魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter   作:戸礼太

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縁日

海水浴から数日。

海鳴市内の高級マンションの一室を潜伏先としている垣根帝督。

冷房の効いたリビングで一人、寛いでいた彼の手元にある携帯電話に着信が入った。

手に取って確認してみると、発信者表示には『八神はやて』。

彼は目を僅かに細めると、携帯をソファーに放り投げて無視する事にした。

数十秒後、不在着信に切り替わる。

数分後、再び携帯電話に着信が入った。

 

(今度は何だ?)

 

と、ソファーに放ったままの携帯を拾って発信者表示を見てみると、『フェイト・T・ハラオウン』。

彼は再び携帯電話を放り捨てて無視を決め込んだ。

数十秒後、不在着信に切り替わる。

更に数分後、着信が入った。

 

「……、」

 

面倒臭そうに発信者表示を確認してみると、『月村すずか』の表示が。

勿論無視した。

数十秒後、不在着信に切り替わる。

またまた数分後、着信が入った。

 

「チッ……」

 

眉をひそめる。

鬱陶しそうな仕草で発信者表示を見ると、『アリサ・バニングス』。

無視決定。

ついでに着信音が耳障りに感じてきたので、マナーモードに切り替えた。

数十秒後、やはり不在着信に切り替わる。

 

「うぜー、あいつ等俺に何の用だよ。暇かよ」

 

そして数分後、着信が入りブルブルと携帯電話が震える。

 

「……つーか、仕事用のを用意した方が良さそうだな」

 

言いながら発信者表示を見ると、『高町なのは』。

 

携帯電話の電源を切った。

 

煩わしさから解放され、どこかスッキリした顔で寛ぐ事にしたその時、インターホンが鳴った。

 

「……、」

 

彼は怪訝な顔をする。

嫌な予感がした。

訪ねてきた者が誰なのか、すぐに察した。

玄関ホールの中継映像を確認してみると、予想通りの見知った顔が三つ。

服装からして、遊びの誘いなのは明白だった。

が、その誘いに乗る気は無い。

 

「……居留守使_〈ていとくん、居るのは分かってるんやで〉ッ!!」

 

念話で八神はやての声が聞こえた。

魔法が使えない能力者の垣根帝督だが、念話を受信する等の受けるだけなら問題は無い。

返事はできないが。

それを分かった上で、散々連絡をシャットアウトしてきた垣根帝督に、三人は念話で告げる。

 

〈電話ガン無視するから悪いんやで?〉

 

〈流石に毎度々無視はちょっと傷付くよ?〉

 

〈って言うか、何でわたしの時だけ電源切ったの?そこら辺も問い質したいんだけどなー〉

 

「……、」

 

シャットアウトも返事もできず、歯痒さを覚えて舌打ちをする。

 

〈じゃ、早く出て来てね。でないとこのまま念話でガールズトーク始めるで〉

 

〈何なら今日から四六時中、念話してあげるよ〉

 

〈なのは、もしかして怒ってる?わたしは良いけど〉

 

トドメの一言を三者三様にほざいてきやがった為、ついに観念した。

というか、興味の無いガールズトークを無理矢理聞かされ続けるなど、どんな罰ゲームだ、と。

渋々彼は軽く身支度を整えて外出、玄関ホールに降りてきた。

 

夏用のGジャン風スラックスタイプのパンツにグレーのシャツ、その上に半袖シャツをラフに纏った格好で出てきた垣根。

何気に高級ブランドで揃えていたりしている。

三人の少女達は待ってましたと謂わんばかりに口を開く。

 

「待ってたでー、ていとくん」

 

「ていとくん言うな」

 

「もう、居るなら返事ぐらいしてよね」

 

「電話出ない時点で察しろよ」

 

「その前に何でわたしだけ無視所か電源まで切ったの?わたし凄ーく傷付いたんだけど?」

 

「嘘つけ。そんなんで傷付くようなタマじゃねえだろ、お前」

 

ムスッと分かりやすく不機嫌でわざとらしいなのはに、垣根は鼻で笑って続ける。

 

「流石に五人目だったからな。いい加減鬱陶しかったし、高町だし」

 

「いやわたしだからって何!?納得いかない!!」

 

「うるせえ馬鹿」

 

「酷い!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

縁日の夏祭り。

 

