魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter   作:戸礼太

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八神はやて

12月13日。

 

フェイト・テスタロッサは海鳴市に戻り、通常通り登校できるようになっていた。

体調には問題ないが以前のなのは同様に現状、魔法は使えない。

フェイトはなのはと登校しながら、念話で今後の方針について話していた。

当面、なのはとフェイトも呼び出しがあるまではこちらで生活しているようにと指示された。

早い話が出動待ちという訳だ。

武装局員を増員して追跡調査の方をメインに切り替えている。

余談だが、垣根帝督はその話を聞いた後に市内に展開していた『スクール』の下部組織の撤収を兼ねて、途中経過(虚偽)の報告と能力のチェックの為に学園都市へ一時帰還をしていた。

クロノには伝えたが、なのはとフェイトには黙って。

一応今日中には再び海鳴市に来る予定ではあるが。

 

「…入院?」

 

教室でカバンを机に置いたフェイトが言った。

右隣に立つなのはが机の向かい側に立って心配そうに話すすずかに言う。

 

「はやてちゃんが?」

 

八神はやてとは直接会った事は無いが、すずかを通して互いに知っていた。

 

「うん、昨日の夕方に連絡があったの。そんなに具合は悪くないそうなんだけど…検査とか色々あってしばらく掛かるって……」

 

「そっか……じゃあ、放課後皆でお見舞いとか行く?」

 

フェイトの左隣に立つアリサが、明るい口調で言った。

すずかの表情が少し晴れる。

 

「…良いの?」

 

「すずかの友達なんでしょ?紹介してくれるって話だったしさ。お見舞いも、どうせなら賑やかな方が良いんじゃない?」

 

アリサはすずかからなのは達の方へ向き提案してみる。

お見舞いついでにはやてを励まして、元気付けられないかと思った。

しかし、なのはは少し難しい顔をする。

突然大勢で押し掛けても、却って迷惑になるかもしれないと思うからだ。

 

「うーん……、それはちょっと、どうかと思うけど……」

 

言って、フェイトに目を向ける。

フェイトはなのはと、すずかに笑いかける。

 

「でも、良いと思うよ?ねっ?」

 

すずかは嬉しそうにニッコリ笑う。

 

「うん…!ありがとう」

 

彼女は早速、はやての携帯電話にメールを送る。

『早く良くなってね』と書いた大きな紙を持った4人の写真を添付して。

 

「あ、そうだ」

 

その時、フェイトが何か思い付き、ポンッと手を叩く。

 

「ねえなのは。あの人(、、、)も呼ばない?」

 

「え?あの人って……、もしかして…」

 

「うん」

 

フェイトはニッコリ笑うが、なのはは嫌そうに眉を寄せた。

 

「ええー……、でも電話もメールも平気で無視するし、どうやって呼び出すの?はやてちゃんにも迷惑じゃない?」

 

「そこはわたしも考えがあるから、協力してくれない?それに……」

 

フェイトは気が進まなそうななのはに含み笑いを浮かべて告げる。

 

「会ってる時はよくからかわれたりして振り回されてるんだし、たまにはわたし達が振り回しても良いんじゃないかな?」

 

それを聞いてなのはの表情が色めき立つ。

『彼』は頭が良くズル賢く変な所で大人びた雰囲気だが、自分のペースを乱されると案外弱そうな所がある。

しかも短気で意固地になると年相応に子供っぽくなる。

なのはも含み笑いをしてフェイトと見つめ合う。

 

「うん、そうだね。たまには、良いよね♪」

 

「そうだよ♪」

 

微笑み合う2人の美少女。

しかし、アリサとすずかには悪巧みする悪戯っ子にしか見えなかった。

 

「なのはちゃんもフェイトちゃんも、どうしたの……?」

 

「アンタ達、何考えてるの?」

 

若干引き気味に尋ねると、フェイトが言う。

 

「すずか、お見舞い行くのはもう1人増えても大丈夫?」

 

「あ、うん。大丈夫だと思うよ。一応伝えておくけど…」

 

すずかの返事を聞いて、ニンマリしながら今度はなのはが言う。

 

「じゃあ、わたしとフェイトちゃん、垣根くんを巻き込…誘おうと思うんだけど、良いかな?」

 

「アンタ今巻き込むって言いかけたわね」

 

とアリサがツッコむ。

そう、『彼』とは、今日も学校には来ていない、来る事の無い男、垣根帝督。

すずかも意外そうにしている。

 

