魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter   作:戸礼太

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それはきっと、本当に小さな願い。

叶える事ができなかった願いがあって、

掌に残った今があって、

どんなに泣いても悲しんでも、

過去は戻ってこないけど、

だけど、未来は作っていける。

想いを貫く力と、

空を駆ける翼があるから。

少女達は、きっと_。


Epilogue of ACES

動かない本の頃からずっと共に過ごしていた大切な家族を失った喪失感と、何もできなかったという無力感は、はやての心に深い悲しみを落とした。

しかしそれと同時に共に空を駆けた心強さ、何より去り際に託された願いと笑顔の思い出が、はやての心を支えてもいた。

悲しみと優しい記憶を抱いて、少女は大人になってゆく。

 

後味の悪さを感じるなのはだが、それを力付けるフェイト。

フェイトは今後、時空管理局で執務官になるという目標を語る。

なのはは、執務官は無理だろうけど方向は同じだと語る。

ユーノもまた、将来の事を考えていた。

無限書庫の司書として誘われていたのだ。

 

ギル・グレアム提督は、希望辞職という事で手打ちとなった。

具体的なのはクラッキングと捜査妨害くらいなものなので、これでイーブンだと判断されたのだろう。

八神はやてに対しては、今まで通りに援助を続けて本人が1人で羽ばたける年になったら、真実を告げる事になるだろうと自ら言っていた。

 

なのはが帰宅後、彼女の携帯電話には月村すずかからメールが来ていた。

はやてとフェイトを交えて明日クリスマス会をするとの事だった。

 

「……ちゃんと話さないとね。今までの事……」

 

 

 

翌日、海鳴駅発の海鳴大学病院行きのバスではやてを迎えに病院へ行く3人。

高町なのはと隣に座るフェイト・テスタロッサ。

そして2人に半ば強引に呼び出された垣根帝督が、後ろのシートに座っていた。

 

「はやて、病院に戻ったんだ」

 

車内でフェイトがなのはに言う。

 

「そういえば、入院中に抜け出しちゃったんだもんね」

 

そうなのはが答えた所で、垣根が後ろのシートから顔を出してきた。

 

「……なあ」

 

「何?」

 

涼しい顔の2人に対し、彼は少し眠そうで不機嫌な顔で声を発する。

 

「俺が参加する必要あるのか?」

 

「もちろんあるよ。垣根くんもわたし達と同じように、話さなきゃいけない事もあるでしょ?」

 

「流石にこれ以上隠し通すのも難しいんじゃないかな」

 

となのはとフェイトは言うが、垣根はまだ難色を示す。

学園都市外の人間に、今まで隠していた自分が超能力者(レベル5)だという事や、その第二位だという事、『未元物質(ダークマター)』の事を話すのは抵抗を覚える。

そもそも最後までバラす気は無かったのだ。

ついでにいえば、なのはとフェイトと違い、垣根帝督が能力を行使している所はアリサ・バニングスにも月村すずかにも見られていないので、その必要を感じない。

 

「……でも、見られたりしたのはお前達であって俺じゃないんだから、必要ねえだろ。あと俺にゃ一応、守秘義務もあるんだがな」

 

実際そうなのだが、なのはとフェイトは簡単には彼を逃がさない。

秘密主義の垣根は、放っておくと自分から話す事はあり得ないからだ。

 

「でも、最低でもはやてちゃんには話しておかないと、辻褄を合わせる事できないでしょ?」

 

「アリサとすずかには、話せる範囲で良いから話しておいた方が良いよ」

 

という訳で、結局アリサとすずか主催のクリスマス会参加が今確定した。

渋々ではあるが。

 

そして海鳴大学病院の八神はやての病室。

そこにはザフィーラ以外の守護騎士達もいて、シグナムとシャマルがはやての車椅子に乗る作業を手伝っていた。

 

「「おはようございます」」

 

「あ、おはよう。なのはちゃん、フェイトちゃん、帝督くん」

 

(こいつ頑なに俺の苗字呼ばねえな)

 

3人が挨拶を交わす。

なのはとフェイトの一歩後ろから来た垣根は、黙って会釈だけした。

 

