魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter   作:戸礼太

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予期せぬ再会、困惑

八月三十日。

 

とある高級マンションの一室で垣根帝督は惰眠を貪っていた。

ちなみに宿題は既に済ませている。

彼としては面倒臭いのだが、忘れて無駄に目立つ事になるともっと面倒な事になりかねないからだ。

彼はベッドで気持ち良く眠っている。

だが、彼の至福の時は長くは続かなかった。

 

不意に携帯電話に着信が入る。

垣根は寝ぼけ眼で携帯電話を手に取る。

 

表示は『八神はやて』。

 

彼は舌打ちしながら応答する。

 

『あ!おはよう帝督くん!』

 

「宿題から見せねえし手伝わねえぞ」

 

『ええっ!分かってたん!?そんな事言わんで助けてーな!!』

 

「嫌だ。どーせ高町とテスタロッサもセットなんだろ?」

 

『うっ、よくぞご存知で……』

 

電話越しにはやてがバツの悪そうに答える。

垣根はウンザリしながら言う。

 

「ったく、勘弁してくれよ。何で夏休み後半にまで、お前等ワーカホリックのババロアブレーンズの相手しなくちゃならねえんだよ」

 

『誰がババロアや!!』

 

「ワーカホリックは否定しねえんだな。テメェ等以外に誰がいんだよ」

 

『と、とにかくお願いや!!わたし達の宿題見たって!!』

 

「却下。自力で何とかしろ」

 

そう言って垣根は一方的に電話を切った。

彼は携帯電話を放り投げて、再びベッドに潜り込んだ。

 

数十分後。

 

ピーンポーン

 

呼び鈴が押され、音が室内に響く。

垣根はもぞりと布団から顔を出す。

 

(……、)

 

彼は居留守を決め込む。

 

ピーンポーンピーンポーンピーンポーンピーンポーンピーンポーンピーンポーンピーンポーンピーンポーン

 

何度も押される。

 

(うるせえな。出る気が無いってのが分からねえのか)

 

垣根はだんだん苛立ってきた。

連続で二十回以上連打されたところで彼の低い沸点の限界を超えた。

ドタドタと足音を立てながら勢いよく応対用マイクのスイッチを押す。

 

「うるせえッッ!!出る気が無いってのが分からねえか!!」

 

見ると、そこにはアウトフレームモードのリインフォースⅡとヴィータがいた。

 

「……あ?何でお前等がいる訳?」

 

リインは人懐っこい笑顔で、

 

「帝督さーん、お家に入ってもいーですかぁ?」

 

垣根はため息をつきながら、

 

「ダメに決まってんだろ」

 

「「えー!?」」

 

声をハモらせる二人。

 

「えー、じゃねえよ」

 

ヴィータが文句を言う。

 

「ちょっとぐらい良いだろ。はやてのおつかいで暑い中ここまで歩いて来たんだぞ?」

 

「知るか。ンな事そっちの都合だろうが。大体─」

 

言い終わる前に声が聞こえる。

 

「「「おはようー!!」」」

 

「_遅かったか」

 

垣根は諦めたように呟く。

 

「はあ、とりあえずあがれ」

 

所変わってリビング。

 

「ヴィータ、リイン、お前等は空き部屋でゲームでもしてろ」

 

「はーい!」

 

「おー」

 

二人はリビングからでていった。

そしてスエット姿で佇む垣根帝督は、少し申し訳なさそうにしているフェイトと、ニコニコしているなのはとはやて、つまり、ワーカホリックのババロアブレーンズの方を向く。

彼は絶対零度の視線で睨みつける。

それに気付いた彼女達は思わずビクリと震える。

 

「ちょっとそこに座れよ」

 

「え?!」

 

「えと、帝督くん?」

 

「あわわ……」

 

なのは、はやて、フェイトの三人は冷や汗をダラダラと流す。

 

「いーから座れよ」

 

垣根は今何も触れていない。

しかし次の瞬間、パカンッ!! という音とともにテーブルがバラバラに切り崩れた。

 

「「「はっはいぃぃぃぃ!!」」」

 

三人は反射的に正座する。

垣根は首の関節をゴキゴキと鳴らしながら椅子に座る。

 

「テメェ等、アレか?夏期休業の課題ってのは他人に頼って終わらすもんなのか?」

 

「い、いえ、その……思ったより……」

 

「仕事が忙しくなっちゃって……一応、頑張ったんだけど……」

 

「苦手教科だけ終わらなくてなぁ……」

 

しどろもどろに答えた。

殺気等に人一倍敏感なフェイトに到っては鳥肌を立てている。

 

「ほう、つまり苦手教科以外は終わってんだな?」

 

彼はジロリとはやてを見る。

 

「ごめんなさい。わたしは数学以外全部です!!」

 

涙目で彼女は土下座した。

 

「ったく、古市の馬鹿ですらもう終わってるってのに。だからワーカホリックのババロアブレーンズって言われんだよ」

 

「それ言うてるの帝督くんだけやからね!?」

 

「垣根以外には言われた事無いよ!!」

 

「それ以前に垣根くんわたし達をそう思ってたの!?」

 

文句を垂れるババロアブレーンズ。

 

「ああん?」

 

それを叩き伏せるように垣根は睨みつける。

 

「「「ごっごめんなさい……」」」

 

垣根はこめかみに青筋を浮かべながら言う。

 

「何より、俺は今日一日寝過ごす予定だったんだよ。それを邪魔されてムカついてんだ」

 

(((結局ソコ!?)))

