魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter   作:戸礼太

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夜の終わり、旅の終わり

『暴走開始まで、後2分!』

 

暴走を開始寸前の、異形の防衛プログラムを睥睨する一同。

岩場に並んで立つなのはとフェイト。

垣根帝督は、彼女達の少し後ろに立っていた。

 

「あっ……、なのはちゃん、フェイトちゃん、あと帝督くんも」

 

はやてが近付いて声をかけた。

 

「「?」」

 

「ああ?……つーかお前、馴れ馴れしいんだよ。垣根で良いっつってんだろ」

 

「ほな代わりにわたしも『はやて』でええよ?帝督くんだけ他人行儀なのもわたし嫌やし」

 

垣根は鬱陶しそうに眉をひそめるが、はやてはニコニコしてどこか楽しそうにして意に介さない。

 

「断る。そういう仲良しゴッコは俺以外のお友達とやってろ」

 

「つれないなぁ。お揃いのよしみで仲良うしよ?」

 

「はあ?お揃いって何だよ。何のだよ?」

 

訳の分からなさそうな顔の垣根に、はやては自分の背中を向けて6枚の黒い羽、スレイプニールを見せて言う。

 

「ホラ♪帝督くんも背中から6枚の羽生やすやろ?わたしとお揃いや♪」

 

楽しそうに嬉しそうに言ってくるはやてに、垣根はくだらなさそうに目を細めた。

だから何なんだといった調子で、

 

「……用途も規模も、サイズも色も違うだろ。お前のは魔法で俺のは能力だし」

 

「でも6枚も羽なんもわたし達だけやで?……何なら親しみ込めて、ていとくん(、、、、、)て呼ぼか?」

 

プッと吹き出したなのはとフェイトを見て、余計に不機嫌になる垣根はきっぱりと告げる。

 

「断固断る。絶対呼ぶな。あと俺の事は垣根で良いっつってんだろ」

 

「……ほな、わたしもお断りするわ。帝督くん(、、、、)が折れてくれるまでわたしも勝手に呼ぶから♪」

 

彼はそれに答えず、チッと舌打ちの音を立てて無視した。

はやてはそれより、と眼下の方に立っているシャマルを呼ぶ。

 

「シャマル」

 

「はい…」

 

シャマルは振り向いてなのは達の元に飛んできた。

 

「お2人……いえ、3人の治療ですね」

 

「うん。なのはちゃんとフェイトちゃんはもちろん、帝督くんもね。鼻血出てたし」

 

3人……というセリフに怪訝な顔になり、垣根は自分が含まれている事に一瞬遅れて気付いて内心驚いていた。

 

「クラールヴィント……」

 

シャマルはソッとクラールヴィントに口付けて、右手をかざす。

 

「本領発揮よ」

 

Ya.(はい)

 

4つのリングが輝き、シャマルの治療魔法が発動する。

 

「風よ 癒しの恵みを運んで」

 

ライムグリーンの光が3人を包み込む。

みるみる内に2人のバリアジャケットが修復し、手傷も癒されていく。

治療魔法、癒しの風。

範囲内にいる生命体にシャマルの魔力を付与して活性化させる事で、外傷の治療や疲労の回復を促す他、防護装備の復旧も行う。

魔力損耗が激しい場合には魔力を分け与える事も可能となっている、総合治療魔法だ。

 

「湖の騎士シャマルと風のリング クラールヴィント。癒しと補助が本領です」

 

「凄い……」

 

「ありがとうございます。シャマルさん」

 

「頭の痛みが治まった……。汚れや疲労回復まで……スゲェな」

 

ユーノ・スクライア、アルフ、ザフィーラの3人は、防衛プログラムの上空に移動しサポート係に回る。

 

「コア露出までは、あたし達がサポートだ。上手い事動きを止めるよ!」

 

「うん」

 

「ああ…」

 

アルフの言葉に呼応する2人。

直後、無数の黒い柱が海面から出現し始めた。

暴走開始の合図と言える現象が。

 

「始まる……」

 

クロノ・ハラオウンの発言の後を紡ぐように、八神はやては静かに呟く。

眼下の存在を説明するように。

 

