魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter   作:戸礼太

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一学期の終わり

七月下旬。

 

期末試験が終わり、一学期教科が終わり、清掃作業が終わり、そして今。

終業式の真っ最中だ。

この手の全校集会の定番といえば、教頭や校長の長ったらしい話である。

校長の話は長い。

その癖内容は薄かったりする。

校長自身の頭髪も薄かったりする。

既に一時間近く話は続いており、全校生徒の一割はウトウトしていたり寝ていたりしていた。

八神はやてもその一人だった。

クラス毎に横一列ずつに並んで席に座っている。

はやては目を擦りながら眠るのを我慢していた。

 

(この校長の話って、内容濃くも無いのにいつも長ったらしいんよねぇ。眠ぅなってまうわ…)

 

ふと、彼女は右側に目を向けた。

右端近くではアリサが眠そうにあくびを噛み殺していた。

なのは、すずか、フェイトは真面目に聞いているようだが、やはり眠そうだった。

そんな様子を見ていると余計に眠くなってくる。

はやては眠気を必死に我慢しながら左側を向く。

はやての左隣りには垣根帝督が座っているはずだった。

なぜ名簿順に並んでいるのに垣根ははやての左隣り、つまり一番最後の位置に居るかというと、彼が転入生だからというのが理由だ。

その為、垣根の名前は出席簿にも最後に後付けされている。

 

話が逸れた。

 

はやての左隣りに座る垣根帝督は背筋を伸ばして、顎を引き、姿勢良く真面目に校長の話を……聞いている訳が無かった。

彼は姿勢の良い座り方をして両目をつぶり、静かに熟睡していた。

器用な寝方をする男である。

 

(…ええ〜……)

 

それを見たはやては、驚き半分呆れ半分といった表情になる。

とにかく終業式は無事に(?)終わり、各教室では通知表が配布されている。

ちなみに成績は昔ながらの五段階評価で以下のとおりである。

 

垣根帝督

数学4

英語4

現国4

理科4

社会4

技術・家庭4

保健体育4

 

アリサ・バニングス

数学5

英語5

現国5

理科5

社会5

技術・家庭5

保健体育5

 

月村すずか

数学4

英語5

現国5

理科5

社会4

技術・家庭5

保健体育5

 

……と、ここまでは問題無い。

問題は魔導師組三人娘だ。

 

高町なのは

数学5

英語4

現国3

理科4

社会3

技術・家庭3

保健体育3

 

フェイト・T・ハラオウン

数学5

英語5

現国2

理科4

社会2

技術・家庭4

保健体育5

 

八神はやて

数学4

英語3

現国4

理科3

社会2

技術・家庭5

保健体育3

 

……と、理数系と文系の差が激しい。

 

この時間には何処の学校でも通知表や成績の見せ合いをするのが定番である。

垣根は乗り気じゃ無かったが、アリサから通知表を引ったくられた。

はやては垣根の通知表を見て意外そうな顔をする。

 

「あれ?意外やね。帝督くんはオール5やと思っとったんに」

 

「授業態度が悪かったからな」

 

「あら、自覚あったの?」

 

アリサが垣根に言う。

 

「一応な。サボったりもしたし」

 

「それでも5が一つも無いのは意外だね」

 

「そうだね。超能力者(レベル5)なのにね」

 

フェイトに同意しながら軽くボケてみたなのは。

 

「うまくねえぞ、それ」

 

「あう」

 

あっさり垣根にツッコまれた。

と、そこへ、二人の男子生徒が垣根帝督に近づいてきた。

 

「よー、垣根。成績どーだった?」

 

と、垣根に馴れ馴れしく話しかけたのは聖祥中の制服を適度に着崩し、不良に憧れてカッコつけてみたような今風な出で立ちの少年。

名前は古市貴之(ふるいちたかゆき)

 

「ゴメン、古市君がどうしても垣根君の成績見たいって聞かなくて」

 

もう一人は、制服を正しく着こなして眼鏡をかけ、特に特徴がなさそうな少年。

某漫画の駄メガネそっくりな容姿。

名前は志村新八(しむらしんぱち)

性格も某ツッコミメガネに酷似している。

彼らは最近、垣根帝督と話すようになった悪友のような立ち位置にいる。

 

「うわー、やっぱ垣根って頭いいんだなぁー!……それに引き替え俺達は…」

 

古市貴之

数学2

英語1

現国2

理科2

社会3

技術・家庭1

保健体育3

 

志村新八

数学3

英語3

現国3

理科3

社会3

技術・家庭3

保健体育3

 

垣根は二人の通知表を見てつまらなさそうに言った。

 

「お前の成績悪いのは単なる怠慢だろうが。自業自得だ。……志村は可も無く不可も無くだな」

 

