魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter   作:戸礼太

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大変遅くなりました。

ほぼコメディパートなので、所謂、"垣根帝督らしさ"は殆ど感じられないかもしれません。

悪しからず。


不本意

ボタンを留めずに崩した着こなしで黒い学ランを纏った、超能力者(レベル5)の垣根帝督は海鳴市内に位置する、とある高級マンションへ向かっていた。

学園都市に戻るはずが、こんな事になってしまった理由は前述の通りである。

それだけでも不本意で不機嫌になっていた彼だが、今は別の理由で不機嫌さが向上していた。

 

「……、」

 

両手をズボンのポケットに突っ込み、道をほっつき歩く垣根の右横と背後に、付いてくように歩いている少女が三人。

垣根の傍らを歩くのは、スニーカーに黒いショートパンツと白い襟付きポロシャツを纏った茶色いボブヘアーの少女、八神はやて。

すぐ後ろを歩くのは青いセミロングスカートにピンク色のパーカーを纏った、栗色のサイドポニーの少女、高町なのは。

彼女の隣を歩く黒いスカートに黒いシャツを纏った、長い金髪の少女、フェイト・T・ハラオウン。

何故か三人とも、嬉しそうにニコニコと笑っている。

それがまた垣根は気に食わなかった。

 

「……お前等、どこまで付いてくる訳?スゲェ鬱陶しいんだけど」

 

足を止め、うんざりした顔で振り向く。

それにフェイトが答える。

 

「局員として、住居の確認をして欲しいってクロノに頼まれたから」

 

「まだ、参考人みたいなものだから、一応ね」

 

と、なのはも言う。

 

「うぜー。公僕の癖にストーキングしてくんじゃねえよ」

 

「まあまあ、そう嫌な顔せんと、取って食う訳やないんやし。それに……」

 

はやてはそう言って、携帯電話を取り出す。

なのはとフェイトも、それに続くように携帯電話を取り出した。

 

「連絡先、まだ交換してへんから」

 

「ほら、垣根くんも携帯出して?」

 

「一応、友達になったんだから、もうおかしくないよね」

 

垣根は眉をひそめる。

本当はそっちが目的なんじゃないか?とさえ思えてきた。

 

「チッ」

 

彼は仕方なく、ポケットから携帯電話を取り出した。

ここでゴネても仕方ない。

観念したように素直に、彼女達三人とメールアドレスと電話番号を交換する。

 

「よし、今後は電話もメールもわざと無視したりしないでね?」

 

「着信拒否とかもダメだからね?」

 

「はいはい分かった分かった」

 

口説いほど念押ししてくるなのはとフェイトに、垣根は溜め息混じりに投げやりな調子で答えた。

 

「何なら……」

 

傍らのはやてが、脇を肘で軽く続いてニンマリと笑いながら言う。

垣根はそんな彼女の顔を見て、目を僅かに細めた。

 

「わたしが毎日ラブコールしたろか?」

 

「お前だけ着拒するわ」

 

「何でや!」

 

「鬱陶しいから」

 

そんなくだらないやり取りをしながらも、再び歩き出して目的地の高級マンションに辿り着いた。

 

「はあー、ホンマに新築の高級マンションやん」

 

はやてが見上げながら、ポツリと呟く。

垣根は彼女達の方へ振り向いて、くだらなさそうに言う。

 

「さ、場所も分かった事だし、部屋番含めて住所も確認した。もう良いだろ。帰れよ」

 

「あ、うん……」

 

フェイトがそう静かに答えた所で、なのはが彼の顔を覗き込むように見てきた。

 

「ねえ」

 

「ん?」

 

「垣根くんは、休み明けからわたし達と同じ学校に通う事になったんだよね?」

 

「ああ、そういう事になった」

 

確認するように尋ねたなのはに、垣根は相変わらず退屈そうに答える。

彼女は再び質問する。

 

「ちなみに、クラスはもう分かってるの?」

 

「確か……二年六組だったか」

 

