生徒会長の生存戦略   作:しが

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初投光です


弐拾弐.雪解けの時

巨躯から繰り出される剛腕の一撃は容易に地面を抉ることが出来る。

 

 

召喚された3体の上級業呪…猿人型。腕が長く、そして全長もおおよそ5mほどと見るだけで圧倒的な威圧感を感じさせる。それが3体、常人ならば存在することが烏滸がましいほどの場だ。

 

鉄槌が落ちる。砂塵が舞い、視界が曇る。愛奈は跳び、そして走り抜ける。業呪の裏側に回り、薙刀『氷楼』を突き落とすような構えになり突進。一体を屠らんと走り抜け、そして妨害される。火炎玉が飛び、愛奈は緊急回避行動を取る。横に躱し、妨害したモノの正体を見る。他ならぬ後回しにしようとした業呪だ。休憩する間もなく、3体目の業呪が姿を現す。砂塵を振り払い吶喊する業呪、再び火炎を吐こうとする業呪、そして振り向き様に裏拳を当てようとする業呪。3体全て違う行動を取り、追い込まれる。

 

 

愛奈は目を閉じ、その場で静止した。それは見るならば諦め。詰みに見えたかのような光景のため、全てを諦観した人間の取る行動。

 

 

しかし冷泉寺愛奈はその類に当てはまる人間ではなかった。目を閉じたまま、薙刀を上空に投げた。裏拳が迫り来る。愛奈は背面跳びの要領で空へと浮かび上がる。背中すれすれでその巨大な拳を避ける。そして直ぐに火球が来る。愛奈はまだ目を開けず、先ほど宙へ放り投げた薙刀を足で捉えた。そのまま綺麗なフォームで蹴り飛ばし、飛んで来る火球に相殺する。弾かれた薙刀の軌道を確認すると、吶喊してきた業呪が振り下ろす握り拳を華麗に回避し、空中で二回転するような優雅さを見せつけた後、業呪の握り拳を足場に、跳ぶ。この時、ようやく目を開き、薙刀の軌道上に出て薙刀を回収する。そしてそのまま回転しつつ、火球を飛ばしてきた業呪へ薙刀を振り下ろす―――

 

 

「っ…。」

 

 

業呪も咄嗟に腕でガードし、ガキィンという音が鳴る。

 

 

「流石に硬い…。」

 

 

このまま崩すのは不可能と判断した愛奈は瞬時に作戦を切り替え、一番脆い部分を崩すために空中から急ぎ、落ちる。そして前転気味に着地すると踏みつぶしてこようとする足の間を駆け抜け、業呪の裏側に回り、腰を砕こうとする。…今この状況で他2匹の業呪が辿り着くのは多少時間がかかる。いける…そう確信した愛奈はそのまま腰へと刃を突き刺す…しかし危機を察知した愛奈は薙刀でそのまま右を斬り払った。矢が落ちた。

 

 

 

「私が居るのを忘れたか、冷泉寺愛奈!!」

 

それは沙耶のボウガンから放たれた矢だった。残念ながらそれに答えている暇はない。愛奈は振り向き様の業呪の一撃を回避するためにバックステップ。結局3匹の合流を許してしまった。

 

 

 

「やれ!!」

 

 

沙耶の指令とともに業呪が再び動き出す。そして沙耶自身もいくつもの矢を放つ。愛奈は優れた動体視力と反射神経で回避しつつ、走り出す。面倒だなと思いつつも思考するのを止めない。

 

 

 

「あまり使いたくはなかったが…。」

 

 

氷楼の先端に冷気が立ち込める。そして愛奈は駆けながら前方に冷気を放った。突如として壁が現れた。先ほども披露した氷獄の簡易版だ。しかしそれは閉じ込める用途ではなく愛奈は壁に向かって駆け出した。そして次から次へと冷気を放ち、足場を作り出していく。愛奈は跳躍する。足場に乗り、さらに跳ぶ。そして氷壁の前に躍り出る。この間、業呪はずっと逃げる愛奈の背後を追っていた。スピードでは愛奈に分があるため逃げている間には業呪に出来ることは多くない。そして愛奈は壁を蹴った。反転。追いかけてくる業呪に向かって愛奈は宙から突っ込む。火球が飛ぶ、薙刀で払う。少し火傷を負うが構っている暇はない。3体いる内の左端の業呪に狙いを定める。位置エネルギーを用いたパワーと愛奈生来の怪力を合わせ、業呪の頭部に直撃。そしてそのまま勢いに任せて首を撥ねる。首を落としたことを確認するとそのまま離脱…