「夜天の魔導書を、呪われた闇の書と呼ばせたプログラム……。ナハトヴァールの浸食暴走体。闇の書の……闇!」

 

現れたのは、今まで蒐集してきた火竜や岩竜、砂竜、沼蛇といった異世界の生物をミックスし、巨大な翼や中心部に女性形のコックピットのような奇妙な異形のキメラのような姿をした怪物だった。

『闇の書の闇』。

コア内部に蓄積された莫大な魔力を元に、周辺に存在するあらゆる有機物・無機物を取り込みながら無差別な破壊活動を行う。

コアに蓄積された魔力が残っている限りは無限に近い瞬時再生能力を誇り、周辺に取り込めるエネルギーがある限り、コアに魔力を補給し続ける事ができる。

 

「チェーンバインド!」

 

「ストラグルバインド!」

 

同時に放たれた橙色のチェーンバインドと緑色のストラグルバインドは対象の本体周辺の体に絡み付く。

更にユーノは新たに魔方陣を展開した。

 

「ケイジング・サークル!」

 

闇の書の闇本体を取り囲むように放たれた巨大なリング。

ユーノの結界魔法で、リングで囲まれた空間内の対象を閉じ込める。

強固な捕獲能力を誇り、『闇の書の闇』の足止めを行う。

 

「囲え、鋼の軛!!」

 

ザフィーラの叫びと同時に、天空から圧縮魔法のスパイクが撃ち込まれた。

ダメージを与えつつその場に足止めし、攻撃と拘束双方の性質を持つ為、大型対象の制止や無力化に効果を発揮する。

『闇の書の闇』は雄叫びをあげてバインドもサークルもスパイクも、振りほどくように砕いた。

そして、漆黒の砲撃を無数に放ち、岩場に立つ魔導師達を撃ち落とそうとする。

一斉に散開し上空に上がった。

参謀役として、シャマルが指示を出す。

 

「先陣突破!なのはちゃん、ヴィータちゃん、お願い!!」

 

「おう!!」

 

ヴィータは返事をしてすぐ後ろを飛翔するなのはに、振り向いて告げる。

 

「合わせろよ。高町なのは」

 

「うん!ヴィータちゃんもね」

 

ヴィータは正面に向き直ると、愛機に呼び掛け気合いを入れる。

 

「やるぞ、アイゼン!!」

 

『Gigant form.』

 

『ギガントフォルム』は大型対象や建造物破壊の形態となる。

ハンマーヘッドがヴィータの魔力によって瞬時に巨大化した。

ヴィータは先行していき敵の砲撃を避けながら前衛を担う。

 

「アクセルシューターバニシングシフト!」

 

『Look on.』

 

後衛のなのはは、敵の複数ある蛇首をマルチロックオンし一気に魔力弾の雨を降らす。

バニシングシフトはアクセルシューターの発射布陣の1つ。

放たれた弾はロックオンした目標に対して中低速で飛翔するが、自身や保護対象……この時はヴィータへの攻撃には迎撃弾として機能する。

彼女自身による直接狙撃も合わせて、前衛のフォローを行う布陣を敷く。

この間に『闇の書の闇』の頭上に到達したヴィータは、足元に魔方陣を展開し横凪ぎにグラーフアイゼンを振り回す。

 

「轟天……爆砕!!」

 

更に縦に振りかぶった瞬間に持ち手が伸長し、ハンマーヘッドが更に巨大化する。

巨大化したハンマーヘッドが、バリアを展開した敵に振り下ろされた。

 

「ギガント…シュラーク!!」

 

ギガントフォルムの最大出力打撃。

巨大なハンマーヘッドによる質量打撃は、単純故に強力で対処が困難。

バリアの1層目を一撃で破壊した。

 

「次、シグナム、フェイトちゃん!!」

 

フェイト・テスタロッサとシグナムが、海面スレスレを飛行しながら肉薄する。

 

「行くぞ、テスタロッサ」

 

「はい…シグナム」

 

フェイトはザンバーを横凪ぎに振るい、ブレードインパルスという斬撃の衝撃波を放つ。

 

