魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter   作:戸礼太

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内容的には好き嫌いが分かれると思います。

悪しからず。


ワイルドハント

「良いか悪いかは別として、納得できた事がある」

 

時空管理局武装隊員のDAを制圧した後、なのは達Aチームは、小休止にアースラへ一時帰還していた。

食堂でドリンクを片手に軽く休憩に入った時、ヴィータがポツリと呟いた。

 

垣根(あいつ)が……、露骨なぐらい昔から秘密主義だったり、距離を取ってきたり、子供に見えないようなヤバい目付きしてるとこ……」

 

「あ……」

 

「そういえば……」

 

ヴィータの言葉に、なのはとフェイトが声を漏らす。

2人は特に、垣根帝督のそういう言動等に心当たりがあった。

連絡先の交換すら露骨に嫌がったり、メールも電話もロクに反応しなかったり、こちらが歩み寄ろうとすると遠ざかろうとしてきたり、とにかく少しでも親しくなろうとするのを嫌がっていた。

故に、なのはの周りで彼のプライベートを知る者は全くいないと言って良い。

単に馴れ合いが嫌いなタイプなのかとも思っていたが、偶然にも今回発覚した事で、全てに説明がつく。

 

「……わたし達、垣根の事何も知らなかった……ううん、知られないようにされてたんだ……」

 

「うん……」

 

「そうだな……」

 

でも、となのはが呟いて、3人はうつ向いていた顔を上げる。

彼女達の目は、戸惑いを帯びているが、まだ諦めていなかった。

 

「まだ事件は終わってないし、垣根くんもまだDAを追っているならまたどこかで会えるはず」

 

「『相互不干渉』って約束だけど、これっきりにして終わりにしたくない」

 

と、なのはとフェイトはまっすぐな視線を交わして言う。

ヴィータも、口をへの字にしながら続くように告げる。

 

「事情ぐらい話してくれねーと、あたしも気が済まねえしな」

 

これは、この気持ちは、ただの自分達のエゴで、彼は鬱陶しく思うかもしれない。

自他共に認める悪党の彼は、話も聞いてくれないかもしれない。

突っぱねられる所か、敵と見なして牙を剥いてくるかもしれない。

……しかし、まだ彼を諦めたくない。

これを逃せば、もう二度と彼とは遇えない気がする。

だから、大きなお世話でも良い。

鬱陶しく思われても良い。

何もせずに後悔はしたくない。

その時、緊急通信が入る。

八神はやて等Bチームが、DAとワイルドハントの混合部隊との遭遇した。

連戦による魔力と体力の消耗は癒えていないが、そんな事は言っていられない。

3人は一斉に転送ポートへ走り出し、現場へ急行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明け方の海鳴市。

朝日が昇り、眩しく照らされる街中を独りほっつき歩いているのは、学園都市サイドからDAを追う為に派遣された刺客、垣根帝督。

彼は気だるそうに両手をズボンのポケットに突っ込んで、ノロノロと歩き回りながらくだらなさそうにぼやく。

 

「……昨夜(ゆうべ)からアリサ・バニングスと月村すずかに始まり、高町なのはにフェイト・テスタロッサとヴィータ……。この街で魔法サイドが絡んでる時点で薄々勘づいてはいたが、行く先々で昔の知り合いの、それも厄介な連中に出会(でくわ)すとは。これであと一人……と、その家族連中にでも会ったら、ある意味フルコースだぞ」

 

ああ嫌だ嫌だ、と吐き捨てるように呟いていると、不意にこの一帯が広域結界に包まれた。

辺り一帯の雰囲気が変わる。

仕掛けた主は、間違いなく魔法サイドの人間だ。

それが管理局側なのか、それ以外なのかまでは、魔導師ではない能力者の垣根には分からない。

だが、

 

「……へえ、まさかそっちから仕掛けてくれるとはな。捜す手間が省けたよ」

 

垣根は片側二車線の交差点に差し掛かった所で、ゆっくりと振り向いた。

彼に向かって銃を構えている数人のDA隊員と、傍らにはストレージデバイスを握った数人の元武装局員DA。

更に、全員がバラバラに派手な格好をした、明らかに堅気ではない雰囲気を醸し出した面子が立っていた。

 

警備員(アンチスキル)のコスプレ野郎共と……、後は知らねえからどうでも良いか」

 

科学サイドの住人である垣根は知るよしもないが、彼等こそ時空管理局指名手配の次元犯罪者集団『ワイルドハント』。

普通なら逮捕・極刑に処されてもおかしくないような危険人物で構成されており、ミッドチルダを始めとして様々な管理世界等で虐殺行為等の悪逆非道の限りを尽くしていた。

6人のチームの中心部に立つのがリーダーのシュラ。ファミリーネームは不明。

褐色で顔に十文字の傷を持ち、引き締まって端整な容貌を持つ青年。

一見飄々としているが、暴力的で残忍な性格の持ち主で数々の殺人や性犯罪等の悪行を行っていた。

 

侍のような風貌の男は、イゾウという名前で愛刀『江雪』に血を与える事を望み食事と称して辻斬りを繰り返してきた狂気の剣客。

『江雪』は日本刀によく似た形状だが、ベルカ式アームドデバイスと違いカートリッジシステムは無いが、高い切れ味の業物で本人も魔力だけでなく純粋な剣技と身体能力で魔導師と渡り合えるほどの実力者。

 

一見幼い少女の見た目の女、ドロテア。

肉体改造を施している錬金術師で、実際にはかなりの高齢。

外見に反して怪力であり、レアスキルで対象に噛み付いて吸血する事で生命力を奪う等といった吸血鬼の真似事が可能。

 

眼鏡をかけたスタイルの良い女、コスミナ。

声をマイク型の特殊なデバイスを通す事で、敵を粉砕する超音波を放つ。

場所や状況を気にせず好みの男が目に入れば、誰彼構わず性行為を求める淫乱な性格。

 

長い舌を出している細身の男、エンシン。

酒池肉林がモットーで、欲望の赴くままにやりたい放題に暴れてきたテロリストでもある。

変換資質の応用で、真空の刃を放つ魔法を飛ばす。

 

肥満体のピエロのような姿の巨漢、チャンプ。

子供が性的な意味でも好物で、子供なら男女関係無く性的暴行の末『汚い大人にしない』為に惨殺するシリアルキラーで、各地で享楽的な連続殺人を繰り返している。

性質が異なる特殊な効果を持った、6種類の球体を投擲するという、奇妙な魔法を行使する。

 

