無限の蒼穹に雷鳴は轟く IS× THUNDERBOLT 作:サンボル好き
後編の内容はずっと書きたかったシーンで、この作品を書くにあたってまず最初に考えたのが今回の内容です。やはりサンダーボルトは最高、さんぼるはもっと流行れ
狙撃手、その言葉が使われたのは確か18世紀頃、宇宙世紀を生きる自分にとっては中世の時代だが、この時代においてその概念はまだ近代的なもののようだ。
銃という兵器の特性を最大限に生かした戦術、少ない弾数で的確に目標を仕留める、それは正しく最も効率的な殺人の手段であろう。
しかし、そんな優れた手段も高度な射撃技術がなければ、さらには精度を上げる観測者の存在や時の運等々、必中に至るには様々な要因が求められる。
まして、それが自在に宙を舞い。なお、その射線が丸わかりとなれば狙撃の成功率は酷く低下する。故に、現代の狙撃戦は敵に補足されないように常に移動を続けるか前線の援護が不可欠だ。それは銃を握る者が生身でも、パワードスーツの装着者でも変わらない。
……位置が割れた狙撃手、前衛もいない、はっきり言って厳しい戦いだ。
ダリルが駆る機体、その背丈にも匹敵するEOS専用の長距離ライフル、銘はデグレチャフPTRD2005。EOS用に一回り大きく改修されたそのライフルは65口径の弾丸であらゆる装甲を貫く。
「こいつなら戦車だろうとぶち抜ける。…けど、数発当てるだけじゃISを仕留める事は出来ない。」
不可視の障壁に弾かれ装甲を貫くまでは行かない。それだけ、ISコアによる技術の差は埋め合わせるのは難しく、逆にこちらは一発でももらえばそれで終わる。
……分が悪い。まるでガンダムに旧ザクで挑んでいるみたいだ。
あの時はなんとか生存する事は出来た。だが、結局俺はアイツを狙撃で倒す事は出来なかった。
「ああ、歯がゆいな。……けど」
今と過去では決定的に違う事、それはこちらにもガンダムに等しい機体があり、なおかつ凄腕の狙撃手が健在だと言うこと
…セシリア、君の狙撃センスは世辞抜きに凄まじいものだ。空間把握能力、敵の起動予測、それは全て天性の才と鍛え抜かれた努力の結晶なのだろう。
故に、ダリルは全てを託した。フィッシャー達がダリルの考えに乗ってくれたように、ダリル自身もセシリアに全幅の信頼を置いている。
「頼むぞセシリア、最後のチャンスだ。」
○
「くっ……!」
セシリアは引き金を引いた。フィッシャーの命を助けるべく、敵の左腕目がけてスターライトを撃ち放った。
チャンスを逃した。ノーリスクで確実に敵を屠る機会を自分は捨ててしまった。だが
「いや、アレで良い。セシリア」
「……!」
突如、通信機から流れるノイズ混じりの声、その主は
「ダリルさん!」
「敵はこちらの手を潰した。勝敗は既に決したと、あのミラとかいう女はそう考えている。」
不意打ちという手段は敵も想定していた。だから、わざわざEOSに擬態し、フィッシャーを人質に取るなんて手段に出たのだ。故に
「読み合い、駆け引き、奴はそれに勝利したと確信した。まだ勝敗は決していないにも関わらずにもだ。なら、奴の目は曇る」
「……そうですわね。直進コース、敵は」
「ああ、予定ポイントに入る。敵に考える暇は与えない、そろそろ通信を切る。」
「……」
通話を切る。視界端に映るレーダーにはアンノウンの表示、敵ISの接近を警報する。
「……」
ハイパーセンサーとスコープを接続、直線上に接近する敵機を確認。
「……さあおいでなさい。進路は開けて差し上げますわ!」
○
スナイパーの補足。それさえ叶えば後は簡単だ。
敵の妨害を警戒しながら接近する。周囲に罠や伏兵の類は無し。
「……何かを狙っている。けど」
今回の作戦、当初の予定を繰り上げる以外を除けば全て順調だった。対ブルー・ティアーズを想定した装備が上手く機能した。だが、結果はあのイレギュラーによって覆された。
