魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter   作:戸礼太

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A's編は年内に終わらせたかったのですが……難しそうです。


運命

「デアボリック…エミッション。闇に……染まれ」

 

放たれた空間砲撃を、装甲の薄いフェイトの前に出て代わりにシールドを張り、防御するなのは。

 

『Excellion Shield』

 

空間砲撃はあっという間にこの場一帯を呑み込み、手のひらで押し潰されたような巨大な爆発を起こした。

闇の書の意志……管制融合騎の女は、左手で両目から流れる涙を拭うと平淡な口調で告げる。

 

「自動防衛、一時停止……。これよりしばしは私が主をお守りする。ナハト……ただの防衛プログラムであるお前を責めはしない。全ては、私に責がある。せめてあと少し、大人しくしていろ」

 

ナハトヴァールは本来、術者と管制融合騎を危険から保護する為のシステムだが、プログラム改変によって防護機能と自律行動機能な異常をきたしており、闇の書完成後は一定時間で暴走状態となる。

闇の書の管制融合騎は、本来は『夜天の書』の主に付き従い、管理を行う存在だったが改変の日々の中でいつしかナハトヴァールの管理下に置かれ、その行動の殆どを封じられていた。

戦闘においては主と融合して主の守護を行うほか、単身でも騎士達を束ねる前線指揮官としても働けるよう高い戦闘能力を有している。

また、闇の書に蓄積された魔力と魔法を自在に行使できる。

蛇の塊に左腕を伸ばし、中心部の鎖の付いた手首にはめる装飾品のようなものを装着した。

これがナハトヴァールの装備状態で、管制融合騎による制御が効いている間ら正しく使用者を守り、強力な腕部武装として使用する事が可能。

ナハトヴァールはすぐに武装形態へ変形した。

槍射砲と呼ばれる種別の武装で、腕に固定された槍を撃ち出して対象を破壊する近接武器。

 

「我が主…どうかしばし……私の中でお休みください」

 

 

その頃、現場より少し離れた位置でその様子を見ていたのは、先ほどまで垣根帝督との戦闘で細かく負傷を負っていた2人の仮面の男。

 

「……よし、結界は張れた。予定と違うが概ねの流れはこちらの思い通り。デュランダルの準備は?」

 

「できている」

 

答えた男の手には、白を基調とした待機状態のデバイス。

 

「持つかな?あの子達」

 

「暴走開始の瞬間まで、持って欲しいな」

 

仮面の男達は、闇の書を覚醒した主ごと封印する為に行動していたのだった。

仮面の男達が話していると、2人に突如として蒼白いバインドが絡み付き拘束し、強化魔法を無効化する魔法が行使された。

目の前に現れたのは、執務官のクロノ・ハラオウン。

 

「ストラグルバインド。相手を拘束しつつ、強化魔法を無効化する。あまり使い所の無い魔法だけど、こういう時には役に立つ」

 

拘束された仮面の男達がもがき苦しみ出す。

体が光り、魔法が解けてゆく。

 

「変身魔法を、強制的に解除するからね」

 

「「うわあああああああああああッッッッ!!!!!?」」

 

変身魔法が解けて、仮面はそのままだが見覚えのある、2人の使い魔が姿を現した。

カランと、クロノ・ハラオウンの足元に仮面が転がる。

リーゼロッテとリーゼアリア。

ギル・グレアムの使い魔。

クロノはある程度予想していたかのような表情をする。

 

「クロノ…このぉ……ッ!!」

 

「こんな魔法、教えてなかったのになぁ」

 

恨めしそうに言うロッテとアリア。

クロノは少しだけ複雑な面持ちで静かに答える。

 

「1人でも精進しろと教えたのは、君達だろう……。アリア、ロッテ」

 

そんな時、ドシャッ!! と、彼の傍らに何かが墜落するように着地した。

敵の空間砲撃の防御に失敗してはね飛ばされてきた、超能力者(レベル5)の少年。

 

「痛ってえな。衝撃吸収に失敗して大分ブッ飛ばされちまった…」

 

着地した時に地面に亀裂を付けるほどの衝撃だったが、背中の6枚の翼で身を守り、衣服は汚れても不思議と無傷だった。

彼は、何でもないかのような調子で立ち上がり、汚れをパンパンと手で払いながらクロノ達に気付いて目を向ける。

 

「あーあコート焦げてるし、こりゃもうダメだな。って……あ!」

 

リーゼアリアとリーゼロッテは拘束されたまま、彼を恨めしそうに睨む。

それに気付きつつクロノは垣根に声をかけた。

 

