魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter   作:戸礼太

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玉をアレしたり棒をナニしたり、体育祭って、なんかエッチ。

私立聖祥大附属中学校。

二年六組の教室。

何処でも平気でくわえ煙草。

さらには、教育者とは到底思えない、死んだ魚のような瞳。

野放図というか、破格というか、PTAの信頼度ゼロというか、とにかく教師の典型から大きく逸脱している。

坂田は出席簿をポンと教卓に放り出すと、いつものようにけだるげな声で言った。

 

「んじゃ、ホームルーム始めんぞー。日直、号令」

 

言われて、志村は号令をかける。

 

「あ、はい。起立、礼、着席」

 

「えー、ではぁ、今朝のホームルームの議題に入る」

 

坂田はくるりと振り返ってチョークを手に取り、ゴンゴンと音を立てながら、アンニュイな文字を黒板に書いていく。

 

『体育祭出場種目決め』

 

と書いて坂田は生徒たちに向き直った。

 

「三日後から本格的に練習が始まるから、クラスで出るやつはともかく個人出場の競技、出るヤツ決めとけよ。以上」

 

そう言うと、彼はそのまま教室を出て行った。

徒競走、障害物走、借り物競争、棒倒し、綱引き、等と、クラス全員が出る競技もあれば、対抗リレーや騎馬戦等の、選手を決めて出場するものもある。

 

競技が書かれている黒板をぼんやりと見ながら八神はやては隣の垣根帝督の方を向く。

クラスの学級委員のアリサ・バニングスが希望者を募っているが、垣根は、

 

「体育祭かー。学園編やってる以上、必ず一回は通る道だよなー」

 

机に頬杖をつき、ジャンプを読んでいる。

 

「確かにな」

 

と、応じるのは、土方十四朗だった。

土方はマガジンを読みながら言う。

 

「体育祭のあとは、文化祭とか、修学旅行ってとこだろうな。メインになりそうな学校行事って」

 

「いや、そこ」

 

はやては苦笑いで、

 

「そないな、学園物あるあるは言わんでええから」

 

そこへアリサの声が聞こえた。

 

「あ、垣根、アンタはリレーのアンカー確定だから」

 

「……冗談だろ?」

 

「本気よ。アンタ何気に運動神経良いの知ってるんだから」

 

どうやら確定事項らしい。

垣根は舌打ちしてると、土方が彼の肩にポンと手を置く。

そして嫌味な笑みを浮かべながら、

 

「ドンマイ。頑張れよ」

 

「うるせえよ。大串君」

 

「誰だよ大串君て!!」

 

「テメェだよ。マヨ方フォロ四朗」

 

メンチを切り合う二人。

それを止めようとする月村すずかとフェイト・T・ハラオウン。

そんな中、テンションが若干ブルーな雰囲気を醸し出しているのは、他でもない高町なのはだった。

彼女は五年前ほどではないが、未だに運動が得意ではない。

いや、克服はしつつあるのだが、三年前の負傷が主な理由でブランクがあった事もあり、むしろ苦手だ。

体育祭の本格的な練習が始まるのは三日後。

つまり来週の月曜日からだ。

 

「はあ……」

 

ため息をつくなのはを垣根はチラリと見た。

憂鬱なのだろう。

自分が運動音痴だという事を自覚しているからこそこんな調子なのだろう。

彼女も鍛えればそれなりに良くなるはずだ。

ある程度運動すれば、そしてできるようになれば苦手意識も無くなるはずだ。

 

 

 

土曜日の朝。

良く晴れている。

海鳴臨海公園に十七人の男女がいた。

毎度お馴染み五人の少女達とヴォルケンリッターの五人(リインを含む)、赤城咲耶。

 

垣根帝督、古市貴之、志村新八、近藤勲、フォロ方…じゃなくて土方十四朗、そして栗色サラサラヘアにつぶらな瞳、爽やかで甘いマスクの一年生、沖田総悟。

彼もまた、風紀委員である。

垣根は眠そうに、そして不機嫌そうに呟いた。

 

「イヤ、確かに提案したのは俺だけど、俺が参加する義務はねえだろうがよ」

 

「まあそう言うなよ。ついでだと思ってさ」

 

古市が言う。

 

「つーか何でお前等もいる訳?」

 

彼はシグナム達の方を向く。

 

「私達ははやてちゃんの付き添いよ。ついでに最近運動不足だから」

 

バスケットを持ったシャマルが答える。

ザフィーラは荷物番らしい。

 

「ちょっと待て。シャマル、そのバスケットよこせ」

 

