魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter   作:戸礼太

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壊れた過去と現在

昨夜の戦闘の翌日、放課後の聖祥小学校3年A組の教室。

窓際前側の席にアリサが座り、その周りになのは、フェイト、すずかの3人が立っている。

 

「な、何だか、いっぱいあるね…」

 

フェイトが若干困ったように言った。

彼女は今、携帯電話のカタログを開いて見ている。

というのも、保護者方や友人達のすすめもあり、携帯電話を所持する事が決まったのだが、機種選びに迷っていた。

 

「まあ、最近はどれも同じような性能だし、見た目で選んで良いんじゃない?」

 

そう言ったのはアリサ。彼女の机にも何冊か携帯電話のカタログやパンフレットが置いてある。

 

「でもやっぱ、メール性能の良いやつが良いよね」

 

「カメラが綺麗だと、色々楽しいんだよ?」

 

と、これはなのはとすずかの意見。

フェイトはなのは達の意見を聞きながら、うーん、とカタログとにらめっこする。

何せ携帯電話そのものを持つ事が初めてで、どれが自分にとって合う機能だとかが全く分からない。

 

「でもやっぱ、色とデザインが大事でしょー」

 

どのメーカーや機種でも大きな性能差は無いから、主に見た目で選ぶアリサ。

 

「操作性も大事だよー」

 

メール系の機能や扱いやすさを重視しているなのは。

 

「外部メモリが付いてると、色々便利で良いんだけど…」

 

「そうなの?」

 

機械に明るく、各種スペックの良し悪しを重視しているすずか。

 

「うん、写真とか写真とか音楽とか、たくさん入れておけるし。そうそう、メールに添付してお友達に送る事もできるの」

 

フェイトは、カタログのページをめくりながら目を走らせる。

多種多様なデザイン、カラーリングの携帯電話の写真に目を通す。

 

(迷うなあ……、垣根なら、どういうのが良いって知ってるかな……?)

 

この場にいない相変わらず登校はせず、リモートで授業を受けている垣根帝督。

フェイトは何となく、彼ならどう言うだろうかと想像する。

長めの茶髪で端正な容貌だが目付きの悪い少年の顔が思い浮かぶ。

彼女の想像上の彼は、実物同様にくだらなさそうな表情で簡潔に告げる。

 

『知るか』

 

『そんな事ぐらい自分で考えて決めろ』

 

『分からなきゃ直感とかでも良いんだよ、どれもそんなにスペック変わらねーし』

 

実際の彼も本当にそんな事言いそうだな、と思いついクスッと小さく笑った。

 

「「「???」」」

 

もうしばらく迷いながら、最終的には、デザインや機能はややオーソドックスだが、自身の好む黒系のカラーを選ぶ事になった。

 

 

一方その頃、ユーノ・スクライアはクロノ・ハラオウンに連れられ管理局本局に派遣された。

管理局顧問官であり局の重鎮、そしてフェイトの保護観察官も務めるギル・グレアム。その使い魔でありクロノの師匠でもある、リーゼロッテとリーゼアリアの2人と共に、件の闇の書について調査すべく本局のとある一施設に来ていた。

管理局の管理を受けている世界の書物や情報が全てストックされている、次元世界最大のアナログデータベース。

その名も『無限書庫』。

底の見えない長い縦穴型の施設で、壁は全てが本棚となっていて、名前の通り書物は日々増加し続ける。

内部は無重力で巨大な物量故にほぼ全てが未整理で、本来調査を行う時はチーム編成して年単位での調査をするのが普通なのだが、今回はそこまで準備ができなかった。

ユーノは対策として検索魔法を用意し、持ち前の調査能力を駆使して闇の書に関する情報収集作業を始めていた。

 

 

更にその頃、海鳴市内の駐屯所兼自宅のマンションには住人のフェイト以外に、なのはが来ていた。

本来の指揮官を担うクロノとリンディが用事でいない為、今は買い出しに外出中のエイミィが代行を行う。

なのはと同じく民間協力者の垣根も呼び出されていた。

 

「_そっか、アリサとすずかはバイオリンやってるんだね」

 

「うん、メールでよく、お稽古の話とか教えてくれるんだよ」

 

「そうなんだ」

 

フェイトの自室。彼女はベッドに座って、なのははベッドのすぐそばに座り込んで談笑している。アルフは子犬フォームでフェイトのそばに寝そべっていた。

垣根は焦げ茶色のジャケットをボタンを留めずに、シャツ出ししてグレーの薄手のトレーナーを着た格好で、1人でリビングのソファーにふんぞり返って寛いでいる。

ちなみに以前着ていた紺色のカジュアルジャケットは、シグナムとの戦闘で付いた焦げや煤が落ちなかったので捨てた。

少し前に携帯電話を買ってもらったばかりのフェイトに、連絡先の交換を頼まれた。彼は必要性があるのか?と言って最初は断ろうとしたが、なのはとエイミィが後押ししたのと、既になのはとは連絡先を交換しているのだから公平に等という理由で押し切られてしまった。

 

(連絡先交換したとこで、俺とメールやら電話やらする事あんのか?管理局絡みなら借りてる端末で執務官か艦長さんから連絡できるし、それか高町を通せば済む話なんだがな……)

 

ぼんやりとそんな事を考えている間に、買い出しからエイミィが帰ってきた。

 

