魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter   作:戸礼太

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過酷な現実と、届かない思い。

激しい痛みに耐えるのは、

柔らかな思い出があるから。

茜色の空の下、

小さく芽生えた主従の絆と

向き合ってゆく戦い

信じた思いを胸に抱き

撃ち抜く魔法をその手の中に

2人の少女は、瞳を交わした。





















そしてもう1人__。







対面する2人

決して交わる事の無いはずだった者達

明るく暖かな桜色の光を放つ少女

鋭く強い金色の光を放つ少女

機械のように無機質な、禍々しい暴力を振るう少年

優しさと真っ直ぐさを内包した明るい瞳

寂しさと儚さを内包しつつも強い意志の瞳

輝きの無い鋭く暗い闇を内包したどこまでも冷たい瞳

ついに出逢った 出逢ってしまった

この出逢いがもたらすのは 対話か、それとも新たな闘いか_


相見える 二つの白

海鳴市のとある市街地。

 

正体不明のエネルギー反応調査という名目で、最先端科学と超能力開発の街、学園都市からここに派遣された新設暗部組織『スクール』所属の超能力者(レベル5)という怪物、垣根帝督(かきねていとく)は、紺色のジーンズに白いシャツを身に付け、高級スニーカーという格好で闊歩していた。

ここ数日、監視用ドローンや衛星で様子を伺っていたが高町なのは達にも、フェイトとかいう女の方も動きが見られない。

双方ともに機械でできた杖が破損した影響だろうか。

拠点の知らない黒ずくめの方は殆ど不明だが、高町なのは達の方は概ね動向を掴めている。

ドローン経由で盗聴する限り、何でも破損した魔導端末(デバイス)の自己修復が完了するまでは現場復帰できないらしい。

専門の技師も何も無いのに、端末が自ら修復作業を行える事には驚愕した。

この一点だけでも学園都市を上回る科学技術と言える。

おそらくこの分だともう一方の連中も同じで、しばらく出てこないだろう。

そんな訳で、世間的には休日という事もあり買い出しと気分転換のつもりでブラブラしていた。

 

「たまにはガス抜きも悪くねえな」

 

昼食にガレットを食べて街ブラをエンジョイし、買い出しのレジ袋をぶら下げながら、いい加減な事をぼやいている。

このままゆっくり歩きながら帰宅しようとしていたのだが。

 

「……、ん…?」

 

突然地面がゴゴゴという音を立てながら、上下左右に小刻みに揺れ始めた。

地震だろうか?

休暇気分で完璧に気を抜いていたが、ふと自分の周りを見回す。

さっきまでの喧騒が無くなっている。

いいや、それだけではない。

 

「人気が……生体反応すら、遠ざかっていく……?」

 

往来する人々でうるさいくらいだったはずの街中が、今はまるでゴーストタウンのようになっていた。

走行する自動車すら無い。

厳密には、

まるで蜘蛛の子を散らすように、逃げるように、いや実際に避難するために逃げ惑い、少なくとも垣根帝督周辺の通行人達がこの場から走り去っていた。

見上げると白昼の空にしては、どことなく淀んでいるような。

これだけの現象を目の当たりにして彼は察した。

そして、心底面倒臭そうに眉をひそめた。

 

「おいおい、今日は当事者いねえんだけど」

 

自分を当事者にカウントしていない垣根。

しかし、状況は、元凶たる指定遺失物(ロストロギア)は、そんな彼のスタンスなど知った事ではない。

 

ゴッッッッ!!!!!!!!!!

 

突如、街路樹が肥大化し地面のコンクリートやアスファルトを砕き周辺の建物を破壊し根を広げ、呑み込んでいく。

魔導師がいない為、ユーノ・スクライアが操るような効果が同じ結界が展開されていない。

故に隠蔽工作の一つもできない。

 

「あーあ、やっぱりな。参ったなー」

 

置かれている状況と迫り来る脅威とは裏腹に、立ち尽くしている茶色い髪の少年に緊張感は皆無だった。

レジ袋を下ろし、空いた両手はズボンのポケットに突っ込んだまま街を侵食していく巨大樹木を眺めている。

 

「始めは無難に全体のサーチと解析からかな」

 

言葉通り有視界領域一帯に素粒子(ダークマター)を放出し散布する。

うっすらと笑う彼の見た目にこそ変化は無いが、既に超能力(レベル5)の『未元物質(ダークマター)』は牙を剥き、その毒牙を向けようとしていた。

巨木の怪物は、無数の枝やツルを伸ばし四方八方から迫る。

人間の姿をした怪物に襲い掛かる。

 

ビュオッ!!