「えっ!?」

 

垣根は有無を言わさずにシャマルからバスケットを取り上げる。

中身はサンドイッチだった。

彼はそれをつまみ食いして、微妙な表情になる。

 

「……ダメだな。微妙な味付け。お前これ出すなよ?」

 

「ええ!?」

 

アリサは近藤がいる事に怒っている。

彼を呼んだのは、無理矢理呼び出された垣根の仕返しだった。

ま、何はともあれ体力づくりの特訓が始まった。

なのははすずかとフェイトの手ほどきで何とか走っている。

走り込みは体力づくりの基本だ。

古市と志村もジョギングしている。

アリサは近藤勲から逃げ回っている。

結果的に運動になっているから良いだろう。

垣根帝督は、はやてと咲耶といる。

 

「お前も運動苦手だっけ?」

 

「はい、……走るとき、胸が揺れて……」

 

「確かに、小柄やから重いんやね」

 

はやてが相槌をうつ。

 

「じゃあスポーツ用の下着用意するとか、サラシでも巻いて苦しくならない程度に固定すれば良いんじゃねえの?」

 

「あ、名案やね。わたしもやろ。フェイトちゃんにも奨めたらな!」

 

そう言うと、はやてはフェイト達のもとに走って行った。

 

「つーかよ」

 

垣根はそこでギロリと土方達を睨む。

 

「なんでテメェ等までいんだよ。ストーカーゴリラは俺が呼んだけど、マヨラーとドSはお呼びじゃねーんだよ」

 

「別に俺ぁ是が非でも来たかったわけじゃねーよ」

 

土方十四朗は腕を組み、クールにそう返した。

 

「ただ、近藤委員長のストッパー役として仕方なく来たんだよ」

 

「別に俺ぁ」

 

と、沖田総悟も言う。

 

「是が非でも来たかったわけじゃねーよ。ただ、土方さんにはホント死んでもらいたいなーと思って」

 

「前半のセリフ関係ねえじゃねーか」

 

沖田にメンチを切る土方。

実は近藤、土方、沖田の三人は幼なじみである。

垣根帝督は彼等を無視して走りはじめた。

ジョギング、縄跳び、腕立て伏せ、腹筋、等など、様々なトレーニングを行った。

 

「……あとは、これを毎日継続していけば、少しずつ体力も上がると思うから」

 

フェイトが言う。

 

「うん、みんなありがとう」

 

汗だくのなのはがお礼を言った。

 

「お礼なら垣根くんに言った方が良いかもね。これを思い付いたの、垣根くんだから」

 

すずかは笑顔で垣根の方を見る。

当の垣根帝督は皆と同じ学校指定のジャージを着ている。

彼は若干、不機嫌そうにしていた。

少し離れた場所では近藤勲がアリサ・バニングスに、

 

「汗に濡れたアリサさんも素敵です!!何かこう、エロい感じで──」

 

だが、最後まで言えず、アリサのアイアンクローがメキリと近藤の頭蓋骨を軋ませる。

なのはは歩いて垣根のもとに近づき、

 

「垣根くん、ありがとう。わたしのためにみんなでトレーニングするの提案してくれて」

 

にっこりと満面の笑みを浮かべるなのはに垣根はこう答えた。

 

「別に良いけどよ、俺が参加する義務も必要も無くね?」

 

だが、体育祭が始まるまでの一週間。

欠かさず彼がトレーニングに(強制的に)参加させられたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待ちに待った体育祭当日。

 

快晴であった。

 

聖祥大附属中学校のグラウンドには白線が引かれ、保護者用のテントも設置されている。

 

早朝。

まだ午前七時にもなっていないが、体操服姿の生徒たちが細かい準備をしており、早く来た保護者達も場所取りをしている。

 

「朝からクソ暑いし眠い。何より面倒臭せえな」

 

やる気ゼロのセリフを吐いたのは、似合ってない体操服姿の垣根帝督だった。

 

「アンタ、開口一番にソレ?」

 

「色んな意味でブレないね。垣根くんは」

 

呆れたように言ったのはアリサ・バニングス。

続いて苦笑しながら言ったのは月村すずかだ。

 

「良いだろーがよ。別に」

 

垣根は怠そうに首の関節をコキコキと鳴らす。

 

「まあまあ、一緒に頑張ろうや」

 

同じく体操服姿の八神はやてが彼に声をかける。

はやての後ろにはフェイト・T・ハラオウンと一年生の赤城咲耶がいた。

 

