生徒会長の生存戦略   作:しが

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何か主人公が強くない云々言われているので参考程度の今の強さの尺度を入れておきますね。



ラスボス(黒幕ではない)≧終盤の原作主人公(石動翔馬)>黒幕≧全力全開の主人公(冷泉寺愛奈)>>>上級業呪>現在の石動翔馬(援護を受けた時)>>プロの祓呪師≧現在の石動翔馬(援護なし)>中級業呪>>学生祓呪師>低級業呪


漆.傷

座敷牢に畳などという親切なものはなかった。石畳でなかっただけマシだったのかもしれないが、ただただ冷たい床があるだけ。布団どころか布切れ一枚なく、ただ冷たい床で寝なければいけなかった。

 

 

 

 

「…………うっ…。」

 

 

 

泣いちゃだめだ。泣いたらまた私はここに閉じ込められる。あの人たちは24時間私のことを見ている。姿は見えなくても監視が付いている。泣きでもしたら嬉々として私を閉じ込め続ける。

 

 

 

 

「…………。」

 

 

こんな環境で寝れるわけもない。そんなに図太くない。お腹がすいた。あんなものではお腹が満たされるはずもない。明らかに躾としても行き過ぎている。でも誰も止めない。だって冷泉寺ではそれが普通なのだから。普通の事だから疑問何て持たない。

 

 

 

…ダメだ、泣けてきた。どうして私はこんな目に遭ってるんだろう。…どうして私は冷泉寺に生まれてきてしまったんだろう。どうして?

 

 

 

勿論答える人はいない。世界はこんなにも冷たい。…良いさ、こんな世界に期待する方が間違いなのだから。

 

 

 

 

足音が床を伝わる。座敷牢に誰かが入ってきた。こんな無様で哀れな私を笑いに来たのか。…いやもうどうでもいい話だ。誰が笑ってこようがもはやどうでもいい。ああ、でも…何が来たのかは興味があった。その顔は気になる。

 

 

 

足音はこちらに近づいてくる。暗闇で見えないが居るのは一人だけなのだろう。そして気配が近づいてきてその顔を拝むことが出来るようになる―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…虚無僧だった。…え?

 

 

 

不審者だ。間違いなく不審者だ。暗闇に虚無僧、正直滅茶苦茶怖い。なんでホラー体験を私はしているんだろう。

 

 

虚無僧はしゃがみ込むと懐から何かを取り出し、座敷牢の中に置いた。興味が勝った私がその物体に近づいてみることにした。

 

 

 

 

「…………え?」

 

 

 

それはおにぎりだった。竹皮の上に3個のおにぎり、不格好だがそれは米で作られたご飯だった。

 

 

 

虚無僧は何も言わない。ただ包みをこちらに渡しただけだ。一声も発しない。

 

 

 

「…食べろっていうこと?」

 

 

 

…虚無僧は頷いた…………気がした。

 

 

 

おにぎりを手に取り臭いを嗅ぐ。別に変な臭いはしなかった。むしろ早く食べろと脳が催促してくる始末だった。

 

 

 

少しかじる。普通のお米だ。…二口目を口にする。…塩のしょっぱさが良い感じの塩梅だった。

 

 

 

…視界がぼやけて来た。しょっぱさが増したような気がする。

 

 

 

…二個目、三個目は直ぐに無くなった。虚無僧はおにぎりがなくなるのを確認すると包みだけ持って行ってそのまま立ち去って行った。

 

 

 

「…ありがとう。」

 

 

 

たぶんその日、初めて人間らしい食事をした…と思う。

 

 

 

それから虚無僧さんは私が座敷牢に閉じ込められている日におにぎりを持ってきた。何も発さない、何も言わない…けれどそれでも。

 

 

 

そのおにぎりは今まで食べて来たどんなものよりも美味しかった。そしてあの人だけは、あの家で私のことを大切にしていてくれた。…誰かは分からないけれど。

 

 

でも、それだけで嬉しかった。本当に。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「………。」

 

 

 

窓から差し込む光は眩しい。翔馬は半目になりながら外を見た。…快晴だ。一週間前はあんなに黒く淀んでいた空も時が経てばこの通り、雲一つない快晴模様が広がっている。

 

 

 

 

「………はぁ。」

 

 

 

石動翔馬はベッドに縛り付けられていた。もちろん拘束されているわけではない、ただ単に掛け布団をかけているだけだ。だが医者からは絶対安静を命じられている。実質的に拘束されてるも同義だ。

 

 

 

「…暇だ。」

 

 

そして何よりも退屈が彼の一番の敵だった。一週間も出られないとこんなにも暇なのかと彼は痛感した。正直な気持ちを言えば彼は運動がしたくてたまらない。だが一週間前の上級業呪で重傷を負ったのは彼だった。生来の頑強さを備えていた彼だがそれはもう結構な重症だった。

