魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter   作:戸礼太

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クリスマス

『メリークリスマス(ですぅ)!!』

 

高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやて、アリサ・バニングス、月村すずか、リインフォースⅡ、ヴィータ、シャマル、赤城咲耶の九人が一斉に歓声をあげる。

 

「……、」

 

それを傍観するのは垣根帝督。

 

十二月二十四日クリスマスイブ。

場所は八神家。

既にテーブルには大量の料理とクリスマスケーキが並べられている。

皆で食事しながら談笑している。

もっさもっさと咀嚼している垣根に、はやてがスプーンを差し出してきた。

 

「帝督くん、はい、あーん♪」

 

「はあ?」

 

「「「ッ!!」」」

 

垣根は眉をひそめ、なのは、フェイト、咲耶の三人が一斉に彼らの方を見る。

ヴィータとリインは興味津々といった調子で見つめていた。

しかし、

 

「いらねえよ、リインかヴィータにでもやっとけ」

 

「ぶぅー、そないな簡単にあしらわんでもええやん」

 

はやてはアッサリとあしらわれて不満そうに頬を膨らます。

何となくホッとした。

無視して料理を食い続ける垣根。

 

(相変わらずのいたちごっこね)

 

その様を見たアリサは溜め息をつきながら思ったのだった。

翠屋製のクリスマスケーキを食した後に、みんなでリビングに集まり、"こんな"ゲームをする事になった。

 

「王様ゲームやー!!」

 

すっとんきょうな声を出すはやて。

 

「いや、どこの宴会?もしくはキャバクラか?」

 

静かにツッコんだのは垣根帝督。

 

「ほなみんな、わたしが握っとる割り箸を取ってな☆」

 

「いや、聞けよ」

 

垣根以外はみんな若干躊躇したものの、割り箸を手に取った。

 

「王様王様だーれや?」

 

「はーい!!」

 

シャマルだった。

垣根は思わず目を剥いた。

なぜか嫌な予感がしたのだ。

が、そんな垣根の想像をよそに、シャマル愉しそうに命令を行う。

 

「えーっと、じゃあ、一番の人と……」

 

「ふぇっ!?」

 

どうやら一番はなのはだったらしい。

シャマルは続ける。

 

「二番の人が!!」

 

垣根帝督は不意にチラリと自分が持っている割り箸を見た。

彼の握る割り箸の番号は『2』!

垣根はシャマルに悟られぬように平静を装う。

それを知ってか知らずかシャマルはためらいなく言う。

 

「じゃあ、一番の人を二番の人が抱っこしてください♪」

 

「ええええッッ!?」

 

顔を真っ赤にして叫ぶなのは。

対する垣根は舌打ちをする。

 

「チッ。高町、サッサと終わらすぞ」

 

「ふええ!?」

 

彼はさぞ面倒臭そうになのはを抱き上げた。

 

「ったく。シャマル、これで良いか?」

 

「ええ、良いわ(ちょっと拍子抜け……残念☆)」

 

そして再び割り箸を引く。

 

今度の王様は……、

 

 

 

 

 

 

 

「あ!また私です!」

 

シャマルだった。

残りの面子は一斉にシャマルの方を向く。

 

「今度は二番の人に」

 

「また俺かよ……」

 

垣根がうんざりしたように呟く。

 

「三番の人が」

 

「え!わたし!?」

 

今度はフェイトが反応する。

 

「演技で良いので『好きです』って言ってください☆」

 

「えっ…………………………えええええッッッ!!!!!?!?」

 

動揺して混乱して困惑する。

しかしまわりに散々促され、とりあえずフェイトは立ち上がり、垣根帝督に向かう。

彼女は羞恥心で顔が真っ赤になり、俯いている。

垣根はくだらなさそうに舌打ちをしながら、フェイトに助け船を出す。

 

「別にマジでやんなくて良いんだよ。ゲームなんだからよ」

 

「え……あ、うん、そそそうだよね…………」

 