「垣根くんを?まあ、わたしは別に良いけど…」

 

「あたしも良いわよ、色んな意味で興味はあるし。でも呼び出せるの?」

 

「うん、やってみないと分からないけど、一応いくつか『秘策』もあるから」

 

そう言ったなのはは、またフェイトと笑顔で見つめ合う。

どうやって垣根を呼び出すのか、まだ相談もしていないはずなのに、以心伝心しているかのように、

 

「「ね♪」」

 

息ピッタリだった。

 

「いや、清々しい笑顔だけど、悪巧みしてるようにしか見えないわよ」

 

「あはは……。しかも、垣根くんの事情はお構い無しなんだね……」

 

垣根帝督という2人しか知らない少年の事になると、途端にいつもの彼女らしくないというか、その人に対してだけいつも以上に砕けた様子になる高町なのはと、どうやらそんな彼女の影響を受けたのか、最近似たような調子になっているフェイト・テスタロッサ。

呆れ顔のアリサ・バニングスと苦笑いする月村すずか。

そこでふと、すずかがリモートカメラが設置されている垣根の机に目をやった。

パッと見いつもと変わらないが、1つだけ大きな違いがあった。

 

「……あれ?今日はまだ、垣根くん起きてないのかな?」

 

「どういう事?」

 

アリサが怪訝な顔で言う。

なのはとフェイトも尋ねる。

 

「え、起きてないって?」

 

「何で分かるの?」

 

すずかは垣根の机に近付き、設置されているリモートカメラを指差す。

いつもなら稼働中は点灯しているはずの赤いランプが点いていない。

 

「ほら、このランプが消えてるって事は、このカメラ動いてないって事なんだよね」

 

「え、じゃあ……」

 

フェイトが呟いた所で、なのはが携帯電話を取り出して垣根帝督の携帯番号にかける。

 

「寝坊でもしたのかなぁ…?それともサボり?試しに電話してみる!」

 

また留守電になるまで無視されるかもしれないが、もしかしたら寝起きでうっかり出てくれるかもしれない。

そう思ったのだが……、

 

「……、」

 

しばらくして、なのはが無言で固まる。

 

「な、なのは、どうしたの?やっぱり、無視……?」

 

フェイトがおずおずと尋ねると、なのははギギギと油の切れたロボットみたいに振り向き、虚ろな目で無の表情で、静かに告げる。

 

「……電波が届かない所にいるか、電源を切ってる為、繋がらないって…」

 

「「「……、」」」

 

3人とも、どう声をかけて良いか分からなかった。

フェイトから見た垣根帝督の性格と行動範囲を考えると、平日のこんな時間に、電波が届かないような所にいるのは考えにくい。

十中八九、電源を切っているのだろう。しかも意図的に。

それを勘づいたのか、なのはも怒っているのがすぐ分かるほどワナワナと体を震わせている。

電話自体が繋がらないのでは、策も機能しない。

フェイトは宥めるように、彼女の肩に手を置く。

 

「…なのは、一応メールだけ送っておいて、数時間おきに電話してみよう?わたしも試してみるから……」

 

彼女はフェイトの言葉には答えず、プルプルしながら握っている携帯電話へ、画面に映る電話帳の垣根の名前に思わず感情をぶつける。

 

「もぉーーーーッッ!!垣根くんの馬鹿ぁーーーーーーーーーーッッッッ!!!!」

 

なのはの叫び声が教室中に響き渡り、談笑していた周りのクラスメイト達もビクッ!!と肩を震わせた。

周囲の注目を受ける中すずかとフェイトが再び宥めようと声をかける。

 

「な…なのは……」

 

「なのはちゃん…落ち着いて?……ね?」

 

2人の声でようやくハッとなったなのはは、顔を真っ赤にして小さくなる。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

彼女は羞恥心で真っ赤な顔のまま、すごすごと自分の席に着いて机に顔をベターっと踞るように隠してしまった。

 

(もー!!これも全部垣根くんのせいだよー!!)

