生徒会長の生存戦略   作:しが

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初当行


弐拾壱. 進み始める物語

人間は生まれ持った才能だけで大成した者はいない。天地が霞むような強く圧倒的な才能を持って生まれたとしても磨かれなければその才能は何も伸びない、ただの腐ったもので終わる。

 

 

たとえどれほど才能に恵まれていようとも、その才能だけで強くなった物は…いない。

 

 

 

「禍を刈り取りしは我が刃。零度よりも凍えし牙にて呪いの業を滅ぼさん。故に汝ら、これより進むのを禁ずる。」

 

 

…それは百は簡単に超える上級業呪の数、地より湧き出したそれは東京聖城学院の学舎を今にも蹂躙しようとしていた。そして立ちふさがるはたった一人の少女。何という自殺行為、普通ならば彼女は物の数秒で蹂躙される運命にある。しかし少女は余裕の態度を崩さずに、自信満々に立ち塞がる。

 

 

 

「お初にお目にかかります、業呪殿。我が名は冷泉寺愛奈。霊仙を祖とし、千年。無辜の民を業から守りし冷泉寺、次期当主。我が天命に従い、汝らを討ち祓わんとする者。」

 

 

上級業呪たちは一斉に襲い掛かり始める、到底、一人の少女が防ぎきれる密度ではなかった。しかし業呪達の歩みは阻まれることとなった。少女を中心とした壁に阻まれたのだ。

 

 

 

「冷泉寺が何故冷泉寺と呼ばれるか、その真髄---どうかご照覧あれ。」

 

 

少女が薙刀を地面に突き立てると冷気が立ち込める。…急速に立ち上がった冷気は凝固し、その膨大な量の冷気に見合うだけの氷壁を作り上げてしまった。周辺数千メートルには及びかねない巨大な氷の檻。それが業呪の道を阻んだ正体だった。

 

 

 

「祓呪『氷獄』。この凍牙からは決して逃しませんよ。」

 

 

…そして少女一人による防衛戦が始まるのだった。

 

 

 

――――――――

 

 

 

遂にこの日を迎えることとなった。10月14日。…夏休みが明けてから生徒たちが全力を挙げてすべて取り組んできた事柄、その成果を披露する場。誰も彼もがこの日を待ち侘びていたと言っても過言ではなかった。

 

 

 

『それでは…これより第56回、聖城祭の開催をいたします。』

 

 

 

生徒会長たる冷泉寺愛奈は全校生徒が溢れる式場にて普段通り、凛とした姿勢で良く通る声で宣言する。

 

 

『現在までに至るまで皆さんの頑張りがあったからこそ、このように無事に開催することが出来ました。これまでの努力を形で見せる時が来ました。安全第一をモットーに素晴らしき努力の成果を父兄や皆様に是非披露しましょう。』

 

 

愛奈が少し見渡すような動作をして、背後にいる生徒会のメンバーに目配せすると再び凛とした姿勢で告げる。

 

 

 

『それではこれを開会の言葉に代えさせていただきます。またご来賓の皆様に於かれましては当校の聖城祭を心行くまでにお楽しみいただけると幸いです。』

 

 

来賓に一礼し、生徒代表としての合図を終える。

 

 

『―――年、十月十四日 生徒会執行部会長 冷泉寺愛奈。』

 

 

締めの言葉と同時に愛奈は降壇し、会場から拍手が漏れる。…そしてこのようにして東京聖城学院高等部の一年に一度の祭典、『聖城祭』は幕を開けた。

 

 

 

降壇してすぐ、愛奈は次の作業にどんどん追われていく。生徒会のメンバーに指示を出しそれと並行しながら運営本部の意味もある生徒会室に次々なだれ込んでくる問題の対応に追われていた。

 

 

 

「天宮さん、けが人が出た場合は救急テントだけで足りなくなる場合は保健委員だけでは対応が出来なくなるので以前集めておいた有志に声掛けを。」

 

 

「はい。」

 

 

「岸田さんはそのままデータ入力を続けてもらって構いません。ただし出店のものに対して気を取られないように。」

 

 

「はい…。」

 

 

「山中さんは来客誘導の陣頭指揮をお願いします。押せ押せの状態で逸る人もいるかもしれません。現状の運営委員だけでは経験が足りてませんので効率よく指揮をお願いします。」

 

 

「分かりました。」

 

 

「石動君はこの書類の束を校長へ。そうしたらすぐに戻ってきてオブジェの応援にお願いします。」

 

 

「はい。」

 

 