 

 

だから医師も止める。そして彼を心配するクラスメイトも止める。ドクターストップが入った以上彼は大人しく従うがそれでも暇なものは暇だ。刺激を求めているのは普通の若者らしいと言えるだろう。

 

 

そんな暇を持て余している彼だったが病室のドアがノックされた。

 

 

 

「どうぞ。」

 

 

誰が来たのかと思いつつ入ってもいいという返答をすると扉が静かに開けられた。

 

 

 

 

「やっほ、翔。ケガはどんな感じ?」

 

 

「ああ、葵か…。」

 

 

訪問者は立華葵だった。見知った顔で安心した彼はふぅと息を吐いた。

 

 

 

「ケガは…大丈夫だよ。驚くべき回復速度だって医者たちも言っている。この調子ならもうそろそろ退院できるらしいんだが…。」

 

 

「そっか、昔から翔は本当に怪我治るの早かったよね。重傷でもそれが発揮されるなんて思わなかったけど…。」

 

 

「まぁ俺としては助かる。何時までもジッとしてるつもりはないからな。」

 

 

彼の本心は葵には見え見えである。そもそも隠していないが。そんな彼に少し呆れたような視線を送った。

 

 

 

「…退院しても安静って言われてるんじゃないの?」

 

 

「…うっ。」

 

 

そう、言われている。だが彼は言いつけを守らないだろう。退院するまでは医者に従うがそれ以降のことは彼自身が決めると言わんばかりに。

 

 

 

「…強くなろうとするのは良いけれどさ、翔。…自分の体の限界以上にやってない?」

 

 

「そんなことは…ない…筈だ。」

 

 

翔馬はいまいち断言できない。愛奈との鍛錬で殻を破り実力を上げているのは間違いないことなのだがその進化に身体が付いていけているかと問われれば怪しい所だった。正直まだ力に振り回されているかもしれない。

 

 

 

「でも、翔に今回助けられたのは間違いなかった。だから、ありがと。」

 

 

あの時、葵は上級業呪に手も足も出ずにやられた。彼が居なければ死んでいただろう。

 

 

「まさか上級の業呪すら仕留めれるようになっていたのは流石に驚いたけどね…。」

 

 

「いや、あくまで宮島先生の援護があったから出来たことだ。俺一人じゃ一体も倒せてなかったよ。」

 

 

翔馬は断言する。一人ではまだ上級の業呪には勝てなかった、あくまで教師である宮島恵子の援護があったからこそだと。

 

 

 

「…いや、それでも倒せてるのってすごくない?だって上級の業呪で、こっちはプロでもない学生…しかも一年生だよ?」

 

 

葵は何処となく納得がいかなさそうだった。

 

 

「確かにそう考えればすごい…のか?…いやまあでも…。」

 

 

翔馬は見た、一分も経たない内に三体の上級業呪を倒していた彼女の姿を。それを見ていると死に物狂いで倒した自分がしょぼく見えて来た。

 

 

 

 

「やっぱあの人は凄かったよ。葵にも見せたかったな。」

 

 

「あの人って、生徒会長?確か一人で敵を全滅させたんだっけ?」

 

 

「ああ、本当に強かったよ…あの人の全力の一端が見えた気がする。…いやあれでもまだ本気じゃなかったかもな。」

 

 

彼女の見せた圧倒的な力、それが翔馬を惹き付けて止まなかった。

 

 

 

 

「…すっかり会長にお熱なのね?」

 

 

 

「…いや待ってくれよ葵、その言い方だと俺が先輩に…。」

 

 

からかう物言いに翔馬は抗議の声を上げる。しかしその言葉は途中で阻まれた。

 

 

 

 

「私に、どうかしましたか?」

 

 

 

 

…固まる。錆びついたロボットのようなぎこちない動きになり、ゆっくりと首が扉の方へ向いた。…開きっぱなしの扉前に居たのは…。

 

 

 

 

「こんにちは、お邪魔でしたか?」

 

 

 

 

「…先輩。」

 

 

「か、会長!?」

 

 

葵と翔馬の会話に出ていた人物がそこにいた。

 

 

 

「ええ、東京聖城学院高等部生徒会執行部会長の冷泉寺愛奈です。…とりあえず入ってもいいですか?」

 

 

 

「え、ああ…どうぞ。」

 

 

 

愛奈は制服と学生鞄だけ持っている。どうにも学校帰りのように見えるが…。翔馬は聞かずには居られなかった。

 

 

 

「先輩…どうしてここに?」

 

 

「どうしてとは可笑しな質問ですね。こうやって来る意味は一つですよ、お見舞いです、お見舞い。」

 

 

 