「はああああああッッ!!」

 

フェイトの攻撃は障害物となる砲撃触手を斬り払い、自身とシグナムの視界をクリアにした。

 

『Bogen form!』

 

剣が鞘と連結し弓の形態、ボーゲンフォルムに変わる。

シグナムは弓を引き絞り、狙いを定めて矢を放つ。

 

「駆けよ 隼!!」

 

『Sturmfalken.』

 

シュツルムファルケン。

レヴァンティンのボーゲンフォルムから放つ魔法。

矢の先端はレヴァンティンの刀身と同一構成になっていて、短時間なら集積した魔力を保持したまま飛ばせる。

シグナムが持つ魔法の中でも最大クラスの威力と防御貫通効果を持ち、命中時には爆発と超高温の炎を発生させて対象を破壊する。

 

「貫け、雷神!!」

 

『Jet ZANBER.』

 

シグナムの対角線上に立つフェイトが、長大な刀身を振り下ろす。

ジェットザンバー。

ザンバーの刀身を伸ばして切断する、大型対象用の魔力斬撃。

防御破壊の効果を持ち、バリアを破砕しながら対象を文字通り叩き斬る。

シュツルムファルケンとジェットザンバーが同時に命中し、爆煙を上げた。

ダメージを受けた本体はボロボロになり、足元から崩れ始める。

 

「やった……?」

 

アルフの呟きに、ユーノは即座に否定する。

 

「まだ……!」

 

舞い上がる粉塵と煙を突き破り、『闇の書の闇』はいつの間にか宙に浮いて砲撃を無数に繰り出してきた。

回避の為に散開する一同。

そこにザフィーラが敵の正面に肉薄し、何度も拳を叩き込んだ。

滅牙。

ザフィーラの防御破壊魔法。

ミッドチルダ式のバリアブレイクに相当し、対象の防御組成に干渉し、バリアやシールドといった防御膜を分解する。

これによって『闇の書の闇』の積層防御を破壊した。

 

「はやてちゃん!」

 

八神はやては融合騎リインフォースと共に夜天の魔導書を手に、目を閉じ詠唱を始める。

 

「彼方より来たれ、ヤドリギの枝。銀月の槍となりて打ち貫け」

 

空に白銀の魔方陣が展開する。

しかしここで『闇の書の闇』は再び積層防御を復元し始めた。

想定より回復が速い。

 

『ッッ!!!?』

 

これから放つ魔法は直接破壊力は低く、防御貫通効果も皆無と言える。

しかも詠唱中のはやてに向かって触手から無数に砲撃が放たれた。

このままでは作戦が……、

 

「おっと、そうはいかない」

 

と、はやての目の前に垣根帝督が割り込み、6枚の翼で砲撃を防御、その後に翼にありったけの力を込めて羽ばたかせて『未元物質(ダークマター)』で変質させた烈風を放つ。

 

ズァ!!

 

烈風は積層防御に防がれたが、直後に巨大化した白い翼が鈍器か刃物のように振り下ろされた。

敵はさっきと同じように積層防御で対応するが、

 

ドバァッ!!

 

防御膜を貫通ではなく、その存在を無視するかのようにすり抜けて翼が思い切り叩き付けられた。

轟音と悲鳴を響かせて海面に墜落、更に叩き付けられた翼が炸裂しバリアブレイクの要領で内側から積層防御膜を粉砕した。

それを目視した垣根は退避しながらはやてに告げる。

 

「仕切り直しだ。詠唱を続けな」

 

彼女は黙って頷き、石化魔法を放った。

 

「石化の槍、ミストルティン!!」

 

石化効果の攻撃魔法が、白銀の槍を伴って『闇の書の闇』に命中した。

接触した瞬間、組成の脆い砂岩上の物質に変成されられ、動きが止まる。

崩壊していくが、しかしそのそばから再生していく。

だが、攻撃は通っている。

作戦続行を決意したクロノが、デュランダルを構える。

 

「凍てつけ!!」

 

対象外周に設置した浮遊ユニットによって効果空間内に冷気を閉じ込め、更に溢れた凍結魔力を反射させて冷凍効果を倍加させる。

『闇の書の闇』が周辺含め丸ごと凍結していく。

 

『Eternal coffin.』

 

ゴバッ!!!!!!

