を、フェイトは右手を掲げ、相棒の名を叫ぶ。

 

「レイジングハート…」

 

「バルディッシュ…」

 

「「セーットアーップ!!」」

 

2人は上昇しながら変身シークエンスに入り、以前と違いを感じた所で不意にエイミィから通信が来た。

 

『2人とも、落ち着いて聞いてね。レイジングハートもバルディッシュも、新しいシステムを積んでるの』

 

「新しい…システム?」

 

『その子達が望んだの。自分の意思で、自分の思いで!…呼んであげて、その子達の…新しい名前を!!』

 

意を決し、彼女達は相棒の新たな名前を叫ぶ。

 

「レイジングハート・エクセリオン!!」

 

「バルディッシュ・アサルト!!」

 

主人の叫びに呼応し、バリアジャケットを展開。

デバイスの外見にも変化していた。

レイジングハート・エクセリオンは、カートリッジシステム「CVK-792A」を搭載し生まれ変わった姿。

ヘッド下部に自動壮弾式のカートリッジユニットが搭載され、強大な魔力を扱う事が可能になった。

 

バルディッシュ・アサルトは、カートリッジシステム「CVK-792R」を搭載し生まれ変わった姿。

ヘッド下部に搭載されたカートリッジユニットは回転弾倉式。

装弾数で劣るものの、この形式は稼働部分が少なく衝撃に強い上、ユニット部分を装甲でフルカバーできる。

 

「あいつ等のデバイス…、あれってまさか……!!」

 

ヴィータは少女達の持つデバイスの変化にいち早く気付き、歯噛みをする。

変身とデバイスの稼働状態の確認を終了したなのはとフェイトは、再びもといた屋上に着地。

フェイトが守護騎士達に告げる。

 

「わたし達は、あなた達と戦いに来た訳じゃない。まずは話を聞かせて」

 

なのはが続く。

 

「闇の書の完成を目指してる理由を…」

 

腕を組み、彼女達を見下ろすヴィータとザフィーラ。

 

「あのさ、ベルカの(ことわざ)にはこういうのがあんだよ…」

 

口を開いたのはヴィータの方だ。

 

「和平の使者なら槍は持たない」

 

「え…?」

 

「……?」

 

聞き覚えのない諺を聞き、なのはとフェイトは困ったように顔を見合わせ、怪訝そうに首を傾げる。

ヴィータは彼女達を睨み付け、ビシッと得物を向けて告げる。

 

「話し合いをしようってのに、武器を持ってやってくるヤツがいるかバカ!っていう意味だよ、バーカ!」

 

「なあっ!?いきなり有無を言わさずに襲い掛かってきた子がそれを言う!?」

 

分かりやすく馬鹿にされ、ムッとして夢中で言い返すなのは。

少し離れた所の垣根も、確かに、と呟いて小さく笑っていた。

そこでザフィーラが口を挟む。

 

「…それにそれは、諺ではなく小話のオチだ」

 

「うっせー!良いんだよ細かい事は!」

 

「…何だ?このしょーもねえやり取り」

 

垣根はくだらなさそうに小さく呟いたつもりだったが、どうやら聞こえていたらしく、ヴィータがギロリと彼の方を睨んできた。

彼女は垣根帝督にも得物を差し向けて叫ぶ。

 

「オマケにそこのお前!!魔導師じゃないお前も、やっぱ管理局のヤツだったんだな!?」

 

怒鳴られた垣根は、退屈そうに突っ立っている。

年不相応な眼光に薄い笑み。得物を向けられ威嚇されるも、その両手はズボンのポケットに突っ込んだままだった。

ヴィータはこの場で唯一、不遜な態度のままの彼が気に食わない。

 

「こんな人間兵器みてーなヤベェヤツを引き連れといて、何が話し合いだ!!」

 

「な…っ!!人間兵器って…あんまり_」

 

なのはが少し怒るが、垣根が制止するように口を出す。

まるで気にしていない様子で、ゆったりと言う。

 

「人間兵器か。まあ確かに間違ってないな」

 

「垣根くん!?」

 

彼女は驚きながら垣根の顔を見るが、彼は相変わらず余裕そうに小さく笑っていた。

 

「俺はまあ現地の民間協力者って訳だが。ま、安心しろよ、今回俺は手を出す気はねえから」

 

「ああ?信じられっかよ!!」

 

「別に信じなくても良いが、どのみち俺は今日は見物しに来たつもりだしな。仮にやり合うとなっても、テメェ等の相手はそっちの女2人だろうし、俺は観戦でもさせてもらうよ」

 

淡々と、悪意を織り混ぜて薄く笑ったままつまらなさそうに、侮るように、嘲笑うかのように、続ける。

 

「まあ……今日を自分の命日にしてえっつーんなら、相手してやっても良いけどな?」

 

彼はまるで、自分と戦っても勝敗は見えているから、戦う必要が無い。眼中に無い。……とでも言っているかのような口調だった。

 

「テメェ……ッ!!」

 

実際、彼からは先日のような敵意も殺意も悪意も感じられない。

だが、それでも目を見れば分かる。

馬鹿にされているとしか思えなかったヴィータは、グラーフアイゼンを握り締め、激怒し垣根を睨む。

 

ドンッッ!!!!!!