「垣根、大丈夫か?」

 

「おークロノ。大丈夫大丈夫、コートはダメになっちまったけどな」

 

軽い調子で答えながら焦げたモッズコートを脱ぎ捨てる。

垣根は拘束された2人と、転がっている仮面に気付いてははぁと納得したように言う。

 

「例の仮面野郎共はアンタ達だったのか」

 

「君の内部犯という発想は当たっていたな。これから事情聴取に連行するが、君はこのままなのはとフェイトの援護を頼めるか」

 

毅然とした表情の中に、切実さがこもった頼みに彼は簡単に頷く。

 

「ああ、良いぜ。じゃ、そっちの結果が分かったら教えてくれ」

 

轟!!

という空気の唸りと共に、垣根の背中から再び6枚の翼が生えた。

 

「何なんだ……。アンタ一体、何者なんだよ……?その白い翼も、何なんだよ……?」

 

不意にリーゼロッテが、困惑するように尋ねてきた。

だが、彼は小さく笑って吐き捨てるように告げる。

 

「今は学園都市の能力者とだけ答えとく。詳しくは執務官に訊きな」

 

それだけ言うと、垣根は翼で空気を叩いて上昇し去っていった。

 

 

市街地の一角に建つ超高層ビルを背にして、身を隠しているなのはとフェイト。

 

「なのは……ごめん。ありがとう」

 

先ほどの防御で軽く痛めたのか、右手の調子を確かめているなのはを心配するフェイト。

 

「大丈夫……。わたしの防御、頑丈だから」

 

平気そうに彼女は答え笑いかける。

敵は広域攻撃型で回避は困難だと推察した所で、

 

「あれ、そういえば垣根くんは!?」

 

「姿が見えない……まさか……」

 

垣根帝督の姿が無い事に気付く。

周りに目を走らせるが、それらしき姿は見えない。

だが、フェイトは落ち着いた様子で、なのはに告げる。

 

「……でも、彼なら……大丈夫だと思う」

 

「あ……」

 

彼女は心配していないというよりは、どこか信頼しているような目だった。

彼が、垣根帝督という男が、そんな簡単にやられてしまうはずがない、と。

なのはもそれを感じ取り、頷く。

 

「……うん、そうだよね。あの人なら、大丈夫だよね」

 

それより、とフェイトが、

 

「バルディッシュ」

 

『Lighting form.』

 

バリアジャケットがソニックフォームから通常形態に変化する。

なのはが敵の方を向いて言う。

 

「はやてちゃん……。あの人、一体……?」

 

「ベルカの融合騎……。主と一体化して戦う人格型管制ユニット。彼女が表に出てるって事は、はやては多分意識をなくしてる」

 

「助けるには?」

 

フェイトが解説を交えて答える。

なのはがここで、『倒す』ではなく『助ける』為の方法を尋ねてきた事に内心温かさを感じつつも、フェイトは冷静に言う。

 

「分からない。だけど……」

 

フェイトの気持ちを読み取り、なのはは微笑んで強い意志を持って告げる。

 

「話してみるしかないよね」

 

「うん」

 

そこへ、ユーノ・スクライアと使い魔アルフが合流する。

 

「なのは!」

 

「フェイト!」

 

「ユーノくん!アルフさん!」

 

互いに姿を確認した所で、敵は新たな魔法を展開してきた。

正体不明の重圧を感じる。

アルフが敵の意図を掴む。

 

「前と同じ、閉じ込める結界だ!」

 

新たな捕獲用結界。フェイトもそれを理解し告げる。

 

「わたし達を狙ってるんだ」

 

「今、クロノが解決法を探してる。援護も向かってるんだけど、時間が……」

 

口惜しそうなユーノに、フェイトが言葉を紡ぐ。

 

「…それまで、わたし達で何とかするしかないか……」

 

アルフも頷き、振り向くと、なのはが黙って『闇の書の意志』を見ていた。

 

「……そういえば、垣根は?」

 

ここでようやく、1人足りない事に気付いたアルフが尋ねる。

フェイトが少しだけ済まなさそうな顔で答える。

 

「それが、さっきの空間砲撃を受けた後から、姿が見えないんだ。……でも、わたし達は垣根が無事だと信じてるから……」

 

その言葉に、ユーノも頷く。

 

「うん、そうだね。心配してないって訳じゃないけど、垣根の事だからひょっこり出てくると思う。簡単にやられてしまうようなタチじゃないよ」

 

一方、背中の2対4枚の黒い翼…スレイプニールを羽ばたかせて上空に舞い上がる。

 