生徒会役員は皆、休む暇なくせわしなく動き続けている。特に愛奈はもう怪我から完全に復帰しているためいつもの数倍以上は動いているような速さで仕事を片付けて行ってしまってる。翔馬も完全に息をつく暇すら無く、実に良く動き回っているような状況だ。大量の荷物を抱えながら翔馬はお得意の怪力を発揮しつつ階段を駆け下りる。そして校長室までダッシュするとその足を止める暇なく返す足でオブジェが崩れてきたという場面の応援に向かう。玄関に着くと聖城祭を示すオブジェの一つが確かに落ちてしまっている。何人かの実行委員が手作業で戻そうと奮闘しているが如何せん大きく、そして重い物を脚立程度で押し上げるのは流石に無理があった。

 

 

 

「生徒会庶務です。応援に来ました。」

 

 

「…貴方は…!助かりました。」

 

翔馬の顔を見ると実行委員の少女は少し安心したように彼を見た。

 

 

「申し訳ありません、お願いしてもよろしいでしょうか。」

 

 

「ええ、任せてください。」

 

 

翔馬は自信がある様に頷くとまず二人で支えても持てなかったような巨大なオブジェを彼は片手で担ぎ、そしてそのまま悠々と跳躍して見せた。その驚異の身体能力に周囲ではおおっと声が上がる。しかし彼はどこ吹く風のようにオブジェの修復作業に取り組んだ。そして今度こそ付け終わると昇降口の上部につけた場所から飛び降り、先ほどの実行委員の少女に声をかけた。

 

 

「終わりました。これで問題ありませんか?」

 

 

「はい、完璧です。お手数をおかけしました。」

 

 

 

今や生徒会庶務の話は中々生徒の間では有名だった。一年生で生徒会入りした人物ということが筆頭にその驚異的な腕力や運動能力を披露する場も多いため、彼の話もなかなか広まったのだった。そして見事な手際で解決をした翔馬は賛辞を貰い、それをやんわりと固辞しつつ生徒会に戻るための道を進んだ。そして一人の知己と遭遇することになった。

 

 

(…葵。)

 

 

翔馬が自身のクラスを通った時、クラスの出し物でもある迷路の集客をしている幼馴染の少女が見えた。翔馬は生徒会役員という立場上、教室の店番には戻れないためその業務は免除されているのが翔馬には以前からどうにも葵の事が気がかりだった。言葉では説明しきれない嫌な予感がしてたまらないのだ。…しかし通る場所にいる葵はいつ見ても普通の幼馴染で家族の葵だった。彼女と目が合う。そしてウィンクを返された。不覚にも少しときめいた翔馬はそのまま気恥ずかしい気分を覚えながら、去っていった。

 

 

 

翔馬が立ち去った後、葵は一人動き始めた。

 

 

 

「笠霧さん、私の出番はいったん終わりだよね?」

 

 

「ええ、そうだれけれど。」

 

 

「それじゃあ、少し失礼させてもらうね。」

 

 

「構わないけれど…。」

 

 

「あは、大丈夫。後で回る約束は破らないよ。それじゃ」

 

 

葵は燐にひらひらと手を振り、そのまま群衆溢れる廊下に消えていった。…そして誰もいないはずの地下に向かう鍵を彼女が所持していることと邪悪に笑う口には誰も気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

「聖城祭を開く意味は何があると思いますか、翔馬君。」

 

 

生徒会室。現在、生徒会室の長である愛奈以外は全て出払っており、翔馬と愛奈の二人きりになってしまった。そんな中、愛奈は作業片手に問いかける。同じく作業片手に翔馬は答える。

 

 

 

「確か、通常の学生のようなイベントを開催することによって祓呪師のイメージ緩和を図るため、でしたっけ。」

 

 

「ええ、そうです。今となっては祓呪師は公認の存在ですから、そこまで忌み嫌われるわけではないんですが。しかしどうしても祓呪師として目覚めたものには一般人とは隔絶した力の差が生まれます。今となっては祓呪師を目指すも目指さないも当人の自由ですが、やはり一部の人間には祓呪師は蔑まれる対象のようです。」

 

「…嘆かわしい話ですね。」

 

 

「全くです。祓呪師が居なければ生活の安全が保障されるかも分からないというのに。…ともあれ、そう言った偏見が伝播しないように。祓呪師もまた人間であるということを喧伝するため、この聖城祭は行われています。後は様々な思惑がありますが、一般人と祓呪師の心理的距離を縮めるというのが大きな目的なのかもしれませんね。」

 

 

まぁこれは推測にすぎませんがと愛奈は締める。そして幾分かの沈黙が流れ、愛奈が不意に口を開いた。

 