 

三人はそう思ったが恐くてツッコめなかった。

垣根は構わず続ける。

 

「つー訳で、優しい優しいこの俺が、特別にお情け見てやる代わりに、テメェ等は今日中に課題を達成しろ」

 

「そんな無茶な!!明日までじゃダメなん!?」

 

「いくらなんでも無理だよ!!」

 

「そうだよ垣根!!」

 

ババロアブレーンズは口々に弱音を吐く。

だが彼は再び彼女達をギロリと睨みつける。

 

「テメェ等に拒否権はねえ。そもそもこんな状況になったのは自業自得だ。こうなる事も予想できなかった金魚鉢程にも役に立たない頭蓋骨に入ったババロアブレーンを持つテメェ等自身のせいだろ」

 

酷い言われようだが彼女達はまったく言い返せない。

 

「とっとと始めろコラ」

 

「「「はい!!」」」

 

どすの効いた声でどやされて顔を青ざめて宿題に取り掛かる。

 

 

……そして。

 

 

「お、終わった……つ、疲れた……」

 

「ふええ……デスクワークより過酷だったかも……」

 

「お願いした手前、贅沢言えへんけど……ていとくんスパルタ過ぎ……」

 

死屍累々の状態を尻目にふんぞり返っている垣根帝督は、ふんッと退屈そうに鼻を鳴らす。

 

「タダで第二位の超能力者(レベル5)に家庭教師の真似事してもらっただけでも光栄に思いながらありがたく心底感謝しやがれ」

 

いつもより割り増しで尊大な態度で見下ろされるが、何も言い返す気力も無かった。

ふと、そこで垣根が思い出したように尋ねる。

 

「つーか、こういうのは普通、バニングスと月村に頼めよ。何で俺の所に?」

 

「あー、それは……」

 

と呟くように言ったはやての言葉を、なのはとフェイトが継ぐ。

 

「ここ数年、毎年のように二人に助けてもらうのも……」

 

「悪い気がして、ちょっと気が引けちゃって……」

 

「今年はていとくんおるから、お願いしてみよかって三人で思ったんや……」

 

それを聞いた瞬間、垣根の頭が色々な意味で沸騰しかけた。

 

「知り合いの女を生まれて初めてぶん殴りたくなったわ。一人一発殴って良いか?」

 

「「「ごめんなさい。でも勘弁してください」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

九月一日、二学期始業式の当日である。

 

「眠いよ〜」

 

「うーん……」

 

「ふあ……」

 

寝ぼけ眼で歩いているのは、高町なのはとフェイト・T・ハラオウン、八神はやて。

 

「顔色酷いな。丸一日インターバルあっただろ」

 

偶々登校中に合流した垣根帝督が、怪訝そうに言う。

 

「それが、昨日の朝、急に任務で呼ばれて……」

 

「わたし達それぞれ夜まで駆り出されて……」

 

「宿題疲れが抜けへんまま、一日仕事漬けになってもうた……」

 

へばっている三人を見て少しだけ同情し、垣根は哀れみの視線を向けた。

はやてがヒョコヒョコと彼に近付くと、左肩に手を置いて告げる。

 

「ていとくん」

 

「ていとくん言うな」

 

「眠いししんどいねん。肩貸して。何なら学校までおぶって~」

 

「清々しいほどに図々しい頼みだな。お前達の事情にゃ多少同情するが、半分自業自得だし暑苦しいから嫌だ」

 

「え~そんなカタい事言わんといてよ~」

 

と言いながら垣根の背中にへばり着こうとするはやて。

彼も鬱陶しそうに彼女を振り払おうと体を揺する。

 

「嫌だっての暑苦しい。ベタベタすんな」

 

「ええやん。おんぶしてくれたら、背中で学校までわたしのおっぱいの感触楽しみ放題やで?」

 

「提案が卑猥な上にオヤジ臭せえんだよ」

 

「はやてちゃん、それ逆セクハラ……」

 

「しかも何か生々しいよ……」

 

と、垣根に続く形でなのはとフェイトが弱々しくツッコミ。

 

「何なら、今だけノーブラになってあげよか?」

 

「そんな冗談を言える元気があるなら大丈夫だろ。キリキリ歩け」

 

さっきから散々ボディタッチを仕掛けているのに、案の定動じない垣根帝督に、八神はやては別の意味で不機嫌になってきた。

 

「ぶぅー、そこまで無反応で邪険にされると、女としてのプライド傷付くんやけど?」

 

「知るか。つーか歩きながらひっつこうとするな。鬱陶しいんだよ」

 

意地になってはやてが垣根の背中に掴みかかるが、彼も振りほどこうと体を左右に揺すっている。

そんなやり取りをしていると、月村すずかとアリサ・バニングスと合流した。

 

「おはよう……って、え?」

 

「おはよう……って、何してんのよ」

 

「見ての通りだ」

 

垣根は迷惑そうな顔で、面倒臭そうに言った。

 

「おはようみんな」

 

「おはよーって、垣根、相変わらずのモテッぷりだな」

 

志村と古市が合流する。

 

「ばーか死ね」

 

「ひでえ!!」

 

暴言を吐きつつ、垣根ははやてを引き剥がしながら登校する。

校門に着いたあたりでようやくはやても諦めた。

 

「もう何か、普通に歩くより疲れてもうたわ」

 

「こっちのセリフだ馬鹿。自業自得だろ」

 

「ていとくん強情やから」

 

「それもこっちのセリフだっつーの」

 

ブーブーと文句を垂れるはやてに対して、垣根も吐き捨てるように答えた。

端から見ると新学期早々じゃれあっているバカップルにも見えなくもない。

垣根ははやての悪ふざけの意図を薄々感じ取るも、今は敢えてスルーした。

 