 

とりあえず、全て垣根帝督のせいにして、クールダウンする事にした。

フェイトもアリサもすずかも、そんななのはに同情し今日はいつも以上に優しくしようと思うのだった。

 

 

そして放課後。

聖祥小学校の校門前に立っている4人の少女達。

彼女達は、とある人物を待っていた。

そのとある人物には、主に高町なのはとフェイト・テスタロッサ、更には2人から連絡先を教わった月村すずかとアリサ・バニングスによる度重なる電話とメール攻撃を行い、ようやく呼び出すのに成功した。

そんな訳で。

校門前の路肩に1台の、黒塗りで窓が全てフルスモークのスポーティータイプのステーションワゴンが停車した。

助手席のドアが開き、のっそりと1人の子供が降りてくる。

前髪の長い茶髪、同い年だが少し背丈は高く、年相応に端正容貌だが前髪から覗く悪い目付きでどちらかというと悪人面と言える顔、焦げ茶色のジャケットに黒いモッズコートを纏った痩身の少年。

少年はステーションワゴンが走り出した後に、校門前に立つ少女達の姿を確認すると露骨に眉間にシワを寄せ、不機嫌な顔をして両手をズボンのポケットに突っ込んで歩み寄ってくる。

学園都市出身の能力者、垣根帝督。

彼を待っていた、ニコニコとわざとらしい笑顔のなのはとフェイト。

 

「ふーん、あの子が垣根って子なのね。……何かガラ悪そうね」

 

歩いてくる垣根の容貌を見てアリサが漏らす。

すずかは、彼の姿を見て怪訝な顔をしていた。

 

(あの人……何か見覚えあるような……。もしかして……でも、人違いかもしれないし……)

 

そう思っている間に、お互いに姿がハッキリ見えるようになってきた所で、なのはとフェイトがわざとらしい笑顔のまま声をかける。

 

「待ってたよ、垣根くん♪」

 

「学校でこうして会うのは初めてだね♪」

 

垣根が待っていた彼女達、なのはとフェイトの前に立ち止まり、忌々しそうな声で言う。

 

「お前等正気か?2人がかりでイタ電しまくってきたと思ったら、知らねえ番号からかかってきたり、知らねえアドレスからもメール来たり、何のつもりだ」

 

開口一番に毒吐いてきたが、腹の立つニコニコのままなのはもフェイトも悪びれずに答える。

 

「だって、初めは垣根くんの携帯電源切れてたし、普通に呼ぼうとしても電話は出てくれないしメールも無視なんだもん」

 

「しかも、今日はリモートカメラ動いてなかったよね。寝坊でもしたの?それとも休んだの?」

 

彼女達の『秘策』とはこの事だった。

なのはとフェイトの携帯からだけでなく、連絡先を渡したアリサとすずか、挙げ句の果てには在宅中のリンディやなのはの母に頼んで家電からも電話をかけさせてみるという、端から見れば嫌がらせ以外の何物でもない内容だった。

幸いなのは、この2人がこんな事をしでかすのは、相手が垣根帝督の時だけだろう。

チッと小さく舌打ちの音を立てて、鬱陶しそうな表情で言う。

 

「能力のチェックやら私用やら学園都市に戻ってたんだよ。休んだのはそれが理由だ。つーか、お前達のイタ電で呼び出されたから、こうして学園都市から直行してきてやったんだよ」

 

「えーっそうだったの?聞いてないよ?」

 

「わたしもだよ?」

 

事もなげに言った垣根になのはとフェイトが目を丸くするが、彼は構わず吐き捨てるような口調で続けた。

 

「そりゃお前、もちろん言ってないからな。つーかお前等に言う必要ねえだろ」

 

「「むー……」」

 

歯牙にもかけない態度と物言いに若干むくれる2人。

アリサとすずかは引き気味に苦笑いで、やり取りを眺めている。

 

「……聞いてた通り、愛想の悪いというかガラの悪い人ね」

 

「……うん、何て言うか、ある意味凄い人だね」

 

垣根帝督は眉をひそめてくだらなさそうな表情のまま、そんな事より、と言いながらジロリとなのは達に鋭い視線を向ける。

 

「……何で俺がお前達の(ダチ)?っつーか知り合い…の見舞いに行かなくっちゃならないんだ?俺にしてもそいつにしても、見ず知らずの他人なんだろうが。意味ねえ所か迷惑だろ。俺にとっても迷惑だ」

 

言葉遣いは悪いが、彼は至極真っ当な事を言っている。

しかし、なのはがデフォルメした雰囲気の笑みでサムズアップしてきた。

 

「そこは大丈夫!」

 

「あ?…ってか、その顔とサムズアップムカつくな」

 