 

 

「翔…いえ、石動君。少しばかり聞きたいことが―――」

 

 

しかし愛奈の言葉は全て発することはなかった。生徒会役員が全員つけているトランシーバー。緊急時の連絡用のそれがけたたましく鳴り始めたのだ。

 

 

 

『会長---天宮です!』

 

 

「天宮さん、どうかしたのですか。」

 

 

『私も何が何だか…いえ、業呪が…業呪が、突然現れました!』

 

 

「…!!石動君!」

 

 

「はい!!天宮先輩、業呪は何処から現れましたか!?」

 

 

『それが見当もつかず…兎に角、生徒会はこれから避難誘導に当たります。教職員が業呪の対応に当たります』

 

 

「天宮さん。その伝達は不要です。教職員の方々にも避難誘導に当たる様にお伝えください。」

 

 

『…会長?』

 

 

 

「その業呪は全て私が対処に当たります。」

 

 

きっぱりと、誰にでも分かるように愛奈は宣言した。翔馬も、トランシーバーの向こうの天宮花音も驚いた表情をしていただろう。しかし愛奈は迷うことなく宣う。

 

 

 

「天宮副会長、直ぐにそう伝えてください。…誰も死なせないためにも。」

 

 

『は、はい‼』

 

 

花音の慌てた声がトランシーバーの向こう側から聞こえる。そして愛奈と翔馬は見合った。

 

 

 

「俺も…」

 

 

「駄目ですよ。」

 

 

翔馬の言いかけた言葉を愛奈は遮った。きっぱりと強い意志で。

 

 

「今、翔馬君の武器はまだ完成していないのですから、そんな自殺行為を許容するわけにはいきません。」

 

 

「…それは。」

 

有無を言わせない正論で翔馬は押し黙ってしまった。言葉通りに、翔馬の刀はまだ完成していなかった。そんな中で戦いに赴くのはまさに自殺行為。止められて当然なのだ。

 

 

 

「大丈夫です、私は負けませんから。有象無象程度には。」

 

 

業呪、人類にとっての怨敵にして人類が行き着く可能性の一つ。その群れに一人で突っ込むなど正気の沙汰ではなかった。だが、翔馬は止めることをあきらめた。

 

 

「…本当にお気をつけて。」

 

 

「問題ありません。それよりもあなたも早く避難を。」

 

 

「…分かりました。」

 

 

彼女の頑固な性格はもう翔馬も理解している。それに業呪の群れに相対できるのは彼女しか存在しないことは彼は痛いほど理解していた。冷泉寺愛奈の強さを知るからこその判断でもあった。背を向け駆け出す。今の翔馬は武器がない。避難する事こそが彼の最適な行動だったが…

 

 

 

「…葵?」

 

 

避難誘導が済んでいるかを確認するために校舎内を駆け回っていた翔馬だったが、廊下の隅に居るその幼馴染の少女に疑問を呈さずにいられなかった。

 

 

「葵、何やってるんだ!?早く避難を!」

 

慌てながら声をかけ、葵の居る隅に向かって走り出す。そしてその発する異様な雰囲気に呑まれた。

 

 

 

「…葵?」

 

 

それは普段の彼女から発せられるものではない。非常に禍々しく、黒いものだった。

 

 

『…遅かったね、翔馬。』

 

 

そして葵の姿をしたなにかは喋る。葵の声で。だが、翔馬はそれが葵でないことを確信した。葵はこんな禍々しいものではないと。

 

 

 

「…誰だ、お前は。」

 

 

『嫌だなぁ…私は立華葵だよ。翔の知る通りのね。』

 

 

 

…禍々しいその存在と翔馬は対峙し始めた。…誰もいない校舎にて。

 

 

 

――――――――

 

 

…業呪の侵攻は見事に阻まれた。それもたった一人の少女の手によって。

 

 

氷の檻に囚われた業呪達は一体たりとも例外なく細切れにされ、全てが塵と帰った。

 

 

 

咆哮する業呪、愛奈はその大ぶりな爪の一撃を跳んで回避し、腕を切り落とし、怯んだところで上半身と下半身を真っ二つにした。次に襲い来る業呪も薙刀『氷楼』で受け、力比べを制し、蹴りで怯んだところを脳天に一撃。そしてそのまま真っ二つとなった。

 

 

そのようにして100体は下らなかった業呪は全てが狩られた。当代最強の祓呪師の手によって。氷の監獄―――祓術『氷獄』が解除され、校舎を丸々と覆っていた氷が崩れ落ちていく。元々校庭から湧き出た業呪を市街地に逃がさないように閉じ込めるために行使した祓術だったが、結果的に業呪にとっての墓場となった。