「よお。初めましてだな。アンタが超能力者(レベル5)ってヤツかい?」

 

シュラが不躾に尋ねた。

垣根は眉をひそめて答える。

 

「あん?まあそうだよ。……俺を知ってるっつー事は、DAとグルのヤツって訳だな」

 

堅気ではない、おそらく魔法サイドの同類達。

彼は彼等の風貌を見て、鼻で笑う。

 

「で、そういうテメェ等は誰?揃いも揃って変な格好しやがって。大道芸人か?」

 

「ああ?んだと_」

 

エンシンが怒り出すが、シュラが制止する。

 

「まあ何だ。ちょっと俺達のスポンサー様が_」

 

と言いかけた所で、横槍が入る。

 

「重犯罪集団『ワイルドハント』とDAを捕捉!大人しく投降しなさい!」

 

結界に侵入してきた、魔導師達と騎士達によって。

先陣斬って現れたのは、ハーケンフォームのバルディッシュを構えた執務官フェイト・T・ハラオウンと、シュベルトフォルムのレヴァンティンを構えた烈火の将シグナム。

その後ろに鉄槌の騎士ヴィータとエース高町なのは、そして特別捜査官八神はやてと小さな『人格型ユニゾンデバイス』リインフォースⅡ。

彼女達を文字通り守護する守護獣ザフィーラと湖の騎士シャマル。

別ポイントでDAと交戦中のクロノ班以外は勢揃いした。

 

「あーあ、来ちゃったよ」

 

垣根が小さく呟くと、シュラは露骨に不機嫌になった。

 

「俺のお楽しみの邪魔するとは、こいつは許せねぇな」

 

だが、局員達が心なしか、汗を滲ませ呼吸が僅かに乱れている事に気付き、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。

 

「へー、足止めのDAは役に立ったみたいだな。そんな疲労した状態で俺達とやり合おうってかぁ?」

 

エンシンも楽しそうにニヤつく。

 

「あー犯しまくって殺したくてムラムラしてきやがった。ブッ倒したら裸で這いつくばって歩かせようぜ」

 

チャンプはヴィータとリインフォースⅡの姿を確認すると、いきなり色めき立つ。

 

「ああああああ!!小さい子だぁ!!小さい子がいたぁ!!ああ堪らねえ!!」

 

一触即発の状態。

だが、主戦力達が今までの殆ど休憩無しの消耗戦で、少なくない魔力と体力を消費していた。

それに対してワイルドハント側はほぼ万全。

しかも魔力底上げとAMF発生のアイテム使用もあって、余計に不利だった。

だが、それでも退く訳にはいかない。

危険な集団を放置できない。

せめて支援が来るまでは足止めする。

 

「思ったより早かったが、それなら一石二鳥かもな。エース級の回収対象と同じく回収対象の超能力者(レベル5)、両方いただきだ」

 

そうシュラが言った時、垣根帝督が口を挟む。

 

「おいおい、勝手に話進めてんじゃねえよ。俺を回収するだと?ナメてやがるな、よほど愉快に殺して欲しいと見える」

 

「ハッ。魔導師でもない手前(てめ)えが何凄んでんだ。管理局側潰したら次は自分の番だから、大人しくしてろよガキ」

 

「テメェに従う義理はねえな」

 

それより、と垣根はシュラにくだらなさそうな口調で言う。

 

「テメェ等が俺に用があろうが無かろうがどうでも良い。テメェ等が何者なのかもどうでも良い。俺は警備員(アンチスキル)のコスプレ野郎共を潰して、欲しい情報さえ手に入れられりゃ十分なんだ」

 

彼はワイルドハントも、管理局をも眼中に無いと見下すように嘆息する。

自分より年若い、見た目不良中学生の少年にコケにされ、シュラは眉間に青筋を浮かべた。

 

「何だと……」

 

「お前達がどこで何しようが、誰を何人殺そうが興味はねえよ。そこの女達とも好きなだけドンパチしたきゃやれば良い。知っている事を全部吐いてくれりゃあ、後はテメェ等を見逃して素通りしてやるっつってんだ」

 

「言ってくれるじゃねえか。そんな馬鹿な取引に従うヤツがいんのかよ」

 

「いるんじゃねえの。例えばテメェ等が雇った魔法使いのガキとか」

 

「手前ぇ……」

 

相変わらず興味を示さない彼を、シュラは獲物を屠る猛獣のように殺意を滲ませて睨む。

しかしそれでも、垣根帝督は警戒心すら抱いていない。

場違いなほど気軽でかったるそうに、両手をズボンのポケットに突っ込んだまま、コキコキと首の間接を鳴らす。

 

「相互不干渉……やったよね」

 

八神はやてが、そう言って垣根の隣に着地してきた。

彼女は若干複雑な心境で、彼に薄く笑いかける。

 

「さっきなのはちゃん達から聞いたよ。……久し振りやな、垣根帝督くん(、、、、、、)。5年振りやろか?」

 

「……、」

 

名前を呼ばれた垣根は、返事はせずに眼球だけ動かして、はやての顔を見た。

彼女のすぐ傍にフワフワと浮かんで、彼を不思議そうに眺めている体長30センチ程度の人形サイズの少女を一瞥する。

サイズはもとより、外見年齢も10歳前後の幼い少女だが、見覚えのある髪型にどことなく見覚えのある雰囲気をしていた。

それはまさに_、

 

「ぎゃはははっ!こいつは傑作だな。時空管理局の局員様は、管理外の田舎世界出身てだけでなく、そこの研究素材(モルモット)野郎とオトモダチかよ!!」

 

「マジかよ!!公務員がチンピラと仲良しってか!!」

 

腹を抱えて笑い出すシュラとエンシン。

はやては、それが気に入らないのか2人を静かに睨んだ。

 

「_ははははは!!……あ?」

 

ひとしきり煽るように笑い終えると、確認するようにシュラは垣根の顔を見てみる。

しかし、嗤われたはずの彼の表情に変化は見られない。

ただ退屈そうにしているだけ。

くだらなさそうにつまらなさそうに、冷めた視線を向け、薄い薄い笑みを口元に浮かべて佇んでいた。

嗤っているはずのこちらが、逆に嘲笑われている気分になった。

 

「手前ぇ、何だその目は?」

 

「満足したか?」

 

「……っ!!」

 

「それじゃいい加減、知っている事を洗いざらい吐いてくれ。こっちもテメェ等のお遊戯にいつまでも付き合ってやる暇はねえんだから」

 

一言一言が馬鹿にしているようにしか聞こえなかった。

 

「帝督くん……」

 

「高町から聞いたんなら理解してるよな?」

 

僅かに戸惑う素振りのはやてに、垣根は告げる。

 

「敵から仕掛けてこない限りお互いに邪魔しないっつー約束だ。だから_」

 

「あーもー我慢できねーッ!!!!」

 

「いただくぞ」

 

言いかけた所で、チャンプが涎を垂らしながらはやての方へ突進する。

より正確には、リインフォースⅡへ。

いつの間にか垣根帝督の背後に回り込んだドロテアが、彼の首根っこに噛み付いて吸血しようとした。

が、

 

ゴッ!!!!

