魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter   作:戸礼太

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迷う事の無い視線の先に、浮かぶ答えは「一つ」だけ

高層マンションの一室というか、ワンフロア全部とも言えるほど広いフェイトの隠れ家。

吹き抜けとなっている中二階あたりにフェイトのベッドが置かれていた。

今そこには、魔導師フェイト・テスタロッサがマントを脱いだだけのバリアジャケットのままうつ伏せに寝ている。

被弾によるダメージの手当てに巻いている左腕の包帯が痛々しい。

 

「ダメだよ!管理局まで出てきたんじゃ、もうどうにもならないよ……」

 

フェイトの右手を握り、悲痛な声で告げる彼女の使い魔アルフ。

しかし、フェイトは冷や汗をかいて苦痛に耐えながら答える。

 

「大丈夫、だよ……」

 

「大丈夫じゃないよ…!ここだって、いつまでバレずにいられるか……。…あの鬼ババ……、あんたのかーさんだってフェイトに酷い事ばっかする!あんなヤツの為に、もうこれ以上……ッ!」

 

アルフはフェイトを必死に制止しようと思い、体を震わせて恨めしそうな声をあげる。

 

「母さんの事…、悪く言わないで……」

 

フェイトは諌めるように答えたが、アルフは聞かない。

 

「言うよ!だってあたし…フェイトが心配だ……。フェイトはあたしのご主人様で…あたしにとっては世界中の誰より大切な子なんだよ」

 

泣きそうな声を出してアルフは続ける。

頭の中に思い出が(よぎ)る。

 

「群れから捨てられたあたしを拾ってくれて、使い魔にしてくれて、ずーっと優しくしてくれた。フェイトが泣くのも悲しむのも…あたし嫌なんだよ……!!」

 

ついに泣き出してしまう。

そんなアルフにフェイトは手を伸ばし、頭を優しく撫でる。

 

「ごめんね、アルフ。だけど……それでも……」

 

アルフが俯いていた顔を上げると、フェイトは体を持ち上げ、告げる。

 

「わたしは母さんの願いを叶えてあげたいの……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時期、高町なのはの自室。

 

「_だから、僕もなのはもそちらに協力させて頂きたいと……」

 

フェレット姿のユーノ・スクライアがレイジングハートを通じてアースラと連絡を取っていた。

 

「協力ねえ……」

 

ユーノの言葉に気の進まなそうにクロノが呟く。

 

「僕はともかく、なのはの魔力はそちらにとっても有効な戦力だと思います。ジュエルシードの回収、あの子達への牽制、そちらとしては便利に使えるはずですが……」

 

ユーノはなのはを売り込み協力を申し出る。

聞いていたリンディ・ハラオウン艦長は右手を顎に当て、小さく微笑む。

 

「ふむ…考えてますね……。まあ良いでしょう」

 

「か…母さ_、艦長!?」

 

リンディの言葉に腕を組んでいたクロノが驚き、思わず声をかけるが構わず続けた。

 

「手伝ってもらいましょう、切り札は温存したいものね?クロノ執務官」

 

「は、はい……」

 

笑いかけた彼女に、クロノは目を閉じて視線を逸らす。

そんな彼に一緒に座席について対応していたエイミィ・リミエッタが振り向いて、笑顔でサムズアップしている。

かくして、高町なのはとユーノ・スクライアは時空管理局 次元航行部 L級巡航艦船アースラの民間協力者となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高級マンションの最上階。

シャワーを浴びてスエットを着た垣根帝督は、アースラから借りていた通信端末で先ほどのユーノ・スクライア同様に連絡を取っていた。

 

『_という事になったんだけど、あなたはどうします?』

 

「そりゃもちろん、最後まで首突っ込ませてくれ。中途半端な所でドロップアウトは嫌だしな」

 

リンディの問いに垣根は即答した。

ただし垣根帝督は魔導師ではないばかりか、彼が振るう超能力(レベル5)は言うなれば時空管理局が全廃した質量兵器と同様と言える。

故に単純な民間協力者となる訳ではなく、オブザーバーのような立場の見学者に近い状態となった。

 

『分かりました。では、また何かありましたらこちらから連絡しますので、その通信端末は大切にね?』

 

「了解、艦長さん」

 

ニッコリと笑いながら告げるリンディに、垣根もニヤリと口角を吊り上げて答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クロノ・ハラオウンはアースラの管制室で巨大モニターに映し出されている、高町なのはとフェイト・テスタロッサ、戦闘記録を見ていた。

 

「凄いや、どっちもAAAクラスの魔導師だよ?」

 