「あれ?」

 

「どうしたの?もう退院?」

 

2人の問いに、はやては少し残念そうにシグナムに抱えられながら車椅子に座り、告げる。

 

「残念、もうしばらくは入院患者さんなんよ」

 

「そうなんだ…」

 

「まあ、もうすっかり元気やし、すずかちゃん達のお見舞いはお断りしたよ。クリスマス会直行や!」

 

「そう」

 

元気そうなはやてを見て、微笑むなのはとフェイト。

電動車椅子で彼女達に近寄って話を続ける。

 

「昨日は色々あったけど、最初から最後までホンマありがとう」

 

「ううん」

 

「気にしないで」

 

そう話した時に、なのはが気付く。

はやてが首から下げている剣十字をかたどったペンダントに。

 

「あ、それ……リインフォース?」

 

「うん……。あの子は眠ってもうたけど……、これからもずっと一緒やから……。新しいデバイスも、この子の中に入れるようにしようと思って」

 

デバイスの事を考えている彼女。

つまり……、

 

「はやて、魔導師……続けるの?」

 

フェイトが少し意外そうに尋ねた。

はやては、ニッコリと笑って言う。

 

「うん。あの子がくれた力やから。…それに、今回の件でわたしとシグナム達は管理局から保護観察を受ける事になったし」

 

「そうなの?」

 

なのはが尋ねると、ヴィータ、シャマル、シグナムの順で答えてきた。

 

「まーな」

 

「管理局任務への従事という形での、罪の償いも含んでます」

 

「クロノ執務官が、そう取り計らってくれた」

 

もちろん、任期はそれなりに長いらしいが、それがはやてと守護騎士達が一緒にいられる唯一の方法だった。

 

「わたしは嘱託扱いやから、なのはちゃん達の後輩やね」

 

部屋を出る時、はやての主治医の石田幸恵に、今日は必ず帰ってくるように説教同然の約束を取り付けられていた。

昨夜と今朝は、表向きは無断外泊だったのでシグナムとシャマルが特に怒られたらしい。

当然といえば当然なのだが。

話が終わり、シャマルが車椅子を押してこちらに歩いてくる。

 

「お待たせ♪」

 

「ううん」

 

はやてとなのはが声を交わしていると、部屋から出た所でシグナムとフェイトが対峙していた。

勝負は預けたままの2人。

だが、これからはいつでも勝負する事ができる……。

 

道を歩きながら、はやてが右隣の路上側を歩く垣根帝督を見る。

最初彼は、車椅子を押すなのはとその左隣を歩くフェイトの更に一歩後ろを歩いていたのだが、はやてが隣に来るよう手招きしてきた。

垣根は断ろうとしたが、なのはとフェイトに後押しされて快気祝いというよく分からない理由で誘導された。

 

「帝督くん、ジャケットは昨日と同じっぽいけど今日はトレンチコートなんや。お洒落やね?」

 

なのははオレンジ色のトップスに白いパーカー、青色ミニスカートに白いオーバーニーソックスといういつもの格好。

フェイトも白と黄色の横縞のシャツにGジャン、デニムスカートといういつもの格好。

垣根の服装も昨日と同じ焦げ茶色のジャケットだが、上着が昨日と違い、黒いトレンチコートを纏っていた。

 

「ああ。まあコート変えたのは単に、昨夜の時に焦げちまったから交換しただけなんだけどな」

 

海鳴市に来てから何気にカジュアルジャケットやらコートやらを、戦闘で汚したり焦がしたりして数着はダメにしていた。

そこでふと、はやてが気付く。

そういえば垣根はなのは達と違って、同級生なのに一度も聖祥小学校の制服姿で現れていない。

 

「……あれ?帝督くんて、なのはちゃん達と同級生なんよね?」

 

「一応な」

 

「うん、そうだよ」

 

垣根はくだらなさそうに答え、なのはが相槌を打つ。

それを聞いて余計にはやては首を傾げた。

 

「……ほな、何で帝督くんだけお見舞いの時も1人だけ制服着てないん?毎回着替えてから来てたの?」

 

「いいや。そもそも着てない」

 