 

「おっとアブねえ」

 

バックステップで軽々と攻撃を避けてみせるが、垣根はこの時正面しか見ていない。

実際には能力の応用でレーダーみたいに視界の外でもある程度能力経由で把握できるのだが、如何に強力なスキルを持ち行使できる、複雑な演算を行えるハイスペックな頭脳を持っていても、ベースである体は普通の人間。

敵の攻撃予測ができても回避が間に合わない。

身体が追い付かない。

 

ドゴォッッッッ!!!!

 

垣根帝督の背後へ、触手のように一本の枝が彼の心臓を貫こうと目にも止まらぬ速さで突き出てきた。

貫通こそしなかったが彼の身体を易々と突き飛ばし、はね飛ばされた。 最寄りのショッピングセンターに激突しその店内の奥の奥まで叩き付けられた。

常人なら即死、良くても重傷は免れないほどの衝撃を受けた。

 

しかし、

 

()ってえな」

 

破壊された店内から、致死量の衝撃を受けたはずの少年の声が聞こえる。

攻撃を受ける前と変わらない、僅かに苛立ちを醸し出した声変わりもしていない、幼いはずの少年の声が。

ボロボロの店内から歩いて出てきた少年の身体は、蚕の白い繭のようなもので包まれていた。

いや違う。

ひとりでに広がったそれは、翼だ。

天使の羽のような白い翼が六枚、二メートルほどの長さで、彼の背中からゆったりと羽ばたく。

 

「……ったく、ムカついた。幸い今この場に人目はねえし、コソコソしなくっちゃならない事もねえ。もう出し惜しみは無しだ。でき損ないのバケモノ擬きが。粉々にしてやるよ」

 

発言と同時に翼が勢い良く羽ばたく。

放たれた烈風が巨木の動きを止め、余波が周りの瓦礫や残骸を凪ぎ払う。

いつの間にか垣根は空の上に上昇し、太陽を背にしていた。

 

カッ!! と彼の翼が光る。

 

正確には日光が翼を通して巨木に照り付けている。

その瞬間、巨木の葉に火がつき、枝や幹、本体全体からジリジリと煙が上がり始めた。

真夏でもない、猛暑日でもない、特別強い日射しでもないはずの日光は、確実に木のバケモノを焼却しようとしていた。

バケモノは当然自分を焼き殺そうとしている主を駆逐すべく無数のツルが伸び、砕けたアスファルトの破片をトスバッティングのように垣根を狙って打ち出す。

 

「はん、そんなもの食らうかよ!!」

 

ズアッ!!

 

六枚の翼が音もなく十メートル近く伸び、弓のようにしなって一気に羽ばたく。

未元物質(ダークマター)』の影響を受けて変質した強烈な烈風が、バケモノ本体を押さえ付ける。

迫り来るツルもアスファルトの石粒を無数の羽が細切れにし、切り裂かれたツルの根元が、急激に腐敗し始めた。

 

「くくっ、上手に作用したみてえだな」

 

一瞬動きが止まる。その隙を少年は見逃さない。

 

ギュンッ!!

 

ズドドドドドッッ!!!!

 

風切り音が響く時には、既に六枚の翼は巨木の太い幹に突き刺さり、そのまま伸びて貫いた。

魔法の産物といえる怪物と相対する地球科学が生み出した怪物は、笑いながら怪物らしく、相応しい『暴力』を撒き散らす。

木の幹から翼が引き抜かれた。

直後、巨木の化け物の本体が急激に腐敗し、腐りきった所から枯れていき、ボロボロと風化し消滅していく。

そして、宿り主を失った青白い菱形の石がその姿を現す。

 

「とりあえずはこんなもんか。思ったより潰すのに時間掛かったな」

 

垣根帝督は翼を展開したまま、ゆっくりと着地した。

視線の先には、いまだに光りながら宙に浮いている石_ジュエルシードはまだ沈黙していない。

彼は未元物質(ダークマター)でコーティングした右手で掴もうと伸ばす。

 

しかし、

 

バチィッ!!

