魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter   作:戸礼太

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聖夜の贈り物

ギュン!!

 

と、爆発的な射出があった。

巨大な6枚の白い翼が槍のように凄まじい勢いで伸長し、様々な角度から一斉に『闇の書の意志』を取り囲んで襲い掛かった。

回避が追い付かず防御障壁を展開するが、白い翼はそれをすり抜けて(、、、、、)殺到する。

 

「ッ!!」

 

ドドドドドドッッッッ!!!!!!!!!!

 

声を上げる間も無く羽の先端が突き刺さる。

『闇の書の意志』の両手両足、胸元、そして闇の書本体に。

 

「な……ッ!?」

 

高町なのはと空中戦を演じようとしていたが、複数の翼に身体を刺し貫かれ突如動きを止められた。

しかもただ止められただけではない。

 

(……痛みが……無い……!?)

 

貫かれた感覚も、刺し止めれている感覚もあるのに、痛覚が全く無い。

奇妙で不思議……としか言えない感覚が、彼女を支配する。

 

「ならば……闇に……沈_「無駄だ」ッ!?」

 

吸収が発動しない。

闇の書が、対象と接触したと知覚していない。

ならば今、自分に触れているこの翼は一体何なのだ。

理解ができない。

この世のものとは思えない。

 

「く……だが!!」

 

ブラッディダガーを多数出現させ、射出する。

しかし垣根帝督へ放たれたダガーは、全てなのはがプロテクションで受け止めた。

 

「一応、テメェに関する資料やら報告やらは読んだよ。お前の……いや、お前達の悲劇は分かった」

 

「ッ!!」

 

頭に直接響くように、垣根帝督の声が聞こえた。

これもこの翼の力だと言うのか。

彼は驚愕に染まる『闇の書の意志』に一方的に告げる。

 

「だが、過去に酷い目に遭ったからって、今後も同じ道を歩まなきゃならない道理はねえ。そもそも俺としては最低でも八神が目覚めてくれりゃ、何とかなりそうだし。その厄介な防衛プログラムもテメェも、元々散々改変させられてきたんだろ?……なら、また改変すれば良いとは思わないか?」

 

「何を……する気だ?」

 

「俺の『未元物質(ダークマター)』でテメェと防衛システムを徹底的にサーチしてやる。その上で……」

 

「無理だ……。闇の書が真の主と認識した人間でないと、システムへの管理者権限を使用できない。プログラムの停止や改変はできない。無理に外部から操作をしようとすれば、主を吸収して転生してしまうシステムも入っている」

 

そう言った所で気付く。

闇の書は今、外部から影響を受けたと感知していない。

何故かは分からない。

 

「知ってるさ。その上で言っているんだよ」

 

「馬鹿な事を……。それに、解析するだと?私と闇の書やナハトにどれだけの記憶や記録があると思っている?常人が耐えられる量ではないぞ」

 

垣根は小さく強気な笑みを浮かべ、彼女の言葉をはねつける。

既存の物理法則が通用しない、周囲にもその影響を与えて法則を塗り替え捻じ曲げる絶大な力が、侵入し支配する。

 

超能力者(レベル5)の頭脳なめんじゃねえ。テメェ等の常識は、この俺には通用しないという事……その身に刻み付けてやる」

 

彼女には超能力者(レベル5)の意味も、未元物質(ダークマター)の意味も知らないし分からない。

だが、この男は本気だ。

ぐにぃ、と一瞬だが視界が歪んだ。

自分達の中に、何かが入り込んでくるのが分かる。

分かるが、それがシステム上では自覚できない。

奇妙な感覚に見舞われながらも抵抗できずにいた。

 

垣根帝督は、意識を相手の内側に集中し、全演算を解析と逆算に回していた。

故に今の彼は攻撃も防御もできないまさに無防備な状態だった。

だからこそ、戦闘や防御をなのはに託し、任せていたのだ。

頭の中にわだかまる鈍痛に似た違和感、それは段々強くなっていき脳を()くような刺激に変わってゆく。

それでも構わず自分の意識をもっと深く、深く、内側に潜行させる。

 

「クッ!!」

 

