魔法少女リリカルなのは with Dark_Matter 作:戸礼太
垣根帝督は、
その時定時連絡ついでに件の事に関しては、粉飾したレポートを提出し追加検証の要有りと認めさせ、学園都市側としても特に不都合は無いと判断された。
一方、管理局に確保された使い魔アルフとも別離状態のままのフェイトは、かつての『優しい母』の笑顔を取り戻す為に戦い続けると決意。
そんな彼女の事情をアルフを通して知った高町なのはは、改めてフェイトを救う決意を固める。
二人の出逢いのきっかけとなったジュエルシード。
その全てを賭けた決戦の時を迎える。
地面が水没した市街地を模した戦闘空間。
ユーノ・スクライアとアルフが見守る中、高町なのはとフェイト・テスタロッサが相対する。
さりげなく合流に成功した
アースラから見守るクロノ・ハラオウンとエイミィ・リミエッタ。
「戦闘空間の固定は大丈夫か?」
既に始まっている戦闘を見ながら、クロノの問いにエイミィがコンソールを叩きながら答える。
「うん、上空まで伸ばした二重結界に戦闘訓練用のレイアー建造物。誰にも見つからないしどんだけ壊してもだ~い丈夫」
「ふむ…」
軽口を交えるエイミィにクロノは相変わらず静かに対応する。
エイミィも構わず続ける。
「しかし、ちょっと珍しいね。クロノくんがこういうギャンブルを許可するなんて」
「なのはが勝つに越した事は無いけど、勝敗はどう転んでも関係無いしね」
「なのはちゃんが戦闘で時間を稼いでくれてるうちに、フェイトちゃんの帰還先追跡の準備…と」
いつも気さくで軽い調子だが、こういう所は抜かりの無い優秀な執務官補佐の彼女。
「頼りにしてるんだ。逃さないでくれよ」
「了解っ!」
と、突然何か思い出したエイミィは肩を落としてクロノに尋ねた。
「でも……、なのはちゃんに伝えなくて良いの?プレシア・テスタロッサの家族と、あの事故の事……」
心配そうに言う彼女に、彼は敢えて冷静に告げる。
「勝ってくれるに越した事はないんだ。今は、なのはを迷わせたくない」
そこへ不意に通信回線が入ってきた。
『生真面目かと思っていたが、意外とお優しいんだな執務官』
ヘラヘラと軽薄な調子で言ってきたのは、さっきまでおのぼりさんよろしくキョロキョロと訓練用戦闘空間を見回しながら能力を利用して、好き勝手に解析をエンジョイしていた垣根帝督。
「な…っ!茶化さないでほしい!」
空戦魔導師同士の戦闘は『高速で飛翔し続け、相手の攻撃アングル外から一方的に攻撃を行う』のが必勝パターンとなる。
その為には旋回速度や最高速度といった『飛行能力』、より少ない移動距離で有利な位置を取れる機動や正確な攻撃の選択と実行といった『知性と技術』が必要となってくる。
訓練を積んでいるフェイト・テスタロッサに対して高町なのはは殆どの分野においても大きく差をつけられているが、なのはの空戦機動の全ては『対フェイト戦』の為のみに積み上げられていて、彼女自身の天性の『空間把握能力』と相まって力量差を埋める空戦機動を見せている。
ぶつかり合いながら高速で飛翔する二人。
その様子を固唾を呑んで見守る一同。
いや、一人だけ笑っている。
心底面白そうに。愉しそうに。
激しくも鮮やかな空中戦闘に視線が釘付けになっていた。
暗くどんよりとしていた瞳が爛々と輝き、今だけは年相応の子供のようにはしゃいでいた。
「はっははははは!スゲェスゲェ!これが魔法か。この空間もスゲェがあいつ等もスゲェな!!」
しかし、この戦いは案外長続きはせず、なのはがフェイトを撃ち落とすような形でほぼ決着となった。
いや、厳密には、二人の決着の前に不測の事態が起きる。
不意に空模様が変わり、曇天になっていた。
紫の稲妻が走る。
『高次元魔力確認、魔力波長はプレシア・テスタロッサ!戦闘空域に次元跳躍攻撃……、なのはちゃん、ユーノくん!』
アースラからエイミィが叫ぶ。
直後、巨大な無数の紫の落雷が降り注ぐ。
フェイトはそれを一撃食らってバリアジャケット大破、デバイス破損し行動不能。
