生徒会長の生存戦略   作:しが

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拾漆.恨みの行く先

唐突だが、ものすごく唐突な話だがこの世界にはレベルが存在する。…いや、正確に言えばこの世界の元となったゲームにはレベルのシステムが搭載されている。「宵に踊る碧炎」のジャンルはギャルゲー&シミュレーションロールプレイングゲームだ。RPGということはお馴染みのレベルシステムがあるし、当然RPG部分も存在する。敵との戦闘がRPGなんだが、某龍の依頼のようなコマンド式でもなく、某テイルズのようなアクションでもない。一番近いのは某蒼の紋章だ。味方ユニットがあり一手一手行動していくタイプ。そういうわけで味方にも敵にもレベルがある。この世界ではどうかは知らんがある程度それに準じた強さにはなってるだろう。

 

 

そんなゲームでのレベルは当然のように終盤に行くにつれて敵のレベルが上がる。これもゲームの常だがラスボスは一番高いレベルで設定されている。終盤に出てくる雑魚と化した上級業呪のレベルは大体50前後。一連の事件を起こした黒幕のレベルはルートによって多少は異なるが60前後だ。ここまで順当にレベルを上げていけば主人公たちが苦戦するものではない。

 

で、問題はラスボスであるカナなんだが、こいつはそもそも設定からしてチートであるが故にレベルが高い、とんでもなく高い。他の業呪を食らい、力を増幅させ続けるという設定があるためその設定に応じたレベルが付けられているのだが…そのレベルは500だ、驚き桃の木山椒の木のLV500だ。ちなみに主人公たち味方ユニットが育てられる上限は99までになってる。つまり主人公たちを最大限まで育てて漸く五分の一というわけだ、とんだチートである。とはいえそのまんま戦ったら勝ち目など無いためちゃんと対抗策は用意されてる。そこが主人公こと石動翔馬の出番だ。彼は終盤に覚醒イベントが用意されており、完全に覚醒した主人公は己の力を十倍以上高めることが出来るという形態を手に入れる。ようは一時的に自分のレベルを十倍にするっていう事だ。そういう救済措置があってこそ成り立つゲームというわけだ。

 

ちなみにそのカナに瞬殺される即死会長は直前の章でスポット参戦するがその時のレベルは55だ。主人公の推奨レベルが30くらいなのでその時は圧倒的な強さを誇る。黒幕に善戦したのも納得できる強さだし、まぁラスボスに瞬殺されるのはしゃーない。

 

この世界にはレベルはないが、それに準じた強さはあるのだろうからこのまま学園祭の日に行ってもぶっちゃけ同じように瞬殺されるだけである。…一応布石こそ打ったがそれでも完全に翔馬頼みの所は変わらない。彼がそこで終盤の覚醒をやってのけるだけの技量に達しておく必要がある…からまだ彼を鍛える必要があるというわけだ。

 

 

 

――――

 

 

 

「事の発端は二週間前です。関東圏には所謂『特級区域』と呼ばれる森がありました。」

 

 

「『特級』…特に危険度の高い業呪の発生する森ですね。日本にも3つしかない…。」

 

 

「そうです、名前を覚える必要はありませんが『関東特級区域』と呼ばれるそこには上級業呪が当たり前のように跋扈し、変異種と呼ばれる危険度の高い複数人のプロでかかる業呪も居ました。…そう、『居ました』です。」

 

 

道を歩きながら、愛奈は状況を説明する。時刻は深夜に片足を突っ込みかけた時間。愛奈は相変わらず多忙なため、依頼は深夜帯にこなすしかない。それを承知しているのか翔馬は文句は言わない。

 

 

 

「消えたのです。二週間前に、討滅するのに手間取っていた変異種の業呪や、上級業呪、中級…そして低級でさえも全て。まるで最初からそこに居なかったかのように痕跡すら消えました。」

 

 

「…正直俄かには信じがたいですね。」

 

 

「ええ、私もそう思います。」

 

 

愛奈は翔馬の考えを首肯した。それほどまで非常識な出来事が起きているのだ。そのまま言葉を続ける。

 

 

 

「ですが紛れもない事実として起こっていることです。…前例のない事態だからこそこの調査が冷泉寺に下りてきました。」

 

 

「…成程。」

 

 

翔馬は納得した。冷泉寺家は日本で一番優秀と言っても過言ではない祓呪の名家。過去でも業呪関連で何かが起こった時は冷泉寺が一番槍となり矢面に立ち、事態の対処に当たっていた。今回も異例の事態ということなので冷泉寺家に白羽の矢が立つのはある意味必然と言うべきかと翔馬は納得した。