6枚の翼から逆流してくるような脳への刺激、閃光とめまいと激痛に垣根は片目を閉じて呻き声をあげた。

彼は文字通り、翻弄され始める。

烈風のような凄まじい情報の激流が、垣根帝督の存在を凪ぎ払おうとしてくる。

それでも耐える。

目的の場所は、その烈風の源だ。

呼吸困難に陥りそうな錯覚に抗う。

奥へと進む。

更に腕を伸ばす。

烈風の源に指が触れる。

その時、脳裏に莫大なイメージが投影された。

一度に理解できないほどの情報の奔流が閃光を伴っていくつも瞬く。

 

「くっ……!ああ…あああ……!あ、頭に…流れて……ッ!!」

 

再び閃光とめまいと激痛が見えざる散弾となって垣根の脳を撃ち抜く。

情報の数が増える。

増える。

『闇の書の意志』と呼ばれる存在の基礎構造と複雑に絡み合った、分離不可能なレベルで結合している防衛システムの修復機能。

その奥に触れた瞬間、

 

「うわああああッ!!うあああああああッ!!」

 

衝撃と苦痛が脳を満たす。

塞き止めていたダムが、一斉に放水を開始したように。

情報に押し流される。

更なる激流が絶え間なく脳内に雪崩れ込み、ついに耐えきれず絶叫した。

 

「あああああああああッッ!!!!うああ……あああ…ああああッッッッ!!!!」

 

聞く者の肌を粟立たせる断末魔のように、声を張り上げていた。

 

「ッ!!」

 

垣根帝督の絶叫が応戦を続けていたなのはの耳に響き、一瞬彼女の全身を凍り付かせた。

振り向いて彼の様子を見ると、頭を抱えて仰け反りながら絶叫し、鼻腔から血を垂れ流していた。

 

「垣根くん!!」

 

思わず垣根の元へ駆け付けようとするが、辛うじて片目を開けた彼に拒絶される。

 

「ぐああああッッッッ!!……来、るなぁ……ッ!!お前はぁっ……!応戦をっ続けろぉぉぉっ!!」

 

「でも!!」

 

「うぅぅぅぅ……ッッッッ!!!!だ、からっ!!俺を心配するッ!!暇があるならッッ!!続けて、くれッ!!」

 

「あ……っ!!」

 

垣根帝督の目を見て、言葉にならない息を呑むような声を発したなのは。

 

「…もう少しッ!!だからッッ!頼……!!むッっ…ぅぅうああああ!!ああああ!!あああああああッッッッ!!!!」

 

「…………!!」

 

数瞬、彼女から沈黙が続いた。

だが、やがてなのはは彼に背を向け、漆黒の砲撃やブラッディダガーを放つ『闇の書の意志』に立ち塞がる。

彼女も6枚の翼でこの場に縫い留められて動けずにいる分、高機動戦闘をしなくて良い分、防衛はしやすい。

 

(マガジン…残り3本。カートリッジ18発)

 

『Reload.』

 

高町なのはは、固く誓う。

梃子でも動かない。この場を、垣根帝督を護り切ると。

 

「やり切るよ、レイジングハート!!」

 

『Yes,master.』

 

暴風であり、強風であり、乱流であり、激流であり、衝撃波であった。

凄まじい勢いの記憶と記録の奔流になぶられ、サーチ所か目も開けられなくなる。

このままでは意識を寸刻みにされて自我崩壊、精神崩壊を起こしてしまう。

 

「ぐああああッ!!あああああああぁぁぁああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」

 

絶叫を喉から迸らせ、仰け反りのたうち回りたくなる。

それでも垣根は痛みを堪えて逆算を続行した。

情報の波を掻き分けるように、両腕をばたつかせてもがく。

しかし、果てしない。

まだ解決のきっかけ……その糸口が見付からない。

彼の意識を、苛烈なうねりがなぶる。

 

「あああッッッッッ!!うわああああッ!!あああああああッッッッッッッッ!!!!」

 

呻きながらゆっくり両目を開けて、歯を食い縛り、防衛プログラムと『闇の書の意志』の心臓部へ手を伸ばし、掴み取る。

絶叫を繰り返している一方で、冷静に確実に超能力者(レベル5)の脳は演算を行っていく。

本丸を押さえ、逆算を……サーチを……解析を……そして、それを元に……新物質を生み出し操作する。

 

 

「その少年のやっている事も、無駄だ。お前も……もう眠れ」

 

幾度となく繰り返し受けた攻撃と応戦で、バリアジャケットがボロボロになっているなのは。

だが、彼女は誓った通り、不動の盾のように立ち塞がり続ける。

 