全校生徒が体操服姿でグラウンドに整列し、まずは開会式が行われた。

普段はスーツ姿の教師達も、今日はジャージ姿である。

それがいかにも体育祭の日っぽいなと、志村は思った。

朝礼台の横、教師達の中に坂田も混じっている。

青いジャージを着て、かったるそうに頭をかいていた。

 

教職員と生徒、全員で準備体操をしたあと、校長が挨拶のために朝礼台に上がった。

ピチピチのジャージに身を包んだ校長が、スタンドマイクに向かって話し出す。

今日は天候に恵まれて良かったですね、怪我をせずに楽しく競技しましょうね、そういうお決まりの内容を話した。

垣根帝督は早くおわんねーかな、と思いながらはやてと小声で話していた。

校長が朝礼台から下りると、今度はサングラスを少しずらした教師が上がった。

 

「どーも。体育祭における注意事項を私長谷川泰三が説明します」

 

彼は通称マダオ(マるでダメなオッサン)先生。

奥さんに逃げられ、借金まみれのダメ教師である。

何で教師できてるんだろ。

 

「えー、競技中には色んな落とし穴があるから注意してくれ。酒やギャンブルで身を持ち崩し、仕事を失い、更には痴漢の冤罪に巻き込まれる事もある」

 

「それはあんたの体験だろ」

 

思わず、古市がツッコむが、マダオは続ける。

 

「やがて路上生活で体調を崩し、人生の先行きが見えなくなる。そう、世の中は暗黒に満ちているんだ。格差社会、勝ち組と負け組、孤独死、ワーキングプア、就職超氷河期、増税、不況、風邪、打ち身、捻挫、巻き爪、下痢、仕事場に散らばるちぢれ毛……」

 

「いや、もう聞きたくねーよ!!」

 

志村が耳をふさいで怒鳴る。

続いてはやても叫ぶ。

 

「何なんあの先生!ネガティブな事しか言わへんやん!!注意事項やなくて呪詛やん!!」

 

「最後に生徒諸君、君達にこの言葉を贈ろう。─『全テ灰ニナレ』」

 

「もう引っ込め」

 

イラついた垣根が、拾った石をマダオ先生に投げ付け、顔にクリティカルヒットした。

長谷川先生は撃墜され、その後何気に保健室に運ばれたが、誰も気にしなかった。

アリサもげんなりとした様子で言った。

 

「何なのよ今の教師。のっけから負のオーラ全開じゃないの」

 

と、出だしは最悪だったが、とにかく競技が開始される事になった。

 

最初は徒競走である。

定番の種目だが、やはり盛り上がるものなのである。

走る方も、ついムキになってしまうし、見る方もテンションが上がり、興奮する。

ゴールへのラストスパート、その少し手前のカーブ近くにある保護者席は、一際歓声が大きくなる場所だ。

どの親も我が子の走る姿をカメラにおさめようと、必死でベストポジションを取るべく、前に出ようとする。その押し合いへし合いで、ちょっとしたいさかいが起きるほどだ。

グラウンドでは、今、女子の徒競走が行われているところだった。

スタートラインについた選手が、ピストルの音で走り出す。

歓声の中、ゴールに飛び込んでいく。

 

一年生のレースが終わり、続いて二年生のレースが始まる頃、赤城咲耶が応援席付近に立っている垣根帝督のもとにトコトコと歩いてきた。

 

「先輩、咲耶が走ってるところ見てくれましたか?」

 

「おう。スゲェじゃねえか、二位なんてよ」

 

「えへへ、先週から先輩達のトレーニングに付き合わせてくれたおかげです!」

 

彼女の言葉に垣根は首を振る。

 

「そりゃ、お前は元々ポテンシャルが良かったんだろ。それと努力の賜物だ。よく頑張ったじゃねえの」

 

珍しく彼は素直に褒めた。

咲耶は嬉しそうにニッコリと笑う。

 

「はっはい!!ありがとうございます!!」

 

さてさて、二年生レース。二年六組の女子達の登場である。

垣根、志村、古市、咲耶の四人は応援のために保護者席のテント付近に来た。

 

レースは一組五、六人で行われる。

その最初の組がスタートラインについた。

そこには高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、アリサ・バニングスもいる。

 

(大丈夫。あれだけ練習したんだし、垣根くんも『これだけやれば人並みには走れるだろ』って言ってたし……)

 

なのははそう思いながら位置につく。

スターターの土方十四朗がピストルを鳴らし、選手達が走り出す。

直後、保護者席の最前列からオッサンのでかい声が上がった。

 