 

エターナルコフィン。

デュランダルに記録され、クロノ自身も独自に習得していた凍結魔法。

放射された凍結砲はデュランダルのサブユニットであるリフレクターで反射され、最大効率で対象を凍結させる。

今度こそ動きを止める事に成功し、止めを3人に託す。

 

「なのは!フェイト!はやて!!」

 

『Starlight Breaker.』

 

周辺の魔力素を取り込み集束し、一気に放つなのは最大の必殺技。

 

「全力全開……!スターライト……」

 

『Plasma ZANBER.』

 

「雷光一閃……プラズマザンバー!!」

 

金色と紫色のスパークが刀身に流れる。フェイト最大の必殺技。

そして、はやては『闇の書の闇』に少し済まなさそうな顔をして、静かに告げる。

 

「ごめんな……おやすみな……。響け終焉の笛、ラグナロク!!」

 

「「「ブレイカー!!」」」

 

なのはのスターライトブレイカー、フェイトのプラズマザンバー、はやてのラグナロク。

3つの魔法を1つに合わせたトリプルブレイカーは、『闇の書の闇』の生体部品の大半を消滅させ、コアを露出させる事に成功した。

シャマルはクラールヴィントのワイヤーで形成した遠隔魔法『旅の鏡』でコアを確認。

 

「捕まえ……た!!」

 

「長距離転送!!」

 

「目標…軌道上!!」

 

シャマル、ユーノ、アルフの3人による軌道上への転送。

シャマルがコアの確保と位置固定、ユーノが転送位置の制御、アルフが転送用の魔力の供給と、3人が協力して行っている。

 

「「「転送!!」」」

 

『闇の書の闇』は丸ごと軌道上へ転送されながら、それでもなお生体部品を再生し始めている。

 

『アルカンシェル、バレル展開!!』

 

エイミィ・リミエッタが告げ、射撃スタンバイが完了。

 

『ファイアリングロックシステム……オープン』

 

リンディ・ハラオウンはロックキーを回してトリガーを引いた。

 

『アルカンシェル……発射!!』

 

虹色の輝きを持つ反応消滅砲によって、宇宙空間へ転送された『闇の書の闇』は跡形もなく消失した。

この際に発生した閃光は地上からも観測可能だった為『空に現れた原因不明の光』として話題になったが、その原因は学園都市を含めて突き止められる事はできず、クリスマスから年末にかけてのニュースを少しばかり賑やかにした後、静かに忘れ去られる事となる。

 

『効果空間内の物体、完全消滅……再生反応……ありません!』

 

エイミィが声を弾ませて告げた。

リンディは静かに頷き、次の指示を出す。

 

「うん……。準警戒体制を維持。もうしばらく反応空域を観測します」

 

『了解!』

 

うっすらと雪が降り始めた海上で、岩場に立つ一同はエイミィからの通信を受けていた。

 

『……という訳で、現場の皆、お疲れ様でした!無事、状況終了しました!!』

 

クロノはデュランダルを待機状態に戻して、告げる。

 

「協力に感謝する」

 

ようやく平穏が訪れた。

垣根以外の面々が笑顔で向き合い、喜びを分かち合う。

 

『この後、残骸の回収とか、市街地の修復とか色々あるんだけど、皆はアースラに戻って一休みしてって』

 

はやてとフェイトとハイタッチしたなのはが、思い出したようにエイミィへ尋ねる。

 

「あ、あの、アリサちゃんとすずかちゃんは?」

 

『ああ、被害が酷い場所以外の結界は解除してるから、もといた場所に戻ってるよ』

 

「そうですか、良かった……」

 

それを聞いてホッとする。

フェイトがクロノを労うように声をかける。

 

「クロノ、お疲れ様」

 

「ああ、……良く頑張ってくれた。ありがとうフェイト」

 

