赫星の先へ   作:大挑発

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初投稿ではありません。


魔王、あるいは死神。

 

 

 

 

 

 

 

正午少し前の龍歴院。

気持ちのいい風が頰を撫で、チーズの良い香りが運ばれて食欲を煽る。

目の前に鎮座された料理の皿をぼんやりと眺めながら、私は目の前の女に思考を巡らせていた。

 

得体の知れない骨の装甲に身を包み、鎧の下からは不気味な赫い光が放たれている。

屍でできたような巨大な剣を背負い、どんな怪物でも一刀両断にするその膂力。地獄の底から這い出てきたような死の臭い。

 

巷では"魔王"だの"悪魔"だの"死神"だのと鼻で笑いたくなるような異名で呼ばれ、ヒトを超えた"化け物"として恐れられる狩人。

 

それが私の相棒———狩人ローラだった。

 

 

実際その実力は他の追随を許さない圧倒的なものであり、空の王者だろうが大海の覇者であろうが知ったことではない。

古龍級生物、果ては古龍そのものすら討伐した経験もある。

 

私とて少し前は天才だの神童だのと持て囃された狩人だったのだが……彼女と出会ってから上には上があると痛いほどに思い知らされてしまった。

 

「おい?おい……何を考え事してんだよ、レイン」

 

「何って、貴女のことを……って何言わせてんですか!」

 

「勝手に自爆したのはお前だろ。というか飯冷めるから早く食えって」

 

「余計なお世話!猫舌なんですよ!」

 

……なのだがこんな調子の彼女を見ていると、そんな噂も実力も実は幻なのではないかと思ってしまう。

 

タンクトップ型のインナーから覗く肌は健康的に白く輝き、布の下からでも鍛え上げられた身体が力強さを主張している。

何より目を引くのは紅よりなお赫い髪。無造作に伸びた赫い髪は道ゆく人々の目を奪い、同時に恐れさせていた。

 

私はこの赫い髪が少し好きで、少し嫌いだった。

 

冷ましたチーズフォンデュをかきこむように飲み込むと、ビールを飲み干して机に叩きつける。

この一杯がたまらない、なんて今は亡きお父様なら言っただろうけど生憎私はまだそこまで歳を食っていない。

 

「で、今日の依頼は何だって?」

 

「えー……うわっなんですかこれ。砂漠で鎧裂ショウグンギザミ、燼滅刃ディノバルド、怒り喰らうイビルジョーの狩猟ですって!」

 

「なんだってまたそんな面倒くさい依頼が出てきてんだよ……」

 

ローラは大きいため息を吐きながらビールを飲み干している。

ため息を吐きたいのはこっちだ。何せこんな化け物とコンビを組んでるせいで毎回毎回馬鹿げた依頼ばかりがギルドから回ってくるのだから。

死にかけたのだってもう1回や2回では済まされない。

 

「最近二つ名個体や古龍級生物の案件が多いんですよねえ……未発見の古龍種の影響なんじゃないかーみたいな噂もありますね」

 

「ここ1週間だけでもう何体二つ名持ちを狩った事やら……まあ金はちゃんと貰ってるからいいけどさ」

 

5年前にハンターデビューしたとは思えない程の実力を持つローラは当然金も相当溜め込んでいる……ようなのだがどうも慎ましい暮らしが好みなのか豪邸に住んでるとかシェフを雇っているとかそういうことは無い。

 

「あれこれ言っても仕方ないな。行くならさっさと行くぞ、準備しろ準備」

 

「はいはい。わかってると思いますけどアイテム忘れないでくださいよ?」

 

「初心者じゃあるまいし間違えるかっての。それにアイテムなんざ無くても狩りはできるだろ?」

 

「それは貴女だけです!」

 

驚くなかれ、クーラードリンクとホットドリンクを間違えるなんてしょっちゅうで、何なら回復アイテムすら一つも持って行かなかった時もある杜撰さである。

それでもどんな相手でも生きて帰ってきてしまうのがこの女なので、それも仕方ないかも知れないが。

 