「たっだいまー」

 

エイミィはドサッと買い物袋を台所に置き、中身を出していく。

買ってきた食材を冷蔵庫にしまうなのはとフェイト。

カボチャをフェイトに手渡した時に、エイミィが尋ねる。

 

「艦長、もう本局に出掛けちゃった?」

 

「うん、アースラの武装追加が済んだから、試験航行だって。アレックス達と」

 

「武装ってーと…、アルカンシェルかぁ…。あんな物騒なもの最後まで使わずに済むと良いんだけど」

 

溜め息混じりに言うエイミィに、なのはも、

 

「クロノくんもいないですし、戻るまではエイミィさんが指揮代行だそうですよ?」

 

子犬フォームのまま、アルフはおやつのベーコンを噛りながらフローリングでベターっとして、弾んだ声で告げる。

 

〈責任重大~〉

 

エイミィはガクッと肩を落とし、引き吊らせながらも冗談めかした顔で、フェイトが両手で持つカボチャを撫でる。そしてボウリングの球みたいに右手で掴み上げながら言う。

 

「そ、それもまた物騒な~…。ま、とはいえそうそう非常事態なんて起こる訳が_ッ!?」

 

不意にアラートが鳴り響き、赤く大きな『Emergency』の表示が映し出された。

ボトッとカボチャを落としてしまうエイミィ。

退屈そうにしていた垣根はニヤニヤとしながら起き上がる。

 

「前フリになっちまったな?」

 

「そんなぁー!!」

 

エイミィはやむなくなのは達を引き連れてオペレーションルームに急行。

複数のモニターの1つには、とある次元世界で飛行中のシグナムの姿が。

コンソールを叩きながら分かりやすく焦燥し始めるエイミィ。

 

「文化レベルゼロ……、人間は住んでない砂漠の世界だね。結界を張れる局員の到着まで、最速で45分。マズイなぁ……」

 

シグナムとザフィーラの姿を見据えていたフェイトとアルフは、意を決し互いに頷き合う。そして、エイミィに告げる。

 

「エイミィ」

 

「うん?」

 

「わたしが行く」

 

「あたしもだ」

 

数秒考え、2人の決意を汲み取り受け入れる。

 

「うん、お願い」

 

「うん」

 

「おう」

 

エイミィは右側に立つなのはの方を向き、

 

「なのはちゃんはバックス。ここで待機して」

 

「はい」

 

フェイトは急いで自室に戻り、待機状態のバルディッシュとカートリッジを手にして、静かに言う。

 

「行くよ、バルディッシュ」

 

『Yes sir』

 

 

シグナムは、巨大な竜のような蛇のような怪物と対峙していた。

既に連戦で少なからず体力を消耗していて、呼吸も荒くなっている。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…。ヴィータが、手こずる訳だな。少々厄介な相手だ…」

 

そう呟いた直後、背後から唸り声と同時に奇襲を受ける。

 

「ッ!?」

 

回避が一瞬遅れ、伸びてきたロープ状の触腕が彼女の体を拘束した。

 

「ッ……しまった……ッ!」

 

ギリギリギリギリと彼女を締め上げながら、咆哮しながら迫る怪物。

 

「うあぁぁあああッッ!!」

 

しかし、怪物が彼女を殺す事は叶わなかった。

突如上方から無数の雷の剣が降り注ぎ、怪物に正確に突き刺さっていく。

見上げると、そこには見知った黒ずくめの魔導師の姿。フェイト・テスタロッサ。

 

「ブレイク!!」

 

雷の剣が炸裂し、怪物は絶命。シグナムは解放され、結果として彼女を救助した。

 

サンダーブレイド。

サンダーレイジの発展型でロックオン式の複数攻撃魔法で、見た目はクロノ・ハラオウンのスティンガーブレイド・エクスキューションシフトに似ている。

剣に環状魔方陣と同じようなものが貼り付けられ、『ブレイク』のトリガー・コードで剣を爆破、放電による追加ダメージを与えられる。

バインド等の副次効果は無い代わりに破壊力が高い。

 

鋭い視線を交わす2人。

 

『フェイトちゃん!』

 

叱りつけるように、エイミィの通信音声がフェイトの耳に届く。

 

『助けてどーすんの!捕まえるんだよ!?』

 

言われて初めてハッと気付いた。

 

「あ、ごめんなさい。つい…」

 

「礼は言わんぞ、テスタロッサ」

 

シグナムが淡々と告げる。

フェイトは少し済まなさそうな声色で答えた。

 

「お邪魔でしたか……?」

 

「蒐集対象を潰されてしまった」

 

そんなフェイトにシグナムは僅かに気を使ったような態度で、レヴァンティンにカートリッジを給弾する。

 

「まあ…悪い人の邪魔が、わたしの仕事ですし」

 

「そうか、悪人だったな。私は」

 

砂漠地帯のど真ん中に着地互いに睥睨し合う2人。

先にシグナムが口を開く。

 

「預けた決着は……できれば今暫く先にしたいが、速度はお前の方が上だ。逃げられないのなら、戦うしかないな」

 

「はい。わたしも、そのつもりで来ました」

 

互いに構え、間合いをはかり同時に突進。

フェイトもシグナムもカートリッジを出し惜しみせず次々に消費し、多種多様な魔法技を放ちぶつけ合い、速く激しい白兵戦が始まった。

 