それは夏の風物詩の一つだ。

食べ物の屋台や賭け遊びの屋台、様々な出店と人々で賑わう。

海鳴市のとある公園。

ここは農業公園並の広さを誇る。

既にかなりの人々が訪れており、混雑している。

そこの一角に三人の少年と五人の少女がいた。

垣根帝督。

普通の半袖半ズボンの志村新八。

半袖長ズボンの古市貴之。

女性陣はそれぞれのトレードマークともいえる色の浴衣に身を包んでいる。

 

「……何でお前等、そんなに気合い入ってんだ?」

 

垣根が怪訝そうに言うと、

 

「こういう日しか着る機会無いし」

 

「たまには、ね」

 

となのはとフェイト。

古市は嬉しそうに、おおっ、と声を上げる。

 

「良いじゃねえか。同級生の美少女達の浴衣姿を見られるなんて機会滅多にねえんだし」

 

それを聞いて垣根は彼女達の方を向くと、小さく鼻で笑った。

 

「美少女ねえ。……ま、黙ってりゃそうだな」

 

「それどーいう意味よ?」

 

「どういう意味かなそれ?」

 

「ていとくん?」

 

予想通りアリサ、なのは、はやての順で「黙ってりゃ」の余計な一言に噛み付いた。

しかし彼は彼女達の不平不満を聞き流したり、なのはをおちょくる等して飄々とかわしたのだった。

 

 

彼等は二、三人に分かれて思い思いの目的地の場所に行き、後で合流する事になった。

 

「羨ましいなー垣根。両手に花じゃんか」

 

と古市は羨望の眼差しを向けるが、当の垣根は鬱陶しそうに答える。

 

「何で俺はこいつ等と同行する前提なんだよ。そう見えるか?俺的にゃ両手に核弾頭_」

 

「だから、どういう意味かなそれ?」

 

「てーいとくん?」

 

「いや、わたし達の事何だと思ってるの?」

 

左右から肩を掴んで突っかかるなのはとはやて、そしてフェイト。

そこへすずかとアリサが口を挟む。

 

「行きたい所の都合で、私達には古市君と志村君がいるから、垣根くんはなのはちゃん達に付き添って?」

 

「どうせ別に行きたい所無いんでしょ?ナンパ避けかボディーガードとして役に立ちなさい」

 

「面倒臭せえ。……って、おい」

 

しかし右手をはやてに、左手をなのはに、そして後ろから背中をフェイトに押され、着実に連行され始める垣根帝督。

 

「散々わたし達をからかったり暴言吐いた罰!!」

 

「帝「垣根な」_あう……。垣根は背が高くて目付き鋭いし」

 

「ガラ悪そうでおっかない見た目やから、ナンパ避けにはうってつけやねん。ちゃんと付き合うてや~」

 

「何で俺がお前達の為に……おい、引っ張るな。押すな。ってか、お前等結構力が……よくよく考えたらお前等、本当は強いんだからナンパ避けとは必要無いだろ?おい_っ!?」

 

 

そんな訳で。

なのはとフェイトとはやて、彼女達のとばっちりの垣根、彼等四人はまずは無難に、主に食べ物の出店を回った。

垣根はアメリカンドッグ、はやてはタコ焼き、なのははかき氷をそれぞれ手に持って闊歩する。

フェイトだけは何も食べていない。

 

「フェイトちゃんは何も食べへんの?」

 

「食欲ないの?」

 

はやてとなのはが怪訝そうに訪ねる。

 

「うん。ダイエットしようかなと思って」

 

フェイトは少し恥ずかしそうに言う。

 

「ダイエット?必要か?お前に」

 

垣根は首を傾げながら何気無くフェイトの腹部を見た。

 

「最近、少し太ってきちゃったみたいで……。今も胸が少し苦しいし……」

 

よく見ると、彼女の胸部は浴衣では隠しきれない所か、腹に巻いている帯でウエストを締められている分かえって際立っていた。

道行く人々は、特に男は彼女の胸部を二度見していた。

 

「「「……」」」

 

それは絶対に太った訳じゃない。

と、フェイト以外は思った。

 

「フェイトちゃん、大丈夫だよ。少しも太ってるようには見えないよ」

 

「この世のデブを全員敵に回すような一言だな、お前。太ったって、何を根拠に言ってんだ?」

 

となのはと垣根が言うが、フェイトは若干自信無さげに答える。

 