「いつかは眠るよ。だけどそれは、今じゃない!今は、垣根くんを守り切ってはやてちゃんとフェイトちゃんを助ける!それから……あなたも!!」

 

レイジングハートを構え直し、意思を込めて言う。

 

「レイジングハート・エクセリオンモード!ドライブ!!」

 

『Ignition.』

 

バリアジャケットの様相が変わり、レイジングハートも姿を変える。

エクセリオンモードは、フルドライブ形態と限界稼働を行う為のバリアジャケット形態を総称する。

単純に言えば防御と瞬間加速能力に優れる。

カートリッジ供給分を含め全魔力をユーザークロスリンク100%で運用し、循環している魔力を『術者の能力強化』に使用。

大幅な戦闘力の強化と引き替えに、安全措置を限界までカットした事で機体や術者への負荷は大きく、このモードでの戦闘可能時間も長くはない。

 

「悲しみも悪い夢も……きっと終わらせられる!!」

 

 

闇の書の中で眠るフェイト・テスタロッサが見る夢の世界。

フェイトは夢とはいえ、母とアリシア、アルフとリニスとの生活。

ずっと欲しかった時間が、ずっと夢に見た時間が手に入った。

本来存在し得ない『最も幸福な時間・空間』として形成されている。

だが、それでもフェイトは立ち上がる。

そんな彼女に黙ってバルディッシュをアリシアは差し出した。

かつて「妹が欲しい」と願ったアリシアと、アリシアが生きていれば生まれてこなかったはずのフェイト。

それでも2人は姉妹として互いを思いやり、それぞれの道を_

アリシアは静かな眠りを、フェイトは現実を戦ってゆく事を_

選択した。

2人が出会う事は無くなるが、フェイト・テスタロッサの心の中から、小さな優しい姉の思い出が消える事は無い。

 

「ありがとう、アリシア……。ごめんね、だけどわたしは、行かなくちゃ」

 

「ごめんねは、わたしの方。ほんとは分かってた。だけど少しでも、夢の中でも……一緒にいたかったの」

 

優しく抱き合うアリシアとフェイト。

 

 

同じく闇の書の夢の中で夢うつつの八神はやて。

主の望みは全て叶えるので、ゆっくりお休みを……と『闇の書の意志』に言われる。

 

「思い出した……何があったか…。何でこんな事になってもうたか」

 

意識を取り戻し全てを把握していったはやて。

『闇の書の意志』は涙を流しながら、彼女の手を握り告げる。

 

「どうか……どうか再びお休みを、我が主……あと何分もしないうち私は私の呪いで、あなたを殺してしまいます。せめて心だけでも、幸せな……夢の中で……」

 

はやては彼女の肩にソッと手を起き、穏やかな口調で諭すように答える。

 

「優しい気持ち、ありがとう。そやけど、それはあかん。わたし等……よう似てる。ずっと寂しい思い、悲しい思いしてきて、1人やったらでけへん事ばっかりで。そやけど……忘れたらあかん。あなたのマスターは今はわたしで、あなたはわたしの大事な子や」

 

「ですが……ナハトが止まりません……暴走も……ッ!?」

 

そう。何があっても止まらない。

そうやって闇の書は歴史を繰り返してきた。

どれだけ足掻こうともがこうと、術を探そうと、繊細に組み上げられた想いも技術も叩き伏せ、押し流していく。

そのはずだった。

 

がくん!! と。

 

本格的に抑えられないほどの暴走を始めたナハトヴァールが、防衛システムが、唐突に停止する。

 

「……!?」

 

怪訝な顔をしたのは、当の『闇の書の意志』自身だ。

はやてもそれに気付く。

彼女から魔方陣を展開し、追加するように魔法を行使する。

 

「……何でか分からへんけどチャンスや。止まって……!」

 

はやては覚醒を得た時点で管理者としての権限と使用する為の知識を得ていたが、防衛プログラムによって闇の書が完成するまではその使用範囲にロックがかかっていた。

闇の書が完成し、主と融合騎が揃う事で、管理者権限をほぼ完全な形で使用する事が可能となっている。

 

そんな2人に……いや、アリシアと『闇の書の意志』を含めた4人に、突然声をかけられた。

どこから発せられているのか分からない、方向性の掴めない少年の声が耳に届く。

 

『よお』

 

夢の世界でアリシアと雨宿りをしていたフェイトは、思わず空を見上げた。

もちろん、彼の姿は見えない。だが、

 