聖祥中学校は全学年、各六クラスに分かれている。

何気ないつもりで彼がそう言うと、何故か三人の表情が、みるみる明るくなった。

が、対照的に垣根帝督の表情は、何かを察して歪み始める。

 

「本当?それわたし達と同じクラスだよ」

 

「凄い偶然!それじゃあ、これからはクラスメイトだね。宜しくね」

 

「あ、ああ……」

 

声を弾ませるなのはとフェイト。

垣根は生返事しながら、面倒臭そうに目を細める。

 

(同じ学校でクラスまで同じかよ。嫌な偶然だ。面倒臭いな。だが……)

 

顔をしかめる一方で、彼は内心、ほくそ笑んでいた。

そう、何も実際に登校して通学する必要は無いのだ。

制御役も言っていたように、リモートで授業出席すれば良い。

その為の機材も、調達されるはずなのだから。

事実、五年前もそうやって対応した訳だし。

 

「……とでも思っているんだろうけど」

 

「ッ!!」

 

なのはにそう言われ、垣根はハッとして、咄嗟に彼女達へ目を走らせた。

なのはもフェイトもはやても、揃いも揃ってゆったりと笑っている。

そして、彼の退路を塞ぐべく、確実にハッキリと告げる。

 

「前みたいにリモートはダメだからね?」

 

「ちゃんと登校して来てね。何なら朝、迎えに来ようか?」

 

「あ、それ名案や!ほな、もしまたガン無視してもうたら……」

 

悪戯っぽくニヤつくはやてに、垣根は思わず青ざめた。

ただでさえ面倒臭い状況に持っていかれている上、ここで下手な悪足掻きをしたら、更に面倒臭い真似をされかねなかった。

故に、これ以上の悪化を避ける為に、彼はやむなく先手を打つ事にする。

 

「あーもう分かった、分かったから。リモートはしないし普通に出てくるから、頼むから出迎えとかはしないでくれ」

 

かったるそうに頭を軽く掻いて、降参するように言った。

どうもこの手の事になると、茶化され気味に調子を狂わされ、相手側のペースに引き込まれてしまう。

 

「うん。約束だよ」

 

「ドタキャンしてバックレたら承知せえへんからね?」

 

念押ししてくるなのはとはやてに、チッと小さく舌打ちしていると、今度はフェイトが垣根の顔を覗き込むように見てきて、再び言う。

 

「……、やっぱり初日だけは迎えに来ようか?」

 

「頼むから勘弁してくれ」

 

彼は溜め息混じりに答えた。

暫く似たようなやり取りの後、ようやくなのは達は帰宅した。

はやてを先頭に上がり込もうとしてきたが、流石に止めた。

全力で。

 

(ったく、暗部経由で借り入れた部屋に、易々と他人を上げられるかよ)

 

荷ほどきも済んでいない、テーブルと椅子、パソコン類以外はダンボールだらけのリビングでふんぞり返りながら、垣根帝督はようやく一息つく事ができた。

暫く寛ぎ、立ち上がる。

聖祥中学校の位置の確認と、制服の確認だ。

小学校の時の制服は、似合わな過ぎる理由で拒否していたが、開封してみると薄い茶色のブレザータイプの上着に焦げ茶色のスラックスという組み合わせの制服で、今着ている学ランとは違うがとりあえず、死ぬほど似合わないデザインではなさそうで、一安心した。

色合いや基本デザインは男女同様で、大きな違いは胸元が細いリボンネクタイか通常のネクタイかだった。

 

「……これなら、まあ大丈夫かな。良かった……」

 

かくして垣根帝督は、学園都市の外での望まぬ形で、想定外のスクールライフを送る事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ゴールデンウィーク明けの私立聖祥大附属中学校、二年六組の教室。