「なのはァ!頑張れぇぇ!!」

 

カメラを構えた高町士郎だった。

娘のなのはが走っているから前に出てきたのだ。

少し違うポイントで若い男性の声も聞こえた。

 

「フェイト、頑張れよー」

 

クロノ・ハラオウンがカメラを構えて叫んでいた。

 

「いや、アンタも来てたのかよ?」

 

思わずツッコんだ垣根を、クロノはキッと睨む。

 

「別に構わんだろう。仕事は休みなんだから」

 

「よく休み取れたな」

 

ちなみにアリサ・バニングスの家族は諸事情でまだ来ていない。

と、そこへ、近藤勲がなぜか、ドラえ●んの、の●太のパパのようなコスプレで保護者席に乗り込み、最前列にドッカと腰を下ろした。

 

そして言う。

 

「アリサさん!!今日の俺は、貴女の父上の代理です!さあ、存分にそのおみ足を私のカメラの方に─」

 

「ちょっとォォ!なに勝手に父親代理名乗ってんですかアンタ!!」

 

志村のツッコミと同時に、カーブに走り込んできたアリサが近藤の顔面を蹴りとばした。

「ブベラッ」と飛ぶ、ニセおやじ。

 

「頑張ってー!!」

 

リンディ・ハラオウンがの●太のパパのようなコスプレでカメラを構えて保護者席に現れた。

 

「アンタもかよ!!別に母親で良いだろーが、つーかそんなにボケてえのか!?」

 

垣根がツッコんでるうちにレースが終わった。

 

ちなみになのはは見事、第三位にランクインした。

続いての走者の中には、月村すずかと八神はやてがいた。

彼女達に熱を上げる男子はいないだろうから、このレースは誰もボケないはず、と垣根と志村は思ったがそうでもなかった。

 

シャマルを筆頭に恥ずかしそうにしてるシグナム、耳と尻尾を隠したザフィーラ、ヴィータ、というヴォルケンリッターが全員の●太パパのコスプレで保護者席に集まったのだ。

 

「イヤ、父親の数多いだろ!!ザフィーラだけで良くね!?シグナムは恥ずかしいんならやるなよ!!ヴィータは無理があるだろ!!」

 

ツッコむ垣根の前で、ヴォルケンリッター共は各々カメラを構え始めた。

 

ザフィーラパパは手作りのピンホールカメラを構えた。

 

「イヤ、カメラのチョイス!!つーかそれで走ってる人撮るの無理だろ!!」

 

シャマルパパは、ふっくらと焼き上がったパンにカメラを挟んでいた。

 

「意味分かんねーよ!なんでパンでカモフラした!?」

 

そんな中、魅神聖がカメラを構えていた。

構えているカメラはごく普通のものだったが、レンズを向けている先が、保護者席にいるローティーンの女の子達だった。

 

「何でテメェがいるんだよ!!」

 

「オイィィ!!やめろォォ!!ある意味お前が一番罪深いから!!」

 

ツッコむ垣根帝督と志村新八。

とまあ、こんな具合で二年生女子の徒競走が終わった。

男子の徒競走は省略する。

 

 

借り物競走も定番の種目といえる。

コースの途中に置かれているたくさんのメモの中から一枚を選び、メモに書かれた物を会場内で借りて、それを持ってゴールする。

これが基本的なルールだ。

 

午前のプログラムの終盤あたりに垣根達、男子達が出場した。

志村は足にあまり自信が無いが、借り物競走は、指示された品物を早く見つけだすかで勝敗が決まってくる。

俊足でなくても一着が狙える。

彼は張り切っていた。

スタートラインには男女結構な人数が並んでいる。

徒競走に比べて、一組の人数が多い。

 

ピストルが鳴り、選手は一斉に走り出した。

 

二十メートル程走ったところに長机が置かれ、その上に大量の封筒が置かれている。

志村は少し遅れてたどり着いた。

ここまでは足の速い方が有利だ。

 

だが、大事なのは何をひくかだ。

彼はたくさんの封筒をざっと見て、

 

(これだ!)