 

その様子を遠くで見ている者がいた。

 

「あの人は…」

 

教室の付近に到着すると、魅神聖がいた。

 

「おはよう。久しぶりだな。夏休み中会えなくて寂しかったぜ?」

 

ニコッと笑う彼に垣根以外はウンザリとする。

魅神は女性を恋愛対象か守られる存在としか見ていない。

ただし彼は別段悪党ではないため、まともに突っぱねることができるのはアリサ・バニングスぐらいなのだ。

 

「アンタのクラスは隣でしょ」

 

「そうつれない事言うなよ。始業式の時間まで話に来たんじゃないか」

 

「別に話題無いでしょ。自分のクラスに戻って!」

 

「あはは、相変わらずツンデレだなぁ〜」

 

そんなやり取りを無視して、垣根帝督と古市貴之と志村新八は教室に入ろうと歩きだす。

魅神聖の目的は高町なのはを始めとする五人の少女達だ。

男の自分達には関係ない。

障らぬ魅神聖に面倒事無しだ。

 

しかし、

 

「待て!そこの野郎共!!」

 

魅神聖の声にビクリと肩を竦めて止まる古市と志村。

垣根だけは構わずに教室に入った。

 

((逃げやがったー!!))

 

二人は垣根を睨むが、彼は気持ち良い程無視して自分の席についた。

そして魅神聖の嫉妬にかられた尋問が始まる。

 

「何故てめーらがなのは達と一緒にいた!?」

 

「垣根君と一緒に登校しているところにたまたま合流したんだよ」

 

志村が正直に言った。

だがその一言は垣根帝督を巻き込むことになった。

 

「何?垣根だと?貴様、また性懲りもなくなのは達に付き纏いやがって」

 

魅神は垣根の席に向かい、

 

「おい垣根。相変わらずなのは達が優しいのに付け込んで付き纏いやがって。彼女達に迷惑が掛かってるのがわかんねーのか」

 

寝ていた垣根はムクリと顔を上げる。

 

(志村の野郎、後でタコ殴りにしてやる)

「うるせえな。そりゃテメェだろ」

 

彼の言葉に思わず魅神聖以外のこの場にいる生徒のほとんどが頷く。

 

「そんな訳あるか。てめーが元凶に決まってる!」

 

ここで垣根帝督の低い沸点を超えた。

彼は左手を伸ばすと、魅神聖の頭をガシリと掴む。

 

「な!?」

 

彼は自分がどういう状態に晒されているか理解できずに鼻白む。

垣根はイライラとした調子で言う。

 

「朝っぱらからスカしたうざってえ顔面晒したあげく、根も葉も無い屁理屈垂れてんじゃねえよ三下。もう一度金玉蹴り潰すぞコラ」

 

(なっ何だ!?この殺気は!!チッ、まあコイツのプライドを折って本性を晒すのは、また次の機会にすればいい)

 

自信家は逃げるのにも、いちいち理由がいる。

 

「……ッ!フン、今日のところは見逃してやる。覚えてろ」

 

そう言って魅神聖は去っていった。

 

「流石やなあ帝督くんは」

 

はやてが感心しながら彼の左横に座った。

 

「目障りな馬鹿はさっさと退かすに限る」

 

 

 

そして始業式。

体育館にクラスずつ横一列ずつに並ぶ。

 

「あれ、垣根は?」

 

フェイトは周りを見渡しながら近くの女子生徒に尋ねた。

 

「『面倒臭いからフケる』ってさ」

 

さらに古市が続ける。

 

「サボって罰食らっても痛くも痒くも無いんだと。こういうとき、成績優秀の素行不良ってのは羨ましいぜ」

 

血色の悪い顔、クリクリのくせ毛が禿げ頭のふもと付近に生えている。眉毛はお公家さんのような丸型。

柿の種のような形の目は、愛される要素ゼロ。

そんな出で立ちの校長が自分自身の頭髪のように薄い内容の話を長々としていた。

 

本日は始業式のみで授業は無く、午前中で終了。

 

 

「もう、ダメだよ垣根。始業式サボっちゃ」

 

フェイトが垣根に言う。

 

「良いんだよ。ハゲの寝言聞くぐらいなら屋上で昼寝してた方がマシだ」

 

「言い過ぎだよ。垣根くん」

 

 

「それにしても酷い言われようだね。校長先生も」

 

なのはとすずかが苦笑いで言った。

 

「ねえねえ、このあとみんなでお昼ご飯食べない?」

 

「お、ええなぁ。帝督くんも一緒に─」

 

アリサの提案に乗ったはやてが垣根に声をかけたが、言い終わる前に別の声が教室の出入口から聞こえた。

 

「失礼します。ここに垣根帝督君はいらっしゃいますか」

 

物腰の柔らかそうな女性の声。

垣根を含めた六人が、声のする方へ向いた。

天然茶髪で少しウェーブのかかったロングヘアーの女子生徒。

中学生にしてはやや大きいバスト。

要するにボンキュボンだ。

文武両道にして容姿端麗な完璧人間。

名前は喜久井遥(きくいはるか)

三年生で聖祥大附属中学校の生徒会長だ。

 

「垣根は俺だけど、何か?」

 

垣根は立ち上がり、喜久井遥のもとに近づいた。

彼は喜久井遥を知っていた。

だがそれは生徒会長としてではなかった。

 

「少し屋上までよろしい?」

 

「ああ?」

 

彼女はニッコリと微笑む。

だが彼には何かを含んだ笑みに見えた。

 

 

 

