魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter   作:戸礼太

45 / 57
海水浴

そして当日。

 

なのは、はやて、フェイト、アリサ、すずか、垣根、古市、志村、+α、は某所の大きな海水浴場に来ていた。

近くにバニングス家所有の別荘があり、彼等はそこで寝泊まりする予定である。

ちなみに+αとはとクロノ、エイミィ、ヴォルケンリッター達だ。

他の人々も休暇を取って来ている。

 

(随分と大所帯になったな)

 

と垣根は右腕にパラソル、左腕にブルーシートを持って思った。

冷静に考えれば、かなりの大きさと重量のあるパラソルを片腕で持っているのはおかしい。

しかも垣根は片手でパラソルを開くと、思い切りそれを投げ落として砂浜の地面に射し込んだ。

彼は普段からある程度体を鍛えてはいるが、能力で補助しているからできる芸当だ。

そしてブルーシートを引くと寝転がる。

垣根は上はアロハシャツ、下は海パンになっているが泳ぐ気ゼロである。

ちゃっかり能力で紫外線を遮断して日焼け防止もしている。

 

活字だと説明しないと分からない為、ここでまず五人の少女達の水着を紹介しておこう。

 

なのは。

淡いピンク色のビキニ。

彼女らしい可愛らしいデザイン。

 

フェイト。

黒いビキニ。本人は無意識だがセクシーな感じのデザインだ。

 

はやて。

肩が露出した白いビキニ。

本人曰く『これで帝督くんを悩殺や♪』とおちゃらけなのか本気なのかは分からない。

 

アリサ。

赤いビキニ。

腰にパレオを付けている。

 

すずか。

ブルーのワンピースタイプの水着。

本人曰く『胸囲の都合でこれしか無かった』との事。

 

夏休みシーズンという事もあって海水浴場はかなりの人々で賑わっているが、砂浜が広大な為好きな場所取りができる程度の余裕はある。

多過ぎず少な過ぎずといった感じだ。

既にアリサ、すずか、古市、志村、ユーノ、エイミィの六人は海に入ってはしゃいでいる。

 

「隣、良いかな?」

 

不意に声が聞こえた。

垣根は眠そうに目を開けるとそこにはなのはがいた。

 

「んあ?ああ、好きにしな」

 

「うん♪」

 

彼女は垣根の側に座った。

すると垣根は寝転んだまま、なのはの身体をジロリと見つめる。

というか、腹の辺りを中心にガン見している。

 

「……?な、何……?」

 

凝視されて思わず、羞恥心で顔が赤くになるなのは。

そんな彼女をよそに、垣根は呟いた。

 

「……傷痕は残ってないようだが、やっぱ後遺症はあるのか?」

 

「え?」

 

そう言われて彼女は急に冷静さを取り戻した。

 

「この前聞いた。お前、三年ぐらい前に撃墜されたんだってな。しかも過労が原因で」

 

「あ、うん。日頃の無茶が祟ってね……。一時はもう二度と飛べないだろうって言われたりもしたんだけど……」

 

なのはは、どこか済まなさそうに語る。

 

「必死にリハビリして復活。今に至るってか」

 

垣根が言う。

 

「まだ、空を飛ぶのも魔導師を続けるのも、諦めたくなかったから」

 

「ふうん。まあそれで、また潰れたら元も子も無いがな。自業自得だが一回痛い目にあって学習はしたんだろ?」

 

「うん。わたし、今教導官を目指してるんだ。自分と同じ失敗を他の人がしないように、ね」

 

彼女は垣根の顔を覗き込むように見て、ニッコリと笑う。

 

「はー。まあ頑張れよ」

 

垣根は再び寝そべりながら、完璧に興味無さそうに答えると、なのはが彼の方を向いて不満を言う。

 

「あ、ひどーい。少しは興味持ってくれても良いのに」

 

「知るか。お前の人生だろ」

 

「もー、話振ってきたの君でしょ。帝督くん」

 

「馴れ馴れしいっての」

 

そんな他愛のない話をしていると、横から不意に声をかけられた。

 

「オイ、いつまでイチャイチャしてんだよ」

 

「あ?」

 

「えっ?」

 

古市の声。

二人が視線を上に向けると、遊んでいたはずの六人、いや、エイミィはクロノの所に行って、はやてとフェイトが加わっている為七人だ。

 

「「イチャイチャなんかしてねーよ(ないよ!)」」

 

ハモった。

古市が調子に乗って更に挑発する。

 

「お!ハモった。息ピッタリですな〜お二人さん♪」

 

「へ!?そ、そそんなんじゃないって!!」

 

赤面しながら分かりやすく動揺するなのは。

対照的に、垣根は鼻で笑いながら、

 

「ウゼェなキモ市。あ、八神、コイツ最近ロリコンの疑いが掛かってるからヴィータとリインには近づかせんなよ?」

 

口からデマカセを吐き、爆弾を投下した。

さっきまで面白くなさそうに見ていたフェイトとはやてを含め、女子が一斉に古市貴之から距離を取った。

 

「ちょっと!?なんで皆で俺から後退りしたの!嘘だからね?アイツが言ってるのは。俺ロリコンじゃねーし!!」

 

「でもオマエこの前公園で遊んでる幼女見てニヤけてたじゃねえか」

 

「真顔で嘘つくんじゃねーよ!!そして信じるな!!」

 

はやて達は既に古市から二メートル距離を取っている。

 

「近づかないでくれる、キモ市。いや、ロリ市」

 