「……でも、一学期の時の健康診断で、わたしだけ二人より少し体重上だったし……、体脂肪率も……」

 

言いかけて、フェイトは言葉を切った。

目の前に異性がいる事を思い出し、恥ずかしさで押し黙ってしまったが、ここではやてが茶々を入れる。

 

「安心しぃやフェイトちゃん。フェイトちゃんの場合、その体脂肪率の殆どがオッパイやから♪何の心配もあらへんで♪」

 

「ちょ、はやてちゃん!?」

 

「はやて!!」

 

はやてはサムズアップしながらデリカシーゼロのセクハラ発言を、いっそ清々しいほど爽やかに発した。

当然言われたフェイトはもちろん、傍らにいたなのはも顔を赤くしてあたふたしだす。

とはいっても、こういうやり取りはいつもの女子五人の時はいつものお約束的なノリなのであまり嫌な感じはしていない。

だが、今日は珍しく異性の連れがいる訳で、フェイトは頬を赤く染め反射的に自身の胸を抱えた状態のまま、チラリと垣根帝督の立っている方を見た。

すると、そこには、

 

食べていたアメリカンドッグの串を近くのくずかごに放り捨て、心の底からクソどーでも良さそーな顔で退屈そうに佇む、ガラの悪そうな同級生男子の姿があった。

 

(……、えぇ……?)

 

別にどこぞの古市みたく興味津々でガン見されたい訳でもなかったが、そこまで無関心を貫かれると、それはそれで何とも複雑な気持ちだった。

そこへ当然の如くはやてが絡みに来る。

 

「なあなあていとくん♪」

 

「ていとくん言うな。馬鹿話は終わったか?」

 

「まだやで♪それより、帝督くんはどう思うん?」

 

「何が?」

 

「フェイトちゃんの事や」

 

「別に太っちゃいないだろ」

 

「そうやなくて、フェイトちゃんのオッパイや」

 

「はやてちゃん!!」

 

「はやて!!」

 

制止するようになのはとフェイトがシャウトするが、垣根は無視して眼球を動かし、視線をフェイトに向けた。

 

「ッ!!」

 

見られて文字通り顔を真っ赤にするフェイト。

彼は視線を外すと、

 

「正直、お前達の体格やら健康事情やらはどうでも良いしよく分からんけど、高町と八神よりはデカいんじゃねえの?」

 

「ちょっ垣根くん!!」

 

「垣根!!」

 

下心の有無以前に、本当にどうでも良さそうな調子で言われたとはいえ、いやある意味だからこそ正確そうに聞こえ、更にとばっちりで比較されて色々な意味で爆発しそうになるフェイトとなのは。

 

「ほほう、帝督くんから見てもそうなんや。ちなみに帝督くんは大きい方が好き?」

 

「「ちょっと!!!?」」

 

おちゃらけた様子ではやては言っているが、彼女もとばっちりで比較されたせいか、頬が少し赤くなっている。

しかし垣根はそれには答えず、

 

「そんな事より」

 

「「そんな事!?」」

 

粗末な物言いをされ、なのはとフェイトが口を挟むがやはり無視された。

 

「お前等、行きたい所があるんじゃねえのかよ?」

 

そこでようやくハッとする三人娘。

 

「あ、そうだった!わたし達神社に用事があるんだった!!早く行こっ!!」

 

なのはが垣根の手を引っ張っていく。

 

「あ、待ってなのはちゃん!フェイトちゃんも行くで!」

 

「あ、うん!」

 

その後を追うはやてと正気に戻ったフェイトだった。

 

「おい無理矢理引っ張んな。痛てえんだよ!おい、聞いてんのか?」

 

垣根の文句はあっさりと無視された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、公園に隣接する神社の境内にやってきた四人。

 

そこでは、この祭りの夜にだけ販売される『縁結びの御守り』があるらしい。

 

噂によるとその効果は絶大。

持っているだけでとてつもない恋愛成就力を発揮するという。

販売直後にすぐさま完売するほどの人気らしい。

実は彼女達三人がこの縁日の祭りにきた最大の理由でもあったりする。

 

「スゲェ人だかりだな」

 

垣根が呟く。

 

「さあ、ここからが本番やで」

 

はやてが浴衣の袖をまくる。

 

「「うん!!」」

 

はやてに続き、気合い十分のなのはとフェイト。

 

(縁結びねえ……)

