魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter   作:戸礼太

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結構流れについては悩みました。

展開としては陳腐かな、と。




余計な事

「や、止めろ!来るなーっ!!」

 

ずりずりと地面を這いつくばりながら、血塗れの満身創痍となったシュラは、ゆっくりと歩を進めて迫り来る垣根帝督から逃れようと、必死にもがく。

 

「はーっ……はーっ……、い…イゾウ!イゾウはどうした!?イゾウ、殺せ!こいつを殺せーッ!!」

 

「そいつなら両腕もげてノビちまってるぜ」

 

「何だと?こんな時に何なんだイゾウの馬鹿が!!」

 

はー、はー、と呼吸が乱れて焦燥し切り、足掻きながら呻き声を張り上げる。

 

「チャンプ!エンシンはどうしたー!?殺せー!!」

 

「そいつ等は死んだよ。俺が殺した」

 

「死んだ!?だ……誰か、誰か……!!」

 

カツッ、と垣根の靴底が彼の耳元へ届く。

 

「だ……誰か……こいつを、殺せ……っ!」

 

垣根は興醒めだと言わんばかりに、溜め息を吐いて言う。

 

「ほら、もういい加減諦めろよ。全部ゲロって楽になれ。そうすりゃ、お情けで楽に殺してやるよ」

 

「止めろ!!はー……はー……、し……死にたくない!!ふざけるな!!嫌だ!!死にたくない!!」

 

「みっともねえぞ三下。牢獄にぶち込まれるよかまだカッコ付くだろ?」

 

背中を踏み、ゴリゴリと靴底を押し付ける。

 

「い、嫌だ死にたくない。牢獄も嫌だ!!」

 

「ったく、埒が明かないな。……おっと、足が滑った」

 

ザンッ!! と、シュラの体を『未元物質(ダークマター)』が襲う。

 

「あ、ぐおぁああああああッ!?あ、足が……ッ!!右足が溶けたぁ……!?あぁあああああ一体何がぁ!?」

 

叫んだ通り、シュラの右足がドロドロに溶解していく。

激痛と驚愕のあまり、呻くように絶叫するが、垣根の表情は変わらなかった。

 

(死ぬ…殺される!!嫌だ死にたくない死にたくない死にたくない!!!!)

 

「騒ぐなよ。説明した通り『未元物質(ダークマター)』はこの世界に存在しない物質を生み出す。その物質に既存の物理法則は通用しない。使い方次第で、こんな事もできるっつー訳だ」

 

悪意と殺意が、恐怖を伴って足音を立てて迫り来る。

絶望感がわだかまったその瞬間、蜘蛛の糸が垂らされた。

シュラの視界に、管理局員……DAを制圧・逮捕し、ワイルドハントの生存者……というより第二位の怪物が殺し損なった者達の、必要最低限の治療魔法を施して回りながらこちらへ向かってくる高町なのは達の姿が、見えた。

今の彼にとっては、もはやそれが最後の希望に映った。

 

(嫌だ逝きたくない!!)

「うわーーーーッ!!死にたくない!!逝きたくない-!!助けてくれ!!殺される!!」

 

残ったプライドも、何もかもかなぐり捨てて手を伸ばす。

しかし、それが垣根は気に食わない。

 

「おいおい、この期に及んで、しかもよりによってテメェ等でブチ殺そうとした善人共に救助と命乞いを求めるなんざ、ムシが良すぎるだろうが」

 

ムカつく。

 

「ゆ許して…くれぇっ!!死にたくねぇよぉっっ!!」

 

「聞っこえねえよ」

 

「た、助け……許し_」

 

「聞っこえねえっつってんだろぉがよお。テメェだって今まで散々、大勢殺してきたんだろうが。こんな風に」

 

その絶叫に気付いたなのは達が、こちらを向いたその時、ザグッ!! と、伸ばした右手が垣根帝督の白い翼によって手首から切り落とされた。

 

「は?あ、ああ、あぁ……ああああああああああああああーあああああーッ!!!?!!!!!!!?」

 

ショックと激痛に喚き散らす。

無くなった手首を押さえてのたうつシュラを、冷酷に冷え切った視線を向けて見下す垣根の表情は、苛立ちと怒りに染まっていた。

自分がやってきた事を棚にあげ、悪党の癖に平気で命乞いを、しかも殺めようとした相手に求める節操の無さ。

故に垣根は強く憤る。

第二位の暗い瞳には、こちらに向かうなのは達は映っていない。

気に食わない、ムカつく、と怒りの矛先であるシュラしか見ていない。

 