「ッ!?……何で……?」

 

『一応テスタロッサと八神の両方に声をかけてるつもりだが、お前等に聞こえていなくても聞こえても、返事されても俺は気付けない。俺は魔導師じゃないんでな』

 

「この声……帝督くん!?」

 

『音や光の組み合わせで心……いや、脳の電気信号に影響を与えるってのを試してみた。普通なら見えも聞こえもしないだろうが、『未元物質(ダークマター)』越しなら届くだろう』

 

「あり得ない……こんな事が……」

 

 

「凄いね、フェイトの友達……」

 

それぞれの空間で発した『闇の書の意志』とアリシアの声は、垣根帝督には届かない。

彼は一方的にくだらなさそうな声で告げる。

 

『……ただ、いつまでもそっちに能力を展開して演算割くのも面倒なんでな、……早く起きて出てこい』

 

ブツリ、と声が途絶えた。

無に近い静寂が彼女達の感覚を満たす。

 

アリシアと別れを告げ、佇むフェイト。

 

「行こう、バルディッシュ」

 

『Yes,sir. ZANBER form.』

 

バルディッシュのフルドライブ形態。

高密度に圧縮された巨大な魔力刃による斬撃を主な攻撃方法とした大剣の形態。

重量武器ながら、フェイトとバルディッシュによる慣性制御運動により速度を殺さず運用する事ができ、かつてリニスがバルディッシュに託した『閃光の刃』の、1つの完成形だった。

 

「母さん……リニス……お姉ちゃん。会えて嬉しかった」

 

大剣を振りかぶり、周囲を破壊する。

 

「行ってきます。わたしが今、いるべき場所へ。疾風迅雷!!」

 

金色の閃光が天を貫く。

そして一気に振り下ろす。

スプライトザンバー。

結界破壊魔法で、周辺の結界や幻術効果等を粉々に破壊した。

 

外では、『闇の書の意志』が6枚の翼に動きを止められながらも垣根帝督の前に立ち塞がるなのはと交戦を続けている。

しかし、なのはも敵のバインドで拘束され、頭上に黒槍という巨大な、闇の書に記録されていた魔法。旧ベルカ時代に対艦兵器として使用されていた螺旋状のものが降ってきた。

 

「眠れ!」

 

「あッ!!」

 

拘束され回避所か微動だにできない。

もうダメかと思ったその時、

突如空間にフェイト・テスタロッサがバリアジャケットの新形態、ブレイズフォームで出現する。

両腕の追加装甲や体幹部の意匠が異なり、オーバーコートとして機能するマントの色彩が黒から白に変化している。

フェイトはザンバーフォームのバルディッシュで、黒槍を縦から真っ二つに斬り捨てた。

なのはのバインドを砕いて、横に並ぶ。

そこで、フェイトは気付いて垣根の方を振り向く。

呻きながら『闇の書の意志』と闇の書に、6枚の翼で刺し貫いて動きを止めていた。

 

「そういえば……夢の中で、垣根の声が聞こえて……ああ!!」

 

直後、バシュン!! と『闇の書の意志』を縫い止めていた6枚の翼が消滅し、無数の羽が舞い散る。

垣根は力なくゆらりと落下し、近くの足場に着地し頭を抱えたまま、鼻腔から垂れ流していた血を雑に拭った。

 

「垣根!!」

 

「垣根くん!!」

 

白い翼の拘束が解けた後も凍り付いたように動かず、宙に浮いている『闇の書の意志』を一瞥してからなのはとフェイトは、グッタリと仰向けに倒れて大の字になった垣根帝督の元へ駆け寄る。

彼は息も絶え絶えで疲弊し切って、口許からも血を流していた。

 

「……やるだけはやった……。解析も逆算も……、必要な…素粒子(ダークマター)も……注ぎ込んだ……」

 

独り言のように小さく呟いている。

 

「……後は、八神(あいつ)が起きてくれりゃ……良いんだが……」

 

そこでなのはとフェイトが、彼の肩に手を置いて心配して声をかける。

 

「垣根くん……」

 

「大丈夫?…所で、今まで何をしていたの……?」

 

途中まで姿を消していたフェイトからすると、戻ってきた時のなのはと垣根の状態が見ていてよく分からなかった。

垣根帝督が6枚の翼で闇の書と『闇の書の意志』の四肢を貫いて動きを止め、そんな彼をなのはが必死で『闇の書の意志』の攻撃から守っていたという光景だったのだから。

 

