生徒会長の生存戦略   作:しが

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肆.相互理解、或いは交流イベント

石動翔馬が冷泉寺愛奈から指導を受け始めて三週間が経った。彼女は基本的に多忙なために一週間に一回、夜に数時間の空き時間を見つけてそこで彼に指導をしている。彼女は完全に自身のスケジュールを把握しているためにその日の指導を終えたら次の日時を指定するという業務連絡のみに留まっていた。

 

 

以前での対話で心的距離は少しは近づいたかもしれないが教える教わるの関係しかなくそれは半ば機械的な行動でもあった。不満があるわけではない。翔馬は彼女の的確な教えにより実力を上げていっているし、成長しているという実感もある。ただ彼は、その機械的なだけのやり取りに対して欠けているという自覚を持っていた。

 

 

石動翔馬は人づきあいが活発な方ではない。もちろん友人が出来ないほど社交性がないわけではないが全ての人間と仲良くなろうなどとは思わないし、思ったこともない。パーソナルスペースは狭く深い方が良いタイプだ。しかしそれでも彼は彼女に教えを受けている恩義がある、故に険悪な仲では務まらないと理解しており彼女とは仲良くするべきだと思っている…のだが、そもそもの話、愛奈が積極的に交流を持とうとはしない。まるで敢えて深くかかわることを恐れているかのように。

 

 

 

 

「…はい、本日もお疲れさまでした。前回に比べて防御率、それに回避率も15%ほど上昇していますね。半分は避けられるようになって来ましたから全て対応されるのも時間の問題かもしれませんね。」

 

 

「会長も全然本気じゃないでしょう…。」

 

 

 

ぜぇぜぇと息を切らしながら膝に手を当てている翔馬、対して愛奈は息一つ乱しておらず汗すらかいてない。全然余力を残しているように見える。

 

 

 

「いえ、本気ですよ、あくまで訓練用の本気ですが。」

 

 

「…本当に底知れませんよ、会長は。」

 

 

どれほど規格外の力を有しているのだろう、翔馬は不気味さを通り越して関心すら覚えてきた。彼女が最強と呼ばれる所以がよく分かる。とはいえ彼女を本気の本気にさせる事態が来たらそれは一大事だろう。

 

 

 

「そうですね…次は来週の火曜日の8時にどうでしょうか。」

 

 

「はい…予定はありません、大丈夫です。」

 

 

冷泉寺愛奈は自身のデータを完全に把握している。故にどこに空き時間があるのか、余裕が生まれるか、それを完全に理解している。データを見ずとも自身の脳内でそのデータを完全に記憶することが出来る…という話だがこの様子ではそれも真実なのだろうと翔馬は推測する。

 

 

 

「一定数以上対応出来たら切り上げる、と方針を立てていましたが…今回も予想より早く終わりましたね。やはりあなたの成長速度には目を見張るものはあります。」

 

 

彼女の剣閃の速さは音に近い…つまり音速に近いほど圧倒的スピードなのだが翔馬はここ数回の指導でその剣閃を6割ほど対応できるようになった。愛奈の言うとおりに彼の成長速度は圧倒的に早く、潜在能力の高さを伺わせていた。

 

 

 

「自身の目に自信があったわけではありませんがこれは少しは私の観察眼に自信を持ってもいいかもしれません。」

 

 

その笑みはいつも通り何を考えているかの真意を隠す笑みだった、だがそれでも些細な変化を感じ取ることが出来た。今の彼女は少し自信に満ちているように翔馬は見えた。

 

 

 

「…しかし、会長は何故俺に指導しようと思ったんですか?会長からすれば俺はただの新入生の一人にすぎませんし、正直三週間前には自分が強いとは露とも思ってませんでした。…会長に助けられ生き残った人間の一人に過ぎない俺は目立つ存在でもないと思いますし、会長の言う潜在能力が分かる機会があったとは思えません。」

 

 

翔馬の疑問はもっともなものである。今でこそ彼の才能は疑う必要ないことだが初見からそれを見抜けていたかは疑問だ。だからこそ翔馬は愛奈が目をかける理由がわからなかった。その問いをされた時彼女の体がびくっと跳ねた…ような気がした。