義手と義足の男、作戦前に鉱山内のリストを見る際に確かあの男の顔もそこにはあった。
あの時は気に止める事もなかったが、今思えばアレを見て私は確かに何かを感じた。あの横やり、そして捨て身の一撃を叩き込んだ瞬間、全てが繋がった。
…あれは戦士の、現在進行形で戦っている人間の風貌だ。
「あんな情けない手足で、よくもまあ。けど、今更侮れないわね。」
作戦中、叶うならこの手で潰すべきだと、あの男の存在を自分の経験が警報を鳴らしている。殺すべきと、生かしておけば脅威になると。
…だから気がかりなのよね。こんな状況で、あの男の姿が見えないことを
EOSは恐らく使い物にならない。では前線でなく指揮か、それとも裏側の方に回っているのか……。
「まあ、いずれにせよ問題ないわ。あの子を殺せば、後の戦力はただの雑魚!!」
スラスターを加速、目標に目がけ一気に距離を詰めていく。
「!」
一閃、マズルフラッシュと同時にビームの一撃が機体に衝突する。だが
「効かないっての!! あんたの機体じゃもう勝ち目なんて無い!!!」
衝突の瞬間、ビームは波となり粒子に溶けて消える。大きく削られたエナジーが僅かに回復し、機体の出力が向上する。
「くっ……!」
スターライトの直撃により、何とか敵の勢いは減衰する。だが、このまま無駄弾を打ち続けても敵に点数を送るだけだ。決め手にはならない
「けど、まだもう少し」
ポイントのコースに入るに僅かにずれている。これでは射角が合わない
「……」
「……っ?」
牽制の射撃がない。未だ敵は遠く離れた地点に位置し、こちらの射撃武器ではまともに撃ち合いにならない。
…ポイントを変えない。いや、何か
思考を巡らそうとした瞬間
「!」
…接近アラート!
突如レーダーに現れたそれはISよりも遙かに小さい、だがその形状、目視で確認したその正体は
「…ビット」
ティアーズに備えられた内の二つ、それがこの機体目がけて急接近してくるのだ。
……ジャミングの後遺症でFCSはダウンしている。なのに、いや
ミラは瞬時に武装を変換。両手に握るショットガンで接近するビットを同時に打ち落とす。
「!……やっぱり炸薬付きね。打てないからミサイル代わりかしら…けど、成形炸薬如きでISが…」
瞬間、爆風を貫く閃光の一差し。機体胴体の脇腹目がけて放たれるそれは
ギィイイイインッ!!!
「……そうよね。爆発は囮で本命はビーム。私だってそうするわ」
依然、セシリアの射撃は通じず。射線が丸わかりである以上、多少の妨害程度では揺るがない。セシリアがたぐいまれなる狙撃者のセンスを持とうと、絶対の盾と鍛え抜かれた技量の差は容易く埋め合わせる事は出来ない。
「!!……経験の差、ですか」
「そう。あなたがいくら天才でも、それは生死の狭間をくぐり抜けた本物の経験とはほど遠い。ただのまがい物よ!!」
スラスターを全開に、尚も接近するビットに散弾を叩き込み、放たれるビームは盾によって吸収される。
……距離、5km、あと少しで!!
「くっ!!」
セシリアの視界に映る夕闇の機体。雲を走る雷に照らされ、黒々と光るその様はまさしく死の宣告を伝えるおぞましき悪神であろう。
…近づかれる。でも、この位置では
「……リア…セシリア…!!」
「!」
「南西方向、仰角6度の4km先、突き出した岩山の中腹、ビットで誘爆させろ…!!」
「……はいっ!!」
ダリルの指示でセシリアは残るビットを岩山に追突、同時にスターライトの照射
「なっ!!」
その起動はミラノ侵攻先の真横であり、突然の爆発にと倒壊、岩山が炸裂すると同時に大規模の爆発が起き、機体の位置が反動で右に流される。
…この爆発何かの反応ね。水素タンクでも仕込んでいたかしら……!