「ちゃんとはやてちゃんのご家族に、すずかちゃんからオッケーもらってるから!」

 

フフンッと自信たっぷりに無い胸を張って、告げた。

垣根は彼女達に向けた視線が段々、半目になっていく。

隣のフェイトも似たような雰囲気で、悪戯っぽく笑っている。

 

「だから、気にしなくて良いよ。一緒に行こう?」

 

「気にするしない以前に、行きたくねえんだけど。そんなアウェー感しかない、知り合いの知り合いの知り合いのお見舞いとか」

 

なのはもフェイトも、このまま巻き込んでお見舞いに付き添わせる算段なのだろうと悟り、何とか断って帰る方向に持ち込もうと考えた時、彼女達の少し後ろにいた黒紫色の髪の少女が声をかけてくる。

 

「あの、垣根…帝督くん……だったよね?」

 

「あん?アンタは……」

 

声をかけられた垣根は、視線をなのはとフェイトからすずかに移した。

すずかに続く形でアリサも声をかける。

 

「リモートカメラ越しで見た事あると思うけど、私、なのはちゃんとフェイトちゃん、あと隣のアリサちゃんの友達で月村すずかです」

 

「初めまして。といっても、あたしもすずかと同じく見た事はあると思うけど、あたしはアリサ・バニングスよ。宜しくね」

 

「ああ……、ご丁寧にどうも。高町達から聞いてるかもしれないが、俺は垣根帝督。宜しく。垣根で良い」

 

2人に自己紹介され、ようやく彼も改めて名乗り顔合わせが済んだ。

さて、と呟いて垣根はゆっくり歩み始める。

 

「じゃあ俺帰るわ」

 

「「ダメ」」

 

なのはとフェイトに即却下された。

垣根がイラッと眉を動かしていると、しばらく彼の顔を見ていたすずかが再び声をかける。

 

「あ、垣根くん。その…違ってたらごめんね?もしかしてだけど、2週間近く前、今月の初めに市内の図書館に行った事ってある?」

 

「2週間近く前に?……ああ、行ったな」

 

垣根は僅かに視線を上に向けて記憶を辿る。

彼は確かに今月初旬に、市内の図書館に行っていた。

その時一悶着もあり、当時の事をうっすら思い出していると、すずかは続けて尋ねる。

 

「じゃあ、何か無かった?帰る時とかに」

 

そこまで言われた所で、彼は気付いた。

彼にとっては大した出来事ではなかった為、誰にも話していなかったがすぐに忘れるほどの事でもない。

 

「まさか……」

 

「うん♪」

 

特に平和な街の一般人にしては一大事だっただろう。

一瞬あ、と呟いて彼女の顔に視線を戻すと、すずかは嬉しそうにニッコリと柔和な笑みを浮かべていた。

あの時、チンピラ中学生に絡まれていた少女達の片方。

聖祥小学校の制服に通学用コートを纏った姿、髪型、あまりハッキリ見ていた訳ではないが、記憶と一致した。

 

「お前、あの時絡まれてたヤツか?」

 

「うん、あの時は助けに入ってくれてありがとう。ちなみにその時隣の車椅子の子が、これからお見舞いに行く子なの。八神はやてちゃん。……はやてちゃんも、もしまた逢えたら一言お礼を言いたいって言ってたから、垣根くんがその人なら迷惑所か、大歓迎だと思うよ」

 

「別にアンタ等を助けたつもりは無いんだがな、邪魔な石ころをどかしただけだし。しかし……ははあ、そういう事か。あの時のヤツが高町達の友達だったとはな」

 

笑顔で声を弾ませて嬉しそうに話すすずかと、目を丸くし何か納得した様子で答える垣根。

そんな2人を交互に見て、アリサが怪訝な顔をする。

 

「え、アンタ達顔見知りだったの?」

 

「うん、ちょっとね。私も今ようやく分かったんだけど」

 

なのはとフェイトは垣根帝督に、眉をひそめて尋ねる。

 

「垣根くん、すずかちゃんの事知ってたの?」

 

「聞いてないよ?また秘密にしてたの?」

 

いつもの言う必要が無いという理由で黙っていたのか、と2人はジトーっとした目で彼を見つめる。

しかし垣根は誤解だよ、と溜め息を吐いてからくだらなさそうに言い始めた。

 