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

どうも東京聖城学院高等部生徒会執行部会長冷泉寺愛奈どえす。今過去一ピンチかもしれません。それ聞いてきちゃうか…。正直言うと滅茶苦茶答えにくい。君が主人公だからなんて言っても正直頭の可笑しい人間である。

 

 

何か言い訳…良い言い訳はないもんか…天才的な発想で思いつかないかなぁ…アーだめだ。窮地に活路はあるなんて言葉があるけれど活路見当たらないぞ…えー…

 

 

あ、そうだ。

 

 

 

 

『しかし会長の腕も相変わらず見事ですね、上級の業呪を一撃で真っ二つに…。おや…爪の所に掠り傷がありますね…これは誰が付けたものなのでしょうか…。』

 

 

都合よく俺は天宮副会長の言っていた言葉を思い出した。これは使えるぞ、勝ったな。

 

 

 

 

「…いえ、実は最初から検討を付けていましたよ。石動さん、三週間前に貴方を襲った業呪のことは覚えていますよね?」

 

 

「…はい。忘れられませんよ。何もできなかったですから…。」

 

 

よしよし上手い具合に話が逸らせたな…。

 

 

「あの業呪を倒したのは確かに私ですが、上級の業呪は皮膚組織が固く、そう簡単に傷が入るものではありません。それも一年生…新入生が傷を入れられる代物ではありません。ですが…」

 

 

頼むからこれで納得してくれよ…

 

 

 

「ですが、あの業呪にはわずかに爪に傷が入っていました。私があれを切り裂いたのは胴体をバッサリとですのでそこに傷がつくはずがまずありません。その傷を付けたのはおそらく…あなたですよ、石動さん。」

 

 

 

「…俺が、ですか?」

 

 

「ええ。貴方の力、潜在能力…まだ短い間ですがそれを肌で感じて確信しましたよ。だからこそ貴方に目を付けたのです。」

 

 

 

「…知らなかった。」

 

 

まああの時は彼も死に物狂いだったから傷つけたのか考えてる暇もなかっただろう。…よし、ある程度納得してくれたみたいだな。このまま二回目がないように念には念を入れておこう。

 

 

 

 

「それに…確かにその傷を付けたのが貴方だということを疑い指導しようというのは一因ではあります。ですが、それ以上に共感を覚えました。」

 

 

 

「…共感、ですか?」

 

 

主人公君は意外そうな顔でこっちを見てる、気持ちは分かるぞ。

 

 

「どのような背景や出自があろうとも強くなろうとするその姿勢は評価されるべきものです。貴方の向上心の高さは私も見習いたいものですし、それに貪欲に強くなろうとする過去の私にも重なるところがありました。」

 

 

 

「…会長にですか?」

 

 

怪訝そうな目で見てるな。疑ってやがるな、でもなぁでもなぁ…。

 

 

 

「私は謙遜するほど謙虚な人間ではありませんが、それでも…過去の私には才能と呼ぶべき物が無かったのですよ。」

 

 

 

「…会長が…?」

 

 

そんな驚いた眼顔をするな。最初は要領が掴めなかっただけだ。

 

 

 

 

「私も強くなりたいと願いましたし、そのために努力を惜しんできたつもりはありませんでした。家訓の『至上であれ』という言葉を目標にし、研鑽を続けてきたその結果に今がありますが…貪欲にどのような手段であろうとも強くなろうとするその姿勢は、その時の私に重なるんです。…同情心、かもしれませんが。」

 

 

 

前半の爪に傷云々は完全に出まかせだが後半は割と本音である。中身が違うから仕方ないのかもしれないが最初の頃の俺は出来が悪かった。その度に失望の視線を向けられてそれはもう嫌な気分になったものだった。失望されるというのは存外にキツイものだ。そんな視線をもう二度と向けられないようにと死に物狂いで強くなろうとした日々を思い出す。いやきつかったなぁなんて他人ごとに思うが彼に関しては正直同情心やら、過去の自分を見てる気分になってくる。

 

 

 

「言うならば私は貴方の先達です。もちろん、強くなろうとする理由は違うとは思いますがそれでも貴方のように必死に足掻く姿は助言を送りたくなるんですよ。」

 

