無限の蒼穹に雷鳴は轟く IS× THUNDERBOLT    作:サンボル好き

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久々の投稿です。

設定の調節に難儀して試行錯誤でしたが、ようやく形になっていきました。

今回は少し眺めで、前半シリアスで後半は完全に趣味です。まあ、気長に読んでいただけたら幸いです。


内憂外患/まどろみの朝

 会議というモノについて常々思う事がある。

 

 組織において情報の管理とは複雑に、そして正確さが求められる。ほう・れん・そうの徹底は稚児のころから白髪になっても変わらず。言語化する以前にできて当たり前の原則だ。

 

 だが、こと会議という行為自体に重要性はなく、会議はあくまで合意の確認、であれば一同顔を合わす必要など無い。すべては書面にて十分に足りる事だ。

  

 故に、そこに集う必要性があると言う事は、そこには明確な目的がある。

 

 

 

……ですけど、そんなあからさまな茶番に付き合うのもいい加減うんざりですわ

 

 

 

 内心は辟易としても、決してその意を表には出さない。

 

 円を囲むように集う歴々はいずれも大のつくくせ者であり、その一人一人が権力という剣を携えた実力のある存在だ。円卓というにはあまりにも醜悪で、そこには忠誠などと言う聞こえの良いものなど無く、大半が悪意か、もしくは中立の目でいつでも切っ先を向けるかも知れないランスローかもしれない

 

 だが、たとえそのような者たちに囲まれようと、その齢が10とそこらの少女であったとしても、彼女は引き下がるわけにはいかないのだ。

 

 

 

「……では、当主。貴女の意思を」

 

「……ええ。議題を進めましょう」

 

 会議の議題、それはここずっと続いている一つの問題、セシリアの暗殺を謀ったデュノアの手先、そしてその護送中に起こった先の襲撃事件である。

 

 現場に残る死体から敵が何らかの武力手段で証拠の隠滅を図ったのは確実、内密に処理されたその事件に、当然向けられる疑問はことの顛末であるデュノアについて。

 

 しかし、国内で起こった事件にしてはあまりにも痕跡が少なく、列車等など、その場にいた捕虜と護送人、そして護衛の兵士を含め犠牲者は76人。その全てが死亡である。

 

 他国への攻撃行為に及ぶ事件であるのにそこに明確な証拠はない。証言はあくまで非合法な手段で得たもので、しかもそれはあくまでセシリアとチェルシーの主張でしかない。

 

 状況的に見てデュノアが黒である事は百も承知、しかし明確な根拠のないままに扱いを間違えば、その結果はきっと誰も望まないおぞましい光景しか広がらない。己も他も等しく焼き尽くす災禍の業火になりかねないと、ことに関わるモノなら誰もが認識している。

 

 なのに、そうにもかかわらずにもだ。世の中にはそういった荒事を承知で扱いたがる輩も存在する。そこにあるのは大儀か、それとも身勝手なエゴか

 

 組織の中で出た膿は確かに除いた。けれども、その膿を排出させる病巣までは取り出し切れていない。

 

明確にも関わらず、手出しが出来ない。その上

 

 

 

「……モーレス、あなたはあくまで打って出るべきと」

 

「はい。しかし、セシリア様は穏便にせよと。結論を出すにはいささか早すぎでは」

 

「ええ、なにせ結論は出ていますから。民間である我らに、事を荒立てることはなりません。オルコットはイギリス社会の最前線に立つモノとして、毅然たる対応をとる。そこにそれ以上も、それ以下もありません」

 

 

 

 セシリアの主張はあくまで変わらず。そんな回答は想像の範疇とでも言いたいのかと、男は背広を直し、その場の主役がさも自分であるかのように尊大に振る舞う。

 

 

「なるほど。あなたの言う事はそれですか。フランスのデュノアに臆して、このまま奴らの思い通りに、それがオルコットの意思であると」

 

「……」

 

「命の危機にありながら、あくまで冷静に判断を下す。貴女は確かに正しくある、その若さで先代の座を引き受けてだけの事はあります。しかし」

 

 席を立ち、男は演劇の語り手のように、その身振り手振りで周囲の役員に対して大げさにその発言を続ける。

 

「やつらは、我らの当主を狙い、オルコットの名誉に土をかけ、にもかかわらず知らぬ存ぜぬでいっさいの反応もない!さも、虚言に付き合う暇など無いと!!」

 

「……ッ」

 

 この場で発言を諫めるのは簡単だ。しかし、それでこそこの男の思うつぼだ。未だ立場が不安定なこの場で、この男を対抗馬として強調させることは愚でしかない。

 