「確かに言う必要が無いとも思ってたが、別に秘密にしてた訳じゃねえ。その時は絡まれてたのが月村と八神っつったか…そいつ等だったかなんて知らなかったし、俺にとっては大した事じゃなかったから月村に言われるまで忘れてたんだよ」

 

「本当に……?」

 

「疑り深いヤツだな。高町(オマエ)がムカつくっつー理由で帰って良いか?」

 

「それはダメ」

 

日頃の行いのせいとはいえ、まだ疑いの目で見てくるなのはに垣根も苛立ち始めた。

アリサが2人の間に割って入り、手を叩いて仲裁する。

 

「はいはい2人ともそれくらいにして。立ち話も何だから、続きは病院へ行きながらにしましょ?」

 

「うん、そうだね。歩きながらすずかと垣根から話聞けば良いし」

 

フェイトも同意し、両手をズボンのポケットに突っ込んだまま行く気の無い垣根の左手首を掴み、なのはも彼の右手首を掴んで引っ張り、無理矢理歩き始めた。

 

「高町、テスタロッサ、お前等何してる訳?俺行くなんて一言も_ッ?」

 

不意に、後ろから背中を手で押され始めた。

びっくりして振り向くと、月村すずかがニコニコしながらグイグイと背中を押していた。しかもかなり強い力で。

 

「月村まで何してんだ?…つーか、結構力強いなお前」

 

ジロリと軽く睨むが、彼女は怯まない。

この状況に楽しそうに笑顔で、

 

「まあまあ、そんな固い事言わずにね?はやてちゃんに会わせたいし、一緒に行こうよ♪」

 

「いや…両脇固められてる時点でどっちかっつーと、連行だろこれ」

 

言いながらグイグイとすずかは垣根の背中を押していき、なのはとフェイトの3人がかりで病院を目指して進んで行く。

アリサもその様をクスクスと笑いながら言う。

 

「可愛い女の子3人に囲まれて良かったじゃない。そんなしかめっ面しないで喜ぶべきよ?」

 

「俺はそんな事望んでねえんだよ、鬱陶しい。何でお前達、揃いも揃って強引なんだよ?」

 

悪い目付きにしかめっ面で悪人面に磨きがかかった顔で、彼はアリサに尋ねるが、彼女はニヤニヤと面白そうに笑っていた。

垣根帝督に味方はいない。

 

「さあ、なのはもフェイトも普段はそこまで砕けた態度とか取らないから、垣根(アンタ)の日頃の行いじゃないの?心当たりあるんじゃない?」

 

「そんな事は……」

 

あった。

垣根帝督も彼女達に対して、ガサツな態度を取っている自覚は確かにあった。

その反動というか、反撃というか、そういう事ならある程度合点がいく。

しかしこれ以上、校門付近の通学路で悪目立ちしたくはない。

 

「はぁー、もぉー分かった分かった」

 

半ば投げやりな口調でそう言うと、垣根はなのはとフェイトの手を振りほどく。

溜め息を吐き、半ば諦めた顔をして吐き捨てるように告げる。

 

「……お前等に付き合うから、この連行スタイルはやめろ」

 

自分のペースを乱され、強引な展開に持っていかれると案外、逃げるか折れるかしかできなかった。

なのはとフェイトは念話で密かに喜びを分かち合う。

 

〈やったねフェイトちゃん!〉

 

〈うん、大成功!〉

 

嬉しそうに愉しそうにしている少女達に、内心ムカつきながらも彼は渋々付いていく。

そして歩きながら、すずかが図書館での出来事を話し始める。

前にもこの件について話した事はあったのだが、今回は垣根帝督の視点も交えて経緯を説明する事に。

 

「……へぇー、じゃあその時の男の子が垣根(アンタ)って訳だったのね」

 

「そうなるな。まあさっきも言った通り月村達(こいつら)を助けるとかじゃなくて、邪魔な石ころどかしただけなんだがな」

 

アリサが感心して垣根の顔を見るが、当の本人はくだらなさそうだ。

しかし、すずかは相変わらずニコニコしながら彼に告げる。

 

「それでも、あの時は私もはやてちゃんも垣根くんのお陰で助かったんだよ?あの時あのままだったら、何されてたか分からなかったし」

 

そうかい、と垣根も相変わらず興味の無さそうな態度で答えた。

なのはとフェイトは、基本的に他人に対する関心の薄そうな垣根帝督にしては珍しいと感心する一方、強力な能力者である彼が正当防衛の建前で不良中学生を文字通り病院送りにした事には少し引いた。