「当てられてんじゃねえよバーカ!俺と同じ外道の分際で何すがろうとしてんだコラ。違うだろうがよぉ、そんなのは俺達のやり方じゃねえだろうがよお」

 

ドドド!! と『未元物質(ダークマター)』の重圧が増す。

垣根はシュラに触れずに立っている。

なのに、見えない何かで踏みにじられる感覚が、シュラを襲った。

 

「ぐ、ぎぎゃああああああああッ!!あぁあああああああああああああ!!!!」

 

「動きを止めたきゃ殺せば良い。気に食わないものがあるなら壊せば良い。悪ってのはそういう事なんだろうが。救いなんか求めてんじゃねえ!!テメェみてえなクソ野郎にそんなもんが与えられる訳ねえだろうが!!」

 

垣根の怒声に呼応するように、更に重圧と苦痛が増す。

遂には泡を吹きながら痙攣し始めた。

垣根帝督は、精神崩壊寸前のシュラに引導を渡すべく、右手を彼にかざした。

 

「_もう良いや。時間の無駄だったな。そのまま死ねコラ」

 

学園都市第二位の怪物が振るう圧倒的で禍々しい『暴力』が、対象の命を刈り取る寸前で、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ストップ!!」

 

「そこまで!!」

 

「それ以上はダメやで!!」

 

高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやて。

3人の少女達の叫び声が、垣根帝督の暴挙を、ピタリと止めた。

 

「……、ちっ……」

 

垣根がシュラに与えていた能力の重圧を解くと、彼はすぐに意識を手放してしまった。

なのはとフェイトとはやて、守護騎士ヴォルケンリッター全員が、垣根帝督と対峙するように着地する。

 

「広域次元犯罪者集団『ワイルドハント』リーダー、シュラ。あなたを、逮捕します」

 

フェイトが静かに告げると、両手をズボンのポケットに突っ込み、退屈そうな顔で垣根が言う。

 

「そいつ気絶しちまったぞ。死なせたくないなら、失血死する前に治療してやるんだな」

 

「あ……シャマル!」

 

「はい!」

 

少し慌てた声ではやてが指示し、シャマルが直ちに治癒魔法を発動する。

なのはが垣根に、確認するように声をかける。

 

「ここからはわたし達の領分。で良いよね?」

 

「ああ」

 

簡潔に答えると、彼は踵を返して歩き出す。

シュラを本局側に、シャマルが転送しているのを一瞥する。

もうここに用は無い。

ついムカついて、敵を殺し過ぎたり気絶させたのは失敗だったなと思ったその時、

 

「あ、ちょっと」

 

「どこへ行く気だ?」

 

と、シャマルとシグナムが呼び止めた。

 

「別に、次に行くだけだ。DA共潰しに回りながら情報漁りにな」

 

すると、なのはが垣根の左手首を掴んで引き留める。

 

「あ、まだダメだよ。垣根くんからも、事情聴取したいから」

 

「ああ?俺はお前達が欲しがるような情報は持ってねえし、それに、お互い干渉しないっつー約束だろ?」

 

彼は若干、鬱陶しそうに言ってなのはの手を振りほどくが、フェイトも口を挟む。

 

「でも、不可抗力とはいえ、管理局(こっち)側が追ってた犯人グループと正面切って戦ったんだから、もう無関係とは言えない。一応正当防衛にはなりそうではあるけど、素通りは流石にさせられないよ」

 

「知るかよそんなの。相手から仕掛けられたから、対応しただけだ」

 

「それでも、局員として、執務官として、……君の知り合いとしても、やっぱり見過ごせない」

 

うっすら戸惑いと尻込みするような表情をしつつも、フェイトはまっすぐな目で垣根帝督の顔を見る。

同じようになのはも、

 

「わたしも局員としても、わたし個人としても、垣根くんと話をしたいから」

 

「はあ?」

 

思わず鼻で笑った。

この少女達は、もう知っているはずだ。

垣根帝督という人物が、どういう立場の人間でどういう事をしている人間なのかを。

それを理解しているはずなのに、どういうつもりで何を言っているんだと。

今更、新たに話す事があるのか? と。

何より、今日この瞬間に、垣根帝督と高町なのは達との関係は終わる。

垣根の本性を知った以上、もう以前と同じようには見られないはずだ。

しかし、そう思う彼とは裏腹に、高町なのはは再びまっすぐな視線を向け、内心複雑そうな面持ちで咎めるように言う。

 

「……ここまで、する必要……無かったよね?」

 

「あ?」

 

「垣根くんほどの強い人なら、何も殺したり、こんな風に苦しめたりする必要は、無かったよね……?」

 

