魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter   作:戸礼太

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噂の真相

「は」

 

四人は、見た。

咽び泣きの主を。

 

「「「キャアアアッッ!!!!!?!?」」」

 

悲鳴を上げ、両手で顔を隠す、なのはとフェイトとはやての三人。

 

「は、」

 

続いて、垣根帝督は目を見開き、我が目を疑うような顔で視線を向けると、呻くように言った。

 

「服部……先生、だよな……?」

 

咽び泣きの主は、聖祥中学校の日本史教師、服部全蔵先生だった。

 

服部先生はキャスター椅子の上で膝立ちになり、オマケに下半身を剥き出しにして尻をこちら側に向けていた。

なのは達が悲鳴を上げた理由はそれだった。

しかも彼は、目に涙を浮かべ、手に座薬を摘まんでいる。

 

「や、何……やってんだ?」

 

垣根は、思い付いたありとあらゆるツッコミを抑え込み、とりあえず、一番訊きたい事を訊いてみた。

 

「いや、済まん。実は座薬を入れようと思ってな。もう痛くて痛くてタマんねーのよ、イボ痔が」

 

腹が立つほど呑気な声で服部は言った。

 

「そんなもん家で入れりゃ良いでしょうがよ」

 

垣根は語気を強めて当然の指摘をする。

 

「ま、そうなんだけどさ、実は俺、家の人には内緒にしてんだよね、自分がイボ痔だって事。だから座薬も職員室のデスクに入れてあんのよ」

 

「それで? 夜の職員室で、人知れず泣きながら座薬挿入ってか?」

 

と、後を垣根が引き取った。

 

「いやいや、垣根に高町達も、驚かせて済まんかったな」

 

ケツを出したまま詫びる服部に、ゴスッ!! と垣根は思い切り蹴りを入れた。

 

「別の意味で驚いたわ!!」

 

「どわぁ!?」

 

剥き出しのケツを蹴られた服部先生はキャスター椅子に乗っかったまま壁にドガシャア!! と激突。

床に倒れたイボ痔野郎に、垣根帝督はストンピングの嵐を降らせる。

 

「何が咽び泣きだクソボケ!!興味持って損したわ!!」

 

「わ!ちょ、馬鹿!ケツを何度も蹴るな!!イボ痔が_、ぐあああ!!」

 

……という訳で、七不思議の一つは、こうしてその正体を暴かれたのだった。

 

 

 

 

 

「……何が七不思議だよ。蓋開けりゃ、ただのイボ痔教師だったじゃねえか」

 

階段を上りながら、垣根帝督は吐き捨てるように言う。

 

「でも、まだ後六つあるからね。今のは偶々だったのかも」

 

となのはが言った。

四人は目的地の二年六組の教室へ向かっている。

 

「他には、どんな七不思議があるの?」

 

とフェイトが訊いてみると、なのはは記憶を辿りながら、

 

「他?えーっと……、そうそう。こんなのもあるよ」

 

 

_深夜、誰もいないはずの教室から、ラップ音が聞こえてくる……。

ポルターガイストか、天変地異の前触れか、怪奇、教室のラップ音……。

 

「て、いうの」

 

それを聞いたフェイトは、

 

「ラップ音って、チェケラッチョ、みたいなやつの事?」

 

「ベタ過ぎて逆に美しいなあ~」

 

はやてが間延びした口調で言うと、なのはが説明を続ける。

 

「ラップ音っていうのは、誰もいない部屋からガタガタと物音が聞こえてくる、一種の心霊現象の事だよ」

 

そこで垣根がくだらなさそうに口を出す。

 

「はん。ラップ音だろうが何だろうが、どうせまた正体は大した事ねえよ」

 

「でも、むしろ咽び泣きより、こういうものの方が、怖くない?」

 

となのはが垣根の顔を覗き見て告げた、その時、

 

ガタガタ……。

 

音がした。

廊下を進んでいた四人の足がピタリと止まる。

 

ガタッ、ガタガタ……。

 

間違いなく、聞こえるラップ音。

しかも、音源は六組の教室からだ。

 

「垣根、くん……」

 

「垣根……」

 

「帝督くん……」

 

気が付くと、なのはとフェイトとはやては再び、垣根帝督の背後に回ってへばり付いている。

 

「……、お前等さあ、腕利き魔導師の局員の癖に、いちいち怖がるなよ。あと俺を盾にするな」

 

「こ、怖がってなんか……ない、よ」

 

「そそうだよ。怖い訳じゃ……」

 