不意にクロノに話しかけたのは管制室でコンソールを操作している女性。彼の補佐であり、管制室を一任されているエイミィ・リミエッタだ。

 

「こっちの白い服の子はクロノくんの好みっぽい可愛い子だし」

 

「エイミィ!そんな事はどうでも良いんだよ」

 

モニターに集中していたクロノは慌てたように否定する。

そしてしばらく慣れたことなのかそこまで彼は怒った様子もなく、いつもの応酬といった感じの会話が続いた。

そんな時、私服に着替えたリンディ・ハラオウンが入ってきた。

 

「艦長、やはり僕は民間人を協力させる事は反対です。魔導士ならアースラにいます。それに僕も……」

 

クロノはリンディが入ってきた開口一番にそう言った。

超能力者(レベル5)というイレギュラーの垣根帝督を含めた三人が時空管理局に正式に協力することが決まったが、彼はやはり反対らしい。

 

「確かにアースラには優秀な魔導師がいます。しかし皆、ミドルレンジを得意とした中距離砲撃型。対してあの黒衣の少女は珍しい近接戦闘型。相性が悪すぎるわ。 でも、あの子はそのハンデを背負いながらも同等の戦闘を見せてくれたわ。これを使わない手はありません」

 

リンディの言う事は的を射ていたためクロノは仕方なさそうに押し黙る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アースラとの接触した翌日。

高級マンションの最上階に潜伏している垣根帝督。

彼の手には金属製のカード。

それは、クロノ・ハラオウンから借りたアースラ保有の予備の通常ストレージデバイスで、能力者である自分にとって未知の魔法を使えるか自分自身をモルモットにして実験をしようというのだ。

 

(上手くいきゃ何かしらの役に立つだろうし、学園都市を出し抜くカギになるかもしれねえしな)

 

彼はあまり多くはないが、単に魔法を行使するだけには申し分ない程度の魔力はあった。

 

「えーっと、まずはスタート・アップ!だったな」

 

垣根の右手で握るカードが瞬時に、機械でできたシンプルな杖に変化する。

 

「おースゲェ。どういうメカニズムで変形しているのか今だに不思議なもんだ。さてさて、次は魔法の演算だな」

 

彼は隅々まで読み明かした教本とクロノから簡単に教わった通りに、魔法の演算を開始する。

僅かに垣根帝督の体が白く発光し始めた。

 

しかし、

 

「………ッ!?」

 

演算を始めた瞬間から頭に鈍痛が走る。

それから頭痛はだんだん強くなり、頭以外の全身のあちこちに激痛が走った。

 

「ぐっ……、な何、だ……?」

 

何が起きているのか分からない。

血管が破裂し神経回路が損傷している事に気づいたのは、魔法の演算を打ち切って『未元物質(ダークマター)』の演算に切り替えて自身の状態を確めてからだった。

 

「ご……ぶっ、が………ッ!!」

 

吐血しグラリと力が抜け、倒れてしまう。

頭から血を流し、着ているスエット含めて全身血塗れになっていた。

何故こうなったのか。

どういう理由でなったのか。

ハッキリ分からないが一つだけ分かった。

 

「……拒絶、反応……?」

 

身体に高負荷がかかっていた。

これは今の彼には知る由もないが、能力者が『魔術』を行使する場合の出来事と酷似していた。

簡単に言うと力のフォーマットが異なる為に、能力者が使用すると例え無能力者(レベル0)でも身体に深刻な負荷がかかり、最悪死に至る。

魔力を精製した段階から拒絶反応が起こり、平たく言うと『直流電子機器に交流電流を流すようなもの』だった。

 

「クソッタレが……、能力者の俺にゃ魔法そのものの演算ができないってのか……」

 

結果、実験は失敗。

ストレージデバイスを解除し、『未元物質(ダークマター)』を応用して傷口を塞ぎ止血する。

ノロノロと立ち上がり、血塗れの顔を拭いながら心底不快そうに表情を歪める。

 

「チッ……、着替えてシャワーでも浴びるか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森の中。

 

ユーノ・スクライア(今は普通に人間の姿)が魔方陣の上に立って宙に浮いている。

視線の先にはジュエルシードの異相体の鳥獣に、薄緑色の魔方陣から伸びているチェーンバインドで拘束し動きを止めている。

チェーンバインドとは、魔力で生成したチェーンで相手を捕獲する魔法で空間固定能力の低さと引き替えに、対象の動作を直接阻害する能力が高く、破壊されにくい。 この為、大型生物等の捕獲によく使用される。