クロノも、そんな彼女に優しく微笑む。

その様子は仲の良い本当の兄妹に見えた。

退屈そうにしていた垣根の視界の端に、宙に浮いているはやての姿が入った。

彼女は一瞬ふらつき、直後にユニゾンが解けてリインフォースが姿を現しはやてに振り向く。

 

「我が主……?まだ融合を解かれては_」

 

返事は無く、スレイプニールが消滅し力なく彼女の体は落下し始めた。

 

「我が主!!」

 

「はやて!!」

 

いち早く気付いたヴィータの叫び声に、他全員も気付く。

 

「はやてちゃん!!」

 

墜落寸前でリインフォースが抱き止めたが、はやては気を失っていた。

ヴィータとシャマルが駆け寄る。

 

「はやてちゃん!!」

 

「はやて…はやて!!」

 

一歩遅れてシグナムとザフィーラも駆け寄る。

呼び掛けに応じず、眠るように倒れたはやて。

しかし、それは消耗し切って疲れた事が理由で、大事には至らない事が分かった。

 

 

アースラの医務室のベッドで眠るはやてを囲み、守護騎士達にリインフォースは現状を告げる。

 

「私の……夜天の書の破損は、やはり深刻だ。ナハトは停止したが、歪められた基礎構造は変わらない。私は……夜天の魔導書本体は……遠からず、新たなナハトヴァールを精製し暴走を始めるだろう」

 

つまり、これでは何度防衛プログラムを切り離し破壊してもキリがない。

シグナムははやての顔を見て尋ねる。

 

「主はやては……大丈夫なのか?」

 

「何も問題は無い。ナハトからの浸食も止まり、リンカーコアも正常だ。不自由な足も、時を置けば自然に治る」

 

リインフォースははやてを愛おしそうに、慈しむように微笑みながら続ける。

 

「目覚めて、すぐに大義をなされたゆえ、今は少しお疲れなだけだ」

 

それを聞いてシャマルとシグナムは安心する。

 

「そう……じゃあ、それなら万事オッケーね」

 

「ああ……心残りは無いな」

 

ヴィータも、納得し、しかし少し悲しげに静かに声を発する。

 

「ナハトが止まってる今、夜天の書の完全破壊はカンタンだ。魔導書ごと破壊しちゃえば暴走する事も二度と無い。代わりに、あたし等も消滅するけど」

 

「ヴィータ……」

 

気遣うように声をかけるシグナムを、敢えて振り切るように彼女は言う。

 

「良いよ、別に……。こうなる可能性があった事くらい、皆知ってたじゃんか」

 

「いいや違う」

 

それを即座に否定したリインフォースに、4人の視線が集まる。

 

「お前達は残る。逝くのは私だけだ」

 

彼女は、曇りの無い笑顔で断言した。

 

 

一方、アースラの食堂室で同様の説明をクロノとユーノから受けているなのはとフェイト、アルフ、垣根。

 

「夜天の書の……破壊?」

 

息を呑み、呻くように呟いた。

なのはがテーブルに手を付いて立ち上がる。

 

「どうして!?防御プログラムはもう破壊したはずじゃ……」

 

クロノは端末の資料に目をやりながら答える。

 

「ナハトヴァールは確かに破壊されたが、夜天の書本体がじきにプログラムを再生してしまうそうだ」

 

ユーノも済まなさそうに、悔しそうに告げる。

 

「今度は、はやてや騎士達も浸食される可能性が高い。夜天の書が存在する限り、どうしても危険は消えないんだ。だから、彼女は今の内に、自らを破壊するよう申し出た」

 

ストン、となのはは力無く座り込み、うつ向く。

 

「そんな……」

 

フェイトも同じようにうつ向き、

 

「でも、それじゃシグナムや騎士達も…」

 

「ううん……。私達は残るの」

 

声のした方を向くと、シャマルと守護獣形態のザフィーラが歩いてきた。

ザフィーラが歩み寄りながら言う。

 

「ナハトヴァールと共に、我等守護騎士も本体から解放したそうだ」

 

シャマルが言葉を継ぐ。

 

「それで……リインフォースからなのはちゃん達に、お願いがあるって」

 

「お願い……?」

 

