魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter   作:戸礼太

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感想やここすき、ありがとうございます。
非常に励みになります。

当初はpixivでひっそりとリメイクするのみで、ハーメルンでの投稿は文字通り試しに、といった感じで、A's編までにするつもりでした。
予想以上に多くのお気に入り登録等、嬉しく思います。
今後とも宜しくお願い致します。


魔導師でも夜の学校は怖い

六月某日。

聖祥大附属中学校。

 

そこの二年六組の教室。

名門の私立校ではあるが、特に風変わりな所は無い。

教室の前と後ろに引き戸があって、教卓があって、生徒の机と椅子があって、というありきたりなもの。

その二年六組の教室の、廊下側の窓際の列、前から二番目に志村新八の席はあった。

午前八時三十分。

後十分ほどで、朝のホームルームが始まろうという時間。

志村は自分の席で頬杖を突き、クラスメイトの様子を眺めていた。

大半の生徒は自分の席を離れ、ワイワイと談笑している。

教師のいない教室は生徒のもの。

だから騒がしいのは当然ではある。

志村のいる席から後方左の席では、高町なのはとフェイト・T・ハラオウン、八神はやて、アリサ・バニングス、月村すずかの五人が談笑している。

ちなみに彼女達は聖祥中が誇る『美少女五人集』だとかと言われているらしい。

更にその左隣の前の方では、風紀委員の土方十四朗(ひじかたとうしろう)と転入生の垣根帝督が何やら話している。

垣根は、聖祥中の制服のボタンを全て外して着崩し、黒色のインナーを露出させた不良学生のような格好。

染めていない天然の茶色の髪を肩にギリギリかからない程度に伸ばしている。

顔はイケメン並だが、悪い目付きとガラの悪さで台無しになっている。

対する土方は無造作な黒髪短髪ヘアに鋭い双眸。

制服は垣根とは違い、ちゃんと着ている。

この二人、ビジュアル的にはかなり高ポイントなのだが、彼等二人とも性格や趣味嗜好に多少の難がある。

従って会話もこんな具合。

 

「なあ、垣根」

 

と呼ぶ土方はクールに腕を組んで、低い声音。

 

「何だよ土方」

 

と返す垣根は通路に足を投げ出して、携帯電話を弄っている。

声も軽い。

土方が言う。

 

「垣根、お前、マヨネご飯って知ってるよな?」

 

「ご飯にマヨネーズかけた不埒な食いモンだろ?」

 

「うるせえ、何が不埒だ。ていうか、俺はそれを食わねえ日はねえ」

 

「知ってる。で、そのマヨネご飯がどうしたよ?」

 

言いながら、垣根はケータイいじりをやめない。

土方は、フッと口元を歪めて続けた。

 

「実はな、夕べそのマヨネご飯の改良に、俺は成功したんだ」

 

「誰も頼んじゃいねえがな、そんな事」

 

垣根はつれない。

 

「いいから聞け。マヨネご飯にな、あるものを加えると、とてつもなく美味になったんだ。それが何か、お前、知りてーだろ?」

 

「お、返信来た。おー、スゲェ知りたい」

 

「全然知りたそーに見えねえぞコラ。ま、良いだろう、教えてやる」

 

それはな、と言って、彼は一度言葉を切った。

勿体振るような間を取ったあと、続ける。

 

「……………ツナ缶の、油だ」

 

聞くと話しに聞いていた志村は、思わず半眼になる。

心底どうでも良い。

ツナ缶の油……。

 

「ツナ缶のツナそのものじゃねーぞ。ツナ缶の、油だ。それをマヨネご飯にかける」

 

だからその、『ツナ缶の』と『油だ』のタメは何なのか、タメは。

 

「どうでも良さそうな顔だな、垣根」

 

土方は垣根に不満そうに目を細める。

 

「そんな事ねえよ。今度、魔が差したらやってみるわ」

 

「最低の社交辞令だな」

 

土方十四朗は舌打ちした後、垣根帝督の手元に視線を移した。

 

「ところでお前、さっきから誰とメールしてるんだ?」

 

