生徒会長の生存戦略   作:しが

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拾.不穏な影の連鎖

『本日21時に何時もの運動場でお待ちしております。ただし装備は万全に整えておいてください。 冷泉寺愛奈』

 

 

 

そのメッセージが彼の端末に残されていた。送り主は間違いなく愛奈ではあるが彼は疑問に思った。今日は特に指導の日ではなかったはずだ。それに装備を万全に整えておいてほしいともあった。その指示に疑問を持ちつつも普段世話になっている彼女の指示である以上、翔馬は断るつもりはなく、指示通りにその時間までに自身の思える万全の体勢を準備していこうと思った。

 

 

 

 

「それにしても翔がいやあ…生徒会かぁ。なんかもう本当に違う世界に行ったみたいだねぇ。」

 

 

「それもう何度目だよ葵…。五回くらい聞いた気がするぞ。そんなに意外なのか?」

 

 

今現在の時刻はお昼。彼もまだ普通の生徒と変わりなく授業を受けている。そんな折に入った連絡のため少しばかりは困惑したが彼は見事なポーカーフェイスでそれを悟らせずに昼食を共にしていた女生徒…立華葵との会話に戻った。彼の幼なじみである彼女は彼が生徒会に入ったことに感慨深いものがあるらしく何度もその話題を振られた彼は少々呆れ気味に彼女の話に付き合っていた。とはいえ別に彼に不快感があるわけではない。

 

 

 

「そりゃあもう意外も意外に決まってるでしょ。だってあの翔が、だよ?」

 

 

「どういう意味だよ…。」

 

 

「そのままの意味だよ。生徒会にしかも、会長の推薦でだもん…あれもしかして翔ってすごい人?身近に居すぎて考えたこともなかったけれど…。」

 

 

 

「俺自身は凄くないよ。今回の生徒会入りも事情があってのことだから。」

 

 

「その事情って?」

 

 

翔馬は問いに答えても良かったが既にそのことに関して取り決めは彼と愛奈の間で行われていた。その時に彼女の言葉を彼は脳内で反芻させた。

 

 

 

『この事情が第三者には理解されるとはあまり思えません。貴方の推薦理由としてそれらしいものはこちらで考えておきますから石動くんはあまりむやみに他言するのはやめて貰えますか?』

 

 

それらの言葉を反復したうえで結論を出す。話すべきではないなと。

 

 

 

「悪い、葵。これに関しては訳ありでさ。…お前にも教えられない。」

 

 

「…まぁそんなことだろうとは思った。大方、会長との約束でしょ?あんたも約束を破るわけにもいかないでしょうしね。」

 

 

 

「…ごめん。」

 

 

「いーよ。もうこの隠し事にもなんか段々慣れて来たし。むやみに他人のことを詮索するのも好きじゃないし。」

 

 

「…ありがとう、葵。」

 

 

このさっぱりとした性格の彼女が幼馴染であることに、改めて彼は自分の幸運を噛みしめた。

 

 

 

「まあ言っても無駄かもしれないけれど一応言っておくけれど。」

 

 

と、葵は一度言葉を切り、そのまま続けた。

 

 

「ほんと、無茶はしないでよね?あんた、ブレーキの加減も知らないから流石にひやひやするのよ。」

 

 

「うっ…。」

 

 

彼は言葉が詰まると共に納得してしまった。彼は自分で走り出したら止まれない性質であることを自分で理解しているからこそだろう。実に気まずい。

 

 

 

「まぁ…大丈夫だとは思うさ。今回は俺一人じゃない。それに…多分、会長が止めてくれるはずだ。」

 

 

「いや少しは自分でブレーキかける努力しなさいよ。」

 

 

「…いや、まったくもっておっしゃる通りで。」

 

 

 

その時間、彼は珍しく縮まっていたという。そんな光景にクラスメイトは目を丸くしていた。

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

日はすっかり落ちて21時前。翔馬は言われた通り、万全の状態を整えていつも指導を受けている運動場へ向かった。しかし彼はまだ本日の目的を知らない。運動場に着いた彼が一番最初に見たのは高そうな車だった。疑問に思いつつも中に進むとそこには何時もと変わらない―――ではなく制服ではなく正式な戦闘服に身を包んだ愛奈が居た。模造刀ではなく、彼女の本来の得物である薙刀も背負っていた。

 

 

 