 

と、垣根を中心に正体不明の爆発が巻き起こり、爆風と衝撃波がドロテアとチャンプの両方を凪ぎ払う。

 

「クッ!!!?」

 

「ぐわっ!?」

 

ノーバウンドで街路樹と電柱にぶつかり、易々とへし折る2人。

爆煙が晴れると、そこには無傷の垣根帝督が立っている。

左横に佇む八神はやて達は、不思議と弾き飛ばされず、咄嗟に展開した防御障壁で防げていた。

 

「痛ってえな」

 

本当にそうなのかも分からないほど、彼はドロテアの方へ振り向いて自然に言う。

 

「そしてムカついた。DAのついでに、テメェもブチ殺してやるか?」

 

「ちっ……」

 

ドロテアは、自身の体でへし折った街路樹を背に立ち上がる。

垣根の攻撃をマトモに受けたが、不思議と彼女も何ともないようだった。

チャンプも同じように立ち上がり、垣根を睨む。

 

「汚物が、俺の天使との時間を穢しやがって」

 

「うるせえブタだな。丸焼きになる下拵えはもうできてんだろうな?」

 

ワイルドハントとDAの混合部隊、時空管理局のエース級部隊、学園都市第二位の超能力者(レベル5)

三つ巴の戦いの火蓋が切られるその時、DA隊員の1人の端末に通信が入り、垣根の方へ聞き覚えのある中性的な声が響き渡る。

 

『やあやあ、皆さんお揃いだね。主賓の第二位もいるとは都合が良い』

 

「テメェは…」

 

垣根は眉をひそめて呟くと、

 

『それにしても、意外だね第二位。自身に迫る敵だけでなく、傍らの子も護ってみせるとは。親近感でも沸いたかい?』

 

「ああ?」

 

訳が分からないとイラッと眉を動かす。

 

『「夜天の書」の融合騎。正確にはその二代目』

 

「……っ」

 

ピクッとはやてとリインフォースⅡが反応を示す。

 

(こいつ、魔法サイドの事をどこまで知っている?)

 

怪訝な表情のまま、見据えて尋ねてみる。

 

「それが何だ。俺と何の関係があるってんだ?」

 

『あれー、てっきりシンパシーでも感じたのかと思ったよ。だってその小さな融合騎は、いわば消滅した先代の代わりだ。そして君は_』

 

煽るように、声の主は告げる。

わざとらしく、垣根帝督の怒髪天を突く。

 

『_学園都市統括理事長アレイスター・クロウリーの、文字通り「第二候補(スペアプラン)」の「未元物質(ダークマター)」。第一位の「第一候補(メインプラン)」の「一方通行(アクセラレータ)」の代わりじゃないか』

 

ドッッ!!!!

 

辺り一帯が無差別に、一斉に正体不明の重圧が襲い掛かる。

何がどうなっているのか、どういうプロセスでこうなっているのかは、誰にも分からない。

分かっているのは、垣根帝督がブチ切れて能力を撒き散らしているという事だけだ。

 

「テメェ……」

 

未元物質(ダークマター)』による現象なのか、彼の体からパキパキと音を立てて奇妙な結晶体が発生している。

 

『ははっ、怒ったかい?でも実際君は彼女達を守った。悪党や最低な人間を名乗っている割に、案外曲がりなりにもお優しい所あるんだねえ』

 

「…もう良いや、喋んなよお前」

 

左手を持ち上げ、パキポキと間接を鳴らして、怒りと悪意と殺意を滲ませた禍々しい笑みを浮かべる。

 

「丁寧にじっくり殺してやるから」

 

『そうかい。ならせいぜい楽しみにしているよ』

 

通信が途絶える。

そしてそれが、戦闘開始のゴングとなった。

 

「江雪、またお前に血を与えられるぞ」

 

イゾウは目を付けていたシグナムに斬りかかる。

一度鍔迫り合いになるも、そのまま押し切られ後方へ弾かれた。

 

「く……、」

(カートリッジは残り一発……。魔力も体力も大分消耗してしまったが……)

 

座座座座座座!! 斬!!

 

イゾウの剣を、シグナムは剣技とフットワークで巧みにいなす。

技と剣をぶつけ合いながら、平行に道路を走る2人。

イゾウは狂気を思わせる目と笑みを浮かべ、再び斬りかかった。

 

「シュラ殿に着いてきて良かった。ここまで殺し放題とは素晴らしい」

 

「何……?」

 

シュベルトフォルムのままレヴァンティンで彼の刃を受け止め、シグナムは不快そうに言った。

イゾウは構わず嬉しそうに、愉しそうに告げる。

 

「そして今、烈火の将、貴様の血を愛しの江雪に与えられる」

 

「世迷い言を……!!」

 

腹を立てつつも冷静に計算し、対処するシグナム。

この先しばらく、膠着状態が続く。

 

フェイト・T・ハラオウンは、曲刀形のデバイスを振るうエンシンと対峙している。

 

「そらそらそら!!そらぁっ!!」

 

ドドドドドッ!! と無数の真空の刃を飛ばし、周囲の建物を切り刻むが、フェイトは高速移動で回避。

彼女はバルディッシュをアサルトモードで握り、誘導射撃魔法で、放電しながら炸裂するプラズマバレットを放つ。

 

「女の手は武器を持つ為にあるんじゃないぜ」

 

エンシンは体術と飛行魔法を駆使して避け、下卑た笑顔で言う。

 

「俺に奉仕する為だ」

 

「ッ!!」

 

隙を突いてザンバーフォームで斬りかかるも、

 

「おっと、強ぇーな。けど!!」

 

球体を描くように曲刀形デバイスを振り回し、弾き返す。

 

「く……っ」

(手練れってだけじゃない。全員、マジックアイテムの類いで底上げされた魔力で、フルスキン形の強力な魔力バリアを体に張ってる……!)