「ああ、これか?出会い系サイトだよ。ま、こんなもんやるヤツは馬鹿か不細工って相場は決まってんだろーが、暇潰しにと思ってな」

 

「なるほどな。ただ、一つ気になるんだが、それ、俺のケータイじゃねえか?」

 

「そうだぜ。だって出会い系サイトだぜ?こんなもんに自分のケータイ使いたくねーだろ」

 

「なるほど、そりゃ道理だな。………………………………って殺したろかあァァァ!!」

 

土方は激怒して机に乗り出す。

垣根の首に手を伸ばすがかわされ、笑いながら逃げる垣根と鬼の形相で追う土方。

不毛だなぁ………。と、二人のやり取りを眺めながら志村は思う。

何て不毛な争いなんだ、と。

と、その時、教室の後ろの引き戸がガラリと勢いよく開けられた。

 

「アリサさーん!!」

 

と、朝から馬鹿でかい声を出したこの馬鹿は、近藤勲(こんどういさお)だ。

 

『精悍な顔をしたゴリラ』という形容がぴったりの、繊細さとは無縁の風貌。

中二とは思えない老け顔。

何の人徳があってか、土方十四朗等を従える、風紀委員長の座についている男でもある。

この場で詳しい説明は省くが、一度アリサに優しくされて以来、彼女への強烈な恋心からストーカーと化している。

教室に入った近藤はまっすぐ談笑しているアリサ・バニングスのもとに駆け寄っていった。

 

「いやいや、アリサさん。今朝も一段とお美しい。茶系の制服が純金のドレスのように見えますよ。だっはっは!!」

 

本人的には百点満点の口説き文句を披露するが、当のアリサどころか近くのなのは達も顔を引き攣らせている。

彼のテンションに引いているのだ。

アリサはウンザリとした様子で冷ややかにこう返す。

 

「朝から迷惑なテンションね、大声で来るのやめてくれる?ウザいのはあのバカだけでたくさんだってのに」

 

いやーすみませんね。だっはっは!! 等と話していると、噂をすれば影。

魅神聖が現れる。

 

「おはよう、って、てめーは誰だ!何オレのなのは達にちょっかいだしてんだ!!」

 

「む、オメーは俺のアリサさんに毒牙を向ける気か!」

 

「誰がアンタ達のよ!!」

 

馬鹿とゴリラの言葉に怒るアリサ。

とばっちりを受ける善人美少女達は、嫌々ながらも止めようとする。

あ、はやてだけこっそり逃げた。

しかしまあ、志村もいちいち同情はしない。

魅神聖と近藤勲のこのバカバトル。

最近毎朝似たような事が行われているのだ。

代わりと言っちゃなんだが、その分、魅神の矛先が垣根帝督に向かなくなっている。

 

「いいから、あたしの席から離れなさいよッ!!」

 

アリサの怒号と共に彼女の裏拳が近藤と魅神の顔にヒットする。

 

「今日のあたしは、月からの使者で機嫌悪いのよおっ!!」

 

彼女は殺人兵器と化した拳を伴い、彼等を思い切りぶん殴る。

 

「ちょっ!!痛っ!?アリサさん!?女の子が裏拳はマズッ!!ぐああッ!!」

 

「あ、アリサ!?落ち着いて……ぐふぁっ!?」

 

哀れ、近藤勲と魅神聖は登校後、数分で血祭りに上げられた。

 

「てめっ、今度は自殺系サイトにアクセスしてんじゃねえかあ!!」

 

「あれ、お前、前に『一度でいいから本物の彼岸花を見てみたい』って……」

 

「言うか!!そんな事!どんな望みだ、それは!!」

 

今だに逃げ回る垣根帝督を追う土方十四朗。

不意に教室の前の引き戸がガラリと開けられた。

現れたのは二年六組の担任教師、坂田だ。

眼鏡も背広もネクタイも、全てだらしなく身につけた、くわえ煙草の天然パーマの男。

 

「朝からうるせーぞ。中二共。あと別クラスのヤツは戻れ」

 

