魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter 作:戸礼太
5月。
闇の書事件から、もうじき半年。
高町なのは、フェイト・
はやての足も少しずつ良くなっていき、守護騎士達も健在。
フェイトは保留にしていたリンディからの養子縁組の申し出を受け入れた。
そして仕事面では、仮配属期間も無事終了。
なのは、フェイト、はやては正式に時空管理局に入局した。
……そんな訳で、時空管理局本局にて、
「なのはちゃん、フェイトちゃん、着替えできたー?」
「「はぁいっ」」
エイミィ・リミエッタに元気な返事をしたなのはとフェイトは、それぞれ武装隊士官候補生の白基調の制服と、執務官候補生の黒基調の制服を纏っていた。
ちなみに、フェイトは髪を下ろしたロングヘアーに変えていた。
「おー♪可愛い可愛い!」
ほっこりとした緩い笑顔を浮かべるエイミィに、2人は少し照れ臭そうにはにかんでいる。
「ありがとエイミィ」
「えへへ……。まだ何だか緊張します」
「すぐ慣れるよ。これからちょくちょく着る事になるかんね」
エイミィがフェイトのネクタイを軽く直しながら告げる。
そうしていると、マリエル・アテンザ、通称マリーがはやてと一緒に出てきた。
「はーいっ!こっちもできましたー!」
「あー、どもですー」
特別捜査官候補生になったはやてが、車椅子に座って制服を纏っていた。
基本的に車椅子のはやての着替えをマリーが手伝ったのだ。
「はやて」
「はやてちゃんかわいー♪」
「あはは~。2人もよー似合うてるよー」
笑い合う3人。
思えば、制服姿になるのは初めてだった。
「3人で制服揃い踏みだね」
となのはが言う。
「フェイトちゃん、髪下ろすと大人っぽいなー」
「ホントー?」
はやてにそう言われ、フェイトも嬉しそうに笑った。
3人とも、この春からはそれぞれの部署で働き始める事になる。
正式にリンディ・ハラオウンの養子となったフェイトは、基本的にはアースラチームと行動を共にしながら、執務官になる為の勉強中。
リインフォースが残した「蒐集行使」という凄いレアスキルを保有するはやては、4人の守護騎士と共にその能力が必要とされる事件に随時出動する特別捜査官。
ちなみに、指揮官適性も高いので将来は色々検討中らしい。
そしてなのはは、武装隊の士官からスタートして目指すのは、最高の戦闘技術を身に付け局員達にそのスキルを教えて導く『戦技教導隊』入り。
「でもフェイトちゃん、アースラ勤務になれて良かったですね」
「そーだね。艦長、ホントはなのはちゃんも欲しかったみたいなんだけど……流石にAAA級3人は保持させてもらえないって」
エイミィが苦笑いでなのはに告げる。
リンディの残念そうな顔が目に浮かぶ。
「なるほどー」
そこへはやてがフェイトに言う。
「おかーさんおにーちゃんと一緒で良かったなフェイトちゃん」
「うん」
フェイトは本当に嬉しそうに微笑む。
「わたしも基本的にはうちの子達と一緒やし、管理局は人情人事をしてくれるんやねー」
そこまで言った所で、はやては苦笑いになる。
「まーうちの場合は、レティ提督が5人纏めて高ランク戦力をゲットしよって計算もあるかもしれへんけど」
「「あーその計算は間違いなくある」」
と、エイミィとマリーが口を揃えて言った。
その時、武装隊所属の特別捜査官補佐となった八神はやての守護騎士ヴォルケンリッターの内3人、シグナムとヴィータとシャマルが歩いてきた。
「主はやて、こちらでしたか」
「皆!」
現れたシグナム達は、通常の局員の制服を纏っていなかった。
それを見てなのはとフェイトが怪訝そうな顔になる。
「あれれ?」
「シグナム、ヴィータ、その制服って……」
「武装隊甲冑のアンダースーツだ。局の女子制服は窮屈でいかん」
「こっちの方が馴染むんだよ」
フェイトの疑問にシグナムとヴィータが答える。
ただしシャマルは通常の制服を纏い、その上に白衣を着ていた。
「シャマルさんは制服ですねー」
「医療班白衣もセットですよ」
とシャマルがくるんっと1回転して見せた。