「翼で相手の身体を突き刺したり、動きを縫い止めたり、その後は……?……あ!垣根、鼻血が出てる!」

 

垣根は、かすかに残っている鈍痛の疼きを感じながら、再び雑に手で鼻を拭う。

 

「……うるせえな。頭に響くから叫ぶなよ」

 

彼は言いながら起き上がり、のろのろと立ち上がる。

 

「色々やってたんだよ。色々」

 

「色々って……」

 

真面目に説明する気が無い垣根に、フェイトは少し眉をひそめる。

なのはも口を挟む。

 

「もう、わたしも壁役やってあげたんだから、説明くらいしてくれても……」

 

そう言われ、溜め息を吐いて首の関節をコキコキと鳴らして仕方なさそうに答えた。

 

「……俺の能力で『闇の書の意志(ヤツ)』の内部に干渉して、防衛プログラムを解析や逆算して止めてみたんだ。流石は古代魔法。中々キツかったぜ?」

 

「そんな事できるの……?」

 

「……って、そんな事したら、転生機能が……ッ!」

 

「それは大丈夫だ。闇の書側が干渉されたり改変されたと感知できないように偽装していたから、転生されて逃げられる事は無いはずだ。俺の能力はそういう事ができるんだよ。ま、詳しくは後でな」

 

色々と常識はずれな事を何て事なさそうに言っている垣根帝督に、なのはとフェイトは驚き絶句していたが、その時どこから発せられているのか分からない、聞き覚えのある声が3人の鼓膜を震わせた。

 

『外で戦っている方、すみません。協力してください!』

 

「はやてちゃん!?」

 

ハッとするなのは。

『闇の書の意志』の中にいるはずの八神はやての声。

 

『この子に取り憑いている黒い塊を……』

 

本来なら、いまだに暴れているはずの『闇の書の意志』は、まるで見えない何かに拘束されているかのように体が凍り付き、宙に浮いているまま。

未元物質(ダークマター)』の影響を確実に受けている証拠だった。

それを見て、垣根は小さく笑っている。

 

「どうやら、上手く作用したみたいだな」

 

そう言った所で、ユーノ・スクライアから有視界通信が入る。

と言っても通信不調で画面は砂嵐状態で、音声通話のみできている状態だった。

 

『なのは!フェイト!』

 

「ユーノくん!」

 

『フェイト!聞こえる?』

 

「アルフ!」

 

同時にアルフの声も聞こえ、フェイトが答える。

ユーノとアルフはなのは達に合流しようと飛行して向かっていた。

ユーノはそのまま説明を始める。

 

『融合状態で主が意識を保っている。今なら、防衛システムを融合騎から切り離せるかもしれない』

 

「本当?」

 

「具体的に、どうすれば?」

 

ここで通信不調が回復し、互いの表情を確認し合った。

ユーノはニッと小さく笑ってガッツポーズで告げる。

 

『2人の純粋魔力砲で、その黒い塊をぶっ飛ばして!全力全開、手加減無しで!!』

 

それを聞いて2人はにこやかになり、レイジングハート・エクセリオンとバルディッシュ・アサルトを構える。

 

「流石ユーノ!」

 

「分かりやすい!」

 

『Indeed.』

 

垣根は魔方陣を展開した2人より2、3歩下がって眺めている。

 

「……じゃ、俺は見学させてもらいますか。演算切れで疲れたし」

 

 

八神はやては、『闇の書の意志』の呪われた過去を断ち切り、暴走を止める為、管理者として新たな名前を授ける。

 

「名前をあげる。闇の書とか呪われた魔導書なんて、もう呼ばせへん。わたしが言わせへん。ずっと考えてた名前や……。強く支えるもの……幸運の追い風…祝福のエール。リインフォース……」

 

この瞬間、はやては魔導師として完全に覚醒した。

 

 

「N&F 中距離コンビネーション…」

 

「ブラストカラミティ…」

 

「「ファイアーッッ!!!!」」

 

なのはとフェイトの中距離連携魔法。

「殲滅コンビネーション」という名の通り、光弾の嵐と魔力奔流によって効果範囲内を殲滅する。

「N&Fコンビネーション」は、このブラストカラミティやバスターシフトの他にも多数存在する。

文字通り、『闇の書の意志』の姿をした防衛システムとナハトヴァールを粉砕、防衛プログラムと管制融合騎との分離に成功した。

 

