魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter   作:戸礼太

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間に合わなかった…


六月四日

同日昼休みの最中。

気を取り直したはやてが、

 

「あ、そうや。話は変わるけど、帝督くんには言い忘れとったし他の皆には、もうメールや電話で話したから大丈夫なんやけど……」

 

はやてはニッコリ笑うと、わざわざ垣根の隣に座り込んできた。

 

「今日、六月四日は何の日でしょーか?ハイ、ていとくん!」

 

突然のクイズ。

何となく察したが、垣根はくだらなさそうに答える。

 

「知るか。つーかていとくん言うな」

 

若干不機嫌そうな顔をする彼に、はやては楽しそうに続ける。

 

「ヒント、誰かの誕生日です♪」

 

「聞けよ。……何かあからさまなのが鼻につくが、もしかして、八神(オマエ)か?」

 

「ピンポン!ていとくん大正解!!」

 

「ウゼーな、そのハイテンション。誕生日だからって浮かれ過ぎだろ。あとていとくん言うなっての」

 

パチパチと拍手してはしゃぐはやてに、垣根は少し引き気味になって呆れ顔になっていく。

否定するつもりは毛頭無いが、その辺りに関する感性が乏しく、経験上、理解ができない垣根帝督にはよく分からない感覚だった。

 

「で、何だ?知らなかったし急な話だし、プレゼントなんか出せねーぞ」

 

「ああ、それは分かってるから別にええよ」

 

「現金なら出せるけど。いくら欲しい?」

 

「いや、お金とかええよ。生々しいし。お友達にせびってるみたいで嫌やし……って、お財布出さんでええって!わたしお金に困ってへんし!いやホンマに万札何枚も出すのやめて!誕生日にかこつけてカツアゲしてるみたいやん!!」

 

「冗談だよ」

 

本気で慌て出したはやてを見て、垣根はフッと小さく笑って、財布を仕舞った。

 

「もー、冗談キツいで」

 

「それで。結局の所、俺にどうして欲しいんだ?おめでとうっつうだけで良いのか?」

 

二人の掛け合いのようなやり取りを見て、クスクスと笑っていたすずかが口を開く。

 

「それでね、今日の放課後、私の家ではやてちゃんの誕生会をやろうって事になってるの」

 

「要するに、アンタも良かったら来ない?って話よ」

 

アリサが補足する。

 

「垣根くん、例の仕事が無ければどうせ暇でしょ?」

 

垣根が相手の時だけ、ぞんざいな言い方をしてくるなのはにチラリと視線を向ける。

 

「来てくれたら、はやてもわたし達も嬉しいんだけど……」

 

とフェイトも微笑んで言う。

 

「今日の放課後、か。……あ、ダメだな。放課後に俺『身体検査(システムスキャン)』の為に、学園都市に一時帰還する予定があるから」

 

垣根が携帯電話を取り出し、スケジュールをチェックしてから、思い出したように言った。

 

「えー!帝督くん来てくれないん!?」

 

断られると思っていなかったはやては、分かりやすくびっくりして残念そうな声をあげる。

 

「お前の誕生日だの何だのって知らなかったしな」

 

「知ってたら予定ずらせてた?」

 

フェイトが試しに尋ねてみた。

 

「さあな。その時聞いてみなけりゃ分からねえだろうが、そりゃ学園都市次第だな」

 

彼はつまらなさそうに答えると、立ち上がって告げる。

 

「ま、別に良いじゃねえか。俺が参加しないってだけだろ?いつも通りに家族やら親友やらに囲まれて、自分の誕生日を祝ってもらえるんだし、それで満足だろ」

 

「それは……まあ、そうなんやけど……」

 

「俺は仮に参加した所で、何もできないしな。ま、折角の誘いを断った埋め合わせは、今度してやるよ」

 

垣根帝督からすれば、八神はやてが何故そこまで落胆した様子なのかが理解できなかった。

ただ単に、誘われた自分が用事で行けないってだけで、お祝いそのものが行われない訳でもない。

家族や友人達が出られない訳でもない。

 

「……でも、わたしはただ、帝督くんにも来てほしかっただけなんやけどなぁ……」

 