 

「すずかちゃんとはやてちゃんに絡んだ人達が悪いのは当然だけど…でも、病院送りにするほど大怪我させる事もなかったんじゃないかな……?これじゃどっちが悪い人なのか分からなくなりそうだし……」

 

「もう少し、穏便に済ませる事はできなかった……?」

 

と2人が垣根に説いてみるが、彼は聞く耳を持たない。

 

「はあ?何言ってんだお前等。まともに会話する気の無いヤツ等とどう穏便に済ませるんだよ。人道的立場に立って説得を試みるか?」

 

「(……でも、能力使ったんでしょ?)」

 

なのはが確認するように、垣根の傍らに並んで小声で話しかける。

垣根は何の気なしに答えた。

 

「(……そりゃもちろん。自己防衛の為に最低限は)」

 

「(……殴った相手の歯が折れたのに?)」

 

「(……殴った時と殴られた時に自分に来るダメージを軽減させてたただけだ。そこまでわざとやった(、、、、、、、、、、)訳じゃねえよ)」

 

少し咎めるように言ってきたなのはに、彼は声のトーンを上げて普通の声量で続ける。

 

「……蜂や蚊に纏わりつかれたり邪魔されたりしたら、誰でも殺虫剤で殺すなり、叩き潰すなりするだろ。だから俺も障害物だった連中を叩き潰した。それのどこが悪い?」

 

垣根帝督にとっては、学園都市におけるスキルアウトと同レベルの連中を説得など生温い。

誰が蜂や蚊との対話やら説得やらを期待できるというのか。

馬鹿を言うな。

害虫は駆除するに限る。

そういう事をいけしゃあしゃあと宣う。

 

(……照れ隠しのつもりで言ってたのかもと思ってたけど、もしかして……)

 

(……本当にすずか達が眼中に無かっただけ……?)

 

そう思いながら、苦笑いするしかなかったなのはとフェイトだった。

 

 

海鳴大学付属病院に到着した一同。

その院内の病室の1つ、表札には『八神はやて』とあった。

ドアをコンコンとノックするとすぐに返事が来た。

 

「はぁーい、どうぞー」

 

柔らかな声が室内から聞こえた。

スライドドアが開き、こんにちはー、と声色の違う4人の女の子の声が室内のベッドから身を起こしている少女の耳に届く。

部屋に入ってきたのは、白い同じ学校制服を纏った4人の少女達と、焦げ茶色のジャケットを崩した着こなしで纏った1人の少年だった。

なのははお見舞いの品に翠屋のケーキを持参、隣のすずかは花束を持っている。

彼女達の少し後ろには、少し背の高い少年が両手をズボンのポケットに突っ込んだまま、黙って突っ立っている。

 

「こんにちは-、いらっしゃい♪」

 

八神はやてはすずか以外の初めての面々を見て、嬉しそうに声を弾ませる。

 

「お邪魔します。はやてちゃん、大丈夫?」

 

そう言ったすずかは、続けて心配そうに尋ねた。

はやては調子の良さそうな雰囲気で答える。

 

「うん、平気や。あ、皆、座って座って」

 

「ありがとう」

 

「コート掛け、そこにあるから」

 

なのはがケーキ箱を差し出す。

はやてが更に表情を明るくさせた。

 

「あ、これね、うちのケーキなの。」

 

「そうなん?」

 

「すっごく美味しいんだよ~」

 

「めっちゃ嬉しいわ~♪」

 

と、挨拶もそこそこに談笑が始まる。

談笑には加わらず、退屈そうに手持ち無沙汰な様子で立っている少年に、はやてが声をかける。

 

「あ、そこの君もどうぞ座って……って、あ!」

 

はやてが何気なく彼の顔を見て、気付いた。

黙ったままの少年…垣根帝督に代わって、すずかが言う。

 

「あ、そうそう!あの時図書館で助けてくれた、垣根帝督くん。しかも私達のクラスメイトだったの♪」

 

紹介された垣根ははやてから見て右端のフェイト・テスタロッサの隣に座って、すずかに反論するように口を開いた。

 

「だから助けた訳じゃねえよ。何度も言ってるだろ」

 

言ってはやての方へ顔を向けると、彼女は何が嬉しいのか、柔和な笑顔で彼を見ている。

垣根が僅かに怪訝な顔をしていると、はやてが言う。

 