 

 

「…なるほど。」

 

 

 

…さすがにそろそろ納得してくれたか?…いやまあ割と出まかせだったが何とかなるもんだ。口先だけだったらどうかと思ったがどうも相手は妙な説得力を感じて納得してくれたようだ。急にひやひやする質問はしないでほしい…心臓に悪い。

 

 

しかしまぁ…俺は死なないために彼を利用する。優先順位ということが事にはあるが彼を騙くらかしているようでぶっちゃけ罪悪感が湧いてくる。相手が真摯な態度だと尚更だ。利用できるものは何でも利用すると決めてきたがやりにくいもんだ…。

 

 

 

「…と、完全にはまだ納得していただけないかもしれませんが私としては貴方に目を付けた理由はそんなものです。それに以前にも話しましたが貴方を強くして私は貴方を利用しようとしています、究極に言ってしまえばそれが目的ですので不愉快ならば降りていただいても構いません。」

 

 

ま、降りることはないと思うけれど、一応な。

 

 

 

「利用すると言っている時点で誠実さもないですが、ただこればかりは不誠実ではいたくはありませんでした。貴方の気持ちに付け入り、右も左も分からぬ貴方を良いように利用する、たぶんそういうこともできたと思います。しかしそれは私の望むものではありません。私たちは対等であるべきです。その程度の筋を通せないのならば私は冷泉寺の人間であることも、生徒会長であることも失格ですから」

 

 

ここまで言ったらさすがに納得いくよね…?

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

『何を考えているか分からない不気味な存在』

 

 

 

それもまた石動翔馬が感じた冷泉寺愛奈に対する印象だ。口に張り付かせたその笑みは真意を隠し、容易く人をだます。それだけのカリスマ性が彼女にはあり、人など駒にすることも簡単だろう。冷泉寺愛奈にはそれを容易く行うだけの力がある。

 

 

 

だが…石動翔馬が感じたのは義理堅さだった。相変わらず人を食ったような笑みだがそれでも言葉の節々から彼女の本心を窺い知ることは出来た。翔馬は確かに彼女の言葉から彼女の義理堅さを感じ取ることが出来た。そしてそれが偽らざる彼女の本心であろうとも。

 

 

確証はない。だが翔馬は幼いころから耳が良い。それこそ声の震えで感情すら読み取れたり、言葉の真意が分かるほどに。彼女がそれを承知のその上で騙そうとしている可能性は捨てきれないがそれでも彼はここまで言われて疑心暗鬼になるような人間でもなかった。

 

 

 

 

「強くなることは俺にとっても本懐です。どうしても達成したい目的が俺にもあります、そのためにはどんな手段を使ってでも強くなる必要があります。俺にとっても会長から教えを受けることはメリットがありますし、貴方の言う利用しているということへ不快感はありません。不利益を被ったわけでもありませんし。それに貴方には恩があります、俺でよければ使ってください。」

 

 

 

誠実さには誠実さを。彼女にそれほどの誠意を見せられれば彼も誠意を見せないという選択肢はなかった。それに彼女は正直に話してくれた。それは悪い気がしなかった。

 

 

 

「人が良いですね、貴方も。いつかその人の良さが邪心に利用されなければ良いのですが…。」

 

 

「そんなに良い人間じゃありませんよ、俺は。会長が見せてくれた誠意に答えたいだけです。」

 

 

 

利用すると言っている彼女だがその一方で尊重するとも言っている。そのアンバランスさが非情に徹しきれない彼女の誠実さを表しているといえよう。本当に非情な人間はただ使い潰すだけだ。自分を良い人間ではないと彼女は言うだろうが少なくとも善性を感じることは出来る。

 

 

 

「…これからも私は私の目的のために貴方に強くなってもらおうとします。ですが…このように尊重し合える間柄ならばそれは決して悪いものではないのかもしれませんね。これからもよろしくお願いします。石動くん。」

 

 

 

「俺も、勉強させてもらいますよ。冷泉寺先輩。」

 

 

 

 

 

≪冷泉寺愛奈の友好度が5上がりました。≫

 

 

 

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