魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter   作:戸礼太

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新たなる勢力

コンビナートに併設されたコンテナヤードの一角。

 

既に広域結界が展開されていた。

ジュエルシードの異相体、おとぎ話に出てきそうな化け物がいた。 そこで戦闘を繰り広げているのはフェイト、使い魔のアルフ。

そして高町なのはとユーノ・スクライア(フェレット)

 

「あれ……?」

 

「どうしたの?ユーノくん」

 

「いや、何でもないよ」

 

 

「撃ち抜いて!ディバイン」 『Buster』

 

なのはの言葉をレイジングハートが引き継ぎ杖先に収束された桃色の魔力の砲撃を放つ。

ジュエルシードの異相体に圧力がかかる。

しかし化け物は展開したバリアにより直撃を回避していた。

 

「貫け轟雷!!」

 

そこへ、魔法陣を展開させたフェイトが叫ぶ。

 

『ThundeSmasher』

 

フェイトのデバイス、バルディッシュで目前の魔法陣を打つ。

 

底から直径一メートルほどの金色の収束砲が発射された。

頭上と正面からの砲撃。

この猛攻にはついに耐えられなくなり、消えていった。

残ったのは、二人が捜し求めているジュエルシード。

 

シリアルナンバー7。

 

レイジングハートとバルディッシュが同時に封印用の高出力形態に変形する。

 

「ジュエルシードシリアル7」

 

そして二人とも同時に封印を行使した。

 

「「封印!」」

 

閃光が止み、ジュエルシードを挟んでお互いデバイスを構える。

 

「ジュエルシードには衝撃を与えたらいけないみたいだ」

 

フェイトが静かに言う。

 

「うん、この前みたいな事になったらわたしのレイジングハートも、あの……フェイト…ちゃん?…のバルディッシュもかわいそうだもんね」

 

「…フェイト・テスタロッサ」

 

初めて彼女の本名を本人の口から聞き、知った。

そしてこれが初めて両者で成立した会話だった。

デバイスを向ける。

 

「わたしは、フェイトちゃんと話をしたいだけなんだけど……」

 

『Devicemode』

 

「ジュエルシードは…譲れないから…」

 

「わたしも譲れない。理由を聞きたいから…、フェイトちゃんが何でジュエルシードを集めてるのか。……どうしてそんなに…寂しそうな目をしてるのか……」

 

なのはの言葉に一瞬ハッとするが、フェイトは構わず臨戦態勢に挑む。

 

「わたしが勝ったら……お話、聞かせてくれる?」

 

「……」

 

彼女は答えない。

アルフとユーノは、それぞれの相棒の後ろで固唾を飲んで見据える。

二人は同時にデバイスを振り上げ走りだした。

お互いの想いの丈をぶつけるために。

しかし、

突如空から蒼白い光が二人の間に割って入った。

驚き動きを止める二人。

 

「あっ…!?」

 

光が晴れ、蒼い魔方陣を展開した一人の少年が姿を現す。

 

「そこまでだ!」

 

黒髪、黒の繋ぎのバリアジャケット、黒の詰め襟の上着。

黒ずくめの少年は二人の少女を交互に見る。

ガキン!! という音と同時に、高町なのはとフェイト・テスタロッサの両足には一基ずつ、両手は手錠のように蒼いリングが出現し彼女を拘束する。

 

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ」

 

ホログラムのような身分証を掲げる。

 

「さて、事情を聞かせてもらおうか」

 

キョトンとするなのは。

突然クロノに向かって三発の光が放たれた。

アルフが攻撃を行い、咄嗟にクロノ・ハラオウンは左手をかざしてプロテクションを展開、防御する。

 

「フェイト!撤退するよ、離れて!」

 

それを聞いたクロノはアルフにデバイスを向け攻撃を仕掛けようとするが、アルフは先に無数の光弾を撃つ。

クロノは背後の自らが拘束したなのはに目をやり、攻撃から防御に切り替えアルフが放った攻撃を半円形プロテクションで防ぐ。

光弾は砂煙を巻き上げ、目くらましとなった。

フェイトはこの隙にジュエルシードのもとに向かう。

だが次の瞬間、砂煙の中から数発の蒼い魔力弾が飛び出す。

 

「…あっ!?うっ!!」

 

直撃しフェイトは倒れてしまった。

 