アンチテーゼに満ちた教師。

何処でも平気でくわえ煙草。

更には教育者とは到底思えない、死んだ魚のような瞳。

坂田は出席簿をポンと教卓に放り出すと、いつものように気だるげな声で言った。

 

「んじゃ、ホームルーム始めんぞー。日直、号令」

 

言われて、志村は号令をかける。

 

「あ、はい。起立、礼、着席」

 

「えー、ではぁ、今朝のホームルームの議題に入る」

 

坂田はくるりと振り返ってチョークを手に取り、ゴンゴンと音を立てながら、アンニュイな文字を黒板に書いていく。

こんな感じで、今日も一日が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュオオ、と風が吹き、学校指定のジャージ姿の高町なのはの前髪が揺れた。

 

午後十時頃。

私立聖祥大附属中学校の正門の前。

 

(分かってても、何だか不気味だよねえ)

 

となのはは思う。

夜の学校って、本当に不気味で怖いなぁ、と。

勿論、学校に限らず、神社や寺等でも夜に行けばどこだろうと恐いような雰囲気はあるが、『夜の学校』というのは小学生の頃から独特の薄気味悪さを感じる。

怪談が絶えないのも納得だな、と彼女は考えていた。

閉められたスライド式の鉄の校門の向こう側には、鉄筋コンクリートの校舎が建っている。

その校舎の頭上の夜空には満月が浮かんでいて、余計にいかにもな雰囲気を醸し出していた。

 

だが、それでも、彼女は入らねばならない。

夜の学校に。

忘れ物を取りに行く為に。

怖いが、明日の朝までは待てない。

そういうものを教室の机の中に忘れてきてしまったからだ。

帰宅後、夕食とお風呂を済ませた後になって、その事に気付いた。

だから今取りに来た訳だ。

なのははガシッと校門に手をかける。

高さは彼女の顎の下あたりか。

楽々ではないが、乗り越えられない高さでもない。

触れた校門の冷たさや、錆のざらついた手触りや、金属の軋む音やらが、なのはの心を揺らす。

 

(だ、大丈夫。ただ夜なだけ、ただ暗いだけ、怖い事なんか……。そりゃちょっとは不気味だけど、中学生にもなってお化けが出そうで怖いからとかそんな理由で断念できない……)

 

管理局のエース級魔導師を張っている癖に、たかだか夜の学校が怖くて入れない、だなんて言えなかった。

それより何より、

 

(こんな事、垣根くんにでも知られたら、絶対笑われる。物笑いの種にされる。それだけは……)

 

邪悪な笑みを浮かべる、同級生の顔が目に浮かぶ。

背が高くてガラの悪い、何だかんだで打ち解けているのか、ある意味友人以上に砕けた関係になっている、数少ない男友達。

だが、時々真性のドSなんじゃないかと思うほど、好き勝手にからかわれる事があった。

故に、そういう弱味は見せたくない。

自分にそう言い聞かせた。

校門を掴む両手に力を入れ、グッと体を持ち上げる。

そして右足を校門の上にかけたその時、

 

「なのは、何やってるの?」

 

「ふぇッ!?」

 

突如背後から声をかけられた。

ビクゥッ!! と肩が震え、バランスを崩したなのはは落下してしまい、ドシャッと尻餅をついた。

痛みと恐怖でパニックになりかけるも、彼女は四つん這いでお尻を擦りながら、ハッと顔を上げる。

 

「な、なのは、大丈夫?」

 

立っていたのは、金髪美少女の留学生にして高町なのはの大親友、フェイト・T・ハラオウンだった。

ちなみに、彼女もジャージを纏っている。

 

「フェイトちゃん!?」

 

なのはは混乱したまま立ち上がって抗議する。

 

「もう、脅かさないでよ!びっくりしてわたしの鼓動が早鐘のようだよ!」

 

「え?ご、ごめんね。そんなつもりは……って、なのはこそ、何してたの?」

 

「あ、うん。ちょっと忘れ物を取りに来ただけなんだけどね……」

 

「忘れ物?」

 