何で、どうして、という言葉を敢えて口に出すのを躊躇い、呑み込んだ。

どこか諭すような物言いの彼女に、垣根は今更何なんだといった調子で、くだらなさそうに言う。

 

「そうだな。思ったより大した事無かったし」

 

あっさりと認めて、続ける。

 

「だからどうした。殺生はいけませんってか?悪人相手でも弄んじゃいけませんっとでも宣うか?」

 

「……っ、そう…だよ」

 

結界が維持されたまま、ボロボロの街中の道路上で真正面から対峙する、7人の局員達と1人の能力者。

垣根は興味の無さそうな調子で、再び口を開く。

 

「説教でもするつもりかよ?説得力ねーっての。大体、俺がどういう立場の人間かは、もう分かってんだろ。『表』の住人で法の番人をやってるお前達と、『裏』の人間である俺とは、考えもやり方も違うのは当たり前だろうが」

 

こんな当然の事を、いちいち言うのも面倒だと吐き捨てるように告げた。

明確に線引きをして、突き放すような態度の彼に、フェイトが静かに、囁くような小さな声で言い始める。

 

「……話し合うだけじゃ……、言葉だけじゃ何も変わらない……かもしれない。…でも話さないと、言葉にしないと伝わらない事もある」

 

「あ?」

 

「昔なのはが、わたしに言ってくれた事だよ。……だから、せめて話して欲しい。わたし達の知らない、君の事を」

 

切実さのこもったフェイトの言葉に、垣根は煩わしそうに舌打ちをして、心底面倒臭そうに答える。

 

「本来は話してやる義理はねえんだがな。それに昔のお前達みてえに、特に込み入った事情を抱えてる訳でもねえ。単に昔から、学園都市の暗部に沈んでたってだけだ。テメェ等から見た立場的にゃ、ワイルドハントっつったか?そのクソ共と殆ど一緒だよ」

 

「昔からって……もしかして、わたし達と…会う前から……?」

 

「まあな」

 

数瞬の沈黙。

ある程度は予想していたが、やはり内心は、少なからず驚いてしまった。

 

「でも」

 

ヴィータが口を挟む。

 

「……じゃあ何で、さっきあたし達を助けてくれたんだ?」

 

「そんな事した覚えはねえ。あいつ等にはムカついてたからな、意表を突きたかっただけだ」

 

「それならただ単に、人質の私達ごと貫いて殺してしまっても、構わなかったはずだ」

 

「お前達がどう思おうが勝手だが、どっちにしろ助けたつもりはねえよ」

 

シグナムも言うが、彼はやはり即座に否定する。

シャマルも、敢えて垣根に向かってゆったりと微笑みかけて、続く。

 

「……そうね。垣根くんの意図は何にせよ、結果として私達が助けてもらった事に、変わりはないわね」

 

「……どうしても俺を『イイ人』にでも仕立てたいのか?迷惑だし反吐が出るな」

 

彼は再び吐き捨てるように言った。

心底不快そうに表情を歪めて。

ヴィータとシグナムとシャマルの方から、視線を戻すと、なのはとフェイトとはやてが並んで垣根帝督の前に立ったまま、彼を見つめ続けている。

 

「わたしは……」

 

八神はやてが、意を決して告げる。

 

「わたしは……帝督くんが、そこまで悪人には思えへん。…5年前のあの時も、帝督くんはわたし達を助けてくれた。あの子が…リインフォースが消えてしもた時、君も一緒に悔やんでくれた……。そんな優しい人が、ただの悪人やと思えへん。ううん、思いたくない」

 

「そんなんじゃねえ。……あれは俺が興味本位で首突っ込んで、一枚噛む為に性能試験の一種のつもりでやったんだ。俺の『未元物質(ダークマター)』は、どの世界のどこまで通用するんだ、ってな。別に助ける事自体が目的だった訳じゃねえ」

 

触れて欲しくなかったのか、彼は否定しながら、嫌そうに鬱陶しそうに、眉間にシワを寄せた。

垣根は少女達を睥睨し、自分と彼女達の立ち位置の違いを認識させようと、敢えて再び言う。

 

「……俺は悪党だ」

 

「それならわたしは、わたし達は止めたい」

 

忌々しいほど即座に、なのはが答えてきた。

それが癪に触る。

 

「ハッ。本気で言ってんのか?何様だテメェ」

 

垣根は、馬鹿馬鹿しそうに嘲笑う。

 

「さっきまで好き勝手に暴れまわってた俺を、全く止められなかったテメェ等に、何ができる?」

 