ゴミを見るような視線でアリサが言い放ったその一言が止めとなった。

心が折れ、両手両膝をついた。

と、そこへ志村とユーノが彼の肩にポンと手を置く。

その表情は慈愛に満ちていた。

 

「大丈夫だよ、き……古市君」

 

「僕達は古市を信じてるから」

 

「お、お前達……!」

 

古市は最後の希望に出会ったと涙を浮かべる。

だがしかし、

 

「「だから自首してくれ」」

 

結果、悪乗りに悪乗りで返され、コテンパンにされた。

折れた古市の心は粉々に砕けたとさ。

その様子を、垣根帝督は邪悪にほくそ笑んで眺めていた。

 

 

 

 

 

垣根帝督は今だにパラソルの日陰で寝そべっている。

なのはもさっきまでは彼の隣に座っていたが、古市貴之が茶化した事がきっかけで、羞恥心に負けて離れ、今はアリサやフェイト達と遊んでいる。

 

「帝督さーん、私と一緒に遊びましょ〜」

 

という声が聞こえると同時に、俯せに寝そべる垣根の身体がユサユサと揺すられる。

彼が声のする方へ目を向けると、そこには垣根のすぐ側で彼の身体を揺すっている、薄紫色のフリルのついたワンピースタイプの水着を着たリインフォース(ツヴァイ)がいた。

その近くには赤いスポーティーな水着姿のヴィータが両手を腰につけて立っていた。

 

「……だってよヴィータ。遊んでやれ」

 

「イヤ、どう考えてもお前に言ったんだろ」

 

ヴィータは逃れようとした垣根にツッコむ。

 

「遊びてえんならあそこで愉快にハシャいでる八神達に混ぜてもらえよ」

 

「私は帝督さんと遊びたいんですぅ〜!」

 

リインは駄々っ子のように言いながら、うつ伏せの垣根に馬乗りになる。

 

「頼むよ垣根、リインの相手してやってくれ。リインの奴、今日お前に会うの楽しみにしてたんだよ」

 

(何でこいつ、俺にこうも絡みたがる?)

 

変に懐かれている気がするが、彼には心当たりが無かった。

 

「んじゃ、シャマルかシグナムに……」

 

「私達は荷物番だ」

 

と、もう一本差してあるパラソルの下には白いビキニ姿のシャマルと、なぜか競泳用水着を身につけたシグナムが座っていた。

垣根は茶化すようにうっすらと笑いながら、

 

「荷物番は俺がするから遊んできたらどうだ?スタイル抜群なお二人さん♪」

 

「な!?いきなり何を言いだすんだ!!」

 

「あら、ありがとう♪でも遠慮しておくわ」

 

シグナムは言われ慣れてないためか垣根の言葉に動揺したが、シャマルはおっとりした性格のせいかあっさりと返した。

結果として垣根帝督は退路を絶たれ、露骨に舌打ちをする。

 

「ぶぅ〜、遊んでくださいぃ〜!」

 

リインは馬乗りになったままぶーたれる。

そして、そのまま後ろから垣根の耳を引っ張った。

 

「_って、痛だだだだだだッッ!!?オイッ!やめろ!!耳引っ張んな!!分かった!!分かったよ!!分かったから!!一緒に遊ぶから放してくれ!!」

 

そう彼が叫んだ瞬間、リインはパッと手を離して喜ぶ。

 

「ワーイですぅ〜♪」

 

学園都市第二位の超能力者(レベル5)が、見た目年端もいかない少女に敗北した瞬間だった。

垣根は耳を押さえながら渋々立ち上がる。

 

「ゴネるからそんな目に遭うんだよ」

 

ヴィータは心底面白そうにニヤニヤと笑いながら垣根に言った。

 

「うるせえよ万年クソガキ」

 

「な!誰が万年クソガキだ!!」

 

たちまちメンチを切り合って言い合いになる二人。

が、リインが無視して笑顔で、

 

「早く遊ぶですぅ〜」

 

と垣根とヴィータの手を引っ張って行った。

その様子を微笑ましそうにシャマルとシグナムは眺めていた。

 

「ふふ、何だかまるで兄妹みたいね」

 

シャマル微笑みながらが呟く。

 

「面倒臭がりの兄と活発な妹達といった所……か。ヴィータが聞いたらきっと怒るぞ?」

 

シグナムも穏やかに言う。

 

「でも満更でもないかもね、ヴィータちゃんも」

 

ヴィータ本人も無意識だが、何だかんだ言って垣根帝督と打ち解けつつある。

垣根達は砂城作りやら水遊びやらに興じた。

大分不本意な上、死ぬほど自分には似合わない絵面だったので、終始ゲンナリした表情だったが。

途中、足をヤドカリに挟まれた垣根が怒ってヤドカリを大空へスパーキングするというハプニングもあったが、リインもヴィータも楽しく遊んだ。

その後、垣根はリタイアして再び寝そべり、リインはヴィータと遊んでいる。

 

寝そべっている垣根帝督の前に、数人の影が。

 

「ふーん、わたし達とは遊ばんかった癖にリイン達とは遊ぶんやなぁ」

 

「わたし達よりヴィータちゃん達と遊ぶ方が良いのかなぁ」

 

「わたし達が誘ったときは散々面倒臭がったのに」

 

「少しお灸を据えた方がいいかしら」

 

はやて、なのは、フェイト、アリサの四人は特に怒っていた。

もちろん誤解なのだが彼女達は知る由も無い。

 

