生徒会長の生存戦略 作:あにめ
『学園最強』、『十年に一度の逸材』、『眉目秀麗文武両道』…これでもかという賛美の言葉を一身に受ける人物。
それが東京聖城学院高等部生徒会長の『冷泉寺愛奈』である。他者を寄せ付けないほど卓越した戦闘能力。逆に他者を惹きつけてやまない圧倒的カリスマ性。実務面、戦闘面、全てにおいて誰よりも抜きんでた能力、人の目を惹くこと間違いなしの容姿。学業においてもトップを維持する優秀さ。そして何よりも他者に分け隔てなく接し、ピンチには誰よりも先に行動する人柄。
大概の噂話というのは誇張されがちだが彼女に関する噂はどれも説得力があり、むしろ噂の方が根負けしてると言われる程であった。
「…それで、翔はそんなに冷泉寺会長のことを調べてどうするの?ファンにでもなった?」
「ファンって…いや、そんなことよりそれくらい軽口を叩けるってことは思ってたより心配の必要もなかったみたいだな。」
「冗談…これ、ただの強がりだから。」
「…葵。」
石動翔馬の対面に居る少女…立華葵は翔馬の幼馴染に当たる少女である。数日前に低級の業呪に挑み…そして彼女と彼を除く全員が突如として乱入してきた上級の業呪によって犠牲になった痛ましい事件に立ち会った張本人である。
「そういうあんたはさ、随分と立ち直ったみたいじゃない?」
「いや…立ち直ったっていうより…やせ我慢してるだけだ。今でも忘れられないよ。目の前で亡くなっていった人たちのことは…。」
「あんた…まだ気に病んでるみたいだね。こんなのは慰めの言葉にもならないだろうけれど…翔にはあの事の責任はないからね。」
「…理屈では、理屈では分かってるつもりなんだ…いや、こんな話をしてても何の解決にもならない。やめよう。」
翔馬は首を振った。葵は目を伏せて…
「そうだね…」
と何処か物悲しそうに呟いた…それから無理やり話題の転換を図り。
「それで、会長のことなんか熱心に調べてどうしたの?本当にファンにでもなっちゃった?」
「いやそういうわけじゃなくて…でもファンになってもおかしくないよな…あんな所助け出されたら。」
からかい半分に言った葵だったが翔馬が妙に考え込んでしまったために難色を示す。もっと慌ててほしかったというのが彼女の心境だった。
「…まあファンとかはさて置いておいて。普通気になるだろ?あんな場面に遭遇しておいちゃさ。」
「それは確かに。それで、調べてみた結果は?」
「優秀なのは分かってたけれど調べれば調べるほど冗談みたいな話ばかり出て来た。本当に同じ学生か?って思うレベルの奴がな。」
「例えばどんな?」
葵は興味本位からかその冗談みたいな噂について調べたであろう翔馬に聞いてみた。
「曰く中等部の頃からプロに対しても引けを取らないどころかむしろ圧倒していたとか。」
「まー、上級業呪ってプロでもそもそも複数人でかかるものでしょ?それを一人で切り伏せてたのも考えると納得できるけれどね。」
「凄いのは全部噂の方がしょぼく見えて来ることだよな。」
「誇張されがちだけれどただ単に事実を述べてるだけの噂ってのも珍しいわよね。本当、一歳年上の人とは思えないや。」
「ああ、まさに次元が違う…とにかく会ってみればわかる、か。」
「住む世界が違って見えるわよね………ちょっと待って?会う??」
うっかり漏らしてしまったことに翔馬は彼女から詰問を受けることになるがそれはここで語るべきことではない。
―――――――
はいどーも、東京聖城学院高等部生徒会執行部会長冷泉寺愛奈です。フルで名乗るとクッソ長いなこの肩書。まあそんなことはどーでも良くて、今日は原作主人公君ことデフォルトネーム、石動翔馬少年と会うことになってる金曜日でごぜーます。