 

静電気のようにスパークが走り弾かれた。

 

()って!クソッ、やっぱ封印ってのをしないとダメなのか?力ずくで黙らせる事ってできないのかね。いっそブッ壊すのも……」

 

物騒な事をぶつぶつ呟いている間に、目の前のジュエルシードが再び活発化する。

今度は何かを拠り所にするのではなく、純粋な魔法のエネルギー体として。

その姿は、高町なのはが最初に遭遇した黒いスライム擬き。

再生した怪物は垣根帝督を呑み込もうと大口を開けて突進する。

 

「はい、残念」

 

彼は小さく叩くように左手を上から下に下ろした。

 

ズンッ

 

その直後に怪物は為す術なく地面に縫い止められた。 それで終わりじゃない。

まるで空気に溶けていくように、身体が小さくなっていき悲鳴すらあげる余裕もなく消滅。再び一個のジュエルシードに戻された。

 

「魔法ってヤツも、広い意味では素粒子の集まったエネルギーの塊な訳だから、それを構成する魔力っていう力の源が分かればこっちのもんだ。集合や構成を阻害し粒子拡散作用の物質を作り出せば良い」

 

垣根は得意気に一人語りながらも『未元物質(ダークマター)』の影響を維持させながら一度、背中の翼を消した。

ざっと身の回りを見回す。

市街地だったのは嘘みたいに粉々になったアスファルトの道路に炎上する自動車。

ショッピングセンターが建っていた所は垣根帝督を中心に半径一〇〇メートルほど楕円形に、僅かな瓦礫を残して更地に変わっていた。

少し離れた位置にあるガソリンスタンドも戦闘の余波で徹底的に破壊され大爆発と炎上を繰り返している。

地元消防はスタンド消火活動に手一杯で都合の良い事に、ジュエルシードにも『未元物質(ダークマター)』にも気づく一般人はいないようだった。

戦闘中の彼は敵しか眼中に無く、周辺には一切配慮していなかったため知るよしもないし興味も無い事だが、不幸中の幸いは、利用客や従業員の殆どが逃げた後に戦闘が始まった為、重軽傷者は多少出るも死者だけは出ていなかった。

垣根としては、自分に関して目撃者とかがいなければそれで良い。

何人死のうが怪我しようがどうでも良い。

自分の秘密さえ守りきれれば。

指定遺失物(ロストロギア)の封印手段を有していない為、ここで手詰まりとなってしまった。

 

「さて、こいつはどうしようかね……、ん?」

 

今の今まで全く気付いていなかったが、今度は知らぬ間にこの場の状況が変わっていた。

空の色が変わっている。

何度か見た事のある奇妙な色。

確か、広域結界という魔法が発動している時に見られていた現象のはずだ。

半円形の広域結界が、この市街地だった場所を囲んでいる事は間違いない。

つまり、今まで尾行や隠密観察していた対象が付近にいる可能性は限りなく高い。

 

「……、」

 

そして、その魔導師達の目的はそもそも、今目の前で浮いているこのジュエルシードではなかったか。

 

「こりゃかなりヤバいかも_「あ、あの……!」ッッ!!」

 

突如後ろから話し掛けられ、垣根帝督の体がビクリと震えた。

聞き覚えのある少女の声。

互いに直接面識がある訳ではない。

どちらかというとむしろ垣根の方が一方的に知っているだけ。

 

「……、」

 

心の底から都合の悪い。

本人達には金輪際顔を会わす気が無かった所か、こちらの存在そのものも知られたくなかったのに。

事の裏側で終始コソコソと情報収集していたかったのに。

用済みになれば監視もする事もなく、何事も無かったかのように学園都市へ帰還する算段だったのに。

 

「チッ……」

 

小さく舌打ちをし、ゆっくりと声のした方に振り向く。

 

少年の目に映ったのは予想通り、白ずくめに機械仕掛けの杖を左手に握った少女と、淡黄色の小動物。

新米魔導師高町なのはと異世界からの来訪者ユーノ・スクライアは、科学の街、学園都市出身超能力者(レベル5)垣根帝督(かきねていとく)と今、本来絶対に起こり得なかった出逢いを果たした。

 

 

遡る事十数分。

ジュエルシードの発動を感知した高町なのかはとユーノ・スクライアは、現場に急行すべく走っていた。

既に遠くから煙や粉塵がもくもくと上がっているのが見える。

 

「なのは、先に行ってて。僕は結界を張ってから追いかけるから!でも、レイジングハートも自己修復が済んで間もない。絶対に無理はしないでね!」

 

「分かった!」

 

返事と同時に変身し空に舞い上がる。

高速飛行しながら、怪物に呑み込まれ破壊されていく街が彼女の表情を曇らせた。

そして中心地の方に向き直ると、結界が展開されているにもかかわらず、そこには巨木の根本の側に一人の人間が立っていた。

スニーカーに紺色のジーンズに白いシャツの、茶色い髪の少年。 背は少し高いようだが、歳はなのはと同じくらいだろうか?