シグナムがフェイトに髪型に気付いて話していると、エイミィとマリーがはやてにデバイスの件に関する報告事項を言っていた。
「そういえば、
「あーホンマですかー?」
「杖は落ち着いてきたから、管制デバイスも早く作らないとですね」
と言った所で、ピピッとマリーに通信が入る。
「お、なのはちゃん!レイジングハートの補強調整終わったって!」
「あ、じゃ取りに行きまーすっ♪」
いつの間にかヴィータとじゃれていたなのはが反応する。
「私も行くね。シュベルトクロイツ受け取ってくる」
「はい!」
「マリーさんおーきにですー」
満面の笑みを浮かべ心底楽しそうななのはを見て、マリーは微笑んで告げる。
「なのはちゃん、ご機嫌だねぇ」
「はい!楽しいですから!」
一方その頃……、
『891号次元の一般的魔法史歴とその進化記録、それからさっき送った暫定ロストロギア指定物品の鑑定資料。これは遺失物管理班と上手く連携して資料抽出してくれ。それと裁判記録で探して欲しいデータがある。今一覧を送るから_』
「ちょ……ちょっと待った!」
と、クロノ・ハラオウン執務官の矢継ぎ早の注文を狼狽えながら一度遮ったのは、時空管理局データベース『無限書庫』の司書となった少年、ユーノ・スクライア。
「まさかそれ全部今週中にやるのか!?」
『そうだが何か?』
事もなげに答えたクロノに思わず憤り、吐き出すように叫ぶ。
「無茶言わないでくれ!こっちは長年放置されてた書庫内の整理だけでいっぱいいっぱいなんだから!!」
『そう言うな。忙しいのはどこも一緒だ』
相変わらず平坦な態度で告げるクロノに、ユーノの口調も揺れ始める。
「元はといえば局が怠慢だったからで!」
『それはそれ、これはこれだ』
開き直られた。
『司書としての権限はあるんだ。人を使え。指示しろ』
「うう……」
ここまで言われるとぐうの音も出ない。
もちろんクロノもただ無理難題を押し付けている訳でもない。
『何なら、依頼料を申請してスクライアの身内に頼んでも良い』
「当たってはみるけど……」
『そういった部分も含めて君には期待してるんだ。じゃあ今週中に頼んだぞ』
とはいえ、無理難題に変わりはなく、ユーノは苦虫を噛み潰したようになる。
渋々了承し、話しながらも作業に取り掛かる。
「一応了解……。捜索ヒット率の一覧を送るから、優先順位決めを…」
『了解』
そそくさと通信を切るクロノに、ユーノは再び顔をしかめブツブツと愚痴りながら作業を続けていると、武装隊士官の白い制服姿のなのはがフヨフヨと現れた。
「ユーノくん!お仕事忙しい?」
「あれ?なのは?いやまあボチボチと……」
意外な来訪者に、彼は目を丸くした。
なのはの真新しい姿に気付き、感想を述べる。
「制服届いたんだ。やっぱり白ジャケ似合ってるね」
「えへへ、ありがと」
素直に誉められて、少しだけ照れ臭そうに笑う。
「垣根くんにもフェイトちゃんとはやてちゃんの3人で撮った記念写真をメールで送って見せてみたんだけど、メールの返事はしないし、電話してみたら珍しく出てくれたから、写真の感想訊いてみたんだけど『あー?まあ似合ってんな』とか『良かったな』とかどーでも良さそうな感じでさあ…」
「あはは……彼らしいと言えばらしいけどね……」
と彼女は言いながら不満そうに若干むくれている。
ユーノは同情して苦笑いしつつ、内心こうも思う。
(と言いつつ、彼ともちょくちょく連絡をしているよね。何だかんだ言いながら垣根を気に掛けているし、フェイトとはやても垣根を意外と結構気にしているようだし、垣根の方がその気になれば案外仲良くなれそうなんだよね)
そんな事を本人に言ったら、なのはには全力全開で意地でも否定されそうだが。
仲良しも友達も、言えば両者から全否定される。
実際に会っている時は、度々口と意地の悪い垣根帝督にからかわれては、噛み付くようになのはが反発する様子が何度もあった。
しかし不思議となのはは垣根と話したりする事を避けたりはしなかったし、嫌ったりもせず彼が学園都市へ去った今でも連絡を取り合っている。
垣根も垣根で、普段は面倒臭がったり鬱陶しそうな態度を取っているものの、意外と彼女達をそこまで邪険には扱わなくなってきた。