 

対してこちらは魔力と体力をかなり消耗してしまった状態で、長期戦に持ち込まれれば、いずれザンバーフォームの刀身にもノイズが入るほど魔力不足に追い込まれる。

 

「連戦の後ってのが不運だったな!!」

 

「……っ!!」

 

 

 

「くうっ!!」

 

チャンプの6つの球の攻撃の内、爆裂属性の球に被弾し表情を歪めるヴィータ。

直撃こそ防いだものの、衝撃は受けた。

 

「ひへへ、すんげぇ可愛いんですけどぉぉぉ!!」

 

ハアハアと鼻息荒くヴィータを見つめるチャンプに、彼女はドン引きする。

 

「痛いかい?俺がペロペロして癒してあげようね」

 

「気持ち悪りんだよ!!ロリコンデブ!!」

 

ヴィータがグラーフアイゼンで鉄球を打ち出し、シュワルベフリーゲンを放つ。

マトモに浴びたのに、チャンプに傷は無かった。

 

「チッ!!馬鹿げた魔力をバリアに回してやがる!!」

 

「あぁ、安心しろよ。君は大人にならないからたっぷり愛でてあげるよ」

 

ヴィータはチャンプに関する資料を思い出す。

 

「テメェは、……そうやってガキばかり……弄んだ後、何で殺す?」

 

チャンプは満面の爽やかな笑顔を浮かべて、告げる。

 

「そりゃあもちろん、天使達を汚い大人にしない為さ!」

 

そして彼は吐き捨てるように続けた。

 

「大人はダメだ。カスしかいねぇからよ!天使には永遠に天使のままでいて欲しいんだ。その点君や融合騎の子は最高だよ!」

 

「ざけんな!!このイカれロリコンデブ野郎がッ!!」

 

そこへ、なのはのディバインシューターがチャンプとシュラに命中する。

 

「手前ぇ、このクソ女が!!ざけんなカス!!カス!!邪魔すんじゃねえよ!!」

 

「へっ、面白いな。喜びな!ぶっ倒したらオモチャにしてやる」

 

舌なめずりして、シュラはなのはを見る。

彼女はプロテクションを展開しつつ、ディバインシューターを再び放つ。

 

「お前みたいな管理局の上玉とヤッた事ねぇからな。面白そうだ」

 

ドウッ!! と、シュラに着弾したディバインシューターが向きを真逆に変えて(、、、、、、、、、)なのはの方向へ跳ね返ってきた。

 

「ッ!?」

 

「ディレクションリフレクター。俺がデバイスに格納したロストロギアのスキルだ」

 

跳ね返されたシューターを回避した所で、なのはにシュラが告げる。

 

「魔法だろうが質量兵器だろうが、関係無く跳ね返すスキルだ。時間制限はあるが、エース達でも体力も魔力も消耗し切った状態なら十分だ。せいぜい足掻きな!!」

 

「そんな事!!」

 

なのはがレイジングハートをエクシードモードに切り替え、構え直した時、横槍が入った。

 

「ぐおっ!?」

 

「ぐあッ!?」

 

チャンプの背中にはドロテアが、シュラの背中にはコスミナがぶつかってきた。

ドロテアは八神はやて達に、コスミナは垣根帝督に戦いを仕掛けていたはずだった。

 

「何だこりゃ!?」

 

「ああ!?何が起きて……!?」

 

敵に押し負けたと思い、彼女達に怒ろうとしたシュラは、一瞬声を失う。

想像以上の惨状に。

ドロテアは、身体中を何かで刺し貫かれたようにズタボロにされ、下顎を丸ごと引き千切られ、残った上顎も歯をへし折られ仕込んでいた改造デバイスも破壊されていた。

コスミナは、マイク型改造デバイスを破壊され、両手両足が叩き潰れ、武器である喉もえぐり潰され、発声できなくなっている。

2人とも首を折られていて、生きているというより、死に損なったといった方が正しい状態だった。

 

「何が……!?」

 

2人が飛んできた先には、6枚の長さ数メートルもの翼を広げ、君臨する悪魔のような威圧感を漂わす、超能力者(レベル5)の姿があった。

 

「怪力や超音波攻撃は、悪くはないが大した事もなかったな」

 

八神はやてはDAの対処に向かっていた。

手練れの部下2人を簡単に屠って、それでも退屈そうにしている、第二位の怪物をシュラとチャンプは睨み付ける。

ヴィータとなのはには、元局員のDAをひとまず差し向けた。

 

「テメェ、どうやって……?」

 

「また手前ぇか!!」

 

垣根帝督は、余裕綽々の態度で告げる。

 

「別に大した事じゃねえ。怪力だけしか特徴がねえんなら敵じゃねえし、自慢の歯も『未元物質(ダークマター)』のフィルタを突破できねえなら論外だ。そこの女も、一見、破壊力のある超音波攻撃ってのは厄介だが、空気の振動や音の波形等をサーチすれば対処は簡単。逆位相の音波をぶつければ声を封じられる」

 

ただの人間にも、そこいらの魔導師にもできないような常識はずれな事を言う。

 

「で、次は誰が相手してくれるんだ?まさかもうお開きとかつまんねえ事言わないよな?……それとも、情報吐く気になったか?それなら見逃してやっても良いぞ」

 

先にブチ切れて、チャンプは6種類の球のデバイスをジャグリングしているような形で構え、雷撃属性の雷の球と腐食属性の腐の球を投げ付けた。

 

「何度も何度も、俺と可愛い子供との時間邪魔しやがって!!死ね!!腐った汚物が!!」

 

しかし、2つの球体は何故か垣根帝督の体を避けるように軌道が直前で逸れてしまう。

その間に1枚の翼がシュバッ と伸長しチャンプの土手っ腹に突き刺さった。

 

ザシュッ!!

 

「ぐ!!ぐげえええぇぇぇええ!?」

 

常に全身に纏っていたはずの魔力バリアを突き破った……というより、すり抜けるように羽の先端が刺さっていた。

 

「へー、何か色んな物質を作れる能力だっけか。人体だけに刺さる物質での攻撃たぁエゲツねえな」

 

仲間がやられても楽しげに見ているシュラに、垣根は翼を叩き付けた。

しかし、バキンッ!!! とシュラの体から翼が弾き返される。

 

「あん?」

 

「無駄だ。俺様のディレクションリフレクターは何でも反射して弾く。手前ぇのその訳分からねえ翼も効かねえよ」

 

それに答える前に、垣根に球体と巨大な竜巻が襲い掛かり、彼の体を上空へ跳ね上げる。

 

「お、何だ何だ?」

 

更にもう一発、球が当たり大爆発する。

ゴバッッ!!!!