所変わって屋上にて。

誰もいないそこには二人の生徒が相対する。

 

「それで、何のようですか?生徒会長さん」

 

垣根はうっすらと笑いながら尋ねる。

 

「ふふ、そう警戒しなくても良いわ。二年生君。いいえ、学園都市第二位の超能力者(レベル5)にして暗部組織『スクール』のリーダーさん♪」

 

喜久井遥も微笑みながら言う。

その言葉を聞いた瞬間、垣根帝督の目つきが変わった。

学生としての目から暗部の人間としての目で喜久井遥をジロリと見据える。

 

「……クライアント側のテメェが、依頼が終わった後に会うのは契約違反じゃねえのか」

 

「そう怖い顔しないで。今日はお仕事の依頼を頼みに呼び出した訳じゃないの」

 

どこか掴み所の無い笑みを浮かべながら彼女は言う。

屋上にもう一人、女子生徒が現れた。

学年は遥と同じ三年生で黒髪のストレートロングヘアー。

少し緊張しているのか若干オドオドしている。

 

「は、初めまして。私は赤城さくらと申します。この前は妹の咲耶を助けてくれて、ありがとうございました!」

 

たどたどしく頭を下げた。

 

「……、」

 

垣根は疑念を滲ませた顔のまま、しばらく無言だった。

 

「それと、さくらの妹の咲耶ちゃんも貴方に言いたい事があるそうよ。それじゃ、私達はお先に失礼するわ。邪魔しちゃ悪いしね☆」

 

喜久井遥は軽くウィンクをして赤城さくらと共に去った。

だが垣根帝督の顔には不快しかない。

と、そこへ貯水タンクの影から一人の女子生徒が出て来た。

 

黒髪のショートボブ。

中学一年生にしてはやや大きいバスト。

姉同様に緊張しているのか顔を赤らめ少し俯いて、手を後ろにしてモジモジといる。

 

赤城咲耶。

 

以前、垣根帝督が『スクール』が任務で彼女を犯罪組織から救出(奪還)した。

仕事が終わった以上、もう関わる事は無いと思っていた。

同じ学校に通う以上見かける事はあっても一生言葉を交わす事も無いと思っていた。

普通に表の世界の人間として生き、裏社会で生きる垣根帝督とは金輪際関わることは無いと思っていた。

そう思っていたのに、彼の目の前に赤城咲耶は確かにいた。

夢でも幻覚でも無い現実に。

 

「……何の用だ」

 

垣根は無愛想に言った。

 

「あっあの、咲耶は、そ、その……」

 

赤城咲耶は恥ずかしそうにモジモジとしている。

 

「んだよ。言いてえ事があるならハッキリ言え」

 

垣根はイラッと眉を動かす。

急かされて咲耶は慌てて答える。

 

「えと、あの!この前は助けてくださって……ありがとうございました!!垣根先輩が同じ聖祥に通っている事を、お姉ちゃんとお姉ちゃんのお友達から聞いて、……改めてお礼が言いたくて……」

 

「ふーん、そりゃどう致しまして。だがな、俺は別に礼を言われるような覚えはねえし、恩義に感じてるんなら、そっとしといて欲しかったもんだがな。ただ依頼通りに仕事をこなしただけだし」

 

彼は興味のなさそうな調子で素っ気なく答えるが、

 

「そ、それでも!咲耶にとって先輩は命の恩人ですそれに、あの時、咲耶を抱き抱えてくれた先輩の腕は温かくて、優しい感じがしました……」

 

(優しい感じ……?何言ってんだこいつ)

 

垣根帝督は理解できないといった調子で首を僅かに傾げる。

そして赤城咲耶は意を決して言う。

 

「あれ以来、先輩の事が気になって…………いました。そ、それで…………その、垣根先輩が、好き、に……なりました!!だから、そのっ!、咲耶とお付き合いしてくださいっ!!」

 

執着心で顔を真っ赤にしながらも、彼女は告白した。

垣根帝督に。

これは予想外だったらしく、垣根も少し驚いたように僅かに目を剥く。

しかしすぐにいつもの目つきの悪い悪人面に戻る。

そして彼は簡単に答える。

 

「断る」

 

「っ!?」

 

赤城咲耶は驚き目を見開く。目尻には僅かに涙が浮かんでいた。

 

「うっ………………な、なん、で……ですか?せっせめて理由を教えて下さい。咲耶じゃダメなんですか?」

 

泣くのを必死に堪えながら彼女は垣根に問う。

 

「俺はテメェになんざ興味はねえ。俺は仮にテメェじゃなくても、誰かと色恋沙汰に興じるつもりもねえんだよ。彼氏が欲しけりゃ他当たれ」

 

突き放すような言葉。

咲耶の目からボロボロと涙がこぼれる。

垣根帝督は彼女の表情を気にも留めずに続ける。

 

「そもそもテメェは一体誰にそんな世迷い言をほざいてると思ってんだ?」

 

「え?」

 

「俺は悪党、簡単に言えば人殺しだぜ?」

 

次の瞬間、この場の空気が凍るような錯覚が起きる。

 

「テメェも一応姉貴の友人から聞いたはずだぜ。それに暗部ってモンに所属する人間はどんな事してるか想像つくだろ」

 

「そっそれは!」

 

「俺も一応、自分が外道だっつー自覚はあるんだよ。テメェはそんな相手に告白してんのが分からねえ程のバカなのか?」

 

垣根は咲耶を見下すように言う。

これで自分に幻滅して立ち去るだろう。

これで彼女はもう自分に関わらないだろう。

これで良い。

彼は確信を持っていた。

 