「……ただ、万一の時は、帝督くんが鉄壁になるかなーって」

 

「結局、盾扱いなんじゃねえか」

 

鬱陶しそうな顔で言いつつ、教室の前に到着した垣根を先頭にした四人。

引き戸に手をかけると、なのは達は大きく深呼吸し、そして、垣根が一気に開け放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、いた。

 

ラップ音の正体が。

 

「……、」

 

絶句する垣根帝督。

 

「こ、これは……」

 

呻くように声を発したフェイト・T・ハラオウン。

 

「え、ええ……?」

 

目を疑う高町なのは。

 

「な、……何、してん……の?」

 

垣根にへばり付いたまま、呟いた八神はやて。

 

 

 

忘れ物カルテットが見たものは、とある一人の男子生徒。

そいつは床に膝を付き、とある女子生徒の椅子に頬擦りをしている。

 

「アリサさーん、んふっ、んふっ」

 

アリサ・バニングスの椅子に頬擦りしているのは、言うまでもなく、近藤勲だ。

彼が椅子を抱き抱えるようにして頬擦りをし、その時に椅子の足と床が擦れてガタガタと音が鳴っている。

 

つまり、これがラップ音の正体だった。

 

「……、テメェ何やってんだよ」

 

垣根帝督が、眉をひそめて軽蔑の声を発した。

近藤はそこでようやく、忘れ物カルテットの存在に気付く。

 

「か、垣根!?た高町さん達まで、どうして!!」

 

「どうして、じゃねえよ。こっちのセリフだコラ」

 

「夜の教室で、女子の椅子に頬擦りって……」

 

はやての一言を継ぐように、垣根が言う。

 

「お前の青春、それで良いのか?」

 

近藤は必死になって、垣根達に弁解し始めた。

 

「ち、違うんだよ!!実は俺、将来椅子を作る職人になりたくて、その……材質チェックをしてて……」

 

説得力ゼロの言い訳。

なのはとフェイトが言う。

 

「……材質チェック?」

 

「ほっぺで?」

 

「あ、ああ、ほっぺで。ほっぺが一番木目の風合いを感じやすくてな」

 

「いやいや。近藤、材質チェックすんなら、ほっぺじゃなくて頭だよ」

 

垣根は言って、手近な椅子を一つ持ち上げる。

 

「は?頭って……?」

 

狼狽える近藤勲の頭に、

 

「こんな風にな!」

 

と、垣根は椅子を振り下ろす。

ガツン!! という音と共にギャン!? と悲鳴を上げ、床に引っくり返った近藤。

ぶちギレた垣根帝督は、そんな彼に対して椅子と蹴りのストンピングの嵐を浴びせる。

 

「ふざけんな!死ねボケ!何がラップ音だ変態野郎が!!」

 

「ちょ!?やめ!!マジで!!ごあっ!!ぐ、ぐあああッッ!!」

 

……と、こうしてまた一つ、不思議が解明されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、何が七不思議だ。どれもこれも変態オチじゃねえか」

 

と、キレ気味に言っているのは、やはり垣根。

 

「この学校、本当に名門私立か?実は馬鹿田大学附属中学って言われた方が、まだ納得できるぞ」

 

「あはは……」

 

苦笑いするなのは。

実際、二回連続で酷いオチだったのだから仕方ない。

四人は教室でノートと『ジャンプ』を回収した後、帰るべく歩を進めていた。

 

「まあ、とにかくこれで四人とも目的は果たしたし、早く帰ろう」

 

「うん、そうだね」

 

フェイトに同意したなのは。

何も起こらずとも、夜の学校は不気味なのだ。

長居は無用。

 

「ちょい待ち」

 

だが、そこへはやてが口を挟んだ。

 

「は?」

 

「「え?」」

 

と、立ち止まる垣根となのはとフェイトに、はやては続けた。

 

「まだ七不思議は五つ残っとるで。こうなったら残り全部も解明してみいひん?」

 

「は、はやてちゃん。それ本気で言ってるの?」

 

「本気や。『本気』と書いて『マジ』や」

 

「やりたきゃお前だけ行け。んなかったるい事できっかよ」

 

垣根が却下する。

 

「でも、残り五つの中には、本物の怪奇現象か何かあるかもしれへんで?ハッキリさせてみよ?」

 

と、はやては食い下がるが、垣根はにべもない。

 

「ねーよ。本物なんか」

 

「分からへんやん」

 

「だからねえって。賭けても良いぜ」

 