「それでも、わたしはそういうやり方しか知らないから、そうするよ」

 

「そういうのは、そういう手段が通用する相手にだけやっとけ。説得すれば、誰でも耳貸してくれるとか、改心してくれるとか、生温い事言ってんじゃねえぞ。世の中がそんな甘くねえ事ぐらい、お前等もよく分かってんだろ」

 

何でも話し合いで解決できるのなら、誰も苦労しない。

そんな簡単に事が済むなら、とっくの昔に戦争も起きなくなっている。

片方でもその気が無ければ、対話そのものが成立しない。

そんな事は、局員として最前線に立つ彼女達が、一番理解しているはずだ。

もう子供じゃないのだから、誰よりも分かっているはずだ。

 

「俺は自分が外道だって自覚はあるが、それだけだ。別に好き好んで一般人を狙おうとは思わねえし、気分が良けりゃ、悪党であっても格下なら見逃してやる事もあるが、そいつは命張ってまでやる事じゃねえし、あくまで俺の気分次第だ。お前達みてえな馬鹿正直な善人と違ってな。……もう良いよな?一応対話には応じてやったんだ。聴取の代わりにもなっただろ」

 

突き放すように告げる。

これ以上の無駄話に、付き合うつもりは無い、と。

しかし、

 

「…………関係……無い…よ……」

 

「……、……何…………?」

 

垣根は、フェイトの囁くような小さな声に、意味の分からなさそうに眉をひそめる。

フェイトは再び口を開く。

 

「あなたが…帝督(、、)が良い人か悪い人かなんて関係無い。君がどんな世界に浸っているかも、関係無い」

 

次にはやてが再び言ってくる。

まっすぐ、垣根の目を見て。

 

「わたし達じゃ、きっと今まで帝督くんが何を見てきて何をしてきたんかは、知らへんし、何で帝督くんがこんな事せなあかんような事になったんかも、多分理解できてへん、……けど」

 

彼女達の目には、瞳には、意志の光があった。

垣根帝督からすれば、馬鹿馬鹿しく思える行動指針。

 

「わたしも帝督くんの事、やっぱり放っとかれへん。見過ごせないんや」

 

綺麗事なのは分かっている。分かりきっている。

世の中が、そんなに単純じゃない事も、理想を実現する事がどれだけ困難なのかも分かっている。

それでも、

なのはがきっぱりとした口調で言う。

 

「これだけは、言えるよ。大事なのは、そこから連れ戻す事だよ。帝督くん(、、、、)が、どれだけ暗い世界にいても、どれだけ深い世界にいても、わたし達は諦めない。諦めたくない!そこから必ず引きずり上げてみせる!!」

 

その言葉に同意するように、他の面々も垣根を静かに見つめる。

かつて、高町なのはがフェイト・T・ハラオウンと対峙し、向き合った時のように。

かつて、高町なのはとフェイト・T・ハラオウンが、八神はやてと夜天の書を救う為に立ち上がった時のように。

 

だが、

 

だからこそ、彼の怒髪天を突いた。

理想的で綺麗事で、現実を見ていない、幼稚で愚かな戯れ言にしか聞こえなかった。

このセリフが、約5年前の彼女達の口から出てきたのであれば、まだ鼻で笑って聞き流せる。

何も知らないただの、どこにでもいる普通の子供の、綺麗事だと。

しかし今の、無知でもなければ、人間の汚い所を全く知らないはずがない彼女達が、確かに言い切った。

分かっているはずなのに。

素人よりもずっと理解しているはずなのに。

どれだけ困難で、不可能だと誰でも分かるはずなのに。

 

「……どれだけ暗い世界にいようが、どれだけ深い世界にいようが、必ずそこから連れ戻す、だと……」

 

垣根帝督は静かに言った。

眉間にシワを寄せ憤怒に染まった、心底不愉快そうな表情で、拳を握り、鋭く暗い眼光の瞳で、彼女達を忌々しそうに睨んでいた。

激怒し、はね付けるように、吐き出すように叫ぶ。

 

「できる訳ねえだろうが。そんな簡単な訳ねえだろうが!これが俺達の世界だ。これが闇と絶望の広がる果てだ!!何を言い出すかと思ったら、ふざけた甘っちょろい事抜かしやがって!寝言は寝て言えってんだよ!!」

 

「ふざけてないよ!簡単じゃない事も分かってる。普通なら無理だって思うのも分かってる!都合の良い事言ってるのも分かってる!でも、わたし達は真剣だよ。本気で真面目に言ってるんだよ!!」

 

高町なのはの揺るがない一言が、余計に苛立たせる。

故に、垣根帝督は憤る。

 

