生徒会長の生存戦略   作:しが

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発東港


弐拾参.因縁生みし閃光

「---さん!いなさん!!」

 

 

彼女を呼ぶ声が聞こえる。誰かが彼女を抱きかかえ、現実へと回帰させる。そして、彼女の意識が現実へと戻ってきた。

 

 

「愛奈さん!!」

 

 

声の主、それは石動翔馬、その人だった。視界が明瞭なものとなっていく、意識が浮上する。不確かだった空虚な世界は確かな虚構なき世界と塗り替わる。

 

 

 

「沙耶は…。」

 

 

周囲が赤い。メラメラと火事が起きている。大規模な爆発があったように地面が抉れ、校庭にクレーターが出来ていた。瞬間、彼女は察した。横に転がるボウガンとその爆発が全てを物語っていた。

 

 

「沙耶…沙耶…。」

 

うわ言の様に愛奈は繰り返す。呆然自失とした彼女はもう形のない彼女をそこに求めている。翔馬は全て理解していながらも歯痒さを覚えずにはいられなかった。

 

 

 

「と、とにかく出血が酷いので応急処置を…!」

 

 

「沙耶姉さん…ごめんなさい、私が貴方のことを理解できなかったら…私が全て奪ったから…私に力が足りなかったから…貴方を死なせた…こんな私を庇って…どうして…。」

 

 

まさに心ここにあらず、火災の様子を見て愛奈は魂なき表情にてぶつぶつと小さい言葉を漏らす。

 

 

「やっぱり私は生まれてきちゃ…いけなかったんだ。…私の存在が沙耶を殺して…。」

 

 

「愛奈さん!いい加減傷を塞がないとあんたまで死ぬ!!」

 

 

「死ぬか…この罪はもう死でしか…ああ、死ねば楽になれるのかなぁ…。沙耶が欲しかったもの全部奪ってまで生きている人生って何の意味があるのかな…。」

 

 

まずい。このままでは怪我の治療すらままならない。翔馬は本当に最悪の事態を危惧する。しかし愛奈は現実に戻ってこれない。一番親しいとでも言うべき存在の死に立ち向かえていない。

 

 

―――現実が受け入れられない、分かる…分かるさ…だけどよ…

 

 

 

 

「いい加減にしろよ!!」

 

 

翔馬の怒声が響いた。彼の中での博打の行動が始まる。沙耶と特段親密だったわけでもないがそれでも彼女の最期の意図が組み止めれないほど愚かではない。このままでは彼女の遺志すら無駄になる。それだけは避けねばならない。それは託されたものの義務でもある。

 

 

「家族が死んでしまって悲しくなるのは分かる、生きていく希望が無くなるのも分かる!けれど、あんたはそれじゃダメだろ!『冷泉寺愛奈』はそれじゃあ、ダメだろ!!」

 

悲しむ気持ちも惜しむ気持ちも彼は全て理解できる。彼が家族を食われたその日からその思いが欠けていたことはない。ただ、それじゃあダメなんだと彼は叫ぶ。

 

 

「『冷泉寺愛奈』はもっと気高くて、人の死を悲しめて、それでいて折れない人だろう!だから…アンタがそんなんじゃ、ダメなんだよ!!」

 

 

それは一見すれば罵倒の様に聞こえるかもしれない。だが、本質はそうではない。これは愛奈へ直接呼びかける奮起の言葉に過ぎない。…言葉が届き、愛奈の震えが止まった。流していた涙もいつの間にか枯れていた。

 

 

 

「…好き放題言ってくれる。」

 

 

愛奈の手が動いた。刺さっていたボウガンの矢に手を添えるとそのまま

 

 

 

「……っく。」

 

 

うめき声を漏らしながら矢を引き抜いた。傷口から血が溢れる。すでに出血しているのにこれ以上は危険だと言わんばかりに。

 

 

「愛奈さん!?」

 

 

「大丈夫…。」

 

そして傷口に手を当てると、冷気が集中し、そのまま血を止めてしまった。そしてそのまま冷気を投げると火事すら凍り付かせてしまった。

 

 

 

「…まだやることがあるというのは同意です。ここで斃れるわけにはいきませんから。それに…」

 

 