あまりにも自分の命に頓着が無さすぎて私の方がヒヤヒヤしてきてしまうので、この3年間何度でも口煩く説教をかましてきた。

……効果の程は推して知るべし、だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後、彼女はいつもの不気味な装甲を着込み、頭のヘルムだけを外した格好で飛行船乗り場に居た。

 

「遅かったな。どうせまた装備選びで困ってたんだろ?」

 

「悪かったですね!複数狩猟では気を使うんですよ、貴女と違って」

 

「無駄に武器も防具も増やしすぎなんだよ。その点私はこいつらだけだからな、楽で良い」

 

彼女とコンビを組んで3年経つが、彼女がこの武器、この防具以外を用いているところを見たことがない。

それぞれ防具は『骸装甲』、武器は大剣『白骸巨剣コルレオニス』というらしい。

素材元も製造技術も意味不明な装備である。

 

対して私は数多くの二つ名モンスター達から作られた武器・防具群から用途に合ったものを選んで使うスタイルであり、彼女とは正反対とも言える。

 

今回選んだのは防具『白疾風』と双剣『極・金狼牙双刃【迸】』。

白疾風ナルガクルガ、金雷公ジンオウガの素材から作った、どちらも一級品の武具だ。

 

 

「んじゃまぁさっさと行くぞ。出発時間も近いしな」

 

「そうですね。……ところで、アイテムは?」

 

「……あ」

 

「『あ』ってなんですか!?」

 

 

相変わらず世話の焼けるパートナーを急いで雑貨屋に走らせ、戦う前から汗だくになりながらなんとか出発の時間には飛行船に乗り込むことができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

荒くなった息がようやく収まってしばらく。

珍しく無言で席に座ってボーッとしているローラが気になって、顔を覗きこんだ。

 

「……なんだよ」

 

「いえ、なんかやけにボーッとしてるなぁと」

 

ボーッとしているのはいつものことではあるが、こんなふうに憂鬱そうな表情は初めて見た気がした。

いつもは何も考えていない顔だが、今日の彼女は何か考え込んでいる様に見えた。

 

「別に。ちょっと空を見てただけ」

 

「空?確かに良い天気ですけど……」

 

窓を覗けば龍歴院はもう遥か遠く、豆粒みたいな大きさになっていた。

 

「そうじゃないよ。今日が命日だったなってさ」

 

「あ……」

 

義父(ライズ)は空が大好きだったからな。何せそれだけでG級まで昇り詰めちまうとは、アイツも大概頭がイカれてた」

 

ローラの義父、ライズ。

古龍殺しを成し遂げ"流星"なんて二つ名まで持っていた凄腕のハンターだ。

 

龍識船の発展を誰よりも強く願い、誰よりも篤く支援していたと言うが———5年前、突如出現した古龍『オストガロア』の討伐にたった2人で向かい、もう1人を逃して命を落としたという。

 

もう1人というのはローラの義母ラネルのことである。

 

10年前、2人はとある村を襲撃した———当時はまだ正体不明だった———オストガロアを撃退し、たった1人の生き残りを養子として迎え入れたという……それがローラだ。

 

義母(ラネル)は今何してんだかわからないけど、まぁ多分相変わらずあっちこっち飛び回って狩りに熱中してるんだろうな」

 

「……」

 

何か踏み込んではいけないところに踏み込んでしまったような気がしてならなかったが、もうどうにもならないので諦めることにした。

 

「……言ってくれたら今日のクエストはお休みにしたのに」

 

「別に良いさ。アイツ、妙なところで死んじまったせいで墓も作れてないからな」

 

そう言うと、ローラは苦笑してまた視線を窓の外に戻す。

拾われる前は捨て子だったというローラにとっては、その2人が唯一の家族だったのだから、心中察するに余りあるというやつだ。

 