 

「このチャンプ様の……タフさを甘く見たなぁ。えぇおい?」

 

腹から血を垂れ流しながらも、ジロリと上空を見つめる。

煙の中から無数の白い羽が舞い散り、会心の笑みを浮かべた。

 

「ようやく……反撃…できるぜ……!!」

 

防御する暇も与えずに直撃した。

致命傷を与えたはずだった。

 

「痛ってえな。だが、変わった魔法ではあるが基本の計算式は同じだし、特性が分かれば何て事無いな。ただの力技だけで、俺を殺れるとでも思ってんのか?三下」

 

「あんだと……!?」

 

バォ!! と空気の唸りと同時に、6枚の翼を羽ばたかせて爆煙を撒き散らし、垣根帝督が上空に浮いていた。

彼に傷は無い。

傷一つ無い。

 

「手前ぇどうやって……!!しぶてぇーんだよクソ野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

野球のピッチャーのフォームで、高い火炎攻撃の属性、焔の球を投げ付けた。

 

「手前ぇは火炙りの刑だああああ!!」

 

「学習能力のねえヤツだな。他が効いてねえのに何でそれが効くと思っているんだか」

 

垣根は興醒めしたように言うと、翼を引き絞られた弓のようにしならせ、一気に放つ。

ズァ!!

変質した烈風に衝突した瞬間、焔の球は勢いを失い落下した。

 

「…んだ…そりゃ……ッ!?」

 

チャンプは自動で手元に戻る球を、もう一度投げようとするが、垣根の翼が鈍器のように振り下ろされた。

ゴガッ!!!!

ギリギリで回避する。

飛び散るアスファルトの瓦礫や破片を防御フィールドで防ぐが、再び羽ばたいた白い翼から巻き起こる烈風にすくい投げられ、上空に舞い上がられた。

 

「な、何が_」

 

ズバァ!!

振り回された翼から散ってきた無数の羽が、鋭い刃に変じて様々な角度から襲い掛かる。

ドドドドドッ!! とチャンプの身体中と片目にまで突き刺さり、そこから猛毒を塗り込まれるような激痛と重圧が伴う。

 

「ぐぎゃああああああああ!!いでぇええよおおおッ!?」

 

突き刺さった羽がドバン!! と炸裂し傷口を炙る。

喉を震わせて悲鳴をあげ、墜落するチャンプ。

涙を流しながら激痛に苦悶する巨漢の足元に、静かに着地した垣根はチャンプの血塗れの腹に靴底を押し付けた。

 

「ぎゃああああああああああああああッ!?!!!!!?!!ぐはぁッッッッ!!!!!!!!!?」

 

「で、テメェは何を知っている?事と次第によっちゃ、楽に殺してやる……って、気絶しやがった」

 

退屈そうに垣根は、瀕死の重傷を負ったチャンプをボールのようにシュラの方へ蹴飛ばす。

 

「まあ良いか、テメェがリーダー格なんだろ?テメェから聞き出せば良いや」

 

「あ?_ッ!?」

 

バキィッッ!!!!

ディレクションリフレクターを一時的に解除していたシュラの顔面に、突如飛び出してきた垣根帝督の拳が深々と突き刺さった。

声を出す隙もなく吹っ飛ばされ、アスファルトの上をザザザと転がり込んだ。

 

「あー、中々良いパンチじゃん?」

 

言ってムクッと、ゆっくり立ち上がるシュラ。

殴った垣根は、つまらなさそうに眺めていた。

 

「こりゃ君死刑確定だわ。このシュラ様が、ズタズタに裁いてやるよ。俺の邪魔するばかりか、顔に傷を付けやがって」

 

彼の左頬にはアザができていたが、大したダメージは受けていないようだった。

 

「煮る、斬る、焼く裂く埋める……どんな死刑が良い?全部フルコースで行くかぁ?」

 

「ハッ。笑えるな、三下が。そりゃテメェが受けたい罰ゲームの提案か?有料ならしてやっても良いぜ」

 

「……ジワジワ殴り殺してやる。変わった物質が作れようが、その向きをリフレクションされちまえば無駄なんだよ!!」

 

左腕を伸ばしてまっすぐ飛び込み、垣根の心臓を握り潰そうと踏み込む。

バッ!!

彼は6枚の翼で空気を叩いて上昇し、シュラの突進を避け10メートルほど離れた道路の中央分離帯に着地する。

そこへシュラは腕を振って、触れた空気を砲弾のようにぶつける。

バシィ!!

それを翼で身を包んで易々と防いだ。

 

「チッ!この野郎、その翼もぎ取ってやるよ!!」

 

シュラは再び垣根の懐へ飛び込み、指を伸ばして翼に触れる。

ゴシャッ!!

翼に右拳を叩き込み、左手の指で掴みかかる。

しかし、バララと無数の羽に変換され、いつの間にか垣根帝督の姿は消えていた。

 

「体術や武術みてえな動きは良さそうだが、そんなんで俺には勝てねえよ。工夫次第でどうにかなるレベルじゃねえんだ」

 

ゴウ!! という風の唸りと同時に、再び彼の背中から6枚の翼が生える。

 

「ッッッッ!!この俺が、本気で殺しにいく必要がある相手だとはなぁ!!」

 

実際、シュラは魔法のセンスに、様々な世界の武術の長所を動きに取り入れている。

この若い青年の強さは完成されていた。

垣根は翼とフットワークによる防御と回避で、直撃はかわせているが、次第に押されているように見えた。

 

「血反吐ぶちまけな!!」

 

ディレクションリフレクターと体術、強化魔法の合わせ技を炸裂させ、垣根帝督の体を弾き飛ばした。

その時できた隙を突くべく更に踏み込む。

 

「さぁて、これからお楽しみだぜ。俺様得意の殴り殺しだ!!」

 

だが、ズンッ!! と、不意に体が重くなる。

 

「なッ!?」

(リフレクターは!?)