特に風変わりな所は無い。

教室の前後に引き戸があって、教卓があり、生徒の机と椅子があるという、ごくごく普通のありきたりなもの。

よくある学園モノのドラマやアニメ等を想像していただければ、概ね間違いはない。

午前八時四十五分。

五分前まで、大半の生徒が自分の席を離れ、ワイワイと談笑したり騒いでいたが、朝のホームルームが始まろうという時間になり、皆それぞれの席に着き始めている。

アリサ・バニングスは縦横五列の内の前から二番目の窓際に位置する、自分の席で頬杖を突き、前をぼんやりと見ていた。

ついさっきまでクラスメイトで親友の高町なのは、月村すずか、フェイト・T・ハラオウン、八神はやての四人が彼女の机を囲むように集まって、雑談に興じていたが、時間になって足早に自分達の席へ戻っていった。

アリサを含め、彼女達五人は朝から若干そわそわしていた。

というのも、今日はいつもと違う出来事がある事を、なのは達を通して知っているからだ。

予鈴が鳴った直後に、廊下からペッタペッタと安物のサンダルによるアンニュイな足音が近付いてきた。

教室の引き戸がガラリと開けられ、担任教師が入ってくる。

 

「うーし、揃ってんなー?」

 

気の抜けた低い声で告げたその男。

身に付けている眼鏡も白衣もネクタイも、全てをだらしなく纏った、二十代の若いはずで生粋の日本人なのに白髪で天然パーマの男。

しかも咥え煙草。

普通に考えれば非常識極まりない、何ともアンチテーゼに満ちた雰囲気と風貌。

教室だろうがどこだろうが、平気で好き勝手に咥え煙草で、更には教育者とは到底思えない、死んだ魚のような瞳。

名前は坂田銀八。

どこぞの熱血教師に似た名前だが、それとは対極と言える反面教師そのものと言える男だが、何故か不思議な求心力のようなものも備えており、事実、生徒達からは一目置かれている。

坂田銀八は出席簿をポンッと教卓に放り投げ、いつものように気だるげな声色で言う。

 

「んじゃ、朝のホームルーム始めんぞー。日直、号令」

 

「あ、はい。起立、気を付け、礼_」

 

言われた今日の日直担当の、女子生徒の一人が即座に対応した。

号令が済むと、坂田銀八は咥え煙草の煙に目を細めながら告げる。

 

「えー、ではぁ、今朝のホームルームだが、今日は議題は無しだ。今日は急遽このクラスに転入が決まった転校生を紹介する」

 

「先生、男子ですか?女子ですか?」

 

「おう、野郎共、残念だったな。男子だ。しかも長身でかなりイケメンのな。喜べ女子共」

 

そのセリフを聞いて、男子の何人かがガッカリしたような声を上げ、逆に女子の何人かは色めき出した。

それらのリアクションを無視して、坂田は声を若干上げて廊下の方へ向かって言った。

 

「うーし、良いぞ。入ってこーい」

 

ガラリと緩やかに開けられた引き戸。

女子生徒用と同じ色合いの、ブレザータイプの男子制服に学校指定の上履きを纏った、同年代にしてはやや長身で痩身の、茶色い髪の端整な容貌の少年が入室する。

首元とネクタイを若干緩めているが、それ以外は至って普通に制服を着ている。

端整な顔立ちだが鋭い双眸の、ビジュアル的に高ポイントな容姿に再び女子の何人かが声を弾ませ、男子の何人かは露骨に残念がっていた。

転校生の少年は引き戸を閉めると、癖なのかすぐに両手をズボンのポケットに突っ込んで、ゆっくりとした足取りで教卓の横に立つ。

担任、坂田銀八は煙草の灰をこぼしながら黒板の方を向き、チョークを手にする。

ゴンゴンと音を立てながら、微妙に力の抜けた文字を書き始めた。

そして、アンニュイな文字で記されたのは、彼の名前。

 

垣根帝督

 

と書いて、坂田銀八は生徒達に向き直った。

 

「えーっと、東京の……どこからだったかな。まあ良いや。今日からこのクラスに入る転校生だ」

 

そう言って、名乗れ、と目配せをして、それに気付いた少年は、至極単純明快で短く、自己紹介をする。

 

「垣根帝督。宜しく」

 

「皆仲良くするよーに」

 