そこでフェイトは少し照れ臭そうに、小さく笑った。

 

「だったら、わたしと同じだね」

 

「え、フェイトちゃんも?」

 

僅かに目を剥くなのは。

 

「うん、わたしも忘れ物取りに来たの」

 

「そうなんだ……」

 

ちょっと意外、と頷いた後になのはは思い付き、フェイトに言う。

 

「じゃあフェイトちゃん、一緒に忘れ物取りに行こうよ。ほら、恥ずかしいけど、夜の学校って何かと不気味で……」

 

「あー、確かにね。わざわざ別々に行く事もないし、そうしよっか」

 

フェイトは快諾し、二人して校門に手をかける。

 

「よいしょ。……それにしても、会ったのがフェイトちゃんで良かったよ。垣根くんだったら何言われてたか……」

 

「せーの。……あはは、そうだね。彼はなのはにちょっと意地悪い時があるし……」

 

等となのはとフェイトが喋りながら、グイっと体を持ち上げたその時だった。

 

「学校はラブホじゃねえぞコラ」

 

突然鋭い声が背後から浴びせられた。

ドササッ と、地面に落下し揃って尻餅をついたなのはとフェイト。

 

(また!?今度は誰!?)

 

と思いながら四つん這いになるなのは。

キッと顔を上げると、そこには、

 

自分達と同じジャージ姿で、両手をズボンのポケットに突っ込んで立っている、見覚えのある茶色い髪の少年。

垣根帝督。

何故か傍らには、同じくジャージ姿の八神はやてまで立っていた。

 

「おいおい高町、夜の学校で金髪美少女の親友と、親友の枠を超えて不純異性交遊かよ。……いや、同性だからこの際、不純同性交遊とでも言うべきか?親が泣くぞ」

 

「しないよそんな事!!ていうかびっくりさせないでよ!!」

 

「そうだよ!!というか、垣根はわたし達をどういう目で見てるの!?」

 

「お前等って仲良すぎるほど仲良しじゃん。え、デキてるんじゃねえの?」

 

「「違うよ!!」」

 

なのはとフェイトの同時ツッコミを、涼しい顔でガン無視している垣根に代わって、はやてが言う。

 

「所で、二人ともどないしたん?こんな時間に学校で」

 

「何って、忘れ物を取りに来たんだよ。わたしもフェイトちゃんも」

 

それを聞いて垣根帝督が目を細めた。

 

「忘れ物?何だよ、だったら俺達と同じじゃねえか」

 

「え、垣根くんとはやてちゃんもなの?」

 

なのはが問うと垣根は、そうだよ、と気だるげに答える。

 

「ったく、この俺とした事が、昼間に購買部で買った『ジャンプ』を教室の机の中に置いてきちまって。帰ってゆっくり読もうと思ってたのに、予定狂っちまったよ」

 

「『ジャンプ』って……」

 

「垣根、普通の週刊マンガとか読むんだ?」

 

意外そうな顔をするなのはとフェイト。

垣根は何て事無さそうにしている。

 

「いやいや。俺も一応、表向き普通の男子中学生だぜ。趣味嗜好は年相応だよ?」

 

「普段はそんな素振り全然見せへんけどね」

 

と、はやてが口を挟んだ。

そこでフェイトが言ってみる。

 

「でも『ジャンプ』ならコンビニで買えば良いんじゃない?何でわざわざ……」

 

垣根は首の関節をコキコキと鳴らして言う。

 

「馬鹿、同じ『ジャンプ』二冊も買ってられるかよ。それより、お前等は何を取りに来たんだ?」

 

「えっと、わたしは宿題に使うノートを忘れてね」

 

「あ、わたしもそうだよ」

 

なのはとフェイトが答えた。

 

「教室の机に置いてきちゃったみたいでね」

 

「ふうん。じゃ、お前は?」

 

と、興味の無さそうに小さく頷き、視線をはやてに向ける。

 

「あれ?はやてと帝_「垣根な」あう……。二人は一緒に来た訳じゃないの?」

 

フェイトが怪訝そうに尋ねる。

はやてが言う。

 

