魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter 作:戸礼太
夏休み初日の朝、海鳴市で最も大きなショッピングセンターに五人の少女達がいる。
順に詳しく紹介していこう。
まずこの世界観、原作での主人公。
高町なのは。
服装はオレンジ色の半袖シャツにブラウンのミニスカート。
フェイト・T・ハラオウン。
薄手の黒い半袖にブルーのパンツ。
八神はやて。
白いブラウスに黒いミニスカート。
アリサ・バニングス。
赤いタンクトップに青いホットパンツ。
月村すずか
紺色の半袖ワンピース。
皆夏らしい恰好だ。
と、そこにアンニュイな足取りで垣根帝督が歩いてきた。
彼の服装は白いシャツにグリーンの長ズボンだ。
「あ、帝督くん。こっちやで〜♪」
垣根に気付いたはやてが、彼にむけて笑顔で手を振る。
続いてなのはとフェイトも垣根に向かって笑顔で手を振る。
到着した垣根にアリサが不満そうに言う。
「遅かったわね、もう皆揃ってるわよ?」
「定刻通りだろーが、お前等が早いんだよ」
時刻はちょうど午前十時。
待ち合わせ時間ピッタリだった。
「さ、とにかく全員揃ったし買い物に行くわよ!」
「「「「おー♪」」」」
垣根以外が呼応する。
(テンション高いな、こいつ等)
ショッピングセンター内を歩きながら垣根はなのはに尋ねた。
「買い物買い物っつってるけどよ、何買うんだよ?」
「水着だよ♪」
「ああ?」
なのはは爽やかな笑顔で答えた。
それを聞いた瞬間、垣根帝督の目が点になった。
「……、悪いがもう一度言ってくれるか?」
「水着を買いに行くんだよ♪」
「え?何だって?」
「だ、だから水着を買いに……ね?」
「済まねえが、もう一度言ってくれるか」
片眉を上げながら、静かに尋ねる垣根。
「え、えっと……、み水着を……」
言いながら、そろそろなのはも垣根の爆発を予期して、青ざめ始めている。
そこへはやてが、空気を読まずに彼の左手を握ってきた。
「だから水着やって言うとるやん♪」
はやての行為に少し驚くが、垣根は呆れきった顔をして彼女の手を振りほどくと、回れ右をしてスタスタと歩きだす。
「帰る」
「え!?ち、ちょっと?垣根!?」
フェイトが驚きながら垣根を呼ぶが、彼は立ち止まらない。
すずかが垣根の肩を掴んで引き止めた。
「待ってよ垣根くん!急にどうしたの!?」
「決まってんだろ、帰んだよ。何で俺がテメェ等の水着選びの為だけに付き合わなきゃならねえんだよ」
アリサがニヤニヤしながら垣根に言う。
「どうせアンタ水着なんて持ってないんでしょ?だからアンタも買う必要があるから、どの道付き合ってもらうわよ」
確かに娯楽等とは希薄な人生を送ってきた垣根帝督は、少なくとも今は海パン一枚持っていない。
必要が無かったからだ。
しかし今回はどうだろうか。
海に行くのだから必然的に海水浴をするのだろう。
となれば水着は必需品だ。
だが、
「何で俺が、お前達と海水浴に行く前提になってんだよ」
「え、でも『友達』と夏休みにどこかへ遊びに行くのは普通だよね?」
フェイトが微笑みながら口を挟んできた。
「お前『友達』ってワードを使えば、俺が折れるとでも思っているのか?大体、殆ど女だけの集まりに加わるなんざ、アウェー感しかねえし嫌なんだが」
当然のようにゴネる垣根。
このまま断ろうとするが、そう簡単に逃す気はない。
「ああ、それなら大丈夫だよ」
と、なのは。
彼女は続ける。
「今回、志村君と古市君も行く事になって、都合が合えばユーノくんとクロノくんも行ける事になったから♪」
偶然なのか予防策なのかは分からないが、これでいよいよ断る理由が、ただ面倒臭いから行きたくないぐらいしか残らなかった。
確かなのは、垣根帝督が誘いを素直に受ける訳がないのを、五人とも予想していた事だ。
垣根は溜め息を吐き、
「……はあ、もう分かったよ、自分のを買うついでに付き合ってやる」
最近、彼女達のペースに呑み込まれがちなのが何だか癪だったが、これ以上は無駄だと思い、思考を一度打ち切る。
