魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter   作:戸礼太

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取引

事実上はまだ未解決状態ではあるものの、実働組織のDAとワイルドハントの壊滅、直接的支援者兼指示者の逮捕等により、今回の事件は一定の終息を見たと言えた。

地球での特設捜査チームは解散、土日がかりで月曜日の早朝に朝帰りとなってしまったが、ようやく各自帰宅となった。

そして現場指揮官のクロノ・ハラオウンと義妹フェイト・T・ハラオウンが、自宅マンションの玄関前に転送されたのだが、

 

「もう話す事は無いって言ったよな?」

 

あからさまに面倒臭そうな表情で、両手をズボンのポケットに突っ込んでかったるそうに露骨に不機嫌そうな声を発した、学ランを纏った茶色い髪の少年。

学園都市へ戻ろうと思っていた垣根帝督。

クロノとフェイト、エイミィによって半ば強引に連れて来られたのだ。

 

「まあそう言うな」

 

「急用がある訳でもないんでしょ?リンディ母さんも会いたがってたから、顔だけでも見せてって」

 

ゆったりと微笑んで言った二人に、垣根は鬱陶しそうにチッ、と小さく舌打ちの音を立てた。

 

「……、分からねえな。何でまた俺に……?」

 

彼の怪訝そうな顔を見て、フェイトはクスッと小さく笑う。

 

「月曜日だけど、今はゴールデンウィークの最中で学校はわたし達もお休みだし、お茶ぐらい出すからゆっくりしていってね」

 

「先客もいるしな」

 

「先客?」

 

垣根の疑問には答えず、ガチャリとドアを開け、クロノを先頭に入っていく。

 

「「ただいま」」

 

腑に落ちない気持ちを抱えつつ、今更是が非でも拒否する理由も無いので、二人の後に付いて行き、上がり込む事にした。

 

「……お邪魔、しますよっ……と」

 

広いリビングに入ると、五年前と見た目がほぼ変わらないリンディ・ハラオウンが、柔和な笑みを浮かべて立っている。

 

「いらっしゃい。五年振りね、随分大きくなったわね」

 

そして件の『先客』も、リビングのソファーに座って寛ぎながら待っていた。

高町なのはを始め、八神はやてとその家族の守護騎士ヴォルケンリッター全員とリインフォースⅡ、ユーノ・スクライア、エイミィ・リミエッタ、そしてアリサ・バニングスと月村すずかまでいた。

どうやら全員、大まかな事情は頭に入れているらしい。

垣根はそれを見て、露骨に表情を歪める。

 

「……、」

 

「そう露骨に嫌そうな顔をしないで。クロノとなのはさん達からはもう話を聞いているわ。まあ、立ったままも何だし、適当にかけてね?」

 

「……、はあ」

 

短く溜め息を吐き、渋々従う事にした。

リンディとフェイトがキッチンの方へ向かい、クロノは端で佇んでいるユーノとザフィーラの方へ歩いていき、何か話し始める。

 

「帝督くん、こっちこっち」

 

八神はやてが手招きして、空いている自分の右隣へ座るように促す。

 

「……馴れ馴れしいっての」

 

しかも空いている所の反対隣には高町なのはが座っている。

何だか包囲されに自ら行くようで、何とも居心地が悪そうだった。

そんな彼の表情と心情を察してか、なのはとはやては小さく微笑んでいた。

再び、チッと小さく舌打ちの音を立てた垣根帝督は、意外と素直に応じて腰を下ろす。

 

「で、何でお前等までいる訳?」

 

彼はジロリとはやての顔を見た。

 

「中々、腰を落ち着けへんかったからなぁ。積もる話もあるし、そのままやと帝督くんすぐに学園都市に帰ってまうと思ったんや」

 

「この一件の為だけに出てきたんだから、それは当たり前なんだがな」

 

「それに、紹介したくてもしそびれてもうた子もおるし」

 

はやては言って、自身の左肩に腰掛けていた身長約三十センチほどの小さな少女に目配せをする。

小さな少女は、フワリと浮遊して垣根の目の前で静止した。

 

「こいつは……」

 

「初めまして……って、話してないのに何回か会ってるので、そう言うのもちょっと変な感じですね?」

 