「え?」

 

「……というか、垣根って1回も登校してないよね?」

 

「え??」

 

不思議そうにしていると、フェイトもそう言って付け足し、はやては目を丸くした。

垣根は見た目はやてと違い健常者。

なのに全く登校していない。

これはどういう事なのか。

 

「え?何でなん??……もしかして、帝督くんって……不登校?」

 

心配そうな顔で言われ、思わず顔を引きつる。

 

「「プフッ!?」」

 

「……おい、お前等今笑ったか?」

 

対照的になのはとフェイトは思わず吹き出してしまった。

それに腹を立てた垣根にメンチを切られたが、気付かないフリをして無視する2人。

 

「別にそんなんじゃねえよ。授業はリモートで受けてるし」

 

「でも、普通に登校しても良いし大丈夫だよね?何で?」

 

なのはが尋ねる。

フェイトもはやても、それが一番気になっていた。

彼は僅かに目を細めて彼女達を見つめる。

 

「別に、大した理由じゃねえよ。まず学校で高町達(おまえら)と顔を合わせたくなかったのと……」

 

「「酷い!!」」

 

なのはとフェイトがシャウトするが無視し、彼は言い続ける。

 

「……あと、学園都市側が手配したとはいえ、聖祥の制服を着たくなかったから」

 

「……え?」

 

「……え?」

 

「……それだけ?」

 

「それだけ」

 

言葉を失いポカーンとする3人。

垣根は飄々としている。

数秒間、沈黙と静寂がこの場を支配する。

そして、なのはが眉をひそめて口を開く。

 

「……そんな理由で、今まで学校来なかったの?わざわざリモートカメラのセットまでして……?」

 

なのはが静かに怒りの炎を燃やしていると、垣根は嫌そうに眉を寄せて言い訳を始める。

 

「だって考えてみろ。あの制服のデザイン、どう見ても俺が着たら似合わねえだろ。学園都市が指定する『時間割り(カリキュラム)』の都合上、授業さえ受けられればそれで良いんだから登校はしてもしなくても良いんだよ」

 

「でも、それわたしからしたら贅沢やなー。……帝督くん、世の中には学校行きたくても行けへん子供もおるんよ?」

 

はやてがわざとらしく不満げな顔をするが、垣根はすぐ見破ってツッコミを入れる。

 

「教師かお前は。つーか、それはお前の体験だろ」

 

「『お前』やなくてちゃんと『はやて』って名前で呼んでや。帝督くん♪」

 

「でもはやてちゃんの言う通りだと思うよ、帝督くん(、、、、)♪」

 

「わたしもそう思うよ、帝督(、、)♪」

 

はやての加勢に入り、しかもここぞとばかりに彼女を真似る形で帝督呼ばわりをするなのはとフェイト。

垣根は当然、露骨に苛立って顔をしかめてきた。

 

「あ、ムカついた。シバくぞテメェ等。何突然3人で結託してんだよ。馴れ馴れしいっつーの、垣根って呼べよ」

 

「でもはやてちゃんだけ名前で呼んでるの許してるよね。不公平だよ。それならわたし達も呼んで良いでしょう?」

 

「俺は一度も認めてねえんだよ。八神(こいつ)が勝手にやってるだけだ」

 

「なら、わたしも勝手に呼ぶから。帝督く_「呼ぶな高町なんとか」…って、遮らないでよ!しかも『なんとか』って何!?」

 

食い付いた。

ここで戦局が引っくり返り、垣根となのはの攻守が転換する。

こうなるともう、いつものやり取りだ。

 

「ヴィータって赤いチビのヤツに、高町なんとかって言われてただろ?」

 

「わたしの名前はなのは!!な の は!!だよ!!」

 

プンプンとしながら叫ぶなのはだが、垣根はニヤニヤと邪悪な笑みを浮かべる。

さっきまではやてに振り回されていたのが嘘のように。

 

「どのみち、お前が……いや、お前達が呼び方を改めなけりゃ俺は高町を親しみを込めて『なんとか』と呼んでやる」

 

「良いよ!その時は無視するから!それならわたしは『ていとくん』って呼ぶから!!」

 