彼女の表情にほんの少しの寂しさが差していることに気がついたのはその後だった。

3年間一緒にいた私でも初めて見るその表情に、少し困惑したけれど納得もできた。

 

……私とて家族を失う悲しみは知っているのだから。

 

「じゃあ、今日のクエストは絶対にクリアしなきゃですね」

 

「……そうだな」

 

ローラは少しだけ微笑むと、傍らに置きっぱなしにしていた頭防具を取り付け始めた。

 

 

 

到着は近い。

日差しが容赦なく照りつける、果ての見えない見渡す限りの砂地。

フライパンの上のように暑いその大地に、飛行船はゆっくりと降り立っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、じゃあもう一回確認しますけど今回の狩猟対象は鎧裂、燼滅刃、イビルジョー飢餓の三体です」

 

「分かってるよ。マメな奴だな」

 

 

既に死傷者16名、行方不明者3名の被害が確認されている。

……行方不明3名というのは間違いなくイビルジョーによる捕食だろう。

 

生存者も鎧裂に腕を切り落とされたり、燼滅刃の爆発がトラウマになって大きい音に過剰反応する様になってしまったという。

 

一般の旅人や商人が奴らに遭遇して生き残れただけマシというものだが。

 

「まずは燼滅刃から倒しましょう。鎧裂の行動範囲はおおよそ地底洞窟付近に限られるでしょうし、観測隊によるとイビルジョーも現在この近辺では確認されていないらしいですから、ヤツに乱入される前に即刻討伐すべきです」

 

「うん、まあ良いんじゃないの、知らないけど」

 

「それより貴女はさっさとクーラードリンクを飲んでください。まさか忘れたとか言いませんよね」

 

「忘れるわけないだろ……あ」

 

「……はい」

 

「悪いな」

 

「少しは反省してください……」

 

砂、砂、砂。

前を向いても後ろを向いても右を向いても左を向いても砂砂砂。

唯一砂ではない上を向いても頭の痛くなるような灼熱の太陽が見下ろしているだけ。

 

そんな果てのない砂漠をザクザクと音を立てながら歩いていく。

 

イビルジョーが出現しているというだけあって、砂漠は驚くほど静かだった。

普段ならデルクスの群れが跳ねていたり、ガレオスの背鰭が見えたり、ゲネポスが屯していたりするのだが……。

 

あたりに固まった血の痕や食いちぎられた肉片が転がっているあたり、本当に食い尽くされてしまったというわけだ。

 

燼滅刃や鎧裂のような実力者でも、極限の飢えに苛まれるイビルジョーには敵うまい。

 

 

だが幸い奴らを同時に相手取るような事態にはならないようだ。

観測隊の気球からの信号によれば、イビルジョーがこの地に現れるのは数時間後、それまでの間にならどちらか片方なら問題なく仕留められる。

 

神童と謳われた私と、人智を超えた化物であるローラの2人であれば、問題なく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『——————!!!!』

 

 

接敵、咆哮。

【燼滅刃】ディノバルドが放った咆哮に全く怯まず、ローラは駆け出した。

 

尾槌竜にも匹敵する巨体が大きく飛び上がりそのまま尾の爆焔を振り下ろす。

ローラは(やいば)を横に躱すと、目にも留まらぬ抜刀攻撃で一撃を与えた。

 

私は一歩遅れて燼滅刃に肉薄すると、背の金狼牙を抜き放ち、爆焔ブレスを溜めている一瞬の隙に頭部を斬りつけた。

ローラに向けて放たれたブレスは狙いを大きく外れ、その間にローラは納刀し、次の一撃に向けてチャンスを窺う。

 

「!」

 

ディノバルドは煩しそうな声を上げると、焔を纏った牙で噛みつき攻撃を仕掛けてくる……が、【白疾風】の特色はその身軽さである。

獲物を噛み砕こうと大きく開かれた牙と牙の僅かな隙間を踏んで跳躍。

 