彼女は無理矢理納得し、垣根に向かって途切れ途切れに言い始めたが……、

 

「え、えっと……垣根、わたし……君の事がそのっ……だから……っ、…………好_ッ!!」

 

ボンッ!! という効果音が聞こえてきそうなほど、一気に茹で蛸のように赤面してテーブルに突っ伏してダウンした。

 

「あらら、ちょっと恥ずかしかったかな☆」

 

「いや、恥ずかしすぎてダウンしてるんだけど」

 

シャマルにツッコむヴィータ。

フェイトがダウンしてしまったが、ゲームは続行する事になった。

 

「あ、また私が王様!」

 

またしてもシャマルだった。

シグナムが怪訝そうな表情で言う。

 

「シャマル、まさか確信犯ではないのか?」

 

「えー、違うわよ」

 

特に動揺した様子はない。

嘘はついていないようだ。

構わずシャマルは命令を出す。

 

「えーっと、二番の人!」

 

「おい」

 

垣根がこめかみに青筋を浮かべて、シャマルにメンチを切る。

 

「なんで連続三回で俺が二番なんだよ。明らかにおかしいだろ」

 

「え、でもわたし三番だよ」

 

「あたしは五番だったけど、今度は一番だぞ」

 

なのはとヴィータが答える。

つまり、まさかの偶然という訳だ。

垣根の抗議は不発に終わり、シャマル王の命令が続行された。

 

「二番の人が六番の人をお姫様抱っこしてください♪」

 

「はあ?」

 

再び垣根がイラッと眉を動かす。

そして直後に予想外の人物から声が上がった。

 

「何だと!?」

 

声の主は、シグナムだった。

 

「いや、待てシャマル!!いくら遊びとはいえこれは……ッ」

 

シグナムは冷や汗をかきながらシャマルに詰め寄る。

垣根も不服そうに彼女を睨む。

 

「ダメよシグナム。これはゲームなんだから。さっきそう言ったのは垣根くんなんだから♪」

 

最終的にはやての後押しもあり、シグナムは深い溜め息をつく。

垣根も不機嫌さを隠さずに舌打ちをする。

二人は同時に思った。

 

(性に合わない……)

 

(ガラじゃねえ……)

 

プライドがズタズタの二人には、ゲームというより、罰ゲームを執行される気分だった。

彼は仕方なく、右腕で彼女の背中を、左腕で膝裏を抱き上げた。

シグナムとしても、この体制はさすがに恥ずかしいのか、頬が少し赤く染まっている。

 

「垣根、そのだな、重くないか……?」

 

「そりゃ人一人抱えてんだから重いに決まってんだろ」

 

抱き抱えるシグナムを見下ろしながら、垣根はしかめっ面で答える。

剣の騎士、シグナムをお姫様抱っこする学園都市第二位の超能力者(レベル5)、垣根帝督。

性格的に、この二人の世界一似合わないツーショットが出来上がった。

垣根帝督はいつも通りの悪人面だったが、シグナムはいつになく恥ずかしそうに顔を赤らめていた。

そしてはやてが、その様子を笑いながらデジタルカメラに収めようとする。

 

「おいコラ八神、何写真撮ろうとしてんだよ」

 

「このアンバランスさがおもろいやん♪」

 

「デジカメぶっ壊されたくなかったら片付けろ」

 

「嫌や☆」

 

カメラを向けたまま逃げ回るはやてを、顔に青筋を浮かべながら垣根が追いかける。

シグナムを抱えたまま。

 

「お、おい垣根!!せめてせめて降ろしてくれ!!」

 

「うるせえ黙ってろ!!」

 

シグナムの言葉を無視して彼は走り回る。

本当に人を抱えてるのか怪しいほど軽快な動きで。

最終的には、抱えていたシグナムをはやてに向かってぶん投げるという暴挙に出る。

ぶん投げられたシグナムは怒り、垣根とつかみ合いになる。

 