 

その頃、時空管理局本局の一室で、クロノはグレアム提督と会っていた。

リーゼアリアとリーゼロッテの行動がグレアムの意志である事を見抜いていた。

2人は自分達の独断だと弁解するが、グレアム自ら自白していく。

きっかけは11年前の事。クロノ・ハラオウンの父、クライドの死。

 

「11年前の闇の書事件以降、提督は独自に闇の書の転生先を捜していましたね?」

 

ホログラムに、闇の書と八神はやての顔が映される。

 

「そして、発見した。闇の書のありかと、現在の主、八神はやてを」

 

そう、両方に気付いていた。

そして闇の書自体は転生してしまうから、完成前に闇の書を破壊しても、主を倒しても意味が無い事も。

そこで完成を待ち、闇の書が暴走し始めた時点で八神はやて諸とも一気に封印し凍結させてしまう作戦だった。

 

「見付けたんですね、闇の書の永久封印の方法を」

 

鷹揚に頷き、グレアムは静かに話す。

動機と経緯を。

 

「両親に死なれ体を悪くしていたあの子を見て、心は痛んだが……運命だと思った。孤独な子であれば、それだけ悲しむ人は少なくなる」

 

はやてからグレアム宛の手紙と写真が、テーブルに並べられた。

 

「あの子の父の友人を騙って、生活の援助をしていたのも提督ですね?」

 

「永遠の眠りにつく前くらいせめて、幸せにしてやりたかった。……偽善だな……」

 

「封印の方法は、闇の書を主ごと凍結させて、次元の間か氷結世界に閉じ込める。そんな所ですね」

 

「そう。それならば……闇の書の転生機能は働かない」

 

これで、仮面の男に変身していたアリアとロッテが闇の書完成に手を貸していた理由が分かる。

リーゼロッテとリーゼアリアが再び弁解する。

これまでもアルカンシェルで蒸発させてきた事等と変わらない、と。

だが、クロノは毅然と指摘する。

 

「その時点では、まだ闇の書の主は永久凍結されるような犯罪者じゃない……違法だ」

 

「そのせいで!」

 

リーゼロッテが口を挟む。

過去を脳裏に浮かべ、心底悔しそうに叫ぶ。

 

「そんな決まりのせいで、悲劇が繰り返されてんだ。クライド君だって……アンタの父さんだって、それで_!!」

 

「ロッテ」

 

グレアムが嗜めるように言い、彼女を止めた。

クロノは立ち上がり、退室しようと歩き出しながら告げる。

 

「法以外にも、提督のプランには問題があります。まず、凍結の解除はそう難しくないはずです。どこに隠そうと、どんなに護ろうと、いつかは誰かが手にして使おうとする。怒りや悲しみ、欲望や切望……そんな願いが導いてしまう。封じられた力へと……」

 

彼は一度振り向き、小さくグレアムへお辞儀をする。

 

「現場が心配なので……すみません、一旦失礼します」

 

「……、クロノ」

 

立ち去ろうとするクロノを、グレアムが立ち上がって呼び止めた。

振り返った彼に、グレアムは氷結の杖『デュランダル』を渡す。どう使おうとクロノの自由だと告げて。

 

 

空中で白兵戦を演じる『闇の書の意志』とフェイト・テスタロッサ。

ユーノとアルフがチェーンバインドとリングバインドで拘束を図り、援護する。

 

「砕け」

 

バインドが粉砕されるも、その隙を見逃さない。

 

「コンビネーション2……バスターシフト!!」

 

「ロック!!」

 

バスターシフトとは、砲撃を撃てる術者2人が対象を挟み同時砲撃で攻撃する連携。

砲撃形態のなのはに呼応し左右から敵の両腕を固定バインドで拘束し逃げられなくする。

 

「ああッ!!」

 

そしてそのまま、同時砲撃を放つ。

回避された際に互いを撃ってしまわないように、それぞれ射線は少しずつずらされている。

 

「「シュート!!」」

 

桜色と金色の砲撃が『闇の書の意志』に迫る。

しかし、彼女は両腕のバインドを無理矢理引きちぎり、双方に防御障壁を展開し防ぎ切り、反撃に出た。

 

「穿て、ブラッディダガー」

 

その名の通り、血のように赤い魔力で形成された短剣が複数発生し、なのはとフェイトに襲い掛かり爆発する。

 

ドドッ!!