そのお願いを聞いた時、ダンッ!とテーブルを叩いて立ち上がったのは、今まで黙って聞いていたはずの垣根帝督。

いや、正確には、夜天の書の破壊の話から、分かりやすく露骨に苛立っていた。

心底不愉快そうに眉間に皺を寄せ腹を立てている。

彼はツカツカとシャマルに歩み寄り、ズイと顔を近付けて尋ねる。

 

「おい、あの女……リインフォースはどこだ?教えろ」

 

「え……?えっと……_」

 

凄い剣幕で来た垣根に鼻白みながらも、シャマルは答えた。

すると彼は腹を立てた様子で早歩きでツカツカと立ち去ってしまい、なのは達は慌てて追い掛ける。

 

「クソが!あの女……、人の苦労を無駄にする気か……ッ?」

 

雪の降る中、リインフォースはシグナムととある丘で待ちながら何か話していた。

そこに足早に現れたのは、怒り剥き出しの超能力者(レベル5)の少年、垣根帝督。

 

「ああ、来てくれたか」

 

ゆったりと微笑むリインフォースを見て、彼は更に怒りを滲ませて彼女に近寄り胸ぐらを掴んだ。

 

「おい……」

 

シグナムが制止しようとするが、垣根は無視して怒鳴る。

 

「テメェ、ふざけんなよ!高町とテスタロッサに介錯を頼んで、俺にそれを見届けて欲しいだと?人のお膳立て無駄にして、何死にそうな事言ってんだよ!!」

 

激怒している垣根を、胸ぐらを掴まれた彼女は優しく諭すように、宥めるように告げる。

 

「それしか……方法は無い。お前にナハトを止めてもらい、破壊に成功はしたが、防衛システムの修復機能については説明した通りだ。仕方がない」

 

「関係ッッッねぇ!!」

 

「私と防衛システムを切り離せば、私もまた生存できなくなる」

 

「ならそうならないように俺が、俺の『未元物質(ダークマター)』でテメェをもう一度サーチして、隅々まで逆算してまた、今度はお前自身を改変前にまで作り直せば良い!!」

 

彼女は首をゆっくりと、横に振る。

 

「無理だ。管制プログラムである私の中からも……夜天の書本来の姿は、消されてしまっている。元の姿が分からなければ、戻しようも無い」

 

「なら一から構造を作り直せば良い!!」

 

「ダメなんだ。それでも新たにナハトヴァールは再生してしまう」

 

「それならそれも作り直す!!できねえならまたぶっ壊す!!」

 

「それでもまた何度でも再生してしまうんだ。キリがない」

 

「ならそれより早くぶっ壊す!!」

 

怒りが先行し、結果として整合性の無い支離滅裂な言葉を叩き付けるようになっている。

リインフォースはそんな垣根を、まるで駄々をこねる子供をあやす親のように優しく、肩に手を置いて告げる。

 

「仮にそれができても、やはり危険は付きまとう。再生の可能性がある限りはダメだ」

 

「だとしても、また俺が演算すれば良い!!」

 

ナハトヴァールは分離不可能なレベルで結合し、破壊しても破壊しても再生する。

しかも結合を切り離せば、リインフォースも存在を維持できない。

だが『未元物質(ダークマター)』を応用して、ナハトヴァール無しでも、再生を根絶してその上で生きていける身体にすれば良いと思っていたのだが……、

 

「その状態の私の身体を維持する為に、お前は年中常に私に付きっきりでいて常に演算をし続けなければならない。私の為に、流石にそんな事は、させられないし超能力者(レベル5)であるお前でもそれはできない。必ず限界は来る。理論的にも物理的にも無理がある」

 

「……ッ!!」

 

いつかどこかでリミットを迎え、いつかどこかで追い詰められ、いつかどこかで命に関わる大惨事が再び起こり得る。

その可能性を永遠に断つには、方法は1つしか無い。

この為、リインフォースは自らと魔導書本体の完全破壊を申し出た。

守護騎士システムは魔導書ではなく八神はやて自身に受け渡し、自身と防衛システムを共に破壊する事で、闇の書の歴史を完全に閉じる決断をくだした。

 