「……でも、あの時わたし達はホンマに助かったと思ったんよ?もしまた逢えたら一言くらい、お礼が言いたかったんや。だから、ありがとう」

 

「ほら、はやてちゃんもそう言ってるし、私も同じ気持ちだからここは素直に受け取って?」

 

優しく柔らかな関西弁で話す少女に、直球で礼を言われ内心戸惑いを覚える。

すずかも補足するように言ってきた。

言われ慣れない事を言われ、数秒黙っていたが小さく息を吐いて答える。

 

「……、そうかい、なら好きにしな」

 

「素直じゃないわねー」

 

「うるせえ馬鹿野郎」

 

アリサがにやけながら口を挟み、それに毒吐いて返した所で改めて一応、自己紹介する事にした。

 

「…ああさっき月村が言った通り、俺は一応こいつ等の知り合いで同級生、今日はとばっちりで来た。俺の名前は垣根帝督。垣根で良い」

 

八神はやてが鷹揚に頷く。

そしてニッコリ笑って言う。

 

「うん、これから宜しゅうね。帝督くん(、、、、)♪」

 

「……、」

 

「……、」

 

「……、」

 

「……、」

 

「……、」

 

はやて以外の全員が絶句し、この瞬間、沈黙がこの場を支配した。

それを破ったのはやはり、眉をひそめて彼女をジロリと見つめていた垣根帝督。

 

「……いや、だから垣根で良いっつったよな?」

 

苛立つ、というよりは何だこいつ、とでも言いたそうな感じだった。

しかしはやては柔和に笑ったまま、いつぞやの高町なのはやフェイト・テスタロッサの時とはまた違う、悪戯っぽくというよりは素で楽しそうな表情でいる。

 

「でも『で良い』って事は、帝督くんって呼んだらアカンって訳でもない(、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、)やろ?」

 

「馴れ馴れしい。垣根で良い」

 

「わたしは友達の友達と、わざわざ苗字呼びする方がよそよそしくて嫌やなぁー♪」

 

「俺は月村達と友達じゃねえし」

 

「ほな、今からわたしと友達になろ。そしたらすずかちゃん達とも友達って事でもええんやない?」

 

「断る」

 

「ほなわたしはそれをお断りするわ♪」

 

なのはみたいにプンスカと怒り出してペースを呑まれる事も無く、一歩も退かないはやて。

垣根から向けられる鋭さを内包した眼光に、はやては柔和さとどこか芯の強そうな視線で見返している。

端から見ると、どこか緊張感の無い睨み合いにも見つめ合いにも見える。

その様子を見てすずかは、垣根は意外とはやてとも仲良くできそうな気がして、クスリと小さく笑った。

そして仲裁するように告げる。

 

「そういえば、垣根くんは学園都市出身の能力者なんだよね。折角だから、学園都市の事とか超能力の事とかのお話をしてくれない?」

 

「あ、そうなん?スゴいなぁ~、興味あるわ~。是非聞きたいな~♪」

 

すずかの言葉ではやては、興味津々といった感じで目を爛々と輝かせて垣根を見つめてきた。

まだカタが着いていないのだが、垣根は話題を変えられ気に入らなさそうにしていたが、病人の手前、ここは折れる事にした。

 

「……はあ、分かったよ。まあ、調べりゃ分かるような事とか、当たり障りの無い程度しか話せないと思うが、それでも良いか?」

 

「もちろんええよ。そこに住んでる本人から聞けるなんて、滅多に無いもん♪」

 

……という訳で、八神はやてのお見舞いの後半は、垣根帝督による学園都市講話となった。

 

1時間ほど話して、今日は帰る事にした。

 

 

「お友達のお見舞い、どうでした?」

 

お見舞いの品の花を花瓶に活けながら、シャマルが言った。

はやては弾んだ声で答える。

 

「うん、皆ええ子やったよ。楽しかった。また時々来てくれるって♪」

 

「それは良かったですね」

 

「せやけど、もうすぐクリスマスやなぁ。皆とのクリスマスは初めてやから、それまでに退院してパーっと楽しくできたらええねんけど」

 

「そうですね。できたら良いですね…」

 

シャマルはそう言って微笑み、スタンド式の日捲りカレンダーに目をやる。

はやては『クリスマスデイズ』というタイトルの本を持ち上げて、嬉しそうに、待ち遠しそうに笑っていた。

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