担任による適当でいい加減過ぎる説明に、本人からも本名(フルネーム)を名乗られただけの簡潔過ぎる自己紹介に、クラスの殆どがキョトンとしてしまった。

事情をあらかじめ知っていた四人の少女達、アリサは呆れ顔になり、なのはとフェイト、はやてとすずかは思わず苦笑いした。

坂田銀八はやはりそんなリアクションを無視して、話を進める。

 

「じゃ、紹介も済んだ事だし、空いてる席に……つっても、一番後ろの窓側から二番目だけだな。そこ行ってくれ」

 

「はい……」

 

と返事してその席へ歩き始めた直後、一瞬だがピタリと動きが止まり、垣根帝督の体が固まった。

周囲にはバレないように抑えているものの、ゲッ、という分かりやすく嫌そうな顔をしている。

というのも、件の空席の両隣と前にいるのが、垣根帝督も見知った顔だった。

できる事ならあまり合わせたくなかった顔。

窓際の隣は八神はやて。

ニコニコしながら小さく手招きまでしている。

反対隣には高町なのは、フェイト・T・ハラオウン。

この二人もニコニコして垣根帝督を見ている。

そして、前の席には月村すずか。

幸か不幸か、彼女だけは含みの無い微笑みを浮かべて、彼を見つめていた。

少しだけ離れているが、見える所にアリサ・バニングスの顔も見えた。

彼女はあからさまにニヤニヤしている。

このクラス内でも屈指の美少女達に囲まれるような位置で、正直、他の男子の何人かが羨ましそうな視線や、嫉妬混じりの視線を垣根に向けている。

が、今の垣根帝督にとっては一番避けたい席順だった。

まるで、虫取網に自ら飛び込みに行く所か、虫籠にダイレクトに自分から入りに行く昆虫にでもなった気分だ。

 

(偶然にしちゃでき過ぎてないか?あらかじめ仕組まれてたと言われた方がまだ納得できるぞ)

 

渋々席に着く垣根に、はやてとなのはが小声で声をかける。

 

「(……これから宜しゅうね。帝督くん♪)」

 

「(……仲良くしようね。帝督くん(、、、、)♪)」

 

平然と学校でも名前呼びするはやてに便乗してくるなのはに、垣根はイラッと眉を動かして一瞥した。

そして背負っていたカバンを下ろして筆記用具等を出しながら、ポツリと呟く。

 

「……呪われてんのかね。俺って」

 

ピキッと笑顔を凍らせ、直後に表情を固めたまま机を寄せてきたなのは。

そして、肘で垣根の脇腹を小突きながら小声で尋ねる。

 

「(……どういう意味かな?それ、どういうつもりで言ったのかな?説明して欲しいなあ~。呪いって、最先端科学の街の、学園都市出身の帝督くんらしく「(……馴れ馴れしい)」_もう、遮らないでよ……!)」

 

授業が始まる中、小声の押し問答がひっそりと繰り広げられた。

その様子を視界の端で眺めていたはやてとフェイトは、何だか微笑ましさすら感じ、クスリと小さく笑った。

この小競り合いは長続きはせず、途中で垣根帝督がガン無視を決め込んだ為、そこで流石になのはも折れ、変に悪目立ちしないように大人しくする事にしたのだった。

 

そして昼休み時間になり、弁当持参組が机を合わせたり、学食や購買等と思い思いに生徒が散っていったりする中、学食か購買で昼食を済ませようと思っていた垣根帝督は、例の五人に呼び止められていた。

 

「今回はちゃんと登校してきたのね」

 

「しかも、また同じクラスになるなんて、凄い偶然だね」

 

と言ってきたのはアリサとすずか。

垣根はくだらなさそうに口を開く。

 

「ああ、高町達(こいつら)のせいでな。俺は以前同様にリモートで済ましたかったが。……つーか、本当に偶然か?席まで無駄に近いし、何か全てがお膳立てされた気がしているんだけどな」

 

「流石に編入クラスとかをどうにかしたりはしないし、できないよ。わたし達も少し意外には思ったけどね」

 