「俺の境遇を想像して、つまんねえ安い同情でもしたのかよクソボケ。余計なお世話だっつってんだ。誰もそんなもん望んでも頼んでもねえんだよ!俺はな、そういうのが一番ムカつくんだよ!!」

 

怒りに引っ張られるように、彼から悪意と殺意が膨れ上がる。

それでも彼女達は、デバイスを握らずに、徒手空拳のまま対峙し続けている。

それがまた気に食わない。

学園都市第二位という化け物を、ただの幼い頃の知り合いというだけで、自分達に危害を加えたりしないと思い込んでいるとしか、彼には考えられなかった。

ナメているとしか思えない。

 

「……分かってる。こんなのは結局、わたし達のエゴで、勝手な望みだって事も。……でも……それでも、やっぱり見過ごせないよ。見て見ぬふりなんて、できない。したくない。このままで良いなんて、やっぱり思えない!」

 

「……わたし達が目指してんのは、わたし達がおって、皆が笑って暮らす風景や。その未来の為なら、わたし達は諦めへん。もう、諦めたくないんや。それに、そこには帝督くんも入ってるんやで?」

 

「__っ」

 

切実さのこもった声で言うフェイトとはやて。

意外なほどの本気さに、呆れ返りながら冷静さを取り戻しつつも、垣根は、怒りを滲ませたまま聞いて、吐き捨てるように答える。

 

「感情論はもう聞き飽きたよ。イカれてんのか。そんな耳心地の良い言葉で、俺が当てられるとでも思ってんのかよ。どう生きようが俺の人生だ。押し付けてくんじゃねえ。テメェ等ごときに何言われようが、俺が考えを変える訳ねえだろうが」

 

物心ついた頃から、闇の中で生きていた。

今更、光の道を歩む気はさらさら無い。

それでもなのはは、フェイトは、はやては、ぎこちなくも微笑んできた。

 

「それなら、帝督くん(、、、、)だって分かってるでしょ?わたし達がしつこいの。わたしは、帝督くん(、、、、)に何を言われても、やっぱり放っておけないよ。お節介だって思われても、それでも……何も話せないでさよならはしたくない。話し合えば絶対に分かり合える……なんて言えないけど、できる事も何もしないで、お互いに何も知らないまま、すれ違って終わりなのはもっと嫌だよ!」

 

「わたし達は、まだお互いの事を殆ど知らない。だから、まずは帝督(、、)にはわたし達の事を知って欲しい。わたし達も帝督(、、)の事を知りたい。そこから始めたいんだ」

 

「わたしかて、帝督くんに話したい事たくさんあるんやで。紹介したい子もおるし、帝督くんからのお話も聞きたいんや」

 

愚直なまでの態度に、いい加減本格的に呆れてきた。

いや、不愉快で苛立ちと怒りは変わらず感じるが。

 

「……、相変わらず、鬱陶しいヤツ等だな。あと、どさくさに紛れて揃いも揃って、馴れ馴れしく下の名前で呼んでんじゃねえよ。うざってえ」

 

「……それなら、わたし達の事も、名前で呼んで良いよ」

 

なのはが、今度は柔和な笑みを浮かべて言う。

 

「呼ばねえよ馬鹿。馴れ馴れしいっつってんだろ」

 

「そう言う帝督くんが、よそよそしいだけやで?」

 

と、同じく柔和に笑いかけてきたはやて。

段々、雰囲気と流れを相手に掴まれてきたと悟り、苛立ちながら垣根は、それを振り切ろうとする。

 

「……本当に鬱陶しいヤツ等だな。分からねえな、何故そこまで俺に構う?俺とテメェ等の関係は、どう取り繕ったって、昔のガキの頃の知り合いってだけだ。それ以上でもそれ以下でもねえ。何の利益がある?確かに敵対するよか得策だろうが、それなら別にやりようがあるだろ」

 

「損得じゃないよ」

 

「あ?」

 

「損得とかじゃなくて、ただ、わたし達がそうしたいだけ」

 

「これは局員としてやなくて、わたし達個人としての気持ちや」

 

立場の違いをはっきりさせ、線引きして遠ざけるつもりが、逆にずけずけと踏み込んで距離を詰めようとしてきた。

悪人や犯罪者の類いと判断して、明確に敵対関係になると予想していたが、ほぼ真逆の結果になり、内心戸惑いを覚える。

それでも突き放そうと思い、威嚇する。

 

「……これ以上は不毛だな。お前等、俺を止めるだとか言ってたよな。だったら、実際に力ずくででも止めてみせるか?」

 