…翔馬はそんなことは分かっていると叫びそうになるが抑える。彼女がマイペースなのはもうわかっていることだ、腹を立ててもしょうがない。

 

 

 

「…じゃなくて、先輩はとても忙しいはずですよね?でも何故病院に来れてるのか、ってそういう意味です。」

 

 

「ああ、そういう意味でしたか。…今日は幸運なことに雑務が早めに片付いてお見舞いをと思ったのですが…。」

 

 

彼女は横目で葵を見た。そして言葉を続けた。

 

 

 

「どうやらお邪魔だったようですね?」

 

 

クスッと笑っているが火種が飛んできた葵からすれば一大事だ。

 

 

 

「そ、そんなことはないですよ!むしろ私の事なんかお気になさらずに!」

 

 

というよりも焦っている。生徒一の権力者が目の前に居れば焦る気持ちも理解できるが。

 

 

 

「そ、そろそろ帰ろっかな。じゃあね、翔。さっさと学校で会いましょ!」

 

 

慌てて立ち上がり、荷物を持つとそのまま超特急で彼女は病室から離脱した。そのスピードの速さに翔馬は返事する時間すらなかった。

 

 

 

「…葵のやつ、忙しないな…。」

 

 

「おや、どうやら気を遣わせてしまったようですね。ですがここは好意に甘えさせていただくことにしましょう。」

 

 

愛奈は鞄を置き、ベッド近くの椅子に腰かけた。そして翔馬と会話を始めた。

 

 

 

「大体の傷は塞がったようですね。それどころか完治もし始めているようで。」

 

 

「はい。医者たちもありえないことだと口を揃えて言ってました。正直俺もこんなに治りが早いとは思いませんでした…。」

 

 

「新陳代謝が良い…というのは冗談ですが理屈では説明しきれない力が貴方にはあるのでしょう。生来の怪力、潜在能力の高さ、そして治癒力の高さ。…推測ですが恐らくこれは全て関連しているのでしょうね。」

 

 

「もう大分驚かなくなってきましたが…この体にこんなに力が…。」

 

 

翔馬はつくづく自分の体に驚かされている。この学院に入る前はこんな力があるなど夢にも思わなかった。だが蓋を開けてみれば彼の身体は常識外れのオンパレードだ。

 

 

 

「好意的に解釈するべきですよ、石動くん。貴方のその体は間違いなく貴方の役に立つはずです。」

 

 

「それは…まあそうですが…。」

 

 

怪力にも治癒力も、彼に眠る潜在能力も。すべて彼にとって益になり、損になることはない。堂々巡りな議論を重ねた所で無意味だ。愛奈の言う通り好意的に捉えるべきなのだろう。

 

 

 

「…そうですね、俺は自分の体を精一杯活用することにします。この体をフルで活用することが出来れば…俺は最短距離で目的が果たせる気がします。」

 

 

そう結論付けた翔馬は頷いた。その様子を見ていた愛奈はよしと確信し、話題を変えた。

 

 

 

「上級業呪に襲われこそしましたが負傷者多数…ですが死者はなし。お手柄でしたね、石動くん。」

 

 

「…。」

 

 

愛奈に褒められるが彼の表情は喜んでいない。理由は分かっている。

 

 

「あくまで宮島先生の補助があったからです…俺一人じゃ到底守り切れなかった。」

 

 

あくまで彼は自分一人の功績ではないという。

 

 

「それに先輩を見ていて思ったんですよ。上級の業呪程度に苦戦していれば本当、足元にも及ばないなって…だから一人でも戦えるようにならないとって思うんです。」

 

 

全ては一騎当千の活躍を見せた愛奈のように。彼の憧憬は強くなるばかりだ、だが当人である愛奈はそれに首を横に振った。

 

 

 

「…石動くん。一人で戦おうなど考えてはだめですよ。一人で出来ることには限界があります。どれだけ強くとも、どれだけ相手を圧倒しようとも、一人では限界が来ます。…それを補うのが仲間という存在なんです。…どうか仲間など必要ないとは思わないでくださいね。そうやって死んでいった祓呪師は…数え切れないほど居ますから。」

 

 

愛奈の説得を受けて翔馬は自分の浅慮を反省した。というのも別に仲間が要らないというわけではないのだが、彼の発言を客観的に見るとまるで仲間は不要とばかり言わんような発言だった。言葉には気を付けよう、翔馬は心の底から思った。それとは別に翔馬は疑問を感じた。

 

 

 

「先輩にもあるんですか?一人ではできないことが。」

 

 

万能の生徒会長の彼女も一人では出来ないことがあるのか、それは興味から出た言葉だったが…。

 

 

 

「…ありますよ。…それで後悔したことも数え切れません。」

 

 

 

酷く悲しそうな表情で言うのでそれきり彼には言葉を返すことが出来なかった。


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