「ならフルネームで呼ぶしかないな。高町なんとか」

 

「なのはだから!!ホントにこの先ていとくんって呼ぶからね!?」

 

「そん時は無視するから関係ねえな。何にせよ俺が高町って呼べばそのルールは通用しねえし、実際にそういう場面になれば、お前が俺を一方的に無視する事になるから周りからお前の株が下がるだけだ」

 

「何それズルい!!」

 

すっかり形勢逆転され、なのはは理不尽にからかわれる。

はやては少し面白そうにクスッと笑う。

 

「2人は仲がええんやね」

 

すると2人は同時に、ぐるんと首を回してはやての方を向き、

 

「良くねーよ」

 

「良くないよ!!」

 

シンクロツッコミを炸裂させた。

 

「え~」

 

相変わらずクスクスと笑って楽しそうなはやてに毒気を抜かれ、クールダウンしてきた2人。

フェイトも、そういえばこんなやり取り前にも見たなと思って小さく笑っている。

 

「フフッ、ていうか、制服の話だったよね?」

 

フェイトがそうツッコみ、脱線した話の軌道修正を図る。

ああそうだよ、と垣根が再び口を開く。

 

「……だから考えてもみろ、あのデザインの制服を着た俺を。死ぬほど似合わねえだろ?」

 

「聖祥の……」

 

「制服を着た……」

 

「帝督くん……」

 

ガラの悪そうな風体の少年と、白基調のセーラー服風の男子児童制服。

3人が空を見上げてその2つを組み合わせて想像する……。

 

「「「……フフッ」」」

 

確かに似合わなかった。

予想通りの反応とはいえ、やはりムカついた。

 

「笑ってんじゃねえよクソボケ」

 

そんなくだらない雑談をしているうちに、目的地の月村すずかの家に到着した。

月村邸でケーキやお茶菓子を囲みながら、クリスマス会を兼ねて今までアリサとすずかには秘密にしてきた事、魔法とユーノとの出逢い、ジュエルシード、なのはとフェイトの出逢い、偶発的な垣根帝督との遭遇、時空管理局、そして今回の夜天の魔導書の事。

それに補則程度で垣根帝督と能力について話していたが、なのはがあまりにもうるさかったので仕方なしに、他言無用という条件付きで自分が学園都市第二位の超能力者(レベル5)だと明かす事になった。

何故かすずかとはやてが目を爛々と輝かせて、興味津々だといわんばかりに質問攻めに遭い、それに途中からフェイトまで加勢。

しかも彼女は、

 

「次に会った時、あなたの事ももっと教えてほしいって言ったでしょ?わたしも、魔法じゃない超能力って力にも興味あるから……」

 

と言ってきた。

やむを得ず能力名の『未元物質(ダークマター)』とざっくりとだが特徴まで話す羽目に。

そして、なのはとフェイトとはやては、それぞれが考え目指す将来や目標についても話し合った。

 

その夜、なのははフェイトとリンディ・ハラオウンを交えて家族に同様の説明をした。

余談だが、垣根帝督もこの説明会に呼んだのだが、自分が出る必要を感じないと一蹴されてしまった。

 

 

かくして、闇の書事件。

古代遺産(ロストロギア)『闇の書』を巡るこの事件は、終わってみれば発覚から収拾まで一月あまりだった。

魔導砲アルカンシェルの導入と使用、最終決戦での協力者の存在、それらの要因に加えて事態を決したのは、高町なのはとフェイト・テスタロッサ。2人のエースの存在であった。

そして、そんなエース達は、現在は任務終了後の休暇中。

冬休みとお正月の最中にあった。

彼女達の家族が2泊の4家族合同の旅行を計画していた。

アースラスタッフも休暇中で平和そのもの。

一方で八神はやてと守護騎士ヴォルケンリッターは年末は本局で検査や面接等と忙しく、元気にしているものの多忙らしい。

そしてその頃、学園都市からの刺客、垣根帝督はというと……。

 

「よお待ってたぜ、執務官」

 