ポツリと呟いた彼女の寂しそうな一言は、彼の耳には届かなかった。

 

 

 

 

そして、放課後。

垣根帝督は手配されていた車で学園都市へ向かい、高町なのは達は予定通り一度、それぞれ帰宅し、月村家に集合。

レクリエーションルームに並べられたケータリングに、なのはが翠屋から持参したホールケーキを囲み、ロウソクを立ててバースデーソングを皆で歌ったり、はやてが親友からそれぞれ、思い思いの誕生日プレゼントを受け取る。

その後、ケータリングに舌鼓を打ちながら雑談に興じたり、食後にはレクリエーションにゲームをしたりと、小学四年生からは毎年の事で月並みな内容ではあったが、賑やかでとても楽しく、穏やかな一時を過ごせた。

 

バースデーパーティの終盤、管理局の用事で朝からいなかった銀髪碧眼の美少年同級生兼同僚の、魅神聖が尋ねてきた。

はやてに誕生日プレゼントを渡す為に、任務を超特急で完遂してきたのだ。

 

「今日ははやてのバースデーを祝いに行けなくてごめんな。はい、プレゼントだ!埋め合わせに今度、オレとデートに行こうぜ♪」

 

「あ、あはは……。ありがとうな。でも、デートはええよ。そういう関係やないんやし……」

 

やんわりと断るはやて。

気持ちはありがたいのだが、一方通行な好意を向け、人の話を聞かなかったり曲解したり、垣根帝督を邪険に(これはある意味仕方ないのだが)扱おうとする所が原因で、はやては彼を同級生兼同僚以上には見られなかった。

 

「デートって言うのは照れ臭いかい?気にするなよ。今時デートなんて小学生でも普通だよ。デートスポットは調べておくから、都合の良い日を後で教えてくれ。それじゃ、本当はゆっくり君達と過ごしたいけど、私用があるんで失礼するよ。ハッピーバースデーはやて♪」

 

と、軽くウインクしてキザに立ち去った。

無駄にスタイリッシュだった。

 

「あ、うん……。ありがと……」

 

終始、表情を引きつらせていたはやて。

その後、なのは達の前で高級そうな箱を開けてみる事に。

紙袋からしてジュエリーショップらしいのだが。

 

「あんまり高そうなんは、ちょっと悪い気もするんやけど……」

 

「気に入らなかったら、リサイクルショップにでも売っちゃえば?」

 

「アリサ、流石にそれは……」

 

身も蓋もない事を宣うアリサ・バニングスに、フェイト・T・ハラオウンがツッコミ。

丁寧に箱を開封してみると、中身は、

 

「……ペンダント?」

 

「あ、しかもこれ、ロケットペンダントだね」

 

と、高町なのはと月村すずかが言った。

ロケットペンダントという事は、チャームが開閉式になっていて中に写真や薬などを入れられるようになっている。

余談だが、バレンタインデーの時の贈り物として、または洗礼や結婚の場で配られる事が多い。

 

「って事は、中に写真か何かが……_ッ!?」

 

はやてが言いながらチャームを開いてみると、その瞬間、彼女はピキッと固まり、絶句する。

 

「「「「……???」」」」

 

凍り付くはやてに、怪訝な顔をする四人。

不思議に思ったなのは達は、はやての手の中のペンダントに埋め込まれた写真を覗き見る。

 

「……げっ!重っ!」

 

「……、ええ~……?」

 

「……な、何で……?」

 

「……というか、いつ撮ったの?これ……」

 

「分からへん……。身に覚え無いんやけど……」

 

ロケットペンダントのチャームを開いた中身、それは、

 

八神はやてと魅神聖のツーショット写真だった。

 

いつ、どこで、どのタイミングで撮られたのか、全く分からないし心当たりも無かった。

が、そんな事よりも、件のロケットペンダントである。

贈り物故に、流石においそれと手放したり蔑ろにするのは人としてどうかと思うが、いかんせん扱いに困る代物だ。

好きとまでは言えない異性から贈られた、自身とのツーショット写真入りのロケットペンダントだ。

端的に言って、愛情が重い。

身に付ける訳にもいかず、とりあえずは箱に戻して、自分の机の引き出しに仕舞っておく事にする。

……多分、もう二度と取り出す事も無いだろうけど。

 