 

「捕まえた、なのは!」

 

「うん!」

 

彼の下方で待機していた高町なのはがレイジングハートを鳥獣に構える。

彼女の足元に魔方陣が展開され、鳥獣に桜色のリング状バインドが巻き付き更に動きを制限する。

なのはとレイジングハートが選択したバインド魔法はレストリクトロックと言い、範囲対象の拘束魔法で指定した区域内で動くもの全てをその場に固定し捕獲輪で動作や移動を封じる。

高位の魔力運用技術を並列展開する為、使用するリソースと魔力消費は大きく、その分対象を強力に拘束する。

発動から拘束完了までに時間がかかるのが難点で、動き回る対象を拘束するには工夫が必要となる。

 

「そう、バインドを上手く使えば動きの速い相手も止められるし、大型魔法も当てられる!」

 

「うん!」

 

 

_____と、その様子を次元航行艦船アースラのブリッジのモニターからリンディ・ハラオウン等が観察していた。

 

「んー…、二人共中々優秀だわ」

 

リンディは弾みのある声で言う。

一方、執務官のクロノ・ハラオウンと執務官補佐のエイミィ・リミエッタは黒衣の魔導師、フェイト・テスタロッサの追跡を行っていた。

 

しかし、

 

『Not Found』

 

モニターに大きく表示された。

 

「あーやっぱりだめだ……、見つからない」

 

「向こうも中々優秀だ」

 

エイミィは顔をしかめてぐったりし、クロノも静かに告げた。

エイミィはコンソールを叩きながらぼやく。

 

「お陰であれから二つも、こっちが発見したジュエルシードを奪われちゃってる……」

 

(手強いな…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_一方の、とある森林で、木の上から周りを見回しているフェイト・テスタロッサと、下に立つ使い魔アルフ。

 

「ここも空振りか」

 

「だね」

 

アルフの呟きにフェイトも同意する。

しかしフェイトの手には、二つジュエルシード。

 

「でも、ちゃんと集まっているから」

 

 

 

 

 

 

 

高町なのは等がアースラに移ってから十日目。

 

彼女達が手に入れたジュエルシードは四個。

そして、フェイト・テスタロッサ等が手に入れたジュエルシードは推定三個。

 

「残りの七つ、見当たらないわね」

 

「捜索範囲を地上以外まで広げてます」

 

アースラのブリッジで、リンディの呟きにクロノが答える。

 

_船内の食堂で、学校制服姿のなのはとパーカーに半ズボンの私服姿のユーノが、向かい合って座り紅茶とクッキーを嗜んで寛いでいた。

少し離れた位置で似たようなメニューを平らげ、自分達以外に殆ど人がいないのを良い事に連結された長椅子に仰向けに寝そべっている少年、垣根帝督。

ふと何となく、なのはとユーノは彼の方を見る。

垣根の服装はなのはのような学校制服ではなく私服なのだろうが、ユーノと違って年不相応に少し大人びた雰囲気だった。

グレーのスラックスに黒いインナーシャツ、その上に白い半袖カジュアルシャツをボタンを留めずに着ている。

思えば、相変わらず彼の事は学園都市出身の能力者であり、魔導師ではない事以外は殆ど何も知らない。

ジュエルシード集めには基本的に参加せず、船内のブリッジでリンディ艦長等の少し後ろでモニター見学をしているだけ。

同じ民間協力者という事になっているはずだが、彼は実質的にただの見学者と化していた。

終始うっすらとした、何を考えているのか分からない笑みを浮かべ、癖なのか常に両手をズボンのポケットに突っ込んで立ち尽くして、なのはとユーノの活動を面白そうに眺めている。

かと思えば、何もない平常時は探険感覚で船内を歩き回ったり、好き勝手に飲み食いして勝手気ままに寛ぎだしていた。

 

何がしたいのかよく分からない。

ついでにいえば、やたらと距離を取られている気がする。

一応同じ民間協力者同士で同じ地球出身、おそらく住んでいる所も自分とそう離れてもいないだろう。

この先もしばらく同じ船内で過ごすのだし、あんまりお互いよそよそしくするのもぎこちないし、できれば仲良くしたいというのがなのはの率直な気持ちだった。

無表情で寝ている訳でもなく、仰向けのまま暗い瞳でボーッと天井を見ている垣根に、それとなく声をかけてみた。

 

「……えっと、確か帝督く「垣根で良い」_あ…えと、それじゃあ、……垣根くん?」

 

「あはは……」

 