 発言を控え、あくまで過激な意見を遊ばせているだけ。可能であるならその不自然なまでの毛髪を頭皮ごと引き千切ってやりたい衝動を飲み込む。かろうじてなんとか

 

 そんなセシリアの必死なノブレスオブリージュをあざ笑うかのように、男は発言を続ける。

 

 

「この場にいない、裏切りの罪をもって処された数名もそうだ。先代に使えた有能な彼らとて、敵の甘言に惑わされることがなければもっと違った結末があったはずだ!あれらが祖国に危機をもたらそうとしたその罪を、その悲しみを、手を振り下ろした貴女の慚愧を、ただの一言の言及すら奴らにせずして、このまま見過ごして良いモノか!!それは否ッ!!絶対に否だ!!?」

 

「……」

 

 モーレス・ガルディ。カンパニーの系列で工業油機部門を受け持つ上役で、この取締役会の中でも相当に発言力の高い人物である。中年らしいたるんだ体型に趣味の悪いブランドのコーデ、いかにもな狸おやじであるこの男だが、元軍属からの出向という立場もあって、軍関係とさらにはBT社にも深く通じる存在であり、見た目では判断するにはあまりにも手に余る強敵である。

 

 視線に入れる事にすら不快感の及ぶ、その男こそが目下、セシリアを悩ます最大の種であった。なぜなら、セシリア暗殺の企てに、この男は間違いなく関係しているからだ。

  

 しかし、それを言及する前に書面の記録は消去、人の痕跡も足きりで本人の下にまでは至らず、結果こうしてのさばらせている事態にはひどく頭痛が絶えない。

 

 反デュノアを謳いながら、その実フランスのデュノアとつながりの深いこの男だ。疑いは確実に黒であるのに、その隠匿はあまりにも堅牢である。

 

 セシリアの頭をストレスで熱融解させかねない、だがそんなことは梅雨知らず男の一人演説は続く。

 

「我らは確かに民間だが、BT社にならびこの国の根幹足る存在だ、であれば我らの意思こそ国家の意思!!政界の急進派を後押しして、オルコットはデュノアに、フランスに対して強く出るべきだ!皆も思わないのか…当主、貴女も」

 

 もはや会議など意味の無いもの、他人の発言を寄せ付けない、むしろ下手な発言はこの男を増長させて際立たせる行為にしか過ぎない。故に、男の一人演説は続く。

 

だが、その横暴も決して長くは続かない。

 

「………いい加減、そこまでにしておいてはいかがかな。モーレス・ガルディ上役」

 

「……ッ!」

 

 天の一声を持って、舞台の演目は急遽幕を下ろす。静かに、しかしその身近な一言がこの場の誰よりも深く意味を持つ。

 

「モーレス、その程度にしたまえ。君のそれはあまりにも感情的だ。それはこの場にいる上役としての意見提示か、それとも君個人の発言なのか……」

 

「……ッ!」

 

「……」

 

……叔父様

 

 ロバート・オルコット。セシリアの叔父にあたるかの人こそが、オルコット家が束ねる総合カンパニーの頂点、正式なオルコットの血を引く先代の兄、現代に受け継がれる本物の貴族だ。

 

 現党首に継承権をゆだね、今はカンパニーの軍事関連産業部門の経営顧問兼、常務としてセシリアを補佐するナンバー2の地位にある。

 

 年は40半ば、役員としてはまだ若い年齢だが先代当主の頃からその敏腕な実務能力から多くの信頼集める、まさしく頂点に立つ逸材。

 

 セシリアと同じプラチナの掛かった淡い金色の頭髪。威厳のある力強い振る舞いはまさしく挙足軽重。社会人として、組織のトップとして、理想をそのままに体現したかのようなその出で立ちには誰しもが見t目猿を得ない。

 

「……っ」

 

「なに、私の間違いならすまない。」

 

 還暦間近なモーレスにとって今目の前の人物はどう映っているのだろうか。40そこらの若造、そうそしるのは簡単だ。しかし、それを言うことはあらゆる意味で死を意味する。

 

であれば、当然その回答は

 

「……もちろん、前者ですよロバート常務。確かに、少し礼節を書いた発言に聞こえたなら失礼を。」

 

「……なら、一度席に着くと良いでしょう。あなたの高血圧にも昂ぶりすぎるのはあまり良くない」

 

「……いいでしょう。忠告、痛み入ります」

 

 不服に、しかしそれ以上の発言は要らぬ結果を生むと判断しモーレスは腰を下ろす。

 