と、事も無げに告げるフェイト。

 

「俺から事情を知ってるお前達はともかく、月村達まで一緒とはな。お前等揃いも揃ってニヤつきやがって」

 

「今朝、なのは達からこっそり聞いたのよ。だから楽しみだったの。色んな意味でね」

 

腹の立つ笑顔で言われ、垣根はアリサに薄く青筋を浮かべて睨むが、飄々と流されてしまった。

そんな彼女達と彼のやり取りを見ていた、周りのクラスメイトの何人かが不思議に思い、ヒソヒソと話し出す。

 

「(……おい、あの転校生、高町さん達と知り合いだったのか?)」

 

「(……いや分からないけど。確かに、妙に親しげだよね?絶対初対面じゃないよ)」

 

「(……えー、あのイケメン転校生、月村さん達の内の誰かと付き合ってんのかな?)」

 

「(……まさか……ただの友達って事もあるだろ。でも、可愛いのに他に浮いた話聞かないし、魅神とは全員が全面否定してたしなぁ……)」

 

話している内容までは分からなかったが、既に悪目立ちし始めていると察した垣根帝督は、なのは達とは距離を取ろうとする。

彼女達は、容姿端麗さと人柄の良さも手伝って、良くも悪くも目立ちやすい。

今回は学園都市の能力者である事も隠している為、尚更、余計な注目は極力浴びたくなかった。

が、八神はやてが立ち上がった垣根をいち早く呼び止めた。

 

「あ、帝督くん、どこ行くん?」

 

「ああ?昼食だよ。学食か購買があるらしいから行くんだよ。……つか、学校でまで名前呼びやめろ。馴れ馴れしいし、高町まで悪乗りしてウゼーし」

 

「ウザイって酷いよ?」

 

「ほな、親しみ込めて、ていとくんて呼ぼか?」

 

なのはが僅かに頬を膨らませ、はやてがおちゃらける。

 

「わたし達の事も名前で呼んで良いんだよ?」

 

フェイトも口を挟むが、彼は面倒臭そうに、そういう問題じゃねえ、と首を横に振った。

 

「……前とは事情も違うし、俺は目立ちたくねえんだよ。その点、お前達は良くも悪くも目立ちやすいからな。しかも転校したての俺がお前達と親しげだと、嫌でも注目されるだろうが。だから、学校じゃ会っても絡んでくるなって、メールで昨日言ったよな?」

 

吐き捨てるように言いながら、ジロリとした視線を向けるが、彼女達はあっけらかんとした態度で悪びれもしない。

 

「形は何にしても、折角友達になったんだから、寧ろ不必要によそよそしくするのも不自然に見えるかもと思うし」

 

「そや。それに帝督くん、ここにいつまでおるんか決まってないんやろ?ほんならボロが出えへんようにいつも気を付けるより、初めの内から自然な感じで、ある程度定着させた方が確実やと思わへん?」

 

「うん。たとえ上っ面だけの関係って事でも、わざわざ他人の振りを無理にする事ないと思うかな」

 

「確かにあたし達の集まりって男女比極端だけど、だからといって男子が皆無って訳でもないんだし、寧ろ堂々としてれば大丈夫よ」

 

「何より、珍しく垣根くんからメールしてくれたと思ったら、学校での知らない他人の振りをして、一方的な関係シャットアウトの要求なんだもん。そんなの嫌だもん」

 

「……いや、お前達が俺に絡まなきゃ、それで済む話のはずなんだがな。つーか、高町のは完全に私情じゃねえか」

 

そこへ、教室に一人の男が入ってきた。

銀髪碧眼の日系人。

タレントかアイドルのように整っている顔立ち。

その少年は爽やかそうな笑みを浮かべて少女達に歩み寄った。

そして口を開いて告げる。

 

「よお皆、一緒にランチしようぜ」

 

二年一組の魅神聖である。

 

「あ、魅神君……」

 

「魅神……」

 

「忘れてたわ……」

 

「……魅神君、何か用かな?」

 