 

そんな彼女達を意外そうに見ている垣根帝督。

 

「お前等もそういうの欲しがるんだな」

 

「そりゃもちろん。わたし達も年頃の乙女や。別に不思議やないやろ?」

 

はやてが言うと、なのはとフェイトも事も無げに頷いた。

だがやはり、親友や兄弟からも浮いた話を聞かない彼女達にしては意外だったらしく、垣根は目を丸くする。

 

「いや、やっぱり意外だな。……だが、お前達に縁結びの御守りが必要か?」

 

「???」

 

「どういう意味??」

 

なのはとフェイトが首を傾げる。

はやても言っている意味が分からず、怪訝な顔をする。

垣根帝督は涼しい顔で告げる。

 

「お前等すでに両思いじゃねえか。高町とテスタロッサ。八神と月村」

 

「だから!!」

 

「違うって!!」

 

「言うてるやろ!!」

 

トリオツッコミが炸裂。

 

「……え、違うの?」

 

ガチのトーンで言っているのがかえってわざとらしかった。

ふざけてるのが見え見えだったが、ツッコまずにはいられない。

 

「前にも違うって言ったよね!?親友であってそんな関係じゃないって!!」

 

「君はわたし達をどうしたいの!?」

 

「真顔で何言うてんの!?何でびっくりしたん?こっちがびっくりするわ!!」

 

「冗談だよ。半分は」

 

「「「半分は!?」」」

 

 

何はともあれ、三人の恋に恋する乙女達は人混みに勇敢にも潜り込み、そして、

 

 

 

 

「「「買えなかった……」」」

 

 

負けた。

 

 

物凄い人混みに押し戻されてしまい、前進できなかったのだ。

それ所か人混みに飲み込まれてしまい、四人は散り散りにはぐれてしまった。

 

「チッ、どこ行きやがったんだアイツ等」

 

垣根は舌打ちをしながらキョロキョロと周りを見渡す。

 

「……ん?あれは……」

 

神社の敷地内に、特設の売店があった。

しかも、売っているものが……、

 

「……、」

 

 

 

数十分後。

ふと近くを見ると、ヒラヒラと白い手を伸ばしているのが見えた。

 

(そこか)

 

垣根帝督は手を伸ばし、その手を掴み自分の元に引き込む。

 

「ったく、余計な世話かけんじゃねーよ」

 

「ひゃッ!?」

 

手の主は、なのはだった。

 

「高町か。他の二人はどうした?」

 

「あ、それが、フェイトちゃんとはやてちゃんともはぐれちゃって」

 

「はあ、仕方ねえ。さっさと捜すぞ」

 

「え?うん!」

 

手を掴まれたままの状況になのはは照れながら答えた。

 

 

 

 

……しかし、

 

 

 

アチコチ捜し回るが見つからず、携帯電話も電波の調子が悪いのか通じなかった。

 

(人混みの中ではぐれない為で、垣根くんの事だから他意は無いんだろうけど……、手を繋ぎっぱなしはちょっと……いや、かなり恥ずかしいというか、照れ臭いというか……。いや確かにフェイトちゃんやはやてちゃん達とは今でも手ぐらい繋ぐ事はあるし、小学生の頃はユーノくんと手を繋ぐ事もあったけど……、いや流石に今は恥ずかしいぐらいだし…………)

 

なのはは歩き回りながらそんな事を思っているが、当の垣根本人は全く気にしていないらしく、相変わらずの面倒臭そうな表情でキョロキョロと首を回していた。

 

(…………、わたしが垣根くんを異性だと思って意識し過ぎなのかな?いや、それにしてもだよ?変に意識して欲しい訳じゃないけど、友達だし。でもね、流石にそこまで無意識で無反応で無関心なのは、ちょっと無神経過ぎるというか朴念仁過ぎるというか、何というか、異性として見てなさ過ぎるのもどうかというか。何だったら垣根くんの方こそソッチの気でもあるのかなって思っても良いよね?)

 

何だか理不尽な不満と怒りを垣根に向け始めるなのは。

彼女は要するにこう思っている訳だ。

 

(わたしだけ一方的に意識してるのが馬鹿馬鹿しく思えてきて、何か納得できない……。まるでわたしがこの人に片思いしてるみたいじゃない。そんな訳無いのに。……絶対、絶対に……ッ!)