「フェイト!!」

 

アルフは叫びながらフェイトを抱き抱える。

クロノは追撃すべくデバイスを向ける。

しかし、

 

「だめぇっ!!」

 

「?」

 

「撃っちゃだめ!」

 

高町なのはがやめさせようと声をあげた。

この隙に、アルフはフェイトを抱き抱えたまま逃走する。

突然、クロノの方に女性の映像が現れた。

 

「クロノ執務官、お疲れ様」

 

「すみません艦長、片方逃がしてしまいました」

 

「ん…、まあ、大丈夫でしょう。詳しい事情を聞きたいわ。その子達をアースラまで御案内してね。″奥で隠れている子も一緒にね″」

 

「了解」

 

映像が消えるとクロノがこちらを向く。

 

「事情を聞きたい。来てくれるね?」

 

彼はここで敢えて大声でなのは達の、更に後方へ声をかける。

 

「聞こえていただろう? そこの正体不明の君の事もだ!!」

 

「「え!?」」

 

驚くなのはとユーノ。

自分達とフェイト達以外に人がいたのか!? と。

しかも結界の中で。

だとすると、まさか……、

 

「ありゃりゃ、バレてたのかよ」

 

軽い調子の声。

コンテナの物陰から、なのはやクロノと同年代の少年が薄い笑顔でおどけたように出てきた。

黒いジーンズにグレーのTシャツ、黒いスニーカーという服装の茶色い髪の少年。

超能力者(レベル5)の垣根帝督。

なのはもユーノも、名前を含めて何者なのかも知らないが、彼の存在は知っていた。

 

「あ、あなたは……、どうしてここに!?どうして……ッ!?」

 

聞きたい事が多すぎてなのはがあたふたし始めた。

クロノが言う。

 

「そこも含めてこちらも聞きたいんだ。同行を願う」

 

「ちなみに拒否したら?」

 

「悪いが高町なのは(この子)同様に拘束させてもらう」

 

「へえ……」

 

しばし思案しているようだった。

 

(この場面でタイミング良く新勢力が現れやがった。ただの偶然……?名乗った名称からしてさしずめ魔法サイドの公的機関…警察って所か)

 

しかし、同時にそれを装った闇組織の類いを疑ってみたが、ここは乗る事にした。

 

(_罠なら突破すれば良い。敵なら潰せば良い。この一件から魔法やらの事の正体等々、それを掴める可能性があるんなら……)

 

ニヤリと挑発的に笑って告げる。

 

「分かった、乗ってやるよ。俺もアンタ等の事は何も知らねえんだ。しっかりもてなせよ?」

 

 

 

アースラ船内。

 

時空管理局の執務官クロノ・ハラオウンに連れられて、通路を歩いているのは、高町なのは、ユーノ・スクライア、そして垣根帝督。

 

(スゲェな。こんな摩訶不思議な技術なんて学園都市にもねえぞ)

 

物珍しそうにキョロキョロするなのはと垣根。

 

〈ユーノくん、ここって一体…?〉

 

彼女の念話に側を歩くユーノが答える。

 

〈時空管理局の次元航行船の中だね〉

 

〈はあ…〉

 

教えてもらったがいまいちピンと来ない。

先頭を歩いていたクロノ・ハラオウンが振り返る。

 

「ああ君、いつまでもその格好というのも窮屈だろう。バリアジャケットとデバイスは解除してもいいよ」

 

「あ、はい」

 

言われた通りに解除し学校制服姿に戻る。

クロノは続いてユーノに目を向けた。

 

「君もだ、そっちが本来の姿じゃないんだろう?元の姿に戻っても良いんじゃないか?」

 

その言葉に垣根は眉をひそめる。

なのはも訳が分からなさそうな顔でユーノを見ている。

 

(……、何?)