「……うるせえな。そんなんじゃねえよ。ほら、こうして荷物番してやってんだろうが」

 

と言って指を差すが、わざわざ見張る必要があるほどの貴重品は持ち込んでいない。

殆どをバニングス家の別荘に置いてきたからだ。

 

「それより、どうよ?」

 

「あ?」

 

アリサがわざとらしくポーズを取りながら尋ねてくる。

垣根が怪訝な顔をしていると、すずかとはやてが、

 

「この前のお買い物の時言ったでしょ?折角だから、感想聞かせてよ」

 

「どや?ぐっときたやろ」

 

これまたわざとらしくポーズを取りながら尋ねてきた。

 

「あ、えっと……」

 

「どう……かな?」

 

なのはとフェイトは羞恥心が勝ったのか、恥ずかしがりながら照れ臭そうに尋ねている。

 

(恥ずかしいならノるなよ)

 

垣根は僅かに呆れて目を細め、仕方無さそうに彼女達の水着姿を見る。

確かに、端整でスタイルの良い容姿に合ったデザインの水着を纏っていて、この五人の少女達は周囲の目を引くほど魅力的だった。

単純に可愛い、綺麗、という評価以上の魅力だったのだが、垣根はそんな事は死んでも言いたくなかった。

 

「……ああ、まあ似合ってんじゃねえの」

 

「……それだけ?」

 

不満そうな声を漏らすアリサに、垣根は僅かに眉をひそめると、今度はあからさまに投げ遣りな調子で感想を言う。

 

「チッ。あーはいはい、可愛い可愛い。世界一カワイーよ」

 

「投げ遣り過ぎひん!?」

 

「正直期待はしてなかったけど、流石にテキトー過ぎないかな!?」

 

「あはは。やっぱり素直には言ってくれないか……」

 

「もー何よ、相っ変わらず朴念仁ね」

 

「素直じゃないよねえ」

 

口々に不平不満を垣根にぶつけるが、彼は飄々と受け流す。

 

「一応感想は感想だろ。それとも」

 

彼はジロリと見つめながら、ニヤリと笑って告げる。

 

「セクシーでそそるだとか、出るとこ出ててエロいだとか言って欲しかったか?」

 

「「「「「それはただのセクハラ!」」」」」

 

「んだよ。あー言えばこー言う」

 

「アンタに言われたくないわよ」

 

「つーか、そういうのはよ」

 

言って、垣根は視線を彼女達の少し後ろに逸らす。

 

「お前等の後ろでカメラ小僧やってる古市の馬鹿にでも頼んだらどうだ?あいつなら、喜んで誉めちぎってくれるだろうよ」

 

一斉に振り向くと、いつの間にか、古市がデジカメを構えて何枚もなのは達の水着姿を撮影していた。

おそらく、後で売り捌くつもりなのだろう。

 

「はあ!?って、コラ!!何勝手に写真撮ってんのよ!!そのカメラ渡しなさい!!」

 

怒ったアリサが古市に向かって走り出し、古市も全力疾走で逃げ回る。

その隙に、垣根は立ち上がって別荘の方へ退散するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一行は今、バニングス家が所有する別荘に居る。

 

夕食は少女五人特製の夏野菜カレーだった。

 

カレーは大好評で、特に古市と志村は『女子の料理』を食べられたという事だけでも非常に喜んでいた。

そして食後、何故か垣根にだけ味見して欲しいものがあるらしい。

 

「……で、味見して欲しいのってのは?」

 

「私がつくったスクランブルエッグなんだけど…」

 

シャマルが遠慮がちに皿を持って現れる。

 

「羨ましいな〜垣根!こんな美人の料理が食えるなんて!」

 

古市は心底羨ましそうに言う。

志村も少し羨ましそうに垣根を見ていた。

だが、彼は少し前にシャマルの料理を目の当たりにした事があった。

怪訝そうに眉をひそめる。

彼女の料理は浮き沈みがあるが残念な事に、何故か不思議と絶対に“美味しく”はならない。

微妙な味付けならばまだ良いほうで、酷く失敗したときは殺人的なマズさを発揮する。

故に彼はこう言った。

 

「……大丈夫か?『暗黒物質(ダークマター)』じゃねえだろうな?」

 

「もう……そこまで酷くは無いわ」

 

シャマルの笑顔が引き攣る。

 

「最初の間は何だ?スゲェ嫌な予感がするんだけど」

 

その言葉には答えず、シャマルは皿を垣根の前に置いた。

 

「えっと……さあ、どうぞ」

 

テーブルに置かれた皿。

垣根の両脇から古市と志村が覗き込むが、その瞬間に目を見開いた。

 

「最初は玉子焼きを作ろうとしたんだけど、崩れて失敗しちゃったからスクランブルエッグにしてみたの」

 

しかし、皿の上に乗っているのは真っ黒い物体だった。

 

「……どっちも失敗してんじゃねーか。これは玉子焼きじゃねえよ、焼けた玉子だよ」

 

垣根帝督は露骨に嫌そうに顔をしかめる。

さらに彼は続ける。

 

「大体召し上がれって、何を召し上がれってんだよ?結局、暗黒物質(ダークマター)じゃねーか」

 

「で、でも、垣根くんなら、色々な意味で大丈夫かなーって……」

 

未元物質(ダークマター)』と『暗黒物質(ダークマター)』を掛けてるつもりらしいが、額に青筋を浮かべて睨みつける垣根帝督に、冷汗をダラダラとかくシャマル。

 