彼は言って、せせら笑う。

 

「残り五つもどうせ、ロクなオチじゃねえよ。クソみてえなのに決まってる」

 

「ほな賭けよか。もし残り五つの中にホンマもんがあったら……」

 

「あったら? 何だよ」

 

垣根は挑発的に言う。

そんな彼に、はやてはビシッと告げる。

 

「今日から『ていとくん』て正式に呼ばせてもらうで!」

 

「それだけ?」

 

と、フェイトが呟いた。

対する垣根はニヤリと薄く笑って、

 

「上等だコラ。じゃ、逆に全部クソつまんねえオチだったら……」

 

「何なん?」

 

「来週の『ジャンプ』を奢れよ」

 

「それだけ?」

 

と、今度はなのは。

 

「ええで!」

 

「よっし、言ったな」

 

等とチャチな賭けに盛り上がり始めた二人に、フェイトは少し慌てて口を出す。

 

「ち、ちょっと待って。二人とも本気なの?本気で今から七不思議を調べに行くつもり?」

 

「勿論だ」

 

「勿論や」

 

「で、でも_」

 

なのはの声を遮り、垣根は言う。

 

「やるからには、きっちりこの俺が正体を暴いてやる。そうすりゃもう、こんなくだらねえデマも根絶できるぜ」

 

「いやいや。この世の中には、まだまだ不思議な事があるんやで?」

 

ある意味当事者である。

もしかしたら、魔法絡みの珍事かもしれない、と思っているらしい。

もしそうだったとしても、一応怪奇現象と言えるだろう、というのがはやての考え。

だけど、となのはは主張する。

 

「どっちにしてもね、何もわたし達が調べなくても良いんじゃないの? もう、わたしとフェイトちゃんは付き合わないからね?行くなら二人でどうぞ」

 

しかし、そうは問屋が卸さない。

 

「馬鹿。お前等も付き合え。大体、お前等はこの、聖祥大附属中学校七不思議を解明する為に、この世に生を受けたんだろうが」

 

「「そんな訳無いでしょ!!」」

 

「まーまー二人とも。乗りかかった船や。旅は道連れ世は情けやで♪」

 

「屁理屈だよ!」

 

「今は関係無いよ!」

 

拒むなのはとフェイトだが、相手が垣根帝督と八神はやてだと分が悪い。

結局、宥められ、空かされ、小突かれて、ついでにからかわれて、その他諸々、色々された挙げ句、

 

「「もー……、分かったよ。付き合います。付き合えば良いんでしょ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_が、

 

最初のが座薬挿入教師で、次が変態椅子男だった事から、この忘れ物カルテットの七不思議解明ツアーは、次々とお馬鹿な真相を明らかにする事になった訳だ。

 

例えば不思議の一つ、『深夜の音楽室から聞こえるピアノ音』というのは、魅神聖が何故か夜中にピアノ演奏していたのが真相で、

 

「いや何やってんの!?しかも、それは何の為の練習!?」

 

「おお、なのは達!!奇遇だな。……と、何故垣根がいる!?」

 

「いや、こっちのセリフだからね?」

 

と、眉をひそめるフェイト。

 

「いやはや、実は夜にピアノの演奏がオレの一日のルーティーンなんだが、家の飼い猫がピアノに粗相してね。直るまでここを利用させてもらっているんだ。勿論、学校の許可はもらってる」

 

「猫がピアノに小便でも引っかけたか?」

 

「いや、ウ●コだ」

 

「ウ●コかよ!ピアノより先に猫の躾を何とかしろよ」

 

「まだ子猫だから仕方なかろうが!あ、それよりなのは達、良かったらオレと連弾してみないか?何、優しく教えるからさ♪」

 

「「「結構です」」」

 

と、音楽室に踏み込んだ三人娘のトリプルツッコミ。

 

 

 

次の『家庭科室の黒魔術師』。

家庭科室に夜な夜な毒薬を調合する黒魔術師が出現する、というのだが、土方十四郎が新しいマヨネーズを作る為に研究をしていた、というオチで、

 

「家でやれよ」

 

と、垣根の冷めたツッコミ。

 

 

『体育館に潜む殺人鬼』。

深夜の体育館で殺人鬼が包丁を振り回している、等という話だが、結局は、

 

「ふんっ!ふんっ!!」

 

と、バドミントンのラケットを素振りしているクラスメイトの山崎退の事だった。

 

「家でやれっての」

 

「何で皆、いちいち夜に学校でやってるの」

 