 

余計な事を考えたせいで更に恥ずかしくなってきた。

別の事を考えて雑念を振り切って気分を紛らわそうと、彼に雑に扱われたりからかわれた時の事を思い出そうとしていると、 ブチッ! と不意に何かが千切れる音が聞こえた。

二人が足元を見る。

なのはの右足の草履の鼻緒が切れていた。

 

「ええ?草履の鼻緒が……」

 

「切れちまってるな」

 

これでは彼女は歩けない。

 

「……、」

 

「……、」

 

垣根帝督と高町なのはは無言で互いに見つめ合った。

 

「……近くのベンチまでなら、肩ぐらいなら貸してやるが?」

 

「えっと……ありがたいんだけど、それだとケンケンしながらじゃないと、進めないから……。その……できれば…………」

 

「できれば?」

 

恥ずかしそうに頬を赤く染めて顔をそっぽ向かせるなのはに、垣根は怪訝そうな声を発した。

彼女はおずおずと遠慮がちに口を開き、途切れ々に告げる。

 

「……で、できれば……その……、お、おん……ぶ……というか、その、背負って……くれる……と、ありがたい……というか、その、お願いしたいと……言いますか……」

 

言いながらみるみる顔が真っ赤に染まっていく。

 

「……、」

 

垣根はしばし無言だったが小さく溜め息を吐くと、仕方の無さそうな仕草でしゃがみ込み、なのはに背中を向けた。

 

「貸し一つだからな」

 

「あ、……はい。あ、ありがと……」

 

「乗るなら早くしろ」

 

「あ、うん……。よよろしく……お願いします……」

 

結局、垣根がなのはをおんぶして移動する事になった。

 

(うう……せっかく雑念振り払おうとしたのに、より一層照れ臭くて恥ずかしい展開になっちゃったよお!!神様は意地悪だよ!!酷いよ!!垣根くんの馬鹿!!)

 

羞恥心に駆られて混乱し、理不尽な事を考えてとりあえず矛先を垣根帝督に向けていると、

 

「足は平気か?」

 

不意に声をかけられ、ビクッと震えてしまう。

 

「ふえっ!?う、うん。だ大丈夫だよ。ごっ……ごめんね!重いよね?」

 

「まあ普通だな。人一人背負ってんだから、重いと言えば重いが、別に大した事も無いな」

 

「……仮にも女子相手にハッキリ言い過ぎじゃないかな?わたしだってちょっとは気にするんだよ?」

 

「お前、俺がお前に気を遣ったりお世辞を言うようなヤツに見えるのか?」

 

「見え、ない……けど……。でも、少しはそういう事も言えるようになった方が良いよ。わたし、じゃなくても……女の子が相手の時は……」

 

「はいはい分かったよ。そうだな、お前も『一応』は女の子だもんな」

 

「一応は余計だし、強調し過ぎじゃないかな?」

 

いつもの調子のやり取りになり、なのはは羞恥心が薄れて語気が強くなる。

しかし今は、彼のこのブレない距離感や態度が心地よく思えてきた。

そんな彼女の心情はつゆ知らず、垣根は歩き続ける。

そして人気の無いベンチを見つけ、そこに腰掛けさせた。

 

「一応八神達や月村達と連絡取れたから、ここで待つか」

 

「うん」

 

そこで彼女はベンチの脇の木製の立て看板が目に入った。

それは、縁結びのお守りについて書いてあった。

 

 

効能

一、良縁に恵まれます

二、片想いが実ります

三、古来より男性が女性に渡すと求婚を意味します

 

 

(へえー、そんな意味もあるんだ。知らなかったなあ)

 

「ああそうだ。お前、例の御守り買えたのか?」

 

「ううん。結局売り切れで買えなかったよ」

 

垣根の問いになのはは残念そうに答えた。

 

「ふーん。あっちで見た売店には気付かなかったのか」

 

「え?」

 

「しっかし、やっぱり意外だよな。高町がこういうの欲しがるのは」

 

「そ、そうかな?」

 

「何でもかんでもイベントやら何やらに乗っかるなんざ、お前も大概、クソおめでたいヤツだな」

 

「ちょっと!いきなり何なの!?」

 

突然の毒吐きになのはが憤慨する。

しかし彼は無視してポケットから何か取り出した。

 