 

「あ、そういえばそうですね。ずっとこの姿でいたから忘れてました」

 

思い出したように言うユーノだが、なのはも垣根も会話の意味を理解できていなかった。

不意にユーノ・スクライアの身体が光に包まれる。

 

「ふえ……あっ!ああ……ッ!!」

 

フェレットがいたはずの場所には、パーカーに半ズボンの金髪の少年が立っていた。

 

「な……っ。まさか……、『肉体変化(メタモルフォーゼ)』か……!?」

 

思わず垣根も動揺し口を滑らせてしまう。

 

「ふう……。なのはにこの姿を見せるのは久しぶり、だっけ?そっちの君は初めてだろうけど」

 

事も無げに告げたこの少年は、ユーノ・スクライアなのだろう。

高町なのはは分かりやすく混乱し、驚愕に染まっていた。

ユーノ・スクライアが変身した事にも。

彼が自分と同年代の『人間』だった事にも。

プルプルと左手人差し指で目線の先を指して、

 

「え?…え??あ……あ あ…あ…ふえええぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!?」

 

瞬間、高町なのはの大音量の悲鳴がアースラ内にこだました。

 

「ん?なのは……?」

 

悲鳴に驚くユーノだが、なのはが叫んだ理由はわからない。なのははユーノの倍、驚いていた。

 

「ユーノくんって、ユーノくんって、普通の男の子だったんだ!?」

 

「ええ?あれ?」

 

ユーノの方はなのはは既に知っているものだと思っていたらしく、首をかしげた。

 

「…あの、その、なに!?えー……っと、だ、だって、嘘!?ふえええぇぇぇ〜!?」

 

「うるせえな」

 

彼女の悲鳴に、顔をしかめて耳を押さえる垣根。

 

「……君達の間で何か見解の相違でも?」

 

クロノが尋ねると、ユーノはその相違を解決するためになのはに確認していく。

 

「えーっと、なのは?僕達が最初に出会ったときって僕はこの姿じゃ…」

 

彼女は首を思い切り横に振る。

 

「違う違う!最初からフェレットだったよ〜!!」

 

「ん〜………………ああ!!そ、そ、そうだった!ゴメンゴメン。この姿見せてなかったね……」

 

結局、相違の違いはユーノの勘違いだった。

 

(魔法ってそんな事もできるのか、スゲェな)

 

ここでクロノが口を挟む。

 

「……そろそろ大丈夫か?とりあえず、こちらを優先してもらって良いか」

 

「「あ、はい!」」

 

 

 

「艦長、来てもらいました」

 

アースラの応接室の扉が開き、クロノが言う。

 

見えたのは、何故か満開の桜の木。

周辺も分かりやすく和風の様式。

茶釜に湯飲み、鹿威し。

番傘が差された茶室のようなとても艦船の応接室には見えない意匠。

 

「は?」

 

この光景には三人とも絶句する。

しかも、垣根となのはが驚いているのは、異世界艦船の応接室が『日本風』であると同時に、それが微妙に、しかし色々間違っている事等の理由もあった。

アースラの艦長、リンディ・ハラオウンが正座している。

 

「どうぞ」

 

クロノが僅かに後ろを向いて告げる。

 

「あ…は、はい!」

 

「お疲れ様。はじめまして、私はアースラの艦長、リンディ・ハラオウンです。まあ、三人とも、どうぞ楽にして?」

 

「あ、わたし、高町なのはです」

 

「僕はユーノ・スクライアです」

 

名乗りながらリンディの対面に正座する二人。

垣根だけは少し逡巡している。

 

「……、俺は別に魔法使いでもねえし、当事者とも言えねえし、名乗らなきゃダメか?」

 

「名乗れない事情でも?」

 

クロノが疑いの目を向ける。

そこでようやく観念し、あぐら座りになりながら名乗った。

 

「…いいや別に。……(かき)()帝督(ていとく)。よろしく」

 

なのは達としては、フェイトに続いてようやく本名(フルネーム)を知る事ができた。

羊羮に抹茶と、もてなしを受けながら、今までの経緯を説明するなのはとユーノ。

垣根帝督は、それらには手をつけずに黙って聞いている。

 

「………なるほど、そうですか、……あのロストロギア、ジュエルシードを発掘したのは貴方だったんですね」

 

「はい…」

 

高町なのは、ユーノ・スクライアが、何故ジュエルシードを集めているのか、その経緯を説明し終えると、リンディは漸く一息ついた。

ユーノは少しすまなさそうに俯いている。

 

目の前にいる子供達は息子よりも幼い。

だが、そのポテンシャルは計り知れない。

若干九歳にして、しかも魔法を知ってから一ヶ月も満たないのに、推定Aランク越えの少女。

高町なのは。

 

直接戦闘には協力していないが、デバイス無しで広域結界、補助魔法の展開の早さと鍛練度から、相当な実力が伺える少年。

ユーノ・スクライア。

 