 

一通に手を伸ばした。中のメモを見ると、それにはこう書かれていた。

 

『千年パズル』

 

「いや、ぜってー無理だろ!!」

 

早速志村はツッコむ。

 

「僕、名も無きファラオじゃねーし!!デュエリストでもないし!!あと、千年パズルがこの学校にあるわけねーし!!」

 

メモを手にツッコミまくってから、彼は周囲を見回した。他の選手も変なものを探すように指示されてるのだろうか。

他の選手はみんなウロウロと何かを探し回っている。

少なくとも、立ち止まってメモにツッコんでいるような者は──、

 

「ふざけんなよ!!」

 

いた。

 

垣根帝督だった。

つい気になって、志村は垣根に聞いてみた。

 

「垣根君、何を探すの?」

 

彼は苛立ったようすで、

 

「これだよ」

 

とメモを見せてくれた。

それには、『幼女二人とポニーテールとショートカットの女性(生徒以外)』

 

「多っ!!」

 

「だろ?だが目星はついてる。じゃあな」

 

そう言って垣根は走って行った。

垣根帝督は保護者席にいるヴォルケンリッター達のもとに走ってきた。

 

「ヴィータ、リイン、シグナム、シャマル、ちょっと借りられてくれ」

 

「え?どういう事?」

 

シャマルが尋ねると、彼は彼女達にビシッとメモの内容を見せた。

 

「すぐに思い当たったのはお前等だ。つー訳で行くぞ」

 

ヴィータの「あたしはガキじゃねえ!!」というセリフは無視して、

 

「速く済ますために協力してくれ」

 

と言いつつ垣根は問答無用で、背中にリイン(アウトフレームモード)、自身の胴体にヴィータをしがみつかませ、シャマルとシグナムをそれぞれ左右の小脇に抱えた。

 

「あの〜……」

 

「これはかなり……」

 

「恥ずかしいんだけど……」

 

シャマル、シグナム、ヴィータの順に文句を言うが、

 

「うるせえ、我慢しろ」

 

垣根は無視して走り出した。

リインだけ楽しそうだった。

ちなみに結果は二着である。

 

ややグダグダになって終わった。

 

続いて女子借り物競走が始まる。

一年生女子のレースが終わり、続いて二年生女子のレースが始まった。

走者の中になのは、フェイト、はやて、すずか、が混ざっていた。

垣根は人間四人を抱えながら走ったため、若干疲れていた。

彼はボーッと女子借り物競走を見ていると、メモを持った女子四人が、というか例の四人がこちらに走ってきた。

 

「垣根くん!私と一緒に来て!!」

 

「垣根、わたしと!!」

 

「帝督くん!!お願いや、わたしと…!!」

 

「待ってみんな!わたしも!!」

 

「いや、待て待て、何で俺に集中してんだよ。メモ見せろ」

 

垣根に言われて彼女達は順番にメモを見せた。

 

すずかは『垣根帝督』

 

フェイトは『学園都市第二位』

 

はやては『『未元物質(ダークマター)』』

 

 

なのはは『友達の超能力者(レベル5)

 

だった。

 

「いや、これ書いたの生徒会長だろ!!」

 

垣根は声を上げてツッコんだ。

 

「これ全部俺しか当てはまんねーだろッ!!月村に至っては名指しだし!!」

 

『それで、誰と行くの!?』

 

一斉に言われて彼は鼻白むが、

 

「そんなもんジャンケンでもして決めろ」

 

と、言ったのでジャンケンで決めた。

勝者は高町なのはだった。

彼女は垣根帝督の手を握ってゴールを目指す。

そして、無事に一着でゴールした。

 

そこへ、MCのようにマイクを持った、事の元凶。生徒会長の喜久井遥がやってきた。

 

「一着おめでとう!それで、お題は何でしたか?もしかして、好きな人とか!?」

 

「ち、違います!!友達です!!ホラッ!!」

 

なのはは顔を真っ赤にしながら、メモをMCもどきに見せる。

 

(絶対わざとだな)

 

そう思いながら、垣根は忌ま忌ましそうに遥を睨む。

 

「あらあら失礼。お連れの男の子が怖いので、もう戻って良いですよ〜♪」

 

そう言うと、喜久井遥は去っていった。

 

「からかってんのか。アイツ」

 

「あはは……行こうか?」

 

「そうだな」

 

二人はとりあえず退場した。

その後、ジャンケンで勝った順に使いまわされるという、思わぬ災難に遭った垣根帝督だった。

 

そして午前のプログラムも終わり、昼食タイムとなった。

 

高町家、ハラオウン家、八神家、月村家、合同で昼食をとる。徒競走では珍しく好成績だったなのはが誉められたり、無茶苦茶な運び方をした垣根がシグナムとヴィータに文句を言われたりと、色々な話題が飛び交った。

 

 

 

その後、まだ昼休みの時間。

 

校舎裏に二人の男が立っていた。

垣根帝督と高町恭也。

二人はお互いを鋭く見据えた。

先に口を開いたのは恭也だった。

 