 

見ると、得意技を当てられたはずの垣根帝督は、涼しそうな顔で薄く笑っている。

 

「何か、勘違いしてるみてえだな。俺がただ単に変わった物質を作り出せるだけだとでも思ってんのか?」

 

嘲笑う彼は、シュラの顔に向かって指を指しながら、馬鹿にするように言う。

 

「分かってねえなテメェ。良いぜ、教えてやるよ。分かった所でテメェに勝機はねえし」

 

「何だと!!」

 

「知ってるか?この世界は全て素粒子によって作られている。だが、俺の『未元物質(ダークマター)』にその常識は通用しねえ」

 

数十メートルもの長さに伸びた白い翼を広げ、上空に舞い上がる。

朝日を背にする彼の翼が輝く。

 

「俺の生み出す『未元物質(ダークマター)』は、この世界には存在しない物質だ。『まだ見付かってない』だの『理論上は存在するはず』だのって話じゃない。本当に、存在しないんだよ」

 

ブワッ!!

 

太陽光を通して、白い翼が凄まじい光を発しているように見える。

手を広げ、絶対的な自信の態度でシュラを見下ろし、告げる。

 

「存在しない物質には存在しない法則が働く」

 

朝日に照らされるシュラは、ジリジリとした妙な痛みを覚える。

 

「何……だと!?」

(ディレクションリフレクターが効いてねえ!?)

 

異変が起きているのは自分だけではなかった。

 

『ぎゃっ!!ぐわあああああああああああッッ!!!!』

 

シュラの背後にいた警備員(アンチスキル)DA達が、一斉に燃え上がり、そのまま焼死した。

 

「例えば太陽光を、人を殺せる光線に変換するとかなぁ!」

 

「ッ!!」

 

シュラは思わず垣根から距離を取り、光線の範囲外へ逃げた。

しかし、そこで彼は取り逃がさず翼を振るって烈風を浴びせる。

 

ドウ!!

 

それをリフレクターで押さえ付ける。

 

「テメェのディレクションリフレクターっつったか?『一方通行(アクセラレータ)』の反射に似ているようだったから、ちょっとだけ楽しみだったんだが、とんだ期待外れだったな」

 

「んだとコラ!!」

 

シュラは怒りに任せて肉薄を図る。

殺人光線でも、DAほど完全に効いてはいない。

ならば無理矢理叩き落としてやる。

 

「叩っ潰してやらぁぁぁぁ_「_逆算、終わるぞ」ッ!?」

 

ドゴッ!!!!

 

鈍器のように振り下ろされた6枚の翼が、シュラの体に命中する。

 

「ご……がっ!?」

 

ディレクションリフレクターも、魔力による超強力なバリアも無視してノーガード同然で受けた攻撃に、一瞬意識が飛びそうになる。

地面に叩き付けられ、アスファルトを砕いた。

 

「テメェのそのチープなスキル、一見強力だが、俺からすりゃ無敵でも何でもないんだよ」

 

シュラはすぐに立ち上がる。

垣根の攻撃以外は、スキルも魔法も正常に機能している為、墜落等によるダメージは少ない。

脚力とそれに掛かるエネルギーをリフレクションし、ロケットのように空中へ飛び出す。

そして飛行魔法と体術で再び垣根を叩き落とそうと背後に回るが、

 

「言ってみりゃ、テメェのスキルは良くも悪くも『ただ単に自分に向かってくる攻撃のベクトルを反対にしているだけ』だ」

 

「ぐっ…こいつ……!!」

 

シュラの動きを予測したように振り向き、顔面に拳をぶつけ、そのまま敢えて翼を使わずに殴る蹴るの単純な殴打を浴びせる。

もちろん、魔力バリアもディレクションリフレクターもその存在を無視されるようにマトモに当たっている。

 

(俺の動きを……もう把握してやがる……!?)

「ふざけんなよ!!俺がこんな田舎世界のカスにッッ!!」

 

頭に血が上り、力任せに蹴り付けるが、垣根の体は空中で固定されたかのようにびくともしない。

 

「身に余ってるぜ、その力」

 

「能力だけに依存してる雑魚がよぉぉぉー!!」

 

数メートルの距離を取られ、翼を羽ばたかせて、バウ!! と巻き起こした烈風を食らって背後の高層ビルに叩き付けられる。

 

「ごヴぇるごッッ!!」

 

シュラは、言語として成立していない叫びを発しながら、ビルの奥の奥まで押し込められていく。

その様を、垣根帝督は冷笑を浮かべて眺める。

わざわざ懇切丁寧に説明しながら。

 

「テメェの『一方通行(アクセラレータ)』の反射擬き……いや、さしずめダウングレードの猿真似スキルにしろ、全身に纏ってる馬鹿げたほど強力な魔力バリアにしろ、絶対的な防御だとでも思っているようだが、そいつは正確じゃないな」

 

ギュルッと6枚の翼を束ねて巨大な槍か杭のように変形させ、シュラの方へ放つ。

ドォン!!!! という轟音が炸裂した。

凄まじい勢いで伸長し、真っ白で巨大な物体がシュラをビル諸とも粉砕しようと襲う。

紙一重でギリギリの回避をした彼に、巨大な殺人兵器と化した6枚の翼を振り回しながら周囲の建物を切り刻み、粉塵を撒き散らしながら追撃してくる第二位のバケモノ。

 

「光を遮断すれば何も見えない。音を遮断すれば何も聞こえない。物体を全て遮断すれば何も掴めないし、気体を全て遮断すればいずれ窒息する。テメェや、テメェを含めた魔導師の操る魔法の防御は、無意識的に有害と無害のフィルタを組み上げ、有害と判断するモノだけを選んで『防御』している」

 

大剣のように振り下ろした翼がシュラの肩口や耳の端、爪先を削り取る。

 

「ぐっ!!痛あああッッ!!!!」

 

「さっきの太陽光と烈風、直接ぶつけた翼にはそれぞれ、異なる属性や性質の『未元物質(ダークマター)』を注入し影響を与えておいた」

 

身体中を切り付けられ、吐血し血を垂れ流しながら一方的に翻弄され圧倒される。

 

「後は、スキルと魔法の具合から″無意識的に受け入れているモノ″を識別し、そこから攻撃を加えれば良い」

 

シュラは垣根から距離を取り烈風を避け、両手から毒々しいほど黒い色の魔力集束砲を放つ。

 

「畜生!!このっ、カス野郎が!!死ねやコラぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

目を血走らせ、敵の頭を潰す。

セオリー通りで陳腐だが、それをせずにはいられなかった。

 

「魔力というエネルギーの塊だという事と、計算式がサーチ済みなら」

 

ブォッッ!! と振り下ろされた烈風と衝撃波が、集束砲と真正面から激突する。

ドバァ!!