 

する前に沙耶からの矢が妨害される。二体の業呪が連携して突っ込んでくる。拳が愛奈の目の前に振るわれる。咄嗟に薙刀でガードするが衝撃までは殺せない。そしてもう一体の業呪が横払いで愛奈の薙刀を弾き飛ばしてしまった。そして叩き落とされる。脳にダメージが回り、視界がはっきりしない。愛奈は地面に落とされてしまったようだ。

 

 

「呆気ない幕切れだな、そのまま踏みつぶされてしまえ!!」

 

 

沙耶の侮蔑の言葉が届く。業呪の巨大な足が愛奈の前に迫る。…瞬間、彼女が復帰する。

 

 

砂塵が舞う。業呪の足が愛奈を押しつぶした衝撃が校庭中に駆け抜ける。沙耶もざまあないという表情で愛奈を見ていた…が、業呪の足は地面と接地することはなく、ギリギリの所で浮いていた。…瞬間、剣閃が駆け抜ける。業呪の足が切断され、咆哮しそのままバランスを崩して倒れた。

 

 

 

「馬鹿な!?」

 

 

沙耶の顔が驚きに変わる。砂塵から離脱した人影が姿を現す。…まぎれもない冷泉寺愛奈だった。

 

 

 

「二振り…だと?」

 

 

「知らなかったんですか、沙耶。奥の手は隠しておくものだと。」

 

 

だが愛奈の手にいつもの彼女の武器である青い薙刀、氷楼はなかった。彼女の手にあるのは刀…黒い刀身をした禍々しい色合いの刀だった。破呪鉱というよりも業呪そのものに近しい日本刀…。

 

 

 

 

「まさか『呪刀』を持ち出したのか!?」

 

 

「ええ、無断で少々拝借しました。」

 

 

薙刀術こそが愛奈の真価。しかし彼女が他の武道を修めていないわけではなかった。

 

 

 

「貴方も知っているでしょうけれど沙耶、私は薙刀術だけでなく剣術も皆伝ですよ。」

 

 

「…知っているさ、だからこそ腹が立つ!!」

 

 

キッと更に目つきが鋭くなり、沙耶は矢を放った。愛奈は次の作戦行動に移る。このまま業呪を倒しきったとしたも増援が来てしまえば数に押し切られて負ける。倒し続ける、これは論外だ。ならば答えは一つ、司令塔を無力化してしまえばいい。おそらく業呪は沙耶の意志を以て統率されているため、沙耶を無力化することで一掃できると愛奈は結論付けた。故に、愛奈は沙耶に向かって駆け出した。

 

矢を斬り払う。業呪からの火球を横に跳び避ける。

 

 

 

「お前は、私に持っていないものばかり持っていた!!」

 

 

爆薬の付いた矢が複数飛んで来る。斬り払っては爆発するだけ。愛奈は瞬時に判断し、氷の盾を展開する。矢が氷に刺さる。そして爆発する前に冷却することで爆発すること自体を防ぐ。

 

 

 

「持っていただけでは私は許されなかった!!」

 

 

業呪が走り出してくる。火球が複数飛んで来る。そしてまた沙耶から矢が放たれる。前門の虎、後門の狼。挟まれた愛奈は飛んで来る矢を踏み台にし、軌道をずらす。火球と矢が正面衝突を起こし、爆発する。気にする間もなく駆け出す。

 

 

「それは持っている者だけが言える理論だ!何も持っていなかった私はお前に全てを奪われた!!」

 

 

「何も持ってない!?よく言いますね、貴方も随分と持っている方だと言うのに!!」

 

 

沙耶が業呪を呼び出す。背後にいたはずの業呪が目の前に現れる。それはさながらワープ。愛奈は刀を構え、峰にもう片方の手を当てた。振り落とされた拳をそのまま受け止めた。

 

 

 

「大体お前の態度が気に入らない!全てを奪った癖に、それを悪びようともしない所か、何も知らないその無知な所が!!」

 