年明け3ヶ日を過ぎた頃の早朝、人気の無い丘に焦げ茶色のジャケットに黒いトレンチコートを纏った茶髪の少年が立っていた。

彼の前に現れたのは、執務官服のクロノ・ハラオウン。

 

「全く……急に学園都市に戻るから、その前に端末を返すから出てこいと言ってきたり。勝手過ぎるぞ、こっちも暇じゃないんだ」

 

「そう言うな」

 

眉をひそめて呆れ混じりのしかめっ面を向けるクロノに、垣根は両手をズボンのポケットに突っ込んだまま薄く笑って答えた。

 

「それで、学園都市にはいつ帰るんだ?」

 

「今から」

 

「今から!?」

 

思わず目を剥く。

想像以上に急だった。

クロノは深いため息を吐いた。

 

「俺はそもそもこの事件に1枚噛もうと思ってここに来たんだ。その事件が終わった以上、この街に留まる必要はもうねえんだから当然だろ?」

 

「そうだが急過ぎるだろ。というか、学園都市側には今回の事は何て報告するんだ?」

 

「前回と同じさ。各地に何らかの残留反応を確認するも、それが何なのかは分からず。そしてその反応すらもう認められず……。その為撤収するってな。まあ後は適当に辻褄合わせに粉飾しておくさ。少なくとも、俺の口から学園都市側に魔法関連の事はバレないはずだ」

 

「それはこちらとしてはとてもありがたいし都合が良いが……大丈夫なのか?」

 

クロノを含めて、魔法サイドの人間からすればありがたいし都合の良い事この上無いが、同時に垣根帝督は籍を置く学園都市に対して背信行為を働く事になる。

有り体に言うと面従腹背。

しかし当の垣根は全く気にしていない。

何でもないような態度で吐き捨てるように言う。

 

「俺は何も学園都市や、そのお偉方の忠実な犬野郎をやってる訳じゃねえ。今回も前回も全部、自分の為だけに首突っ込んできたんだから良いんだよ」

 

「そんな事がまかり通るのか……?」

 

「通るんだなこれが」

 

彼が何か裏技でも使っているのか、それとも第二位の超能力者(レベル5)には何か特権でもあるのか、クロノには分かりかねる。

そんな事より、と垣根は端末を取り出してクロノに手渡した。

 

「色々世話になったな。面白いものが見られたりして楽しかったよ」

 

「いや……ロストロギアが関わる重大事件を、エンジョイされても何なんだがな……」

 

顔を引きつらせて端末を受け取ると、クロノは呆れ果てながらも、じゃあな、と立ち去ろうとした垣根帝督を呼び止めた。

 

「あ、ちょっと待て。なのはやフェイト、はやて達には言ったのか?帰る事」

 

「……あ、忘れてた」

 

言われて初めてハッとした。

どうやら素で忘れていた。

しかし今から彼女達に連絡をする気は無いらしい。

 

「まあ……お前から上手く言っといてくれよ」

 

クロノが再びため息を吐いて告げる。

 

「無理だ。……後が面倒だぞ、特になのはとか」

 

確かに、黙って消えたら後でなのはと、それに同調した彼女の友達連中もメール攻撃やらイタ電やらをけしかけてきそうだ。

それはそれで厄介だ。

高町なのははからかいやすい分、口車に乗せる等で対応できるがそのお友達連中が厄介だなと思った。

 

「……ま、追々メールで言うさ」

 

「結局事後報告じゃないか」

 

「良いんだよ。やったもん勝ちだ。……さて端末も今度こそ返したし、俺はそろそろ行くぞ」

 

そう言って歩き始めた垣根を、クロノは引き留める。

 

「そうはいかない」

 

直後、カッ!!と閃光と同時に、転移魔法の青白い魔方陣が展開された。

 

「ああ?」

 

魔方陣から現れたのは、見知った魔法サイドの面子。

具体的には、短めのツインテールの茶色い髪の少女。高町なのは。

長い金髪をツインテールにした少女。フェイト・テスタロッサ。

電動車椅子に座るボブヘアー風の焦げ茶色の髪の少女。八神はやて。

更にはザフィーラとシャマルを除いた守護騎士。シグナムとヴィータ。

そして、クロノの母であり時空管理局の提督。リンディ・ハラオウン。

垣根は眉をひそめ、面倒臭そうに顔をしかめる。

 

