リディアン音楽院の問題児   作:dedicates545

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 がんばります


When one door shuts, another opens.

 

 

 ミラアルクは混乱していた

 

 

 鳴り止まない銃声、倒れていく客たち

 

 

 

「…………み、……きみ!!」

 

 

 

 ”ハッ”と我に帰るミラアルク、いつの間にか銃声は止んでいた

 

 

 

「……あれ……?」

 

 

「大丈夫かい?怪我は?」

 

 

 

 横を向くと、アジア系の男性が英語で呼び掛けていた

 

 

 

「気がついたのね、良かった……」

 

 

 

 聞き覚えのある声に振り向く

 

 

 

「記憶が混乱してるみたいだ」

 

 

「えぇ……無理もないですね……」

 

 

 

 ミラアルクの目に飛び込んで来たのは、左上腕に包帯をグルグル巻きにした唱歌の姿であった

 

 

 その腕からは血がにじみ出、包帯を染めていた

 

 

 その瞬間、記憶が“ぶわっ”と蘇った

 

 

 顔面蒼白になるミラアルク

 

 

 

「大丈夫よ……もう彼らはここにはいないわ……」

 

 

 

 パニックになりそうだったが、唱歌に抱き締められなんとか平静を保つことができた

 

 

 

「ごめんなさい……またうち助けて貰って……」

 

 

「もう……良いっていってるでしょ、それに千切れてなければどうとでもなるから」

 

 

 

 微笑を浮かべながら話す唱歌

 

 

 

「全然笑えないっす……」

 

 

 

 街は異質なざわめきに支配されている、人々は皆錯綜する情報に混乱しているようであった

 

 

 夜の街には、けたたましいサイレンの音が響き渡っている

 

 

 

 

「あの•••ここは•••」

 

 

「あの後••息がある人達と逃げて来たのよ••途中でまた銃声が聞こえて、近くの宿の人が中にって言ってくれてね」

 

 

 

 ミラアルクは、まだ思考が追い付いていないようであった

 

 

 

「何が•••何が起こったんですか•••」 

 

 

 

 弱々しく尋ねるミラアルク

 

 

 

「分からないわ••ただ騒ぎが起きているのはここだけじゃ無いようなの•••」

 

 

 

 唱歌が言い終わるのを待って、先程話しかけて来たアジア系の男性が再び話しかけて来た

 

 

 

「日本人の方ですか?」

 

 

「あっ•••えっと•••」

 

 

 

 ミラアルクが言葉に詰まっていると、唱歌が代わりに答える

 

 

 

「えぇ、私は日本人です、この子はオーストリアの出身ですが、今はご家族の仕事の都合で日本で暮らしているんです、謳••娘の友人です」

 

 

「そうでしたか••私も製薬会社に勤めてまして、パリの支社に転属になったんです•••」

 

 

 

 男性に改めて礼を言う唱歌

 

 

 

「ミラアルクちゃん、この方が助けてくれてあの場から逃げることが出来たの」

 

 

「あっ••そうだったんですね••ありがとうございます•••」

 

 

 

 ミラアルクは頭を下げる

 

 

 ロビーに逃げてきた人達に、宿の従業員たちが温かいスープを配っている

 

 

 

「どう••?少し落ち着いた?」

 

 

「はい••」

 

 

 

 ミラアルクの背中をさすりながら、唱歌は尋ねる

 

 

 

「しかし•••よくあの時とっさに動けましたね•••とても素人の動きでは無いと思いましたが•••」

 

 

 

 店内に銃弾が打ち込まれた時、とっさにミラアルクを庇い床に倒れ込んだが、左腕を撃ち抜かれてしまった

 

 

 もちろん唱歌は、紛争地帯への派遣経験も何度もあったし、大抵の事では動じないようになっていたが、状況が違いすぎる

 

 

 武器や、ましてや防弾ベストなど着用していない

 

 

 撃たれる!そう思った瞬間だった

 

 

 襟首を掴まれ、2人は物陰に引きずりこまれる

 

 

 見上げると、1人の男性がいた

 

 

 

「えぇ•••教練がまだ体に染み付いていたようですね、実は以前陸上自衛隊に所属しておりまして」

 

 

「そうでしたか••どうりで」

 

 

 

 男性は続ける

 

 

 

「実は••ガンを患いまして傷病除隊したんです、幸い完治したのですが、その時使用した薬の製薬会社が今の職場でして」

 

 

 

 そして、男性はミラアルクの方を振り向き尋ねる

 

 

 

「つかぬことをお伺いしますが•••以前どこかでお会いした事はありませんか?」

 

 

「えっ•••いや•••」

 

 

 

 突然の問いかけに、とっさにそう返すミラアルク

 

 

 男性の顔に見覚えなどないし、明らかに初対面だ

 

 

 ましてや元陸上自衛隊員に知り合いなど••

 

 

 

「陸上自衛隊におられたんですよね•••?」

 

 

「えぇ、埼玉の大宮駐屯地に所属しておりました」

 

 

 

 ’大宮駐屯地’聞き覚えがあった

 

 

 あの時の事故で救助にあたった部隊

 

 

 何だったか、ミラアルクは熱心に謳歌が説明してくれたのを思い出す

 

 

 

「化学防護隊••••」

 

 

 

 ミラアルクが、そう‘ボソッ’と呟いた単語に、男性が反応する

 

 

 

「ご存知ですか!?私もその部隊にいたんです」

 

 

「あの•••うち、小さい頃事故にあって••タンクローリーが横転して••その時そこの人達に助けられたんです」

 

 

 

 ミラアルクが言うと、男性が答える

 

 

 

「あぁ!あの時の女の子ですね?思い出しました!どおりで見覚えがあると思ったんです」

 

 

 

 男性は続ける

 

 

 

「良かったです、お元気そうで••」

 

 

「はい•••お陰さまで今はほとんど傷も残ってないです•••」

 

 

 

 男性に礼を言うミラアルク、するとおもむろに男性が、懐から手帳のような物を取り出す

 

 

 

「妻と娘を日本に残して来ているんです、•••丁度娘はあなたと同じくらいなんです」

 

 

 

 男性はそう言うと、手帳の中から写真のような物を取り出す

 

 

 

「自慢の娘なんです」

 

 

 

 そう言いながら、写真を見せる男性

 

 

 ミラアルクは写真を一瞥する

 

 

 

「えっ•••?」

 

 

 

 写真には男性とその妻、そしてよく見る顔が写っていた

 

 

 

「ピアノが上手なんです、今は音楽学校に通っていて••」

 

 

 

 写真には、いつもの優しげな笑顔を見せる、小日向未来の姿があった





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