言い終わる前に相手から口を挟まれ、名前呼びを阻止され苗字呼びを推奨された。 思わずユーノも苦笑する。

しかし、それでめげるほど彼女も柔ではない。

 

「わたし、垣根くんと、お話がしたいなぁって思っているんだけど……」

 

「学園都市の事は前に簡単に説明しただろうが」

 

「わたしは……て_垣根くんの事も知りたいなあって…」

 

「それも言っただろ。俺はそこ出身の能力者だって」

 

「あ、だからその……、垣根くん自身の事とか教えて欲しいなーって……。普段何してるの?とか、今どこに住んでるの?とか……」

 

「それ聞いてどうするんだよ。そして特に変わった事はしてねえし、能力の内容とか滞在地は守秘義務もあるから教えねえ」

 

「あう……」

 

くだらなさそうに一々答えるのも面倒だ、といった調子で取りつく島も無い。

流石に見るに見かねてユーノも口を開く。

 

「……君は確か、学園都市という所の指示でこの件に絡んでいるんだよね?」

 

「ああ、前言った通りな」

 

「それで、君は今回の事をそのまま報告するのかい?」

 

「いいや。それはそれで面倒臭い事になりそうだし、適当に誤魔化すつもりだ。俺は学園都市の使いでここに来たが、別に学園都市の忠実な(しもべ)って訳でもないしな」

 

「……じゃあ、何で僕達みたいに協力を申し出てまで、まだ関わろうと…?」

 

「好奇心。まあ俺の個人的興味だ」

 

「好奇心?」

 

垣根は首を傾げるユーノの方に視線を向けて、僅かに口角を吊り上げた。

 

「魔法なんて代物、学園都市にいたら一生知り得なかったんだ。良い機会だから色々見聞きしておきたくてな。学園都市の為でなく、自分の為に」

 

「な、なるほどね……」

 

さっきと違って、一応まともに会話が成立している。 それがなのはには少し面白くない。口を少しだけ尖らせて言う。

 

「……何か、わたしの時だけ素っ気なくないかな?」

 

「気のせいだよ。もし仮にそうなら俺のせいじゃない、お前が悪い」

 

垣根は意に介さない。

 

「お前、じゃないよ。前に自己紹介したよね?わたしの名前は高町なのは。なのは、だよ?」

 

「あ、僕はユーノ・スクライアね。スクライアは一族の名だからユーノで良いよ」

 

なのはに続く形で間髪入れずユーノも改めて名乗った。

 

「わりぃわりぃ。名前で呼ばれねえのムカつくもんな、高町とユーノな」

 

「あ!何で何でユーノくんだけ名前なの!?」

 

何故かなのはだけ苗字呼び。

そこが疑問と同時に気に入らず思わずツッコんでしまう。

 

「俺の勝手だろ。指図される義理はねえな、高町」

 

「むー……、何か理不尽だよ……!」

 

再び一蹴され、僅かに頬を不機嫌そうに膨らませ垣根をジトーっと睨むが、彼はそんな彼女に目も向けず、寝そべったまま飄々としていた。

 

『エマージェンシー!捜査区域の海上にて大型の魔力反応を感知!』

 

「「ッ!!」」

 

緊急の船内放送を聞き、ハッと立ち上がるなのはとユーノ。

 

「お?」

 

垣根帝督はニヤッとしながら寝ていた体を起こした。

 

 

次元航行艦船アースラのブリッジの大画面にはフェイト・テスタロッサの姿が映されていた。

海上は風が吹き荒れ、雷鳴が轟く嵐と化し、複数の竜巻が渦巻く中、彼女は落雷を避けながら竜巻に向かって飛行していた。

 

「何とも呆れた無茶をする子だわ」

 

「無謀ですね、間違いなく自滅します。あれは個人の出せる魔力の限界を超えている」

 

リンディ・ハラオウンとクロノ・ハラオウンはスクリーンを見つめながらそれぞれの見解を述べる。

 

「フェイトちゃん!」

 

心配そうに声をあげるなのは。

フェイトは落雷を避けるのに必死で、うまく前進できずにいる。

彼女は海に電気の魔力流を打ち込んでジュエルシードを強制発動させていたのだ。

 

「いくら探しても見つからなかった残りのジュエルシードは見つけられた。が、あれはどう考えても無茶だ。いつ魔力が切れてもおかしくない」

 

淡々と語るクロノ。

魔導師は大気中に存在する『魔力素』を体内に取り込み、自らの魔力に変換・蓄積して使用するが、激しい魔法使用等を行う事によって魔力の消費量が蓄積速度に追い付かなくなり、激しい肉体疲労を伴う『魔力消耗』の状態になっていく。