「あの人気っぷりだったからな。どうせ売り切れで買えなかったっつーオチが目に見えてた。正直興味無かったが、別の特設の売店でも売ってるのを偶然見付けてな。だからまあ、ついでに確保しといてやろうかと思ったんだ」

 

「え?」

 

「ま、テスタロッサと八神にゃ悪いが、一個しか無いから早い者勝ちでって事と、クロノ辺りからこの前聞いたが、例の事件絡みでお前も俺に関してかなり口添えしてくれたんだってな」

 

「え、あ、いや……あれは、仕事でもあったし……」

 

「感謝なんてわざわざ伝えるガラじゃねえが……」

 

垣根は言って、手に持っていたものを彼女に放り渡した。

 

「ほらよ、プレゼントだ。光栄に思え」

 

「わっわっ!?こ、これって……。わたしに……?」

 

「あいにく一人一個らしいんでな」

 

垣根が渡したのは例の縁結びの御守りだった。

 

「……あ、ありが_ハッ!?」

 

彼女はお礼を言おうとしたが、効能の一つを思い出す。

 

『古来より男性が女性に渡すと求婚を意味します』

 

垣根帝督は高町なのはにお守りを渡した。

つまり、

 

(求婚ってプロポーズって意味だよね……………………え、えええええええええええええええええええッッッ!!!?あ、あのかかっ垣根くんが、わわた、わたしにプロポーズ!?嘘ぉぉぉ!!!!!?!?)

 

彼女は茹蛸のように顔を真っ赤にしながらパニックになる。

落ち着き無くワタワタと右往左往する。

 

「何やってんだお前」

 

「えええええと、その、垣根くん。本気なの!?その、本当に御守りくれるの!?わたしに、垣根くんが!?!?」

 

「嘘吐いてどうすんだよ。本気に決まってんだろ」

 

「ええっ!?本当に本当に本気なの!?」

 

垣根はお守りの効能については何も知らない。

興味も無い。

仮に知っていたら買う事もこうしてなのはに渡す事も無い。

絶対に。

 

(本気ってつまり……!!じゃあわたしの事……嘘ぉッ!?)

 

(あんなに驚いて……そんなに欲しかったのか?)

 

すでに両者の間で認識が致命的にズレている。

 

(ふえええ!!今までそんな素振り全然なかったのに!!!!)

 

その時突然、ズルリと浴衣が徐々に着崩れはじめる。

そこで状況はまた一変した。

 

「ん?どうした?」

 

「あ……着付けが甘かったみたい。帯が緩んで脱げそうになってきた……」

 

なのはは段々慌て始め、あたふたとしてしまい更に着崩れる。

 

「落ち着けよ」

 

そう言いながら垣根はなのはに近付き、後ろから落ちそうな帯を掴む。

 

「ふえ!?な、何!?」

 

「詳しい着付け方は知らねえが、帯ぐらいは持っててやる。その間に直せ」

 

「う、うん!!」

 

彼女は羞恥心を必死に我慢してきなおそうとするが、着付けてもらうのと自分でやるのとでは勝手が違う。

なおかつ焦っているため思うように上手くいかない。

その時、垣根はお守りの効能について記している立て看板が目に入る。

 

「……ん?……、……ああ、なるほどな!」

 

「え!?」

 

彼は気付いた。

互いに勘違いしていた事を。

だが思わずはずみで手を放してしまった。

垣根は少し申し訳なさそうな顔で言う。

 

「いやー何か悪ぃな高町。どうりでそんなに驚いてた訳だ。変な勘違いさせちまって済まねえな。別にそんなんじゃねえんだ。ただ単に…あ゛」

 

「おっ帯が……っ!!!?!?!!」

 

帯が落ちてしまい、浴衣が完全に解けてしまう。

袖は通しているが、肩からずり落ちほとんど服の意味を成していない。

しかもこの時、なのはは上半身の下着を付けていなかった。

要するにほぼ半裸だ。

 

「ッッッ!!!?キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」

 

彼女の大音量の悲鳴がこだます。

彼女の悲鳴を聞いて、大急ぎで駆け付けた六人には『垣根がなのはを襲っている』というあらぬ誤解をされ、アリサと古市と志村にグーで殴られ、そうになったが全て避けた。

 

勘違いを含めた一連の出来事が原因で、高町なのはは羞恥心で、垣根帝督は気不味さで、しばらく目を合わせられなくなり、居心地の悪い雰囲気が漂った。

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