 

轟音が炸裂し爆煙が舞う。

しかし、2人ともそれ等を防御して煙を突き破って出てきた。

そこで地下から無数の吹き上がる火柱が発生させられ、更にオレンジ色のチェーンバインドがなのはとフェイトに絡み付き、振り回されて地面に叩き付けられた。

この火柱は、焦熱の檻。

本来は大型野生動物を追う、または追い払う為の原始的な魔法で、『闇の書の意志』が自ら発生させたものではなく、ナハトヴァールの力が溢れた結果引き起こされた、暴走に近い魔力発露だった。

直撃ダメージを軽減させ立ち上がった2人に、それぞれの魔力光と同じバインドが絡み付いた。

 

「これって……!」

 

「わたし達の魔法……!」

 

『闇の書の意志』は右腕を前にかざし、次の魔法を展開する。

 

「咎人達に…滅びの光を……」

 

魔方陣が展開し周囲の魔力素を集めて集束していく。

アルフとユーノが気付き、呟く。

 

「まさか……!」

 

「あれは……!」

 

そう、あれは高町なのはのスターライトブレイカーの発射態勢。

闇の書は以前、なのはの魔力を蒐集した為、使用できるようになっていた。

 

「星よ、集え。全てを撃ち抜く光となれ……」

 

詠唱を始める彼女を見て、なのはも気付く。

 

「スターライト…ブレイカー……?」

 

桜色の巨大な球体が、更に肥大化していく。

このままではやられる。

しかしアルフとユーノにもブラッディダガーを撃たれ、回避の真っ最中だった。

そこへ、横槍を入れる者が現れた。

ズバァ!!

と。

空気の砲弾と化した烈風が『闇の書の意志』に襲い掛かる。

 

「くッ!!」

 

突如後ろから不意打ちを受け、空中バランスを崩して詠唱を中断してしまう。

彼女が振り向いた先には、天使のような白い翼を背中から生やして重力を無視するように夜空に浮かぶ、焦げ茶色のジャケットを纏った茶髪の少年。

垣根帝督。

 

「よお、楽しそうだな。俺も交ぜろよ」

 

「垣根くん!」

 

「垣根!」

 

声をかけてきた眼下の2人に、カードを通すようにヒラリと左手をかざす。

すると、2人を拘束していたバインドがバキバキと粉々に砕け散った。

その隙に『闇の書の意志』は再び詠唱を始める。

再度スターライトブレイカーの発射態勢になる。

 

「アルフ、ユーノを!」

 

「はいよ!」

 

その威力を身を持って知るフェイトは、アルフに指示してなのはを引き連れて大急ぎで離れる。

 

「貫け、閃光……」

 

アルフがユーノを抱えながら言う。

 

「なのはの魔法を使うなんて」

 

「なのはは一度蒐集されてる。その時にコピーされたんだ」

 

ぐんぐんと高速で距離を取る中、なのはがフェイトに尋ねる。

 

「ちょ……フェイトちゃん、こんなに離れなくても……」

 

「至近距離で食らったら防御の上からでも落とされる。回避距離を取らなきゃ」

 

『ははっ、そいつは傑作だな』

 

通信回線を通した垣根の声が聞こえる。

なのはが振り向くと、発射前の『闇の書の意志』の目の前で、宙に浮いたままの垣根帝督がいた。

仰天したなのはとフェイトが叫ぶ。

 

「垣根くん!何してるの!?」

 

「速くこっちへ!!呑まれてしまうよ!!」

 

しかし、彼は薄い笑みのまま、6枚の翼を広げて答える。

 

『いやいや、せっかくだから近くで見物しなきゃ損だろ』

 

「馬鹿!そんな事言ってる場合じゃ_」

 

焦り怒鳴るフェイトに、バルディッシュが報告を挟む。

 

『左方向300ヤード、一般市民がいます』

 

「「ッ!!」」

 

やむなく、2人はその一般市民の保護に動く。

垣根は多分、大丈夫だろう。彼は分かっててああいう奇行に走っているのだ。だから、大丈夫。

そう思いながらフェイトは最寄りの信号機の上に、なのはは道路に着地した。

辺りを見回すと、2人の女の子が走っていた。

 

「あのぉーすみません!危ないですから、そこでじっとしててください!!」

 

声に気付き振り向いたのは、なのはとフェイトの友人、月村すずかとアリサ・バニングスだった。

結界が張られた時に、結界内に取り残されてしまったらしい。

お互いに表情が驚愕に染まっていく。

ついに姿を見られてしまう2人だが、しかし、敵は彼女達の頭の整理を待ってはくれなかった。

 

「スターライト…ブレイカー」

 

ドォォォォォッッッッ!!!!!!!!