 

その頃、別ポイントではアルフとザフィーラが空中戦闘を展開。

こちらも互いのスペックは互角。間合いを取り、膠着状態になっていた。

 

「アンタも使い魔…守護獣ならさぁ、ご主人様の間違いを正そうとしなくて良いのかよ!?」

 

アルフが叫ぶ。もし彼等が、かつてのフェイトや自分と似たような境遇に置かれているかもしれないなら、何とか止めたい。

もっとより良い、苦痛の少ない結果に持ち越したい。というのがアルフの本音だった。

しかし、ザフィーラは顔色一つ変えず、静かに答える。

 

「闇の書の蒐集は、我等が意志。我等の主は、我等の蒐集については何もご存知ない」

 

「何だって……!?そりゃ一体……ッ?」

 

アルフは驚愕に染まっていった。

つまり、この守護騎士達は主に命じられた訳ではなく、主に隠れて自ら魔力蒐集の活動を行っているというのか?

そんな事があり得るのか。

だとした、何故そんな事をしているのか。

何の為に……。

 

「主の為であれば、血に染まる事も厭わず。我と同じ守護の獣よ、お前もまたそうではないのか?」

 

ザフィーラは再び拳を構え、臨戦態勢を取る。

困惑した表情のアルフは、戸惑いながら答える。

 

「そうだよ……でも……ッ!だけどさ……ッ!!」

 

 

更にその頃、オペレーションルームにまたアラートが鳴り響き、闇の書を持ったヴィータをサーチャーが捕捉。

高町なのはが向かう。

 

飛翔するヴィータ。彼女は別ポイントにいるシャマルと思念通話し現状の確認をする。

 

〈シグナム達は……?〉

 

〈うん…砂漠で交戦してるの。テスタロッサちゃんと、その守護獣の子と……〉

 

〈長引くとマズイな、助けに行くか。……あ!〉

 

進行方向の先に、人影があった。それに気付き空中で停止し睨む。

行く手を阻んでいるのは、やはり高町なのは。

しかし今回の彼女はバリアジャケットこそ纏っているものの、デバイスは待機状態で徒手空拳だった。

この前のヴィータのセリフを覚えていたのだろう。そしてわざわざそれに合わせてきた。

 

〈ヴィータちゃん?〉

 

〈クソォ…こっちにも来た、例の白服。もしかしたら、あの翼の野郎…垣根ってヤツもどっかにいるかも〉

 

ヴィータはキッとなのはを睨み付け、叫ぶ。

 

「高町なんとか!!」

 

「ああ!なのはだってばー!な の は!!もう…」

 

両腕をブンブン振って抗議するなのは。

その時、常時オープンにしている通信回線から、声が聞こえる。

ただしエイミィではない。

 

『ぶはッ!!ぶっくくくく!た、高町……なんとかだって………ッ!!』

 

吹き出して失笑したと思ったら、心底愉しそうに、面白そうに爆笑している幼さの残る少年の声。

今はフェイトのいる地点の方にいるはずの男。

当然彼女は声の主にも抗議する。

 

「もう!垣根くん!!笑わないでよ!!」

 

『くくっ、いやスマンスマン。水差して悪かったよ。続けてくれ、高町なんとかww』

 

「後で覚えててよ……?」

 

垣根はなのはへの音声送信を切り、彼女も溜め息を吐いてからヴィータの方に向き直り、再び口を開く。

 

「もう…。ヴィータちゃん、やっぱりお話聞かせてもらう訳には、いかない?もしかしたらだけど、手伝える事とか、あるかもしれないよ…?」

 

優しく柔和に微笑みながら、語りかけてくる彼女を見て、同年代の主の笑顔が脳裏を過る。

ヴィータは一瞬だけ揺れた心を振り切り、怒鳴った。

 

「……、うるせえ!!管理局の人間の()う事なんか信用できるか!!」

 

「わたし、管理局の人じゃないもの。民間協力者」

 

彼女は両手を広げ、戦闘の意志が無い事を示す。

それを見てヴィータは逡巡し思考する。

 

(闇の書の蒐集は魔導師1人につき1回。つまり、こいつを倒してもページにはなんねえんだよな……。カートリッジの無駄遣いも避けたいし……)

 

黙っているヴィータを怪訝に思い、なのはは再び声をかける。

 

「…ヴィータちゃん?」

 

「ブッ倒すのは、また今度だッ!!!!」

 

いつの間にか魔方陣を展開し、ソフトボールサイズの魔力弾を左手に握っている。

 

「吼えろ!グラーフアイゼン!!」

 

ドゴォォォォォォォォンッッッッ!!!!!!!!!!

 

巨大な轟音と紅の閃光が、なのはを襲う。

シャマルのクラールゲホイル同様の、閃光炸裂弾だった。

目を閉じ耳を塞ぎ、動けずにいるなのはを尻目に、ヴィータは背を向け逃亡を図る。

 

「脱出!」

 

閃光と轟音が止むと、ヴィータは遥か遠くに逃げられていた。

ヴィータは十分な間合いを取れたと判断し、空中停止し魔方陣を展開。

 

「よし、ここまで離せば攻撃は来ねえ。次元転送……、ッ?」

 

遥か遠くにいるなのはは、レイジングハートを砲撃形態のバスターカノンモードで構えていた。

彼女は照準をヴィータへ正確に定め、狙い撃つ。

 

「いくよ!久しぶりの長距離砲撃!!」

 

カートリッジを2発ロードしブーストし火力の底上げをする。

 

「まさか…撃つのか!?あんな遠くから!」

 

ヴィータは驚愕し目を見開く。

 

「ディバイーン……バスターッ!!」

 

ゴバッッッッッッッッッッ!!!!!!!!