「こんばんは、石動くん。突然の呼び出しにも関わらず応じて頂きありがとうございます。」

 

 

「いえ…大丈夫ですけれど…あの、今日は何をするんですか?流石にそろそろ知りたくて。」

 

 

「そうですね、隠す意味も無いのでお教えしましょう。石動くん、貴方は最近、祓呪師が連続で失踪しているというニュースをご存じでしょうか?」

 

 

「…いえ、初耳です。」

 

 

「そうですか…ならばそこから順を追って説明しましょう。事の始まりは今から二週間ほど前からでした。場所は関東近郊にある業呪の出る森でした。そこで出てくるのは低級、良くても中級の業呪だけでして、新米の祓呪師が練習として慣らすのには良い場所、と知られていました。そこに新米祓呪師のグループ、四人がその森に入ったのですが…それきり戻らなかったのです。」

 

 

そして彼女はタブレットを操作し、小さな雑誌の記事の一部を見せる。この時点ではあまり知られていないか重要視されていなかったか、大した扱いではない。

 

 

 

「一応、他の祓呪師が静観していたというわけではないですが…。四人が運悪く亡くなったというのでも理屈は付きます。しかし問題はその後でした。一人の名のあるプロの祓呪師が彼らの調査を買い、森へ入って行きました。周囲の人も彼の腕ならば問題ないだろうと思っていたようですが…そのプロの祓呪師も帰ることはなかったのです。これが流石におかしいと感じた祓呪師連は正式に調査員を派遣しました。だが同じく彼らもまた失踪してしまった。その後も同じことが繰り返され…その数は10人にまで登りました。ここまで連続で失踪するというのを偶然で片づけることは出来ないでしょう?」

 

 

「…そうですね、偶然ではないと思います。プロの祓呪師ですら勝てない業呪がいたとか…。」

 

 

「仮説としてはどうでも言えますが…話はまた変わりますが聖城学院に属する人間は身分に問わず奉仕が義務付けられています。それは生徒もです…もうお分かりだと思いますがその失踪事件の調査に私が選出されました。というよりもわざわざ祓呪師連が学院に根回しをし、私への課題として課してきました。」

 

 

言外には棘が含まれていたが彼に愛奈の真意は未だ見通すことは出来ない。

 

 

「そこで石動くんにはその調査への同行をお願いしたいのです。」

 

 

「…俺が、ですか?正直俺が行く意味が…分からないんですが…」

 

 

話を聞く限り、プロですら失踪したらしく強くはあるが未だ学生の身である彼が行く理由が分からなかった。愛奈が行く理由は分かる。恐らく彼女の強さは並みのプロなど凌駕する。納得の人選だ。

 

 

 

「ああいえ、戦力がどうというわけではなく…。石動くんには普段護衛を付けているのですが。」

 

 

「え?」

 

 

それも初耳である。

 

 

「その護衛を担当している子が今日はどうしても外せないことがありましてね。私が調査に行っている間に貴方がもしも狙われるという可能性は否定できないんです。だからいっそのこと付いてきてほしいということです。」

 

 

翔馬はなるほどと頷いた。確かに彼女の理屈は少し強引だが納得できるものではある。

 

 

「しかし…俺が行くには力不足では?」

 

 

そこばかりはどうしようもない。足を引っ張る自信しかなかった。

 

 

 

「大丈夫です。石動くんの身は私が守りますから。」

 

 

 

…そういうことじゃないんだよなぁ…と彼は頭を掻いたが確かにここでグダグダと話していても仕方がないかもしれない。

 

 

 

「分かりました、俺も行きます。よろしくお願いします、先輩。」

 

 

 

「正直受けてくれて安心しましたよ。貴方の初デートがこんな物になって申し訳ないとは思います。」

 

 

「……からかってます?」

 

 

 

「表に車を待たせています、行きましょう。」

 

 

何処か納得がいかないが彼は渋々車に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

そこからの移動はそれなりに早かった。およそ40分ほどで目的地に到着する。

 

 

 

 

 

 

「…ここが連続失踪の森ですね。夜という事もあってかなり不気味な雰囲気ですね…。」

 

 

愛奈の言葉に翔馬も同意を示した。時刻的な問題もあるが禍々しく、冷気すら時より感じる。

 

 

「というよりも会長、なんでこんな時間にしたんですか…?」

 

 

やるならばまだ日の出てるうちにやるべきだったと彼は思ったが…

 

 