「……しかし、当主セシリア」

 

「!?」

 

「モーレス殿の意見をそのまま提示するつもりではないが、社の方針を決めるのは我ら上役のつとめであり、そしてその中で一番重く重大な言葉は貴女にゆだねられている」

 

「……ええ、当然理解してます。」

 

「……静観を続ける、状況を見計らうのも正しい選択だ。しかし、事が荒くなって、再び貴女が命の危機に見舞うことだけは、どうか無きように。」

 

「……」

 

「過保護かもしれませんが、先代の形見であるあなたを、我々は失うわけにはいかないのです。……どうか、それだけは」

 

「…ええ、忠告、痛み入ります」

 

 受け取った言葉はその場の誰よりも重く、そして深い。一面を囲む怪物達の中で、その人こそが唯一の光であり、信頼できる貴重な正真正銘の人間だ。

 

 

 

 

 

 

 会議は粛々と進み、定時をもって役員達は席を立つ。決まり切った報告の処理、それが今は億劫ではなく、むしろ安息すら覚えてしまう、そんな精神を磨り減らすやりとりを超えて、ようやく一人会議室の上座でセシリアは一人息をつく。

 

 

「はぁ……」

 

 ぐったりと机に項垂れて、スーツにしわがつくのも気にかけず。頬をべったりと机に付けて、溜まった熱をひんやりしたその材質に流し込む。

 

「……あぁ」

 

 代表候補生として、カンパニーと当家の長として、その肩に背負うにはあまりにも膨大な責務にセシリアは苦言すら漏らさず、いやむしろそんな毒を口に吐き出す余力すらないのか

 

「……あぁ、ぅぇ」

 

 13歳の自分がなぜこうも必死になっているのか、ときおりそんな自分の在り方がおかしくなる。

 

 意識をぼやけさせ、ただ呆然と頭の熱を冷ましながらふて寝を決め込む。

 

 故に、その足音が近くに来るまでセシリアは一切気がつかなかったのは無理もない。

 

「まったく、君という子は。せめて鍵ぐらいは気をつけなさい」

 

「はい………………へっ!?」

 

「ああ、いいさ。ここでは誰も見ていないんだ。気楽にしなさい」

 

「!!?!?!?!?」

 

 状況をようやく飲み込む。ぼやけた目は激しく動揺し手ふるえ、冷めた頭にまた赤くそれこそ顔色が変わるほどに熱が灯る。そんな慌ただしい姪の様子にロバートはつい柔和な笑みを漏らす

 

「はは、そそっかしいのは変わらないね。セシリア」

 

「おっ、おじさま!?…なんで、ここに」

 

「いや、なに……少し顔を伺おうと思ってね。」

 

「……は、はぁ」

 

 目のまえにいる男性、先ほどの威厳に溢れ何物も寄せ付けないような風体は陰にひそめ、そこにいるのは紛れもなく、物心つく頃から親しくしている叔父の顔そのものだった。

 

「……見苦しい所を、見せてしまいました。」

 

「なに、いいさ。今なら気にするものはいない、だから」

 

「……あ」

 

 差し出された菓子箱、子供向けで、おおよそ目の前の人物が持つには不相応な駄菓子。

 

……これ、昔

 

「どうだい、一つ。たまたま通販で見つけてね、チョコレートは嫌いかな」

 

「……いただきます」

 

 箱の中から一つ、動物の模様が描かれたナッツ混じりのチョコ。甘さばかりで、日頃高いものを口にする上流階級にはまったく相応しくないしろもの。

 

……甘い

 

 人工的で、舌に残る甘み。けれども、それが妙に舌になじむ。甘さと共に、遠い昔の暖かな情景がこみ上げる。

 

「君の好きな……いや、今はもう違うのかな。もうすぐ14になるのだからな」

 

「……いえ、嬉しいですわ。叔父様のチョコ、昔と変わりません」

 

 テレビのコマーシャルに惹かれ、何度母にせがんでもついぞ買ってはくれなかった。だからこっそりと、この目の前にいる叔父にせがみ、二人で食べながら秘密と約束を交わした。確かまだ5歳になったばかりの頃の記憶だ。

 

……あれから、わたくしが落ち込んだ時もこうして、そっとチョコレートを指しだして

 

「少しだけ、昔を思い出しました。……昔を、ロバート叔父様が一緒にいてくれた頃を」

 

「……ああ、そうだね。リチャードはともかくミリアは厳しかったから、つい僕は君を甘やかしてしまったよ。君のいたずらのアドバイスも何度してやったことか。」

 