凍らせた炎が崩れ落ちた先、沙耶を散らせた火球を放った業呪。その姿が首を切断されようとも塵に残らず、形を保っていた。

 

 

「どうやら、翔馬君が切り倒したあれは、少しばかりお怒りのようですね。」

 

 

「上等です、こっちだって腹に据えかねてるんですから。」

 

 

翔馬の利き手にありしは蒼い刀身をした刀。気になるところではあるがそれよりも今は…

 

 

 

「何があったかは後で詳しく話は聞きます、しかしその前に…。」

 

 

姿を保っていた業呪達が崩れだす。しかしいつものように無に還るのではなく、姿がドロドロと溶け落ちていき、そして一か所に集中し、やがて一つの形を取る。…人型だ。

 

 

 

『…良くも私の邪魔をしてくれたものだ。』

 

ようやく姿を見せる声の主。そいつこそが元凶だと言わんばかりに愛奈は警戒を強める。そして闇を払い姿を現したのは…

 

 

 

「…人間の男…。」

 

 

翔馬がつぶやいた通りその姿は人間の中年程の男性のものだった。髭や髪が伸び、羽織っているものも全身を負う外套と言う異様なものだが。

 

 

 

「姿は人間ですけれど、気配は禍々しいものそのものですけれどね。」

 

 

その異様な男は恨めしいどころではないほどの怨嗟の視線を向けてきた。

 

 

 

「おのれ、冷泉寺の小娘め…貴様の一族は何処までも私をコケにするか…。」

 

 

「随分好き勝手言ってくれますね、そちらから先に仕掛けてきた戦いでしょうに。」

 

 

愛奈が黒い刀…沙耶が『呪刀』と呼ばれていたそれの切っ先を男に向けた。

 

 

「黙れ、もう我慢ならん。今すぐ最高の力を以て貴様らを葬ってくれよう…来い。」

 

 

男が指先から先ほど、己の体を構成していた紫の禍々しい気配を放つ。そしてそれが男の後ろで形となって現れる。

 

 

 

『ぁぁぁ…良く寝たぁ…それで、パパ、もう出番?』

 

 

「ああ、そうだ。」

 

 

 

それは業呪だった。…それもものすごく異質とも言える業呪。言葉を介し、まるで人間の意思があるように振る舞う業呪。見た目は人狼型だが他にはない異質さがその存在感に拍車をかけていた。そして何よりも

 

 

 

「あれは…『傷』。」

 

 

深々と目に刻まれた傷。それは紛れもなく…

 

 

 

「ククッ…ハハハッ…アハハッ。」

 

 

翔馬から漏れ出たのが狂笑。愛奈はまずいと、冷静になった頭で思考する。あれは紛れもなく傷の業呪。他ならぬ石動翔馬の怨敵---

 

 

 

「そうか…そこにいたか…漸く見つけたぞ…!」

 

 

漏れ出る笑いは狂気。見つめる瞳もまた狂気、そして浮かべる表情も狂気。全身が狂気と成った瞬間だった。

 

 

 

「…殺す。」

 

 

殺意と憎悪が塗れた視線が傷の業呪に注がれる。しかし愛奈は冷静に考察する。今の彼では勝てるすべもないと、愛奈の知識が正しければあの業呪こそが…

 

 

 

「さぁ、『カナ』。収穫の時間だ。」

 

 

『はぁい、パパ。任せてぇ』

 

 

 

―――そいつこそが物語のラスボス『カナ』なのだから。

 

 

 

 

翔馬が駆けた…というよりももはや消えたという速度に近い。そして傷の業呪も瞬間、消えた。音を置き去りにして。

 

一寸、衝撃がかける。愛奈たちと男が居た位置の中間地点。瓦礫が散らばるあたりで両者は激突していた。傷の業呪が突き刺そうとしたその爪と、翔馬が手にしていたその青白い刀身が拮抗していた。

 

 

 

「…え?」

 

 

愛奈は困惑の声を漏らした。拮抗している?そんなはずはないと。愛奈の知識によればあの業呪はそれこそ世界最強と呼べる強さを持っていたはずだ。冷泉寺愛奈を歯牙にもかけず瞬殺できるほどには。しかし石動翔馬は何故かこの時点でその業呪と拮抗できていた。

