「あぁ……目が痛い……」
あのあと散々泣きはらした謳歌
「疲れた……なのに全然眠れない……」
個人的にはそんなに泣いてたつもりは無いのだが、皆いわく“1時間以上泣いていた”との事だった
謳歌がやっと泣き止んだあとは、皆で遊んだ
切歌が持参したカードゲームが大いに役にたった
「はぁ……綺麗だなぁ……」
共有スペースのソファーに腰掛けながら、空を眺める謳歌、今夜は満月のようだ
「月見かな?こんな時間に」
「あっ……どうも……」
同じ旅館に宿泊するアダム・ヴァイスハウプトである
「お隣よろしいかな?」
「あっ……はい……」
謳歌の隣に腰かけるアダム
「彼女は……元気にやっているかい?」
恐らく調の事であろう
「あっ……はい、……調ちゃんには助けてもらってばかりで……」
気恥ずかしそうに話す謳歌
「そうだ、これを渡しておいてくれるかい?恐らく彼女の友人の物だろう」
渡されたのは、文字が刻んであるプレートのような物
「これ……認識票ですか?てことは切歌ちゃんの……」
「脱衣場に落ちていたとティキが持ってきてね」
(ヤバい、また泣きそう……)
最近どうも涙腺が緩いようだ
「大丈夫かい……?」
ハンカチを手渡すアダム
「……ごめんなさい、何だか悲しくなってしまって……」
アダムは少し笑みをこぼしながら言う
「どうやら、彼女が言っていた通りの人物のようだ君は」
アダムが続ける
「君が昔の自分に似ている、と話していたんだ」
「はぁ……」
謳歌は困惑しながらも、相槌をうつ
「……彼女の両親の事は聞いているかい?」
「はい……お2人とももう亡くなっているって聞きました……」
「その詳細については?」
アダムがさらに問い、謳歌が答える
「はい……お父さんの方はワールドトレードセンターに居たからって言っていたので、恐らく“あの事件”で亡くなられたのかなと……
お母さんの方は、兵士だって言ってましたけど、詳しいことは聞いてません」
「そうか……彼女の母親は
フロリダ州 アメリカ空軍ハルバートフィールド空軍基地 特殊作戦コマンド 第1特殊作戦航空団 第4特殊作戦飛行隊に所属し
spookyの操縦士をしていた」
謳歌は“何か”を察した
「それじゃあ……」
「彼女の母親は、彼女の目の前で、こめかみに拳銃を放って自殺した」
言葉を失う謳歌
「最初は……彼女を殺して無理心中しようとしたんだ、居合わせた私が何とか止めたが……母親の方の自殺は止められなかった……」
「しっ、調ちゃんは……」
謳歌が問う
「彼女は強い子だ……母親の死、それも無理心中未遂で自殺という最悪の事態でも、耐えていたよ……」
「どうして心中なんて……」
謳歌は困惑している
「彼女の母親は、アフガニスタンのクンドゥーズに派兵されていた、そこで……あの事件が起こった」
●
「せっ、先輩のお母さん……?」
予想外の出来事に固まってしまったミラアルク
ミラアルクの目的地、スイスのジュネーブには国境なき医師団の本部が所在している
各国の支部の連絡窓口として機能しているジュネーブ事務局に赴き、どうにか謳歌の母親と連絡をとろうとしたのだ
その為に日本の公用旅券を発券し、青年海外協力隊の活動の一環として
国境なき医師団の活動の見学及び補助という名目の下、この地に降りたっていた
「……どうかしたの?」
「せっ、先輩!謳歌先輩のお母さんですか!?」
食いぎみに唱歌に詰め寄るミラアルク
「あなた……あの子を知っているの……?」
「うち!あなたに会うためにここに来たんです!」
ミラアルクが言う
「そう……じゃあ日本から来る青年海外協力隊員っていうのはあなたのことね……」
「はい!そういう名目になってます!」
そう言って慌てて口を塞ぐミラアルク
「そう……理事長先生ね……?こんなこと大っぴらに出きるのは……」
そう言って唱歌は続ける
「それで?私に会って何をしようとしていたの?あの子に引き合わせるつもりでいたのかしら……?」
「どうして……連絡とらないんですか?」
ミラアルクが尋ねる
「何でって……あなたも知っているのでしょう?私があの子に何をしたのか、私にはあの子に会う資格なんて無いの……」
「本当に会いたくないんですか……?」
ミラアルクが尋ねると、唱歌は食いぎみに答える
「会いたいわよ!今すぐ会って抱き締めてあげたい……けれど、その事によってあの子が苦しむくらいなら、私は一生あの子に会わないわ
それに……きっと私は恨まれてるから……」
唱歌の目には次第に涙がたまっている、まるで謳歌のように
「そんな事ないと思います……」
「何を根拠に言っているの!?変な慰めはやめて!」
唱歌が叫ぶ
「…………」
ミラアルクは、その場で服を脱ぎ始める
「なっ、何をしているの……」
完全に一糸まとわぬ姿になると、くるりと背を向けるミラアルク
「あなた……それ……」
唱歌は直ぐに気がつく
「うちは、先輩に助けられました」
ミラアルクは事故にあった事、謳歌に救われた事、皮膚を提供してもらった事等自分が知り得る事をできる限り話した
「そっ、そう……とりあえず……服を着ましょう?ね?」