軽度の消耗なら適正な休息や栄養補給で数十分から数時間で完全回復し、優れた魔導師ほど回復速度も速いが、フェイト・テスタロッサの場合は心身を酷使する戦いの中、多少の休息では充分な回復を得られない状態になっていた。

 

「あの、わたし急いで現場に…!」

 

「その必要は無い、放っておけばあの子は自滅する。仮に自滅しなかったとしても、力を使い果たした所で叩けば良い」

 

彼は冷静に彼女を止めた。

 

「でもっ……!」

 

「今のうちに捕獲の準備を」

 

「ま、それが妥当だろうな」

 

クロノはなのはの言葉を無視して局員達に指示を出す。

なのはの後ろから垣根も告げた。

 

「私達は常に最善の選択をしないといけないわ。残酷に見えるかもしれないけど、これが最善……」

 

リンディはなのはの前の艦長席にすわり、なのはには目を向けずスクリーンだけを見ていた。

モニターに映るのは、消耗戦を強いられ苦戦するフェイトとアルフ。

 

「でも……」

 

なのはにはどうしても理解できなかった。

いや、理解はしているが心が拒否しているのだ。

 

〈なのは、行って〉

 

不意に、彼女の横のユーノが念話で告げた。

 

〈僕がゲートを開くから行って。あの子を…〉

 

〈でも、ユーノくん……〉

 

ユーノは笑顔で、言葉で彼女の背中を押す。

 

〈行って〉

 

〈……、うん!〉

 

意を決し、彼女は動く。

 

「ごめんなさい!高町なのは、指示を無視して勝手な行動をとります!」

 

「あの子の結界内へ……転送!!」

 

ユーノは術式を展開、なのはをフェイトの結界内に送り出し、自分も転送するために印を結び、アースラから消えた。

 

……その寸前に、もう一人飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ………はあ……あぅ!」

 

フェイト・テスタロッサは落雷をバルディッシュで振り払おうとするが、逆に弾き飛ばされてしまった。

 

「フェイト!フェイト!……ぐっ!!」

 

アルフは彼女を助けようとするが、雷は鞭のようにアルフに絡み付く。身に纏う障壁で雷の電気エネルギーは緩和されるが、物質の鞭としてのエネルギーにより動けなくなってしまう。

そうしてるうちにフェイトの魔力が底をつこうとする。

バルディッシュのサイスフォームの刃を形成する魔力も消えてしまった。

空戦魔導師にとって魔力刃を維持できなくなるほどの消耗は「不慮の墜落」の可能性もあり、非常に危険だ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

彼女の息も荒い。

いよいよ魔力切れも現実じみてきた。

そんな時、突如厚く覆われた雲の一角が割れた。

それは明らかに人為的なもの。

 

「ッ!」

 

フェイトもそれに気付く。

現れたのは、バリアジャケットに身を包んだ高町なのは。

フライヤーフィンを足から展開、ゆっくりとフェイト・テスタロッサに近づく。

 

「フェイトの…邪魔をすんなあああぁぁ!!」

 

アルフはなのはを見た瞬間、雷の鞭を噛みちぎって突進する。

が、ユーノがなのはとアルフの間に割り込み、ハイプロテクションを展開させてアルフの突撃を阻止した。

 

「違う!僕達は君達と戦いをしに来たんじゃない!!」

 

「ユーノくん!」

 

アースラからモニタリングし有視界通信を行いながらクロノは、大声を上げる。

 

「馬鹿な…!何をやってるんだ君達は!?」

 

『ごめんなさい!命令無視は後でちゃんと謝ります!だけど、ほっとけないの!』

 

 

「まずはジュエルシードを停止させないとまずい事になる!放っておいたら融合して、手の付けられない状態になるかもしれない!止めるんだ!だから今は封印のサポートを!」

 

ユーノはプロテクションを解除して六つの竜巻に向かい、足下に魔法陣を展開、そこから捕縛魔法のチェーンバインドを複数出し、竜巻に絡み付いて動きを抑える。

 

「フェイトを助けるためだからね!!」

 

しばらく躊躇していたしていたアルフはそう叫ぶと、ユーノの隣まで行き、自分もバインドを展開する。

バインドによって更に竜巻の動きを封じた。

 

「フェイトちゃん」

 

なのははフェイトの前に舞い降りながら声をかける。

 

「手伝って。ジュエルシードを止めよう!」

 