微妙な空気が漂う中、日が暮れてきて、バースデーパーティはお開きとなった。

 

と、去年からコンスタントにこういうイベント事の度にこんな珍事が巻き起こっており、今年の八神はやての誕生日にも、キチンとこんな消化不良なオチがついたのだった。

 

 

その日の夜の八神家。

 

入浴直後のはやて。

パジャマに着替えてタオルで髪を拭いていると、不意に携帯電話に着信が入った。

 

「あれ、誰やろ?」

 

スライド式の携帯電話の画面には、登録された発信者名が表示されている。

 

『ていとくん』

 

おそらく、本人が知ったら間違いなく怒るであろう登録者名。

垣根帝督。

 

「わ!て、帝督くん!?」

 

彼から電話をする事は初めてだ。

もちろんメールもだが。

予想外の相手に若干慌てながらも、本体をスライドして電話に出た。

 

「_はい、もしもしっ?」

 

「よお。遅くに悪いな、八神」

 

「そんな事ないよ。でも、どないしたん?帝督くんから電話やなんて珍しい」

 

「まあな。それより今、時間あるか?」

 

「うん、大丈夫や」

 

「そりゃ良かった。実は用事が済んで今、お前ん家の近くまで来ているんだが、寄っても良いか?」

 

「え!?」

 

驚きながら、二階の自室の窓から外を見ると、そこには携帯電話を片手に歩いている、学園都市(むこう)の学校に行ってきていたのか、再会した時と同じような学ランを纏った、見慣れた背の高い茶色い髪の端整な容貌の少年が目に映った。

 

「あ、ちょっと、玄関で待ってて!」

 

はやてはそう言うと、窓から顔を引っ込めて階段を駆け下りる。

外から眺める垣根帝督からは、パタパタとはやての足音が聞こえる。

一分足らずで玄関のドアがガチャリと開き、はやてがひょっこりと顔を出す。

 

「お待たせ帝督くん」

 

「そんなに慌てなくても良いぞ。すぐ済むし」

 

言って彼は、携帯電話を仕舞いながら左手に持っていた紙袋を差し出す。

 

「これを渡しに来ただけだから」

 

「え?」

 

スイーツ系ブランドの紙袋の中身は、複数の小分けされたチョコレート菓子だった。

 

「件の誕生会不参加の、ちょっとした詫びだ。学園都市のデパートで売ってたそこそこ良いヤツなんだが、正直、他人に何か贈った事なんざねえし、お前の趣味嗜好も知らねえから、何あげて良いのか分からなかったし、それで下手に残るモノなのも何だと思ってな。無難にお菓子系にしてみた。ついでだけど、人数分もあるから皆で適当にオヤツにでもしといてくれ」

 

「わあ、ホンマ?ありがとう♪」

 

パアッと心底嬉しそうに、はやては満面の笑みを浮かべる。

 

「じゃ、確かに渡したからな」

 

「あ、もう帰るん?折角やから、あがってってや。お茶くらい出すで」

 

「いや、もう遅い時間だしな。それにお前、もう寝る前じゃねえの?」

 

垣根は、風呂上がりの湿った髪にパジャマという姿のはやてを見て言うと、彼女は少しだけ悪戯っぽく微笑んできた。

 

「ほな、いっその事、今夜は泊まってく?明日土曜日やし、学校お休みやからちょうどええよ♪」

 

「泊まんねーよ。主旨変わってるじゃねえか」

 

いつものおふざけモードはやてに鋭くツッコミを入れていると、会話を聞き付けたリインフォースⅡが、アウトフレームになって顔を出した。

 

「あ!帝督さん、こんばんはですぅ~」

 

「よお。じゃ、俺はもう帰るから。他の連中によろしくな」

 

「えーもう帰っちゃうですかー?……あ!はやてちゃん、帝督さんお泊まりさせちゃダメですかー」

 

「泊まんねえっての。お前、自分のマスターと同じような事言ってんじゃねえよ」

 