業呪が力押ししてくる。愛奈の足が押され、後退してくる。冷や汗を流しつつ愛奈は返す。

 

 

「それはすいませんでしたね!私は私のことで必死で周りを見る余裕もなかったんです…よ!!」

 

 

力比べを止め、愛奈は刀に加えた力を解放する。そのまま反動で後ろに押されるが、転ぶことなく着地を成功させる。再度走り出す。正面からの力比べでは勝機が薄い。故に愛奈は業呪が繰り出す拳を引き付ける。

 

 

 

「余裕がなかった!?お前は常に余裕そうだったじゃないか!?」

 

 

「本当のことですよ!!あの時の私には、自由なんかなかったですからね!!」

 

 

拳を躱す。そして刀を構え、閃。最も脆弱な腕の付け根を斬り落とした。業呪が悲鳴に似た咆哮を上げる。更に飛んで来る矢を足で蹴り落とすなどで対処しつつ、愛奈は冷気を集中させ、地面に放った。急速に凍結され地面は業呪の動きを鈍らせ、そのまま愛奈は走り抜ける。そして跳び上がり、袈裟切りで肩から切り裂く。止めに思い切り業呪の頭部を蹴り飛ばし、首から上を無くした。遂に業呪は倒れ、塵に還っていく。残っている業呪はあと一体。しかし先ほど足を斬り落とし動くのもままならない個体だ。愛奈は沙耶まで再び走り始める。

 

 

 

「どこまで私を馬鹿にする気だお前は!!」

 

 

「一度たりともありませんよ!私は…!!」

 

 

毒矢が飛んで来る。スライディングの要領で下を搔い潜る。そして前転を経由して立ち上がり、駆け出す。沙耶まであと五十メートルを切った。

 

 

「私は…正直、冷泉寺の稽古のことは永遠に好きになれませんよ!!」

 

 

「だがお前はそれも簡単にこなしていた!」

 

 

「簡単なんかじゃない!虐げられ、痛めつけられ、強制され…正直何度も心が折れそうになった!」

 

 

爆薬付きの矢が3本。回避している時間はない。氷の刃を放ち相殺する。そして目の前で爆発する。煙で視界が塞がれる。しかし愛奈は止まらない。煙を掻き分け、走る。

 

 

 

「じゃあ何故立ち上がれた、それが貴様の非凡な理由だぁぁぁ!!」

 

 

「私が…立てたのは…!」

 

 

 

瞬間、愛奈の脳裏にかつての記憶が駆け抜ける。

 

 

 

『…どうして私だけが…』

 

 

 

『…………飲みますか?』

 

 

 

『…ありがとうございます。…_____』

 

 

『貴方が泣いているとは珍しいですね。何か嫌なことでもあったんですか?』

 

 

『どうなんだろう、もう全部が嫌なのかな。』

 

 

『…つらくて逃げたいなら逃げてもいいと思いますけれどね。』

 

 

『でも、逃げたら…お父様は…』

 

 

『逃げるのが駄目ならば…気を紛らわすことのお手伝いは出来ます。…私にはこのお茶を淹れることしか出来ませんが。』

 

 

 

 

―――そうだ。好きだったんだ、沙耶の淹れるお茶が。例え、味が分からなかったとしても―――。

 

 

 

「私が立てたのは!!」

 

 

跳ぶ、愛奈は宙から沙耶へ向かって強襲する。

 

 

 

「消えろぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

沙耶が業呪を召喚する。足を潰された業呪が落ちてくる。それは押しつぶすには十分だ。しかしこのままだと愛奈は確かに潰れる。沙耶もろとも。沙耶はボウガンを構える、絶叫しその矢を放とうとする。

 

 

 

――――そして業呪が地面に落ちた。その衝撃で校庭中に巨大な砂塵が巻き上げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

新寺沙耶は目を閉じていた。来るはずの衝撃に向けて、せめて死の瞬間を見なくて済むようにと。しかしその衝撃は一切来ることがなかった。沙耶は疑問に思いながら目を開ける。

 

 

 

「…え?」

 

 

沙耶は業呪に押しつぶされていなかった。業呪が沙耶が倒れていた数メートル先で藻掻いていた。…そして沙耶は気づいた。

 

 

この時、愛奈に抱きしめられていたということを。

 

 

 