恐らく勢いで脱いでしまったのだろう、状況を確認すると、恥ずかしそうに服を着るミラアルク
「…………」
「…………」
少し気まずい空気が流れる
「……話してくれてありがとう、あの子の事は全然知らないから……」
切り出す唱歌
「これ……」
ミラアルクは部屋にあったバックを手元によせる
「このバック、先輩も同じ物持ってて……分かりますか?」
「! そう……」
そう言って、目に涙をためる唱歌
「……それは、あの子に最後にあった時に置いてった物なの……」
謳歌が肌身離さず持ち歩いている、国境なき医師団のエンブレムが入ったメディカルバックであった
「先輩、これいつも持ち歩いてて……気にはなってたんですけど……」
「謳歌……」
涙を流す唱歌
(似てるなぁ……先輩に……やっぱり親子なんだなぁ……)
「どうですか?一緒に日本に来てくれませんか?」
唱歌に問うミラアルク
「そうね……彼との約束も果たさないといけないしね……」
唱歌は義足を見つめながら物思いにふける
●
突如轟音が鳴り響く
「何!?」
飛び起きる唱歌、時計は午前2時を少しまわっていた
ここはアフガニスタン北東部に位置する唯一の外傷治療施設
国境なき医師団クンドゥーズ外傷センターである
『ショーカ!大変だ!』
飛び込んで来たのは、現地の医療スタッフの男性
『攻撃されてる!多分米軍のAC-130ガンシップだ!!』
『そんな!ついこの間座標を送ったばかりじゃない!!』
クンドゥーズの戦いの最中、戦況が激化したことに伴い、つい先日に米軍とアフガニスタン政府、イスラム原理主義勢力の両陣営に、
病院の正確な位置をGPS座標で送信したばかりであった
『病棟が空爆されてるんだ!!どうすれば……』
『落ち着いて!直ぐに米軍とアフガン政府にコンタクトを取って!動ける人達はとにかく避難して!急いで!!』
戦闘地域における病院施設への攻撃は、たとえ施設が
「人道的機能以外で使用されており、敵にとって有害な活動に関与していても」
国際人道法により禁止されている
『どうしたんだ!?』
唱歌に声をかけたのは、2ヶ月ほど前に倒れていた所を病院に担ぎ込まれていたノルウェー軍のNATO派遣兵であった
足を骨折していたが、今は支障なく歩けるまで回復しており、原隊に復帰するまで病院の手伝いを志願し、唱歌と共に行動していた
『病棟が空爆されてるの!!早く患者さん達を避難させなきゃ!!』
『何だって!?そんなバカな……』
再び轟音が轟く
『おかしい……まだコンタクトは取れないの!?』
この攻撃が、仮に誤りによる物であったとしたならば、直ぐに何らかのコンタクトがあるはずだ
しかしながら、初弾の着弾から既に5分以上経過しているのにも関わらず、空爆は収まるどころか激しさを増していた
『意図的に攻撃しているの……!?』
『あり得ない!完全に機能している病院施設に無警告で攻撃するなんて!』
とにかく今は、一刻も早く患者を避難させなければならない
攻撃が命中した病棟は、大パニックに陥っていた
『動ける人は自力で避難させて!!今は動けない人を優先し……きゃあ!!』
また着弾したようだ
『ダメだ!戻るんだ!!』
あの兵士の声が聞こえた、先ほどの爆撃で何名か外に飛び出したようだ
次の瞬間、飛び出した数名は、ガンシップの機銃掃射を受け、絶命した
中には子供が1人いた
『そんな……』
呆然と立ち尽くす唱歌
『しっかりしろ!!ここはもう持たない!この人達を連れて裏から脱出するんだ!!』
あの兵士の声である、振り返ると恐怖に歪んだ表情の人々がいる
『…………!!』
唱歌は自分の頬を叩く
『ごめんなさい、あなたも一緒に行きましょう!』
『いや、もう少し病棟を見回る』
兵士の発言に異を唱える唱歌
『駄目よ!逃げるべきだわ!』
『議論している余裕は無い!これを』
兵士が手渡したのは、1枚のドックタグ
『もし戻らなかったら、これを娘に』
兵士には、日本人の妻との間に産まれた娘がいると聞いていた
『娘がもう1枚を持っている
名前は……キリカだ
さぁ!もう行くんだ!!』
兵士はそう言い残し、病棟の奥へ消えていった
『ちょっと……!くっ!』
もう一刻の猶予も無かった
『みんな行きましょう!出きるだけ体を低くして!』
唱歌は病棟からの脱出に成功したが、途中足に機銃の掃射を受け、膝から下を切断する重傷を負った
そして兵士は戻ってこなかった
空爆による最終的な被害は、22名が死亡し、30名以上が負傷、34名が行方不明のままになっており
行方不明者の中には兵士が含まれている
●
「そうね……分かったわ」
「えっ!?それじゃあ……」
ミラアルクは問う
「えぇ、行きましょう日本へ、その代わり……
色々あなたに頼ってしまうかも知れないけど……」
「もっ、もちろんです!何でも言ってください!」
日本へ
時間がかかってしまいました・・・
次も頑張ります・・・
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ご指摘ご感想等ありました、何でも構いません、お寄せ下さい