呼応するように、轟!! と垣根帝督の背中から6枚の翼が生える。

ギチギチと無機質な音を立てて広がる、長さ数メートルもの正体不明の白い翼。

明確な敵対の意思を見せるが、しかし彼女達は臨戦態勢に移らない。

 

「……テメェ等、どういうつもりだ?」

 

垣根は思わず、怪訝な声を発した。

3人は微笑んだまま、佇んでいる。

守護騎士達も同様だった。

 

「殺意を感じない。ただの挑発なのが見え見えだ。垣根、お前は確かに悪党だが、だからこそか……悪目立ちや得の無い事をむやみやたらに実行するほど愚かではない」

 

「今ここで不用意に管理局(あたしら)と敵対して、局員を攻撃してもお前は無駄に敵を増やすだけだ。それぐらい分かってんだろ?」

 

シグナムとヴィータが口を挟んだ。

シャマルも、ニコニコしながら告げる。

 

「頭の良い超能力者(レベル5)の垣根くんなら、自分から面倒事を増やそうとはしないわよね?本気で私達の事がどうでも良くても」

 

「……だとしても普通、能力を発動した俺を目の前にして、丸腰のままっておかしいだろ」

 

「『その気』が無いって分かってれば、大丈夫だもん。フェイトちゃんもはやてちゃんもわたしも、そこまで鈍くないよ」

 

「……、ちっ」

 

緊迫していた空気が、完全に白けてしまい、うぜぇ、と顔に書いてあるような表情の垣根になのはが、握手を求めるように左手を差し出した。

 

「わたし、ただの昔の知り合いってだけで、終わりにしたくない。もう一度、ちゃんと仲良くなりたい。だから、わたし達と、友だ_」

 

と言いかけた所で、バシュッ!! と赤い光線がなのは達と垣根の間を隔てるように通過した。

 

「なのは達から、離れろぉぉぉぉぉ!!」

 

大型の実体剣形のデバイスを振りかぶり、垣根帝督へ銀髪碧眼の、端整な容貌の少年が斬りかかった。

しかし、垣根は6枚の翼で空気を叩いて跳躍するように、軽々とかわした。

なのは達の前と、ひび割れた車道の中央分離帯に着地した垣根の正面に立ちはだかる形で降り立った少年……武装隊服をアレンジした朱色のバリアジャケットを纏った魅神聖は、なのは達へ振り向いて叫ぶ。

 

「大丈夫か!?怪我は無いか、皆!!」

 

「えっ……」

 

「あ、魅神…」

 

「ちょちょっと待っ」

 

咄嗟になのはとフェイトとはやては、彼を制止しようと思うが、魅神聖には垣根帝督が敵にしか見えていない。

 

「DAに少し手こずって遅くなったが、もう大丈夫だ。安心しろよ。待ってろ。オレがこんな悪党、今すぐぶっ倒してやるからな!!」

 

魅神聖から見れば、ワイルドハントの正規メンバーのリストにも無く、DAの格好もしていないが、正体不明の不気味な白い翼を背中から生やした男がマトモな相手のはずがない。

そして、対する垣根帝督も6枚の翼を構えたまま、不敵な笑みを浮かべている。

対話の空気が完全にぶち壊しになった事を、むしろ好都合に思ったようで、

 

「見ねえ顔だな。お前誰?アースラの新入りとかか?……まあ何でも良いか。こうして分かりやすく敵対してくれる方が、俺としてもやりやすい」

 

見た目通りの、悪どさを帯びた好戦的に笑う垣根。

それを見て、魅神も勝ち気な笑みを浮かべた。

 

「へっ、テメェがどこの誰だかは知らねーが、このオレ、時空管理局が誇るスーパーエースが来たからには、好きにはさせねえ!!」

 

啖呵を切った彼の後ろでは、若干白けた目でヴィータとシグナムが静かに言う。

 

「自分で言うな。自分で」

 

「"問題児エース"の間違いだろう」

 

もちろん、その言葉は彼の耳には届かず、バスターソード形のデバイスを構えて、垣根を叩っ斬ろうと肉薄する。

 

「ぶっ倒して逮捕してやるよ、悪党がー!!」

 

「ハッ、上等_」

 

垣根帝督は背中の白い翼に力を込め、弓のようにしならせて放とうとする。

 

「ダメ!!待って!!魅神君、止まって!!」

 

「あかん!帝督くんも、今応戦して魅神君に攻撃を当ててもうたら、ホンマに管理局の手配対象になってまう!!」

 