 

 

 

 

『へぇ、凄いね。この世界でアタシと力比べ出来る人がいるなんて。』

 

 

「………。」

 

 

『5割くらいの力でもみんな吹き飛んじゃうんだけどなー、じゃあ力上げるよー!』

 

 

「言っていろ、その前に貴様を切り裂いてやる…。」

 

 

どうやら傷の業呪は全力ではないらしく余力を残している。だが翔馬は憎悪に塗れた状態とは裏腹に恐ろしく冷静に戦闘を進めていた。青白い刀身が更に蒼く光ると、拮抗が崩れ、翔馬が後ろに跳ぶ。地面に軽くクレーターが出来るが、翔馬はそれを蹴り飛ばし、自らの気配を断つのに上手に利用してしまった。砂埃に紛れ、奇襲。実に理にかなった戦法を行っていた。

 

 

「…すでに完成している?」

 

 

愛奈の中で一つの疑問が確信と変わった。彼の覚醒すべし能力は既に目覚め完成しているのではないかと。…しかし愛奈は思考を止めた。今はそんなことをしている場合ではない。あの最強の業呪に翔馬が拮抗できているならば自分のやるべきことは一つ。

 

 

 

「…貴方の相手は私です。」

 

 

「…興覚めが過ぎるぞ、小娘!」

 

 

男の方を倒す。それだけだ。男は紫のオーラから刀身を引き抜く。愛奈も構える。血を流しすぎたがここで退くわけにはいかない。そして…両者駆ける。

 

 

刀同士が交わる、所謂鍔迫り合いになった瞬間…何かが愛奈の中で弾けた。まるで見知らぬ光景が彼女の脳裏に流れる。…しかし戦闘は継続している。愛奈はどうこうと言う前に、男を弾き飛ばし、そして距離を取った。幾つかの弾丸が飛んで来るがそれを氷の刃で対処する。そして一閃。男は砕けない。また距離を取った男は急に狂ったように笑い始めた。

 

 

 

「ククッ…そういうことか…哀れな傀儡め。」

 

 

「…何が言いたい?」

 

 

「貴様と殺し合うのは今はお預けだ。精々苦しめ、何も知らない小娘。」

 

 

「逃がすとでも?」

 

 

「逃がすさ。」

 

 

男は興を削がれたのか撤退しようとするがそれを阻む愛奈という構図になる。だが男が翔馬の方を指さすと、そこには

 

 

 

「…ハァ…殺す…絶対に殺す…!」

 

 

『キャハハ、殺せるのかなぁ、そんな体で。』

 

 

翔馬がかなりぼろぼろになっていた。なるほど確かに考えたわけだ。

 

 

 

 

「終わりだ、カナ。帰るぞ。」

 

 

『えー?ここで終わるなんて勿体なくない?』

 

 

「打ち止めだ。」

 

 

『チェッ、しょうがないね』

 

 

 

…男と傷の業呪は自らからあふれ出した煙の向こうに姿を消していった。翔馬は愛奈の中で暴れる。

 

 

「放せ…アイツはアイツだけは俺が殺す…殺さねえといけねえ!!」

 

 

「…駄目です。今の貴方では勝てません。私がいても、ここで死んだら駄目なのは貴方も同じです!」

 

 

暴れる翔馬を必死に押さえつける愛奈。あの男が何があったかは分からないがまだ彼を死なせるわけにはいかなかった。

 

 

 

完全に姿が見えなくなると愛奈は押さえていたのを放した。翔馬はいないのを確認すると地面を殴りつけた。

 

 

 

「クソッ!!」

 

 

そして愛奈を見ると非常に恨みがましい視線を向けている。

 

 

「どうして俺の仇を取らせてくれなかったんですか?あんたは俺の復讐を肯定すると言ったじゃないですか!?」

 

 

突っ切る翔馬に愛奈は立場とはこうも簡単に逆転するものなのかと呆れを覚えつつ、翔馬に向き直った。

 

 

 

「あと少しでアイツをこの手で殺せたというのに…」

 

 

パシン。その乾いた音は良く響いた。それは愛奈が翔馬の頬を叩いた音だった。

 

 

