謳歌は全身が総毛立つような感覚を感じた
「? 皆どうしたの……?」
マリア以外の全員が固まってしまった
ガシャン!
後ろで何かが割れる音が聞こえた
「あっ……悪い……」
キャロルが手を滑らせ、コップを割ってしまった様だ
「大丈夫!?」
マリアが立ち上がり駆け寄る
「大変!指切ってるじゃないの!」
その言葉を聞いた謳歌は、反射的に動いていた
「見せて」
謳歌は、メディカルキットを取り出し手当てする
(すごく手際が良いわ……)
マリアがそんな事を考えていると、不意に謳歌が話かける
「それにしても珍しい名字ですね!そのご夫婦!」
「えっ、えぇ、私もその時以来お会いしてはいないのだけれど、お元気にしてるかしら……」
「……少なくとも死んではいませんよ、
きっと……」
謳歌の言葉を聞き取れずに、マリアは聞き返す
「ん?ごめんなさい、今なんて……」
「きっとお元気ですよ!」
マリアはふと思う
(この子、こんなにハキハキ話す子だったかしら……)
「はい、これで大丈夫」
謳歌はキャロルの手当てを終える
「あっ、あぁ……悪いな」
妙な緊張感が、部屋に漂っている
「さぁ皆!名残惜しいけど夜も遅いしそろそろお開きにしよ!」
「そっ、そうですね!ほら響も沢山食べたんだから片付け手伝って?」
謳歌の問いかけに未来が答える
「あの……」
調が謳歌に何か言おうとしている
「調ちゃん、大丈夫だから」
謳歌はそう言うと、台所に行ってしまった
「皆今日はありがとう、本当に楽しかったわ」
「マリア!折角だから泊まって行くデス!」
別れ際、切歌がマリアに提案する
「ありがとう切歌、でも今日中に飛行機に乗って帰らないといけないの」
「そうデスか……残念デス……」
切歌はしゅんとしている
「また帰って来るわよ」
マリアは優しく切歌の頭を撫でる
「マリア、また連絡するから」
「調も元気でね」
マリアは皆それぞれに言葉をかけると、部屋を後にする
「行っちゃったデス……」
ふと未来が異変に気付く
「謳歌さん……?」
謳歌が胸を抑えながらフラフラしている、呼吸も早くなっているように見える
「おい!謳歌!?」
クリスが慌てて謳歌に駆け寄り、身体を支える
「ごめっ、だいじょっ、ぶっ、だかっ、ら……」
謳歌はそう答えるが、益々呼吸が早くなって苦しんでいる
終いには、そのままクリスに身体を預けるように倒れこんでしまった
「謳歌さん!!」
「響さん!誰か呼んできて下さい!」
「わっ、分かった!!」
依然謳歌の呼吸は乱れ、苦しんでいる
「おい!謳歌!しっかりしろ!」
5分後、響が戻って来た
「ウェル先生、早く!」
「はぁはぁ……一体なんだって言うんだ」
響はウェルの腕を引っ張り、部屋に引き入れる
「!? ……いつからこんな状態だ!?」
「5分位前からです!」
ウェルは謳歌の隣に腰をおろす
「アナフィラキシーでは無いな……おい!聞こえるか!?」
ウェルは謳歌に問いかける
「今君は過呼吸の状態だ、応急処置は自分でわかるな!?」
謳歌は微かに頷く
「謳歌!謳歌!!」
クリスは若干パニックになっていた
「おい!側にいる君がそんなのでどうする!今一番苦しいのはこの子なんだぞ!」
ウェルの一喝に、クリスは目を据え、謳歌に声をかけ続ける
「そうだ、ゆっっくり息を吐くんだ」
20分程経つと、謳歌の呼吸は正常に戻った
「良かった……」
一同胸を撫で下ろす
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
謳歌はうわ言の様に呟いている
「大丈夫だ、大丈夫だから……」
クリスは謳歌を抱き抱え、ベッドに運ぶ
「今日はこのまま寝かせておくんだ」
謳歌をベッドに運んだ後、一同はウェルに事情を説明した
「ってことがあって……」
ウェルは苦虫を潰したような顔をしている
「チッ、面倒だな……」
「先生……」
ウェルはクリスに尋ねる
「何故もっとよく注意しなかった?」
「はい……」
「彼女にとって両親の話題はタブーだ、こうなる事は予想出来たはずだ」
ウェルはさらに続ける
「君だって覚えているだろう……12年前、彼女の両親が一度だけこの学院に来たときの事を……」
クリスは押し黙っている
「あの……」
「何だね?」
調がウェルに問いかける
「その話、詳しく聞いても良いですか……?」
「……まぁ良いだろう」
ウェルは語りだす
●
「もう帰られるんですか……?まだ1週間ですよ?」
新築中の校舎の1角、既に完成している教室棟の一室に、風鳴弦十郎と謡詠吟謳歌の両親の三者がいる
「申し訳ありません、次の任地が決まっているんです」
父がそういった、謳歌は今、教室の戸の外でクリスと共に聞き耳を立てている
「なー、おーか、おじさん達なにはなしてるんだ?」
「しー、クリス静かにしてて」
1週間前に両親が突然帰ってきた、それまで謳歌は両親にあった事はなく、両親の写真や仕事について弦十郎から聞いていた
「……お仕事がお忙しいのは理解しています、しかしもう少し何とかならんのですか……?」