「そんな事ありません!!」

 

「はあ?」

 

さっきまでの彼女からは想像もつかない程の叫び声だった。

 

「咲耶にだって、お姉ちゃんや遥さんほどじゃないけど、自分に向けられる悪意というものは分かります!でも貴方は、先輩は、咲耶に全然悪意を向けてないじゃないですか。それに感覚的にだけど、分かるんです。先輩は他人に向けられる悪意に怒る事ができる。本当は優しい所もある人だって!!」

 

その言葉に思わず垣根は舌打ちをする。

『優しい』

一番自分に向けてほしくない言葉だ。

善人であろうと、盾突くようなら容赦なく殺してきた。

故に彼は、垣根帝督は頑なに赤城咲耶を拒む。

 

「分かったような口聞いてんじゃねえよ。テメェごときが俺の何を理解できる?安易にそういう事宣うヤツの方が、俺はムカつくし嫌いなんだよ」

 

苛立ちに呼応するように、彼の肩口からパキパキ、ピキ、という音と共に正体不明の何かが発生しているのが見える。

感情に引っ張られるかのように、能力が漏れ出していた。

威嚇ではなく、本気で腹を立てている。

 

「分かったら大人しく失せろガキ。二度と俺の前に現れるな」

 

そう言った所で彼は気付く。

この様子を見られていると。

 

「嫌です!!まだ咲耶は─っ!?」

 

不意に垣根は右手の平を彼女の目の前に出して待て、と指示する。

そして彼は屋上の出入口付近の影を見る。

 

ブォ!! という音ともに影から外に向かって不意に烈風が吹き荒れる。

 

「「「「「キャアッ!?」」」」」

 

垣根が能力を使ってあぶり出されたのは、やっぱりなのは達だった。

 

「覗きとは悪趣味だな」

 

垣根が目を細めながら呆れたように言う。

赤城咲耶はポカンとしている。

 

「ご、ごめんね垣根くん!覗くつもりは……」

 

「あっただろ。後つけてる時点で」

 

なのはの言葉を遮るように彼は言った。

なのは達はバツの悪そうに、すまなさそうに首を竦めた。

 

「テメェ等もだよ。三年生二人」

 

すると屋上の出入口のドアが開き、喜久井遥と赤城さくらが出て来た。

 

「あらあら、やっぱり気づかれちゃったわね」

 

「お、お姉ちゃん達!?うう、見てたの?」

 

さくらは申し訳なさそうにしているが、遥に反省の色は無い。

むしろ面白がっているようだ。

赤城咲耶は告白したところを大勢の人々に見られていた事に気付くと顔を真っ赤にして俯く。

垣根帝督は興ざめしたように呟く。

 

「何だこりゃ。ドッキリか?」

 

「ち、違います!!」

 

それに咲耶が憤慨したように否定する。

自分の告白をドッキリ扱いされるのが気に入らなかったのだろう。

 

「どっちにしろくだらねえ。興醒めだ。俺はもう帰るぜ」

 

「え!?あの_」

 

垣根は周りの声を無視して下校していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤城咲耶は昇降口にいた。

下駄箱から靴を出してこれから下校するところだ。

だがその足取りは重い。

恩人であり想いを寄せる人物の垣根帝督に告白を頑なに断られ、その直後に覗き騒ぎが発生して結局うやむやになってもしまったからだ。

 

「あれ、あなたは確か、赤城咲耶ちゃんだっけ」

 

後ろから声をかけられ、振り返るとそこには二年生の女子生徒が立っていた。

 

「えっと、貴女は屋上にいた……」

 

「初めまして。月村すずかです。さっきは覗きみたいなことしてごめんね」

 

すずかは自己紹介しながら柔和に微笑んだ。

 

「あ、えと、よろしくお願いします。月村先輩」

 

「すずかで良いよ、咲耶ちゃん♪」

 

「あっありがとうございます。すずか先輩」

 

ようやく咲耶は笑顔になった。

 

「それで、垣根くんとはどうやって知り合ったの?」

 

「はい、えっと、本当はあまり話しちゃいけないんですけど_」

 

 

「_へえー、そんな事があったんだ。大変だったね。恐かったでしょ?」

 

「はい、でもその時垣根先輩が助けてくれたから、今咲耶は生きていられるんです」

 

赤城咲耶は頬を赤くしながら嬉しそうに言う。

 

「ふふ、でも、垣根くん朴念仁だし、恋愛事は他人事で冷めてるし、そのくせ一部の女子には人気だから大変だと思うよ?」

 

「よく知ってますね。うらやましいです!もしかして、すずか先輩も?」

 

「ううん、わたしは垣根くんをそういう目で見てないから…」

 

「よ、よかった〜。先輩がライバルだったら咲耶、勝ち目無いです……」

 

ホッとする咲耶を見て、すずかは笑いながら、

 

「そんなこと無いよ。咲耶ちゃんは十分かわいいよ♪」

 

「あ、ありがとうございます。えへへ、何か照れます」

 

そんな感じで談笑しながら歩いていると、

 

「お!君達かわいーねェ。今帰り?」

 

「お嬢さん達、暇なら俺らと遊ばなーい?」

 

化石レベルの典型的な台詞の不良高校生に絡まれた。

二人とも色黒で痩せて縦長の顔で金髪。

小太りで横長の顔で茶髪。

団栗と栗みたいな顔面だ。

 

「わたし達、用事がありますから失礼します」

 

脅える赤城咲耶の手を掴んですずかは立ち去ろうとした。

しかし栗みたいな顔の……もう栗で良いや。

栗が彼女達の行く手を阻み、団栗みたいな……もう団栗で良いか。

団栗がすずかの肩を掴む。

 