 

 

 

「……まだ。」

 

 

しかし愛奈は確信している。今日こそがXデー。自身の命を左右するその日。この程度で終わるはずがなかったのだ。その確信を裏付けるように新たな気配が現れた。

 

 

 

「流石ですね、この程度では物の数にはなりませんか。」

 

 

 

「…どういうことです。」

 

 

愛奈は現れたその気配に少なからず動揺の表情を見せた。普段感情を表にすることがあまりない彼女にとって珍しいことだ。

 

 

「答えてください、沙耶。」

 

 

 

「そのままの意味ですよ、愛奈様。私がこの襲撃を手引きした者ということです。」

 

 

現れたその人物は愛奈の側仕え、姉弟子の新寺沙耶だった。

 

 

「尤も私一人だけではありませんが。」

 

 

フフッと不敵に微笑むその姿からは普段のクールな彼女からは感じることのできない禍々しい気配が漂っていた。…そして愛奈は何かを確信したように見据えた。

 

 

 

「なるほど、納得しました。…彼女の悪意に漬け込みましたね。」

 

 

 

「初見でそこまで見抜かれるとは…流石は愛奈様とでも言いましょうか。」

 

 

沙耶の姿をした沙耶ではない何かは喋る。しかし姿は現さない。

 

 

 

「…どうしてですか、沙耶。何があなたをそんな憎悪が駆り立てたんですか。」

 

 

クククッと哄笑する沙耶。歪んだ笑いから漏れたのは怨嗟の声だった。

 

 

 

「それは私が貴方の全てを許せなかったからですよ、愛奈様。私からすべてを奪った貴方が。」

 

 

そして憎悪に塗れた視線を愛奈に向けるのだった。

 

 

 

「冷泉寺の嫡子、という私の全てを奪ったお前を!!」

 

 

「…!」

 

 

愛奈の眉が動いた。憎悪のままに沙耶は吐き捨てる。

 

 

 

 

「お前は全て私を足蹴にして今の地位にいることを何も知らない…だからこそ許せない。」

 

 

「沙耶…貴方は…。」

 

 

 

「そうだ、私が冷泉寺仁蔵の本当の子供…そして冷泉寺家の正当な嫡子だったものだ!!」

 

 

血走った目からは異様な程の憎悪が漏れ出る。しかし愛奈は目を逸らさない。

 

 

「私は正式な後継ぎとして育てられた。…だがお前が現れたことで、冷泉寺仁蔵は才能溢れるお前を選んだ。私という本当の子供を捨ててなぁ!!私の復讐したいのはお前と、冷泉寺そのものだ!!」

 

 

普段口数の少なかった沙耶の姿はもうそこにはない。あるのは報復心に囚われた一人の哀れな少女の姿だけだった。沙耶は怒りのままにボウガンを放った。…それはあり得ない速度で放たれ愛奈を貫こうとした。愛奈は生来の直感で危機を察知し、しゃがんだことで直撃は免れた。しかし制服の背中部分が勢いだけで剥がれた。愛奈は立ちあがり、憎悪に塗れた少女に向き直る。

 

 

 

 

「…私が冷泉寺の正当な嫡子でないことはずっと前から気づいていました。」

 

 

裂けた制服から彼女の背中が露になった。

 

 

「…っ!?」

 

 

「本当の嫡子からこの立場を奪ってしまったこと、申し訳ないと感じたこと。それはもう数えきれないほどでした…まさかそれが沙耶だったとは夢にも思いませんでしたが。」

 

 

 

「お前…その背中…。」

 

 

露になったのは背中全体に広がる大きな裂創。その古傷は未だ彼女に刻まれていた。

 

 

「…けれど私はその本当の嫡子の代わりにあの仕打ちを受けられてよかったとそう思っていました。」

 

 

「…まさか…。」

 

 

 

「最初に言っておきますよ、沙耶…冷泉寺の嫡子なんて良い物じゃありません。強いて表現するなら、そんなものクソ喰らえです。」

 

 

愛奈は薙刀を構え、次に飛んできた矢を弾いた。

 

 

「どうやら私たちは少し話し合う必要があるようですね、手荒く行きますよ。沙耶。」

 

 

「…ちっ!!」

 

 

沙耶の周囲に数体もの上級業呪が召喚されてくる。無より這い出しそれは先ほどの上級業呪より更に禍々しいものだ。

 

 

「それでも…私はお前が許せないんだ!!」

 

 

そして愛奈は駆け出した。

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