そして、彼女達とは別行動していた、魔力は一般以下。

魔法は全く使わない、使えない。

正体不明の謎のスキルを有し振るう、何から何まで謎の少年。

垣根帝督。

 

「立派だわ」

 

目の前のユーノ・スクライアという少年が、いかに清い精神を持っているかを確認した。

 

「だけど同時に無謀でもある!」

 

「だろうな」

 

そこで口を挟むクロノ。

管理局でも選抜された魔導師でしか介入することなどできないロストロギア関係の事件。

実力も知れない者達にどうこうできるものでは無いというのが、彼の考えだった。

垣根もその考えに同意する。

 

「あの、ロストロギアって何ですか?」

 

指摘されて落ち込むユーノを見て、話題を変えようとするなのは。 無論、先程から聞きたかった事でもある。

 

「ああ、遺失世界の遺産……って言っても分からないわね」

 

「さっぱりだ」

 

「………えっと、……次元空間の中にはいくつもの世界があるの。それぞれに生まれ育っていく世界。その中にごく稀に良くない進化をしすぎる世界があるの。技術や化学。進化したそれらが自分達の世界を滅ぼしてしまって、その後に取り残された失われた世界の危険な技術の遺産……」

 

「それらを総称してロストロギアと呼ぶ。使用法は不明だが、使いようによっては世界どころか次元空間でさえ滅ぼす力を持つものがある危険な技術…」

 

リンディを引き継ぎクロノが説明し、更にそれをリンディが引き継ぐ。

 

「そう、私達管理局や保護組織がしかるべき手続きを取ってしかるべき場所に保管されていなければならない品物。貴方達が探しているロストロギア、ジュエルシードは次元干渉型のエネルギー結晶体。流し込まれた魔力を媒体として、次元震を引き起こす事のある危険物」

 

なのは等の後方で腕を組み佇んでいるクロノ・ハラオウンが再び口を開く。

 

「君とあの子がぶつかった際の震動と爆発…、あれが次元震だよ」

 

「あ……」

 

なのはも心当たりがあったらしく、息を呑んだ。

だが、垣根帝督は対照的に面白そうにうっすらとにやける。

 

「たった一つのジュエルシードでもあれだけの威力がある。複数個集まって発動させたときの威力は計り知れない」

 

「大規模次元震やその上の災害、次元断層が起これば世界の一つや二つ、簡単に消滅してしまうわ。そんな事態は防がなきゃ……。もう、あんなことは繰り返しちゃいけないわ。もちろん黒衣の子も、理由はどうあれ次元震を起こさせる訳にはいかないわ」

 

過去にロストロギア関連で何かあったのか、リンディは何だか少し辛そうに告げる。

彼女は抹茶を一口飲み、そして何故か置いてあるシュガーポットから角砂糖を出し、抹茶に入れる。

更にその上でミルクを注ぎ込んだ。

 

「あ……」

 

それを見てなのはは目を丸くした。

 

「抹茶ラテのつもりか……?」

 

垣根も目を細める。

リンディはお手製抹茶ラテをゆっくり飲んでから、なのは達を見据える。

 

「これよりロストロギア、『ジュエルシード』の回収については私達、時空管理局が全権を持ちます。」

 

「「え?」」

 

なのはとユーノは一斉に反応する。

構わずクロノが言う。

 

「君達は今回のことは忘れて、それぞれの世界に戻って元通りに暮らすと良い」

 

「でも、そんな…」

 

なのはもユーノも、納得していない様子だ。

おそらく、特にユーノは当事者として最後まで責任を持って対処したいのだろう。

 

「次元干渉に関わる事件だ。民間人に干渉してもらうレベルの話じゃない」

 

クロノは敢えて突き放すように言うが、

 

「でも……っ!」

 

それでも食い下がるなのはに、リンディ・ハラオウンは口を挟んだ。

 

「まあ、急に言われても気持ちの整理もつかないでしょう。今夜一晩ゆっくり考えて二人で話し合ってから、改めてお話しましょ」

 

そう言われてようやく、なのはとユーノは落ち着いた。

 

(……へえ、いくら突っぱねても食い下がって、勝手に危なっかしく首突っ込んでくるだろうから、敢えて一度猶予を与えて、自ら協力を懇願させて自身の目の届く範囲に置いとこうってか。意外にお優しいのかね?)