小さな少女は屈託の無い笑顔で、そう告げた。

その幼い容姿にはやはり、今はこの世にいない『彼女』の面影が確かにあった。

 

「私は人格型ユニゾンデバイスのリインフォース(ツヴァイ)って言います~。垣根帝督さん、マイスターはやてから聞いてます。どうぞよろしくお願いしますぅ~」

 

容姿に先代のリインフォースの面影を感じ、その名を継承したリインフォース(ツヴァイ)と名乗った小さな少女は、少し間延びした声色で言ってにっこり笑いながらペコリとお辞儀をした。

 

((ツヴァイ)、か……)

 

垣根帝督は、数秒間黙って彼女を見て、ようやく口を開いて答えた。

 

「……、ああ。俺の名前は知っての通り垣根帝督だ。垣根で良い」

 

「はい♪私は気軽にリインって呼んでください。皆にもそう呼ばれてますので~」

 

「そうかい」

 

「マイスターはやて……あ、普段ははやてちゃんって呼んでますけど、色々お話は聞いてます~」

 

「は?……八神お前、余計な事を吹き込んでないよな?」

 

垣根はジロリと、再びはやてを見る。

はやてはニコニコと笑って、楽しそうに言う。

 

「失礼やなあ、そんな事せえへんよ。五年前にわたし達を助けに、なのはちゃんとフェイトちゃん達と一緒に力を貸してくれた英雄(ヒーロー)なんやで、って♪」

 

「早速嘘吐いてんじゃねえよ。何言ってんだお前。俺みたいな悪党を高町達と並べて英雄(ヒーロー)呼ばわりなんざ、頭沸いてんのか?」

 

垣根は英雄(ヒーロー)というセリフに反応し、ウンザリしたように顔をしかめ、即座に全面否定する。

しかしはやては訂正する気は無いらしく、柔和な笑みを浮かべたまま、彼に告げる。

 

わたし達にとっては(、、、、、、、、、)事実やもん。『あの子』も帝督くんを、そう呼んだやろ?」

 

「……今わの際で、あいつなりに気を使っただけだろ。真に受けてんじゃねえよ」

 

その件について、今でも思う所があるのか、僅かに複雑そうな表情に変わっていた。

そこへリインが口を挟む。

 

「あと、能力の事もはやてちゃんとヴィータちゃんから聞いてますぅ~。天使みたいな羽も、カッコ良くて綺麗でした~♪」

 

リインは、見た目通りの子供らしく目をキラキラと輝かせて、垣根にズイと顔を近付けて言ってくる。

どうも興味津々らしい。

彼女の意外な態度に若干鼻白み、彼は小さく、お、おう、と少し引き気味に答えた。

 

「似合わねえ翼を生やす、ガラの悪いメルヘン野郎だっつったら、リインは逆に興味湧いちゃったらしくてさ」

 

と、ヴィータがニヤニヤとふざけた調子で言った。

すると直後に、なのはとフェイト、クロノとユーノ、エイミィとアリサが同時にプッ!! と吹き出して口許を押さえた。

すずかもクスッとしている。

 

「……おいテメェ等、今、笑ったか?」

 

と、垣根は眉間にシワを寄せてメンチを切るが、全員に目を逸らされた。

はやてが話を続ける。

 

「リインはな、リインフォースが残したオリジナルの夜天の書の欠片と、わたしから分けたリンカーコアで三年くらい前に生まれたんや。でもその時は何でか、帝督くんと連絡取れんようになってもうて今まで紹介できなかったんよ?」

 

「あ!そーだよ!何で突然、音信不通になったの!?わたしもフェイトちゃんも凄く気にしてたんだよ?」

 

なのはが語気を強めて口を挟んだ。

彼女は垣根帝督のこの手の事になると、昔からやたらとうるさかった。

しかし指摘された垣根は、どうでも良さそうに答える。

 

「ああ、その頃、お前達と連絡先交換した私用の携帯、水没してさ。それ以来、買い直したりしてねえんだ」

 

「え、じゃあ今使ってるのは?……って、何でそのままにしたの!?」

 

やはり食い下がるなのは。

 