なのはも魔力を大半喪失し戦闘活動不能となった。
しかしアースラチームはプレシアの居城位置を捕捉し突入部隊が転送ポートから出動する。
任務はもちろんプレシア・テスタロッサの身柄確保。
アースラのブリッジで指揮を執っていたリンディ・ハラオウンの元に、両手を拘束された状態のフェイト・テスタロッサがなのはとユーノに連れてこられた。
使い魔アルフも一緒に無地の所謂囚人服に身を包んで。
順調にプレシア邸を制圧していく武装局員達。
「プレシア・テスタロッサ。時空管理法違反及び管理局艦船への攻撃容疑で、貴女を逮捕します」
プレシアは玉座のような椅子に座ったまま、動かない。
抵抗する素振りすら見せない。
武装局員達が包囲し更に奥へ進攻していく。
この居城の中心地を、隈無く調べる為に。
その様はアースラのメインモニターを通してなのは等も静かに見つめていた。
垣根帝督だけは相変わらず薄く笑いながら。
居城最深部は、両脇が無数のカプセルのようなものがズラリと所狭しに並んでいる薄暗い実験室のような空間だった。
その更に奥には……、
「え……?」
うつ向いてモニターを見ていないフェイトに寄り添うように立ちながら見ていたなのはが、静かに、しかし驚愕に染まった声を出す。
「へえ」
すぐ後ろで見物していた垣根は、対照的に意外そうな一方で陽気な声。
二人の声を聞いて視線の先が気になり、フェイトは顔を上げた。
目に写ったのは、最深部に保管された一個の培養カプセル。
そしてその中には、全裸の大分幼い少女が、フェイト・テスタロッサと瓜二つの少女が入っていた。
『これは……!?』
思わず固まる局員達。
いつの間にか後ろからプレシア・テスタロッサが迫っていた。
『私のアリシアに近寄らないで!!』
『ぐあッ!!』
彼女は局員の一人の頭を掴み上げ、腕力だけで投げ飛ばした。
驚愕し他の局員も僅かに後退りする。
プレシアはカプセルの中の少女を庇うように立ち塞がった。
そして強力な攻撃魔法で一瞬にして進攻してきた局員を掃討してしまう。
「アリ…シア」
フェイトが震える唇を動かして呟いた。
「あのカプセルの中身の名前かね?」
垣根帝督も静かに言った。
プレシアは、カプセルの少女に寄り添いながら言う。
『たった九個のジュエルシードでは、辿り着けるかどうかは分からないけど……。もう良いわ、終わりにする。この子を亡くしてからの時間も、この子の身代わりの人形を娘扱いするのも』
その一言にハッとするフェイト。
察しているのか、プレシア・テスタロッサはフェイトに向けて発言し始めた。
『聞いていて?あなたの事よ、フェイト。せっかくアリシアの記憶をあげたのに、そっくりなのは見た目だけ。役立たずでちっとも使えない、私のお人形』
その言葉にクロノは顔をしかめる。
もはや隠しきれないと悟ったのか、エイミィ・リミエッタが口を開いた。
「最初の事故の時にね……、プレシアは実の娘、アリシア・テスタロッサを亡くしているの……安全管理不良で起きた、魔動炉の暴走事故。アリシアは、それに巻き込まれて……」
おそらくそれが、全ての始まりであり元凶でもあった。
「その後プレシアが行っていた研究は、使い魔を超えた人造生命の生成。そして、死者蘇生の技術」
クロノが説明を引き継いだ。
「記憶転写型特殊クローン技術。『プロジェクト
『そうよ、その通り。でも、失ったものの代わりにはならなかった。作り物の命は所詮作り物。アリシアはもっと優しく笑ってくれたわ、ワガママも言ったけど私の言う事をとてもよく聞いてくれた……。アリシアは、いつでも私に優しかった……』
カプセル越しにアリシアの亡骸を撫でるプレシア。
寄り添う、というよりはすがっている彼女の姿は、哀しく、哀れで、虚しく見えた。
それだけプレシア・テスタロッサにとってアリシア・テスタロッサを喪った事はあまりにも大きかった。
大き過ぎた。
彼女は振り向き、ある意味決意を固めた視線を向けて告げる。
『フェイト、あなたは私の娘じゃない。ただの失敗作、……だからあなたはもういらないわ。どこへなりとも消えなさい!!』