垣根となのはの投げ遣り気味なツッコミ。

 

 

そして『飼育小屋に現れる巨大生物』なんていうのは、夜な夜な小屋の周りを溜まり場に集まった野良猫が、月明かりで大きくなった影だったり光る猫の眼だったり、というのが実際らしく、

 

「不思議でも何でもないね」

 

フェイトもやっつけ感満載の一言を発した。

 

 

ともあれ、七不思議の内の六つはこんな具合で解明されたのだった。

 

 

「さて、これでいよいよ最後の一つだ」

 

と、階段を上りながら、垣根は告げる。

一行が今向かっているのは、校舎の屋上。

 

『深夜の屋上に現れる男子生徒の亡霊』という、受験勉強を苦にして自殺した生徒という設定らしいが、これを解明したら、ようやくこのツアーもお開きとなる。

不思議の正体を求めて学校中を歩き回った挙げ句、どれもこれも馬鹿馬鹿しい真相で、流石に四人とも疲れてきた。

 

「だが」

 

と、垣根はにやつく。

 

「どうやら賭けは俺の勝ちだな。全部、怪奇現象でも何でもないんだから」

 

「むー、でもまだ、ラスト一個があるんやで?」

 

と、はやては返すが、なのはもフェイトももう賭けは垣根の勝ちだと確信している。

というか、逆に本当だったら嫌だ、という気持ちなのだが。

スチール製のドアノブを掴み、垣根は緊張感の無い声で、

 

「じゃ、行くぞ。どうせ大した事ねえだろうがな」

 

そうぼやいてドアを押し開けた。

そして、開いた直後に四人にヒュゥ、と風が吹き付け、見えた。

 

正面、十数メートル先。

屋上の端っこ。

そこには、一人の人影が。

 

「出たっ!?」

 

「え!?」

 

「嘘!?」

 

「……、」

 

月明かりが人影を照らし、その正体が露になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブーメランパンツ一丁の、ドレッドヘアでサングラスの黒人マッチョマン。

何故か右手がサイコガンになっている。

そう、彼は、学園都市暗部組織『スクール』の正規要員の一人_、

 

「何してんだ金丸テメェッッ!!」

 

怒声と同時に、垣根帝督は小脇に抱えていた『ジャンプ』を思い切り投げ付ける。

ゴスッ!! と金丸の顔に命中した『ジャンプ』。

 

「「「えええ……ッ?」」」

 

別の意味で驚愕する三人。

 

……垣根に耳打ちで事情を話した金丸曰くは、どうやら垣根のサポートとして学校の警備員に紛れていたらしい……のだが、

 

「警備する側の方が怪しいよね!?」

 

「な、何で、潜り込めたんだろう……」

 

「ていとくん……知らなかったん?」

 

「知らなかった……、って、ていとくん言うな。つー訳で、賭けは俺の勝ちだからな。八神」

 

「えー、ある意味怪奇だったやん」

 

「ダメだ。ありゃ亡霊じゃなくて生きてるんだから」

 

そこで、なのはが垣根に言う。

 

「でもこれ、原因の一端は垣根くんにあるんじゃ……」

 

「知るか。文句は金丸の馬鹿に言え」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の学校を出て、忘れ物カルテットは並んで歩いていた。

 

「……あ、金丸のヤツにぶん投げた『ジャンプ』忘れて来ちまった」

 

街灯の明かりが落ちる歩道で、フェイトがふと、垣根帝督に問う。

 

「垣根、これからどうするの?」

 

「帰って寝るに決まってるだろ」

 

と言って言葉を切り、垣根は思い出したように言う。

 

「……いや、コンビニ寄って『ジャンプ』買わねえとな」

 

それを聞いて、フェイトはクスッと小さく笑う。

 

「結局、同じのもう一冊買う事になったね」

 

「うるせえ馬鹿。あ、そうだ八神、賭け勝ったんだから、『ジャンプ』奢れよ」

 

「嫌や。奢るんは来週のやろ?」

 

「じゃあ高町、奢れ」

 

「何で!?わたし関係無いよね!?」

 

「散々夜の学校にビビってた癖に」

 

「び、ビビってなんか……ないよ!」

 

こうして道中、腹いせの如く垣根にからかわれ、弄られた高町なのはだった。




次話からは、pixiv既出のものをベースに、基本的には辻褄を合わせる為の多少の修正等に留めたお話になる予定です。

変な所は可能な限り手を加えるつもりですが、ベースがベースなので、内容的には退屈かもしれません。

悪しからず。
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