 

垣根は相変わらず、薄い笑顔を張り付け黙って眺めている。

クロノはそんな彼を不審に思いつつなのはに告げる。

 

「送っていこう。元の場所で良いね?」

 

 

 

「_さ、そろそろあなたについて教えてもらえないかしら?」

 

高町なのはとユーノ・スクライアは既にこの次元航行艦アースラから帰宅している。

応接室にはリンディ・ハラオウンと垣根帝督、そして、送迎から帰還したクロノ・ハラオウンがいる。

何故、彼だけ残っているというより残されているのかというと、彼は何を訊いてもお茶を濁すような、誤魔化して話を逸らすような事ばかり言ってキナ臭い態度に終始していたからだ。

流石にリンディもクロノも、得体の知れない存在を得体の知れないまま帰す訳にもいかない。

かといって拘束するなどの強引な手段も絶対に取りたくはないし、取れないだろう。

得体の知れない、謎のスキルを行使されて船内を無差別に暴れられでもしたらどうなるか、想像に難くない。

 

「……しかし、こちらも仕事なんだ。いくら黙秘や誤魔化しを続けても、例え君が力ずくで逃げる為に暴れる事になっても、それに屈してはいそうですか、と放す訳にもいかないんだ」

 

業を煮やすクロノ。

しかしそれでも垣根の態度は変わらない。

 

「そう言われてもねえ、アンタ等と同じで俺にも事情や都合ってのがあるんでね」

 

「そこも含めて質問しているんだが……」

 

「どうしても、私達が知りたい事や訊きたい事には、答えられない?」

 

「ああ。ただし、アンタ等が俺が欲しいものを出せるってんなら、話は別だが……」

 

胡座をかき、薄く笑いながら侮るような態度の垣根帝督に、クロノは多少腹を立てつつも我慢する。

 

「……というと?」

 

「ギブアンドテイクって訳だ。こっちが要求するものを1つ1つ出してくれりゃ、それに応じて話せる事だけは話しても良い。アンタ等がそれに応じてくれるんならな」

 

リンディは一度目を閉じて数秒考える。

そして、目を開け告げる。

 

「……分かりました、良いでしょう」

 

「艦長!」

 

警戒し制止しようと思うクロノに目配せしてリンディは続ける。

 

「では早速要求を訊きますが、もちろんこちらも無制限には応じられません。お互い、できる限りでという事で良いわね?」

 

「ああ」

 

お互い、示し合わせたように互いの目を見る。

クロノはそんな二人を複雑な心境で見ていた。

 

「さて、じゃあまずこっちの頼みたい事なんだが、魔法に関する基礎や基本の教科書とか貸して欲しい。あとアンタ等の公用語の言語辞書とか」

 

「それなら構わないが、何故?」

 

「俺はアンタ等の言う魔法を知らなかったし、高町なのはみたいに魔法使いじゃねえ。今までその場その場で対応してきたから、魔法の基本や根本をよく知らないんだ。だからそれを知りたい。できれば行使の仕方も」

 

高町なのはのような特殊例を除いて、魔法の存在そのものすら知らなかった全くの素人が、今までこの一大事に単独で対応し続けていたのだとしたら、それは驚くべき事だった。

 

「分かりました。その要求を呑みます。では今度はこちらから。単刀直入にあなたは何者?」

 

多少驚くも、リンディは冷静に簡潔に問う。

ただし今度は「地球人」やら「日本人」やら「小学生」やらのガサツなおふざけは無し、と目で語っている。

 

「……学園都市という特殊な最先端科学と、人工的な超能力開発を行っている街出身の能力者の一人で学生だよ」

 

ようやくどこの誰かは分かった。

 

「じゃ、次はこっちから。まあ後でも構わないから、アンタ等の世界の大体についてや簡単な歴史等々、まあ一般常識について知りたい」

 

「分かりました、喜んで応じましょう。ただし条件付きであなた方の世界はこちら側で言う管理外世界です。むやみやたらに他言無用でお願いします」

 

「もちろん良い。ただ、話しても与太話か都市伝説とかにしか思われそうもないがな」

 

リンディの出した条件を快諾する。

 

「では改めて、学園都市や超能力について言える範囲で良いので教えてもらえないかしら。細かい事は後で良いから」

 