 

 

 

「祓呪師連から依頼されたものが私に下りて来たというわけです。」

 

 

「…次期当主の愛奈先輩にですか?」

 

 

翔馬が疑問を口にする。愛奈は次の当主が確定している、冷泉寺にとっても重要な身分だ。そんな彼女が危険に晒されるのを良しとするのだろうか。

 

 

「次期当主、だからこそですよ。」

 

 

愛奈が何時もの人を食った笑顔で説明する。しかし何処か諦観の感情も見て取れた。

 

 

 

「冷泉寺家は世襲制ですが、それでいて弱肉強食の実力主義でもあります。千年間、冷泉寺の正統血統が当主の座にありますが、その千年の間に他の分家は何度も当主の座を自分の一族にと謀略を働かせていた歴史もあります…人同士で争っている場合ではないというのに。」

 

 

呆れを含んだ声音で愛奈は解説を続ける。

 

 

 

「今でこそ本家が睨みを利かせているため分家は口出しはしてきませんが、それでも当主に就くという事に『実績』が必要なんです。」

 

 

「実績…ですか?」

 

 

「はい。…例えば私の父である現当主は業呪の生態について一つ明らかにしました。それは分家を黙らせるには十分な実績でした。…だからこそ、私が冷泉寺を継ぐためには誰もが文句を付けようもない実績が必要なのです。」

 

 

しかし翔馬は考える。目の前の愛奈は既に磨き切られ、熟達している彼女は。

 

 

 

「…すでにもう十分すぎる実績を持ってると思いますよ…?」

 

 

そう、彼女は強すぎるのだ。彼女によって討滅された業呪を数えるだけでそれは十二分な功績となるだろう。

 

 

 

「…いえ、それでもまだ足りないんです。私が為そうとしていることを考えると他の誰が見ても文句のつけようもない圧倒的な実績が必要になります。」

 

 

翔馬は思い出した。彼女の掲げる目標…冷泉寺を壊す。壊して作り直す。そのためには当主になる必要がありこの依頼もその一歩の一つだと語った。そして逸れた話を戻すように愛奈は言葉を続ける。

 

 

「話を戻しましょう。二週間前、この森の調査に入った祓呪師たちにより業呪が綺麗に消えていることが発覚。あまりにも異例で前例のない事態に祓呪師連は首を傾げ、そして匙を投げました。そして冷泉寺に依頼された…という経緯があり、既に冷泉寺家の者がここに入り、調査を始めていましたが成果はゼロ。業呪の痕跡すら見当たりませんでした。」

 

言葉の最中に翔馬は聞き捨てならないことを聞いた。それは言葉を遮ってでも突っ込みを入れなければ彼の気持ちは収まらなかった。

 

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください。既に調査した?なら何故今俺たちはここに居るんですか?」

 

 

「失礼。少し言い方に語弊がありましたね。既に冷泉寺の者が立ち入りで調査したのは事実です。しかし彼らはあくまで密偵。敏捷に優れ、気配を断つのには優れておりますが、直接的な戦闘力には優れていません。確かに業呪の痕跡は消えていますが万が一…いえ、億が一の可能性を考慮し、彼らには深部まで調査はさせませんでした。」

 

 

「…もしかしたらヤバい業呪がいるかもしれないと?」

 

 

「可能性の話に過ぎません。…前述の言葉通り、我々が向かうのはこの森の深部。つまり危険の高いかもしれない場所です。引き返すならば今ですが…。」

 

 

一応の警告というべきか愛奈は翔馬に最後に問いかけた、目の前の危険に飛び込む必要は無いと諭すように。

 

 

「ここで俺はNOとは言いませんよ。…両親の仇に繋がる情報があるかもしれないから逃すつもりはありません。」

 

 

 

「…でしょうね、貴方は止まらないと思いました。とはいえ現状、業呪の気配は欠片も無いのでよほどの事態がない限りは以前よりは楽なものになると思いますよ。」

 

 

その発言が若干フラグな事に愛奈は気が付いてないがそれよりも二人の前に一人の女性が戻ってきた。

 

 

 

「周囲の気配を探りましたが深部の奥深くまでは感知できませんでした。…しかし業呪の気配はありません。」

 

 

「ご苦労様でした、沙耶。…さぁ、では始めましょう。」

 

 

新寺沙耶、その人だ。今回の調査には彼女も同行することになっていた。直接的な戦闘力では愛奈が上手だが斥候などの役目をこなせる沙耶はかなりの場面で重宝していた。また正面の戦闘能力も冷泉寺家の人間である以上決して弱くはなく、むしろ現状の翔馬よりは強いだろう。…沙耶が合流したことで三人は件の森の奥深くへと足を踏み入れた。