 

巨大な桜色の光が、射線上のもの全てを呑み込もうと迫り来る。

 

〈フェイトちゃん、アリサちゃん達を!!〉

 

〈うん!!〉

 

「2人とも、そこでじっとして!」

 

フェイトはバルディッシュをアリサとすずかに向け、半球状の防護フィールドを展開し自分は彼女達の前に立って防御を張る。

なのはもカートリッジをロードし強力なプロテクションを展開した。

射出されたスターライトブレイカー。

街1つ呑み込み炸裂した一撃を、遠くまで回避したユーノとアルフが安否確認をする為に念話を飛ばす。

 

〈なのは!なのは大丈夫!?〉

 

〈フェイト!?〉

 

返事はすぐに来た。

 

〈大丈夫……ではあるんだけど……ッ!!〉

 

〈アリサとすずかが……結界内に取り残されてるんだ……!〉

 

「何だって!?」

 

ユーノはエイミィ・リミエッタに通信を飛ばして対応を仰ぐ。

 

「エイミィさん!!」

 

『余波が収まり次第、すぐ避難させる!!何とか堪えて!!』

 

時間にすると、ほんの10秒ほどだったのだが、体感的には何分もの長時間に感じられた。 

 

「もう、大丈夫」

 

互いに抱き合い砲撃を凌いでいたアリサとすずかは、フェイトに言われて顔を上げた。

 

「すぐ安全な場所に運んでもらうから、もう少し、じっとしててね」

 

なのはにそう言われると、2人は立ち上がって困惑した様子で口々に尋ねる。

 

「あの……なのはちゃん、フェイトちゃん……?」

 

「ねえ、ちょっと……!」

 

しかしすぐに、彼女達の足元に魔方陣が展開し転移魔法が発動する。

瞬時に避難させられ姿を消した2人。

 

「見られちゃったね……」

 

「うん」

 

秘密にしていた事がバレてしまい、複雑な気持ちでポツリと呟く2人。

2人はユーノとアルフに、アリサとすずかを守るように頼み正面に向き直った時、カツッという音が聞こえた。

フェイトのすぐ近くの路面に、垣根帝督が足を乗せた所だった。

彼のジャケットは攻撃の影響なのか薄汚れているが、やはり垣根自身は無傷だった。

垣根は何でもなかったかのような調子で、ニヤニヤして右側のフェイトを挟んでなのはに告げる。

 

「いやー中々凄まじかったな。スターライトブレイカーだっけ?お前、顔に似合わずえげつない魔法使うよな」

 

言いながら袖の汚れをパンパンと払い、襟元をピッと正している彼に、なのはは若干むくれて答える。

 

「……顔に似合わずってなーに?それを言ったら垣根くんだって全然似合わない翼生やすじゃない。フェイトちゃんだってそう思うよね?」

 

「……、あはは……」

 

フェイトに小さく苦笑いされた。

 

「え?フェイトちゃん、それどっちの意味での苦笑いなの!!ねえ!?」

 

バタバタと両腕をコミカルに振って慌てるなのは。

フェイトはなのはから済まなさそうに目を逸らし、そこでふと、垣根の方を見て彼の服装の変化に指摘する。

 

「……あれ?垣根、コートはどうしたの?」

 

「あ?ああ、最初の広域攻撃食らった時に、焦げたから脱ぎ捨てた」

 

「体は無事でも、服は汚れたりするんだ。何か不思議だ」

 

「能力で防御フィルタを張っているんだが、あくまで皮膚の上からだからな。多少はな」

 

そこでなのはも彼の服装を見て、怪訝な顔になる。

 

「……ジャケットなのに、ネクタイもしてないしボタンも留めてないけど、それも焦げたり吹き飛んだりして外れたの?」

 

垣根は両手をズボンのポケットに突っ込んで、また何でもないような調子で答える。

 

「いいや、それは最初から。ネクタイもボタンも留めてない」

 

「そうなの?何で?」

 

「これが俺の着こなしだ」

 

と若干自慢げな態度で言うが、人相の悪さとガラの悪さと相まってガキ大将とはまた違ったベクトルの不良小学生にしか見えない。

そう思ったなのはは、僅かに目を細めた。

 

「……、グレたガラの悪そうな非行小学生に見えるよ?」

 

「心配するな、自覚はある」

 

そんな軽口を叩き合っていると、不意にエイミィから早口で通信が入る。

 

『なのはちゃん、フェイトちゃん、垣根くん。クロノくんから連絡。闇の書の主に、はやてちゃんに投降と停止を呼び掛けてって』

 

「……っ、はい!」

 