「ああ、そんなこともありましたわね」

 

 見た目の落ち着きとは裏腹にその根っこは無邪気で、物腰穏やかな父とは正反対だった。好奇心旺盛な幼いころはよく遊び相手になってくれたし、大人をおどろかすいたずらはよくこの人から教わったものだ。

 

「一緒にいたずらをして、でもいつも決まってお母様に怒られました。そういえば、一度叔父さまもいっしょに怒られたこともありましたわね」

 

「ああ、そんなこともあったね。二人でリチャードを驚かせようと落とし穴を掘って、けれどはまったのはミリアで、あれにはさすがの僕も肝を冷やした。一緒にさんざん怒られた後、ついでに怒られたリチャードと一緒に三人で」

 

「ええ、チョコレートを食べながら、次はお母様にどんないたずらをしようかと!」

 

「ああ、そうだったね…! 本当に懐かしい、いい思い出だ」

 

「ええ…本当に」

 

 二人並んで座り、菓子をつまみながら駄弁るこの時間がどこまでも愛おしく、そして切なくもなる。

 

 この場にいるのは等しく失くした者同士な関係で、しかし本来であればこの二人はよりもっと近い距離に居られたはずであった。しかし、それはセシリア自身の手によってこの形になった。先代の跡を継ぎ、貴族オルコットの家督を継承してさらに複合産業であるオルコットカンパニーの総責任者の地位に継いだことによって

 

「……叔父さま、わたくし」

 

「?」

 

「あの、少し…」

 

「……」

 

すっ……。

 

「へ?」

 

 不意に、無言で差し出した手が私の唇に触れる。動揺する暇もなく、口の中に放り込まれたのはチョコレートの菓子

 

「……」

 

「最後の一個だ。君が食べるといい」

 

「……ぁ」

 

 最後の菓子を幼子に譲る、そんなたわいのないやり取りに、ふとデジャブのような記憶が

 

……いや、前にも

 

 あれはそう、叔父が仕事で忙しくなり、頻繁に顔を合わすことが困難になったと聞いて駄々をこねていたあの時だ。

 

……あの時も、わたくしの口に甘いものを

 

 

「……がんばれ、セシリア」

 

「!?」

 

「二人で、誰もいない今なら、正直君をただの姪っ子として甘やかしたい気持ちもある。頭を撫でてやれば、君は喜ぶのかもしれない。」

 

「……それは」

 

「けど、申し訳ないが……だからこそ、今はこれだけだ」

 

「……」

 

 叔父は優しく、あくまで毅然とした大人として、頭ではなくその肩に手を置く。まなざしは真剣に、セシリアと向き合い、現実的な言葉をつむぐ

 

 

「だから、今すべき話は現実的な問題だ。わかってはいると思うが、君の立場を盤石にするためには解決しなければならない問題が二つ、それは内と外に隔てられた厄介な事案だ」

 

「……ええ」

 

 外は当然フランスのデュノアについて、今後IS関連で競争にある彼らがこのまま黙したままでいるとは到底安心はできない。BT社はIS関連の技術開発を携わる政府運営の企業であり、そこに深くかかわるオルコットは格好の潜り先であろう。

 

 大組織と言うものは難儀なもので、大木が太く、幹が、歯が茂る程に光の当たらない部分も増えていくものだ。故に、敵が奸計を働くのであれば、その黒い手が届くのは我らの背後からだ。

 

 オルコットに巣くう病巣、先の事件で処罰しきれなかった憂いそのもの。デュノアに裏で手を引き、頭首である自分を闇に葬ろうとした男たち。外と内、内憂外患を払い去り、樹木に潤いを戻さなければならない。

 

「……ですが、あの男からあからさまに主張されてはこちらから言い出せないではないですか!」

 

フランスに対する言及、しかし、どうあがいても黒幕の関係者であるあの男と意見を合わせてしまえば、起こることは容易に想定できる。

 

「探られたくない腹の内なら、いっそ自分から曝け出す方が良い。彼はやはり周到だ」

 

「ええ、……本当に腹立たしいですわ。」

 

 しかし、そのような度し難い男でさえ、容易に手を出せない天敵といえる人種もいる。それは

 

「…すまない。本当なら君をずっと守っていたい。けれど、それでは反対派をあおって君の敵を増やすことにつながる。対抗馬として、私は君の前に立ちふさがらないといけないんだ。」

 

「……わかっています。それは、十重に」

 

 ロバート・オルコット。先代の兄であるこの人こそが実質セシリアを継いで最も力を持つオルコットのトップである。故に

 