「何でこのタイミングで来るんや……」

 

なのは、フェイト、アリサ、すずか、はやての順で反応する。

全員、喜んでいないのは確かだ。

端から見れば、自他共に認めるイケメン同級生にランチのお誘いを受けているのだから、普通は嬉しいものかもしれないが、彼女達は魅神聖の普段の言動や好色振りを知っている為、人としても男としても好感度は低く、苦手、アリサに至っては露骨に嫌っている。

だが幸か不幸か、本人はそう思われている事に全く気付いていない。

 

「どうしたんだい、皆。……ん?」

 

と、魅神の目に映ったのは、なのはの傍らに立つ、見覚えのある、だがこの教室にいるとは思いもしなかった、何だかガラの悪そうな少年。

魅神聖もイケメンだが、その少年も端整な容貌である。

ただし、目付きが悪く『イケメン』というより『悪人面』と言った方が正しい。

魅神聖はこの少年を知っている。

 

「お前は……、垣根帝督……っ!何故ここに!?」

 

魅神聖も事件対応局員の一人として、管理局経由で情報は得ていたが、まさかなのは達と同じクラスになっていたとは知らなかったし夢にも思わなかった。

ただでさえ自分の好きな女子達に、他の男子が近付く事さえ気に食わない上、垣根帝督という男に至っては、自他共に認める極悪非道で最低最悪の悪人だ。

やや潔癖性なレベルで、曲がりなりにも強く正義感を重んじる魅神聖には、そんな正義と善意の象徴としても見ているなのは達が、裏で悪行に手を染めている悪党と仲良しこよしする事など、許せる訳がなかった。

彼は垣根をジロリと睨み付けながら言う。

 

「転校してくるのは知ってたが、まさかこのクラスだったとは。裏で一体何をした?どんな汚い手を使ったんだ?言うんだ!」

 

「俺は何もしてねえよ。寧ろ、実際にゃ通学せずにリモートで済ましたかったぐらいなんだがな」

 

魅神聖のズレた推理と詰問に、垣根は呆れ顔でくだらなさそうに、どうでも良さそうに、右手をヒラヒラと振って否定した。

 

「そんな訳ないだろ。お前の本性は分かってんだぞ外道め!しかも早速なのは達に付きまといやがって。どういうつもりだ!!早く離れるんだ!!」

 

魅神聖は怒鳴りながら垣根帝督の左腕を掴んでなのは達から引き離そうと引っ張り出そうとしてくる。

 

「触るんじゃねえよ三下が。つーか、寧ろ俺がこいつ等に絡まれてんだよ。文句なら俺よりこいつ等にでも言えよクソボケ」

 

それに対して垣根は、鬱陶しそうに腕を振りほどいて、あっさりと一蹴してきた。

罵倒のオマケ付きで。

一蹴された事に悔し混じりの笑みを浮かべ、魅神が声のトーンを抑えつつもピシャリと言い放つ。

 

「……ハッキリ言わなきゃ分からないようだな。仕方ない。良いか、敢えて言ってやるぞ悪党め。なのは達に近付くなクソボケが」

 

「……、聞いてたか?人の話」

 

垣根帝督は、思わず目が半開きになった。

嫉妬と憎悪に満ちた眼光と表情で、彼は再び言う。

 

「オイ、クラスメイトになったからって図に乗るなよハナクソ。身の程をわきまえろ表凡人の腐れ外道が」

 

垣根帝督に対して魅神聖は、努めて冷静さを装いながらも、暴言のマシンガンを放つ。

 

「なのは達は貴様みたいなクソ野郎なんかが話しかける所か、半径五キロ圏内に入る事すらおこがましいんだよ。この不良モドキが」

 

「メチャクチャボロクソ言ってくるのな。まあ敢えて否定しねえけど」

 

垣根は呆れて目を細めながら呟いた。

だが嫉妬に駆られた魅神聖の一方的な暴言は止まらない。

 

「このクソに群がるハエが!」

 

「その理屈だとこいつ等が『クソ』になるがな」

 