『闇の書の意志』……いや、リインフォースは、夜天の主はやてに従い、今ここで宣言する。

 

「夜天の魔導書とその管制融合騎リインフォース。この身の全てで御身をお守り致します。ですが、ナハトヴァールの暴走は完全には止まっていません。垣根帝督という、超能力者(レベル5)の少年の『未元物質(ダークマター)』という力で徐々に押さえられてはいますが、切り離された膨大な力が、じき再び暴れ出します」

 

「うん……」

 

はやてはゆったりとしながら、優しく微笑み答える。

 

「まあ、何とかしよ」

 

彼女は夜天の魔導書を手にし、リインフォースに告げる。

 

「行こか、リインフォース」

 

リインフォースは、初めて柔和な笑顔を浮かべて答えた。

 

「はい!我が主」

 

「管理者権限、発動……リンカーコア復帰。守護騎士システム、破損回帰」

 

4つの光が、再び輝く。

リンカーコアを送還し守護騎士システムが復旧する。

 

「おいで……わたしの騎士達。リインフォース、わたしの杖と甲冑を……」

 

外の世界に、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラの4人が現れた。

更に三角形の魔方陣の中心に、八神はやてが姿を現す。

 

「夜天の光に祝福を……祝福の風、リインフォース、ユニゾン・イン!」

 

騎士甲冑を纏い、同時にリインフォースとユニゾンを行い茶色い髪が白っぽい銀色に、瞳は明るい青色に変わった。

本来の形で融合したはやてとリインフォース。

融合によって、はやては生来の高い魔力と『広域・遠隔』の資質を生かし、リインフォースの補助で夜天の魔導書本体に記録された魔法を扱う魔導騎士として活動できる。

はやての騎士甲冑はリインフォースが設定したもので、はやてが騎士達に贈った騎士服の意匠を汲み取りつつ、独自性の高いデザインになっている。

変身したはやては、背中の黒い3対6枚の羽、スレイプニールを羽ばたかせて守護騎士達と再会を果たした。

 

「はやて……」

 

「うん……」

 

涙を浮かべながら近寄るヴィータに、はやては小さく、優しく微笑む。

シグナムは目を伏せて一言、

 

「すみません」

 

シャマルも申し訳なさそうに、

 

「あの……はやてちゃん…私達……」

 

「ええよ。みんな分かってる。リインフォースが教えてくれた」

 

はやては胸に手を当て、告げる。

 

「そやけど、まあ、細かい事は後や。とりあえず今は、おかえり…皆」

 

涙腺が崩壊し、ヴィータが泣きじゃくりながらはやてに抱き付いた。

 

「うわあああ!!はやて!はやて!!はやて!!うわあああーんッ!!!!」

 

そこへなのはとフェイトが降り立ち、少し後ろに演算切れから回復した垣根帝督が、6枚の白い翼を生やして宙に浮いている。

 

「なのはちゃんとフェイトちゃんも帝督くんもごめんなぁ。うちの子達が色々と迷惑かけてもうて……。帝督くんの声、聞こえてたよ」

 

はやてはヴィータを抱き締めたまま、済まなさそうに謝るが、なのはもフェイトも微笑みながら優しく答える。

 

「ううん」

 

「平気」

 

「……、身体は平気そうだな?」

 

垣根だけは、どうでも良さそうに両手をズボンのポケットに突っ込んで浮いたまま、彼女達を眺めていた。

 

「済まない!水を差してしまうんだが……」

 

上空からユーノとアルフと共に合流し、着地してきたクロノ。

彼は急いだ様子ではやてに告げる。

 

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。時間が無いので簡潔に事態を把握したい。あそこの黒い淀み……」

 

指を指した先には、蛇のような化け物が纏わり付く黒い禍々しい塊があった。

 

「あれは闇の書の防衛プログラムで、あと数分で暴走を開始する。間違いないか?」

 

はやては頷く。

 

「うん……自動防衛システム、ナハトヴァール」

 

ユニゾンしたリインフォースが、小さなホログラムのように姿を現して説明を引き継ぐ。

 

『暴走は周辺の物質を侵食し、ナハトの一部にしてゆく。臨界点を訪れれば、この星1つくらいは呑み込んでしまう可能性がある』

 

「「あ……ッ!!」」

 

息を呑むなのはとフェイト。

クロノが1枚のデバイスを取り出しながら、対策案を告げる。

 