「もちろん良いぜ、言える範囲ならな。でもまあ俺が訊きたい事はとりあえずここまでなんだよな」

 

ここで交渉終了を持ち掛けるが、リンディは新たに問題を提起してみた。

 

「こちらはまだまだ一つ一つ確認したいのだけれど……あ!そうね!」

 

リンディは何か良い事を思い付いたように手を叩いた。

 

「言える範囲であなたについて全部教えて?その代わり私達もできる範囲でなら何でも教えるし協力もしましょうか!」

 

キョトンとする垣根とクロノ。

リンディはニッコリと笑って、

 

「これなら単純明快で回りくどくないし、お互い無理に隠し事や言いたくない事も、『やましい事でもない限り』言う必要無いでしょう?」

 

名案! と言わんばかりに彼女は年不相応なほど、実に裏表を感じさせない朗らかな笑顔で垣根に告げた。

これには垣根も苦笑して見せる。

 

「……なるほど、そう来ましたか。……分かりましたよ、艦長さん」

 

渋々といった調子で、彼は承諾した。

 

垣根はクロノとリンディの話を聞きながら、魔法の基本基礎が記されている教科書のページをめくり公用語……すなわち、ミッドチルダの言語辞書を見ながら読み進めていく。

 

「……へえ、聞けば聞くほど、知れば知るほどスゲェな。魔法が最先端科学の産物で複数の次元世界の存在、質量兵器…実弾実体兵器の事実上全廃。学園都市に居続けていたら絶対に知り得なかった事ばかりだ」

 

彼の目は年相応の子供のように楽しそうに見えた。

それを見てリンディの表情が僅かに綻ぶ。

クロノが彼に答える。

 

「いや、こちらとしても有益、というか有意義な事を聞けた。まさか魔法以外に科学力で異能の力を生み出す研究で超能力というのは初めて知ったよ。僕達の世界とは違った形で科学技術が発展している」

 

「そこは学園都市限定だけどな」

 

と垣根。

リンディが新たに質問する。

 

「……所で、何故その事をなのはさん達にも秘密にしているの?ついさっきまで名前すらも」

 

「名前について言うと、全くの偶然だが俺の書類上の転入先が高町(あいつ)の所で、しかもクラスメイトらしいから、名前1つバレただけでも下手に騒がれたくもないって訳だ。一応秘密裏に動いてる身としては可能性は徹底的に排除したいんでな。当然な事でもあるんだが学園都市は自分達の技術等の外部流出を病的に嫌がる。だから調査の為とはいえあいつ等とつるむよりコソコソ裏で観察する事にしたんだ。よほどの事が無い限りは」

 

初めて遭遇した時も、偶々高町達が封印してた所を目撃しただけだしな、と垣根は説明し続ける。

 

「見た事も無い上、うまく解析できなかったし、学園都市には知らない技術で学園都市の技術じゃ処理しきれないと判断した。だからジュエルシードの処理やら回収やらは任せたって訳だ」

 

これが、なのは達との接触を極力避けていた主な理由だった。

騒ぎや情報漏洩の可能性を摘み取っていたかった。

 

「なるほどね……。所で、魔導師ではない能力者のあなたが何故、結界に勝手に出入りできていたの?」

 

「あー、それは正直、今でも俺もよく分からなくて仮説の域を出ないんだが、多分『AIM拡散力場』が関係してるんだと思うぜ」

 

「え、エーアイエム拡散力場……?」

 

「それは何?」

 

クロノとリンディが首を傾げる。

 

「俺みたいな能力者が無意識に放つエネルギーのフィールドみたいなもんだ。推測だが、これまた偶然にも多分それが上手く干渉して入れるようになったんだろうな。もちろん、能力者なら誰でも結界に侵入できるとも限らねえ。実際、しっかりと魔法の反応を追跡できてるのは俺だけのようだしな」

 