機体は流された。だが、依然戦闘に支障は無し。
「…悪くないわ。けど、最後の仕掛けも外れ……さあ、こっちはもう既にチェックよ。」
散弾を消し、両手に握るは二振りのブレッド・スライサー
「さあ、約束通り、切り刻んであげるわっ!!!!」
「!」
オープンチャンネルでながれる狂気の叫び、スラスターを全開に、敵機の距離はじりじりと狭まっていく。
「………」
スターライトを構える。出力を最大に、コンデンサーから高濃度のビーム粒子が武器の内部に精製される。
……狙いは敵の右肩部分、肺と鎖骨の間
「……すぅ……はぁ」
呼吸を整える。両目を開き、スコープから流れる情報に意識を集中する。
……チャンスはそう多くない。このタイミング、絶対に決めて見せます
○
出撃前夜、ダリル達は戦いの前、プラントの広場で集まっていた。
「……なあ、セシリア、本当におれでいいのか」
「……何を今更恥じらっているのですか。殿方なら堂々としてくださいまし」
鉱員達のみんなが一同に成立し、その振る舞いはいつもの馬鹿騒ぎに興じる様は微塵もない、皆が一様に上官の指示を待つ軍人の姿そのものだった。
「まあ、そういうこった。現場の指揮は俺らEOSと班長で賄う。だがよ、事をおっぱじめたのはダリル、お前だぜ。なら、一発ばしっと決めてくれや」
「そうですわね。良い口上を期待します。」
「フィッシャー、チェルシーさんまで。」
背中を押され、一面には今か今かと言葉を待つ皆の視線。
「……。」
覚悟を決める。慣れてないと分かるが、こうなってしまえばやるしかない。
…演説か、ギレン総帥のイメージしか出てこないや。
公国民的なあるあるなのだろうか。とにかく壇上に立ったはいいが思うように言葉が出てこない。
「えっと……その、戦いが始まる前に 一言」
いっそ手短に死ぬな、とでもいうべきか。戦いの前に言う言葉なら いっそ いや、でも
…前に、あのサンダーボルトで出撃する前、俺は彼女に
「…………ろう…。」
そうだ、今もあの時も変わらない。なら、やるべき事も、ここで言うべき事も変わらない。
「……世界は理不尽な事ばかりで、生まれた時代がいつであっても、僕たちには少し辛い……」
皆が耳を傾ける。笑う者も、涙を流す者もいない。真剣に、その一言の全てを余すことなく受け止める。
「ここにいるみんなもそうだ。辛い試練にぶつかって、けどそれでも前に進み続けている。それは今も変わらない。」
そうだ。理不尽こそ最大の敵だ。けど、それでも俺達は
「……抗うべきだ。ここにいる奴は皆等しく失った人間だ。でも、それでも立ち上がって前に進んでいる。なら、やる事は変わらない」
変わらない、あの日途絶えた答えを、この地で俺はもう一度声に出そう。
「理不尽という敵に抗おう。そして、勝って心の底から笑い合おう。」
…ああ、そうだ。
敵機が接近する。ラファールは盾を全面に展開し、こちらの射撃を受けきったうえで懐に飛び込み、その刃で切り伏せるつもりなのだろう。
「…理不尽。確かに、目の前に映るのは正しくそれそのものですわ。」
「ああ。けど、越えられない壁じゃない。君なら乗り越えられる」
「ええ。ですが、どうせなら共にステップを踏んでくださいまし。」
「……ダンスは不慣れだけど、それでもいいなら」
7.6
「ふふ、エスコートを期待します。ダリルさんなら出来ますわ」
5.4
「そうか、なら……」
3.2
引き金を絞る。撃鉄が弾け、65口径の方針から今…
……1
「…
「!!」
…射撃音、後方からっ!?
放たれた弾丸は音速を超え、加速し続けるその一撃は……今ッ!!
ガギィインンッ!!!!
「なっ!?」
……0
「
「!!?!?!?」
スターライト、銃身が融解するほどの出力で放つ試作品故の安全を度外視したフルバースト。
正真正銘、ブルーティアーズが撃てる最後で最強の一撃、それは………
「なっ、なぁああああああああぁあああああ!!!!!?!?!?!?!?!?!?」
敵の盾を躱し、生身の本体の装甲に被弾した。
「!!!??」
エナジーが減っていく。装甲はすぐに融解し、ラファールは搭乗者を守ろうと絶対防御を展開している。
「くっ、かはっ!!」
大出力のビームに弾かれ、機体の小爆発と共にミラは後方に墜落する。
……な、なぜ!…どうして!!