「申し訳ありません……あの子をお任せしたきりになってしまって本当に感謝しております」
母がそう言うと、父も一緒に頭を下げる
「おーか、はやくおてがみわたしてあそぼーよ」
謳歌は両親に宛てた手紙を持参していた
「次はどちらに?」
「はい、2人ともクロアチアです」
父がそう言うと、母が続ける
「私はザグレブに、彼はプレヴラカ半島の武装解除監視団へ従軍予定です」
母は話終わると、意を決したように弦十郎に問いかける
「1つお聞きしたい事があります……」
「何でしょうか?」
母が口を開く
「あの子は、私達の事を恨んでいるでしょうか……」
「なっ、何を言ってるんですか!!」
弦十郎が大きな声を出す
「1週間一緒に過ごしました……あの子が何を考えているのか分からないんです……」
扉越しに、母が泣いているのを謳歌は気付いた
「何か欲しい?どこかに行きたい?と聞いても、いつもあの子は“大丈夫です”って言うんです
いつも敬語で話をするんです……
あの子が唯一私に望んだ事が“怪我をした時の応急処置の仕方を教えて欲しい”って……
きっと私の事を恨んでいるんです……
だから当て付けの様にあんなことを望んだんです……
……最後まで“お母さん”って呼んではくれなかった
あの子が何を考えているのか分からない、恐ろしいんです……」
「奥さん!考え過ぎです!第一まだ初めて会って1週間しか経っていないんですし……」
弦十郎がフォローを入れる
「……私はろくにあの子に母親らしい事を出来て居ません、こんな思いをさせてしまう位なら、あの子を産んだのは間違いだったのかもしれません……」
「おい君!」
父が母を諌めるように言う、そして弦十郎はまた大声をあげた
「おいあんた!いくらなんでも言って良い事と悪い事があるだろ!!」
謳歌は持っていた筆箱を落としてしまう
ガシャン!
静寂に包まれた校舎の廊下に、大きな音が響きわたる
「おーか、おちたよー?」
クリスの言葉に謳歌は反応しない
「おーか!おちたってば!」
その時、ガラッ!と扉が開く
「謳歌……?」
父と母であった
「謳歌……まさか今の話を……」
謳歌は激しい息苦しさを感じていた
「謳歌!違うの!私がどうかしていたの……!」
母は謳歌に手を伸ばす
謳歌は反射的にその手を払ってしまう
「謳歌……?」
「ごめんなさい……」
謳歌の息苦しさは頂点に達していた
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
謳歌は踵を返すと、全速力で駆け出した
とにかくこの場から一刻も早く離れたかった
このままでは息が出来なくなって死んでしまう
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
とてつもない恐怖を、謳歌は感じていた
●
「その後僕の所に駆け込んで来てね、まぁその時も過呼吸の状態だったんだがね、あれ以来両親の話題が出るといつもこうだ」
ウェルがため息混じりに言う
「それ以来、あの子は口癖のように“ごめんなさい”“大丈夫”と言うようになったんだ
無意識の内に我慢する事を覚えてしまった
そして、自分の心を騙し続けた結果がこれだ」
「……どうにかならないんですか?」
調が尋ねる
「まぁこのままの状態が続けば、間違い無く最初に心が壊れるだろうね」
「そんな……」
一同は押し黙っている
「まぁストレスを極力掛けないようにする事が1番だな、後はあの子が出来なかった事、したい事をさせるのが良いだろう、無意識とは言え今までの“我慢”は相当な物だろうからね」
ウェルの言葉に、一同思慮する
「あの……提案なんですが……」
調が発言する
「旅行とかどうですか……?行った事無いんですよねそういうの……」
「なるほど……良いかもしれないね」
調の提案に、ウェルが賛同する
「しかしそんな急に旅行なんて出来ないだろ……」
キャロルが言う
「それもそうだね……」
振り出しに戻るかと思われたその時、ウェルが口を開く
「手ならあるぞ」
「!? どんな手ですか!?」
調が問う
「雪音クリス、君が頼めば良いだろ?」
「へっ?頼むって一体誰に……あっ!」
クリスは何かに気付く
「居るじゃないか、自分の孫に会えないからって君たちに甘々な人がさ」
クリスは部屋を出る
「ありがとうございます!頼んでみます!」
クリスは駆けていく
鬱展開で申し訳ないです・・・
次回からは明るく書けると思います・・・
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本当にありがとうございます・・・
次回も頑張ります・・・
ご指摘、感想、ご質問等々、何でも構いません、
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新しい作品書いても良いですか・・・?(詳細は19話あとがきをご覧下さい)
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