「停止のプランは現在2つ用意してある。……1つ、極めて強力な氷結魔法で機能停止させる。2つ、軌道上に待機している艦船アースラ魔導砲アルカンシェルで消滅させる。……これ以外に良い手がないか?闇の書の主と、その守護騎士達に訊きたい」

 

そこでシャマルが控え目に手を挙げた。

 

「えっと……最初のは多分、難しいと思います。主の無い防衛プログラムは、魔力の塊みたいなものですから……」

 

シグナムも引き継ぐように言う。

 

「凍結させても、コアがある限り再生機能は止まらん……」

 

ヴィータも両手でバッテンをつくり2つ目の案を却下する。

 

「アルカンシェルも絶対ダメ!!こんな所でアルカンシェル撃ったら、はやての家までブッ飛んじゃうじゃんか!!」

 

「建て直せば良いんじゃねえの?」

 

いつの間にか彼女の近くに降り立った垣根が口を挟む。

 

「そーいう問題じゃねえよ!!」

 

ヴィータが無神経な発言をした垣根にメンチを切る。

 

「そんなに凄いの……?」

 

「発動地点を中心に、100数十キロ範囲の空間を歪曲させながら反応消滅を起こさせる魔導砲……て言うと、大体分かる?」

 

なのはの問いにユーノが答えた。

あまりの影響の大きさに、それを聞いたなのはとフェイトも反対する。

 

「あの、わたしもそれ反対!」

 

「同じく、絶対反対!」

 

「……僕も艦長も使いたくはないよ。でも、あれの暴走が始まったらそれ以上の被害が広がり続ける……」

 

エイミィから通信が入り、もう猶予が無い事を告げられる。

手詰まりとなっている。

アルカンシェルを撃てば八神家所か街1つ粉々になる。

氷結魔法は成功率が低すぎる。

そこでなのはは、垣根にダメ元で声をかけてみた。

 

「ねえ、垣根くんの超能力で何とかできない?学園都市第二位の超能力者(レベル5)なんだよね?さっきやったみたいに翼とかで、こう……押さえたり、はやてちゃん達から防衛プログラムを引き離す補助みたいなのしてみたり、とか……」

 

その瞬間、垣根帝督は全員の注目を受ける。

フェイトも、彼に尋ねてみる。

 

「魔法を打ち消すような事をやってたよね。あれにも同じような事できない?」

 

「……まあ、実際にやってみなきゃ断言はできねえが、満更無理じゃねえだろうな」

 

『!!!!』

 

事も無げに言った彼に、驚愕と興奮が一同に巻き起こる。

しかし、待て待てと彼は手を出して説明する。

 

「……ただし仮に成功するとしても、さっきと同様に敵の力は未知数だから、フルパワーで演算しなきゃならない。膨大な逆算と解析、演算。そしてそれに伴って生み出した未元物質(ダークマター)を撃ち込む……物理的にゃできるだろうが時間がかかるし、その間はお前達に楯役やってもらわなくちゃならねえし、そうしてる間の防衛プログラムによる被害は許容してもらうぞ」

 

「あ……」

 

そういえばとなのはは思い出す。

全演算をサーチに回した間は、垣根は自己防衛に回す演算すらできなくなる。

だからこそ、その間の壁役を彼女に頼んでいたのだ。

膨大な量かつ電子顕微鏡並の細かくデリケートで複雑な演算を、超能力者(レベル5)とはいえたった1人の脳でこなさなければならない。

そして、解析と反撃に転じるまでの間は自己防衛で精一杯になるであろう事から、それまでの防衛プログラムによる被害は黙認するしかない。

そういう意味では、アルカンシェルの被害とそう変わらないかもしれないのだ。

結局、都合良く周辺地域に被害を出さずに防衛プログラムを粉砕する方法は無さそうだった。

 

『はーい皆、暴走臨界点まで後15分切ったよ!会議の決断はお早めに!』

 

エイミィから催促の通信が入った。

クロノはもう一度守護騎士達に振り向き、尋ねる。

 

「……何か無いか?」

 

「済まない……あまり役に立てそうにない」

 

「暴走に立ち会った経験は、我等にも殆ど無いのだ…」

 

シグナムとザフィーラが、申し訳なさそうに力無く答える。

しかし匙を投げた訳ではない。

シャマルも何か無いか思案する。

 

「でも……何とか止めないと。はやてちゃんのお家が無くなっちゃうの、嫌ですし……」

 