「公私両用にしたやつだよ。その時から、前からあんまり使わなかったし、お前達ともそれほどやり取りもしねえし、無くても困らなかったしな。それに、『潮時』だとも思ったしな」

 

「潮時って……」

 

彼の言葉の意味を悟るも、一抹の寂しさを感じたフェイトは視線を向ける。

垣根は彼女の視線に気付くも、態度も表情も変わらなかった。

 

「アンタ、ホント社交性無いのね」

 

「無くても困らねえしな」

 

アリサ・バニングスがジト目で言うが、やはり彼は動じない。

 

「お待たせ。さ、どうぞ」

 

そこへ、リンディ・ハラオウンがお盆を持って歩み寄り、ティーカップに注いだ温かい紅茶を配り始めた、のだが……、

 

「はい、帝督くんの分」

 

リンディ(アンタ)もさりげなく名前呼びすんなよ。垣根で良いっての……?」

 

彼にだけ差し出されたのは、ティーカップではなく、寿司屋に置いてあるような湯呑み。

そして湯呑みに注がれた、紅茶ではない、どこか見覚えのある薄いグリーンの飲み物。

ご丁寧に、テーブルの端にはシュガーポッドとミルクピッチャーが置いてある。

 

「おい……、これって……」

 

「さ、どうぞ♪」

 

ニコニコと柔和な笑みを浮かべて、リンディは自身が普段、愛飲しているお手製抹茶ラテを薦める。

 

(……こんなやり取り、前にもしたような。つーか……)

 

既視感を覚えつつも、垣根はリンディにジロリと視線を向けて言う。

 

「……いや、アンタ、俺がコレを気に入ってるとか勘違いしてないか?」

 

「……違うの?」

 

キョトンとするリンディに、垣根は小さく溜め息を吐き、くだらなさそうに告げる。

 

「別に嫌って訳でもねえが、好きって訳でもねえよ。あの時も、出されたから飲んだだけだ。別に不味くはなかったしな」

 

「あら、そうだったの?これ、普段は私しか飲まないから、同志ができた気がして嬉しかったんだけどねぇ……」

 

(なった覚えもねえよ)

 

リンディは少し残念そうな顔で、湯呑みを下げようとするが、垣根はそれを止めた。

 

「別に下げなくて良い。飲めない訳じゃねえし」

 

「あら、良いのよ?気を使わなくても。無理に飲ませたくもないし」

 

「気なんか使ってない。飲めるし嫌いじゃないから良いっつってんだ」

 

「そうなの?ありがとう」

 

彼女は再び柔和に微笑むと、お盆を片付けに立ち去る。

湯呑みを手に取り口を付けていると、横からなのはがクスッと微笑んで、茶化すように言う。

 

「ふふっ、変な所で優しいね?」

 

「ああ?そんなんじゃねえよ。出されたもん突っ返しても、寝覚め悪いと思っただけだ」

 

彼は相変わらずくだらなさそうに答えた。

それからしばらく、雑談を交えながらリンディとアリサとすずかを交える形で、件の事について意見交換等が行われた。

 

「……やっぱり、すずかちゃんの首を絞めたの、垣根くんだったんだね?」

 

ジト目でなのはが言うが、やはり垣根は悪びれない。

 

「はいはい悪かったよ。でもな、不用意に近寄ってきた月村にも、落ち度が無い訳じゃあねえだろ」

 

言いながら彼はすずかの方へ目をやった。

すずかも気付いて、あはは、と都合の悪そうに苦笑いする。

クロノが短く咳払いをして、尋ねる。

 

「……改めて、大体の流れや全貌は分かった。それで、君は今後はどうするつもりだ?」

 

「ああ。ま、とりあえずはだが、騒ぎは沈静化したし、今ここでやる事もねえし、学園都市に帰るだけだな」

 

「え、帰っちゃうの?」

 

なのはが口を挟む。

 

「当然だろ。この街に留まる理由も見当たらねえし、ターゲットの逃亡先も何も目星は着いてねえんだから。普通帰るだろ」

 

「え~、帰っちゃうですかー?私、まだ帝督さんとお話したいですぅ~」

 