 

 

周囲には霧が張り詰め、視界が狭まってきた。時刻が夜であることも合わさって非常に不気味だ。愛奈は珍しくうんざりしたような表情をしている。

 

 

 

「…相も変わらずここは霧が濃いですね。」

 

 

その口ぶりから以前に訪れたことがあるということを示唆していた。

 

 

「愛奈先輩はここには来たことがあるんですか?」

 

 

「ええ、数度は。変異種とは遭遇はしなかったですが歩くたびに上級業呪と接敵するので正直辟易しましたね。」

 

 

何てことの無いように語る彼女は上級業呪をその当時から大した障害でもない様に斬り捨てていたのだろうと翔馬は予測する。プロですら数人がかりでないと倒せないと言われている上級業呪を低級業呪のように斬り捨てる彼女の姿は畏敬の対象だろうなと彼は思った。

 

 

「それに…。」

 

愛奈が言葉を続けようとしたが途中で遮った。そして翔馬は以前の光景を思い出した…幽霊の類の話をした時の愛奈の態度に。

 

 

 

「嫌な気配が漂ってますね。ここで殺された祓呪師も数少なくはないのでしょうね…彼らの御魂は何処にあるのか。」

 

 

翔馬の言葉にピクリと愛奈の体が少し震えた。気のせいだろうか彼女の動きが少し鈍くなった。

 

 

 

「…え…ええ。少なくない死者を出しているのは事実です。た、魂は天上に還ったのではないでしょうか?」

 

 

本人も言葉を端が動揺していることに気付いていないのか、目線を逸らしながら話をしている。

 

 

「…もしかしたら怨念が今も彷徨っていて幽霊…」

 

 

「そ、そんなわけないでしょう…。死の先にあるのは無だけだと思うのでそれ以上は無いと思いますね私は。」

 

 

それ以上言わせるかと言わんばかりに愛奈は必死に言葉を遮った。最早必死過ぎて逆に鬼気迫っている勢いだ。

 

 

 

「…そういえば。」

 

 

そこまで沈黙を保っていた沙耶がポツリと呟いた。

 

 

「索敵していた際、業呪の気配はありませんでしたが何か極微小ですが、僅かな気配がしました。今にも消えかかっていたので勘違いかもしれませんがそれが存外魂の類なのかもしれませんね。」

 

 

「……ちょっと、沙耶?」

 

 

 

思わぬ横槍に思わず素で度肝が抜かれた愛奈は目を丸くしながら側仕えに問いただした。

 

 

 

「まぁ冗談ですが。」

 

 

「貴方まで!」

 

 

しれっと答える沙耶に愛奈は思わず声が上がった。普段のミステリアスさも投げ捨てて。翔馬は愛奈と深い関係ではなく言葉を交わした数も少ないが彼女に対して親近感を少し覚えた。

 

 

そんな掛け合いをしながらも彼らは森の中を進む。相変わらず視界は狭く、霧は濃い。研ぎ澄ましてなければ翔馬は他の二人すら見失ってしまいそうだった。

 

 

しかし彼らは変わらず進むだけでそこに変化がなかった。…その時が訪れるまで。

 

 

 

 

変化は一瞬だった。沙耶の体が揺れ、愛奈に瞬時に目配せした。アイコンタクトを受けた愛奈は素早く翔馬の口をふさぐと、急いで大木の陰に隠れた。翔馬は急の事態に困惑しつつも口を塞がれたため声が出せない。そんな彼に説明するように、愛奈は物凄い小声…翔馬の耳に届く最低限の音で伝えた。

 

 

 

「…何か、居ます。後ろに。」

 

 

大木の裏に何か居る、そう告げた翔馬は思わず呼吸が止まった。愛奈は少し離れた木の陰に隠れた沙耶にアイコンタクトし、沙耶が頷いた。そして翔馬に対してまた小声で、一言伝えた。

 

 

 

「…気配を殺してください、良いですね?」

 

 

翔馬が頷いたのを確認すると愛奈は彼から手を離し、そして背後にいる何かを確認するべく木の陰からコッソリと覗いた。

 

 

 

そこにあるのは巨躯。…そして凄まじいプレッシャーだった。

 

 

 

 

(業呪が…業呪を食っている………!?)