「…何故…。」

 

 

沙耶は目を閉じる瞬間、矢を放っていた。そしてそれは見事に直撃していた。…愛奈の腹部に深々と刺さるボウガンの矢が。沙耶は理解する。放り捨てられている刀、そして転がった後。

 

 

 

「何で…私を助けた…?」

 

 

 

制服が赤く染まる愛奈。流れ出す血。沙耶自身はかすり傷はあれど致命となる傷はない。…愛奈は業呪が落ちてくる瞬間。刀を放り捨て、沙耶を抱きしめ、そしてそのまま転がることで業呪を避けたのだった。腹部にまともに矢を食らいながら。つまり愛奈は攻撃を諦め、沙耶を庇ったことになる。身を挺してだ。

 

 

「わたしが…」

 

 

息も絶え絶えに口から血を吐きながら愛奈は言葉を漏らす。

 

 

 

「私が…立てたのは…あの人と…貴方が居てくれたからだよ…沙耶姉さん。」

 

 

 

「…あっ…ああっ…。」

 

 

沙耶が愛奈を抱きとめる。彼女の顔から涙がぽろぽろと出る。

 

 

「私は…何てことを…。」

 

 

 

沙耶は完全に正気に返っていた。

 

 

 

沙耶が愛奈を恨む気持ちに嘘偽りはなかった。冷泉寺の正当後継者という立場を奪われ、そして才能の差を見せつけられる続け劣等感は肥大化していた。…けれども沙耶にとって愛奈はそれだけではなかった。今よりまだ幼い時。愛奈は才能を見せつけていた。けれども同時に沙耶を「沙耶姉さん」と呼び慕っていた。そして沙耶もまた彼女に慈愛を持って接していた。これもまた嘘偽りない事実だった。

 

 

 

「どうして私は…そんなことを忘れて…」

 

 

「自分を責めないで、沙耶…貴方は…あやつられていただけだから…。」

 

 

カハっと血を吐き出す愛奈。沙耶は悪意に付け込まれ、感情をコントロールされていたに過ぎない。慈愛の心を押さえつけられ、憎悪が増長させられた。それに過ぎなかったのだ。

 

 

 

「…愛奈…様…。私は…」

 

 

後悔に塗れる沙耶。しかし物語は待ってくれないのが常だ。

 

 

 

 

『所詮この程度か…呆気なかったな。』

 

 

それは響く声。何処から聞こえてくるかも分からない謎の声。

 

 

 

『手向けだ。せめて主従まとめて逝くと良い。』

 

 

 

地面から現れるは先ほど倒したはずの業呪数匹。新手はこちらを焼き尽くす火球を放つつもりらしい。

 

 

 

「沙耶、逃げて…私を見捨てればあなたは…助かるから…。」

 

愛奈は言う。このまま自分を連れても間に合いはしない。しかし沙耶一人ならば助かると。

 

しかし沙耶は逃げない。愛奈を地面に丁寧に置くと。

 

 

 

「…貴方が憎かったはずなのに、私はそれ以上に…貴方を大切に思っていたんですね…。今更気づくなんて本当に皮肉なものです…。」

 

 

 

「沙耶…?」

 

 

「愛奈様…あの男は凶悪であり、そして強力です…しかし貴方と彼ならば絶対に勝てるはずです…。先までの無礼を許してほしいなどというつもりはありません。」

 

 

 

「沙耶…やめなさい…。」

 

 

 

「…ご武運を、愛奈様。」

 

 

 

そして火球が2つ、放たれた。最大威力のそれは対象を焼き払わんとし…

 

 

 

 

「さ、せるかぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

絶叫が響く、火球を放った業呪の体が青い閃光によって両断された。しかし火球はもう止まらない。愛奈が氷の壁を展開しようとするが力が入らない。血を流しすぎた。

 

 

 

 

「…これが、私の忠義だ!」

 

 

そして沙耶は残っていた爆薬を全て投げつけ、火球を弾けさせる。激しい爆発が起き、それは周囲を巻き込む。そして沙耶は最後に愛奈に振り返り、笑みを零すと。

 

 

 

その爆発に姿を消していった。

 

 

 

「沙耶…沙耶ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 

 

そしてボウガンが愛奈の傍に転がってきた。…爆風は愛奈の手前で押しとどまった。

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