「…え?」

 

 

 

「勝手に死にたいなら止めない。けれどもあなたがやりたいことは無駄死にではなく仇討ちでしょう。ならば考えなさい…どうすれば仇を討てるか、そしてどうすれば復讐を完遂できるか。思考も策もなく突撃するのは愚者の行為です。」

 

 

「……。」

 

 

「…それに私もあなたには死んでほしくないんです。だから一回冷静になってください。」

 

 

「…すいません。」

 

 

態度が目に見えて変わっている。恐らく目標がいなくなったことと先ほどの平手が彼の頭を冷静にさせたのだろう。半ば信じられなさそうな顔をしているが。

 

 

 

「兎に角、今はやらなければいけないことも多そうです。戒厳令の解除や…彼女を弔ってあげなければ。」

 

 

落ちたボウガンを拾い、形も残らなかった彼女のことを想い愛奈は憂う。

 

 

「そう、ですね。」

 

 

一方翔馬の歯切れは悪い。自身の独断専行により命を危険に晒したので当然と言えば当然ではあるが。

 

 

「そういえば…その刀は…?兼弘さんの作の物のようですか?」

 

 

「ああ、これですか…それは少し話をする必要がありますね。」

 

 

「構いません、そちらで何があったか教えてください。」

 

 

翔馬は語りだす。

 

 

 

―――

 

 

愛奈が沙耶と相対していた同時刻、校舎内。

 

 

 

「…いや。お前は葵じゃないな、絶対に。」

 

 

「酷いなあ、翔。私が分かんないの?」

 

 

立華葵と似た姿をしたなにか。それはもう諸君らはご存じの通り、沙耶に取り憑いていたものと同じものである。

 

 

「…うふふ、分かっちゃうか。でもね、翔。これもまた私、立華葵の側面の一つなんだよ。」

 

 

妖しく笑う彼女。その蠱惑的な笑みは見るものをゾクッとさせるほどの驚くべき魔性を秘めていた。…そして

 

 

 

「ねえ、翔。私とこのまま行こうよ。」

 

 

「…っ」

 

 

じわじわと近寄る彼女。彼女の誘いに乗ったらもう永遠に戻れない確信があった。

 

 

「翔に私が傷つけれる?」

 

 

「…痛い所突きやがって…。」

 

 

それが葵でなくとも。体が間違いなく彼女のものだ。それを傷つけるなど石動翔馬にはできない話だった。

 

 

 

「翔のそういう素直な所好きだなぁ。」

 

 

そして地面から這い出るは巨大な黒い手。それが翔馬を掴み、地面へと引きずり込もうとしている。

 

 

「クソッ…」

 

 

「もう少しで私たちは一つになれるね、翔。」

 

 

もはやここまでかと翔馬が覚悟した時。救世主は突如として現れた。

 

 

 

「翔馬、こいつを使え!!」

 

 

聞き覚えのある声に、見覚えのない物。投げられたそれは翔馬の目の前に届く。何とか片手の拘束だけ抜け出せた翔馬はそれを掴んだ。

 

 

 

「これは…。」

 

 

青白い刀身。それは冷泉寺愛奈の持つ薙刀『氷楼』に近しい雰囲気を持った刀だった。

 

 

 

「これなら…!」

 

 

翔馬は己の持つ力を刀に込めた。蒼く光る刀身が鋭くなり、光が影の手を切り裂いたのだった。

 

 

「なっ!?」

 

 

葵の姿をしたなにかは驚愕した。そして閃光は葵の方にも向かっていった。

 

 

 

「まさか貴様---ま―――!!」

 

 

葵に向かったその光は葵の肉体を傷つけることなく背後にあった闇を吹き飛ばしていった。…光が晴れた後、葵が倒れていた。

 

 

 

「ありがとう、助かった―――大輝。」

 

 

「おう、気にすんな。」

 

 

そして翔馬は刀を投げて寄越した人物、桐沢大輝に礼を述べた。

 

 

「それにしても何でお前がここに?避難したんじゃなかったのか?」

 

 

「おう、それには色々訳アリでよ。避難はしようとしたんだが、立華さんがそこにいたのに気づいたんだ。ただ、何か訳アリなんじゃないかと思うぐらい様子が違ってな。声かけるか躊躇っている内にお前が来たんだ。」