 

と、不意に桃色の落雷がなのは達の隣のビルに落ちた。

舞い上がる粉塵が晴れると、そこには守護騎士ヴォルケンリッターの将、シグナムの姿が。

 

「シグナム…!」

 

フェイトの声に反応し、シグナムは無言でフェイトの方を向いた。

なのはがヴィータを見据えたまま、通信でユーノとクロノに釘を刺すつもりで告げる。

 

「ユーノくん、クロノくん、手、出さないでね。わたし、あの子と一対一だから!」

 

垣根がニヤリと口角を吊り上げ、ヴィータに言う。

 

「……だってよ?赤いの」

 

「チ……ッ!!」

 

いつの間にか着地しユーノと並ぶクロノは、顔を僅かにしかめた。

 

「マジか……」

 

「マジだよ…」

 

ユーノがクロノの呟きに答えた。

なのははヴィータと、フェイトはシグナムと、アルフはザフィーラと、それぞれ一対一で決着を着けるつもりだ。

故に、そうなる事を薄々感付いていたからこそ、垣根帝督は介入しない。

クロノもそれに気付き、傍らのユーノに念話で告げる。

 

〈ユーノ、それならちょうど良い。僕と君で手分けして、闇の書の主を捜すんだ〉

 

〈闇の書の…?〉

 

〈連中は持っていない。おそらく、もう1人の仲間か、主がどこかにいる。僕は結界の外を捜す。君は中を〉

 

〈…分かった〉

 

そして2人は別れ、上空では合計6つの光が交錯し激しい空中戦が繰り広げられる。

誘導弾や射撃を中心に、中・近距離戦を展開するなのはとヴィータ。

高速で時折鍔迫り合いで動きを止めながら白兵戦を行うフェイトとシグナム。

拳や蹴り等で体そのものをぶつけ合って肉弾戦を展開するアルフとザフィーラ。

 

その様を突っ立ったまま、1人愉しそうに見物する垣根帝督。

しかしただ観ているだけではない。

この結界内全域に、サーチや逆算の為に素粒子(ダークマター)を散布していた。敵味方問わず、この空間の全員の魔法やその特性、変換資質、術式の癖等を能力で言う所の演算パターンとして解釈し、解析してゆく。

この状況を楽しみつつも、己の糧にするべく。

副次効果によるついでではあるが、クロノとユーノの闇の書サーチも手伝う。

あまり期待するなよとは言いつつも、『未元物質(ダークマター)』のサーチ網に何かそれらしい反応があれば、彼等に通信を入れる手筈となっていた。

 

地面に魔方陣を展開し、手を当て目を閉じ、サーチを行うユーノ。

上空から目を走らせるクロノ。

一方その頃、シャマルが闇の書を手にして結界のすぐ外で後方支援に入っていた。

ザフィーラから念話式の通信が入る。

 

〈状況は、あまり良くないな。シグナムやヴィータが負けるとは思わんが、例のレベルファイブと名乗った男もいる。ここは退くべきだ。シャマル、何とかできるか?〉

 

〈何とかしたいけど…局員が外から結界を維持しているの。私の魔力じゃ破れない…シグナムのファルケンかヴィータのギガント級の魔力を出せなきゃ……〉

 

シャマルの声には、明らかに焦りと不安を感じられた。

外から展開する武装局員達の働きによって、彼女達は戦略的には段々劣勢に立たされ突破口を開けず、手をこまねいていたのだ。

 

〈2人とも手が放せん。やむを得ん、アレを使うしか……〉

 

〈分かってるけどでも_〉

 

と、ここで、焦燥するシャマルは言葉を発せなくなってしまう。

物理的にではなく、緊張によって。

捜索していたクロノ・ハラオウンに見付かり、後ろから後頭部にデバイスを向けられている。

 

〈シャマル、どうしたシャマル?〉

 

故に、ザフィーラの呼び掛けに答えられなくなっている。

クロノは静かに、事務的な口調で告げる。

 