 

 

翔馬は声を出さない様に必死に口を押えた。…それほどの衝撃が彼を襲った。…彼らの視線の先では業呪が食らっていた。…同族である業呪を。

 

 

 

 

「…合点が行きました。」

 

 

愛奈が小さく呟く。

 

 

 

「どうしてこの森の業呪、全てが消えていたか。…今、分かりましたよ。」

 

 

 

翔馬もその答えに辿り着いた。…結論はただ一つ。

 

 

 

この業呪がすべての業呪を食らったからだ。

 

 

 

愛奈は翔馬とそして沙耶に視線を向けた。

 

 

 

「…今からあれを不意打ちします。…後顧の憂いはここで断っておくべきなので。」

 

 

愛奈の言葉に、翔馬と沙耶が頷いた、あれを残しておけば危険だという事は意見が合致した。沙耶が隠れた態勢のままクロスボウを構えた。…翔馬も息を整え、いつでも飛び出せるように構えた。

 

 

 

そして愛奈も薙刀を構え、沙耶に視線を送った。沙耶が極限まで引き絞った矢の照準を合わせ…そして放った。風をも薙ぐ速度の矢が業呪へと接近する。音で察知した業呪が振り向く…が既に愛奈は動いていた。…音を置き去りにするような速度で駆け、跳躍し、業呪の脳天をかち割らんと動いた。

 

 

業呪は矢を避けた。しかし上から同時に来る愛奈の攻撃は避けられない。渾身の力を以て業呪を叩き潰そうとしたが…

 

 

 

 

「…嘘!?」

 

 

 

愛奈の口から驚愕の言葉が漏れた。業呪は己の腕に当たる部分で愛奈の攻撃を防いだ…しかも防ぐだけではなく弾いた。…愛奈が全力で振り下ろした袈裟斬りは上級業呪ですらスライスする破壊力を誇る。それを弾くとは彼女も予想していなかったのか驚いた。直ぐに空中でジャンプをし直すという離れ業で距離を取る。翔馬や沙耶の元に戻り、手短に指示する。

 

 

 

「気づかれました…あれを倒します!沙耶はそのまま中距離で射撃を、翔馬君は私とともにあの業呪を崩しましょう!…まずは足からです!」

 

 

「…分かりました!」

 

 

「了解しました!」

 

 

駆ける。業呪に向かって翔馬と愛奈は駆け始める。業呪も敵を確認し咆哮し、迎撃に移る。その巨大な拳で地面に居る彼らを一掃しようとげんこつのような拳を落とす…それを愛奈は横に走り、翔馬は跳び避ける。直撃は免れこそしたがその余波が凄い。拳が落ちた地面は軽くクレーターのようになっている。

 

 

「嘘だろ!?」

 

 

「一発でも貰ったらアウトのようですね!回避に専念して隙を狙いましょう!」

 

 

愛奈が業呪との距離を詰める。敏捷性は勝る愛奈が躱して業呪の足に斬撃を入れる…が

 

 

 

「硬い…!!」

 

 

手ごたえがない。あまりにも硬いのか、弾かれるだけだ。翔馬も同じく斬ろうとするがやはり弾かれるだけ。そうこうしているうちに業呪の反撃が飛んできて回避に専念せざる得ない状況になる。愛奈に対して蹴りを入れた業呪だが、目に矢が突き刺さり、その動作は中断する。それは沙耶の放った矢だった。矢は直ぐに抜かれ、弾かれるが回避するには十分な時間だった。愛奈は跳びつつ、膝辺りを狙う。…少し斬り込みが入ったが浅い。

 

 

 

硬い、固い。兎に角相手は堅牢だった。こちらの攻撃を通さずそれでいて動作こそ遅いがこちらを一撃でミンチにするような攻撃力。相手にしていてこれほど厄介な存在はなかった。…愛奈と翔馬も直撃こそ免れてるが余波や消耗で苦戦を強いられた。

 

 

 

「…本当、感心する硬さですね。早く倒れてほしいのですが…。」

 

 

 

独りごちる愛奈。今も沙耶のサポートで間一髪を脱した。じり貧になることを恐れてる彼女は、苦い顔をすることになった…そして瞬間、業呪の攻撃が一転した。今までは近くの愛奈や翔馬を狙っていたが遠距離攻撃する沙耶に対して同じく遠距離攻撃で反撃をした。

 

 

 

それは投石だった。…だがただの投石と侮るなかれ、それは木々を薙ぎ払う必殺の威力を持っている恐るべき威力だった。

 

 

 

「がっ…!?」

 

 