 

 

「なるほど、まぁ何にせよ、助かった。…しかしこの刀はなんだ?」

 

 

「そいつは『碧夜』。…親父からの預かりもんだ。お前に渡すようにな。」

 

 

「ていうことは、桐沢兼弘さんは…」

 

 

「ああ、俺の父親だ。まさか親父からお前の名前が出てくるとは思わなかったけどな。」

 

 

「そんな繋がりがあったのか。」

 

 

薄々気づいていたはいたがいざ事実を聞かされると人は驚くものである。ちらりと横目に窓から校庭を見た。…そして翔馬は焦った。

 

 

 

「大輝、葵の事、任せていいか?」

 

 

「え?ああ、大丈夫だけれど急にどうしたんだよ。」

 

 

「やるべきこと、見つかったみたいだ。」

 

 

そして翔馬は窓から身を乗り出すとそのまま飛び出して行ってしまった。

 

 

この後、翔馬は蒼い閃光となり業呪を両断するのだった。

 

 

 

――――

 

 

そして翌日。

 

 

 

「翔…私、昨日まで何してたっけ?」

 

 

目覚めた葵は記憶を失っていた。翔馬はこれ幸いと言わんばかりに彼女が己を責めないように真実を伝えることはしなかった。たとえ彼女のせいでなくとも彼女は己を責めることが分かり切っているからだ。

 

 

 

「…そうですね、立華さんには残酷な事実です。この世には知らなくても良いことはあると思います。…彼女には内密にしましょう。」

 

 

愛奈もその提案に同意した。故に彼女の行動は生徒会長の強権で握りつぶされた。翔馬は彼女に、葵は業呪に襲われ精神的ショックが強く残ったという説明をした。

 

 

「怪我はないんだ、会長が助けてくれたからな。」

 

 

「そんなことがあったんだ…ごめんね、翔…私、弱くて…。」

 

 

「気にするな。弱いことは別に罪じゃないんだ。」

 

 

慰めるような言葉だがそれは翔馬の偽りない本心からの言葉だった。

 

 

「なんか、ありがとう。翔。」

 

 

そして暫く彼女は入院することとなった。

 

 

 

場所変わって愛奈。愛奈は一つの墓石に手を合わせていた。それは新寺沙耶のものだった。死体も残らず、残ったのは彼女のボウガンだけで愛奈はこれを供えるつもりだったがそれも止めた。

 

 

「…沙耶、貴方の遺志は私が果たします。」

 

 

沙耶の望んでいた冷泉寺への復讐。それは図らずとも愛奈にとっても冷泉寺の改革という形での復讐を望んでいた。形は違えど愛奈は沙耶の遺志を継ぐ。

 

 

 

「…形見になるなんて、本当に皮肉ですね。」

 

 

ボウガンを手に取り、そして仕舞った。沙耶愛用だったものを愛奈はそのまま使うことにした。

 

 

「また来ます。」

 

 

葬儀もなかった彼女の墓前から愛奈は離れた。そしてそこにいたのは石動翔馬その人だった。

 

 

 

「愛奈さん。」

 

 

「翔馬君、約束通り来てくれましたね。」

 

 

「それで、話というのは?」

 

 

愛奈が話を切り出す。いつの間にか背後には車が来ていた。

 

 

 

「あの男と切り結んだ時、私の脳内に自分ではない記憶が流れ込んできました。」

 

 

「それはまた、どんな?」

 

 

 

「…そうですね、荒唐無稽かもしれませんが、私が見た記憶は。」

 

 

 

 

 

「あの男を若くしたような少年と、私そっくりの少女…そしてもう一人の少年と共に楽しそうに過ごしていた記憶でした。」

 

 

「…それは随分とまた変な記憶ですね?」

 

 

「ええ、変な記憶です。…だからこそ確信があるんです。そのもう一人の少年は…おそらく私の父『冷泉寺仁蔵』に違いありません。」

 

 

「……マジですか」

 

 

「マジです。…だから」

 

 

そして車のドアが開き愛奈は言った。

 

 

 

「行きましょう、京都へ…冷泉寺本家へ。」

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