「ちゃうよ。すぐそこで偶々会うたんや。あ、ちなみにわたしの忘れ物もノートなんよ」

 

「ふーん。忘れ物までお揃いとは、仲がよろしい事で」

 

垣根がそう言うと、はやてが言葉を継ぐように、

 

「こうして折角、同じ目的で四人顔を合わせたんやし、一緒に忘れ物回収ツアーと行こか!」

 

「所で八神」

 

「うん?」

 

垣根は思い出したような口調で、はやてを呼び止めた。

 

「お前とバニングスが、月村を巡って三角関係になってるっつー噂を小耳に挟んだ事があるんだが、それはマジか?」

 

「ちゃうよ!!根も葉もないデマや!!っていうか、どこ情報なん!?それ!!」

 

とにもかくにも、四人は校門に手をかけ、魔法少女達と超能力者(レベル5)による、忘れ物回収ツアーがスタートするのだった。

 

 

 

 

そして夜の校舎内。

人気の無い廊下を歩くのは、高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやて、そして垣根帝督の忘れ物カルテット。

 

蛍光灯の消えた廊下の行く手を照らすのは、非常灯と窓から差し込む月明かりだけ。

キュッキュッ、と四人の上履きの音だけが鳴り響く。

四人は今、職員室を通過しようと歩いていた。

 

「分かってても、やっぱりちょっと不気味だね。こうして歩いてみると……」

 

「夜の学校って、何か独特の雰囲気があるからなぁー」

 

薄暗い廊下を歩みながら、なのはとはやてが呟いた。

やがて一行は職員室の手前に差し掛かる。

廊下の十メートルほど先に『職員室』と記されたプレートが壁から突き出ているのが見えた。

そのプレートを見た瞬間、なのはがふと、ある事を思い出した。

背筋がヒヤリとし、思わず立ち止まってしまった。

 

「なのは、どうしたの?」

 

フェイトが訊いてくる。

なのはは、唾を飲み込んでから、言う。

 

「う、うん……。ちょっと、嫌な事思い出しちゃってね……」

 

そこへ垣根帝督が口を挟む。

 

「一年生の時に授業参観でウ●コ漏らした事か?」

 

「うん、わたしの今までの学校生活にも人生にも、そんな過去無いから!勝手に捏造しないよーに!っていうか、冗談にしても女子に言う事じゃないよね?デリカシーって言葉知ってる?もしくは学園都市に置いてきた?」

 

「冗談だよ」

 

「当たり前でしょ!本気だったら、わたし本当に怒るからね!?」

 

最低最悪の低俗な冗談をぶっ込んできた垣根に、なのははキレ気味にツッコんでから、彼女は続けた。

 

「もう……。思い出したっていうのは、あの事だよ。フェイトちゃんとはやてちゃんも、一度は聞いた事あるでしょ?例の『学校七不思議』みたいなの」

 

「学校七不思議?」

 

首を傾げて、垣根は怪訝な声を発した。

実は……、となのはは話し始める。

無意識に、つい抑えた声色になって。

 

「実は、この学校にもあるんだよね。トイレの花子さんとか、恐怖の十三階段とか、要するにそういう怪談が」

 

「はー」

 

垣根は恐れた様子はやはり皆無で、興味の無さそうな返事をした。

なのはは続ける。

 

「まあ、ウチの学校では最近になってから噂されだしたみたいだけど、要するにこの学校のあちこちで、怪奇現象が目撃されてるんだって。垣根くんも学園都市でそういうの、聞いた事あるでしょ?」

 

「まあ、七不思議っつーよりは、都市伝説ならな。まあ大概は与太話に過ぎねえが。怪奇現象、ねえ……」

 

ここでは割愛するが、綺麗に整備された学園都市にも、色んな怖い噂はある。

 

「それで、その怪奇現象の数も七つらしくて、だから七不思議。で、その中の一つが職員室の話もあって_」

 

_内容はこうだ。

 

深夜、誰もいないはずの職員室から誰かの咽び泣きの声がする。

十年前、同僚のイジメが原因で自殺した教師が、怨めしい、怨めしい、と泣いている……。

 