【エリアル】と呼ばれる戦闘法(スタイル)の真髄とも言える技術である。

 

そのままグラグラと揺れる燼滅刃の身体を駆ける。

攻撃の及ばない背中に達すると、斬り刻むように滅茶苦茶な連撃を叩き込む。

 

金雷公の雷を宿す双刃は斬撃の度に雷撃を発し、強固な外殻を割り鱗を吹き飛ばしていく。

 

『———!!』

 

不快に思ったのかディノバルドは背中の私を振り落とそうと暴れだす。

私は双剣を露出した肉に突き立てて耐える。

獣竜種の身体の構造上、背中は死角だ。

 

大丈夫だ、当たらない。

 

 

 

そして、更に言えば———

 

 

 

「こっちだよ」

 

 

———敵は私だけではない。

 

 

 

 

 

『———!??』

 

 

振り落とそうと後ろに回した首を前に戻した瞬間、ディノバルドの頭部を凄まじい衝撃が襲った。

 

「流石!」

 

「当然だ」

 

最大限に力を溜めた大剣の一撃で、大きく怯んだ燼滅刃。

私は一撃と同時に背中を蹴ると、灼熱の大地に着地した。

 

彼女が凄まじい実力を誇るのは、変異体故の女とは思えない膂力もあるが、特に勘は他の追随を許さない程研ぎ澄まされていた。

 

モンスターが攻撃を終えた後どう動くか?モンスターが攻撃するとき、どこに隙ができるのか?どのタイミングに合わせて剣を振れば有効な部位に痛打を与えられるのか?

 

戦闘において彼女の上に立つ者は……少なくとも人間の中には1人もいないと言える。

 

 

「さて、アイツももう本気になるみたいだし、お喋りはやめだ」

 

「ヘマしないでくださいよ!」

 

「言われなくても、だ」

 

 

黒い塵粉を牙と尻尾に備えた燼滅刃が再び吠えると同時、私たちは砂を蹴り上げながら駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『———!!!』

 

向かって右側に回り込みながら放たれる爆焔のブレス。

速度も威力も先ほどまでとは段違いだ。

 

流石のローラも大剣によるガードを強いられ、突然の方向転換に私も蹈鞴を踏んだ。

 

反動で大きく後退したローラと入れ替わるように前に出る。

両手の剣をクロスして構え、尾の爆焔を活性化させた燼滅刃を迎え撃つ。

 

大上段から振り下ろされる燼滅の刃。

大爆発を伴うその一撃は最早斬撃ではなく、ただ悉くを滅ぼし塵に変える、破壊そのものである。

 

 

「———!」

 

その一撃に、真っ向から立ち向かう。

鬼人化。

 

駆けながら逆手に持ち替えた双刃を構え、数瞬後の死を斬り刻む———!

 

 

背後を熱と爆風が襲う。

大きく露出した肌が熱に灼かれるが、大した問題ではない。

 

心臓は早鐘のように打ち鳴らされ、血液は絶えず全身を巡る。

鬼人化で跳ね上がった集中力が一瞬前の死を現在の好機に変える。

 

紙一重で回避した(やいば)に、魚を捌くように左の刃を滑らせる。

疾駆する脚はヒトの限界を超えて加速し、爆焔滾るディノバルドの頭部へ向けて弾丸の如くその身体を踊らせる。

 

回転しながら斬り付け、その勢いのまま上顎を蹴って跳躍。

 

瞬時に順手に持ち替えた双刃を、落下の速度を加えて叩きつける———!