 

「街が……、あ!ユーノくん、大変!人がいるよ!!逃げ遅れたのかな……?」

 

〈何だって!?そんなまさか!?……僕もすぐそっちに合流するから待ってて!!〉

 

結界は本来『術者が許可した者・あるいは結界内に入る能力を持った者以外は侵入できない空間』という魔法なのだ。

結界内で行われた破壊は結界の解除時に『結果』として残る事になる。

だが結界に拒絶された者は「その場にいる」のだが、結界内部で行われた術者達の行動を認識できず、結界内で行われた破壊等の影響を直接的には受けない……はずなのだが、

 

(広域結界内で無関係の人が……?一体誰が……新手の魔導師とかか……?)

 

「うん!……って、ああ!!」

 

なのはは射撃の為に怪物と間合いを取り、付近に着地した所でユーノと合流する。

 

ドゴォッッッッ!!

 

そうしていたら、少年が背後から伸びてきた枝に突き飛ばされ、近くのショッピングセンターに激突し店内の奥の奥まで押し込められた。

 

「たっ大変!早く助けないと!!」

 

「待って!「でも!」よく見て!」

 

焦って割り込もうとした彼女を制止する。

 

()ってえな」

 

「「ッ!?」」

 

声が聞こえた。

衝撃で粉々に破壊された店内から、白い繭のようなものに包まれた何かが出てきた。

いや違う。

ひとりでに広がったそれは、翼だった。

三対六枚の白い翼が少年の背中からゆったりと羽ばたいている。

 

「__ッ!?」

 

あまりの衝撃的光景を目の当たりにし、絶句する二人。

少年から生える翼は羽ばたいて烈風を放ち、上昇すると翼から光線を放つように光り巨木の怪物を焼き、更には刃物のように枝やツルを切り刻み本体を貫く。

貫かれた怪物の体は何の前触れも無く腐敗し始め枯れていった。

 

〈な、何あの羽!?何がどうなってるの?あれも魔法なの?あの男の子も魔法使いなの!?〉

 

なのはは混乱しながらも戦闘の余波で飛んでくる衝撃波や烈風、瓦礫の破片等を防御障壁(プロテクション)で防ぎつつ念話でユーノに問う。

ユーノは即座に否定する。

 

〈いや、あんなもの……あんな魔法見た事も聞いた事も無い……。第一、あの子からはなのはみたいな大きな魔力を感じない〉

 

ユーノは警戒心をあらわにして少年の方を見ている。

彼も驚愕に染まっている事は声で分かる。

 

〈あの人の保有魔力は小さいようだし、僕が感知する限り魔法も行使していない。何者なんだ、彼は……。魔導師でもなさそうなのに、僕の結界の中に入れるなんて……ッ〉

 

〈ユーノくんも知らない……、あの白い翼も……一体何なの……?〉

 

〈分からない。何も…何一つ分からない……。分かっているのは、あそこで戦っている彼は相当戦いに慣れている。それもフェイトって子と同等かそれ以上に強いかもしれない事だけだ〉

 

余裕そうな笑顔を浮かべ、背中から生えている数メートルもの長さの六枚の翼を振り回して好き勝手に暴れまわる少年。

途中、振るわれた翼から無数の羽が散って舞い上がり、こちらにも降り注いできた。

立ち尽くしていたなのはが、何気なく手を伸ばして羽に触れようとするが、

 

「あっ……」

 

手に触れる前に、羽は空気に溶けるように消えていった。

 

 

……そして今。

 

海鳴市の大きな市街地、そしてそこに位置するショッピングセンター、だった。

 

発動したジュエルシードが街路樹を触媒に変化した巨木の怪物が肥大化、無差別に暴れまわり、更にはその場にいた一人の謎の少年との激しい戦闘とその余波で、中心地だけでなくその周り一帯が徹底的にメチャクチャに破壊され瓦礫や残骸さえも吹き飛ばされ、更地のようになっていた。