「"あの時"以来だな」

 

「そうだな」

 

垣根はつまらなさそうに答える。

 

「あの時の事について、もう一度聞きたい。あれが君のやり方か?」

 

「そうだ。誰だろうと敵には容赦しねえ」

 

「敵が、場合によっては……なのは達になってもか?」

 

「基本的に誰だろうが敵なら容赦する気はねえな」

 

即答だった。

 

「いつか君とは手合わせをして、決着を着けたい」

 

「そりゃ無理だろ」

 

「なぜだ?」

 

「どうやってもフェアにならねえからだよ。俺とアンタじゃ」

 

垣根はくだらなさそうに続ける。

 

「純粋な体術じゃ俺はアンタに勝てない。だが、能力を使えばアンタは俺に絶対勝てねえ。工夫次第でどうにかなるレベルを超えちまう」

 

「……例えどんな理由があっても、なのは達に危害を加えるような事があったら、俺は容赦しない」

 

「そうならない事を祈る」

 

それだけ言うと、彼等は元の、保護者席付近の場所に戻った。

 

なのはに、

 

「何を話してたの?」

 

と、聞かれたが、垣根は何でもねえよ、大した事じゃない。

と言ってごまかした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼食の時間が終わり、午後のプログラムも順次消化されていく。

 

グラウンドでは、いよいよメインの種目が始まろうとしている。

 

『棒倒し』である。

 

「棒倒しとは、─」

 

と、保健体育の女教師が説明を始める。

 

「そそり立つ硬くて太い棒に大勢の人が群がり、その棒を攻めて攻めて攻めまくり、押し倒してフィニッシュする競技です」

 

「いや、その説明、何か卑猥ですけど!?」

 

志村がツッコむが、朝礼台に立って説明する教師の口調は全く変わらない。

 

「選手の役割は主に二つです。棒の根本を押さえる人と、棒を攻める人、この二つですね。相手の棒を攻めるときは先端を攻めるのが効果的と言われています」

 

「もうわざと言ってませんか?それ」

 

志村はため息をついた。

が、しかしその説明もあながち間違いではない。

グランドには、棒倒しの準備が整っていた。

赤組と白組、それぞれのチームの棒が立っている。

長さは五メートルほどだ。

棒は全体がそれぞれのチームの色に塗装されている。

各チームの人数は五十人ずつで、メンバーをどう使うかは自由にされていた。

守りを重視しても良いし、攻撃要員を多くしても良い。

人の使い方や作戦は自由なので、とにかく敵チームの棒を先に地面に倒した方が勝ち、これが基本ルールだ。

参加しているのは、全員男子生徒だ。

女子はいない。

殴る蹴る等の暴力行為は禁止されているが、それでも試合中に押したり突いたりぐらいはある。

やや荒っぽい競技なので女子は応援という訳だ。

 

白組の五十人の中に、垣根帝督、志村新八、古市貴之、近藤勲、土方十四朗、他、二年六組の男子が数人いる。

中心になるのは、近藤、土方、一年生の沖田総悟等の風紀委員のメンバーだ。

 

「いよいよだな、体育祭の華、棒倒し。……何か興奮して鼻血が出そうだぜ」

 

近藤が鼻息を荒くすると、土方が冷静な声で言う。

 

「鼻血の前に、アンタ鼻糞ターザンになってるぜ」

 

「え、マジで?」

 

近藤は慌てて鼻糞をちり紙で拭う。

緊張感があるんだか無いんだか分からない白組陣営だった。

垣根は少しも緊張していなかったが、志村と古市は思い切り緊張していた。

棒倒しは、やはり激しい種目だからボケッとしていると、大怪我をしかねない。

ちなみに白組の人員の割り振りは、三十人で棒の守備、残り二十人で敵チームの棒の攻撃をする事になった。

防御側が踏ん張る隙に、攻撃側の土方達が敵チームの棒に襲い掛かって速攻で倒すという算段だ。

志村、古市、は守備の一員だった。

 

「それでは両チーム、位置について」

 

朝礼台からメガホンで教師が指示する。

赤組と白組の攻防それぞれのメンバーが分かれて位置についた。

陣形が整い、そしてスタートが告げられた。

 

「これより棒倒しを行います。……始め!」

 

合図と同時に、両チームから叫び声が上がる。

両軍の攻撃要員がそれぞれ棒に群がる。

赤組と白組のそれぞれの攻撃側と防御側がぶつかり、激しい攻防戦が繰り広げられる。

敵の何人かは、防御陣の背中や頭を踏み付けて、棒にたどり着き、よじ登ろうとしているのだ。

近藤勲が登ってきた敵を突き飛ばしたり蹴落としている。

 