「お前……」

 

クロノは薄く小さく笑っている。

一計を講じられた。

垣根がクロノに連絡を入れた直後に、薄々何かを勘づいたクロノからなのは達に連絡が行っていた。

実はなのは達はアリサやすずかにも一報入れたかったのだが、何せ急だった為、早朝から呼び出すのも迷惑だと考えてやむなく断念した。

 

「君は学園都市の人間だ。次はいつ会えるのか分からないばかりか、もうこの先会う事は無い可能性さえある。別れの挨拶くらいはしていっても良いんじゃないか?黙って帰るよりは後腐れ無いと思うぞ」

 

「チッ」

 

面倒臭そうな表情のまま舌打ちをしていると、真っ先になのはとフェイトとはやてが近付いてきた。

分かりやすく不満タラタラの顔で口々に言ってくる。

 

「もう!また黙っていなくなろうとするんだから!」

 

「何も言われずにいなくなるのは、嫌だよ?」

 

「そやそや!わたしなんか連絡先もまだ交換してへんのに!しかもまた突然お別れとか、帝督くんはわたしの心の傷に塩を塗るんかー?」

 

プンプンと怒るなのは、少し寂しそうな雰囲気のフェイト、わざとらしいはやて。

垣根は目を細めて若干引き気味に答える。

 

「うるせえな。……つーか、八神のはツッコミに困るわ」

 

面倒臭さでうんざりしていると、

 

「黙って消えよーとするからだろー?」

 

「私としても、お前自身(主に以前の言動等について)や『未元物質(ダークマター)』というものにも興味はある。お前とも模擬戦の一つでもしておきたかったのだがな」

 

ヴィータがシグナムとゆっくり歩み寄りながら、かったるそうな声で言ってきた。

ちなみにシャマルとザフィーラがいないのは、任務中で抜けられなかったからだった。

ユーノとアルフも無限書庫の仕事で抜け出せなかった。

リンディまで近寄ってきて、うっすら微笑みながら彼の耳元で、やや小さめの声で告げる。

 

「……本当に、次はもういつ会えるかは分からないんでしょう?なのはさん達の気持ち、汲んであげて?」

 

「あんたまで言うか……。……、はあー、分かった分かった。別に大急ぎって訳でもねえし、少しぐらい付き合うよ」

 

たっぷりため息を吐いて、渋々受け入れた。

そんな訳で、垣根帝督と高町なのは達は流石に寒いので場所を移して、ハラオウン家に集まり、数十分ほど話す事にした。

テーブルに置かれた飲み物は、なのは達は皆紅茶なのに、何故かリンディと垣根だけ、いつものお手製抹茶ラテだった。

 

(だから何で毎回コレ出されてんだよ?何でこの人満足そうな顔しているんだ?まさか毎回出されたら一応飲んでたから、同志みたいに思われてんのか?)

 

しかもクロノが面白そうに笑っているのがムカつく。

多少不愉快だったが、もはや不毛だと思い、無視する事にした。

会話中、殆ど聞き手に周り、あまり自分の事を話さない垣根に、はやてが、

 

「帝督くんは何か将来の夢とか目標とかあるん?」

 

「垣根って呼べっての。……別に夢とかはねえな。目標は…まあ、あるにはあるか……」

 

「そうなん?何何、教えて?」

 

「嫌だ」

 

「何でや!意地悪やな~」

 

「意地悪で結構だ」

 

……等と、話した内容は、改めてこれまでの出来事についてや、この先の事。

他愛の無い雑談等、色々な事を話した。

その後も、なのはがからかわれてプンプンと怒ったり、フェイトが無茶振りされて焦ったり等と、本当に他愛の無い雑談がしばらく続いた。

そろそろ行くぞと垣根が立ち上がり、正真正銘、お別れの時となった。

マンションの出入口付近で対面する。

 

「じゃあ、改めて。世話になったな」

 

何て事無さそうに歩き始めた垣根のトレンチコートの左袖を、不意にはやてとなのはが掴んだ。

フェイトも無意識に右手を前に出していた。

怪訝な顔になって振り向く。

 