「垣根、貴様……ッ!!」

 

「うるせえ……ッ!!」

 

グググと手を押し合う二人は押し相撲でもしているようにも見えた。

 

「納得できねえのは分かるが落ち着け!!」

 

「落ち着いてシグナム!!」

 

「垣根も頭冷やして!!」

 

「逆ギレしないで!!」

 

シグナムをヴィータとシャマルが、垣根をフェイトとすずかが羽交い締めにして止め、何とか事態を終息させた。

その後も何故か、垣根帝督は二番の割り箸を引き当て、シャマルは王を引き当てる。

リインやヴィータを垣根の膝に座らせたり、

彼をはやての膝枕に寝かせたり、

シャマルは王様ゲームを堪能した。

赤城咲耶をお姫様抱っこするという命令になった時は、彼女がフェイト同様に爆発してダウンした。

ただし、『胸を触れ』や『キスをしろ』等といったセクハラ紛いな命令は、双方から拒否されたため無しとなった。

レクリエーションのはずが、何だか気疲れした『王様ゲーム』となった。

 

シャマル以外は。

 

そしてクリスマスパーティはお開きとなった。

 

 

 

 

垣根帝督以外の四人は、迎えに来たバニングス家の車に便乗する形で、それぞれ帰宅していった。

彼もいい加減帰ろうかと腰を上げると、

 

「あ、帝督くん。ちょっとええかな」

 

「何だ?」

 

はやてに呼び止められた。

彼女の家族は皆、私室にいるので今ダイニングには八神はやてと垣根帝督の二人だけだった。

彼女はどこか儚さを覚えるような小さな微笑みを浮かべ、遠慮がちに告げる。

 

「帝督くんさえ良かったら……なんやけど、帰る前にちょっとだけ、お話せえへん?わたしの部屋で……」

 

いつもなら、名前呼びやめろとかいい加減垣根って呼べ、とツッコミの一つぐらいするのだが、いつものおふざけとは違う雰囲気を感じ取り、垣根も敢えて野暮な事は言わなかった。

 

「分かった」

 

 

 

そして所変わって、はやての私室。

 

机にはリインフォースⅡのドールハウスが置いてあり、リインは中で既に眠っている。

軽くシャワーを浴びてきたはやては、サラサラと肩までかかるかかからないか位の焦げ茶色の髪を軽く解かしながら、ウール地の丈の短いワンピースにカーディガンを纏って出てきた。

紅茶を注いだマグカップを両手に持ち、ベッドに腰掛ける。

一方、垣根は来た時と変わらず、崩した着こなしの学校制服姿のまま。

はやてにシャワーを勧められたが流石に断った。

彼女から受け取っていたマグカップに口を付けながら床に座り込んでいた。

 

「で、話って何だ?」

 

「あ、うん……」

 

何から話そう。

言う前には色々と思い浮かんではいたのだが、いざその時になると、中々上手く口に出てこない。

それを知ってか知らずか、垣根は再び尋ねてきたりも急かしたりもせず、ただ黙って窓から見える夜空を眺めていた。

 

「えっと……何から話そかな……」

 

「……、」

 

彼は答えない。

はやてが話せるようになるのを待っている。

彼なりに珍しく気を使ってくれたのか。

何故気を使ってくれているのか、それを察したはやてはそこはかとなく胸の内から温かみを覚え、ゆったりと微笑む。

 

「……ありがとうな」

 

自然と、そんな言葉が出てきた。

 

「……は?何が?」

 

訳が分からず、垣根帝督の口から怪訝な声が漏れた。

その反応を見て、はやてはまたクスリと笑う。

 

「何となく、そう言いたくなったんや」

 

「……???」

 

「帝督くん的には、こういうの言われ慣れてへんやろうし、好かんのやろうけど……」

 

垣根は訳の分からなさそうな顔をしていたが、はやては続ける。

 