 

桜色の、大口径の砲撃魔法がヴィータの体を捉え、呑み込んだ。

命中と同時に炸裂し、爆煙が舞い上がる。

 

『直撃ですね』

 

レイジングハートが告げる。

 

「ちょっと、やり過ぎた……?」

 

『良いんじゃないでしょうか』

 

煙が晴れると、そこにはヴィータだけではなく、もう1人いた。

もう1人の方はヴィータへ向けて撃ったディバインバスターを、完璧に防御しヴィータは無傷だった。

 

「あ…!」

 

 

一方のヴィータも、自分の窮地を救った謎の仮面を着けた男に困惑していた。

 

「アンタは…?」

 

しかし、男は彼女の問いに答えず、低い小さな声で言う。

 

「闇の書を、完成させるのだ」

 

「ッ!……」

 

この男が何者なのかは知らないし分からない。

だが、少なくとも敵ではないはず。

ならば考えるのは後だ。今は、やるべき事をやろう。

ヴィータはそう思い、転移魔法を展開する。

 

なのはは追撃すべく、再びディバインバスターを放とうとする。

 

「ディバイーン_」

 

『Master!』

 

不意に仮面の男が、カードを取り出し彼女へ手先で放る。

 

「あ_ッ!?」

 

遠くから投げられたカードは、正確になのはを捕捉し変化。

2巻きの青いバインドが彼女へ巻き付き両腕を後ろへ拘束した。

 

「バインド!?そんな……!あんな距離から…一瞬で……!?」

 

あの仮面の男は、間違いなく高位で手練れの魔導師なのだろう。

そうしている間にヴィータは転移し姿を消した。

なのはも魔方陣を展開してバインドをブレイクしたが、向き直った時には誰もいなくなっていた。

 

『Sorry Master』

 

「ううん、わたしの油断だよ」

 

 

(……高町(あっち)は逃げられたか。しかもまた仮面野郎の横槍。守護騎士共か、それとも管理局側(こっち)の行動が読まれているのかね?いずれにせよ、行く先々で横槍入れられちゃ堪らねえし、守護騎士共よりあの野郎の方を取っ捕まえた方が手っ取り早いかもな。色々知ってそうだし)

 

砂漠地帯の、フェイト達よりは少し離れたポイントに1人佇む垣根帝督は、手にした端末のライブ映像を見ていた。

オペレーションルームと高町なのは、フェイト・テスタロッサ、アルフの4チャンネル同時回線を開いている。

彼はエイミィの指示でフェイトの『もしもの時』の為にバックアップとして同行していた。

次に闇の書の魔力蒐集対象に1番なりやすいのは、フェイトだからだ。

だから、好きに見物やサーチ等はして良い代わりに、緊急時は自己判断でフェイトを援助してくれと言われていたのだった。

垣根は薄く笑いながら、邪魔にならない程度に離れた所から対峙する2人を眺めている。

 

「さあさあ、こっちはどうなるかねえ」

 

砂漠地帯では、現在もシグナムとフェイトが激しい白兵戦を繰り広げていた。

互いに魔力と体力を段々消耗し、非殺傷設定の魔法とはいっても完璧な機能ではなく白兵戦故に手足に切り傷を受けて薄く血を流しながら向かい合う。

呼吸も構えも乱れている。

 

(ここにきて、なお速い。目で追えない攻撃が出てきた。早めに決めないとマズイな…)

 

(強い…、クロスレンジもミドルレンジも圧倒されっぱなし。今はスピードで誤魔化してるだけ……、まともに食らったら叩き潰される)

 

互いに仕切り直しのつもりで構え直し、睨み合う。

 

(シュツルムファルケン…当てられるか……?)

 

(ソニックフォーム…やるしかないかな……?)

 

同時に斬りかかった。

 

が、

 

ズドッッッッ!!

 

不意にフェイト・テスタロッサの『胸から』白い手が突き出てきた。

 

「ッ!!」

 

「ッ!?」

 

「あ、やべ…」

 

全員が動きを止める。

さっきまでなのはの方にいたはずの、仮面を着けた男。

魔法を通してフェイトの胸を貫いていた。まるで彼女の心臓を握り潰すかのように。

 

「テスタロッサ……!?」

 

「う……うあっ…うわああああああッッッッ!!!!!!」

 

彼女のリンカーコアが、抽出されている。

 

「貴様!!……あッ!?」

 

シグナムは思わず怒るが仮面の男は意に介さず、静かに告げる。

 

「さあ、奪え」

 

「……!」

 

魔力蒐集が目的で動いていたが、今のシグナムは言葉にできない違和感を覚え、躊躇してしまっている。

そこへ、

ドバァ!!