「失敗した自覚あるんじゃねえか。ふざけてんのかテメェは。ああ?」

 

そろそろマズイと思ったはやてが垣根を止める。

 

「帝督くん落ち着いてえな。これは冗談や、ホンマに食べるんはちゃんとわたしが教えて作らせたモノや」

 

その言葉を聞いてクールダウンしたが、まだ疑いの目を向ける垣根は、

 

「まともなヤツなんだろうな?消し炭とか殺人兵器とかじゃねえよな?」

 

「もう!ちゃんとできました!」

 

「じゃあ何で一度、失敗作の消し炭挟んだんだよ?」

 

シャマルは憤慨しながら暗黒物質の乗った皿を退けて、新しい皿を置いた。

 

皿の上には、

 

普通の外見をしたスクランブルエッグがあった。

 

「普通だと……?」

 

「いいから食べて!!」

 

静かに驚愕する垣根に怒るシャマル。

とりあえず彼は、若干恐る恐る、一口食べた。

 

「問題はここからだな」

 

「そうだな」

 

隅でヴィータとシグナムが呟く。

垣根は数回咀嚼した後で感想を漏らす。

 

「……不味くは無い……が、お世辞にも美味くも無い。微妙だな……」

 

表情も微妙そうになっていく。

今回も彼女の料理に進歩はなかった。

 

「ええ!?」

 

シャマルが驚く一方でやっぱりと頷く八神家の面々。

彼女の本日の料理実験は、幕を閉じた。

 

 

 

それから一時間後、男女交代で入浴する事になった。

先に女性陣が入浴する。

 

「覗くんじゃないわよ?」

 

アリサが言う。

 

「覗かねーよ」

 

垣根はアリサ達には見向きもせず、テレビを見ながらくだらなさそうに答える。

続いてはやてが悪戯っぽく笑いながら垣根に、

 

「覗いたらあかんで?帝督くん♪」

 

「覗かねーよ」

 

「ホンマに覗かへんよね?」

 

「覗かねーつってんだろ」

 

「ホンマにホンマに覗かへんの…?」

 

「ぜってー覗かねーよ」

 

「少しは覗けや!」

 

「はあ?」

 

無関心、無反応の垣根に腹が立ったのか若干変に怒りだすはやて。

 

「あ、いや、何でもないねん。それじゃ入ってくるわ……」

 

咄嗟に適当に取り繕って、はやてはそそくさと皆と風呂場へ行った。

 

 

 

それから数分が経つと、今まで垣根と志村と一緒にテレビを見ていた古市が立ち上がる。

彼等の方に向き直ると、

 

「覗きに、行こうぜ」

 

「何を言っているんだ君は」

 

「そうだよ、なのは達に失礼だろ」

 

クロノとユーノが呆れ顔で言う。

 

「止めときなよ、古市君。バレたらどうなるか分からないよ。それに八神さんの家族には子供もいるのに、その手前でそんな事……」

 

志村ももちろん反対する。

垣根帝督に至っては聞く耳すら持たずに無視している。

 

「つれねえな。クロノさんやユーノだってエイミィさんや高町さんの裸見たくないんですか?」

 

「な、何を……っ」

 

不意を突かれてうっかり慌てるクロノ。

ユーノは比較的冷静に、

 

「あいにく、僕となのははそんな関係じゃないよ。言ってみればクロノとフェイトみたいな感じかな」

(それに、なのはの好きな人は、もしかしたら……)

 

彼はチラリと、この話題を無視している彼を見る。

実際の所、なのはの本心も、彼の内心も誰にも分からないが。

 

「ちぇー、つまんねえな。垣根は行くよな?八神さんにあれだけ前フリ言われたんだから」

 

垣根は持参して途中から読んでいた漫画の単行本から、古市の方に首を向けると、

 

「ばーか死ね」

 

バッサリと切り捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、女性陣はというと。

他愛のない雑談を交わしながら、思い思いに体を洗ったり湯舟に浸かったりしていた。

 

「うわ〜やっぱりしみるわね」

 

「日焼けしたからね〜」

 

アリサとすずかが体を震わせながらぼやく。

はやて、フェイト、なのはの三人は、何となく自然と、さっきの垣根帝督について愚痴っていた。

 

「帝督くんは、もう少しわたし達を女子として意識するべきやない?」

 

「……そうだよね。別に厭らしい目で見て欲しいって訳じゃないけど、異性としてもさっきも全く興味なさそうにしてたから、ちょっと流石に複雑だよね」

 

「逆に失礼だよね~」

 

若干むくれて不満を言うはやてに、苦笑しながら相槌をうつフェイトとなのは。

なのはは、話している二人や周りの女性の、主に胸部を何気なく見比べていた。

シグナムとシャマルは言うまでもないが、同い年のはずのすずかとフェイトは特にスタイルが良い。

アリサとはやても客観的に見ても良いスタイルをしている。

同性から見ても魅力的だ。

確かに高町なのはは彼女達に比べると胸が少し控え目かもしれないが、客観的に見ても彼女も十分にスタイルは良いのだが。

 

「男の子って、胸は大きい方が好きなのかな?……、垣根くんも……」

 

無意識に、そんなセリフを漏らす。

 

「あら、そんな事は無いと思うわ」

 

そう言いながらシャマルがなのはに近付いてきた。

 

「そうだな、あいつは人を外見だけで良し悪しを決めるような軽薄な輩でもない」

 

「ああ、ただ単にストイックな性格なんじゃねーのか?」

 

シグナムとヴィータも近寄って口を挟む。

 