怪奇、職員室の咽び泣き……。

 

「_っていう、話なんだけど」

 

と、なのははフェイト達に顔を向けると、

 

「はん。くだらねえ」

 

垣根が退屈そうに吐き捨てた。

 

「大体よお、その咽び泣きを聞いたヤツはいるのかよ?」

 

「……その十年前の同僚のイジメとか、自殺とかも、本当にあったのかな?」

 

「ホンマなら、怪奇現象よりそっちの方が知られてると思うんやけど…… 」

 

彼に続く形で、フェイトとはやても言った。

 

「あー、それは……」

 

真っ当な反論になのはも口ごもる。

この手の話は、直接の体験者が誰だか不明というのが通例で、噂の出所は常に判然としない。

 

「どうせいねえよ。んなもん聞いたヤツなんざ。つまり咽び泣きも嘘っぱち、デマって訳だ」

 

「んー、でも、ひょっとしたら似たような事とか_」

 

と言いかけたはやてを遮り、垣根は強引に話を打ち切る。

 

「ねえっての。くだらねえ事言ってねえで、さっさと教室に行こうぜ」

 

その時だった。

 

うう……、うう……。

 

不意に聞こえた。

咽び泣きの声が。

サーッと顔を青ざめた高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやて。

忘れ物カルテットの垣根帝督以外は、一気に顔面蒼白になった。

 

うう、うう……。

 

声は、間違いなく職員室から聞こえてくる。

 

「か、垣根くん……、今のって?」

 

震える声で、なのはが言う。

反射的になのは達三人は、唯一動じていない垣根にすがり付くように寄って集っていた。

垣根は僅かに眉をひそめる。

 

「……、何か聞こえたのは確かだな」

 

「な、何かの間違いじゃ……」

 

「でもさっき……」

 

とフェイトとはやてが呟いた直後、

 

うう……、うう……。

 

「……、職員室に誰かいるのは、間違いなさそうだな」

 

なのはは後悔した。

言うんじゃなかった。

話すんじゃなかった。

七不思議なんて。

 

(ほ、本当に咽び泣きが聞こえてくるなんて……)

 

が、垣根帝督は職員室の扉に向かって歩き出した。

彼は何故か小さく笑っている。

 

「ちょっ、帝督くん!?何で職員室のドアに向かうん!?」

 

はやてが彼の左腕にすがり付いたまま尋ねる。

 

「折角だ。その咽び泣きの正体を暴こうじゃねえか」

 

「で、でも、本当に自殺した教師とかだったら……?」

 

と、フェイトが垣根の右腕を掴んでしり込みする。

しかし彼は鼻で笑った。

 

「ハッ。ばーか、実際の死人が口聞くかよ。あそこにいるのは生きた人だよ。そうでなきゃ、噂を本物にみせたい誰かが仕掛けたスピーカーか何かだな。いずれにせよ、幽霊の類いなんかじゃねえよ」

 

「でも……」

 

「大体、怪奇現象やらのオカルトを、学園都市第二位のこの俺が恐れて堪るかってんだ」

 

背中にすがり付くなのはの制止を振り切るように、自信に満ちた垣根帝督の言葉をきっかけにして、四人は職員室に向かって足を踏み出す。

じわりじわりと職員室に近付くにつれ、咽び泣きの声は大きくなっていく。

そして、引き戸の前に到着した三人。

垣根が引き戸に手をかけて、いまだに鬱陶しくへばり付いているなのはとフェイト、はやてに告げる。

 

「じゃ、開けるぞ」

 

引っ付き虫と化した三人は同時に頷いた。

一呼吸置いて、垣根帝督はスパァン! と引き戸を勢いよく開け放つ。

 

「あ、悪霊退散!!」

 

「南無阿弥陀仏!!」

 

「じ、ジュゲムジュゲムゴコーノスリキレ!!」

 

と、なのはとはやてとフェイトは垣根を押し出すように盾にして、三人はてんでバラバラに叫びながら、職員室へ踊り込んだ。

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