レイジングハートの宝石部分が発光しディバイドエナジーを発動する。

蓄積した魔力を対象に分け与える魔法で、著しい魔力消耗に陥った者への緊急救助等に使用される。

治癒魔法のような回復促進ではなく、自身の魔力を分け与えている為、緊急時の即効性は高いが分ける側の消耗も大きい。

 

「二人できっちり、半分こ!」

 

なのはは言葉通り五割近くの魔力を分け与えた。

 

フェイト・テスタロッサにとって、高町なのはをジュエルシードを取り合う敵。

そう考えている。

なのはもそう思っていると考えていた。

しかし、彼女は自分に笑いかけながら協力を持ちかけ、魔力まで分けてくれた。

 

いくら頑張っても昔のように笑いかけてはくれない母。

 

必要最低限の事を教えて、消えてしまったリニス。

 

甘える隙などなかった。

 

「ユーノくんとアルフさんが止めてくれてる。だから、今のうちに!」

 

目の前の少女は埋めてくれるだろうか?

自分に欠落した何かを。

 

「二人でせーので一気に封印!」

 

どこまでも真っ直ぐに自分と向き合ってくれた高町なのはという少女は。

あそこまで真剣に向き合ってくれた彼女を無下にはできない。

しかし、母の望みを捨てることはもっとできない。

フェイト・テスタロッサの心情は、巨大な葛藤に押し潰されそうになる。

 

「よお、何ボーッとしているんだ?」

 

不意に後ろから声をかけられる。

 

「あなたは………!どうして、ここに!?」

 

振り向くとそこには、見知った少年が背中から六枚の翼を生やして宙に浮いている。

 

「そんな事よりどうするよ。今ならあの女を後ろから撃てるぜ?」

 

「そんな事!」

 

垣根の言葉に噛み付く。

 

『Glaive Form Setup』

 

「バルディッシュ…」

 

フェイトは、前上方で魔方陣を展開するなのはを見る。

 

「ディバインバスター、フルパワー!一発で封印いけるよね!?」

 

Of course master.(当然です)

 

そんな彼女に呼応するように、フェイトも構え直す。

なのははフェイトの顔を見てから正面に向き直る。

 

「せぇーのッ!!」

 

二人はほぼ同時に叫ぶ。

 

「ディバイイィン…………」

 

「サンダァァ…………」

 

桜色と金色の輝きが、無数の水柱を捕捉する。

 

「バスター!!」

 

「レイジー!!」

 

雷撃と収束砲が放たれた。

サンダーレイジは瞬間的なバインド能力を持つ雷光で、目標を拘束し、対象に雷撃で一斉攻撃を行う魔法。

空が見え、周辺に高層物の無い野外なら消費魔力に対する威力効率も高く、フェイトの無詠唱魔法としては最大威力を誇る。

 

「凄い……。ジュエルシード、七個すべての完全封印を確認しました!」

 

アースラで、エイミィ・リミエッタは驚愕しながら報告する。

 

「こんな…、出鱈目なっ……!」

 

「でも凄いわ」

 

同様にクロノ・ハラオウンとリンディ・ハラオウンも呆気にとられている。

 

曇天が晴れ始めた雨の降る海上。

高町なのはとフェイト・テスタロッサは、封印処理を施したジュエルシードを挟んでそこにいた。

しかし、二人はそれを奪い合おうとはせず、互いを見つめていた。

 

「フェイトちゃんに言いたい事、やっと纏まったんだ。わたしはフェイトちゃんと色んな事を話し合って、伝え合いたい」

 

なのはの言葉を、フェイトは黙って聞いていた。

 

「友達に……なりたいんだ」

 

「………!」

 

フェイトは初めて言われた言葉に困惑の色を示していた。

その様子を遠くから見つめるユーノ、アルフ、そして垣根。

 

『次元干渉…!?別次元から本艦及び戦闘空域に向けて、高次魔力来ます…あ、あと六秒!?』

 

垣根がシャツの胸ポケットに差していた通信端末から、エイミィの緊迫した声が聞こえた。

迫り来る紫色の雷撃。

一発はアースラに、もう一撃は戦闘空域に。

だが、なのはとフェイトはまだ気づかない。

 

ドンッッッッ!!