(こえぇぇぇ!!そして痛えええ!!……土方君達、頑張ってくれてんのかな……。ずっとこの調子だと、あんまり持たないような……)

 

必死で棒を押さえながら、志村は攻撃陣の速攻を期待するのだった。

 

その土方十四朗達は、流石はという働きを見せていた。

攻撃陣二十人の先頭に立ち、

 

「うぉらあァァァ!!」

 

敵の防御陣に突っ込み、組み付いて来る相手をかわし、あるいは押しのける。

赤組も棒の先端に守りを配していたが、登ってきたのは沖田総悟だったため分が悪かった。

彼を蹴り落とそうと足を突き出すが、剣道部一の身軽さを誇る沖田は棒にしがみついたまま、巧みに体をねじったり、頭を屈めたりして、敵の足をヒョイヒョイとかわしていく。

魅神聖は苛立っていた。

理由は午前のプログラムの借り物競走についてだった。

 

「くそっ。あのエセMCの生徒会長め、何が『好きな人』だ。垣根のクソ野郎がそんなわけねーだろうが。なのはの思い人はオレだぞ……!」

 

すずか達も垣根帝督のもとに行ったのはきっとお題が『不良』とか『チンピラ』とかだったのだろうと彼は思いながら、赤組の棒倒しの攻撃陣に参加していた。

まあ垣根の風体からすれば、そのイメージも間違ってはいないのだが。

 

垣根帝督は“一応”白組の攻撃陣として参加していた。

しかし、彼のモチベーションは低い。

もともとノリの悪い人間の垣根。

だが、それは『怒り』によって火をつけられることになる。

土方十四朗はこう考えていた。

垣根帝督はやる気さえ出せば戦力として機能する。

やる気が出てないなら、出させれば良い。

不意に垣根帝督の側頭部に衝撃が走る。

彼は不意打ちを受け、地面に転がり込む。

 

乱闘の中、誰かの肘が当たったのだ。

 

というか、一度棒から落とされた沖田が垣根をたきつけるために土方の策略に従ってやったのだ。

 

「痛ってえな」

 

彼は側頭部を左手で押さえて立ち上がった。

 

「そしてムカついた。……殴ったの誰だァァァ!!」

 

垣根は赤組の防御陣の相手を投げ飛ばす。

 

ルール無視で暴れ回る垣根帝督。

 

魅神聖は好機と言わんばかりに彼につかみ掛かろうとしたが、逆上して能力を漏らしながら無差別に暴れているに垣根から右ストレートを喰らい、沈められた。

 

テメーコノヤロー!!

 

シャーコノヤロー!!

 

たちまち棒倒しは垣根帝督一人のせいで地獄絵図と化した。

 

「な、何これ……?」

 

高町なのはが呟く。

 

「なぜか垣根がキレたんだね……」

 

フェイト・T・ハラオウンも引き気味に言った。

 

「無茶苦茶やな。帝督くん……」

 

八神はやては冷や汗をダラダラとかいて見ている。

 

「台なしじゃない」

 

「あはは……」

 

アリサ・バニングスと月村すずかも顔をひきつらす。

垣根がぶん投げた生徒数人が赤組の棒にぶち当たって棒が倒れ、フィニッシュになったが、

もちろん結果は白組の反則負けとなり、沖田総悟は垣根帝督に屠られた。

 

 

 

 

 

現在、校長による説教中である。

校長の前には垣根帝督、土方十四朗、ボコボコの沖田総悟が立たされている。

 

「全く、乱闘騒ぎを起こした挙げ句、競技を台なしにするとは!反省せい!!」

 

「口うるせーハゲだな。すいません」

 

「いや、今の『口が滑った』とかそういうレベル超えてたから」

 

反省の色の無い垣根達に対し、額に青筋を浮かべる校長であった。

 

 

さて、次は最後の種目、学年別選抜対抗リレーだ。

 

アリサによって垣根はアンカーにされている。

赤組、白組両方とも前半の走者はほとんどが女子だった。

すずかやフェイトのような例外を除き、リレーの後半に戦力を重視しているらしい。

そしてあっという間にアンカーとなった。

 

白組のアンカーは垣根帝督。

 

赤組のアンカーは魅神聖。

 

彼等はほぼ同時にバトンを受け取り、走り出す。

 

垣根は珍しく本気で走る。

棒倒しを台なしにしてしまったのを彼なりに悪かったと思い、責任を取ろうと思ったのだ。

 

魅神も本気で走る。

彼の原動力はただ一つ。

ここ最近、なのは達の前で良いカッコができていない。

主に垣根帝督のせいで。

今こそ垣根を負かして、高町なのは達の前で良いカッコがしたい。

ただそれだけだ。

純粋なスタミナでは、それなりに拮抗している二人。

 

(くっ!!このオレが負けるわけねえんだ!!)