集束を阻害され、集まった魔力が拡散され、AMFと同じ効果と結果をもたらし消滅する。

 

「こんな事もできるんだよ」

 

「ーッッッッッ!!!!!!」

 

怒りのあまり、歯を食い縛り口許を切ってしまう。

 

「まあ、テメェの防御を崩すだけなら、そこまで手の込んだ事をするまでもねえ」

 

不意に、一息で目の前までに肉薄した垣根は左腕を振り上げ、拳を突き出す。

効かないと分かっていても、生存本能なのか、全力の魔力バリアとディレクションリフレクターを張る。

ドゴォッッ!!

大型ハンマーか何かで殴打されたような衝撃が、シュラの腹に炸裂する。

 

「が、あああああああああああああッッ!!!!!!!!」

 

今度は、敵のフィルタをすり抜けるような攻撃ではない。

単純な質量攻撃だ。

それは分かるのだが、人間にそんな巨大な質量を動かせるのか、それが分からなかった。

ズタボロにされたシュラが、仰向けに倒れ込む様を確認すると垣根は種明かしをする。

 

「テメェのスキルはいわば『ベクトル変換』の下位互換だ。ただ反射するだけ。なら、もっと単純に全てのベクトルを集約し動かせないほど巨大な質量をぶつけるだけでも、何とかなるんだよ。俺自身のベクトルまでは操作できねえしな」

 

「ふ……ざ、け……んな……。そんな、無茶苦茶な……事が……ッ!!」

 

垣根帝督は再び上昇し、暗い眼光を灯して冷酷に笑いながら、6枚の白い翼を構える。

 

「これが『未元物質(ダークマター)』。異物の混ざった空間。ここはもう俺の世界だ。テメェの知る場所じゃねえんだよ!」

 

単にこの世に存在しない新物質を作り出し、操るというだけでなく、既存の物理法則を無視し周囲に影響を与え、そしてそれらの法則をも塗り替える事すら可能な力。

文字通り物理法則すら捻じ曲げる、高い戦闘能力の裏付けにもなる、理不尽なまでに絶大な超能力(レベル5)という暴力。

鉄壁だったはずの防御は、実質無効化され、攻撃パターンも読まれ、攻撃魔法をも無力化された。

 

(クソが!!俺が、こんな田舎世界のカスに負けるのか……!?スポンサーのあの野郎と親父は、あんなバケモノを捕獲して来いっつってんのか!?)

 

しかも目を見れば分かる。

第97管理外世界。現地惑星名称『地球』極東地区 日本。

そこの最先端科学技術の粋を集め、超能力開発を行う学園都市。

その街で生み出された、圧倒的で禍々しい暴力を振るうのは、自分達と同等か、それ以上に悪意と殺意に染まった獰猛な瞳を宿す者。

 

「隙だらけだぁ!!」

 

「江雪、今日は珍しい者の血を与えてやるぞ」

 

不意に、垣根帝督の背後に飛び込んできたエンシンとイゾウ。

2人はシグナムとフェイトと戦っていたが、DAを制圧したなのはとヴィータ、はやて、ザフィーラの加勢を受け、不利を悟って後退し、リーダーのシュラの援護と回収対象の垣根を潰す事を選択した。

既にこの場の元局員DAは逮捕され、元警備員(アンチスキル)DAも、回収対象の第二位に皆殺しにされていた。

ワイルドハントの正規要員も2人潰されている。

しかし、本来の目的である第二位さえ何とかできれば、と思ったのだが、

 

「ああ、まだいたんだよな」

 

垣根はクルリと振り向き、2人の刃を翼で受け止める。

ガギィ!!

そして易々と弾き飛ばす。

 

「うあッ!!」

 

「ぬぅぅ!!」

 

飛ばされた拍子を逆手に利用して、エンシンが真空の刃を飛ばし、垣根の顔に命中する。

 

「ハッ、そのまま脳みそだけいただいて回_「痛ってえな」何!?」

(マトモに食らって無傷だと!?何なんだこいつ_ッ!?)

 

「ムカついたから死ねや」

 

ゴシャッ!! と。

エンシンの体が、瞬時に振り下ろされた翼3枚に叩き伏せられ、最寄りのビルに激突、そして倒壊していくビルの下敷きにされた。

悲鳴をあげる暇も与えられず。

 

「流石に手強いでござる。だが、それならば尚更愛しの江雪に、血の与え甲斐があるというもの!!」

 

「しぶといな、出来損ないの侍擬きが」

 

イゾウは体勢を立て直して、垣根の翼と白兵戦を仕掛ける。

垣根帝督はイゾウの斬撃を右側3枚の翼で受けつつ、興味の薄そうな態度で、

 

「ふうん、つまりテメェの楽しみが、ソレって訳か」

 

「その通りにござる。この江雪を愛し、血を与え続ける事が我が生き甲斐!!」

 

「……、そうかよ」

 

ドゴォォォォォォッ!!!!!! と。

 

「な!?」

 

突如、彼の中心から正体不明の大爆発が巻き起こり、イゾウを衝撃波が吹き飛ばす。

 

「まさか、自爆……!?」

 

「遅せえ」

 

「ッ!!」

 

爆発したはずの垣根帝督が、イゾウの背後に回って平行に飛行していた。

一体どうやって接近したのか、いつの間にそれを実行したのか。

その疑問が解ける前に彼の両手がイゾウの両肩を掴む。

 

「テメェは愛刀に血を与え続けるのが生き甲斐っつったよな」

 

ギチミチギシギチギチ!!