「ま、そんな事より。これから俺達とどっか行こうぜ。せっかくの夏休みなんだし」

 

「聞けよ」

 

「でも古市君、成績不良者で今日は補習だよ?」

 

「あー!!そうだった!!」

 

古市はガックリとうなだれた。

 

(帰るか)

 

垣根はそんな古市貴志をどうでも良さそうに無視して鞄を持って教室を去ろうとした。

 

「待って垣根くん。わたし達と一緒に帰ろ?」

 

なのはが彼を呼び止めた。

 

「お前等は補習とか無いの?」

 

「うん、何とかね。でも国語の宿題普通より多くだされちゃって…」

 

彼女はそう言いながら苦笑いを浮かべる。

どうやらフェイトとはやても同じような状態らしい。

垣根はふうんと、興味なさそうに呟き、

 

「それはともかく、帰るんだったらさっさと行こうぜ」

 

「あ、僕も一緒に良い?」

 

「うん、良いよ。皆で一緒に帰ろう」

 

志村の問いにフェイトが了承する。

そこへ、魅神聖が教室に入ってきた。

 

「やあ皆。一緒に帰ろう」

 

ニコッと、笑いながらなのは達に近づく。

 

「うわ」

 

「出たよ、ウザイケメン野郎」

 

志村と古市は表情をこわばらす。

アリサとはやては疲れたようなウンザリしたような表情になる。

他の三人は困ったような苦笑を浮かべる。

そんな事には気づかない魅神は、垣根がなのはのすぐ近くに立っていることに気づく。

 

「あ!てめー垣根!!忠告してやったのに性懲りもなくなのは達に付き纏いやがって!!」

 

魅神はまくし立てるが垣根は面倒臭そうに聞き流した。

 

(付き纏ってるのはあんただよ)

 

と、志村は思ったがとばっちりを受けそうなので突っ込まなかった。

 

「おい!聞いてるのか!?クソッ、言葉で効かないなら体で教えてやる!!」

 

魅神聖は鞄から二本の木刀を取り出して、一本を垣根に投げ渡した。

というか、何で木刀を二本も携帯しているのか。

 

「屋上に来い、勝負だ。言っとくが能力は使うなよ」

 

それだけ言うと彼は立ち去った。

 

「俺、剣術なんてかじってもないし、チャンバラもやった事無いんだけど。つーか、何であいつ、木刀なんて携帯しているんだ?」

 

「相手にしなくて良いわよ、垣根」

 

「そうや、ほっといたらええ」

 

アリサとはやてが諭す。

 

「そうだな、こんなんに付き合ってやる義理なんざねえし」

 

ただ、と続ける。

 

「木刀は返すか」

 

しかし魅神は人の話を聞かず、古市が囃し立てた事もあって、結局勝負する羽目になった垣根帝督。

 

 

屋上で相対する垣根帝督と魅神聖。

後ろではなのは達が心配そうに見ている。

 

「オレが勝ったらもう二度とオレのなのは達に近づくなよ」

 

「じゃあ俺が「では行くぞ!!」聞けよ」

 

話を最後まで聞かずに魅神は切り掛かる。

だが彼の斬撃は垣根にヒョイヒョイとかわされる。

魅神聖の剣術はそれなりに高いが今は感情になり、一振り一振りがやや大振りになっている。

はっきり言って隙だらけだ。

勝敗は一撃で決まった。

 

垣根が放った棒蹴りが直撃したのだ。

 

 

魅神聖の股間に。

 

金!! という効果音でもなりそうだった。

 

「…─ッッ!!?〜〜ッッッ!!」

 

言葉にならない悲鳴があがる。

女性陣は思わず顔を背けたり、手で顔を隠したりした。

男二人は顔を青ざめた。

垣根はサディスティックな笑顔で悶絶している魅神に回し蹴りを腹にお見舞いし、ノックダウン。

 

「き、汚いぞ!」

 

「別に無理に白兵戦する必要はねえ。それに『手足を使うな』っつールールも無いから反則じゃねえ」

 

魅神は言い返す前に気絶した。

 

「終わった。じゃ、帰るか♪」

 

(((((((…ええ〜)))))))

 

垣根帝督以外の心の声が一致した瞬間だった。

 

 

 

 

 

その後。

垣根達五人の少年少女は、チンピラ共五人に絡まれていた。

 

「はいどーも」

 

「恵まれない僕達に愛の募金をよろしく」

 

「さっさと出せオラ」

 

「それが嫌なら連れてる女三人置いてけ。可愛がってやるからよぉ♪ヒヒッ」

 

垣根は首をキョロキョロとする。

 

「おめーだ!おめーっ!!」

 

オッス、俺の名前は垣根帝督。

 

「何勝手にモノローグ始めてんだコラっ!!」

 

「自己紹介はいーんだよボケッ!!」

 