「捜索指定ロストロギアの所持、使用の疑いで貴女を逮捕します。抵抗しなければ、弁護の機会が貴女にはある。同意するなら武装の解除を」

 

直接的な戦闘力に乏しいシャマルでは、クロノから逃れる事は困難。

完成前の闇の書を押さえる。これで終わり。事件の決着が着く。

その様子を別ポイントからリンディもエイミィも見ている。

-しかし、

 

「-ぐあッ!!!?」

 

突如、クロノは隣のビルにまで一気に『蹴り飛ばされた』。

フェンスに激突し、苦悶の表情を浮かべる。蹴られた横っ腹を押さえ、痛みを堪えて顔を上げた。

 

「……仲間…ッ!?」

 

サーチャーにも反応しない謎の者。

彼を蹴り飛ばした主は、白いジャケットのような上着に青いパンツ、飾り気の無い奇妙な仮面を着けた青い髪の、青年のような風貌の男。

シャマルも知らない、謎の男。

 

「あなたは…?」

 

シャマルの質問には答えず、男は静かに告げる。

 

「使え」

 

「え?」

 

「闇の書の力を使って結界を破壊しろ」

 

まるで、闇の書の事をよく知っているかのような態度だった。

いや、実際そうなのかもしれない。

だとすると、この者は一体何者なのか。何故守護騎士達に味方するのか。

 

「でもあれは…」

 

狼狽えているシャマルを説得するように、彼は言う。

 

「使用して減ったページはまた増やせば良い。仲間がやられてからでは、遅かろう?」

 

「……ッ!」

 

左の小脇に抱える闇の書に目をやり、しばし考える。

そして、彼女は決意した。今はなりふり構っていられない。

 

〈皆、今から結界破壊の砲撃を撃つわ。上手くかわして撤退を!!〉

 

「「「おう!!」」」

 

その間に空中で対峙するクロノと仮面を着けた謎の男。

 

「何者だ!!連中の仲間か!?」

 

「……、」

 

男は答えない。

デバイスを構え、叫ぶ。

 

「答えろ!!」

 

闇の書の魔法が発動したらしく、空に黒い稲妻が見える。

一瞬それに気を取られ、その隙に男に蹴落とされた。

クロノは地面に激突する寸前にホバリングするように持ち直し、墜落を阻止した。

 

「今は動くな!」

 

「…っ!?」

 

「時を待て。それが正しいとすぐに分かる」

 

「何!?」

 

まるで事情を理解しているかのような一言。

次の瞬間、『破壊の雷』という黒紫の落雷…魔力爆撃が結界を粉砕した。

物理被害は無いものの、ジャミングされてサーチャーとレーダーが無力化されてしまい、またしても逃げられた。

なのは、フェイト、アルフの3人は、ユーノの防護魔法により無傷で済んだ。

傍観と解析をしていた垣根帝督も、自身の能力で生み出す6枚の翼で体を包みその身を守った。

 

「…さっきのは何だ?バラ撒いてた『未元物質(ダークマター)』まで吹き飛ばされちまったぞ」

 

想像もしていなかった横槍が入り、結界も破壊され守護騎士も闇の書も逃してしまった。

ひとまず自分達も撤退し、ハラオウン家に集合する事にした。

 

 

海鳴市内のマンション、ハラオウン家のリビング。

なのはとフェイトは、エイミィからカートリッジシステム搭載の経緯と使用上の注意点の説明を受けていた。

クロノとリンディはソファーに座り、出来事を振り返る。

垣根帝督も、ソファーにふんぞり返ってクロノ達の話を聞いている。

何故かまたリンディ製の抹茶ラテを用意されて。

 

(だから何で毎回これ出されてんだ?)

 

微妙な顔をしている彼をよそに、リンディは口を開く。

 

「…問題は、彼女達の動機よね」

 

「ええ。どうも腑に落ちません。彼等はまるで、自分の意志で闇の書の完成を目指してるようにも感じますし…」

 

「んん?それって何かおかしいの?」

 

アルフが不思議そうな顔をして口を挟む。

 

「闇の書ってのも、ジュエルシードみたく、すっごい力が欲しい人が集めるもんなんでしょ?だったら、その力が欲しい人の為にあの子達が頑張るってのも、おかしくないと思うんだけど」

 

クロノとリンディは一度、目を合わせ、再びアルフの方を見直して説明する。

 

「第一に、闇の書の力はジュエルシードみたいに自由な制御の利くものじゃないんだ」

 

リンディが説明を継ぐ。

 

「完成前も完成後も、純粋な破壊にしか使えない。…少なくとも、それ以外に使われたという記録は一度も無いわ」

 