リインが垣根の傍らに浮遊しながら近寄り、分かりやすく残念がる。

 

「八神に似て馴れ馴れしいヤツだな。垣根で良いっての」

 

「えー、お名前で呼ばれるの嫌ですかー?でも、はやてちゃんだけお名前で呼んでますよね?」

 

「そーだよ。わたしもそれ不公平だと思うな」

 

リインの当然な疑問に、なのはが便乗してきた。

垣根は面倒臭そうに表情を歪めて、吐き捨てるように言う。

 

「俺は一度もそれを許した覚えはねえよ。あと高町、便乗してくんな。うぜえ」

 

言って彼は立ち上がり、リンディ製抹茶ラテを飲み干して湯呑みを置くと、携帯電話を取り出して廊下に向かった。

 

「どこ行くの?」

 

「定時連絡ついでに、事後報告だ。帰る手筈をする」

 

「あ、ちょっと_、」

 

フェイトのセリフを無視して廊下に出ると、『スクール』の制御役に連絡を入れる。

すぐに繋がり、一連の出来事を魔法サイド抜きで、上手く粉飾して報告する。

 

「_ひとまずは片が付いた。他の正規要員を含めて引き上げの手配を進めてくれ」

 

『あー、その事なんだがな。悪いが、もうしばらくその街で待機していてくれないか?』

 

「はあ!?どういう事だよ……ッ?」

 

思わず耳を疑う。

 

『それが今しがた、統括理事会からのお達しでな。暗部関係者の離反に情報漏洩未遂のこの一件で、十分注意していても現状では今後も同じ事が起こり得ないとも言えないって訳で、当分は様子見も兼ねて「外」に出張している「スクール」に有事対応の為に待機させろ、って指示だ。もちろんその間の時間割り(カリキュラム)の代わりに現地の学校に通学するなりしてもらう事になる』

 

 

「おい……、それって、まさか……」

 

嫌な予感がする。

顔を青ざめる垣根帝督に、制御役はあっさりと、告げる。

 

『そのまさかだな。一時転入先は「私立聖祥大附属中学校」だ。しかも現状では期間は未定』

 

「……ッ」

 

嫌な予感が的中する。

それを察してか、

 

『心中お察しするが、決定事項らしいから仕方ないだろう?代わりといっては何だが、滞在先は海鳴市内の高級マンションを押さえてあるから』

 

「チッ、暗部組織のエージェントは、構成員の居住環境まで面倒を見るのか?ご苦労なこったな」

 

『まあそう言うなよ』

 

「つーか、他の暗部はどうしてるんだよ?」

 

『もちろん、警戒は強化している。だが、今回の事も全くの想定外だったからな。次回もまた想定外の出来事が起きないとも限らない。だから「外」での実績のある暗部がいつでも遊撃できる状態にしておくと、色々と都合が良いんだ』

 

「ああ?」

 

『そういきり立つなよ。逆に言えば、何も事が起きずに基本的に時間割り(カリキュラム)に影響が無ければ、自由に過ごして良いんだ。それに再び今回のような連中が出てきても、叩き潰せればそれで良いから、やり方等は完全に現地に任せて良いらしい。ま、いらぬ問題にならない限り勝手にやれって事だな』

 

「クソッ、いざとなれば放任かよ」

 

苛立ち、彼は携帯電話を握り締める。

対照的に制御役は飄々とした様子で、

 

『ま、授業とかは昔みたいにリモートでも良いんだから、気楽にすれば良い。必要な機材の用意や手続きはこっちで済ませるから、後は頼んだ』

 

(ふざけやがって……。俺はこんな所でのんびりしてる気なんざねえってのに……ッ!)