と。

横槍の横槍を入れる者が。

仮面の男へ数十メートルもの長大な正体不明の白い翼が、巨大な刃物として襲い掛かる。

正確には、フェイトの胸元を貫く男の左手を。

 

ザァ!!

 

しかし、寸での所でかわされ、距離を取られた。

男はリンカーコアを抜いたフェイトには興味が無いらしく、捨て置いていった。

男が翼を避けた所で、ザクッと砂を踏む音を聞いた。

見れば、背中から3対6枚の白い翼を生やした垣根帝督が無数の羽を散らせながら、フェイトのすぐそばに立った所だった。

 

「チッ、その左手首くらいはいただこうと思ったんだがな」

 

彼が、一体どうやって接近したのか、いつの間にそれを実行したのか。その疑問が解ける前に、垣根は勢い良く仮面の男の懐へ再び白い翼を突き出す。

 

「横槍入れたりリンカーコア引っこ抜いたり、闇の書に妙に詳しそうだったり。やっぱ守護騎士連中よりテメェを取っ捕まえる方が色々と手っ取り早いみたいだな」

 

6枚の白い翼を槍のように構え、反撃の隙を与えない為にランダムに突き出していく。

男は無言で、翼をギリギリでかわし続ける。

垣根はゆったり笑いながら言う。

 

「俺には魔法みてえな都合の良い非殺傷設定なんてもんはねえ。大人しく降参して情報さえ吐いてくれりゃ見逃しても良いんだぜ?」

 

「……、」

 

男は答えない。垣根は翼を振るって砂を混ぜた烈風を巻き起こし、仮面の男を表面から削り取ろうとするが、これもかわされた。

 

「やるなぁ、なら仕方ねえ。半殺しにしてでも聞き出すかな_ッ!?」

 

再び6枚の白い翼を構えた所で、フェイトの時と同様に、背後から急に胸を魔法を通して貫かれた。

いつの間にか前からは姿を消し、垣根本人にも気取られずに背後を取っていた。

 

(うおっ、俺の背後を!?……何だこの気持ち悪い感じ!?痛てえような苦しいような!?これが魔力抜かれる感覚か!?だが……ッ!!)

 

仮面の男は抑揚の無い声で告げる。

 

「魔力は少ないが、足しにはなるだろう_ぐッ!?」

 

突如、仮面の男の声色が乱れた。

理由は単純。

胸元から飛び出ている男の左手首を、垣根帝督が右手でガシリと掴んでいた。

 

「くっ……放せ……グッ!!」

 

貫かれたまま着地した垣根は、仮面の男の方へゆっくり振り向き、悪意に満ちた薄い冷笑を浮かべる。

ギリギリと掴んだ手首を握り締める。

 

「放して欲しいか?ならまずは俺のリンカーコアを諦めろ。嫌だっつーなら、左手は手首から先はサヨナラしなくっちゃな?」

 

ギリリ!ミシッ!!

 

「……ッ!!」

 

握っている手に力を込める。

とても子供の握力とは思えぬ力で、男の左手首を握り続ける。

文字通り、要求を呑まなければその手を握り潰すと。

痛みを我慢しているのが伝わる。得体の知れない相手だが痛覚は人並みにあるらしい。

それを見て、垣根帝督は更に嗜虐的な笑みを浮かべて告げる。

 

「俺のチンケな魔力と引き替えにテメェは左手潰されて半殺しにされるのと、魔力を諦めて大人しく降伏する代わりに生かされるの、どっちが良いんだ?」

 

男はやはり答えない。

たとえ手を失うほどの重傷を受けてでも、捕まるのは嫌なのか。

 

「沈黙はノーと受け取るぜ。残念だよ、半殺し確定だな_がっ!?」

 

いきなり後頭部を蹴られた。

弾みで握り締めていた手の力が緩み、ズルリと垣根帝督の胸から仮面の男の左手が抜ける。

しかしリンカーコアの摘出には失敗していた。

砂場に転げ落ち、苛立ちながら顔を上げると魔法の応用なのか、狭い範囲で砂嵐が巻き起こされ、バインドで簀巻きみたいにされた上で視界を奪われた。

 

「痛ってえな…クソが!大したムカつきっぷりだなテメェッ!!」

 

一体誰が彼の後頭部を蹴ったのか分からない。

やはり蹴られるまで気付けなかった。

 

(クソッ!!動けないし何も見えねえ。仮面野郎に仲間でもいるのか!?だとしたら他にも_ッ!!)

 

苛立ちながらも冷静に演算し、

 

ドッッッ!!!!

 

と。

未元物質(ダークマター)』で大爆発を巻き起こし砂嵐とバインドをまとめて粉砕し吹き飛ばした。

砂埃が舞い上がる中、目を走らせるがもう仮面の男の姿は無く、

 

「チッ!!逃がすかよ!!」

 

ゴォ!!