主人公たちに関わるのは正直とってもリスキーだけれどこのまま関わらなければ未来に確定した死が待ってるどうしようも無い状態なのでとりあえず死の前から布石を打っておこうとさっさと行動を始めたわけだが、まず初めにやることは主人公にレベルアップして貰うことである。
当たり前だが主人公は強い。そもそも主人公が強くなければ物語は成り立たない。とはいえ最初から最強というわけではないが。むしろ今の彼は俺なんかより全然弱い。どれだけネタにされたとしても学園最強は伊達じゃない。
しかしまあ主人公には世界から強くあれという補正がある。ぶっちゃけ物語終盤にはラスボスにも及ぶ以上の強さを手に入れることは確定してるから彼には早めに強くなってもらう。
物語の中盤では俺こと冷泉寺愛奈が黒幕と一戦交える展開がどのルートにもあるがその時、主人公ズは体の制御を奪われて地面に倒れ伏している状況である。だからこそ冷泉寺愛奈はあっさりと殺されてしまうわけだが。しかしその制御は一定以上の実力者の場合、跳ね除けることが出来る。学院でその一定以上に達しているのが愛奈だけという結果が悲劇を齎したのならば強くなって助けてもらえばいい。他人任せだがやがて最強に至る主人公だからこそ出来ることなのだろう。というよりも多分彼は強くなることに意欲的だから断りはしないと思う。
でも今主人公くんこと翔馬はどのルートを選んだんだ?あの時一緒にいたのは彼の幼馴染の立華葵だから、彼女のルートか?ならぶっちゃけ都合がいいけれど。何故ならこのルートの石動翔馬は最終的に空間すら切り裂くほどの剣技を習得できる。人間か?まあそれには彼の出生が関係するわけだが…。
「…冷泉寺会長。」
そんなこんな考えていると学園近くの公園に件の石動翔馬が来た。さてまずは問わねばなるまい。
「こんばんは、今日は良い夜ですね。石動さん。」
そう、あくまで皆の憧れの生徒会長という風に振るわねばならない。すべては生き残るために。
「…こんばんは。あの…俺は、今日何故ここに呼ばれたんですか?」
「突然お呼び立てして申し訳ありませんね。まずは貴方に一つ確認をしておきたいのですが、石動さん。」
「…確認ですか?」
「以前お会いした時に貴方は只管に鍛錬をしていましたが、貴方は今よりもっと強くなりたいと、そう思っていますか?」
翔馬はその問いに少し困惑した後に言葉を選んだのか考えるように沈黙し、そして答えた。
「…はい、なりたいです。俺は…今のままじゃ満足出来ません。学院のカリキュラムは優秀だと思いますが…正直、遅すぎる、と思います。俺はもっと早く強くならなければ…いけないんです。」
予想通りだ。どのルートでも彼は強さへの渇望は強い。すべてはある目的のためだがこの彼も強さへの渇望が強くて話が早くて助かる。
「何の為に、とお聞きしても?」
「…すいません。詳細はお話しできません…けれど、どうしても叶えたい夢があるんです。」
これも俺の知る彼である。上々だ。こっからは未知の領域だがそれでも進むのを恐れていたら俺が死ぬ。
「合格です。」
「…会長?」
そう怪訝そうな目で見るな。怪しいのは分かってるが傷つく。
「あなたの力になりましょう、石動翔馬さん。」
「…冷泉寺会長?」
まだ察せられない鈍さは流石主人公としか言いようがないがもういい、ここまで来たら直接言うだけである。
「私が、貴方を強くさせます。石動さん。」
「………え?」
さあ覚悟は良いか主人公、俺はスパルタだぞ。
「…いや、すいません、ちょっと待ってください、会長。」
「はい。どうかしましたか?」
「会長が、俺をですか?」
むしろそれ以外何だと思ってるのだ。愚鈍な男は嫌われるぞギャルゲ主人公。
「はい、そのつもりですが…。」
「いえ…ええと…その…なぜ、ですか?」