「そうつれねーこと言うなよ。な、絶対楽しいからさ」

 

「そーそー、つかきみ中学生の割にイイ体してるね〜」

 

そうほざきながら栗が咲耶に手を伸ばす。

 

「ッ!近づかないでください!!」

 

彼女は反射的にカバンに手を突っ込むと、催涙スプレーを取り出した。

そして迷う事なく栗と団栗目掛けて噴射する。

 

「「ぎゃああああああああッッ!?」」

 

彼等は催涙スプレーをまともに浴び、絶叫する。

 

「咲耶ちゃんそんなもの携帯してるの!?」

 

すずかは驚きながらも彼女に尋ねる。

 

「あ、はい。咲耶、小さい頃から男の人苦手で……」

 

しかし、ゴキブリ色の肌を持つ不良二人はゴキブリ並にしぶとかった。

 

「てめぇ!!何しやがる!?」

 

「目ぇいてえじゃねーか!!」

 

すずかと咲耶がつかみ掛かられそうになったとき、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「おースゲェな。クリとドングリが服着て歩いてる」

 

缶コーヒーを片手にそう言ってほっつき歩いているのは、垣根帝督だった。

 

「なんだとてめぇ!!」

 

「ぶっ殺されてーのか!!」

 

「誰もテメェ等だとは言ってねえんだけどな。あ、自覚あるって事か」

 

ドSモード全開でおちょくる垣根。

 

「「ぶっ殺す!!」」

 

垣根に殴り掛かる栗と団栗。

しかし予想通り彼は小さく笑いながらアッサリと沈めた。

栗と団栗は垣根によって生ゴミ置き場に叩き込まれた。

 

「ありがとう垣根くん。助かったよ」

 

すずかが礼を言う。

 

「ありがとうございます。先輩」

 

咲耶も続いて言う。

 

「別に(どうでも)良いけどよ、何でお前は催涙スプレーなんか持ってたんだ?」

 

垣根の問いに赤城咲耶はゆっくりと答える。

 

「咲耶は男性恐怖症で、小さい頃から男の人苦手だったんです」

 

「あん?じゃあ何で俺の時は何ともない訳?」

 

 

「そ、それは多分、咲耶が先輩のことが……好き、だから……?」

 

「あーそー」

 

垣根は完璧に興味なさそうに返事する。

 

「きっ聞き流さないでくださいよ!!」

 

彼は答えずに帰ろうとする。

 

「垣根先輩!!」

 

「……んだよ」

 

垣根は面倒臭そうに振り向く。

 

「あんな断られ方じゃ納得できません!!だから少なくとも、咲耶が納得できるまでは先輩を諦めませんから!!」

 

赤城咲耶は言い切った。

それに対して垣根帝督は一瞬だが絶句し、心底うんざりしたような顔になる。

正直、食い下がられるとは夢にも思っていなかった。

 

「……正気かお前」

 

「正気です!!本気です!!」

 

「……、」

 

目を疑う表情で再び絶句している垣根帝督に、月村すずかがニッコリと微笑んで口を挟む。

 

「気持ちや意気込みだけでも汲んであげたらどうかな?成就するしないは別として、誰が誰を好きになるかは、その人の自由でしょ?」

 

「……事情知ってる癖にお前も加勢するなよ」

 

調子が狂い、頭痛を覚える。

何なんだこいつ等と呟きながら、ジロリと赤城咲耶を見ると、もはや無駄と分かってても敢えて告げる。

 

「もう勝手にしろ。時間の無駄だがな」

 

「はいっ!!」

 

いっそ清々しいほど澄んだ返事に、垣根は思わず額に手を当てた。

面白そうにクスクスと笑うすずか。

 

「笑ってんじゃねえよテメェ。面白がるな」

 

「だって、ふふっ。ギャップが凄くて本当に面白いんだもん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次元航行艦アースラ。

 

その食堂の一角に、休憩中のエースと執務官と捜査官がいた。

高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやてだ。

はやては如何にもな重々しい雰囲気を醸し出し、腕を組み、ゆっくりと口を開いた。

 

「……色んな意味で、びっくりしたなあ……」

 

「本当にね……」

 

彼女にフェイトが相槌をうつ。

 

「まさか、『あの』垣根くんがね……」

 

なのはも同意するように呟いた。

話題は言わずもがな、件の垣根帝督の事であった。

 

「せや。あの朴念仁で」

 

「人一倍冷めてて」

 

「その上、色恋沙汰とかは他人事で愛想悪くてガラの悪いあの人が……」

 

なのはだけ一言も二言も余計な事を言っていたが、とにかく、少なからず驚いていた事には変わりなかった。

 

赤城咲耶。

始業式の日の放課後、つまり本日。

垣根帝督にまさかの愛の告白をした少女だ。

 

「まさか、あの帝督くんに春が訪れようとは思わんかったわ……」

 

はやてはしみじみと、しかし複雑な面持ちで呻くように言った。

 

「あ、でっでも垣根くん、咲耶ちゃんを振っちゃったよね?」

 

なのはが反論するが、はやては言う。

 

「いやーあの様子やと、それぐらいで諦めるとも思えへん。むしろこれから積極的なアタックを仕掛けてくるかもしれへんで」

 

しかも、と彼女はさらに続ける。

 

「今回の一件で、気付いたっていうか……前から薄々思ってた事があんねん」

 

「「え……?」」

 

二人は思わず息を呑んだ。

 

「帝督くんは……意外と、押しに弱いんちゃう……?」

 