「だから、せめて静かに……恩人でもある垣根帝督(あなた)には見送って欲しいのだ」

 

「__っ、それがお前の救いだってのか……ッ?」

 

「ああ、そうだ……」

 

言いながら、リインフォースは掴んでいる垣根の指を1本ずつゆっくり優しく外していった。

外された手を下ろし、口惜しそうに拳をぎゅぅっと握り締める。

 

「ふざけんな……。何満足そうな顔してんだよ……ッ!」

 

彼は一歩下がり、今度はなのはとフェイトが彼を気にしながらもリインフォースに歩み寄った。

 

「リインフォースさん……」

 

「そう呼んで……くれるのだな」

 

「うん……」

 

「あなたを空に還すの、わたし達で良いの?」

 

フェイトの問いに彼女は静かに、ハッキリと答える。

 

「お前達だから、頼みたい」

 

「はやてちゃんにお別れの挨拶……しなくて良いんですか?」

 

「主はやてを、悲しませたくないんだ」

 

「でもそんなの……何だか悲しいよ」

 

言っている途中で、彼女の声が震える。

しかしリインフォースは極めて穏やかな様子で、告げる。

 

「お前達にも、いずれ分かる。海より深く愛し、その幸福を守りたいと思える者と、出会えればな」

 

リインフォースにとっては、3人のお陰で主であるはやてへの浸食を止める事もはやてと話す事もできた。

だから、2人に閉じて、見送って欲しいと願う。

敢えて別れを告げずに消滅するのを選んだ彼女に悲しむなのは。

守護騎士達も集まり、いよいよ夜天の魔導書が終焉を迎える時が迫る。

 

「そろそろ始めようか。夜天の魔導書の……終焉だ」

 

魔方陣を敷いて行っている儀式は万に一つも防衛システムが溢れ出さないようにする為のもので、魔導書とリインフォースの消滅は、リインフォース自身が自分の魔力と意思で行っている。

 

『Ready to set.』

 

『Standby.』

 

レイジングハートとバルディッシュが告げ、リインフォースはゆったりと答える。

 

「ああ……。短い間だったが、お前達にも世話になったな」

 

Don't worry.(気にせずに)

 

Have a good journey.(良い旅を)

 

「ああ……」

 

魔法が発動し、彼女の体が光に包まれ始める。

穏やかな表情の彼女の、いよいよという時、

 

「リインフォース!!」

 

「ああっ……!」

 

寝ていたはずの八神はやてが、車椅子を必死に動かしながら現れた。

 

「リインフォース!!皆!!」

 

突然のはやての登場に驚く一同。

シャマルとヴィータが駆け寄ろうとするが、

 

「動くな!」

 

リインフォースがそれを制止する。

 

「動かないでくれ。儀式が止まる」

 

手動の車椅子を必死で漕いできて、涙目になりながら息も絶え絶えでやってきたはやては、儀式を止めさせようと叫ぶ。

 

「あかん!!やめて、リインフォース、やめて!破壊なんかせんでええ!!わたしがちゃんと抑える。大丈夫や。こんなん、せんでええ!!」

 

しかし、リインフォースは少し済まなさそうな、悲しげな雰囲気を出しつつも優しく諭すように、告げる。

まるで、先ほどの垣根帝督を相手にするように。

それに彼も気付き、やり場の無い憤りを覚えるも黙っていた。

 

「主はやて…良いのですよ」

 

「良い事ない!!良い事なんか……何もあらへん!!」

 

泣きじゃくるはやてに、本来は言うつもりの無かった別れの挨拶のつもりで、口を開く。

まるで、いや、まさにこれは遺言だと言える。

 

「随分と長い時を生きてきましたが、最後の最後で、私はあなたに……綺麗な名前と心をいただきました。ほんの僅かな時間でしたが、あなたと共に空を駆け、あなたの力になる事ができました」

 

これから逝く者とは思えぬほど一言一言が穏やかで、温かだった。

故に残される者達には、これから訪れるであろう悲しみと寂しさを強く感じさせるのだった。

 

「騎士達も、あなたのおそばに残す事ができました。心配も心残りはありません」

 

「心残りとか……そんな!」

 