2人は頷き、敢えて『闇の書の意志』に接近し呼び掛ける事にした。

6枚の翼を羽ばたかせてそれに着いていく垣根。

 

「……つっても、素直に応じるとは思えねえんだけどな」

 

「それでも、やるしかないよ」

 

「うん」

 

話している間に、肉声で会話できるほど彼女の近くに接近を果たし、なのはが声をかけた。

 

「あの……闇の書さん?」

 

『闇の書の意志』は声の主の方を向く。

なのははこのまま対話を試みる。

 

「わたし達、はやてちゃんやヴィータちゃん達とは_」

 

「我が騎士達は、お前達を打ち破りナハトの呪いを解き、主を救うと誓った」

 

途中でなのはの言葉を遮り、彼女は淡々と、静かに、強い意志を持って言う。

 

「そして我が主は、目の前の絶望が悪い夢であってほしいと願った。我はただ……それを叶えるのみ。主には、穏やかな夢のうちで永遠(とわ)の眠りを……」

 

「ああっ……」

 

その発言の意味を感じ取り息を呑むなのはとフェイト。

 

「そして、我等に仇成す者達には……永遠の闇を」

 

「闇の書さん!!」

 

「お前も……その名で、私を呼ぶのだな」

 

「ッ!?」

 

その声に呼応し再び焦熱の檻が再燃する。

更に地面が砕け、無数の触手が飛び出し以前無人世界で蒐集した怪物と同じものが出現。

なのはとフェイトを拘束しようとするが、そこで垣根帝督が6枚の翼を振り回して触手を細切れにする。

この隙に散開、対話が決裂した以上、今は戦うしかない。

 

「さて困ったな。ただこいつをブチ殺しても八神が死んで闇の書は転生して逃げられちまうし、投降する気はねえし、ヤツの中で八神は寝ているんだろうし……思い切り手詰まりだぞ」

 

垣根はくだらなさそうにぼやきながら火柱を避けていると、『闇の書の意志』がなのはに肉薄しているのが見えた。

武装形態のナハトヴァールを彼女に突き出す。

咄嗟にレイジングハートで、白兵戦対応の要領で受け止めようとするが、打撃が防御で止められた直後に、槍を撃ち出して追撃が来た。

 

バキィッ!!

 

「きゃああああああッ!!」

 

打撃が彼女の体に命中しはね飛ばされた。

槍射砲。

ヴィータのラケーテンハンマーと同様に、この槍射砲は初撃命中後の追加打撃を行える。

 

「なのは!!」

 

フェイトがなのはの態勢立て直しの時間稼ぎの為に割り込む。

 

「クレッセント…セイバー!!」

 

回転しながら刃を射出した。

クレッセントセイバーは、クレッセントフォームの刃を飛ばして対象を攻撃する魔法。

以前よりフェイトが使っていたハーケンセイバーの強化版と言える。

避けづらく逸らしづらいその性質から、牽制や足止めの一手としてフェイトはこの魔法をよく使用する。

ナハトヴァールで受け止めた隙に背後へ回ったフェイトに気付き、受け流す要領でフェイトへ受け止めていたクレッセントセイバーをぶつけてきた。

 

「ッ!?くッ!!」

 

自分の魔法をぶつけられ、咄嗟に防御する。

しかし追撃に漆黒の魔力弾を撃ち出す。

 

「うわッ!!」

 

追撃の衝撃を受け止め切れず、後方へ弾き飛ばされた。

再びバスターシフトを行おうとするが、無数に降り注ぐブラッディダガーに阻まれて阻止される。

『闇の書の意志』は、ここで視線をなのはとフェイトから6枚の翼を振り回して自身へ迫ったブラッディダガーを全て叩き潰した垣根帝督へ向ける。

コピーされたフォトンランサーやアクセルシューターを彼に向けて射出する。

垣根は20メートルもの長さに伸ばした6枚の翼に弓をしならせるように力を加えて、勢い良く羽ばたかせた。

 

ズァッ!!

 

巻き起こる烈風は『未元物質(ダークマター)』の影響を受けて対魔法に特化し変質して、フォトンランサーとアクセルシューターに衝突する。

衝突した瞬間、彼に向けて放たれた魔力弾は全て空気に溶けるように霧散していった。

『闇の書の意志』は僅かに眉をひそめる。

しかも、烈風は魔力弾を消滅させるだけにとどまらず、そのまま砲弾のように彼女を撃ち落とそうとする。

烈風を防御障壁で防ぎながら、相手の意図を掴もうとする。

垣根は攻撃の手を緩めない。

烈風を防いだ防御障壁に向かって白い翼を思い切り叩き付けてきた。

 

ドンッ!! ゴッ!!!!