驚愕と哀しみに染まるフェイトに、プレシアは敢えて、追い撃ちをかける。
『良い事を教えてあげるわ、フェイト。あなたを作り出してからずっとね、私はあなたが大嫌いだったのよ!』
その一言がトドメとなった。
手にしていたバルディッシュを落とし、膝から崩れ落ちた。
「フェイトちゃん……」
「フェイト……」
つまり、プレシアの犯行動機と目的は、事故で死亡した愛娘の『復活』。
その為に秘術が眠る地の捜索。
「ちょっ!大変!見てください!」
突如エイミィが叫んだ。
モニター写っているのは、プレシア邸内。
「屋敷内に魔力反応多数!」
無数の傀儡兵が出現していた。
今まで黙っていたリンディがプレシアに詰問する。
「プレシア・テスタロッサ、一体何をするつもり!?」
『私達は旅立つの。永遠の都アルハザードへ!この力で旅立って……取り戻すのよ。全てを!!』
プレシアの目はさっきと打って変わって輝いていた。
最後の希望を託すように。
彼女のジュエルシード九個が円を描き輝く。
「ブフッ!くくっ!」
誰かが吹き出した。
状況を把握しているはずなのに、空気も読まずに、不躾に、無礼に、場違いに、我慢できなかったと謂わんばかりに。
『……?』
プレシア含め、怪訝そうにする一同。
「くくっ、ははっ!あ、いや、わりぃわりぃ。本来は笑う事じゃねえのはこれでも分かっているんだぜ?」
ジャケット風の格好の少年、垣根帝督。
彼だけは面白可笑しそうに、笑いを必死に我慢するようにブルブルと震えていた。
『あなたは……確か、変わったスキルを操る子だったわね。
「そいつは光栄だね」
冷笑、というか嘲笑っているようなこの少年の不遜さが気に食わない。
『…敢えて訊くけど、何が可笑しいの?』
「別に。ただまあ、今の今まで娘喪ったり事故の責任取らされたり、クローン作ってまでまた絶望して屍にすがったり。そりゃぶっ壊れても仕方ねえよな。アンタにゃアンタにしか分からない、葛藤やら絶望やら、それでもこんな分の悪そうな博打に出るほど棄てられないんだろう希望やら、そういうのを想像してみたら何か憐れに思えてな。同情するぜ、可哀想になあ」
セリフとは裏腹にニヤニヤと、フェイトと変わらない年のはずの男は、誰よりも悪意に満ちた皮肉げな笑みを浮かべている。
彼の態度、そして一言一言が馬鹿にしているようにしか聞こえなかった。
それがまたプレシアの不興をそそる。
『あなたに一体何が分かるの?私とアリシアの何が分かるって言うの?私の時間も優しさも全部アリシアに_「分かる訳ねえだろ。俺はテメェじゃねえし、家族とかもっと知らねえ。……つーか、頭の良いテメェなら、どこかで本当は最初から分かってたんじゃねえの?」……何?』
プレシアのセリフを遮って垣根は好き勝手に、身勝手に言い放つ。
「記憶を移植しようが、同じ遺伝子で同じ体の人間を複製した所で死んだ本人じゃねえし、生き返る訳じゃない。どんなにテメェが思い描いた通りの人格で
そう、それは聡明な彼女自身が一番分かっていたはずだ、はずなのにだ。
死んだ人間は生き返らない。
いつの間にか、彼から嫌味な笑みは消えていた。
少なくとも『闇』で手を汚してきた垣根帝督もよく理解している。
故に、どうしようもない事を、垣根は言う。
突き付けるように。
プレシア・テスタロッサの悲しみ、苦しみ、覚悟、全ては彼女だけのものでアカの他人の自分に理解できる訳もなければ説得できるはずもない。
所詮は思った事を吐き出してスッキリしたいだけ自己満足。
それでも敢えて、彼は言う。
「どんなテクノロジー使おうが死人は生き返らない。心肺蘇生の話になるけど"心臓が止まっただけの人間と明確に死んだ人間は別物だよ。"……こんな簡単な事も分からず_いや、気づかない振りしてても分かっているから
プレシアは僅かに表情を歪めるが、無視する事にした。
『言いたい事はそれだけ?なら時間の無駄ね』
次元震が発生する。
波動係数が拡大し次元断層の危険が起き始めた。
プレシア・テスタロッサは、文字通り最後の博打に打って出た。