 

鋭い紫の落雷が水面に落ち、巨大な波と波紋を作った。

 

「う……母さん……!?」

 

不意に彼女が落雷に包まれる。

 

「うっ!ううっ!!ああッ!!」

 

「フェイトちゃん!」

 

なのはが手を伸ばすが弾かれてしまった。

 

「フェイト!!」

 

慌ててフェイトの方へ飛ぶアルフ。

落雷がやむと、体から煙を上げるフェイトの体がグラリと揺らぐ。そして落下しはじめた。

 

「…っ!」

 

フェイトを水面ギリギリで担いだ。

そしてそのまま上昇し、ジュエルシードの元へ。

しかし、いつの間にか現れたクロノがS2Uを構え、アルフの手を遮った。

アルフは忌々しく彼を睨み、手に力を込める。

 

「邪魔……すんなああぁぁぁ!!」

 

零距離での攻撃でクロノは遥か水面まで叩き落とされた。

今度こそジュエルシードを手にしようとするが、そこにあるのは半分の三つだけ。

 

「三つ………っ!」

 

まさかと思い、見てみるとクロノ・ハラオウンの手には四つのジュエルシードが。

彼はこれみよがしに見せた後、S2Uに収納する。

 

「うぅ……うああああぁぁ!!」

 

アルフは半ばやけくそになり、水面に魔力弾を叩き付けた。

直後巨大な水柱が立つ。

巻き添えで更に弾かれるなのは。

 

「チッ!」

 

垣根帝督が六枚の翼を振り下ろして強烈な烈風を放ち、水柱を薙ぎ払う。

逃走を図るフェイト達を捕捉しようとするが、先程の雷撃でアースラのセンサーが機能停止してしまっている。

視界が晴れた頃には、フェイトもアルフも、残りのジュエルシードも消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わってアースラの会議室。

 

議長席に座るリンディ・ハラオウンのありがたいお説教が始まっていた。

 

「指示や命令を守るのは集団を守る為のルールです。勝手な判断や行動があなた達だけでなく、周囲の人達も危険に巻き込んだかもしれないという事……。それは分かりますね?」

 

「「はい……」」

 

高町なのは、ユーノ・スクライア、垣根帝督が揃って立たされている。

二人は申し訳なさそうにしているが、垣根だけは不遜な態度のまま。

リンディは真面目な表情で額に手を当て、

 

「本来なら厳罰に処する所ですが、融合暴走の危険性があった事も鑑みて……今回は特別に不問としますが……」

 

その言葉に顔を上げる。

そんな二人を嗜めるように告げる。

 

「二度目はありませんよ?」

 

「はい……」

 

「すみませんでした……」

 

なのはとユーノが改めて謝罪する。

 

「全く、勝手にジュエルシードを分けて……」

 

壁にもたれながら、クロノ・ハラオウンがため息混じりに言う。

 

「でもまあ過半数のジュエルシードは確保したんだし、ベターな結果だったんじゃねえの?」

 

「君も叱られているんだが?」

 

反省の色を見せない垣根にジロリと目を向けるクロノ。

 

「大体、何故君もあの時首を突っ込んだんだ?」

 

「面白そうだったから」

 

「君も民間協力者という事になっているのを忘れてないか?」

 

「忘れてないよ執務官。反省してるって、すまなかったこの通りだ」

 

相変わらず薄い笑みで両手をズボンのポケットに突っ込んだまま、飄々としている。

 

「……この通りって、どの通りなんだ……」

 

思わず目を細めた。

アースラ会議室でリンディ・ハラオウンがクロノに告げる。

 

「クロノ、事件の犯人について何か心当たりが?」

 

「はい。エイミィ、モニターに」

 

「はいはーいっ」

 

別室のエイミィが答え、会議室のテーブルの中心部から立体映像が映し出され、一人の女性の写真が映る。

 

「あら……」

 

リンディはこの人物に見覚えがあるような反応をした。

クロノも知っているらしく、説明を始める。

 

「そう、僕等と同じミッドチルダ出身の魔導師プレシア・テスタロッサ。そしてあの少女フェイトは…」

 

なのはが呟くように口を挟む。

 

「フェイトちゃん、あの時『母さん』って…」

 

「親子、ね…」

 

リンディも呟き、エイミィが更に説明する。

 

「プレシアはミッドチルダの民間エネルギー企業で開発主任として勤務。でも、事故を起こして退職していますね…。裁判記録が残ってます」

 

プレシア・テスタロッサがアースラとフェイトに放った魔法は、『サンダーレイジ O.D.J』。

O.D.Jは「Occurs of DimensionJumped(次元跳躍)」の略で、術者から遠距離地点に魔法効果を発動させる『遠距離発生』と呼ぶ高難度処理である。

アースラを一時的に行動停止させるほどの威力と、威力を調整しつつ人間一人に狙い撃つ制度の両立はプレシア自身の特異スキル(条件付きSSを冠される外部供給魔力の運用技術)によって成し遂げられている。