理由かぁ。いや、正直そんな理路整然と考えたことはなかったな。でも理由なしでもただ単に訝しがられるだけだからここは適当にでも話しておくべきかな。いやでも思いつかない…しいて言うなら
「死なないため、でしょうかね?」
「…死なないため。」
主に俺が。
「勿論無理強いはしませんよ。個人のペースというものもあります。しかしこの話は貴方にとってそう悪い話ではないと、思いますよ?」
学園最強からのお誘い…よほど不都合がなければ断る筈はないと思うが…。どうやら彼は決めあぐねているようだ。
「あまり乗り気ではないようですね。申し訳ありませんこの話はなかったことに…。」
「ま、待ってください!受けます、受けさせてください。」
まあ要するに押してだめならば引いてみろということだが目論見通り上手く食いついた。やったぜ。
「はい、これで合意ですね。」
我ながら意地の悪い作戦だがそれでも決して彼の損にはなりはしないだろう。意地悪に思えるかもしれないが俺は俺で必死なのだ。
「とはいえですが、本日から急に何かをするというわけではありません。まずはあなた自身の限界を知るという意味合いも含めてウォーミングアップをしましょう。」
―――――――
…おそらく彼女はかなり手加減しているだろう。殺気がまるでない、というよりも優しさすら感じる。
「はい、そこまでで良いですよ。」
先ほどと何変わらぬ声で彼女は制止した。一切呼吸の乱れはない。
「あ…あ、ありがとうございました。」
対して彼の呼吸はとても荒い。あくまで手合わせとして今の彼の力を試してきたが…翔馬は愛奈に対してただの一太刀しか入れることはできなかった。それどころか赤子扱いだった。彼は鍛錬だからと言って手を抜いたつもりはなかった。全力でかかったが彼女には通用しなかった。
「これ程、まで…とは。」
翔馬は愕然とした。差は広く天と地の差…いや、それ以上かもしれない。
「伊達で生徒会長をやっているわけではありませんから、これで弱かったのならば示しもつきませんから。」
一方愛奈は一切息を切らさずに模造刀を閉まった。それから納得した様子でうなずいた。
「しかし今の手合わせであなたの長所と短所は理解できました。焦っても事を仕損じるだけですからまずは石動さんの短所を克服するところから始めましょう。」
「…俺の、短所ですか?」
息を整え終わった翔馬はそのまま座り込みながら愛奈の言葉に耳を貸した。
「攻撃の動作がどうしても大振り気味になってしまっていますね。それが悪いとは言いませんがどうしても隙になりがちです。まずは大振り気味になりがちな動作を克服しましょう。逆に長所と言えるのは一発一発の重さですね。当てれるようになれば間違いなく…いえ、私の想像以上の威力を…」
「当てれればですがね…」
ついさっき一発しか当たらなかったことを考えると彼の心中は複雑なものだ。
「おっと…もうこのような時間ですね。これ以上長引かせるのはあまりよろしくありませんね。本日はここでお開きとしましょう。」
「は、はい…ありがとうございました。」
そして礼をして立ち去って行った彼を見て愛奈は自分の手を見る。
最後の一太刀、彼女が受け止めてはじいた手。…まだ痺れの残る手を見て呟いた。
「やはり見込んだ通り…。」
目に狂いはなかったと嬉しそうに一人呟いた。
簡単な用語解説
『業呪』…この世界の日本において古くから存在する人間を食らう化け物。その生態はいまだ詳しく解明されていない。名前の由来は『業い、呪う者』から。
『祓呪師』…業呪に対抗できる凄い人。詳しいメカニズムは不明。名前の由来は『呪いを祓う○○師』から。
『東京聖城学院』…私立学校。祓呪師専門の育成機関
『宵に踊る碧炎』…ゲーム名。ギャルゲー&SRPG。RPG部分はぶっちゃけファイアーエムブレムを想像してる