そういえば、となのはとフェイトは思い出す。

何かと理由を付けては夏休み中に垣根を半ば強引に呼び出しては、あちこち連れ回してきた事を。

そして、曲がりなりにも彼はそれに最終的には応じていた事を。

 

「……そうだ。垣根くんって、何だかんだ言いながら、はやてやちゃんとリインからの名前呼びを許してるよね?」

 

「あ、そうだよね。わたし達は絶対に言わせないのに……」

 

なのはとフェイトが思い出したように言いながら、段々別の意味で不機嫌になってきた。

そんな二人を見て、はやては苦笑いを浮かべて告げる。

 

「まあ帝督くん本人は、一ミリも認めた気はないんやけどね」

 

「でも何だかはやてちゃん達だけズルいよー」

 

「そうだよー。はやてとリインだけズルい」

 

「ええ……? って、何で矛先わたしとリインになってんねん。話変わってもうてるやん」

 

「「だってー」」

 

「いやいや。今はていとくんと咲耶ちゃんの話だったはずやろー?」

 

そこへ、そんな彼女達の雑談を遠目に眺めていたヴォルケンリッターの一人、シグナムがはやてに尋ねる。

 

「あの……主はやて。少し、よろしいですか?」

 

「んー何やー?」

 

「率直に思ったのですが、垣根の色恋沙汰が何故そこまで気になりますか?」

 

「「「へ?」」」

 

「私のような者が言えた事でもないですが、あの男の性格とスタンスを鑑みる限り、少なくとも今は恋愛事に興じるつもりは無いと思われますから、この先も何か進展するようには……。なので、何もそこまで気にする事も無いのでは」

 

シグナムとしては何気無いつもりで、至極真っ当な疑問をていしただけだったのだが、数秒ほど三人はフリーズし再稼働したと思ったら、

 

「え、えーっと……、そりゃあ『友達』の恋愛事なんやから、気にはなるし興味も沸くのは、ふ普通やろー……?」

 

「そそーそー!『友達』の、しかも無愛想で意地悪な垣根くんの事だから意外過ぎて!」

 

「う、うんうん!『友達』の!しかもそれが垣根だったから珍しくてつい、ねっ?」

 

何故だか目が泳ぎ始めてあからさまにしどろもどろした答えだった。

しかも妙に「友達」というワードを、こじつけるように強調している。

 

「はあ……。まあ、確かに垣根にしては珍しくて意外なのは同意だが……」

 

「せやろ!だからなーんもおかしい事はないねんで?」

 

「そーそー普通普通っ」

 

「うんうん!」

 

うっすら冷や汗を流しつつも、そこはかとなくこれ以上の疑問は無用と謂わんばかり雰囲気を醸し出す三人に、シグナムは怪訝な顔をしつつもこれ以上訊くのはやめる事にした。

 

「青春ね~♪」

 

その様子を微笑ましそうに眺めているシャマル。

 

「……、」

 

我関せずといった調子で隅に佇むザフィーラ。

 

「……、」

 

何とも微妙な表情で静観するヴィータ。

 

結局、貴重な休憩時間を無駄に潰した面々であった。

 

翌日。

垣根帝督は自宅マンションで身支度を整えて出ようとしていた。

 

ピーンポーン

 

不意にインターホンが鳴る。

垣根は僅かに眉をひそめる。

 

(誰だ?朝から)

 

彼がモニターを覗いて応対してみると、そこには赤城咲耶が立っていた。

 

「お、おはようございます。先輩……」

 

少し照れながらの挨拶。

普通は可愛いと思うだろう、垣根帝督以外なら。

 

「……何でテメェが俺ん家知ってんだよ」

 

「えっと……すずか先輩から、教えてもらいました」

 

「あん?月村はここは知らねえはずだが」

 

「すずか先輩は、はやて先輩から教えてもらったそうです」

 

「あのおしゃべりが……」

 

垣根は今ここにはいない、はやてに毒吐く。

 

「あの、一緒に、登校しませんか?」

 

咲耶が控え目に言う。

 

「そのために来たのかよ。……まあ良いけど」

 

垣根は若干呆れるが、ここで門前払いするのも面倒臭いと思い、しぶしぶ承諾する。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

満面の笑みで喜ぶ咲耶に、エントランスまで出てきた垣根はため息をつきながら、行くぞと促す。

彼女もそれに、はい! と頷きついていく。

 

しばらく歩いていると、アリサ・バニングスと月村すずかの二人と遭遇する。

 

「「おはよー」」

 

「おう」

 

「あ、おはようございます」

 

垣根は簡単に返事をし、赤城咲耶はペコリとお辞儀をして返事した。

 

「あら、早くも登校デート?朝から見せ付けてくれるわねー♪」

 

「しかも振った後輩の女の子とね」

 

わざとらしいニヤニヤとした顔とセリフの二人に、赤城咲耶と垣根帝督は対照的な反応をする。

 

「あうう……」

 

「テメェ等、分かってて言ってるだろ」

 

照れて恥ずかしそうにモジモジする咲耶と、露骨にムカついてアリサとすずかにメンチを切る垣根。

そこへ後ろから声が聞こえる。

 

「「「おはよう!」」」

 

垣根と咲耶が振り向くと、そこには高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやての三人がいた。

 

はやては早速、垣根に絡む。

 

「おはよーさん、ていとくん。振った後輩の女の子と登校デートするなんて、ていとくんもワルやね♪」

 

「ていとくん言うなコラ。お前も分かってて言ってるだろ」

 

垣根は嫌そうにイラッと眉を動かすが、

 