「ですから……私は笑って逝けます」

 

「あかん!わたしが、きっと何とかする!!暴走なんかさせへんて約束したやんか!!」

 

「その約束は、もう立派に守っていただきました」

 

「リインフォース!!」

 

「主の危険を払い、主を守るのが魔導の器の勤め。あなたを守る為の、最も優れたやり方を……私に選ばせてください」

 

はやてはボロボロと涙を流し、歯を食い縛る。

言いたい事は分かる。

だが、それでも、納得できない。

何故リインフォースが死ななければならないのか。

 

「そやけど……ずっと悲しい思いしてきて……やっと…、やっと救われたんやないか……!!」

 

ひくっ、と彼女の喉が引きつる。

 

「私の意志は、あなたの魔導と騎士達の魂に残ります。私はいつも、あなたのそばにいます」

 

はやては全力で、首を横にかぶり振る。

言わずとも、逝くな!と言葉を体全体で表す。

 

「そんなんちゃう!そんなんちゃうやろ!!」

 

「駄々っ子はご友人に嫌われます。聞き分けを……我が主」

 

何とかすると言い張って聞かないはやてを、同じように諭すリインフォース。

はやては思わず彼女に近付こうと車椅子をこぐ。

 

「リインフォース!!あっ…!!」

 

車椅子の片輪が段差につまずき、そのまま転倒し投げ出されてしまった。

薄く積もった雪を顔に被り、涙と雪まみれの顔で悔しそうに、悲しそうに呻くように言う。

 

「何でや……。これからやっと始まるのに……これからうんと幸せにしたげなあかんのに……」

 

転んだまま泣きじゃくるはやての元に、リインフォースは歩み寄り腰を下ろす。

 

「大丈夫です。私はもう世界で一番、幸福な魔導書ですから」

 

「リインフォース……」

 

リインフォースは、はやての顔に付いた雪をすくい取りながら告げる。

 

「我が主…一つ、お願いが。私は消えて、小さく無力な欠片へと変わります。もしよろしければ、私の名はその欠片ではなくあなたがいずれ手にするであろう、新たな魔導の器に贈ってあげていただけますか。祝福の風リインフォース。私の願いは、きっとその子に継がれます」

 

「リインフォース……」

 

「はい……我が主」

 

これが、最後の最期。

彼女は立ち上がり、魔方陣に戻る。

目を閉じ、儀式が再開されその体が光に包まれてゆく。

 

「主はやて……守護騎士達……それから小さな勇者達、そして綺麗な翼の英雄(ヒーロー)よ」

 

八神はやての車椅子のそばに立ち尽くす垣根帝督は、忌々しそうに眉をひそめる。

リインフォースはそれをうっすら見つめて、小さくクスリと笑う。

 

「ありがとう。そして、さようなら」

 

この言葉を最後に、リインフォースは空気に溶けていくように消滅した。

 

「あっ……」

 

空から降ってきたのは、はやての手元に残ったのは、リインフォースの欠片、剣十字の紋章。

剣十字をかたどったペンダントは文字通りリインフォースからの最後の贈り物で、小さな遺産だった。

夜天の書誕生当時から存在していた夜天の書の装飾品の1つで、リインフォースにとっても祈りと願いの込められた品。

このペンダントに特別な機能は無いが、はやては後にこのペンダントを自身のデバイスの待機形態として使用するようになり、かつての夜天の書をそうしていたように、大切な宝物として肌身離さず持ち歩くようになる。

 

『呪われた闇の書』ではなく、夜天の魔導書として。

主に愛され、必要とされた融合騎リインフォースとしての終焉を迎えた彼女は、主であるはやてをはじめ、なのはやフェイト、騎士達のその後にも大きな影響を与える事となった。

 

「………………………………、」

 

その様子を見ていた、『未元物質(ダークマター)』を操る学園都市第二位の超能力者(レベル5)、垣根帝督を『綺麗な翼の英雄(ヒーロー)』と呼んだ彼女。

彼は拳を握り締め小さく震え、吐き捨てるように呟く。

 

「ふざけやがって。満足そうな顔してんじゃねえよ__ッ」

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