「わたしはええよ♪」

 

「お前も乗るな」

 

二人の悪乗り(半分本気)に、くだらなさそうな顔でツッコむ垣根。

彼はドアから一歩離れると、今度こそと告げる。

 

「とにかく、用事は済んだんだから、俺は帰る」

 

「「えー」」

 

「えー、じゃねえよ。帰るからな?じゃあな」

 

しかし、パシッと彼の左手首をはやては掴んだ。

まだ簡単には帰してくれないらしい。

 

「帝督くん」

 

「……んだよ」

 

「わたし、今日は誕生日やねん」

 

「だから?」

 

「とりあえず、おめでとうくらい言うてくれてもええんちゃう?帝督くんだけやで、友達でまだ言うてくれてへんの」

 

「……はあ、分かったよ。……八神、誕生日おめでとう」

 

「そこはバースデーサービスって事で『はやて』って呼んでや♪」

 

「贅沢言うな。じゃあな」

 

今度こそ帰ろうとする垣根は、ったく、と小さい呟きながら手首を掴んだはやての右手を外し(意外と優しく)、彼女達に背を向けて歩き出した。

はやてとリインはそんな彼に、手を振って見送りながら、弾んだ声で言う。

 

「ほな、またね。ありがとう帝督くん。今度は『埋め合わせ』楽しみにしてるで♪」

 

「また来てくださいね~♪」

 

返事は無く、一度ズボンのポケットに突っ込んだ左手を出して上げ、ヒラヒラと軽く振っただけだった。

それを見て、はやては仕方のなさそうにクスッと小さく笑う。

 

リビングに戻り、早速貰ったチョコレート菓子の中身を見てみる。

 

「わー、高そうなお菓子だなー」

 

「美味しそうですぅ~」

 

「今日はもう遅いから、明日のオヤツか食後のデザートにしよな」

 

目をキラキラと輝かせながら眺めているヴィータとリインに、はやてが言いながらお菓子を冷蔵庫に仕舞っていく。

 

「私達の分まで……、垣根なりに気を使ってくれたのか……?」

 

「そうね。今度、お礼を言わなくちゃね」

 

シグナムが意外そうな顔をし、シャマルが小さく微笑んで告げた。

守護獣形態で佇んでいるザフィーラも、何も言わないが内心、自分の分まである事を意外に思っていた。

そうしていると、

 

「あ!はやて、袋にまだ何か入ってる!」

 

紙袋に手を入れてゴソゴソしていたヴィータが、何か見付けたらしい。

 

「え、そうなん?何やろ……」

 

紙袋に入っていたのは、簡易包装されたいくつかの小さな箱。

中身はキーホルダーや携帯ストラップだった。

どうやら、このお菓子に同梱された、購入特典の粗品の類いらしい。

 

「へえー、結構お洒落やね」

 

タヌキやアライグマ、犬や猫等のデフォルメされた動物のものや、食品サンプルのようなチョコレート形等、色々ある中で、はやては一つ目に留まったものがあった。

 

「んー……。あ、ほな、わたしはこのストラップにしよかな。残りは、皆で欲しいの持ってってええよ」

 

「わぁー、じゃあ、私はこのチョコの形にします~♪」

 

「あ、それあたしも欲しい……」

 

 

 

そしてその数十分後。

寝る時間になり、自室に戻った八神はやては机に向かっていた。

しかし勉強や宿題をしている訳ではない。

先ほど選んだストラップを、早速自分の携帯電話に付けてみていた。

 

「ふふっ」

 

嬉しそうに声が漏れる。

彼女が選んだストラップには、このスイーツブランドのロゴマークなのか、黒い翼と白い翼の小さなフィギュアが一個ずつ付いていた。

はやてがどういう意図でこれを選んだのか、彼女をよく知る者なら、何となく察しがつく。

 

「ふふふっ。帝督くんにはちょぉ悪いけど、ある意味お菓子よりこっちの方が、嬉しいかもしれへんわぁ」

 

このストラップを見た時の”彼”の顔が目に浮かぶようで、クスクスと面白そうに口元を押さえながら、はやては一人朗らかに笑うのだった。

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