「そ、そうですよね。……っていうか、何でわたしがそんな事気にしなくっちゃならないんだろ?あはは」

 

話が変な方向へ向いていると感じ、咄嗟に誤魔化す。

しかし、そこへエイミィが口を挟む。

 

「何何?やけに垣根くんの肩持つけど、意外と好きになってたりする?」

 

「なな、何言ってんだ!!」

 

「そそんなんじゃないよっ?」

 

「人としてはそれなりに、曲がりなりにも好感は持っていますが、邪な感情は抱いておりません」

 

ヴィータとなのはは赤面しながら分かりやすく慌てたが、シグナムはあっさりと答えた。

シャマルもシグナムに同意するように頷く。

 

「その反応からしてやっぱり意外と……?」

 

そこへはやてが話に加わる。

 

「二人とも最近、帝督くんと仲エエようにも見えるんけど、やっぱり……?」

 

「いや!ちがっ……!」

 

「ホントにそんなんじゃ……!」

 

ジトーッとからかうように見つめるエイミィとはやてに、狼狽えるヴィータとなのは。

そこでシャマルが助け舟を出す。

 

「ふふ、ヴィータちゃんも別に、垣根くんの事は嫌いじゃないものね。案外馬が合うんじゃないかしら」

 

「シャマル!」

 

「そういう好きか……」

 

ホッとした声色で、何故かフェイトが小さく呟いた。

 

実は最近、垣根帝督はヴィータとリインフォースⅡとアイスクリームを買いに行くのに付き合わされた事がある。

その時移動販売のアイス屋に兄妹かと間違われ、ヴィータは赤くなりながら否定した。

しかし彼女は内心は満更不快でもなかったらしい。

 

ちなみにリインは『ワーイ!お兄ちゃんですぅ〜』と、ノって喜びながら垣根に抱き着いていた。

実際は、ヴィータは垣根よりも遥かに年上になる訳だが、彼女やその同類達には年齢は有って無いようなものなので、言及しないほうが良いだろう。

 

「そういえば、リインはどうしたん?」

 

「先にあがったぞ」

 

そして皆もあがる事にした。

リビングに戻ると、リインは垣根の側に座って、彼が読んでいる漫画を横から見ていた。

 

「ようやくあがったか。それじゃ俺らも入りに行くか」

 

「そうだな」

 

垣根の言葉にクロノが同意し、他の男達も立ち上がり風呂場へ向かった。

 

そして風呂場にて、

え、野郎共の入浴シーンなんざどうでも良いって?

まあそう言わずに。

 

「あーあ、何か大して動いてもねえのにやたらと疲れた気がするな」

 

大きな湯舟に身を沈め、首の関節や背骨をコキコキと鳴らす垣根。

 

「オヤジ臭いよ、垣根君」

 

志村がツッコむ。

 

「ほっとけ。そもそも俺は別に来たくて来た訳でもねえんだ。お前等のとばっちりでしかない」

 

「まあそう言うな」

 

クロノが苦笑しながら湯に浸かる。

 

「……な、なあ」

 

古市が呻くように呟く。

 

「ん?どうしたの」

 

ユーノが古市にに聞く。

 

「この湯はさ、高町さんや月村さん、八神さん、バニングスさん達が入ったお湯なんだよな……?」

 

「当然だろう。先に入ったんだから」

 

彼の疑問にクロノが当たり前だと答える。

 

「……なんかエロくね?」

 

「「……」」

 

思わず絶句した垣根とクロノが、冷え切った目で古市を見る。

 

「な!?何言ってんだ!!」

 

「そうだよ!!古市君!!」

 

思春期な二人は取り乱した。

さっきは冷静にかわせたユーノも、流石にこれは生々しく思えてしまったらしい。

 

「いや、だってさ!!女子が入った風呂だぞ!?何か変な気分になるだろ!?」

 

「発情期かお前は。そんな発想だから引かれるんだよ。つーか万一に思ったとしても口に出すなよ」

 

垣根は口撃で古市を沈め、さっさとあがる事にした。

 

 

………就寝に備えて部屋割の話になる。

 

「普通に男女別で良いんじゃねえの」

 

垣根帝督が事もなげに言う。

クロノとユーノと志村もそれで良いと思っているし、当然他のほぼ全員も同意見だ。

しかし、反対する者も。

 

「私は帝督さんと一緒が良いですぅ〜♪」

 

彼女は垣根の腕を掴む。

はやても流石にリインを説得しようとするが、珍しくゴネて聞いてくれない。

結局、部屋割を決める為にくじ引きをする事に。

 

結果は以下の通りになった。

 

高町なのは

フェイト・T・ハラオウン

八神はやて

アルフ(子犬フォーム)

アリサ・バニングス

月村すずか

 

シャマル

シグナム

ヴィータ

ザフィーラ(犬形態)

リインフォースⅡ

垣根帝督

 

クロノ・ハラオウン

エイミィ・リミエッタ

ユーノ・スクライア

古市貴之

志村新八

 

 

「いや、おかしいだろ!!何で垣根だけ!?」

 

古市がツッコむ。

 

「くじ引きの結果よ。仕方ないでしょ」

 

「男女別じゃなかったのかよ!?」

 

「端数出ちゃうからね。そうなったら垣根なら別に良いってはやても言ってたし。要するにアンタよりは信頼されてるって事よ」

 

アリサにバッサリと言われ、心折れる古市。

とにかく、彼等はそれぞれに決められた寝室に入りっていく。

 

 