AIM拡散力場は能力の種類によって異なる。

ましてや類似能力が事実上存在しない『未元物質(ダークマター)』のAIM拡散力場が魔法の波長とマッチしたという奇跡の代物だった。

現状、非魔導師や非魔法関連の機関等が魔法を魔法として感知し観測できているのは垣根帝督以外にいない。

そして当の垣根も偶然高町なのは等の封印活動に遭遇する事も無かったら、永久に直接こうして関わる事にはならなかっただろう。

せいぜい残留反応や被災地をなぞるだけで終わっていたはずだ。

いや、むしろその可能性の方が高く、学園都市がこのエネルギー反応観測に着目しなかったら垣根帝督は学園都市の外に出る事すら無かった。

つまり、この件のジュエルシード集めに一枚噛めていたのは偶然に次ぐ偶然の重なり。運命のイタズラとさえ言える出来事だった。

 

こんな事があり得るのかと目を剥いて思案するクロノ・ハラオウン。

リンディは敢えてその疑問を棚上げし、質問を再開する。

 

「聞いている限り、あなたの能力は解析やサーチに長けた能力のようね。記録映像で見たのだけど、あなたの能力は一体何?あの背中から生えていた六枚の白い翼は?六段階ある強度のうち、どれくらいに当てはまるの?」

 

教科書と辞書を読んでいた垣根は、ここで初めて表情を曇らせた。

 

「……突飛な能力だから、アンタ等の世界にも悪目立ちしたくないからオフレコにしたいんだけど……」

 

「……分かったわ、今回はここだけの話にしましょうか」

 

しばらく黙ってリンディとクロノの表情を見て、信用する事にした。

 

「マジで他言無用で頼むぜ?……俺の能力は超能力(レベル5)の『未元物質(ダークマター)』って言うんだ」

 

「ダークマター?」

 

クロノが口を挟む。

 

「とは言っても暗黒物質の事じゃねえがな。そもそもこの世界が何で構成されているか分かってるか?」

 

「…分子や原子よりも小さな物質、素粒子だったかしら」

 

リンディが答える。

 

「正解。細かい説明は省くが、他の次元世界も例外なく複数の種類の素粒子によって構成されているだろう。そして物理法則等の法則が"常識"として存在してる訳だな」

 

「それが君の能力とどう関係しているんだ??」

 

「まあ最後まで聞けよ執務官。俺の『未元物質(ダークマター)』は簡単に言うとこの世界に存在しない素粒子を作り出して操作する能力だ」

 

クロノは分かったような分からないような顔をしている。

リンディも理解し切れていないようだ。

 

「かい摘まんで説明するとな、俺の『未元物質(ダークマター)』はこの世界に存在しない新物質だ。そいつに既存の物理法則は通じないし、未元物質(ダークマター)に触れて影響を受けたモノも独自の法則に従って動く。例えば、無害のものを有害化させてみたり、逆に無効化させたりとかな。魔法とかで例えたら、防御のプロテクションをすり抜けせたり魔力の収束率を大幅に悪化させて砲撃や射撃を威力減退や無力化したりとかな」

 

それは、事実上魔力による純粋なエネルギーを行使し戦闘等を行うミッドチルダ式の魔法にとって、天敵とも言える脅威的で悪質なスキルだ。

 

「な……ッ!?何てデタラメな……ッ!!」

 

目を見開き驚愕に染まるクロノ。

リンディも絶句していた。

垣根はそんな二人に薄く苦笑する。

 

「まあ、驚くのも無理ないわな。超能力の中でも異質な能力だし。一応釘刺しとくけど、あの翼は俺の趣味じゃないからな。どういう訳でそういう形態になったのかは俺自身も分かってない。似合ってない自覚もある」

 

それよりと彼は、

 

「そろそろ今日の交換説明会はお開きにして良いか?俺も帰りたいし」

 

「……あ、そうね。ではクロノ執務官」

 

「はい。じゃあ垣根だったね、こっちに……」

 

気を取り直し、案内する。

 

「どうも。あ、くれぐれも俺が良いと言うまでは高町とかには言わないどいてくれよ?」

 

「分かっているわ。約束よ」

 

疑いを視線を向けられるが、リンディ相変わらず柔らかな笑顔で返した。

 

「頼むぜ。……あ、執務官、魔法の演算方法教えてくれ。試したい」

 

「構わないが…君は魔力があまり無いからあの子達のような事は……」

 

「良いんだよ。行使の仕方を知りたいだけで俺も魔法使いになろうって気はねえんだ。俺の魔力がデカいってんなら二足のわらじも考えたけど」

 

「そういう事か……」

 

そのような事を話しながら垣根帝督とクロノ・ハラオウンの二人は歩いていった。

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