「いえ…多忙な身ですので夜しか時間が取れなくて…。私も日中にすればいいと正直後悔していますが…。」

 

 

そう答える愛奈の声は僅かばかりだが震えていた。そこの変化に翔馬は目ざとく気づいた。

 

 

 

「と、ともあれここで躊躇しているわけにもいきませんね。進みましょう。」

 

 

愛奈が先陣を切る形で進んでいく。何が起こるかは分からないので武器は何時でも抜刀できるように。そんな歩いている最中、翔馬は何かを思いついたのか愛奈に話を振った。

 

 

 

 

「先輩、俺の話を少し聞いてくれますか?」

 

 

「?はい、構いませんが。」

 

 

「この異様な雰囲気は正直説明が付かないですけれど、俺は似たような雰囲気の場所に心当たりがあるんです。」

 

 

「…それは何処ですか?」

 

 

「昔、もっとガキの頃に親に連れてってもらった遊園地――――」

 

 

「…遊園地?いえ、それはおかしいと思いますが…。」

 

 

たしなめる様に翔馬は話を続けた。

 

 

 

「まぁ聞いて下さい、遊園地の中のお化け屋敷ですよ。この寒気、冷たさ。あれと似たような感覚なんですよ。」

 

 

 

「へ、へぇ…そうなんですか。」

 

 

 

愛奈は比較的冷静さを保ったまま話を聞いている――――ように見えているが冷や汗を掻いている。

 

 

 

 

「あのなんとも言い難い寒さは説明がしきれないんです。俺はそれが幽霊、もしくはそれに準ずる何かによるものじゃないかと考えているんですが…。」

 

 

 

「…こ、根拠がない以上論理は成り立たないとお、思いますがね?」

 

 

「ええ、俺も突拍子のない理論だと思っています。勿論想像に過ぎませんがこの森では恐らくそういった犠牲者も過去に出ているかもしれない以上そういう類の者がいるかもしれない…」

 

 

「こ、この話はもうやめませんか?ほ、ほら私たちは調査に来てるのですから。」

 

 

明らかに彼女の声は上ずっていた。翔馬は顔には出さないが何か確信めいた感情を持った。如何にも真剣に考えているような顔のまま答えた。

 

 

「まぁ、そうですね。非科学的だとは俺も思いますから。ただ業呪という異形が存在している手前、居ないとは断言が出来ませんよね。」

 

 

「それは…まぁそうですね。常識の尺度では当て嵌めれないですから。…で、でも幽霊や魂魄の類は私は、無いと……思いた…思いますね。」

 

 

まるで彼女は自分を納得させるように言っている。

 

 

 

「―――――先輩。」

 

 

しかしその時、翔馬の顔が真剣みを帯びたものになる。

 

 

 

「今、影が見えました。先輩の背後に。」

 

 

 

「!!!」

 

 

その言葉に愛奈は驚くほど速い速度で振り向いた。だがそこには暗闇があるだけだった。

 

 

 

 

「…からかってませんよね?」

 

 

「本気です。…何か居ますよ、この森。…行きましょう。」

 

 

翔馬はその影が見えた方へ行きはじめた。愛奈は少し遅れてだが歩きはじめる。

 

 

 

「…ほ、本当に幽霊だったらどうしよう…。」

 

 

その呟きは暗闇に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

「これは…。」

 

 

 

「洞穴…ですね。」

 

 

 

人影をとらえた先へ進んだ彼らが見つけたのは洞穴だった。明らかに人の出入りした形跡があるそこは怪しさが満点だった。

 

 

 

 

「…私が先に行きます。石動くんは背後をお願いします。」

 

 

 

「はい…行きましょう、先輩。」

 

 

二人は洞穴内に明かりを向ける。そこまで深くはなさそうだがそれでも先は真っ暗闇だ。武器を握る手にも力が入る。明かりを先へ向けながら彼らは歩く。しばらく空洞が続いていたがやがて開けた空間に出た。

 

 

 

「…先輩。」

 

 

「…はい、人の居た痕跡、間違いなくあります。それにこれは…。」

 

 

血だ。暗くて見づらいがそれは鮮血だった。地面にべったりとこびり付いているそれはおぞましいほどの量の血だ。

 

 

 

「…何かあったのは間違いなさそうですね、先輩。」

 

 

「そうですね…しかしここまで暗いとろくに調査も…やはり出直すべきですか…。」

 