 

「な、何を_ッ!?」

 

垣根の指が、イゾウの腕の付け根へ沈み込み、鮮血を撒き散らしながら奥を掴み、

 

「残念だが、そいつはもうこの先、永遠にできねえよ」

 

ボジュッッッッ!!!! と。

イゾウの両腕が根元から無理矢理引き千切られた。

 

「な……?」

 

痛覚が、遅れているような感覚だった。

イゾウの両腕が流血しながら放り捨てられてから、ようやく彼は絶叫する。

 

「なぁぁああああああああああああああああああああああああああいああああああああああああああああああああぁぁああああああああああああああああああああああああああいああああああああああああああああああああ!?」

 

「両腕が無くちゃ、流石に刀振り回せねえもんなぁ?」

 

薄く歪んだ笑みを浮かべ、イゾウを地面に蹴落とした。

墜落したイゾウは、うずくまって激痛を押さえ込もうとするが、両腕とも喪ってしまったせいでそれすらできず、やがて激痛と絶望感のあまり、意識を手放した。

 

「さてと、ん……?」

 

その様子を確認し、シュラの方へ向き直ると彼の姿が消えていた。

逃げられたか? と周りに目を走らせると、笑い声が聞こえてきた。

 

「はははははは!!隙ありだバケモノ!!」

 

シュラと倒したはずのエンシンとチャンプが、何かを抱えて飛んでいる。

 

「こいつは人質ってヤツだ!!」

 

「流石においそれと手ぇ出せねえだろ!!」

 

シュラはシグナムを、エンシンはシャマルを、そしてチャンプはヴィータを、羽交い締めのように抱えて見せていた。

 

「ふぅっ……ふぅ…もう、ここじゃあ邪魔が入って仕方ないね。おじさんと2人きりの国へ行こうか」

 

「行くかボケぇ!!キショイんだよテメェ!!放せや!!」

 

彼女達は必死にもがいているが、思うように動けずにいる。

いつもなら手練れの彼女達が、こんな事をされる隙など与えるはずは絶対に無いのだが、魔力切れに加え疲労困憊が切っ掛けで隙を突かれてしまった。

それを見た垣根帝督は、鼻で笑いながら6枚の翼に力を蓄える。

 

「そんなもんが、俺の足枷になるとでも?」

 

長さを変え、質量を変え、殺人兵器と化した白い翼が広がった。

まるで引き絞られた弓のようにしなり、その照準が3人の急所へ正確に定められる。

しかし、それでもシュラ達は笑う。

彼等には確信があった。

 

「なるんじゃねぇかぁ?現にテメェは今動けないでいる」

 

「第二位、お前は何気にこいつ等には一切危害を加えてねえ。それが証明になってんだよ!!」

 

双方の間で、悪意が膨張する。

 

「身の程を知らずに噛み付いて、勝てないと分かったらチマチマチマチマ小細工ばかり。本気でうざってえなテメェ等」

 

「ハッ。どうほざこうが立場は逆転したんだよ!!手出しは無用で_」

 

ブォ!! と風を切りながら伸長し3人の心臓を貫こうと、正体不明の白い翼が迫ってきた。

 

「_な!?人質が見えねぇのか!?こいつ等諸とも殺す気か!?」

 

狼狽えだすエンシンに、垣根は小さく笑った。

 

「何を勘違いしてんのか知らねえが、忘れたか?俺はテメェ等と同じ悪党だぞ」

 

「テメェ……ッ!!」

 

「ま、待て!!ちょ……おい、待てよ!!」

 

「じゃ、殺すけど、それが遺言って事で良いんだな」

 

垣根帝督の禍々しい悪意を宿したように槍となった翼が、殺意に尖る先端が、標的へと殺到していく。

 

ザシュゥゥゥッッッッ!!!!!!

 

人質にされたシグナムとシャマルとヴィータの胸元から突き刺さり、不気味に白く発光する羽が、抱えていたシュラとエンシンとチャンプの体を貫いた。

心臓を一突きされ、即死したエンシンとチャンプは人質を手放し、真っ逆さまに墜落。

何故か辛うじて心臓を外れたシュラも、同じように墜落していく。

しかし、そこで奇妙な光景を目にした。

一緒に貫かれた人質が無傷だった(、、、、、、、、、、、、、、、、)のだ。

 

「な……に…………ッ!!」

 

一方、ヴィータ達も、白い翼が迫ってきた時に覚悟を決め、ギュッと両目を閉じていたのだが、いつまでも自分達に衝撃も苦痛もやって来ない。

 

「あ………れ………!?」

 

ゆっくりと、恐る恐る目を開けてみると、見た目は間違いなく巨大な羽の先端が、自分の胸元に突き刺さり背後に貫いていた。

だが、何故か、『未元物質(ダークマター)』が殺したのは、チャンプ達だけだった。

訳が分からないまま、ゆっくり着地し、シグナムとシャマルとも目を合わせる。

思わず貫かれたはずの胸元をさする。

刺し傷一つ、付いていない。

訳が分からない。

分かっているのは、『垣根帝督の白い翼は人質にされた守護騎士達をすり抜けてワイルドハントの3人だけを貫いた』という事だけ。

 

「な、何が……?」

 

「どうなって……る、の……?」

 

「訳、分かんねえ……でも」

 

助かった。

それだけは確かだ。

どういう意図でどういう仕組みかは分からないが、垣根帝督は、やろうと思えば簡単にできたはずなのに、自分達をわざと殺さなかった。

 

「て……め……、まさ、か……ッ!」

 

瀕死の状態のシュラが、忌々しそうに、呻くように言う。

6枚の翼をユラユラと羽ばたかせ、上空に君臨する学園都市第二位の超能力(レベル5)、『未元物質(ダークマター)』を操る垣根帝督は、うっすらと笑い、シュラの足元にゆったりと着地した。

 

「ご明察だよ三下。さっきテメェ等にお見舞いしたのは、人体だけに刺さる物質って訳だ」

 

「……ッ!」

 

背中の翼が消滅し、両手をズボンのポケットに突っ込みながら、垣根はゆっくりと横たわるシュラの方へ歩み寄り、告げる。

 

「テメェ等が盾にした守護騎士って存在は、厳密には人体とは違う構造の生き物だ。だからその物質は連中の存在を無視してテメェ等に当たった訳だな。……まあ、仮に他の誰を人質に取ろうが、味方でも仲間でも何でもない、ただの他人を盾にしてきた所で、俺が攻撃を躊躇する訳ねえんだがな」

 

「あ、あ……」

 

シュラは、肌で感じた。

今まで、自分達が散々撒き散らしてきた残虐な悪意という悪意が、殺意という殺意が、垣根帝督という、より巨大で底の見えない禍々しい悪意に侵食され、塗り潰され、呑み込まれ、恐怖に支配されてゆくのを。

自分で自分を、誰にも負けない強さを得たと思っていた事が、急におこがましく感じた。

自らが率いていた組織も、たった1人の怪物によって返り討ち同然に壊滅させられた。

築き上げてきた悪名も自信も、絶対的だったプライドも、跡形もなく粉々に叩き潰され、心が折れる。

無様に惨めな姿を晒したまま、逃げようと地べたを這いつくばる彼を見て、垣根は小さく笑い、冷徹に冷酷に淡白に、平坦な声で告げる。

 

「それじゃ改めて、分かってるな?さっさと知っているを全部喋ってもらおうか」

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