その指摘を無視して彼は続ける。

 

「お前さぁ、ワンチャンあるとか思ってる?お前みてえなヤツが、普通に生きてたらまず関わる事の無い美少女達。だがクラスメイトだ。お前みたいな容姿と腕っぷししか取り柄の無いチンピラでも、もしかしたら……とか思ってるだろ?」

 

「思ってねえよ」

 

「そんで毎日会うから挨拶程度ならできるようになって『アレ?もしかしたらイケる?』みたいな、学生からの長い交際期間を経て見事ゴールインとか思ってるだろ?」

 

「毛ほども思ってねえって」

 

「夢見てんじゃねぇよ。死ね」

 

「思ってねえっつってんだろクソボケ。テメェが死ね」

 

全く会話のキャッチボールにならない魅神に、垣根はいい加減ムカついてきた。

 

「まぁ無理もない。あんな美少女達だ。死肉に群がるハイエナのように引き寄せられるのは仕方無い」

 

「その理屈だと高町達は『死肉』って事になるけどな」

 

「いや美少女なんてもんじゃない。宇宙一可愛い。まさに天使……!神が作り出した最高傑作の芸術!」

 

「言い過ぎだろ」

 

ベタ誉めの枠を超えて崇拝レベルの文言に、やり過ぎと気恥ずかしさのあまり、なのは達は逆に引いてしまっていた。

垣根帝督は魅神聖とマトモに対面するのは初めてだが、高町なのは達五人の少女達に対する一方的な強い執着心と愛情に、ある意味驚いていた。

魅神聖の言葉はまだ続く。

 

「そんな天使達にお前みたいなカスが釣り合うか?いや釣り合わない。なのは達に釣り合うのは、このオレだけだ……!」

 

彼から発せられたセリフに、垣根は眉をひそめる。

僅かに違和感を感じた。

すぐに分かった。

 

「……何を言ってんだテメェは。しかも今『達』っつったよな?」

 

「考えてみろ。見た目チンピラのお前と、学校でも数々の賞を総ナメにして将来の期待も呼び声高いこのオレ。どっちがなのは達に似合う?」

 

そして決定的な事を彼は言った。

 

「彼女達は……この世の天使達はオレのもの。なのは達と結婚するのはこのオレだ!!」

 

「なるほど、変態か。しかも見境無いのな」

 

つい納得してしまった。

魅神聖は更に好き勝手を言う。

 

「これだけ警告したんだ。いい加減、諦めがついたか?ついたよな?なら、金輪際なのは達に近付くな。見る事も許さない。同じ空気も吸うな」

 

「早い話死ねってか」

 

元々怒りの沸点が低い垣根帝督だが、今回だけは怒りよりも呆れの感情が強かった。

よくもまあこんな事を次々と言えるものだな、と奇妙な感心をしてしまうほどだった。

だがしかし、当然ながら彼は魅神聖の要求を呑むつもりは更々無い。

そんな義理は無い。

 

「それじゃ、今からオレの言う通りにしろ。未来永劫な」

 

「嫌だね。元々、そもそもが不本意な状況ではあるが、テメェに指図される筋合いもねえな」

 

当然の答えだ。

 

「なっ!?……貴様、口で言って分からないなら、やむ得ず力ずくで分からせるぞ?」

 

「それ以前に、俺とテメェでまともな会話が成立してたか?」

 

見るに見かねたなのはが口を挟む。

 

「もう!さっきから好き勝手な事言ってるのは魅神君の方でしょ?そもそも、わたし達から垣根くんに声をかけてるだけなんだから、変な割り込みして思い込みで勝手な事言わないでよ」

 

アリサとフェイトが続いた。

 

「そうよ。ていうか何べんも言ってるけど、いつからあたし達はアンタの所有物になったのよ。勝手言ってんじゃないわよ。不愉快だから自分のクラスに戻りなさい」

 

「それと、いくら何でも、勝手な想像で帝と「垣根な」あう……。か、垣根の事を罵倒するのは止めて。そもそも、君は可愛い女の子なら誰彼構わず口説いたりしてるよね?なら、その仲良くなった子達とランチに行った方が楽しいんじゃないかな」