垣根は早速横になって寝ようとしていた。

 

「何だ、もう寝てしまうのか。少し話したい事もあったのだが」

 

シグナムがつまらなさそうに呟く。

 

「後にしろ。ただでさえとばっちりで参加させられたってのに、今日は振り回されたり何だりで疲れてんだ。眠い」

 

それだけ言うと、彼は目を閉じて寝入ってしまった。

一見無防備で、静かに寝息をたてる垣根帝督。

しばらくして、シャマルが垣根の顔を見て微笑む。

 

「ふふ、垣根くんの寝顔、なんだか可愛いわね」

 

「ホントだ、普段の悪人面からは想像できないな」

 

ヴィータも半笑いで彼の寝顔を覗き込む。

 

「フッ。ああ、同感だ」

 

シグナムも小さく笑い、頷いた。

いつの間にか、リインは垣根の隣で既に寝ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バニングス家所有の別荘の寝室。

 

朝日に顔を照らされ、垣根帝督は目を覚ました。

ふと、自分の左半身に正体不明の重みを感じる。

 

(……何だ?)

 

左腕に妙に柔らかいような感覚がある。

人肌程度に温かい。

彼は自分の掛け布団を左から捲る。

 

そこには、リインフォースⅡが寝ていた。

 

(……、何でだよ)

 

垣根はリインの腕を振りほどこうとしたが、彼女はガッチリと彼の左腕をホールドしており、ご丁寧に足まで絡めている。

彼は完全に左半身の自由を失っていた。

周りに目を走らせると、同室のシャマルとシグナムも、ザフィーラもいない。

ヴィータは熟睡しているようで、すぐには起きそうにない。

 

(チッ、起こすか)

 

そう思うと、垣根はリインの耳元に顔を近づけ、小声で話し掛ける。

 

「……おい、起きろ。お前の布団は隣だろ。寝たきゃ戻って寝ろ」

 

反応無し。

それ所か気持ち良さそうに、すうすうと寝息をたてている。

彼は再び警告する。

 

「起きろ。自分の所に戻れ」

 

熟睡している。

イラッと眉を動かすと、今度はやや口汚く警告してみる。

 

「このクソガキ、お前いつまで寝てんだ。さっさと起きろコラ」

 

効果無し。

今度は軽くなリインの肩を掴んで揺すりながら声をかける。

 

「いい加減起きやがれ、いつまで人の布団に潜り込んでんだ……って、おい」

 

「うーん……」

 

彼女は身体を揺すられて嫌そうに眉をひそめると、自分の方に身体を向けている垣根に抱き着いた。

抱き枕か何かに間違えているようだった。

 

「起きろっつってんだろ」

 

「う〜ん……後五分」

 

まだ寝ぼけている。

 

「誰がそんなベタな寝言を言えっつった」

 

垣根は苛立ってきた。

男としてはこの状況はある意味役得かもしれないが、こんな所を誰かに見られたらどんな誤解を招くかは明白だ。

古市にでも見られれば一ヶ月はネタにされるだろう。

 

「起きろって」

 

彼は言いながら、彼女の体をユサユサと揺らす。

 

「……ん」

 

(効果ありか?)

「リイン、起きろ」

 

「……むにゃむにゃ…」

 

少しずつだが彼女は覚醒し始めている。

 

「朝だぞ。起きろ。つーかせめて自分んとこに戻れ」

 

「んー……。もう少しだけ……」

 

「バカ言ってねえで離れろ。こんなとこ誰かに見られたら_」

 

ガチャリと、寝室の扉が開かれた。

 

「おはようさん。そろそろ起きてやー」

 

「朝食の準備できてきたから、皆起きて。……って、え?」

 

「シグナムさんとシャマルさん達もう起きてるよ。ヴィータちゃん達もいい加減起きて……って_」

 

はやてとフェイトとなのはに見られた。

更に、

 

「まだあいつ寝てるの_?」

 

「垣根くん起きた_?」

 

アリサとすずかにも見られた。

 

「へー、ふーん。これは、お邪魔だったかしら?」

 

アリサがわざとらしくにやつく。

 

「イヤ、誤解だからな。知らねえうちにリインが勝手に潜り込んでただけだから。まかり間違ってもお前等が考えてるような事態にはなってねえからな?」

 

はやてとすずかは柔和な笑顔を浮かべる。

 

「何か微笑ましいわぁ~」

 

「ねえねえ、写真撮って良い?」

 

と言いながら、二人は携帯電話を取り出す。

 

「良い訳ねえだろ。見せ物じゃねえぞ」

 

「クスッ。何かアンバランスで面白~い」

 

「笑ってんじゃねえよ高町。こいつ引っぺがすの手伝え」

 

そんな、学校の時と似たようなくだらないやり取りをしていると、

 

「うるせーなー。何だよ、朝から」

 

「……ん、どうしたんですかぁ〜?」

 

ヴィータとリインもようやく目を覚ました。

 

「ようやく起きたか。リイン、おいコラ二度寝するな。せめて自分の布団に戻れって」

 

「ふにゃ~」

 

「起きろって……おいお前等、揃いも揃って笑ってんじゃねえぞ。このガキ退かすの手伝えっつってんだろ」

 

誰一人として垣根帝督に協力する者は現れなかった。

この微笑ましくも奇妙な光景を堪能する少女達のせいで、リインが満足するまで結局更に時間を費やした。

 

 

 

 

そして、所変わって別荘のリビング。

皆で朝食を摂っている。

垣根帝督はパンをかじりながら不機嫌そうに言う。

 