やろうと思えば簡単に封印できそうな状態の消耗し切ったジュエルシード、その側に立つ謎の力を振るっていた得体の知れない少年に、それでも高町なのはは声をかけた。

 

「あ、あの……!」

 

声をかけられた少年はよほど驚いたのか、体をビクリと震わせた。

数秒間の沈黙の後、

 

「チッ……」

 

小さく舌打ちをしてゆっくりとこちらに振り向く。

明らかに不機嫌そうな表情の、目付きの鋭い(悪い?)端整な顔立ちの少年。

彼は両手をズボンのポケットに突っ込んで黙ったまま、なのはとユーノに目を向けた。

再び両者の間に沈黙の時が流れる。

それを先に破ったのはやはりなのは。

 

「えっと……もしかして、あなたもジュエルシードを?」

 

「……、」

 

少年は答えない。

ユーノはフェイトの時のようになのはが相手から不意打ちを受けるかもしれないと思い、ハイプロテクションをいつでも展開できるように備える。

 

「あ、あのね、ちょっとお話を聞かせてくれないかな?ってだけなの。あなたどこの誰なの?とか_」

 

「いつからだ?」

 

言い終わる前に口を挟まれた。

初めて少年が発言した。

 

「えっ?」

 

「いつから見てたんだ?どこまで見た?」

 

「え、えっと……、あなたが、木のお化けに突き飛ばされた所から……かな?」

 

(ほとん)ど全部じゃねえか……」

 

心底ウンザリした調子で吐き捨てるように言った。

その様子を見た彼女は少し首をかしげながら、苦笑いをする。

 

「もしかして、見られたく…なかった?で、でも、さっきの白い羽は綺麗だったと思うし……、そんな……」

 

「馬鹿にしてんの?」

 

「えっ!?し、してない!してないよ!だから、そんなに睨まないでほしいかな……」

 

怒らせたかなと思い、慌てて手と首を振って否定する。

 

「うるせえよ。似合ってないのは誰よりも自覚はあるし、睨んでもねえよ。この目付きは生まれつきだ」

 

「あ……ご、ごめんなさい……」

 

やぶ蛇だった。なのははすまなさそうに僅かに頭を下げて謝る。

 

「あの、そろそろ良いかい?」

 

埒が明かない、とユーノが口を開いた。

 

「単刀直入に訊きたい。僕が見る限り君は魔導師じゃないよね?君は一体何者なんだ?あの白い翼は何なんだ?」

 

「あ!そうそう、わたしもそれが訊きたかったの!先に自己紹介するね。わたし、高町なのは、聖祥大学附属小学校 三年生です。あなたの名前は?あなたの事を教えてほしいんだけど……」

 

気を取り直してなのはも言った。

しかし、少年は興味の無さそうな調子で返事をする。

 

「こっちが頼んでもない自己紹介どうもありがとう。そして俺はテメェ等の質問に答える義理はねえな。そこのジュエルシードはお前等に任せるから、俺はもう帰らせてもらうぜ」

 

「え!?あ、ちょっと__ッ!?」

 

ゴァッ!! と、少年の中心から正体不明の爆発が巻き起こる。

 

「_きゃあッ!!」

 

「わっ!」

 

煙と烈風が彼女達の視界を奪う。

咄嗟にハイプロテクションとオートプロテクションで防御する。

煙が消え、視界が晴れるとそこに少年の姿は無く、彼が力ずくで押さえ込んでいたジュエルシードだけが残っていた。

 

「あ……あれ?」

 

「……逃げられたみたいだね。仕方ない、ひとまず目の前のジュエルシードを封印しよう」

 

「うん……」

 

(さっきの爆発……やはり魔法じゃない。でも物理的威力は小さかったような…?初めから逃げるための目眩ましだったのか……?)