 

素早く立ち上がり、クリアになった視界一杯に、空気の轟音を響かせ6枚の翼を展開し、サーチ用にありったけの素粒子(ダークマター)をばら撒いたが、ついに網には何も掛からなかった。

転移か何かで逃亡されたのだろう。

シグナムの姿も無い。

垣根帝督は、ザフィーラと交戦していたはずのアルフがフェイトの介抱をしているのをチラリと見て、再び鋭い舌打ちの音を立てる。

 

「チッ!!…時間稼ぎされたか。これじゃ高町を笑えねえな」

 

今はダウンしたフェイト・テスタロッサを連れて撤退するのが先決。全員が合流し撤退する事となった。

 

 

時空管理局本局内の医務室で眠るフェイト・テスタロッサ。

他の面子は本局の会議室でミーティングを行っていた。

 

「フェイトさんは、リンカーコアに酷いダメージを受けているけど、命に別状は無いそうよ」

 

会議室の議長席に座るリンディが告げ、なのはが反応する。

 

「わたしの時と同じように、闇の書に吸収されちゃったんですね」

 

クロノが言う。

 

「アースラの稼働中で良かった。なのはの時以上に救援が早かったから…」

 

「だね…」

 

同席するリーゼアリアが頷いた。

エイミィ・リミエッタが、申し訳なさそうに沈んだ表情で話し始める。

 

「2人が出動してしばらくして、駐屯所の管制システムがクラッキングで粗方ダウンしちゃって……それで、指揮や連絡が取れなくて、ごめんね……私の責任だ……」

 

(途中でオペレーションルームだけ連絡が途絶えたのは、そういう事か)

 

同席しつつも、事実上魔法サイドには素人の垣根帝督はオブザーバーに徹するつもりで、彼等の会話を聞きつつ1人黙って考えていた。

今度はリーゼロッテが会議室のテーブルの備え付けコンソールを叩き始めて告げる。

 

「…んな事ないよ。エイミィがすぐシステムを復帰させたから、アースラと連絡が取れたんだし」

 

テーブル中央に、件の仮面の男のホログラムが映し出される。

 

「仮面の男の映像だってちゃんと残せた」

 

リンディは映像を見ながら怪訝な顔をする。

 

「でもおかしいわね。向こうの機材は管理局で使っているものと同じシステムなのに、それを外部からクラッキングできる人間なんて、いるものなのかしら……」

 

エイミィもそれが1番気になっていたらしく、身を乗り出すように立ち上がって答える。

 

「そうなんですよ!防壁も、警報も、全部素通りで。いきなりシステムをダウンさせるなんて……!」

 

オペレーターの1人のアレックスも同意する。

 

「ちょっと、あり得ないですよね…」

 

「ユニットの組み換えはしてるけど、もっと強力なブロックを考えなきゃ」

 

時空管理局の機材やそのシステムの防御、警報機能はそれだけ強固なもので、生半可な知識やスキルの犯罪者やテロリストでは、外部からダウンさせるばかりか、クラッキングすら受け付けないはずだった。

そのはずなのに、こうもあっさりとノーガード同然でやられてしまった。

なのはもその仮説を前提に疑問が浮かび、リーゼロッテに訊いてみる。

 

「それだけ、凄い技術者がいるって事ですか?」

 

彼女も難しい顔をしている。

 

「うーん……もしかして、組織だってやってんのかもね……」

 

もっとも、これも可能性としてあり得るかもしれない仮説に過ぎない。前提として不明な事が多すぎる。

クロノが腕を組んで、右隣のアルフに尋ねる。

 

「君の方から聞いた話も、状況や関係がよく分からないな」

 

「ああ……あたしが駆け付けた時には、もう仮面の男はいなかった。いや、正確には結構離れた所でバックアップでフェイトに付いてった垣根が、仮面の男と戦いになってたみたい。けど、あいつが…シグナムがフェイトを抱き抱えてて…。『言い訳はできないが、済まないと伝えてくれ』って……」

 

クロノは、さっきから一言も発さずに退屈そうにしている垣根の顔を眼球だけ動かして、チラリと見た。

もちろん、垣根帝督本人からは戦闘時の詳細は聞いているし、借りていた端末から戦闘の記録映像も見た。

後半の垣根と仮面男の戦いは、主に垣根帝督の言動のせいで、正直どちらが犯罪者なのか分からない戦いだったが。

リンディは立ち上がり、アレックスに確認する。

 

「アレックス、アースラの航行に問題は無いわね?」

 

「ありません」

 

即答し、リンディは頷いて今後の方針を告げる。

 

「うん。…では、予定より少し早いですが、これより、司令部をアースラに戻します。各員は所定の位置に」

 

全員が返事した所で、彼女はなのはと垣根に目を向け、

 

「…と、なのはさんはお家に戻らないとね?垣根くんも」

 

「いや、俺は独り暮らしだし、そんな急ぐ必要ないですよ」

 

「あ…あ、はい…でも……」

 

退屈そうに答えた垣根とは違い、なのはは心配そうな顔で歯切れの悪い返事をする。

眠っているフェイトを心配している。

 

「フェイトさんの事なら大丈夫。私達でちゃーんと見ておくから」

 

リンディがそんななのはを気遣い、柔和に微笑みながら告げ、ようやくなのはも小さく微笑み返して頷いた。

 

「……、はい…」

 

そんな訳で、ミーティングは終了し解散となった。

 

リンディとアルフはしばらく、眠っているフェイトに付き添う事にし、他の面子も退室し今は会議室にはクロノ・ハラオウンと、今だに座ったままくだらなさそうに頬杖を突いている垣根帝督だけになっていた。

クロノは、垣根の隣に座り直して声をかける。

 

「……退屈だったか?」

 

「別に」

 