 

「く……ッ!」

 

翼がぶつかった瞬間炸裂し、強固な防御障壁に亀裂を入れた。

距離を取る為に高速移動しながら垣根の方を見ると、彼は何故か小さく笑っていた。

まるでこの状況を楽しんでいるかのように。

初めて、底知れない違和感と気味の悪さを感じた。

自分が敵に対して得体が知れないと思う事自体に、彼女は驚いていた。

この隙にディバインバスターを放つなのはと斬りかかるフェイト。

しかし砲撃と斬撃を紙一重でかわされ、6枚の翼を構えた垣根帝督含めオレンジ色のチェーンバインドが放たれた拘束する。

しかも垣根だけ身体と両手両足にそれぞれ絡み付き、念入りに身動きを封じてきた。

 

「「きゃああああああ……ッ!!」」

 

「ぐおッ!?」

 

3人は地面に叩き付けられるも、なのはとフェイトは魔法の応用、垣根は能力の応用でショックを軽減しチェーンバインドを砕いてすぐに立ち上がる。

しかし再びコピーされたバインドで拘束された。

2人はそれぞれ自分の魔法を行使されているが、垣根だけ2人分のバインドが絡み付いている。

 

「また……ッ!!」

 

「わたし達の魔法を…!」

 

「……俺だけ厳重だな」

 

上空に君臨する『闇の書の意志』が言う。

 

「私の騎士達が、身命を()して集めた魔法だ」

 

蒐集行使。

闇の書に蒐集された魔法を自由に行使する能力。

本来は闇の書の主のみが扱うべき能力だが、はやてと融合している現在の『闇の書の意志』はほぼ全ての蒐集行使能力を使用できる。

 

ツーっと、彼女の目から涙が零れた。

 

「闇の書さん…?」

 

「お前達に咎が無い事……、分からなくもない。だが、お前達さえいなければ……主と騎士達は心静かな聖夜を過ごす事ができた。残り僅かな命の時を……温かな気持ちで過ごせていた」

 

逃れられぬ運命を、だが穏やかな最期の時を邪魔した。

そう言いたいのだろう。だが、フェイトがそれを否定する。

 

「はやては、まだ生きてる。シグナム達だってまだ……!」

 

まだ諦めていない。

 

「もう遅い。闇の書の主の宿命は、始まった時が終わりの時だ」

 

確かに、今の闇の書の状態や繰り返してきた歴史を見れば、どうやっても抗えない宿命と運命だと言える。

正直、黙って聞いていた垣根帝督はそれを首肯せざるをえないと思っていた。

だが、

 

「終わりじゃない!まだ終わらせたりしない!!」

 

高町なのはが、両目に薄く涙を浮かべながらもあらん限りの力で叫ぶ。

『闇の書の意志』はそれを力ずくで黙らせようとナハトヴァールから漆黒の砲撃を放つ。

 

ゴッ!!

 

という炸裂音と同時に3人を拘束していたバインドが粉々に砕け、更に漆黒の砲撃をも凪ぎ払った。

術者はもちろん、再び背中から6枚の翼を生やした垣根帝督。

 

(高町達(こいつら)の魔法は解析済みだったから楽だったな)

 

自由の身になっても、敢えて反撃に出ず呼び掛ける。

なのはが再び叫んだ。

 

「泣いてるのは……悲しいからじゃないの?諦めたくないからじゃないの!?そうじゃなきゃおかしいよ。ほんとに全部諦めてるんなら……」

 

彼女は首をかぶり振って告げる。

 

「泣いたりなんて……しないよ!!」

 

「この涙は主の涙。私は道具だ。悲しみなど……無い」

 

しかし、その言葉に再び攻撃で答えてきた。

否定の意志を込めて。

瞬時に回避しフェイトはソニックフォームに切り替えた。

臨戦態勢を整えつつも、説得は止めない。

 

「悲しみなど無い……?そんな言葉を、そんな悲しい顔で言ったって、誰が信じるもんか!」

 

「……あなたのマスターは…はやてちゃんは、きっとそれに応えてくれる優しい子だよ!!」

 

「だから、はやてを解放して。武装を解いて、お願い!……伝わらないなら、伝わるまで何度でも言う。助けたいんだ、あなたの事も、はやての事も!!」

 

2人の言葉に、返事をせず黙っている『闇の書の意志』。

しかし、地震のように地面がぐらつき周囲から再び焦熱の檻の火柱が上がっていく。

崩壊が始まり、暴走まで時間がなくなりつつあった。

 