「いや……そういうレベルの話じゃないんだがな……」

 

「八神の家所か関東地方丸ごと消滅して、日本地図を書き直ししなくちゃならないかもな」

 

シャマルのセリフにクロノが小さくツッコミを入れ、垣根も目を細めて呟いた。

戦闘地点をもっと沖合いにできれば、という話も出たが、海でも空間歪曲の被害は出る。

具体的な有効策が出ないまま、時間だけが刻一刻と過ぎてゆく。

そうこうしていると、胡座をかいて腕組みをしていたアルフが痺れを切らして口を開く。

 

「あー、何かごちゃごちゃ鬱陶しーなぁ!皆でズバッとぶっ飛ばしちゃう訳にはいかないの!?」

 

「ア、アルフ……、これはそんなに単純な話じゃ……」

 

クロノが宥めるように言い、ウーッと唸るアルフを見て、セリフを反芻しながらなのはとはやてとフェイトが呟く。

 

「ズバッと、ぶっ飛ばす……」

 

「ここで撃ったら被害が大きいから撃てへん……」

 

「でも、ここじゃなければ……」

 

そう口に出した瞬間、3人の魔法少女達がハッと一斉に思い付き、顔を見合わせた。

それに気付き、垣根は彼女達に目を向けた。

 

(何か思い付いたのか?)

 

なのはがクロノに尋ねる。

 

「クロノくん!アルカンシェルって、どこでも撃てるの?」

 

「どこでもって……例えば?」

 

聞き返したクロノに、フェイトが答え、更にはやてが告げる。

 

「今、アースラがいる場所」

 

「軌道上。宇宙空間で」

 

それに対してエイミィが明快に、得意気に答えた。

 

『管理局のテクノロジーを舐めてもらっちゃあ困りますなぁ。撃てますよお、宇宙だろうがどこだろうが!!』

 

とサムズアップしてきた。

何をしようとしているのかは理解しつつも、クロノは急展開に慌て始めた。

 

「おい!ちょっと待て君等!まさか……!」

 

3人は同時に頷く。

アースラでエイミィと共に聞いていたリンディ・ハラオウンは、感心半分呆れ半分といった調子で言う。

 

「何っともまあ……、相変わらず物凄いというか……」

 

「計算上では実現可能ってのがまた怖いですね。クロノくん!こっちのスタンバイはオッケー。暴走臨界点まで後10分!」

 

もはや猶予はない。

 

「実に個人の能力頼りでギャンブル性の高いプランだが、まあ……やってみる価値はある」

 

現場指揮を取るクロノは、このプランの敢行を決意。

現場では作戦の打ち合わせを始めた。

まずはやてが説明をする。

 

「防衛プログラムのバリアは魔力と物理の複合4層式。まずはそれを破る」

 

続いてフェイトが引き継いで手順を言う。

 

「バリアを抜いたら本体に向けてわたし達の一斉砲撃で、コアを露出」

 

更になのはが続く。

 

「そしたらユーノくん達の強制転移魔法でアースラの前に転送!」

 

『後は、あらかじめ発射準備をしておいたアルカンシェルで蒸発っと』

 

『上手くいけば、これがベストですね!』

 

とリンディとエイミィが結論付けた。

そして総員配置に着き、防衛プログラムを睥睨する。

クロノは個別の有視界通信を開き、グレアム提督に話しかける。

 

「提督、見えますか?」

 

『ああ、よく見えるよ』

 

「闇の書は、呪われた魔導書でした」

 

クロノとグレアムの脳裏には、闇の書によってもたらされた、体験した悲劇が浮かぶ。

敢えて、その上で、彼は告げる。

 

「その呪いは、いくつもの人生を喰らい、それに関わった多くの人の人生を狂わせてきました。あれのお陰で、僕も母さんも、他の多くの被害者遺族も、こんなはずじゃない人生を進まなきゃならなくなった。それはきっと貴方も、リーゼ達も……」

 

クロノ・ハラオウンは手にしていたデュランダルを起動し、氷結の杖を右手に握ってゆったりと小さく笑い、はっきりと宣言する。

 

「無くしてしまった過去は変える事ができない。だから、今を戦って未来を変えます!」

 

宇宙ではアルカンシェルのチャージが始まる。

そして、闇の書の真の闇の部分とも言うべき防衛プログラムがいよいよ、『未元物質(ダークマター)』の効力が切れて暴走を始めた。

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