ひょんな事から聖祥大附属中学校に通う事になった、どこにでもいる普通の超能力者(レベル5)の中学生だ。

 

「どこにでもいねーよ!!」

 

垣根のボケ倒しにチンピラ共がキレる。

 

「てめーすっとぼけてんじゃねーぞ!!ああっ!?」

 

「女と遊ぶ金ぐらい持ってんだろ!!」

 

「有り金全部出せオラッ!」

 

終業式が終わり、下校していた八人の少年少女達。

古市は教師に無理を言って補習を明日に延期させてもらった。

志村と古市達は、高町なのは達と初めて一緒に帰る事になったが、問題無く打ち解けた。

そして寄り道、というか商店街を少しブラブラしようとする垣根、古市達とそのまま帰るアリサ・バニングス、月村すずか、志村達は別れた。

 

高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやての三人は垣根達に付き合う事にした。

そして、それから二十分後。

つまり今に至るのである。

 

(まだいたんだ、垣根にカラむよーな奴ら…)

 

古市は呆れて苦笑しながら携帯電話を弄っていた。

なのはとフェイトとはやても苦笑しているが緊迫感は無い。

 

「参ったなー、最近(ATMから)おろすの忘れてたからな〜」

 

彼はそう言いながらポケットをゴソゴソと漁る。

そして垣根帝督の右手には───五十円玉が一枚、一円玉が二枚。

 

「……五十二円」

 

垣根が呟く。

チンピラ共三人が垣根の後ろから覗き見て同情の目で、

 

「うわぁ」

 

「気の毒」

 

「……」

 

垣根は右手に五十二円を握りしめて拳を握ってチンピラ共に振り向くとニヤリと笑い、

 

「五十二円パーンチ」

 

ゴボォッ!!

 

「ぼきんっ!!」

 

とりあえずぶん殴った。

 

その後チンピラ五人は垣根に漫画のようにタコ殴りにされ、路地裏のゴミ捨て場に無造作に放り捨てられた。

ちなみに垣根帝督は自分の手足の表面を『未元物質(ダークマター)』でコーティングして自身へのダメージをゼロにしていた。

 

「腹減ったなー」

 

「あ、終わった?」

 

時間はちょうどお昼時。

垣根のボヤきに古市が言う。

 

「そこの肉屋でミニメンチカツ(四十円)買ってこうぜ」

 

「そうだな」

 

「お、ええなぁ。あそこのメンチカツ美味しいねん♪」

 

はやてもそれに賛成する。

 

「あ、それ私も食べた事あるよ」

 

「わたしも」

 

なのはとフェイトも賛成のようだ。

……そして五人は無事メンチカツを手に入れ食し、再びブラブラ。

この間に垣根は金を卸しておいた。

卸さなければ彼の手持ち金は十二円なのだから。

 

余談だが、古市が『手持ち十二円って!幼稚園児でももう少し持ってるぞw』とからかってきたので垣根から

 

「十二円パーンチ」

 

「そげぶっ!?」

 

案の定ぶん殴られた。

この後、フェイトは急に電話で呼び出され(管理局関係)、はやては夕飯の食材の買い出し、残ったのは垣根と古市となのは。

 

「俺等も帰るか」

 

「そうだね」

 

「ああ」

 

垣根の提案に同意する二人。

古市は家の方角が違うためすぐに別れた。

 

垣根となのはが並んで歩いている。

不意になのはが彼に話しかけた。

 

「夏休み、楽しみだね」

 

「ん?ああ、そーだな」

 

「垣根くんは学園都市で夏休みはどうしてたの?」

 

垣根はつまらなそうに答える。

 

「クソ暑いから仕事が有るとき以外は自宅で食っちゃ寝だな」

 

そもそも彼は性格的に、自発的に行事や休暇を楽しもうとはしない。

気まぐれで街をふらついたり買い出しぐらいでしか外出もしない。

 

「そうだったんだ。じゃあ、今年の夏休みは皆で一緒に楽しもうね!」

 

なのはは満面の笑みで垣根に向き直る。

 

「……気が向いたらな」

 

垣根は一瞬返事するのを躊躇った。

 

この夏、垣根帝督は五人の少女達(特に三人)と二人の少年達に日々振り回される事になる。

 

 

 

…………その日の夜。

垣根の携帯電話に一通のメールが受信された。

 

内容は、

 

From:アリサ・バニングス

 

『三日後みんなで海に行くから明日そのための買い出しに行くわよ。

ちなみに拒否権は無いから♪

明日の午前10時に近くのショッピングセンターに集合。

P.S.時間厳守!! 』

 

 

「…………、嫌な予感がする」

 

垣根は自分の第六感がそう告げていたが、敢えて深くは考えずにそのまま寝る事にした。

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