 

なのはがジュエルシードの封印を行っている間、ユーノは思案する。

結局、謎の少年については奇妙で強力なスキルを有しているようだという事以外、何も分からなかった。

 

 

未元物質(ダークマター)』を応用して目眩ましをし、慌てて市街地だった地域を離脱した垣根帝督(かきねていとく)

 

「_ちくしょう、バレちまった。次からはより慎重に尾行しなくちゃならなくなったな」

 

ため息を吐き、小さく舌打ちの音を立ててトボトボとほっつき歩く。

ここは以前、ユーノ・スクライアと高町なのはが出会った公園。 しかし垣根はそんな事までは知らない。

例え知った所で興味も無い。

しかし、今日の彼はとことんツイてなかった。

公園内の雑木林の四方八方から、何かブンブンと虫の低音の羽音が聞こえてくる。

 

「ああ……?」

 

違和感に気付きイライラとした態度で周りに目を走らせ、サーチすべく未元物質(ダークマター)を放出し音源を探る。

音源は確かに虫のそれだ。

だが音量が桁違いな上、量も多い。

 

「またジュエルシードか?」

 

未元物質(ダークマター)』による魔力のサーチがいまだに不完全ではあるが、もう少しでその問題はクリアできそうだった。

そう思考している間に、無数のスズメバチが垣根を包囲していた。 スズメバチといったがサイズが体長一メートルほどの通常ではあり得ない大きさで、どことなく形もおかしくなっていた。

尻の毒針を向けて一斉に襲いかかる。

 

「うざってえな」

 

ドンッ!! と垣根の中心から正体不明の爆発が巻き起こり無数の巨体スズメバチがまとめて凪ぎ払われた。

半分は爆発威力と同時に発生した奇妙な衝撃波を受けて粉砕されるも、残った半分が再び襲いかかる。

少し離れた所に大きく肥大化した蜂の巣が見えた。

そこから次々とハチが出てきている。

 

「後からウジャウジャと、本気でうざってえんだよ害虫風情が!!」

 

ザァッッ!!

 

彼の怒りに呼応するように背中から六枚の翼が生えて風を切りながら伸びて巨体スズメバチを次々に刺し貫き細切れにしていく。

しかし、ハチはどれだけ切り刻み破壊しても巣から出てくる。

 

「本丸の巣をやらないとダメみたいだな。面倒臭いしムカつくな!!」

 

バォ!!

 

翼を振り回して烈風を放ち、近くのスズメバチをまとめて遠ざける。 瞬間、蜂の巣の防衛に穴が空く。

 

「隙だらけだ!」

 

ドンッ!! という轟音が炸裂した。

垣根帝督の六枚の翼が、槍のように凄まじい勢いで伸長し蜂の巣に突き刺さった。

易々と貫き、切り裂く。

 

「死ね、この物の怪共が!!」

 

ジュエルシードが宿主にしていた蜂の巣内部の女王バチ。

その体に白い翼が突き刺さり『未元物質(ダークマター)』が襲いかかる。

女王バチの体と蜂の巣の構造物質が一斉に変質していき、その効果が現れる。

 

ザッ!ザザザザ!! ザリザリザリザリ!!

 

一瞬、断末魔のように激しく小刻みな羽音が聞こえた。

そして、

 

ザララララ……………_____、

 

蜂の巣もその中の女王バチも、一瞬で砂に変わって崩れていく。

宿主を喪った青白いジュエルシードがようやく姿を現す。

 

「あーあ鬱陶しいなもう、当事者今いねえっつってんのに。お構い無しかよクソッタレが。今日は厄日か?」

 

文句を垂れ流しながらジュエルシードの方へ歩み寄る。

 

「ここら辺人気もまだ無さそうだな、今のうちに『未元物質(ダークマター)』での封印の真似事ができるように色々試してみるか」

 

そう言った時、背後から金色の光線が通過しジュエルシードに命中した。

長距離封印砲の『スパークスマッシャー』。

 

「ジュエルシード、封印!」

 

一方的に見覚えのある光、聞き覚えのある声。

被弾したジュエルシードはドンッと小爆発した後沈静化する。

垣根は眉間にシワを寄せ、振り返る。

空中に二人の人間がいた。

より正確には、片方は人間ではなく使い魔と呼ばれる存在だが、今の垣根帝督にとってはどうでも良い事だった。

フェイト、という名前らしき金髪で黒ずくめの少女と、妙齢の要所要所が獣のような女。

本日二回目の想定外の邂逅。

だが、今は、今だけはどうでも良かった。

それよりも、憂さ晴らしついでに自分が今試そうとした事を邪魔された。

それが堪らなくムカついた。

気に食わなかった。

故に彼は、自分勝手に黒衣の少女へ怒りを向ける。

 

「テメェ、何邪魔してんだよクソボケ」

 

