がんばります
ミラアルクは混乱していた
鳴り止まない銃声、倒れていく客たち
「…………み、……きみ!!」
”ハッ”と我に帰るミラアルク、いつの間にか銃声は止んでいた
「……あれ……?」
「大丈夫かい?怪我は?」
横を向くと、アジア系の男性が英語で呼び掛けていた
「気がついたのね、良かった……」
聞き覚えのある声に振り向く
「記憶が混乱してるみたいだ」
「えぇ……無理もないですね……」
ミラアルクの目に飛び込んで来たのは、左上腕に包帯をグルグル巻きにした唱歌の姿であった
その腕からは血がにじみ出、包帯を染めていた
その瞬間、記憶が“ぶわっ”と蘇った
顔面蒼白になるミラアルク
「大丈夫よ……もう彼らはここにはいないわ……」
パニックになりそうだったが、唱歌に抱き締められなんとか平静を保つことができた
「ごめんなさい……またうち助けて貰って……」
「もう……良いっていってるでしょ、それに千切れてなければどうとでもなるから」
微笑を浮かべながら話す唱歌
「全然笑えないっす……」
街は異質なざわめきに支配されている、人々は皆錯綜する情報に混乱しているようであった
夜の街には、けたたましいサイレンの音が響き渡っている
「あの•••ここは•••」
「あの後••息がある人達と逃げて来たのよ••途中でまた銃声が聞こえて、近くの宿の人が中にって言ってくれてね」
ミラアルクは、まだ思考が追い付いていないようであった
「何が•••何が起こったんですか•••」
弱々しく尋ねるミラアルク
「分からないわ••ただ騒ぎが起きているのはここだけじゃ無いようなの•••」
唱歌が言い終わるのを待って、先程話しかけて来たアジア系の男性が再び話しかけて来た
「日本人の方ですか?」
「あっ•••えっと•••」
ミラアルクが言葉に詰まっていると、唱歌が代わりに答える
「えぇ、私は日本人です、この子はオーストリアの出身ですが、今はご家族の仕事の都合で日本で暮らしているんです、謳••娘の友人です」
「そうでしたか••私も製薬会社に勤めてまして、パリの支社に転属になったんです•••」
男性に改めて礼を言う唱歌
「ミラアルクちゃん、この方が助けてくれてあの場から逃げることが出来たの」
「あっ••そうだったんですね••ありがとうございます•••」
ミラアルクは頭を下げる
ロビーに逃げてきた人達に、宿の従業員たちが温かいスープを配っている
「どう••?少し落ち着いた?」
「はい••」
ミラアルクの背中をさすりながら、唱歌は尋ねる
「しかし•••よくあの時とっさに動けましたね•••とても素人の動きでは無いと思いましたが•••」
店内に銃弾が打ち込まれた時、とっさにミラアルクを庇い床に倒れ込んだが、左腕を撃ち抜かれてしまった
もちろん唱歌は、紛争地帯への派遣経験も何度もあったし、大抵の事では動じないようになっていたが、状況が違いすぎる
武器や、ましてや防弾ベストなど着用していない
撃たれる!そう思った瞬間だった
襟首を掴まれ、2人は物陰に引きずりこまれる
見上げると、1人の男性がいた
「えぇ•••教練がまだ体に染み付いていたようですね、実は以前陸上自衛隊に所属しておりまして」
「そうでしたか••どうりで」
男性は続ける
「実は••ガンを患いまして傷病除隊したんです、幸い完治したのですが、その時使用した薬の製薬会社が今の職場でして」
そして、男性はミラアルクの方を振り向き尋ねる
「つかぬことをお伺いしますが•••以前どこかでお会いした事はありませんか?」
「えっ•••いや•••」
突然の問いかけに、とっさにそう返すミラアルク
男性の顔に見覚えなどないし、明らかに初対面だ
ましてや元陸上自衛隊員に知り合いなど••
「陸上自衛隊におられたんですよね•••?」
「えぇ、埼玉の大宮駐屯地に所属しておりました」
’大宮駐屯地’聞き覚えがあった
あの時の事故で救助にあたった部隊
何だったか、ミラアルクは熱心に謳歌が説明してくれたのを思い出す
「化学防護隊••••」
ミラアルクが、そう‘ボソッ’と呟いた単語に、男性が反応する
「ご存知ですか!?私もその部隊にいたんです」
「あの•••うち、小さい頃事故にあって••タンクローリーが横転して••その時そこの人達に助けられたんです」
ミラアルクが言うと、男性が答える
「あぁ!あの時の女の子ですね?思い出しました!どおりで見覚えがあると思ったんです」
男性は続ける
「良かったです、お元気そうで••」
「はい•••お陰さまで今はほとんど傷も残ってないです•••」
男性に礼を言うミラアルク、するとおもむろに男性が、懐から手帳のような物を取り出す
「妻と娘を日本に残して来ているんです、•••丁度娘はあなたと同じくらいなんです」
男性はそう言うと、手帳の中から写真のような物を取り出す
「自慢の娘なんです」
そう言いながら、写真を見せる男性
ミラアルクは写真を一瞥する
「えっ•••?」
写真には男性とその妻、そしてよく見る顔が写っていた
「ピアノが上手なんです、今は音楽学校に通っていて••」
写真には、いつもの優しげな笑顔を見せる、小日向未来の姿があった
どうか感想、ご意見を•••
次もがんばります