プレシアに関する資料を一通り目を通した後、今後の打ち合わせをし解散となった。

船内の通路を歩くリンディと、その後についていくなのはとユーノ、そして垣根。

 

「プレシア女史もフェイトちゃんも、あれだけの魔力を放出した直後ではそうそう動きは取れないでしょう。あなた達も一休みしておいた方が良いわね」

 

「あ…でも……」

 

リンディの台詞になのはは言葉を詰まらせる。

気遣いはありがたいが、状況的にゆっくりする気分になれない。

そんななのはの気持ちを察したリンディは、彼女の方へ振り向いて告げる。

 

「ご家族とお友達に元気な顔を見せてあげなさい」

 

それを聞いて、ようやく同意する。

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アースラからそれぞれの位置に帰還する直前の事。

 

「あ、そーだ忘れてた。おい執務官、返すぜコレ」

 

「ああ」

 

垣根帝督は思い出したように呟くと、ポケットからカード状の待機状態のストレージデバイスを取り出し、クロノ・ハラオウンに渡す。

 

「ええ、何で垣根くんがデバイス持ってるの?垣根くんも魔導師になったの?」

 

なのはが不思議そうに声を上げる。

 

「ああ、お前等には言ってなかったな、俺にもちょっとは魔力があるらしいから以前、高町達が帰った後魔法の使い方を教わって、ストレージデバイスを借りて自宅で試しに魔法を使ってみたんだ」

 

「それでどうだった?魔法は使えたかい?」

 

「魔力があるのなら使えるはずだけど」

 

垣根はユーノ・スクライアとクロノの言葉にああ、とゆっくり答える。

 

「ダメだな。使えるといえば使える。使えないといえば使えないって感じだな」

 

「どういう事?魔法、使えなかったの?」

 

なのはがそうに言い、クロノは驚く。

 

「演算が上手くできなかったのか?魔法が使える程度はあったはずだが……」

 

「厳密には使えねえって訳じゃない。ただ使うと下手すりゃ死んじまう」

 

その言葉に驚愕する一同。

 

「……どういう事なの?」

 

少し焦ったようにリンディ・ハラオウンが問う。

 

「『精密な公式で成り立つ超科学の産物の魔法』と『脳の開発によって発現するパソコン並の膨大な演算を必要とする超能力』、同じ科学の産物でも使うエネルギーも"回路"も違う。だが、俺は超能力の回路しか使えない。なのに無理矢理魔法を使えば体に強烈な拒否反応が起きるって訳だな」

 

「じ、じゃあ……まさか」

 

驚き呻くように呟くユーノ。

対する垣根は軽い調子で答える。

 

「最初はびっくりしたぜ全く。頭が脳味噌が割れるんじゃねえかってぐらい痛むし、体中のあちこちの血管は破裂して吐血するし、内出血もするし血まみれなっちまったんだからな」

 

「ええ!?そんな!大丈夫なの!?痛いとこ無い!?」

 

驚いて垣根の体に近づき、あちこち見回すなのは。

 

「大丈夫だから今ここにいるんだろうが。傷とかは能力使って塞いだからもう何ともねえよ」

 

「便利な能力なんだな……」

 

「だろ。羨ましいか?執務官」

 

クロノは感心したように言い、それに答えて茶化すように垣根が答える。

 

「いや、いらない。背中から似合わない翼なんて生やしたくないしね。……っていい加減、僕のことは役職じゃなくて名前で読んでくれないか?」

 

「ああ、まあ別に良いぜ。クロノ」

 

「にゃ!?な、何でわたしだけ苗字なの!ユーノくんも名前呼びなのに!」

 

食いつくなのは。

しかし垣根は動じず淡々と答える。

 

「ついでに言うと執務官と艦長が同姓だからややこしいだろ?だからだ。つーか名前に関してお前ちょっとうるせえぞ」

 

「お前じゃなくてなのは!高町なのはだよ!」

 

「だから高町で良いじゃん」

 

「わたしだけ苗字呼びなのがよそよそしくて嫌なの!」

 

「俺の勝手だろ」

 

「もう!それならわたしも勝手に帝と_「馴れ馴れしい。垣根で良い」…って、もう!何かずるい!理不尽だよー!」

 

やたらと名前で呼びたがる高町なのはと、頑なになのはと呼ばず他人に自身の名前呼びを拒む垣根帝督。

この二人の漫才紛いなやり取りに、クロノもリンディもユーノも、モニター越しに見ていたエイミィも自然と苦笑していた。

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