垣根は振り向きもせず、ボーッとしている。

そんな彼の態度を敢えて気にせず、クロノは続ける。

 

「でも、何か思う事がありそうに見えるぞ。さっきの会議中、途中から露骨に退屈そうな仕草になっていた。多分艦長も気付いてる」

 

「ハッ、よく見てるな。流石は執務官ってか?」

 

「君が露骨過ぎるだけだ。会議中は君だけ一言も話さなかったしな」

 

皮肉混じりに笑う垣根に、クロノは苦笑する。

彼はそれより、と言いながら、

 

「理由があるんだろう?そこまで興ざめするような理由が」

 

執務官クロノ・ハラオウンの目敏さに内心感心しつつ、垣根帝督はゆったりと笑う。

 

「あくまで俺の主観だし、仮説だ」

 

「構わない。君の意見を聞きたい」

 

「そうかい。なら言わせてもらうが……、今回の敵は、何も外部からだけとは限らねえんじゃねえのか?ってな」

 

「……というと?」

 

再び尋ねるも、クロノは言いながら垣根の考えが見えてきた。

だが、とてもではないが信じがたくもあった。

だが、絶対にあり得ないとも言い切れはしない……。

 

「分かるだろ?執務官。要するに内部犯罪の可能性だよ。管理局の局員か、嘱託含めて退役した実力者の元局員だとか、まあ俺や高町、ユーノみてえな民間協力者。管理局の内側を大なり小なり知っていて必要な実力が伴っていれば、誰でも良い。今回のクラッキングにシステムダウンを引き起こす事も満更不可能でもねえんじゃねえの?」

 

「しかし……、だとしたら何の為に?捕まえるんじゃなく闇の書完成の方へ加担するんだ?」

 

「そりゃ分かんねえよ。それこそ当人を引っ捕らえて訊いてみなくっちゃな」

 

彼は、はんっと鼻で笑いながら皮肉混じりに続ける。

 

「そう…だな。しかし、内部犯か……」

 

「あくまでも俺の仮説だ。せいぜい可能性の1つとして、頭の片隅にでもしまっといてくれ。本格的な犯人探しはアンタの仕事なんだろう?」

 

垣根はそう言うと立ち上がり、のそのそと気だるそうに歩いて退室した。

立ち尽くし、クロノは小さく呟いた。

 

「……、内部、か」

 

 

 

無限書庫。

ユーノ・スクライアはリーゼアリアの助けを得つつ持ち前の調査能力の魔法を駆使して、続けながら途中経過を別室のクロノ達に通信で伝えている。

 

『_うん、ここまでで分かった事を報告しとく。まず、闇の書ってのは本来の名前じゃない』

 

別室でモニターを眺めながら聞いているのは、オペレーションシートに座るエイミィと、その右脇に立つクロノ。左脇にはリーゼロッテが立つ。

垣根帝督も、彼等の一歩後ろに立っていた。

余談だが、移動中に垣根はリーゼロッテにクロノ同様に絡まれそうになったが、バレない程度に能力を使い、照準を意図的にずらすかのように彼女のスキンシップを回避していた。

ロッテはこの奇妙な現象に、終始首を傾げて怪訝な顔をし、クロノだけは失笑を必死に我慢していた。

話を戻す。

 

『古い資料によれば、正式名は「夜天の魔導書」。本来の目的は、各地の偉大な魔導師の技術を蒐集して研究する為に作られた、主と共に旅する魔導書。破壊の力を振るうようになったのは、歴代の持ち主の誰かが、プログラムを改変したからだと思う』

 

元々は優れた魔導師や魔法を記録して半永久的に残す為に造られた高性能『魔法』記録装置であり、『無限再生機能』や『転生機能』は記録の劣化や喪失防止の為の単なる『復元機能』でしかなかった。

 

『ロストロギアを使って、むやみやたらに莫大な力を得ようとする輩は、今も昔もいるって事ね』

 

リーゼアリアが言葉を紡ぐ。

 

『その改変のせいで、旅をする機能と破損したデータを自動修復する機能が暴走してるんだ…』

 

それらの説明を聞き、クロノとリーゼロッテが言う。

 

「転生と無限再生は、それが原因か」

 

「古代魔法ならそれくらいはアリかもね」

 

ユーノは説明を再開する。

 

『一番酷いのは、持ち主に対する性質の変化。一定期間蒐集が無いと、持ち主自身の魔力や資質を侵食し始めるし、完成したら持ち主の魔力を際限無く使わせる。無差別破壊の為に。…だから、これまでの主は皆完成してすぐに……』

 

(くたばっちまってる訳か。完成してもしなくても、主になったヤツは遅かれ早かれ死ぬ運命か。パワー切れまで暴れたら本だけ_)

 

「…そしてまた転生して次へ行くってか。おいおい、キリがねえな」

 

今まで黙っていた垣根がぼやいた。

クロノも、その辺はよく理解しているらしく、静かに言う。

 

「ああ。停止や、封印方法についての資料は?」

 

暴走を予防したい以上、できれば完成前に押さえて封印したい。

 

『それは今調べてる。だけど、完成前の停止は多分難しい』

 

「何故…?」

 

『闇の書が真の主と認識した人間でないと、システムへの管理者権限を使用できない。つまり、プログラムの停止や改変ができないんだ。無理に外部から操作をしようとすれば、主を吸収して転生してしまうシステムも入ってる』