 

通話が切れ、腹を立て、怒りに表情を歪めた垣根は右手に握り締めた二つ折りの携帯電話を耳から離すと、鋭く舌打ちの音を立てた。

 

「チッ!面倒臭せえ事になったな。……ん?」

 

ふと、視線を感じ、横へ目を走らせる。

リビングのドアから半分だけ顔を出して、廊下の壁際に佇む垣根帝督を覗き込んでいる、高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやての三人娘。

 

「……、」

 

揃いも揃って半笑いで、ニマニマとした悪戯っぽい笑顔なのがムカついた。

 

「何見てんだテメェ等」

 

ギロリとメンチを切る彼に、なのは達が順に告げる。

 

「会話の内容までは聞いてないけど、大体は察したよ?」

 

「これから宜しくね。帝と_「垣根な」…あう……」

 

「ていとくん♪これから宜しゅうね♪」

 

「誰がだコラ。殴られたいのかお前は」

 

垣根がこめかみに青筋を浮かべて彼女達を睨み付けていると、不意に彼の目の前にリインフォースⅡがフワリと現れた。

 

「帝督さん、まだ海鳴市にいられるですか~?」

 

「垣根な。……まあ、不本意だが、そういう事になった」

 

退屈そうな口調で答えると、リインは心底嬉しそうに、満面の笑みで大喜びしだした。

 

「わぁーい!!嬉しいですー!!」

 

何がそんなに嬉しいのか、彼が頭に疑問符を浮かべていると、

 

「またあの綺麗な羽を見せてくださいです~♪」

 

「は?……はん、そういう訳か」

 

若干呆れ気味に納得した。

それに応じる気は無いが。

垣根は携帯電話をポケットに仕舞うと、リビングには戻らず玄関の方を向いて、言う。

 

「それじゃあ、そろそろお暇するわ。じゃあな」

 

「あら、もう行くの?もっとゆっくりして良いのよ?」

 

リンディがリビングから顔を出して言うが、彼は意に介さない、

 

「いや、もう十分。それに……」

 

そして垣根帝督は、彼女達にわざとらしく冷めた視線を向けて、敢えて、こう告げる。

 

「これ以上、お前達と馴れ合う気もねえしな」

 

「ちょっと!それどういう事?」

 

当然のようになのはが真っ先に反応して彼に駆け寄り、左手を伸ばして右手首を掴んで、引き留めた。

 

「そのままの意味だよ」

 

垣根は鬱陶しそうになのはの手を振りほどくと、ギロリとした射すような鋭い目付きで、突き放すように言い続ける。

 

「用事はもう済んでるし、この街に当分居る事になったとはいえ、俺とお前達がわざわざこれ以上、積極的に関わる必要は無いはずだ。そもそも、俺とお前達は立場も住む世界も違うっつってんだろ」

 

そうしていると、はやてとフェイトが歩み寄ってきた。

 

「でも、同じ存在を追跡捜査しているんだし、これからもある程度は協力した方がお互いに都合が良いんじゃないかな?」

 

「せやで?それにさっき、宜しゅうねって言うたやん」

 

しかしやはり、応じるつもりは全く無いらしい。

 

「知るかよ。それに目的が違うんだから、どのみち協力関係にゃなれねえよ」

 

「ほな『お仕事』に関しては、とりあえずお互い知らんぷりでええよ?そこで揉めてもお互いに損やし、わたし達も帝督くんと戦いたくはないしなぁ。だから(、、、)普通にわたし達と友達になろ?」

 

「だからって仲良しこよしする必要も意味ねえし、訳分からねえよ」

 

呆れながらも苛立ちを感じて、垣根ははやてを睨む。

しかし、はやてを含めてなのはもフェイトもリンディも、その威嚇は全く効いていない。

敵意の中に殺意までは無い事を見透かしているのか、垣根帝督の悪人面を見慣れてきたのか。

リインだけは、話の内容をよく分かっていないらしく、キョトンとしている。

 

「『垣根は暗部としてはなのは達を関知しない、表向き現地民間協力者として魔法サイドに有益な情報なら協力する』、『なのは達も局員としては垣根を関知しない、表向き現地の友達として接して、科学サイド向けの情報があれば学園都市のただの能力者の垣根帝督(、、、、、、、、、、、、、、、、)に教える』、という形なら無難じゃないかな」

 

ユーノ・スクライアがリビングから出てきて、折衷案を提案する。

垣根はジロリと彼を見る。

 

「この俺と、取引しようってのか?」

 

更にクロノが口を挟む。

 

「普通ならアウトか、限りなく黒に近いグレーな司法取引だが、幸いここは管理外世界だ。局員側やその家族、友人、民間協力者等に被害が発生しなければ、管理局の法は適応外だ」