といっても、ガン無視しなくなったとはいえ垣根が返事をする事はあまり多くなく、やや一方通行気味なのが心配な所で、フェイトを義妹として気に掛けて心配しているクロノと同様の、若干保護者的な目線でなのはが少し心配になっていた。
そう考えていた所で、あ、そういえば、となのはが訪れた理由を訊く。
「何か用事の途中?」
「レイジングハートのフレーム再強化と微調整が済んだから、受け取ってきたの」
なのはの手のひらで、フワフワと漂う待機状態のレイジングハートを見せながら言う。
「ピーキーだし、機能が独特だから調整が一苦労なんだって」
「カートリッジシステム入ってるもんね」
思わず苦笑い。
ミッド式インテリジェントデバイスにベルカ式のカートリッジシステムを組み込んでいる、特に一般的なストレージデバイスに比べて独創的な構造をしているので無理もない。
「お昼一緒に食べよう。お昼休み取れるようにわたしも手伝うよ」
「あ、ありがとう。正直助かる……」
言葉と同時に縦横無尽に動き回り、膨大な量の書物を運び回る2人。
忙しなく動きながら、ふとユーノが静かに告げる。
「なのはも今じゃ立派な魔導師だけど、時々少し考えるんだよ……」
「?」
「去年の春、あの時僕が、なのはと会ってなかったら……。なのはが魔法と出逢う事も無くって、そしたらなのははどんな風に暮らしてたかなって」
ユーノの脳裏には、去年のその時の事が浮かんでいた。
なのは、背後に浮かびながら作業しつつゆっくり語る彼の背を静かに見つめる。
「なのはが助けてくれなかったら僕も危なかっただろうし、色んな『もしも』を考えると、少し怖くなるんだけど」
そこまで彼が告げた所で、今度はなのはが言い始める。
「そうだね……、でもわたしはユーノくんとレイジングハートと、魔法に出逢えて本当に良かったと思ってるよ」
自然と、彼女は柔和な笑顔で話す。
「ユーノくんを助けられる力が自分にあって、フェイトちゃんと正面から戦って心を交わし合う事ができて、闇の書事件の解決のお手伝いができて、はやてちゃんとも友達になれて、本当に良かったと思ってるの。……あ、あとついでに垣根くんもね」
スッと書物を運び整理しながら、ユーノに近付いてきた。
そして彼にニッコリと笑いかける。
「皆あの日ユーノくんと遇えたからからだもんね。ユーノくんにはまだ教えて欲しい事とかたくさんあるし、今も一緒にいられるの凄く嬉しいから、『逢わなかったら』はあんまり考えたくないなぁ」
「うん……」
まっすぐな目で素直に言われて、少し照れ臭くなるユーノ。
なのははそう言うと離れていき、作業を続行する。
「これはこっちで良いのかな?」
「うん。ありがとう」
(……、ありがとう、なのは)
敢えて口に出さず、胸中で告げ自分も作業を再開する。
やるべき事は山ほどある。
こうしている間にも期限が迫っていく。
てきぱきと整理と依頼された資料抽出を行っていきながら、何となく、『彼』の事も思い出す。
(垣根……、君は今、どうしてる?)
ある意味で衝撃的だった、魔導師ならざる
説明されても、正直理解し切れた気がしない奇妙な『
そして、垣根帝督という今まで会った事の無いタイプの人物。
戦闘記録を見る限り、敵対した相手には基本的に情け容赦無く徹底的に叩き、大ケガを負わせる事にも躊躇しない、年不相応でなのは達とは全く違う冷酷な戦闘スタイル。
またフェイトと同じく、悪意や殺意の有無に敏感で彼女以上に戦闘に慣れている。
クロノも何となく薄々感付いているらしいが、秘密主義で普段からプライベートを見せない彼だったが、それとは別の意味で何かを隠しているようだった。
生まれつきなのかもしれないが、何か含みを持つような雰囲気や印象の暗く鋭い眼光。
思い返してみれば、去年から出会い知り合った人々の中で唯一、垣根帝督という人物だけはユーノもクロノも殆どよく知らずじまいになっていた。
だからユーノは、いつかクロノを交えて野郎だけで顔を合わせて軽くでも良いから、互い互いの身の上話の一つでもしてみたいと思うのだった。
(……まあ、彼に次いつ会えるかは分からないし、中々素直に話してくれるとも思わないけど、一度くらいはそういう集まりとかもしてみたいよね)