 

徐々に魅神が前に出そうになるが、今日の彼は運が悪かった。

 

「うおっ!?」

 

「ん?」

 

魅神聖が石に躓いてコケた。

垣根帝督はそんな魅神を尻目に、若干彼を哀れみつつ悠々とゴールした。

 

そして見事、白組が優勝をおさめた。

 

 

 

体育祭は無事に終わり、後片付けが始まる。

早速サボって帰ろうとした垣根はすずかとフェイトに捕まり、連行された。

 

「サボっちゃダメやで、一つの競技潰した分、働いてもらわんと」

 

「んだよ。それはリレーで払っただろうが」

 

はやての言葉に垣根は面倒臭そうに顔をしかめる。

 

「それじゃ足りないの。後片付けもキッチリとしてもらわないと割に合わないわ」

 

アリサが告げる。

 

「チッ、強欲なお嬢様なこった」

 

「誰が強欲よ!!」

 

またまたメンチを切り合う二人。

なのはとすずかが何とか両者を宥め、後片付けに取り掛かった。

 

魅神聖が絡んできたり、近藤勲がアリサに近づこうとして赤城咲耶にぶつかって、彼女から催涙スプレーが噴射されてその場にいた人全員が地獄を見た………というところ以外ははかどり、すぐに片付いた。

 

 

 

帰路。

 

「いやー、非常に面倒臭かった。もうやりたくない」

 

「もう、身も蓋も無い事言わないでよ」

 

垣根帝督のアンニュイ発言に眉をひそめて苦笑する月村すずか。

 

「そうよ、そんな事言ってんのアンタぐらいよ」

 

アリサ・バニングスも呆れながら言う。

 

「それにしても、高町さんと赤城さん、よく頑張ってたよね。徒競走とリレー、去年より速かったし」

 

志村が思い出したように言った。

 

「速かったよなー。高町さん。ホントに運動音痴だったのか?」

 

古市も同意する。

 

「うん、今までよりも体が軽く感じたし、頑張って練習したかいがあったよ!今までで一番楽しい体育祭だったよ♪」

 

「さ、咲耶も、去年まではあんなに速く走れませんでした。先輩達と練習させていただいたお陰です!」

 

嬉しそうに答える高町なのはと赤城咲耶。

 

「すずかちゃんとフェイトちゃんは毎年大活躍やったな〜」

 

のんびり言う八神はやて。

 

「そんな事無いよ。垣根はリレーで活躍したね?」

 

「そんなんじゃねえよ。一応アンカーにされたからな。あと棒倒しを目茶苦茶にした詫びだ」

 

フェイト・T・ハラオウンのセリフに垣根はけだるそうに答えた。

 

「そーねえ、あの大乱闘騒ぎが無かったら、今年の体育祭は言う事無いんだけど」

 

アリサは垣根をからかうように笑う。

 

「仕方ねえだろ、殴られてムカついたんだから。つーかどこが言う事無しなんだよ。徒競走のときの保護者勢といい、借り物競走のお題といい、ツッコミ所満載だろうが」

 

ちなみにヴォルケンリッター達のボケははやての入れ知恵が原因であり、リンディ・ハラオウンはただの悪ノリである。

 

近藤(ゴリラ)は、言うまでもない。

 

「今、思い出しましたけど、学園都市には『大覇星祭』っていう体育祭みたいなものがあるんですよね?」

 

咲耶が垣根に聞いた。

 

「ああ。まああれは、能力の使用OKだし、運動会っつうより曲芸大会みたいかもな。一般公開してるのは学園都市の宣伝効果を狙ってんだろーけどな」

 

垣根はつまらなさそうに答えた。

 

「ちょっと見てみたいなあ」

 

なのはが興味津々に言った。

 

「あんなもん見る価値ねえよ。所詮は努力やら希望やらをまだ信じてるガキ共の遊びだ」

 

「えー……?」

 

垣根帝督がくだらなさそうに吐き捨てると、彼女は残念そうに声を上げた。

彼はそれを無視してさっさと歩いて行ったのだった。

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