 

 

 

 

 

『天翔空破断』。

 

砂が巻き上がる。

身体の限界を容易に凌駕する動作の反動が襲い掛かった。

 

私の持てる最大の力で繰り出す狩技(わざ)

巨爪のように振り下ろされた双刃は激しい衝撃を伴って炸裂し、燼滅刃の頭殻に大きくヒビを入れた。

 

更に口内にチャージされた塵粉が衝撃に反応して爆発、主人をも昏倒させた。

 

 

大爆発を余裕を持って躱し、回り込んできたローラが倒れ込んだ燼滅刃の尾に走っていくのを横目に見て、刃にこびりついた砂を払う。

 

 

若干脚の痛みを感じながら、私もそれを追う。

 

勢いよく力が溜まった巨剣が景気良く振り下ろされ、振り回されて燼滅刃の巨大な尾を容赦なく削り取っていく。

 

あまりの勢いに削れた尾の破片がこちらまで飛んでくる始末だ。

 

苦しそうに呻く燼滅刃がようやく立ち上がる頃、その尾はもうズタズタに切り裂かれ、未だ結合していられるのが不思議なほどに傷つけられていた。

 

 

 

燼滅刃が起き上がると同時、ローラは即座に大剣を背負うと退避した。

彼女の観察眼と勘は伊達ではない。

彼女が逃げるような動作を見せたということは……。

 

 

『———!!!』

 

三度、咆哮。

 

燼滅刃もただでやられる程甘くはない。

牙を折られようと、尾を傷つけられようと何度でも立ち上がる。

 

底無しのスタミナと鍛え上げられた尾による斬撃は、今尚死を齎す恐怖として私たちの前に立ち塞がっている。

 

散った口内の塵粉を再び蓄積させると、燼滅刃は自らの尾を塵粉によって赤黒く(ひか)る牙で咥えた。

 

燼滅刃最大の攻撃範囲と威力を誇る技を、本気の威力で繰り出そうとしているのだ。

 

こうなれば最早私にできることはない。

あの神速の一撃に、多くのハンターが挑み破れ去った。

 

無謀にも迎撃を試みた剣豪は剣ごと身を二つに寸断され、恐れ慄いて背を向けた熟練の狩人は塵粉の爆破で粉々に吹き飛んだ。

 

必殺。

その名に相応しい、燼滅刃最大の剣技(わざ)と言える。

 

 

ギギギギギギ……と摩擦音が響き渡る死の地帯から全速力で離れ、振り向いたその時、息を呑んだ。

 

「ッ……!?」

 

ローラも同じく範囲外まで逃げたと思っていた。

しかしローラは何故かディノバルドと正面から向き合っていたのだ。

背の大剣に手をかけて、回避する気など微塵も感じない迎撃の姿勢でその時を今か今かと待ち構えていたのだ。

 

逃げて!

そう叫ぶ一瞬前に、(やいば)は解き放たれた。

 

 

ゴオ。

風の鳴く音。

ズバ。

世界が斬り裂かれる音。

 

大気すら斬り裂く神速の一撃。

回避は不可能、防御も不可能。

 

———避けられぬ死に、"死神"は立ち向かって見せた!

 

 

 

『———!?』

 

死が放たれるその瞬間、ローラは溜めに溜めたその力を全力で前方に振り下ろした。

神速の真一文字に対して神速の大上段。

 

ぶつかり合った2つの刃。

いや、違う。

 

振り下ろされている(・・・・・・・・・)ということは———。

 

 

 

ドス、と鈍い音がした。

音の先では、未だ赤熱する燼滅刃の尾が深々と砂の大地に突き刺さっていた。

 

 

一刀両断。

いくらあの尾が切断寸前だったとはいえ、一歩間違えれば真っ二つになるのは彼女自身だった筈だ。

 

それでも彼女はやったのだ。

 

 

ローラは地面にめり込んだ大剣を軽々と肩に担ぐと、得意そうな顔でこちらを向いた。

 

無謀でも賭けでもなく、ただできるから(・・・・・)彼女はやったのだ。

つくづく恐ろしい女だと思う。

 

 

———だが。

 

ギギギギギギ……と再び摩擦音が響く。

燼滅刃とてこの程度で勝負を諦める程度なら、そもそも二つ名持ちモンスターなどとは呼ばれていない。

 