「そうこなくっちゃね♪」
アリサは満足そうに言った。
そして数十分が経過。
垣根帝督は適当にありきたりな黒色のズボンタイプの海パンと上に着る柄シャツを購入。
だが、ここからが長い。
女子達による水着プチファッションショーがスタートしたからだ。
垣根は当然退場しようとしたが、なのは達に捕まり女性用水着売場に連行された。
「……いや、お前達同士で見せ合えば良いだろ?こんなとこに男の俺が居るのは居心地悪いんだが。変に悪目立ちとかしたくねえんだけど」
「大丈夫よ。アンタ顔は良いんだから、意外と違和感無いわよ」
「うんうん♪」
アリサの言葉にすずかも同意する。
「それじゃわたし達、色々なの試着してみるから、垣根くんも……意見ちょうだいね」
「俺の意見が必要か?」
「異性の……友達の意見も聞きたいの」
羞恥心で若干照れながらそう告げるなのはに、垣根は眉をひそめて言う。
「……自分で言って恥ずかしいなら言うなよ。異性の友達ならユーノとかで良いだろ」
「ユーノくんはまだ忙しいし、クロノくんは照れちゃって、エイミィさんだけで手一杯だから。それに、垣根くんは基本暇でしょ?」
「シバくぞお前」
そして更に数十分後。
薄々分かってはいたが、垣根帝督は全く役に立たなかった。
誰がどんな水着を着て見せても、
「良いんじゃねえの」や「似合ってる」ぐらいしか言わないからだ。
これは彼が無頓着だからということもあるが、決して不感症だったり鈍感だったりという訳ではない。こういうひねくれた性格なのだ。
故に自発的に『かわいい』という単語が出てこないのだ。
「ちゃんと意見しぃや、ていとくん!」
はやてが不満そうに僅かに頬を膨らます。
はやてに限らず皆不満そうだ。
垣根はくだらなさそうに言う。
「ていとくん言うな。……一応ちゃんと見て言ってるっつーの。大体、お前等全員ルックス良いんだから、よほど奇抜なものじゃない限り、何着ても似合うんじゃねえか?後は個人の好み次第だろ」
「身も蓋もない事を……」
「仕方ないわね。それなら、当日にアンタもグッと来るようなの選んでやるわ」
「ほな、当日楽しみにしててな。帝督くん」
「そうだね、フェイトちゃん一緒に選ぼ!」
(垣根くんをびっくりさせるんだから!!)
「うん」
(水着姿見せるの結構恥ずかしかった……)
垣根の提案により、結局それぞれ好みの水着を買ったそうな。
彼が何気なく彼女達の容姿を褒めた事には誰も気付いていない。
翌日。
ミッドチルダの首都、クラナガン。
そこに位置する巨大なショッピングモールの一角の、コスメ系ショップには中学生ぐらいの少女が三人と、本来はこの世界に存在しないはずの少年がいた。
「_んー、これ良い匂い。一つ買おかな?シャマルとシグナムの分もついでに……」
「……おい」
「このリップグロスは……、ちょっと派手かな。わたしには似合わないかも」
「あ、じゃあ、わたし試してみても良い?」
「……おいって」
無視されてムカつき、段々語気が強くなるが、三人娘はどこ吹く風といった調子だった。
それから更に数十分……数時間とモール内を転々とし、ショッピングを楽しむ三人と、その傍らか後ろに佇んでいる、不機嫌な一人。
「ふう……、後必要なものって何があったっけ?」
「靴とかはこの前買ったしね」
「あ、季節もののお洋服も見よか。次は服のコーナーに行くで」
と、なのはとフェイト、はやてが話していた所で、付き合わされている少年、垣根帝督が彼女達を制止するように怒った声で口を挟む。
「……おいっ!ちょっと待て!」
「んーどないしたん?もしかして、欲しい物でもあるん?」
はやてがニッコリと柔和に笑って垣根に訊いてきた。
だが、今の彼はその笑顔にすらムカついていた。
垣根は露骨に苛立った顔と口調で言う。
「ねえよ、欲しい物なんて。それより、いつまで買い物してんだ」
三人の両手や手首に目をやり、うんざりした様子で、吐き捨てるように続ける。
「もう結構買っただろ。まだ続ける気か?」
そう。
三人とも大きくはないが、両手に五つぐらいの紙袋をぶら下げている。