盾は健在だ。なのに、なぜ敵のビームが当たった。エナジーは残り僅かしかない。この機体じゃあもう……
「勝ち目はない! そうお考えですか……!」
「!」
セシリア・オルコットが上空から見下ろす。未だに熱で赤く光る銃身を向けたまま、まるで既に勝利したかのように、少女は敵であるミラを見下していた。
「…………えから」
「……。」
「上から目線で……腹立たしいんだよ!!この雌豚がぁあっ!!!?!?」
スラスターを全開に、装甲のない爛れた生身の手で刃を握り、今一度その懐に飛びこもうとする。敵の特攻を目の前に、セシリアはただ冷静に
「……左脇下、3カウント。前面の羽をどけてください」
「死ねぇええええっ!!!!!?!?!?!?」
…2.1
「シュート……。」
「!」
また銃声、まさか…!!
背後から放たれた大口径のライフルは針穴を縫うように……バインダーに搭載された盾を内側からはじき飛ばす……!!
「!」
まさか、狙撃で…盾をずらして……いや、ありえない。当たるはずがない、間に合うはずがない!!!
だがしかし
「……0,シュート」
引き金を引く。溶解した銃身から放たれる最低出力の狙撃。人間一人にやけどを負わす程度の、たったその程度の狙撃。だが、今はそれで
「…エナジーが、ゼロ………嘘」
全身を纏う装甲が粒子となって消える。勢いは消え、翼を失った天使はただ地上に落ちるのみ
「……!」
瞬間、天を蠢く雷雲から今、一筋の光が降り注ぐ。
「!」
落雷は地上に落ち。岩石を砕き続けて辺り一面に豪雨を降らす。
「………」
「……セシリア、君は」
「……」
地上に降りたった蒼い天使。その両手には先ほどまで戦っていたラファールの搭乗者、ミラと名乗った彼女が抱えられている。ぐったりとした様子から、どうやら意識が途切れているようで、スコープ越しに除くダリルはひとまず安どのため息を漏らす。だが
「…セシリア、聞こえるか」
「はい、ダリルさん……こちらは片付きました。」
「そうか、上手くいって良かった」
「……」
「セシリア……」
ふと、思った。セシリアが抱えている彼女は、いうなれば皆の敵だ。彼女は優しい、故にここで命を落とした名も知らない鉱員達にもきっと哀悼の意を抱いているに違いない。
「……。」
「…君は、その人を」
だからか、俺には一瞬、彼女の中に復讐という二文字を垣間見てしまった。ほんの一ひねりだ。その身に纏うISの剛腕で少し捻ればいい。たったそれだけで命を奪える、いま彼女はそんな選択肢に突き当たっているのではないだろうか。
「セシリア、君は敵を討ちたいのか……?」
「ダリルさん……。」
「……。」
「……憎いから倒して、仇だからと命を奪ってはなんの解決にもなりません。」
「!!」
しかし、彼女の口から出たのは全く正反対の言葉で。遠く離れた距離をスコープ越しに見る彼女の顔が、ほんの少しだけ笑っているように見えた。
「……そうだな。君は正しい」
「……意外、でしたか?」
「いや、むしろ逆だ。君ならそうすると、俺も思った。」
「……そうですか。わたくしも、そう思います。」
スコープ越しに見る彼女の姿。雨に濡れ、暗い空では表情は微かにのぞけるだけ。はたして、彼女の笑顔が明るいものなのか、それともむなしさと嘆きを隠して、無理に浮かべた仮面なのか。
「………。」
……遠いな。彼女の居場所は
⚪
フィッシャー達から残存勢力の制圧に成功したとの連絡が入り。その後俺達は捕虜を抱え、一度プラントの方へと足を戻した。
日没から夜明けまで、長かったようで短かった戦いの時間はこの時をもって終結を迎えた。戦場の硝煙も流れた血も、すべて豪雨に流され痕跡なんてものは少しも残らない。きっと、この後の処理でもこの戦いはおおっぴらになる事はないし、勝利者なんて勇ましい結果なんてないも同然だ。勝って得たものなど何もないのだ。
「…けど、そうだとしても」
少なくとも、俺達は生き残った。理不尽に抗い、皆が前に進む事が出来たのだ。
だが、喜ぶのはまだ早い。事件の黒幕の処理、鉱山業の立て直しから、俺達は休む間もなく大仕事に駆られる事だろう。
ただ、それでも
つかぬ間の休みの間ぐらいでいい。つかみ取った何もない結果を、前と変わらない平凡な日々を
また、みんなと共に笑い合う日々を。またここで送るぐらいは、誰も責めたりはしないだろう。
次回エピローグです。