恐るるべきはその底無しの持久力、悉くを塵に変える殲滅力。

そして何より———ズバ抜けた攻撃性と闘争本能。

 

2発目(・・・)の必殺。

欠けた刃であるとはいえ威力は変わらない。

 

塵粉は散ったがそれでもたかが人間1人、塵に変えるのは造作もない威力。

 

 

底知れない攻撃性にローラは少しだけ驚いたような表情を見せ———そしてニヤリと口の端に笑いを滲ませた。

 

1秒、2秒。

両者は向かい合ったまま、時が静止した様に見えた。

 

ザア、と砂を巻き上げる強風が吹いた。

それは東洋の果し合いのようであり、また騎士同士の決闘の様にも見えた。

 

 

刹那。

 

"死神"が地を蹴った。

"死"が解き放たれた。

 

真正面から死に突き進む"死神"は、装甲も巨剣の重さも、微塵も感じさせない程に軽やかに跳んだ。

 

最大速度、最大威力を持つ尾の先端を、ローラは軽々と踏みつけて、白骸に覆われた身体を宙に踊らせた。

 

いつの間にか(・・・・・・)抜き放たれた白骸の巨剣の流麗な動きを、意識だけが辛うじて捉えていた。

 

極限まで引き伸ばされた時の中で、巨剣が身体ごと縦回転する。

 

『ムーンブレイク』。

月の名の如く、満ちた月の様な円を描く重撃。

 

 

全力の一撃は、斬撃を放ち終えて丁度眼下に来た(・・)頭部に、炸裂した。

さながら、死神の鎌であった。

 

その一撃は日々の入った頭殻を難なく砕き、肉を抉り取る。

 

 

砂を撒き散らしながら着地したローラの横に、絶命した燼滅刃が倒れ込んだ。

ローラは狩技の反動故か重そうに担ぎ上げた大剣を納刀すると、いつもの微笑みと共にこちらを向いた。

 

 

背後に横たわる燼滅刃からは有り余る様な生命力は失われ、突き刺す様な殺気も感じられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

信じられない。

そんなことはこの3年間何度も何度もこの目で見てきたが、やはりこの女の化け物ぶりには舌を巻かされる。

 

 

 

私とて死線を潜り抜けたことは幾度となく在る……だが余裕ですらない、ただそれが自然だと言わんばかりの、あの表情には恐怖を抑えきれない。

 

それでも———

 

「終わりだな。次いくぞ」

 

「……はい」

 

先程までの好戦的な表情はどこへやら、いつも通りの穏やかな笑顔を見ると恐怖もどこかへ飛ばされてしまう。

 

戦う彼女は強くて、無慈悲で、そして恐ろしい。

でも普段の彼女は穏やかで、優しくて、何より美しい。

 

相棒であろうと家族であろうと、明日もまた無事に生きているとは断言できないこの危険な世界で、彼女だけは決して負けないことを、私だけは知っている。

 

 

家族も、私を拾ってくれた新しい父親も、結局は私を置いて去って行った。

でも彼女だけは……ローラだけは、私を置いて行かないだろう。

どんな化物が相手でも、彼女が死ぬところなど想像もつかない。

 

いつものように笑って、くだらない冗談を飛ばして、いつものように馬鹿げた量の肉を食い散らかして、また明日、なんてありふれた言葉を交わして。

 

 

だからきっと、今日も生きて帰ろう。

何が起きても、私と貴女で、一緒に帰ろう。

 

 

 

 

 

 

 

「おい?……おい、また考え事か?」

 

「ええ。ちょっと貴女の事を考えてました」

 

「お前、私のこと大好きか?」

 

「……かもしれませんね」

 

「やめろよ、砂漠なのに寒気がする」

 

「……ホットドリンクは忘れてないですよね?」

 

「……あ」

 

「はあぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




骸装甲シリーズはG級と下位上位で若干色が違うのが玉に瑕ですね
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