黒衣の魔導師フェイトは当然、自分より一足先にこの現場に現れ(これはただの偶然だが)ジュエルシードの異相体を見た事もないスキルで魔法も全く行使せずに、アッサリと倒した垣根帝督を警戒していた。

 

「横取りするような形になって悪いけど、ジュエルシードは諦めて。それは、どうしても必要なものなの」

 

フェイトはバルディッシュを構えて威嚇してみる。

これで引き下がってくれれば何もしないという意思表示でもあった。

 

「テメェの事情なんざ知るかよ。こっちはただでさえやりたい事を、今さっきやろうとした事をテメェに邪魔されてんのに要求を聞いてもらえるとでも思ってんのか?」

 

ギロリと睨み付け、警告をはねつける所か、

 

「そんなにアレが欲しいなら、しばらく大人しく、俺が満足するまではお行儀良く引っ込んでろよ。それができないなら帰れボケ。それとも、俺が嫌だっつったら……力ずくで掠め取るか?」

 

好き勝手に罵られ、挑発された。

流石に少しムッときて、バルディッシュをサイズフォームで構えて臨戦態勢を取る。

だが、彼女より使い魔の方が先に動いた。

 

「ごちゃごちゃうるさいんだよッ!!」

 

「アルフ!」

 

アルフと呼ばれる使い魔の女は瞬時に大きな狼に変化し、牙を剥き出し垣根に殴りかかる。

 

ドゴッ!!

 

垣根の体はアッサリ飛ばされ、近くの木に激突しぶつかった木は簡単にへし折れた。

 

()ってえな」

 

多少手加減したとはいえ、すぐに立ち上がれるほど与えたダメージは低くないはずだった。

アルフは前足の爪先に奇妙な違和感を感じる。

無防備だったはずの少年はまともに一撃を受けたのに、攻撃を意図的にずらされたような妙な違和感。

そして、本当に痛がっているのか分からないほど、自然に言ってきた。

 

「そしてムカついた。まずはテメェから粉々にしてやる」

 

「ッ!?」

 

彼から向けられる明確な敵意と、悪意と殺意にアルフは悪寒を感じ、飛び上がりフェイトと合流する。

 

〈フェイト、あいつヤバいよ!何人も殺してるような目をしてる!〉

 

〈うん。やっぱりあの人、相当手慣れてると思う。魔法を使っている様子も無い……ならさっきの白い翼は……?しかも魔導師じゃないみたい……一体何者なんだろう……〉

 

二人は最大限に警戒し距離を取る。

フェイトは四発の魔力弾_フォトンランサーを垣根帝督へ放つ。

彼はそれを避けずに受けた。

 

ドンッ!!

 

土煙が舞い上がる。

しかし、それが晴れると何事も無かったかのように余裕の表情で、垣根が立っていた。

 

「……やっぱ魔法って力に電撃効果が付与されているな。電撃使い(エレクトロマスター)に近いものを感じる。流石にちゃんと防御しないと、ちょっと痺れるかな」

 

無傷。

 

「で、どうするよ。まさかもうお開きとかつまんねえ事言わねえよな?」

 

指で誘いながら嘲笑う。

 

「クッ!」

 

バルディッシュを持ち直し、高速飛行で肉薄する。

サイズフォームでサイズスラッシュという刃にバリア貫通能力を付与し、刃部分の魔力を瞬間的に強化する魔法を行使している。

鋼鉄をも切り裂く鋭さに強化された刃を垣根に振り下ろす。

ゴウッ!! という風切り音と共に彼の背中から六枚の翼が生えた。

その内の一枚でフェイトの斬撃を受け止める。

 

バギィッッ!!

 

激しいスパークが両者の顔を照らす。

フェイトは全力で斬りかかっているのに対し、垣根は余裕の表情を崩さない。

 

(効いてない……?いや、少しだけど圧している、このまま_)

 

僅かに彼の足がズズッと後ろに押されているのが分かる。

受け止めた威力を殺しきれていない。

背後からアルフが襲いかかるが、

 

「ハッ」

 

左側三枚の翼で防ぎきった。

 

(くっ……、まただ。何なのさ、見た目は翼なのにこの気持ち悪い感触は……)

 

翼に拳を突き立てているアルフは訳の分からない奇妙な気色悪さに顔をしかめる。

バン! と二人を弾き返し、上空へ舞い上がると六枚の翼が伸びながら弓のようにしなり、勢い良く羽ばたく。

 

ズアッ!!