 

「……、」

 

「……それに、応じてくれるなら、私は垣根くんに首絞められた事を、このまま水に流して良いよ?」

 

いつの間にか傍らに月村すずかとアリサ・バニングスが佇み、彼の顔を覗き込んでいるように見つめて、柔和に笑っていた。

確かに、よくよく考えてみれば、管理局の民間協力者である月村すずかに、垣根帝督は確かに暴力という実害を被らせていた。

彼女の出方次第では、時空管理局が正式に介入する事は、満更難しい話ではなさそうだった。

 

「俺を脅迫する気か?」

 

「脅迫だなんて人聞き悪いわね」

 

フフン、とアリサが悪戯っぽい笑顔で告げる。

 

「だから言ってるでしょ、取引だって。別にアンタにデメリットも無いんだし」

 

「お前等みてえな鬱陶しいしつこい女達と、お友達ゴッコに付き合わされて絡まれる時点で、デメリットだらけだよ」

 

酷い言い様だった。

 

「「酷い!!」」

 

垣根帝督が何の気なしに放った、あんまりな暴言になのはとフェイトが同時にツッコミ。

宥めるように、小さく苦笑いしながらクロノとユーノが言う。

 

「そう言うな。実際、シビアな君の損得勘定で見ても、不満点以上に利益はあると思うだろ?」

 

「無理矢理に仲良くしろとまでは言わないけど、逆に無理矢理に手を切ってまで対立関係を堅持するよりは良いよ。立場を気にするのも分かるけど、垣根が先に持ちかけたように、基本的には相互不干渉って話なんだしさ」

 

「……、」

 

彼は答えない。

だが、僅かだが揺れているようにも見えた八神はやては、それを見逃さなかった。

 

「どっちの選択肢が比較的得で、どっちの選択肢が比較的損か、学園都市第二位の超能力者(レベル5)の頭脳なら、すぐ分かるやろ?」

 

「呑んでくれたら、わたしも特別に、すずかちゃんの事も許してあげるよ?」

 

「そうだね。わたしも『特別に』許してあげる」

 

はやてとなのはとフェイトの三人の、若干得意気で、それでいて邪気の無い優しさすら内包した笑顔に、分かりやすく茶化されて腹が立つ。

 

「ホントにムカつくなテメェ等。大したムカつき振りだ。流石はスーパーエース様に執務官様に特別捜査官様だ。やっぱテメェ等は一発殴らないとダメみてえだ」

 

「ふーん、そんな事を本当にしたら、武装隊員として逮捕しちゃうからね?」

 

「暴力はダメだよ。わたし、友達を逮捕したくないからね?」

 

「恩人にド突かれるのも嫌やし、その恩人をしょっぴくのはもっと嫌やなあ」

 

メンチを切りながら拳を握っていると、これまたわざとらしい仕草でふざけてきた。

いや、実際に殴りでもしたら、そうする権利を相手に与えてしまう訳だが。

 

「チッ……、つーか、友達になったつもりも、なる気もねえっつってんだろ」

 

忌々しそうに、そう言った直後に思い出す。

取引の内容には『友達として接して』と言われたではないか、と。

アリサがニヤニヤと笑いながら、告げる。

 

「往生際が悪いわよ。それに、こうなるとなのはは死ぬほどしつこいんだから、諦めて折れた方が得よ?」

 

「そうそう」

 

「だな」

 

フェイトと後から出てきたヴィータが相槌を打つ。

 

「経験者は語るってか」

 

垣根は僅かに目を細め、フーッと、呆れ顔で深い溜め息を吐いた。

そして、

 

「はぁー分かった分かった。高町達(おまえら)に目を付けられたのが運のツキだと思って、仕方なくのってやるよ、その取引」

 

なのはからすると、いくらか失礼というか、納得のいかないセリフを言われたが、とにかく、彼が応じてくれるなら良しとした。

 

「……ただし、あくまで表向きの関係は文字通り上っ面だけの関係だ。俺は基本的にお前達の事は苗字で呼ぶし、お前達……特に八神の俺の呼び方も認めるつもりはさらさらねえからな。友達だからって名前で呼び合わなくっちゃならない道理もねえし、それを忘れるなよ」