「早いな……もう崩壊が始まったか。私もじき意識を無くす。そうなれば、すぐにナハトが暴走を始める。意識のあるうちに、主と騎士達の望みを……叶えたい」

 

なのはとフェイト、垣根を取り囲むようにブラッディダガーが射出される。

 

「眠れ」

 

3人はそれぞれ防御し再び対話は決裂。戦闘状態に移行せざをえなかった。

フェイトが腹を立て、構える。

 

「この駄々っ子ッ!!」

 

『Sonic drive.』

 

フェイトの体が彼女の魔力光と同色に輝き突撃を開始する。

追撃のブラッディダガーを易々とかわして斬りかかる。

ソニックドライブ。

ソニックフォームからのフェイトの突撃で、元々ドライブ系の機動が得意なフェイトはソニックフォームの性能により威力と精度を更に向上させ、最速で前進しながら射撃を回避・無効化している。

 

「はああああああああッ!!」

 

しかしフェイトの刃は固い防御障壁に阻まれた。

いや、それで終わらなかった。

 

「お前にも心の闇があろう。闇に……沈め……」

 

次第に、フェイトの身体が薄く溶けていくように、消滅していった。

 

「フェイトちゃん!?」

 

「うっ……ああ……ッ!!」

 

「消えた……?」

 

Absorption(吸収)

 

「全ては、安らかな……眠りの内に……」

 

結界魔法の一種で、接触した相手を闇の書の内部に取り込む。

発動するには対象に接触する必要があり、捕獲状態の回避や内部からの脱出は比較的容易なのだが、対象への精神干渉攻撃が同時に行われる為、回避や脱出が昏睡してしまう等の理由で不可避になる場合がある。

垣根はフェイトの消滅に驚きながら呟く。

 

「テスタロッサはどうなったんだ。死んだのか?」

 

「エイミィさん!!」

 

有視界通信でエイミィ・リミエッタに呼び掛ける。

エイミィは急いでコンソールを叩き調査する。

 

「状況確認!……フェイトちゃんのバイタル、まだ健在!!闇の書の内部空間に閉じ込められただけ。助ける方法、現在検討中!!」

 

バイタル反応はある。生きている。

それにひとまず安心しながらも、なのはと垣根は正面の『闇の書の意志』を睥睨する。

 

「我が主もあの子も、覚める事ない眠りの内に終わりなき夢を見る。生と死の狭間の夢……それは永遠だ」

 

「永遠なんて……無いよ!」

 

彼女は『闇の書の意志』の言葉をはっきりと否定する。

 

「皆変わってく……変わっていかなきゃ、いけないんだ。わたしも、あなたも!!」

 

しばらく黙ってただ聞いていた垣根は不意になのはの横に立ち、話しかける。

 

「……おい、高町。今からしばらくヤツの注意を引いて戦闘を引き受けられるか?」

 

かなり突拍子もない事を言ってきたが、彼の表情にふざけた様子は無い。

 

「え……垣根くん、何をするの……?」

 

怪訝な顔で声を発したなのはに、垣根は小さく笑って告げる。

 

「何、ちょっと試してみようと思ってな。闇の書の中で、テスタロッサも八神も、あと守護騎士達もまだ生きてるっつーなら、起こそうとする事もできるんじゃねえかなってな」

 

「そんな事……できるの?」

 

「やってみなくっちゃ分からねえし、俺個人としてはあいつ等にそこまでしてやる義理も人情もねえんだが……」

 

だが、と彼は呟いて、

 

「今日はクリスマスイブだし、聖夜の夜だし、まあ特別サービスだ。俺からのクリスマスプレゼントだ。本当はクロノ執務官やリンディ艦長以外にゃバラすつもりはなかったんだが……」

 

『闇の書の意志』の攻撃を避けながら、戦闘区域を海上に移し交戦を継続。

 

「見せてやるよ、学園都市第二位の超能力者(レベル5)の実力を!」

 

「ええッ!?」

 

彼の声に呼応するように、垣根帝督の6枚の翼が爆発的に展開された。

数十メートルにも達する巨大なそれらの翼は神秘的な光をたたえ、しかし同時に機械のような無機質さを秘めていた。

 

バォ!!

 

と6枚の白い翼に触れた空気が悲鳴を上げた。

翼がまっすぐ伸びて『闇の書の意志』目掛けて勢い良く迫る。

 

「俺の『未元物質(ダークマター)』に、常識は通用しねえ!」

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