 

愛奈が更に奥に明かりを向けると…そこには人が倒れ伏していた。

 

 

 

「先輩!」

 

 

「ええ、行きましょう!」

 

 

 

走る。こうなってしまえばもう躊躇は無い。

 

 

 

「…がはっ…。」

 

 

 

その人物は生きていた。しかしかなり衰弱が進んでおり、瀕死ではあった。だがそれだけじゃないその倒れていた男性が居る奥―――そこに複数人が倒れていた。翔馬は目の前の男性を介抱すると愛奈は後ろの倒れていた人達の確認をする。

 

 

 

 

「…おまえ…祓呪師か…。」

 

 

瀕死ながらも意識を保っていた男性はたどたどしくはあるが言葉を発した。

 

 

 

「…何があったんですか?」

 

 

翔馬はこの重症で喋らせるのはまずいとは思っているがとにかく今は情報が必要で背に腹は代えられない状況だった。

 

 

 

「…バケモンだ…ごう…じゅじゃない…バケモンがいた…ソイツに襲われて…何か…を刺された…がっ…」

 

 

男性が言葉を話したが血を吐く。流石にまずいと思った翔馬は

 

 

 

「もう大丈夫です。喋らなくて…助けますから。」

 

 

翔馬は万全の準備をと伝えられていた通り、簡易的な医療キットはあった。とにかくまずは応急手当を始める。

 

 

 

 

「…先輩、他の人たちはどうでしたか?」

 

 

戻ってきた愛奈に翔馬は問いかけたが、その答えは首を横に振った。

 

 

 

「…全員既に事切れてました。…貴方は…最後に入った『村山』さんですね?」

 

 

重症者の男性に愛奈は近づき問いかけた。男性…村山は僅かに頷いた。

 

 

 

「ハハッ…アンタ…『冷泉寺の明珠』か…。こんな大物が探しに来るとはな…。」

 

 

「あまりしゃべらないでください。貴方には生き残って貰いたいのですから。」

 

 

村山は血を流しながらも話続けている。

 

 

 

「いや…無理なんだ…俺は死ぬしかねえ…違うな…。分かるんだ、終わりが…。」

 

 

彼は弱気なことを口にしているがそれでも救う意思は曇りなかった。

 

 

 

 

「…が…げはっ…。」

 

 

そして彼は血をしきりに吐いていたが、血とは別の黒いドロドロとしたものを吐き出した。

 

 

 

 

「…何だこれは…?」

 

 

「…まさか…。」

 

 

驚く翔馬と愛奈。だが愛奈はその物体に見当があったらしい。村山は弱ろうとも必死に叫んだ。

 

 

 

「俺から離れろ!!!」

 

 

 

最期の力を振り絞り彼は翔馬を突き飛ばした。そしてその直後、彼の体から流れ出た血は黒く染まっていく。まるで吐き出したその物体の色のように。

 

 

 

「う…あ…ぁ…う…」

 

 

瀕死だった村山は立ち上がり、うめき声を漏らす。流れ出る黒い液体は止まらない。翔馬は慌てて彼に近づこうとするが…

 

 

 

「待ってください…。石動くん。」

 

 

愛奈によって制止されてしまった。

 

 

 

「先輩!あの人を助けないといけないんですよ!?」

 

 

「それは私も分かってます…けれど私の推測が正しければ…もう、遅いかもしれません…。」

 

 

「…遅い?」

 

 

流れ出る黒い液体はやがて村山の全身を黒く包んでいった。それはシルエットのようになり…彼の体を増長させるように大きくなっていった…。そして村山も手であった場所は鋭く、爪が伸び、顔であった場所は歯が伸び、まるで牙のように。そしてせいぜい180センチだった背丈が…3メートル近くまで伸びていた。

 

 

 

 

「GRRRRRRRRRRRRR!!!!!!!!」

 

 

変異を終えた村山は咆哮を発した。そこに理性の色は…もはやなかった。

 

 

 

 

 

 

「…嘘だろ…。」

 

 

翔馬は目の前の出来事に茫然自失とした。変異を終えたその姿は…そこに愛奈の一喝が入った。

 

 

 

 

「もはや疑いようもありません――――――業呪の正体は人間です―――――構えなさい‼石動くん!!!こちらが喰われますよ!!」

 

 

 

その声に翔馬はビクッと反応し、そして変異した村山―――――業呪と対峙した。

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