「で、何で俺の所に潜り込んでた訳?」

 

「帝督さんと一緒に寝たかったからですぅ〜。嫌でした?」

 

リインの純真な目と上目遣いに、垣根の残りカス程度しかない良心が僅かに痛む。

 

「……はあ、もうどうでも良い」

 

「えへー♪」

 

垣根がそう告げると、リインは何故か嬉しそうに笑った。

 

 

今日は昼頃まで海水浴を楽しみ、昼に帰宅という予定だ。

垣根帝督は案の定またパラソルを片手で地面に突き刺してシートを敷いて寝るつもりだった。

が、それを予想していたなのは、フェイト、はやての三人に海まで連行される垣根だった。

 

(……、俺は遊ぶ為に学園都市の外にいるんじゃねえはずなんだがな)

 

ぼんやりとそんな事を考えつつも、仕方なしに周りに合わせる形で、しばらくユーノや古市達を交えてで水上バレー等を楽しんでいたが、不意に高波が垣根、なのは、フェイト、はやてを襲う。

 

「大丈夫?皆!」

 

少し離れた位置でアリサが問うが、

 

「ああ、平気だ」

 

垣根が何でもなさそうに答える。

フェイトはもちろん、はやてもそこそこ運動神経はあるため問題無く顔を出す。

なのはは垣根に引っ張りあげられた。

 

「それじゃ戻「待って!!」…あん?」

 

岸に戻ろうとした垣根をなのはが制止する。

彼は怪訝そうになのはの方を向こうとしたが、

 

「ダメ!!見ないで!!」

 

彼女は自身の胸部を両腕で隠す。

 

「まさか、お前……」

 

「いっ、言わないで…!」

 

上の水着が流された。

察した彼は呆れる。

 

「マジかよ。まあ、まだそこらへんに沈んでるかもしれねえし、潜って取れば「アカン!!」_はあ?」

 

今度ははやてが垣根を止めた。

 

「わたしも流されたんや……「何言ってんだ、お前はちゃんと_」ちゃうんよ。わたしはその……水着の……、下の方が……」

 

そう言いながらはやては真っ赤になりながら俯く。

さっきから内股になっているのはそれが原因だろう。

垣根は目を剥いた。

 

「何でだよ。高町はまだ分かるが、何で波で下が脱げるんだよ?ブカブカのでもはいてたのか?」

 

「ち、ちゃうって、わたしのは腰の部分を紐で結ぶタイプなんや。だからさっきの波で紐が解けて……」

 

「あーもー、分かった分かった。テスタロッサ!」

 

「うん!!」

 

垣根の声に対応してフェイトが潜って探す。

しかし、

 

「あったか?」

 

浮上してきたフェイトは首を横に振る。

 

「ううん、やっぱり少し流されたみたい」

 

「ええええッッ!!わたし達どないしたらええの(どうしたらいいの)!!」

 

垣根に詰め寄るはやてとなのは。

 

「近い近い」

 

「「はうッ!!」」

 

羞恥心にかられて縮こまる二人。

垣根は少し考え、なのはとはやてに言う。

 

「高町と八神はここにいろ。そして念話で、シグナム達にでも予備の水着か何かをここまで持ってくるように頼め。俺達は流された水着を回収してくる。行くぞ、てし……ハラオウン」

 

「分かった!」

 

そして垣根とフェイトは泳いで行った。

しばらく泳ぐと海面に漂う二つの布切れ。

間違いなくなのは達のものだ。

 

「あ…!波が……ッ!」

 

フェイトは手を伸ばすが波に邪魔をされて掴めない。

それどころかだんだん距離が離れてしまう。

 

「まずい、このままじゃ見失っちゃう!」

 

「待て、テスタロッサ」

 

焦るフェイトを垣根が止める。

 

「これ以上沖に出るのは危険だ。疲弊して事故ったら元も子も無い」

 

「ッ!!……、そ……そうだね。それも……そうだ……」

 

(いやに素直だな)

「あいつらにゃ悪いが、浜辺に戻るぞ」

 

彼はUターンしようとしたが、

 

「無理」

 

「あ?」

 

「流れた水着はなのは達のだけじゃなくて……わたしも…………」

 

フェイトは胸を腕で隠しながら途方にくれたような表情で振り向く。

 

ザバーン、と波の音が虚しく二人の耳に響く。

 

「……ミイラ取りがミイラのなりやがった」

 

馬鹿だ、と胸中で毒吐く。

 

「じゃあ俺が、一旦戻ってタオルか何かを_ッ?」

 

「待って!!」

 

フェイトが叫びながら垣根に後ろから羽交い締めにするように引き止めた。

 

「こんな所に一人で置いて行かないで!!」

 

「じゃあ手で隠してあがるか?」

 

「無理だよ!!……だって、流れたの“下も”なんだよ……ッ!!」

 

(は?じゃあ今、こいつ……全裸なのか?)