「あ、赤城咲耶ちゃんやったよね。改めて自己紹介や。わたしは八神はやてっていうんや。よろしゅうな?」

 

「あ、赤城咲耶です。こちらこそよろしくお願いします」

 

「どんなタイミングで自己紹介してんだよ」

 

垣根のツッコミを無視してさらになのはとフェイトも自己紹介する。

 

「高町なのはです。よろしくね?咲耶ちゃん」

 

「フェイト・T・ハラオウンです。よろしく♪」

 

「よろしくお願いします。先輩」

 

互いに自己紹介と挨拶を済ますと、再び皆で学校に向かって歩き始めた。

 

「つーか八神テメェ、何月村に俺ん家の住所リークしてんだよ。赤城が朝から俺ん家来たのは月村と八神のせいだからな?」

 

「えー、でも別に秘密って訳でもないやろ?カタい事言わんで。わたしと帝督くんの仲やん♪」

 

馴れ馴れしくはやてが垣根の肩に手を置くが、彼は鬱陶しそうに睨む。

 

「何がだよ。あくまで上っ面だけの関係だったはずだが?」

 

「つれないな~」

 

「自覚はある」

 

いつの間にかそっちのけで話すはやてと垣根の事を見て、咲耶がそっと手を伸ばし、彼の制服の端を指先で掴んだ。

本当は手でも繋ぎたかったのだろうが、あいにく垣根帝督の両手はズボンのポケットに突っ込まれている。

 

「……何だ?」

 

垣根が怪訝な声を発する。

咲耶はおずおずと口を開くが、

 

「えっと、……その、手……を」

 

「手なら繋がねーぞ」

 

「あう……」

 

そんな関係じゃないはずだしな、と言い、結局要求を先読みされて、ピシャリと却下された。

若干凹んだ様子だったが、それでも制服の端をはしっかりと摘まんだままだった。

なのはとフェイトはそんな垣根をジト目で見ている。

 

「いくら何でも冷た過ぎないかな」

 

「手ぐらい繋いでも良いんじゃない?」

 

「そんな義理はねえな」

 

その様を相変わらずだといった調子でヤレヤレとため息をつくアリサと苦笑いのすずかだった。

 

 

学校に着くと、古市が茶化してきたのでグーで殴って沈めた。

続いて魅神聖が絡んできた。

赤城咲耶を見るなり、

 

「お前、この子とどんな関係だ?」

 

「え!?」

 

咲耶は顔を赤らめるが、

 

「後輩」

 

垣根は淡泊に答えた。

 

「本当か……?君、そんな不良といてもつまらないだろう?どうだ、今日オレ達と一緒に昼食でも」

 

達、とは高町なのは達の事である。

が、もともと男性恐怖症の彼女は怯えて垣根の後ろに隠れた。

 

「オイ垣根、貴様その子とはやてから離れろ。邪魔だ」

 

(面倒臭ぇ)

 

魅神の見当違いな文句を無視して咲耶に自分の教室へ行くように告げる。

 

「あ!待ってよ!」

 

魅神が去ろうとした咲耶の肩を掴む。

 

「ヒッ!!」

 

彼女が脅えているが魅神は気づかない。

照れていると思っている。

 

「ちょっと!咲耶が嫌がってんでしょ!放しなさいよ!!」

 

アリサが彼に向かって怒鳴るが魅神聖自身はやはり、まるで聞いていない。

 

「フッ、アリサ、嫉妬しなくて良いよ。オレはお前達が一番だからさ♪」

 

(会話が成り立たない!!)

 

顔を引き攣らすアリサ。

 

「キャアアアアッッ!!」

 

赤城咲耶が悲鳴を上げて鞄から催涙スプレーを魅神聖に向かって噴射した。

 

「ぐわっうわああああっ!?」

 

「せっ先輩方、失礼します!!」

 

そして彼女は間髪入れずにダッシュで去った。

 

「痛つつ……。はは、まったく、彼女は照れ屋だな〜」

 

(タフな野郎だな)

 

垣根はそう思いながらも魅神を無視して教室に入った。

 

 

授業中、垣根は例に漏れず居眠りやサボりを平気で行い、その度にはやてやなのは、フェイトに起こされたり昼寝場所の屋上から連行されたり……ある意味で垣根帝督に安息の時は無かった。

 

昼休みも散々だった。

 

いつもの五人+四人だった。

赤城咲耶が可愛らしい弁当箱を持って、

 

「先輩、お昼咲耶達と一緒に食べてくれませんか?」

 

と言ってきた。

彼女の後ろには生徒会長の喜久井遥と咲耶の姉の赤城さくら、遥の妹の喜久井マリがいた。

マリはアリサ・バニングスとやたら声質が似ているツンデレロングヘアーで垣根帝督とは反りが合わないようだ。

 

「そやつが咲耶の恩人で思い人か。わらわは気に入らんな、言動や服装からしてまるでチンピラか不良ではないか。騙されてるのではないか?」

 

「あ?何だこのチビ。初対面でナメた口きいてんじゃねえよ。ツンデレツッコミキャラはバニングスだけで間に合ってんだよ」

 

「誰がツンデレツッコミキャラよ!!」

 

アリサのツッコミを無視してメンチを切り合う垣根とマリ。

オロオロする赤城姉妹。

面白そうに眺める喜久井遥。

 

「いつも以上に賑やかやな~」

 

「まさか、垣根くんきっかけで人の輪が広がる事があるなんてね」

 

「うん。本当に珍しいよね……」

 

敢えてやり取りには参加せず、垣根帝督のある意味らしくない光景を眺めるはやてとなのはとフェイトだった。

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