 

「「えー」」

 

「んー……、ま、とりあえずはオッケーとしよか。それに、『これからもっと』仲良くなればええんやし♪」

 

不満の声を出したなのはとフェイトだが、はやての言葉に同調した。

垣根帝督は彼女達を通して情報源として当てにしているのに対し、彼女達は垣根帝督との友好関係を求めている。

なのは達の方が、本来の主旨と目的がズレているが、問題にはならないだろうと判断し、クロノもリンディもユーノも、リビングから聞き耳立てていたシグナムとシャマルとエイミィも、敢えてそこにはツッコまなかった。

何故か一番、大喜びしているリイン。

この少女は垣根帝督、というか、彼が能力で出現させる六枚の白い翼に興味津々のようだが。

 

「あ、帝督さん。ちょっと良いですかぁ~?」

 

「ん?ってか、垣根で良いってのに」

 

直後、浮遊している眼下のリインフォースⅡが、クルリと右回転する。

 

「ッ!?」

 

身長約三十センチ程度だった、彼女の小さな体躯が回転と同時に一変、背格好が八、九歳程度の少女の姿になったのだ。

 

「お前……、デカくなれるのか」

 

予想外の現象に、垣根は僅かに目を剥いた。

リインは見た目通りの、子供らしい嬉しそうな笑顔で答える。

 

「はい!普段はお出かけする時とかだけですけど、ちゃんとおっきくなれるですよ♪」

 

「その分、燃費も悪うなるから、今の所は人目に付きやすい時だけやけどねー」

 

と、はやてが補足した。

 

「へえ、そういう事もできるのか。スゲェな」

 

「えへ~。あ、では改めまして、帝督さん。これから宜しくお願いします~♪」

 

にっこりと笑いながら、リインは右手を差し出して、垣根に握手をねだる。

 

「……ああ、宜しく」

 

「はい!」

 

彼は一瞬だけ戸惑いを覚えつつも、ゆっくりとズボンのポケットに突っ込んでいた右手を出して、リインの小さな手を慣れない手つきで、遠慮がちに握る。

リインはそんな垣根帝督の右手を優しくもしっかりと握り返し、両手で包むようにして嬉しそうに、元気にブンブンと振った。

 

(つーか、こいつさっきから一向に俺を『垣根』とは呼ばねえな。八神に似て頑固なのか、人の話を聞いてなかったのか……)

 

五年前の冬に主達と垣根帝督の目前で笑顔で雪の降る冬の空へ消えていった、夜天の書の融合騎(ユニゾンデバイス)

その彼女の最後の願いを受け、最後の夜天の主・八神はやてによって生み出された、同じ名前の新しい風が確かに受け取り、幼いながらも面影を感じさせる容姿をした新たな祝福の風。

同じ名前ではあるが、明確に別人として八神家に迎えられている事を、垣根は悟った。

 

「……、もう良いか?」

 

「あ、はいです」

 

中々手を放そうしないリインに尋ねる形で、ようやく彼の右手は解放された。

ヴィータがニヤつきながら、垣根を肘で軽く突っつく。

 

「気に入られたみてーだな。良かったな?悪人面のチンピラ野郎でも、メルヘンな翼生やすお陰で♪」

 

「ばーか死ね」

 

垣根は軽い口調で吐き捨てるように毒吐くと、ハラオウン家を跡にした。

見送りついでにフェイトが声をかける。

 

「これからどこに?」

 

「指示された寝床の確認とか転入手続きの確認諸々だな。後はまあ、基本的にゃ待機って指示だが、自由気ままにするつもりだ」

 

「大丈夫なの?上の人達に変に目を付けられたりしない?」

 

なのはが続いて少し心配気味に訊くと、垣根は彼女達を一瞥して、野心と悪意を内包したような薄い笑みを浮かべながら告げる。

 

「もしそうなったらむしろ上等だな」

 

垣根帝督は両手をズボンのポケットに突っ込み、薄く小さく笑いながら歩き出して呟いた。

 

「学園都市の思惑なんざ知った事か。俺は俺で好き勝手させてもらう」

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