「ちょうど五年前かな?その時はなのはちゃん達と一緒に『わたし達』を助けてくれてありがとう。……今年は、わたしの家族の危ない所を助けてくれて、守ってくれて、ありがとう。ほんで、わたし達と友達になってくれて、ありがとうね」

 

「……、全部成り行きだし、今年の事に関しても結果的にそうなっただけだ。助けるつもりとかは無かったよ」

 

暫し黙って聞いていた垣根はつまらなさそうな声で、ほんの僅かにばつの悪そうにも見える顔で答えた。

 

「そもそも俺は、今までの人生で誰か助けた覚えも、誰も守れた覚えもねえんだよ。だからお前にも誰にも礼を言われる覚えもねえんだがな」

 

吐き捨てるように言う。

これは垣根帝督にとっては間違いなく本心なのだろう。

 

「でも、わたしが……わたし達が好きでそう思うんは自由やろ?わたし嬉しかったんよ?半年前のあの時、帝督くんが……リインフォースの事、忘れずに覚えててくれてたの」

 

「別に、すぐに忘れるほど些細な事でもなかったしな」

 

素っ気ない言葉だった。

だが、彼の声色の僅かな機微で、はやては気付いた。

良きにしろ悪きにしろ『彼女』が、彼の心の中に確かに残っていた事を。

そんな彼に、

 

「覚えてくれてただけでも、わたし達的にはありがとうなんやで。きっとあの子も……」

 

「それはどうかな。死人が口をきくかよ」

 

死者は喜びも怒りも哀しみも、感謝もしない。

だが、

 

「情緒無いなぁ。あの子の想いを想像して、それに対して自分の気持ちにどう向き合ってくか考えて、あの子の為を思って自分の意思で行動できるんは、今生きてるわたし達だけやで?」

 

「……、」

 

返事は無かった。

黙認とも黙殺とも取れるほど、無反応な態度だった。

はやては構わず、そんな彼に囁くように優しく告げた。

 

「せや。帝督くんの目の届く時だけでええから、またいつか、わたしが……わたし達が困ってる時は、助けてな?」

 

「……助けて、なあ」

 

垣根帝督は八神はやての言葉を反芻すると、頬杖を突いて小さく、どこか自嘲した笑みを浮かべてこう言った。

 

「そういうのは高町みたいな、正義の味方(ヒーロー)に頼むもんだぜ?」

 

しかしはやても笑顔のまま、

 

「もしかして、自分は悪党やから、人助けとかでけへんし、資格が無いとか思ってるん?」

 

「……、」

 

図星だった。

 

「ええやん。悪い人がたまにはエエ事しても、バチは当たらんと思うよ?」

 

「……そもそも、お前達は強いんだから俺の助けなんざ必要ねえだろ」

 

「せやから、わたし達だけではどうにもならなくなった時や。その時はお願いね♪」

 

「……『その時』があれば、な」

 

「約束やで?言質取ったで?」

 

「この先そんな事態が、万に一つでもあれば、その時になったら前向きに検討してやるよ」

 

「もー素直やないなあ」

 

「心配するな。自覚はある」

 

そう言った所で、彼は立ち上がる。

 

「そろそろお(いとま)するわ」

 

「あ……泊まっていかへんの?」

 

「何でだよ。つーか仮に泊まるとして、俺はどこで寝るんだよ?」

 

「んー、もちろんわたしの部屋?」

 

「アホか」

 

「あ、何何?恥ずかしいん?照れ臭いん?意外とわたしの事、女の子として意識してくれてるん?」

 

「ばーか死ね」

 

唐突に変なスイッチが入ったはやての質問攻めを、垣根は暴言でピシャリと封じた。

仕方なくはやても続いて立ち上がり、玄関までついていく。

 

「ほな、今日はお話に付き合うてくれてありがとうね」

 

「別に何て事ねえよ。じゃあな」

 

「うん。バイバイ」

 

垣根はさっさと立ち去る。

その後ろ姿を、見えなくなるまではやては見送った。

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