 

しかし、今まで殆どフラれた事すら無かった魅神聖は、その言葉を勘違いする。

 

「何だ、フェイト。ヤキモチか?可愛いなぁ♪」

 

「違うから」

 

この一言を発した時だけフェイト・T・ハラオウンは、垣根帝督に劣らないほどの、冷めた視線を向け、恐ろしく平淡な口調の即答で全否定した。

鈍感な魅神聖はイケメンスマイルを彼女達に向けた後、垣根帝督に向き直ると、再びキッと鋭い眼光をぶつけて告げる。

 

「……とにかく!知り合いとはいえ、お前みたいなヤツがなのは達と学校でまで関わる事は、このオレが許さない!」

 

「いや、だから何でキミの許可がいんねん」

 

「いや、だから。そんなに気に食わねえなら、俺じゃなく高町達に言って説得しろっつってんだろ。俺からは一度も絡んでねえんだから」

 

と、はやてと垣根がウンザリした顔で、心底くだらなさそうにツッコんだ。

 

「この野郎、往生際の悪いヤツだな。まさか本当に弱味か何か握って無理矢理にでも侍らそうとでも言うのか……?やはりお前は、なのは達には有害だ。オレが必ず守り切り、貴様という悪党は実力行使してでも_」

 

それでも引き下がるつもりは毛頭無いらしい。

食い下がり、再び曲解から妄想まで混じったセリフを口走り始めたその時、

 

「オイ」

 

魅神聖のセリフを遮り、垣根帝督が、彼に言った。

さっきまでの気だるげで退屈そうな態度が変わり、強い苛立ちを示す。

ドスの効いた、低くも良く響き渡る声色。

思わず、魅神だけでなくなのは達も、周りの野次馬達も、突然の感じた事の無い威圧感と悪寒に、ビクッと肩を震わせて顔を青ざめた。

禍々しさすら感じさせる暗い眼光。

感情に呼応するように、能力が漏洩してしまっているのか、よく見ると彼の肩口からパキ、パキ、という音が聞こえ、うっすらと何か物体が発生しているのが見えた。

 

垣根帝督は構わず魅神聖に告げる。

 

「後何秒テメェに時間割けば良いんだ?」

 

「ぐ……!」

 

咄嗟に怯んでしまったが、魅神聖にとって、何がなんでも悪人の威圧に屈するのはプライドが許さない。

だが……、と。

思った所で昼休み終了の予鈴が鳴った。

 

「くっ……、時間か。仕方ない、今は見逃してやる。だが、次は承知しないからな!」

 

自信家は、逃げる時もいちいち理由がいる。

ともあれ、魅神聖というゲリラ豪雨がようやく去ってくれた訳だが、ここで一つ重要な事に気付く。

 

「……って、昼休み終わっちゃったよ」

 

なのはが思い出したように言った。

垣根帝督は、小さく舌打ちの音を立てて、吐き捨てるように告げる。

 

「チッ。結局、昼飯食いっぱぐれちまったじゃねえか」

 

結局、この一悶着が原因で、クラスから学年中に、そこから散発的に全校へ『不良やチンピラよりおっかない、人殺しみたいな目をしたやベーヤツが転入した』という噂がたちまち拡がってしまい、転校初日からきっちり悪目立ちしてしまった垣根帝督であった。




章の中では、ものの数日間の出来事だったはずが、ここまで数ヶ月も費やしてしまった……。

ちなみに、坂田銀八等の銀魂等のジャンプキャラは、書き直し前と同様に日常生活編にのみコンスタントに、なるべく邪魔にならないようになる程度に出す予定です。
ちなみに、男子制服のデザイン等についてですが、原作公式でも不明なので、あくまで作者の想像による、この作中のみでの設定です。










……本音を正直に言いますと、「後何秒テメェに時間割けば良いんだ?」のくだりをやりたかったが為の回でもあります(汗)
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