数時間も買い物をしていたのだから無理もない。
しかし、なのはが告げる。
「こんなのまだ序の口だよ。こうやって三人揃ってお休みに
「そうそう♪」
フェイトが相槌を打ち、はやてが続ける。
「それに、女の子には色々必要なんやで。折角やから、ていとくんもこの機会に勉強しよな♪」
「ていとくん言うな」
「特に、お仕事では交渉とか会議とかで人とよう会うわたしやフェイトちゃんもな~。あ、この香水、ええ香りでキツくないのもええね。一つ買おかな」
ツッコミを無視して、気に入った香水の小瓶を手に取るはやて。
垣根は呆れたように表情を緩め、溜め息を吐いた。
「はあ……。女の買い物が長いっつーのは本当の話だったのか」
と言った所で、改めてという感じで尋ねる。
「だが、一つ腑に落ちねえ事がある。この買い物に俺がいる意味があるのか?」
「えー、この前のわたしのお誕生日会の『埋め合わせ』してくれるって言うたやん♪」
「ちょっとくらい付き合ってくれても良いでしょう?」
「……それとも、はやてと二人きりが、良かったとか……?」
フェイトの一言に、えー! えー! 囃し立てるように好き勝手にハシャぎ始めるなのはとはやて。
「えー! ていとくん、わたしと二人きりでデートしたかったん?もー、それなら言うてくれたらええのに~。ほな、それはまた今度絶対しよな?」
「元々、はやてちゃんのお誕生日会の『埋め合わせ』だもんね。じゃあ、わたしとフェイトちゃんも、今年の誕生日は過ぎちゃってるから、今度わたし達にも付き合ってね♪」
「はやて、プレゼントのストラップ気に入ってたもんね。なのは、わたし達も楽しみだね♪」
と、これまた勝手に話を進められ、垣根帝督は苛立ちと呆れを織り混ぜたような表情を浮かべ、眉間にシワを寄せる。
彼はイラッと眉を動かして、相変わらず面倒臭そうな調子で言った。
「勝手に話進めんな。付き合うどうこうじゃねえよ。意味があるかどうかって聞いてんだ」
くだらなさそうに垣根は言い続ける。
「確かにこの前の『埋め合わせ』に、付き添うとは言ったが、それだけだ。言っておくがお前達の荷物なんて持つ気はねえ。俺が欲しい物もここには無い。いる意味が無いんだよ」
「え、あるよ。垣根くんがここにいる意味」
「はあ?」
なのはが即答し、垣根は訳が分からなさそうにする。
フェイトが続けた。
「ほら、わたし達って基本的に女所帯でしょ。だからたまにお買い物していると、男の子の意見も欲しい時があるの」
そしてなのはが再び告げる。
「それを聞く為にも、垣根くんには居てもらわなくちゃ困るんだよねえ」
「俺はお前達の買い物に意見する気もねえよ」
「そっか。所で、この青と薄いピンクの服なんだけど、どっちの方がわたしに似合うと思う?」
と言いながら、なのはが両手に持った二着の洋服を体に当てて尋ねてきた。
勿論、垣根は興味の無さそうな調子で答えた。
「知るかよ。自分で考えろ」
しかし、彼女は視線の僅かな機微を見逃さなかった。
「……ピンク色の方を見てたね。こっちの方が好みなんだ? うーん……そうだね、わたしもこっちの方が良いと思うし、これに決定っと♪」
「……チッ、何度か聞いてくるからおかしいとは思ったが、そういう事か」
してやられた感じがして、小さく舌打ちの音を立てた。
「人の事を勝手に判別機にするな。大体、男の意見っていうなら俺でなくても良い。つーか、それこそこういうのはクロノやらユーノやらに付いていってもらえよ。何なら魅神ってヤツに。そいつの方がよっぽど、協力的に買い物に付き合うだろうぜ」
「それはダメ。クロノもユーノも相変わらず忙しいし、迷惑はかけられないよ」
「魅神君も連れて行けないよ」
と、フェイトとなのはは即座に却下してきた。
「あん?どういう事だ?」
垣根は怪訝な声を発するが、はやてはヤレヤレといった調子で言う。
「魅神君とは今まであくまで同僚兼同級生やったのに、お買い物に連れてもうたら、その関係が崩れてまうやろ。一度崩れたら、もっと行けるかもって思われるかもしれへんし」