「……何だよ。まさか、俺との別れが惜しいってのか?」

 

ニヤリと小さくからかうように笑いかけてみたが、彼女達はそれに答えず、おずおずと言ってきた。

 

「……たまには、連絡もしてね」

 

「……また、会えるよね?」

 

「もう会えへんって事は無いよね?」

 

普通、可愛い美少女達にこういう事を言われたら、良い男やら漫画やラノベの主人公やらなら、気の利いた一言だったり歯の浮くようなキザったらしい一言を発するのだろう。

そして相手を照れさせたり惚れさせたりとかするだろう。

だが、垣根帝督にその常識は通用しない。

 

「さあな。ケースバイケースだろ」

 

「「「あっ……」」」

 

笑うのをやめて、それだけ言うと再び歩き出した。

袖を掴んでた指が外れる。

彼は両手をポケットに突っ込んで立ち去って行く。

段々小さくなっていく垣根帝督の姿を見つめていたはやてが、思わず、といった様子で不意に大声をかけた。

 

「……っ、またね!!」

 

何となく、さようならとは言いたくなかった。

彼は返事もせず、歩みを止める事もなく、振り向く素振りすら見せず、左手を一度ポケットから出して上げ、ヒラヒラと軽く振っただけだった。

それを見て、はやては仕方のなさそうにクスッと小さく笑った。

 

「……ホンマ、愛想悪いなぁ。帝督くん(、、、、)

 

普通なら、いや、本来なら出逢うはずの無かった、魔導師の少女達と超能力者(レベル5)の少年。

この科学と魔法が交差した物語が、終わりを迎える。

 

 

海鳴市の外れ辺りに停車し待機していた、1台の黒塗りの高級セダンに垣根帝督が乗り込んだ。

セダンはすぐに走り出し、学園都市に向かっていく。

後部座席から車窓を眺め、物思いにふける。

 

(前回と今回の一件で、対魔法の演算方法は完全にモノにできた自覚はあるが、この先どう役に立てるかは未知数だな)

 

魔法というものを知り、行使の仕方も理解はできても、能力者の自分では使う事ができない。

しかもそういう才覚もあの少女達のようには無い。

能動的に役立てる場面は今の所無さそうだった。

……だが、関係無い。

自分の野望や目標は、何も変わっていない。

揺らいでいない。

これまでも、これからも、この先も、目指すだけだ。

人の善意や神の奇跡やらに頼らず、ただ行動の結果によって未来を作る悪の道で。

自らのやり方で目的を達成する為に。

 

(あいつ等はあいつ等で、将来やら目標やらの為に進むと決めている。俺も俺の……_)

 

辿ってきた道も、この先歩んでいく道も、全く違うもの。

考え方も価値観も、住む世界も何もかも違う。

自分の人生と彼女達の人生は、この先永遠に交わる事は無いだろうしあり得ない、必要も無い、と垣根は思った。

今回がむしろ異常だったのだ。

もう二度と会う事は無いだろう。

そう思った上で、学園都市に向かっていく車窓にもう一度視線を向けて、思う。

 

(楽しいねえ。目的があるっていうのは、本当に楽しい)

 

「じゃ、戻るか」

 

年不相応な冷え切った暗い眼光をたたえ、口元に薄い薄い笑みを浮かべて、小さく呟く。

 

「闇の中へ」

 

           -終-




A's編はこれで終わりです。

無印編と同様に、書き直し前の内容は浅く薄かったので、結果的にほぼ全編書き直す事となり、書き直し前とは大分流れが変わる事となりました。

さて、これ以降の章では書き直し前の旧二次ファンやpixivで投稿していた中学生編ですが、序盤は大幅に書き直す予定でプロットを考えています。
ただし、それ以降は微修正等に留める予定なので大筋は変わらず、見る人にとっては内容が薄くつまらないかもしれません。
ですので、中学生編以降はpixivでのリメイク、再公開のみにとどめておくか、ハーメルンでも投稿するか現在は検討中です。

ともあれ、ここまで拙作を読んでいただき、ありがとうございました。
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