沙耶は自慢の動体視力で避けはした…が投石の破片までは避けきれず、足に致命的なケガを負ってしまう。…見れば分かるほど痛々しい傷だ。それでは移動もままならないだろうというのが一瞬で分かる。愛奈も翔馬も一度距離を取っていたのが仇となった。沙耶に止めを刺すべく、業呪が駆けた。巨躯に似合わないスピードで。

 

 

 

「沙耶!!」

 

 

愛奈が叫ぶ、そしてそれ以上に身体が動く。業呪が沙耶に向けてその剛拳を振り下ろす。…が、それが沙耶に直撃することはなかった。

 

 

 

 

「ふぬ…ふんぐ…ぬ…ぬぁ…!!」

 

 

 

愛奈は己が驚くスピードで業呪と沙耶の間に割って入った。そしてその拳を薙刀で受け止めた。地を砕く拳をその身で受け止めた反動は大きく、愛奈の腕が嫌な音を立てる。そして地面がひび割れ、少しずつ愛奈がめり込んでいく。必死に食いしばっているが直接の力比べでは業呪が上だ。…そこでぼさっと見てる彼らではない。沙耶は動かない足を引きずって動き、ボウガンを片手で構え、爆薬を付け、業呪の顔に打ち出す。…そして爆発し、業呪の視界を奪った。一時的なものに過ぎないがその隙に、翔馬が突貫した。

 

 

 

「クソがぁぁぁぁ――――!!」

 

 

この瞬間翔馬は青く目色が変色していたがその場にいる誰も目の前の事に必死過ぎて、気が付きはしなかった。業呪の懐に潜り込んだ彼は死に物狂いの一撃を業呪の胸に叩き込んだ。

 

 

すると何ということか。今まで揺らぎもしなかった業呪が吹き飛んだ。…しかし完全に倒すには至らなかったか木を薙ぎ倒しながら起き上がった。しかし大分距離はある。

 

 

 

「愛奈様!」

 

 

「愛奈先輩!!」

 

 

膝をついた愛奈を守るように翔馬が立ち塞がった。だが愛奈は立ち上がり、一つの提案をした。

 

 

 

「大丈夫です…まだ動けますから。…翔馬君、沙耶。一つ賭けてくれますか?」

 

 

「…俺は愛奈先輩を信じるって決めましたんで。」

 

 

「異論はありません…どちらにせよ次で決めねば我々は全滅でしょう。」

 

 

頷く翔馬と沙耶を見て愛奈が言葉短く話す。業呪が迫ってくる。

 

 

 

「先ほど翔馬君が叩き込んだあそこ…恐らくあそこが弁慶の泣き所です。…次の一撃で決めます。あそこに全力全開を叩き込みます。…合わせてくれますね?」

 

 

了承を取っている暇は無い。彼らは直ぐに行動に移った。沙耶が、先ほどの爆薬をセットした矢を番う。そして真正面から突撃してくる業呪に向かって放つ。愛奈、翔馬はそれに僅かに遅れて駆け出す。クロスボウから放たれた矢が業呪の胸で爆発し、爆風が上がる。

 

 

その爆風で一瞬業呪は対象を見失うが、愛奈と翔馬によってその爆風は直ぐに払われた。先ほどの爆発で業呪の胸の傷がハッキリと開いた。業呪も愛奈と翔馬を知覚しまとめて二人を薙ぎ払う。…それは刹那の見切り。愛奈と翔馬が刀を、薙刀を構え、そして業呪の弁慶の泣き所に向けて刺突すると、愛奈と翔馬を薙ぎ払うのが同時に訪れようとしていた刹那。業呪の腕に矢が突き刺さった。…普通ならば何てことの無いただの矢。だが、それは勝負を明確に分けた。

 

 

 

「貫け…!!」

 

 

「終わらせます…!!」

 

 

業呪の腕が彼らを薙ぎ払うその前に、彼らの武器は業呪の胸に突き刺さっていた。…そしてそのまま思い切り裂き…業呪の胸から上が地面に落ちた。…そして塵となり消滅していった。

 

 

 

 

 

「………………。」

 

 

翔馬は無言で倒れ伏した。極度の緊張状態から解放された反動だった。愛奈も同じく倒れた。既に腕の骨が何本も折れてる彼女は今ので限界だった。向こう側で沙耶が自身の止血だけは済ませており木にもたれ掛っていた。

 

 

 

 

 

 

「…生きてるんですね、俺たち。」

 

 

 

「……ええ、残念ですが死に損なったようです。」

 

 

 

「縁起でもないことを言わないでください愛奈様…。」

 

 

 

死屍累々がそこに広がっていた。…漸く動けるようになるころには日が昇り既に朝と呼べる時間になっていた。

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