再びフェイトとなのはがそれに続く。
「うん。だから変に気を持たせたくないから、あの人は連れて行けないの」
「そうなると家族以外で、一番暇にしていて
「はあん。そんなもんか。……つーか高町、一番暇にしているは余計だし、迷惑かけても良いってどういう事だコラ」
一応、事情には納得しつつも一言余計ななのはにツッコんだ。
「……それに、こういう大事なお買い物は、信頼できる相手と一緒じゃないとできないよ」
「わたし達が言うてる事、分かる?帝督くん……」
穏やかで柔らかな声色で告げたなのはとはやては、柔和な笑顔で垣根を見つめていた。
包み込むように大人びた優しさと年相応の可愛さを内包した少女達は、見る者の目を離させないほどとても魅力的に見えた。
「信頼できる相手か。お前等_」
垣根帝督は、柔和に微笑む同級生の美少女達に、ゆっくりたっぷりと間を置いて、答えた。
「……何言ってんだ。俺みたいな悪党が信頼できる相手に見えるのか?」
彼は呆れ果てたような顔で、そう言ってきた。
「いよいよ買い物のし過ぎで、頭でもバグったのかよ」
「……もー、ちょっとくらいビックリしたり、ときめいたりせえへんの?」
「……いっそ清々しいくらいに、全く戸惑ったりもしないね」
はやては不満そうに、僅かに頬を膨らます。
なのはも、流石に動じないばかりか、毒吐かれて言い返されるとは思わなかったらしく、苦笑いを浮かべる。
そこで、同じく苦笑していたフェイトが垣根に言う。
「あはは……。でも、簡単にこういう事を言う相手には気を付けてね。垣根には必要無さそうだけど」
「当たり前だ。この程度で動じる俺じゃねえ」
垣根は何処と無く自慢気に答えると、それより、となのは達に、
「で、まだ買い物は続けるのか?いい加減飽きてきたんだが……」
「勿論♪」
「まだまだこれからだよ♪」
「最後まで付き合ってもらうで、ていとくん♪」
「ていとくん言うなっての」
なのはとフェイトとはやては、今度こそ含み笑い無しで悪戯っぽく笑いかけてきた。
「仮にも『埋め合わせ』を言い出しっぺなんやから、それはまっとうしてな~♪」
「そうそう♪」
「無理に荷物持ちとかまではさせないから、後ろに着いてくるぐらいはしてね♪」
「……、分かったよ。早めに済ませろよな」
垣根は深く溜め息を吐くと、諦めたような声で答えた。
それを聞いた三人はニッコリ笑って、再び軽い足取りで歩を進め始める。
「善処するわ。ほな、次のとこに行こか」
結局この後も、じっくりこってり連れ回され、夕食まで付き合う羽目になったのだった。
「……、善処するっつってなかったか?結局一日がかりだったじゃねえか」
「だって、はやてちゃんもわたし達も、確約はしてないもん」
「これでも本当は、セーブして行きたかった所いくつか断念したんだよ?」
「せやで、感謝しいや」
ショッピングモールの最上階のファミレスで、ディナーを囲みながら口々に言ってくる三人のセリフに、疲れ切って椅子にもたれ掛かっていた垣根帝督は、耳を疑い思わず目を剥いた。
「マジかよ……。正気か、お前等……」
うげぇ、と表情を歪め、心底うんざりした声を発する垣根に、カルボナーラをつつきながらなのはが笑いかける。
「垣根くんも、折角ミッドチルダに来たんだから、もっと楽しもうとすれば良かったのに」
「……そもそも、行き先が
なのはの言葉に垣根は面倒臭そうに答えると、ピラフを食べているはやてが言う。
「そないなカタイ事言いっこなしやで?あくまで『お友達同士』で遊びに来とるだけなんやから」
「お前等、三人ともこの世界の公僕だって事、忘れてねえか?」
「大丈夫。滞在しているだけだし、逆に管理外世界にわたし達の家族も住んでたりもするんだし、それこそ違法行為でも働かない限り、基本的には平気なはずだよ」
ナポリタンを口にしながら発せられたフェイトの言葉を聞き、彼は深い溜め息を吐いた。
現役の捜査官二人と執務官が太鼓判を押すのだから、もはや何も言うまい、と。
垣根は余計な事を考えるのを止め、注文していたハンバーグステーキに手を付けるのだった。