 

垣根は妙な脱力感を覚え、吐き捨てるように告げる。

 

「……一番バカな状態じゃねーか。ならますます何か取って来る必要あるだろ」

 

「お願い!!」

 

フェイトは垣根帝督の背中に抱き着く。

 

「無理だよ。だってここ足つかないんだもの。こんなとこに一人でいられない!!」

 

いつもの気丈な姿はどこへやら。

ついには彼女は涙目になってしまう。

鬱陶しそうな表情で、垣根は顔を向ける。

 

「ああ?お前泳げるだろ」

 

「それとこれとは別っ!」

 

「なら浅いとこまで移動し_」

 

「嫌!そんなとこ行ったら見られる!!」

 

完全に詰んだ。

フェイトは見られる羞恥心と恐怖心、寒さにかられて垣根に更に密着する。

 

(端から見りゃ、無駄にエロい展開になってるが、正直焦りの感覚の方が強いな)

 

脳をクールダウンさせる為に、敢えて状況を客観視して分析してみた。

垣根帝督とて腐っても中学生の思春期男子。

気持ち的には圧倒的に馬鹿馬鹿しさが強いが、長時間こんな卑猥でお馬鹿な状況に陥っていたら、無反応でもいられない。

とりあえず、へばりつかれた状態でそのままだと一緒に沈んでしまうので、能力を応用して自分の周辺の物理法則に影響を与え、立った姿勢のままでも頭が水上に出る程度の浮力とバランス維持を行う。

 

「……おい、何かにすがりたい気持ちは分からんでもないが、流石にくっつき過ぎだ。それよか念話か何かで高町達にこの状況を伝えろ」

 

「ええ!?でも……ッ」

 

「ゴネてる場合じゃねえだろ。伝えてスペアの水着持ってきてもらえ」

 

「あ……うん!」

 

そして、待つ事十数分。

シグナムが泳いで救援に現れた。

 

「二人とも待たせた。テスタロッサ、これを」

 

「はい!」

 

シグナムは右手に握っていた競泳形の水着を差し出し、フェイト・T・ハラオウンは垣根帝督の背中にへばりついたままひょっこり顔を出し、右腕を伸ばして受け取った。

しかし、

 

「……、」

 

「……?」

 

何故かフェイトは、垣根にすがり付いたまま動かない。

 

「テスタロッサ?」

 

「おい、どうした?早くそれ着ろよ」

 

怪訝な声を発したシグナムと垣根に、フェイト目を潤ませてパニック寸前の涙声で言う。

 

「……垣根から手を放したら、沈んじゃう。着ようとしている間に溺れちゃうよお……」

 

それを聞いたシグナムは思わずため息を吐き、垣根は心底呆れた顔になった。

そして彼はくだらなさそうな口調で言う。

 

「水中でバレないように魔法使って、それを応用して溺れないようにしてから着れば良いんじゃねえのかよ。つーかまず落ち着け」

 

「……あ」

 

「いくら素っ裸だからって慌て過ぎだろ」

 

「い、言わないで!!」

 

そうしている間に瞬時に水着を身に付けた。

この後、三人は素早く泳いで浜に上がり、流石に遊ぶ気にはなれなかったので、このまま別荘に足を進めた。

思い返してみると、羞恥心と焦りのあまりパニックになりかけ、友人の背中とはいえ異性に全裸で抱き付いていた事にフェイトは顔を真っ赤にしてうつ向き、露骨に垣根帝督を視界に入れまいとしている。

一方の垣根も気まずさを感じ取り、顔を引き吊らせてそっぽ向いている。

 

「……、」

 

そんな二人を一歩後ろから見ているシグナムは、思わず同情し複雑そうな表情になりつつも、普段はそれぞれ方向性の違う形で、実年齢以上に大人びている二人の年相応な様子に微笑ましさを覚えた。

 

別荘に到着すると、おそらく同じような理由で先に戻っていたなのはとはやてがいた。

 

「あ、なのはとはやても戻ってたんだ……」

 

「……、」

 

垣根が二人に目を向けると、どうも様子がおかしい。

なのはは垣根をあからさまなジト目で見つめ、はやてはいつものおふざけが混じった笑顔で見つめている。

 

「何だその目は。何見てんだテメェ等?」

 

何かを察した垣根は、鬱陶しそうにメンチを切る。

 

「……裸のフェイトちゃんと抱き合って……。垣根くんのエッチ、スケベ」

 

「抱き合ってはいねえよ。勘違いすんな」

 

自分にとって事実無根な言い掛かりを付けられ、彼は語気を強く反論した。

すると、次ははやてが、

 

「ほー、でも抱き付かれたんは否定しないんやね。……所で、どうやった?」

 

「何が?」

 

「決まってるやん。素っ裸のフェイトちゃんの柔肌の感触♪」

 

「はやて!?」

 

サァッと真っ赤になったフェイトが慌てて口を挟む。

 

「ていとくん、ご感想は?」

 

「はやてッ!!」

 

「ていとくん言うな。んなもんいちいち覚えてねえよ。たとえ覚えてても言う訳ないだろ」

 

「ほほーう、珍しく流石のていとくんも動揺したんやねえ~」

 

「ていとくんのエッチ、スケベ、ヘンタイ、メルヘン」

 

「面白そうにしてんじゃねえよ八神。高町もしかめっ面で便乗するな」

 

(メルヘンはスルーなんだ……)

 

と、フェイト茹でダコ状態になりつつも心の中で呟く。

シグナムはこの場の馬鹿馬鹿しい空気に、再び小さくため息を吐く。

 

 

今年の海水浴は、このようなオチがついて幕を閉じるのだった。

 

 

「もう二度と行かねえ」

 

帰り際に垣根帝督はウンザリした顔で吐き捨てるように言い、心に固く誓った。

 

「ほな、今度はわたしかなのはちゃんの柔肌の感触を味わわせたろか♪」

 

「する訳ないでしょッッ!!はやてちゃん何言ってるの!?」

 

「はやてッ!!」

 

「主旨変わってんじゃねえかクソボケ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。