「そっか…」

 

クロノが再び口を開いた。

 

「それからもう一つ。あの騎士達、闇の書の守護者の性質だ。彼等は人間でも使い魔でもない」

 

その一言に、クロノとリンディ以外全員が驚いた。

彼は構わず続ける。

 

「闇の書に合わせて、魔法技術で創られた疑似人格。主の命令を受けて行動する。ただそれだけの為のプログラムに過ぎないはずなんだ」

 

「そこだけ聞くと、機械的なイメージを覚えるが、実際のあの連中は妙に人間臭い感じだったな」

 

今まで黙っていた垣根が言う。

そこへフェイトがおずおずと、話に加わる。

 

「あの…使い魔でも人間でもない疑似生命っていうと、わたしみたいな…?」

 

「それは違うわ!」

 

リンディが即座に、キッパリと否定する。

 

「フェイトさんは、生まれ方が少し違っているだけで、ちゃんと命を受けて生み出された人間でしょ」

 

クロノも、少しだけ叱るような口調で言う。

 

「検査の結果でも、ちゃんとそう出てただろう?変な事言うもんじゃない」

 

「…はい、ごめんなさい……」

 

フェイトは、自分で卑屈になっていたかもしれないと、申し訳なさと嬉しさが混ざった気持ちになった。

 

「つーか、そういうの抜きにしても、疑似人格生命という守護騎士連中と、クローン人間のお前じゃ、カテゴリー的にも別物だろうけどな」

 

垣根が抹茶ラテを一口飲んで、興味の無さそうな、どうでも良さそうな調子で告げた。

あまり言及していくと「生」というものの定義に関する哲学的なテーマにまで踏み込みそうになりそうだったので、彼はそれ以上の事は口に出さない事にした。

 

「あ!モニターで説明しよっか?」

 

空気を変えようと、エイミィが手を叩いて提案し、明かりを消してリビングの真ん中にホログラムを映し出す。

闇の書の画像、例の4人の守護騎士達の画像が見える。

クロノが皆の前に立ち、説明を始める。

 

「守護者達は、闇の書に内蔵されたプログラムが人の形を取ったものだ。闇の書は、転生と再生を繰り返すけど、この4人はずっと闇の書と共に様々な主の元を渡り歩いている」

 

闇の書は、自分を扱う資質を持つ者をランダムで転生先に選ぶ。

エイミィが継ぐ。

 

「意志疎通の為の対話の能力は、過去の事件でも確認されてるんだけどね。感情を見せたって例は、今までに無いの」

 

更にリンディが説明に入る。

 

「闇の書の蒐集と主の護衛。彼等の役目はそれだけですものね」

 

垣根帝督は、既に実際の守護騎士達と説明上の守護騎士プログラムとの矛盾を承知した上で、怪訝な顔をして告げる。

 

「その説明の限りだと、守護騎士連中っつーのは、感情の起伏の無い無機質で機械的な態度を取るはずなんだよな?」

 

彼の隣に座るなのはとフェイトは、不思議そうに、質問するように言う。

 

「でも、あの帽子の子、ヴィータちゃんは怒ったり悲しんだりしてたし…」

 

「シグナムからも、はっきり人格を感じました。為すべき事があるって。仲間と、主の為だって…」

 

「主の為、か……」

 

それを聞いたクロノは、複雑そうな表情で小さく呟く。

やはり、彼はこの闇の書の事で、何か深い部分で何かありそうだ。例えば_。

リンディがホログラムを消して、ミーティング終了のつもりで告げる。

 

「まあ、それについては捜査に当たっている局員から情報を待ちましょっか」

 

「転移頻度から見ても、主はこの付近にいるのは確実ですし、案外主が先に捕まるかもしれません」

 

彼の言葉に、アルフとエイミィはニッコリと笑って告げる。

 

「ああ、そりゃ分かりやすくて良いねぇ~」

 

「だね。闇の書の完成前なら、持ち主も普通の魔導師だろうし」

 

自然と、佇んでいるクロノ・ハラオウンの元に垣根帝督以外の全員が歩み寄っていた。

皆で彼と協力しようと意志を示すかのように。垣根帝督以外は。

 

「それにしても、闇の書について、もう少し詳しいデータが欲しいな…」

 

クロノはそう言いながら、顔を上げた時に、なのはの左肩に掴まっている『彼』の顔が目に入った。

そうだ、そういう調べものにはうってつけの人材が、目の前にいるではないか。

彼はフェレット形態のユーノ・スクライアに声を掛けた。

 

「ユーノ、明日から少し頼みたい事がある」

 

「え、良いけど?」

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