 

リーゼアリアも溜め息混じりに告げる。

 

『そうなんだよねぇ。だから、闇の書の永久封印は不可能って言われてる』

 

リーゼロッテはエイミィの椅子の背もたれにもたれかかり、呆れた顔で言う。

 

「元は健全な資料本が、何というかまあ…」

 

「闇の書…夜天の魔導書も、可哀想にね……」

 

エイミィも眉をひそめる。

クロノは説明が一段落着いたと見て、ユーノに尋ねる。

 

「調査は以上か?」

 

『現時点では。まだ、色々調べてる。でも流石は無限書庫、探せばちゃんと出てくるのが凄いよ』

 

『…というか、私的には君が凄い。スッゴい操作能力』

 

ユーノに、リーゼアリアがツッコミを入れた。

 

「じゃあ、済まないがもう少し頼む」

 

『うん』

 

「アリアも頼む」

 

『はいよ。ロッテ、後で交代ね』

 

「オッケーアリアー。頑張ってね」

 

通信を終えた後、リーゼロッテもエイミィも、ユーノ・スクライアの類いまれなる調査能力を称賛した。

垣根は黙って聞いていた事を元に思考する。

 

(主以外ではプログラムの改変も停止も効かない。そればかりか外部から操作を受ければ自爆技で逃亡されちまうってか。どうやっても最終的には自爆技とかで逃げられて、同じ事の繰り返し。普通に考えたら、八方塞がりでどうしようもねえよな)

 

と思った割に、彼には諦めの類いは感じられない。

垣根ら思考し続ける。

口元に、薄い薄い笑みを張り付けながら。

決して口には出さず、胸中に収める。

 

(ならば、俺ならどうなんだろうな?(、、、、、、、、、、、))

 

禍々しい冷笑の中に、好奇心に満ち溢れた無邪気さを内包した表情で、純粋な問いかけを思い浮かばせている。

 

(俺の『未元物質(ダークマター)』は、闇の書には……いや、この世界のどこまで通用するんだ?)

 

クロノがしばらく何かを考えた後、エイミィに告げる。

 

「エイミィ、仮面の男の映像を」

 

「はいな」

 

複数の記録映像がモニターに映し出されていく。

リーゼロッテが尋ねる。

 

「何か考え事?」

 

「まあね」

 

エイミィは画像の仮面男を見ながら、驚愕しつつも怪訝な顔で言う。

 

「この人の能力も凄いというか……、結構あり得ない気がするんだよねえ」

 

コンソールを叩きながら解説し、疑問点を上げていく。

 

「この2つの世界、最速で転移しても20分は掛かりそうな距離なんだけど…なのはちゃんの新型バスターの直撃を防御、長距離バインドをあっさり決めて、それから僅か9分後にはフェイトちゃんに気付かれずに、後ろから忍び寄って一撃。しかも介入してきた垣根くんにも気付かれずに背後を取って、魔力奪取には失敗しても攻撃からも逃げ切って逃亡」

 

リーゼロッテも言う。

 

「かなりの使い手って事になるねえ」

 

「そうだな…僕でも無理だ。ロッテはどうだ?」

 

クロノがリーゼロッテ訊いてみるが、彼女も苦笑して左手をヒラヒラと振って否定する。

 

「あ~無理無理。あたし、長距離魔法とか苦手だし」

 

エイミィがリーゼロッテに振り向いて告げる。

 

「アリアは魔法の担当、ロッテはフィジカル担当で、きっちり役割分担してるからね」

 

「そーそー」

 

クロノは若干うんざりした顔で溜め息混じりにぼやく。

 

「昔はそれで、酷い目に遭わされたもんだ」

 

「その分強くなったろう?」

 

ロッテは何か気に食わなかったのか、ムスッとした声で語気を強くして答える。

 

「感謝しろっつーの!」

 

垣根帝督は、彼等のやり取りを尻目に考える。

 

(転移に本来は最速でも20分掛かるとこを9分に短縮、スキルや能力者によっては可能か?それより何より、魔力奪取の時だ。俺にしても、疲労していたとはいえテスタロッサにしても、簡単に背後を取られるほどヘボじゃねえ。なのに、実際に腕突っ込まれるまで全然気付けなかった……)

 

学園都市では序列第二位の超能力者(レベル5)として、『未元物質(ダークマター)』という類いまれで強力な能力を操る者としてのプライド、暗部に身を置き暗躍してきた垣根は、自分が年齢の割には実戦経験が豊富で注意力等には自信を持っていた。

故に嫌悪し腹を立てる。

しかも取られても惜しくはないとはいえ、魔力を強奪されそうになった。

その傲慢さが彼には許せない。

義憤やら犯罪幇助等に対する正義感ではない。ただ単にムカつく。

理由はそれだけで良い。

だから、次に遭遇した時は正当防衛の建前で最低でも半殺し、もしくは、

 

(最っ高に、本当に大したムカつきっぷりだ。やっぱ、あわよくばぶち殺さなくっちゃダメみてえだ)

 

焦げ茶色のジャケットを纏って立ち尽くす茶髪の少年。

垣根帝督は、暗く光の無い瞳でモニターを睥睨し、眉間にシワを寄せて口には出さず胸中だけで呟いた。

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