 

放たれた烈風をディフェンサーでアルフ含めて防ぎつつ敵の意図を掴もうとする。

上空から見下ろす敵は再び翼を構え羽ばたき、烈風を放っていた。

 

ゴウッ!!

 

「「ッ!!」」

 

アルフは真横に、フェイトはバルディッシュを振りかぶって烈風を切り裂き垣根に再び白兵戦を仕掛ける。

垣根は六枚の翼で空気を叩いて横へ移動し彼女を避ける。

しかし、フェイトはそれで取り逃がす気はない。

サイズフォームの光刃が発射された。

翼を羽ばたかせて器用に避けるが、発射された光刃は誘導性能を持ちロックされた垣根を追って回転しながら軌道を変化させる。

 

アークセイバー。

 

狙った対象のバリア・シールドを噛む性質が強く、防御された際には対象の防御を削ると同時に足止めの役割も果たす。

また「セイバー・エクスプロード」のトリガーコードで光刃を爆破、込められた魔力の全てを爆散させる事も可能。

 

「うおッ!?」

 

その強力な刃が垣根帝督を確実に狙い、羽ばたく翼をかわして体に着弾。

爆発音と同時に爆煙が彼の体を包む。

非殺傷設定とはいえ強力な魔法をまともに食らい、バランスを崩して落下。

しかし落下中に立て直してスタッと静かに着地した。

煤汚れた服をパンパンと手で払う。

 

「痛てて、今のは中々効いたかもな。少し痺れた」

 

そう言う割には緊迫感は無い。

相変わらずの薄い笑顔。

フェイトとアルフは再び警戒しながら彼を睨む。

垣根も彼女達を見据える。

 

「解析も逆算も概ねクリア、後は実際に_」

 

不意に、垣根の戦意が喪失する。

彼の背中の六枚の翼も消え、フェイト達に背を向けた。

 

「……?」

 

「は……?何のつもりさ?」

 

急にひしひしと感じていた敵意や悪意が感じられなくなった。

訳が分からず困惑する二人に、垣根は背中を向けたまま振り向き告げる。

 

「悪いがここでお開きだ。そこのジュエルシードはお前等の好きにしな。どうせ俺にゃ封印できねえし、お前等だってこれ以上横槍入れられたくないだろ?」

 

「あ……!」

 

まだ遠く離れているが、白い魔導師の少女達がジュエルシードを察知してこちらに向かっている。

自分達も察したが何故、彼はそれを察知できたのだろうか? 魔導師ではないばかりか魔法も全く行使していないのに、どうやって……、あの翼の力だろうか。

 

「何で、分かったの……?」

 

「それは秘密だ。教えてやる義理も無いしな」

 

ニヤリと笑い、さっさと立ち去ってしまった。

フェイトもジュエルシードを封印、回収し高町なのはが到着する前にこの場を去る事にした。

 

「……結局あいつは一体何だったんだろうねえ、あたし等に怒りだして突っかかってきたと思ったら勝手に繰り上げて帰っちまいやがった」

 

「分からない。何者なのかもあのスキルが何なのかも。でも、あの人……強かった」

 

自分とはまた別の意味で手慣れているようだった。

奇妙なチカラと底の見えない悪意。

うっすらと残った気味の悪い違和感と恐怖。

 

 

 

「やれやれ、危なかったな。流石に三つ巴は避けたかったからな」

 

潜伏地の高級マンションの最上階の一室。

垣根帝督は一人呟いた。

当初の予定では徹底的に裏側で当事者には一切気取られずに徹するつもりだったが、一度こうなってしまっては仕方がない。

やり方や方向性を変える。

ある程度理論通りでも、実戦に勝る実験は無いと言える。

 

まず第一に、超能力では魔法に対応できるのかという問題。

第二に、能力者の自分で、『未元物質(ダークマター)』で魔法の解析や逆算が可能なのか。

この二つの命題をクリアできなければ、これを解決しない事には何も進められない。

そしてこれを解決すれば半分は終わったようなもの。

後は様々な実例を観測し解析し逆算し、実戦を経験する。

垣根帝督は口元に、年不相応な薄い薄い笑みを張り付けながら。

暗い瞳に野心を宿しながら。

呟く。

 

「次が楽しみだな」

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