なのはとはやてが、大声で制止を呼び掛けるが、それで止まってくれる2人ではなかった。

ドバン!! と魅神と垣根の双方の正面から小爆発が起きる。

しかしそれは、『未元物質(ダークマター)』と魅神の近接魔法との衝突によるものではなかった。

 

「止まって魅神!!彼はわたし達に何もしてない!!」

 

「ストップだ!これ以上の戦闘は、推奨できない」

 

ソニックフォームに切り替えて、瞬時に彼等の間に割り込み、両腕を広げて通せん坊する格好で立ち塞がった、執務官フェイト・T・ハラオウン。

そして、見覚えのある蒼白い魔方陣が出現し、黒ずくめのバリアジャケットを纏った、黒髪の青年が現れた。

アースラの艦長で時空管理局提督、今事件対策現場指揮官を担う、クロノ・ハラオウン。

若干よろけながら動きを止めた魅神は、眉を寄せて困ったような口調で言う。

 

「お、おい、フェイト、クロノ!そりゃないぜ。どうして止めるんだよ?」

 

「言ったでしょ。彼は、わたし達に危害も何物加えてない。わたし達の古い友達で帝と「馴れ馴れしい。あと友達じゃねえから」_あう……。と、とにかく、垣根はわたし達の知り合いで、敵じゃないから、早とちりで攻撃しないで」

 

若干、話の腰を折られたが、とりあえず魅神聖の制止を続けた。

 

「知り合いって、こいつがぁ?こんな人相の悪いチンピラみてえな悪人面がか?信じられねえよ!フェイトお前、変な幻術でも_」

 

「そんな訳ないでしょ!……なら、執務官として進言します。魅神三尉、直ちにデバイスを下ろして下がってください」

 

「……ちぇ、分かったよ。フェイトがそこまで言うなら……」

 

と、渋々だがようやく、彼は振り上げたデバイスを下ろし、すごすごと後退する。

一方、垣根帝督の方は、展開された蒼白い魔方陣に寸止めするような形で、伸長していた6枚の翼の先端をピタリと止めている。

 

「……へえ。誰かと思ったら、お前、執務官か?久し振りだな、随分と雰囲気が変わったか?」

 

ニヤリと笑う垣根に、クロノも小さく笑った。

 

「今は母の後継で、艦長をやっているんだ。それにお互い様だ。君こそ随分と背が伸びたな」

 

「お前もな」

 

互いの腹の内を探り合うように、見据えるように視線をぶつけ合う。

やがて互いに戦意が低い事を悟り、垣根は翼を消滅させ、クロノも魔方陣を解除して着地した。

 

「5年振りか、まさかこんな形で再会するとはな」

 

「その言葉もそっくりお返しするよ。もう会う事はねえって思ってたからな」

 

「僕も正直、その可能性は高いとは思っていたよ。まあ、当たって欲しくない予想も当たってしまったが…」

 

「そう言う割に、薄々勘づいてたんじゃねえの?」

 

「いいや、それは母さんの方だよ。君の目と、妙に達観した態度で、何となくだがな」

 

「へえ、そりゃスゲェ」

 

久し振りに叩き合う軽口に内心、懐かしさを感じつつも、切り替えてクロノは告げる。

 

「……それじゃ、件の事の、学園都市サイドの関係者として事情聴取と任意同行を願いたい」

 

「管理外世界の人間には、お前達の法の適応外だろ?」

 

「ああ。だからあくまで、今できるのは『お願い』だ。君がさっきそのまま魅神……君に斬りかかった局員の事だが、彼と交戦していたら、全くの適応外にはできなかっただろう」

 

「そうかい。なら、適応外の人間らしく、そろそろここからズラからせてもらうぜ」

 

薄く笑ったまま、垣根は興味の薄そうに相槌を打った。

結果的には、止めてもらった方が都合が良かったかもしれないと思いつつ、彼は立ち去ろうと歩き始めた。

 

「……あ!ま、待って!」

 

思わず、なのはが叫んで再び呼び止めようとするが、垣根は今度こそ、立ち止まろうともしない。

 

「高町、悪いがもうお前達に話す事はねえし、クロノ、お前の『お願い』にも答える気はねえ。そんなに気になるなら、自分の部下達にでも訊きな。そもそも俺は、魔法サイドの事件自体にゃ興味無いんでな」

 

「……、分かった」

 

「クロノ!あいつあのまま逃がして良いのかよ!!あいつどー見ても堅気じゃねえぞ!!」

 

と魅神聖が焦って怒鳴るが、クロノはゆっくり、首を横に振った。

 

「いや、現状では僕達に、彼を拘束や連行する権利は、生じているとは言えない。ただでさえ管理外世界な上、管理局側と知己の人間とはいえ、今は民間協力者じゃない。対ワイルドハントにしても、先に戦闘を仕掛けた訳でもなければ、相手の凶悪さを鑑みれば、容易に自衛戦闘と正当防衛が簡単に成立しうる。だから、これ以上、彼を引き留める権利も無い。僕としても、多少口惜しいけど」

 

「クソ……ッ!!」

 

そうこうしている間に、垣根帝督は悠々と結界の外に出ていった。

現場に残った局員達は、総出で通常魔法と特殊魔法、実弾兵器や超能力(レベル5)によってメチャクチャのボロボロになっていた市街地の修復作業等の、後片付けを行う事となった。

数時間ほど要したが、それらは本局からの支援もあり滞りなく、無事に終了した。

 

 

 

現場指揮官として、クロノ・ハラオウンが告げる。

 

「_以上をもって、この場での作業は全て終了し撤収する。全員、魔力も体力も消耗し切っている為、一度アースラに帰還し各自休養するように」

 

『了解』

 

 

 

 

そして、次元航行艦アースラに帰還後、軽いミーティングも兼ねた形で、艦内の食堂でクロノとフェイトが向かい合って席についている。

他のメンバーは文字通りの休息と、戦闘記録や報告書の提出等の雑務(特に魅神聖が)に、従事していた。

ちなみに、アリサ・バニングスと月村すずかから連絡を受けて、垣根帝督がこの件にも、積極的に関わっていた事が発覚した。

余談だが、垣根がすずかの首を絞めた事も伝わり、なのはとはやてが憤慨したとの事。

 

「それにしても、偵察部隊以外は全員帰還して、大丈夫なの?」

 

「ああ。全員……特にフェイトもなのはも、守護騎士達も魔力切れ寸前に消耗し切っていたからな。回復して体勢を立て直しておきたかったし、無茶はさせられない」

 

それに、とクロノは少し苦笑いを浮かべ、続ける。

 

「想定外のイレギュラー的存在のお陰で、一番の脅威だったワイルドハントの正規要員が文字通り全滅させられたから、そういう意味でも脅威度はかなり下がったと言える」

 

「ああ……なるほど、ね……」

 

納得し、フェイトも苦笑いを浮かべた。

2人の脳裏に浮かんでいるのは、もちろん例の学園都市第二位の怪物。

そこでフェイトが、少し不安そうな表情になって、クロノに尋ねるように言う。

 

「それで……垣根の事、だけど……」

 

クロノは鷹揚に頷く。

 

「ああ。現状、彼とは敵対はしていないが、無条件に無制限にこちらの味方をしてくれる訳じゃない。まして、今は僕達の知り合いとしてではなく、裏の人間として活動している以上は最悪の場合、僕達と敵対する可能性もゼロとは言い切れない。……その辺り、彼の気紛れ次第な所がな……」

 

「うん……」

 

「だが、立場が違っても、ほぼ共通の存在を追い掛けているんだ。いずれまた会えるさ」

 

「うん、……そうだね。そうだよね」

 

クロノはフェイトの気持ちを汲み、思いやるように小さく微笑む。

 

「フェイトも、なのはもはやて達も、これで終わりにはしたくないんだろう?」

 

「うん、わたし達もまだ納得はしてないから。なのはとはやては特にね」

 

距離を詰めてくる事を嫌い、心を閉ざした垣根帝督に、自分達の想いが届くかは分からない。

それでもやはり、なのはもフェイトもはやても、まだ諦めるという選択肢だけは選べなかった。

何故、そこまで固執するのか。

何故、そこまで拘るのか。

何故、そこまで彼と関わろうとするのか。

今まで、そこまではっきりとは考えていなかったかもしれない。

3人はそれぞれの場所で、奇しくもそれぞれ同じ事を少しだけ考えた。

 

出会ってきた人々の中に、映画や漫画に出てくるような簡単な悪人なんていなかったからか。

切り捨てしまうには後ろ髪を引かれるからか。

色々な事を思い浮かべた、その上で。

高町なのはは、フェイト・T・ハラオウンは、八神はやては、全てを振り切ってこう結論付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見捨てる理由が一つも無かったから。

 

と。




なのは達と垣根帝督とのやり取りは、もっとあっさりして終わらせた方が良かったかなとも思いましたが、原作のリリカルなのはでも、対立者の内情が大なり小なり判明していく展開があるので、満更変な事もないかなと思い、こういう形にしてみました。

なので今回も、内容的には好き嫌いが分かれると思います。
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