「モーレスのことは任せてくれ。奴は私が抑えておく、だから君には」

 

そう言い、ロバートがポケットから取り出した端末、そこに表示される画像には

 

「……これは?」

 

「なに、うちの工場で作られた便利な道具さ。後でファイルを送るよ。色々と役に立つことだろうさ」

 

「……よろしいのですか、私が行って」

 

 そこに映る物はとある計画に備えられ用意されたもの。セシリアとチェルシー、そしてこのロバートと共謀し、事態を動かすために作られた内密な謀略

 

「はぁ、できれば反対したいが、君は梃子でも動かないのは承知だ。リスクはあるが、当たればデカい。君のやりたいを、僕は尊重しよう」

 

「……叔父様!」

 

「!!っ……まったく」

 

 仕方ない、と…ロバートは胸に飛びついたセシリアを優しく抱き留める。互いに決めた約束、一人前として、関係はフラットにするべきと誓った。

 

しかし

 

「……セシリア」

 

「ええ、わかっています。わかっていますから!!」

 

「……いや、いい」

 

 子を慈しむように、日に照らされて輝く髪を壊さないように優しくすいてやる。このひと時だけ、ロバートはセシリアに対し、唯一の肉親として愛を与え続ける。

 

「ああ、見るべきもの、判断するべきは君自身だ。いざとなれば責任は僕がとる、だから」

 

「………」

 

「必ず、帰って来なさい。」

 

「……ッ!!」

 

 駆ける言葉はどこまでも優しく、そこにいるのは少女にとって真に頼れるに値する、父性に満ちた大人の姿であった。

 

……ああ、そうだ。この人だけは、本当に

 

 暖かい、心を溶かす温もりを胸に抱き、名残惜しさを感じながら一歩後ろに下がる。真っ直ぐに見つめ、その眼は一人の少女を超えて、受け継がれし責任と恩人の期待を抱いたセシリア・オルコットとして

 

「ええ、約束しますわ……ロバート常務」

 

「……聞き届けましたよ。当主セシリア」

 

今度こそ、全ての憂いを払うべくセシリアは動き出す。

 

 

目指すは隣国のフランスへ

 

 

 

 

 

フランス、パリの住宅街、とあるぼろ屋の一室にて

 

 

「……ん」

 

 目が覚める。疲れがたまっているにもかかわらず、長く働いた職場の起床時間が体から離れず、時刻は未だ6時にも至っていない。木漏れ日が差し込むには少しだけまだ早い時間だ。

 

「……」

 

 ふと、辺りを見渡す。そこはホテルと言うにはどこか生活観に満ちていて、置いてある家具や小物も少女チックな模様と元々のアンティークじみた要素と混じって若干混沌としている。

 

……そうだ、確か俺は

 

そこで、ようやく意識が回りだした頃に、ふと

 

「……なんか、暖かい」

 

 電気毛布でも入っているかのような、しかしそれにしては暖かさは生っぽいし、というか

 

……柔らかい、人だよな

 

 該当する人物は一人。恐る恐るふとんをまくり、湯たんぽの正体へと

 

「あの、シャル……さん」

 

「んん……あれ」

 

 ベッドに入り込む生暖かい感触、布団をまくって見ればあら不思議なことに、そこにはなんと金髪の美少女が

 

…いや、いたらダメだろ

 

 

「……すまない、一応聞くが……何でこっちに来ているんだ」

 

「……ん、はあぁぅ……うん」

 

 しかし、返事をしようとする前にもう一度眠りについてしまう。布団を捲られて寒いのか、俺の体に近づいて

 

「……ちょっと、これは……!!」

 

「んへぇ……お兄、ちゃん」

 

「!!……頼むから、お兄さんに留めてくれ」

 

 なんだかんだで、元の世界ではリアル妹のいるダリルである。正直言って、そこまで妹に溺愛するような間柄でもないし、あくまで慕う妹が一人いる程度なのだが、しかし

 

 

「………ッ」

 

…落ち着け、相手はティーンだ。確かに、ちょっと、というかすごくかわいいし、なんならスタイルも……ッ!?

 

「んん……寒い」

 

「こ、こら……男に近づきすぎだ!!はしたない……!?」

 

 ダリルの体をよじ登るように、シャルの端正な顔がこっちに、と言うか今止めなかったら確実に眼前まで近づいていた。

 

「……落ち着け、俺は軍人で、誇りあるジオン公国の人間は……!!」

 

 未成年を前に、自らの欲を律するために使われる公国というのもだいぶ間抜けな話だが、しかしこのままいては間違いが起こる、かもしれない。

 

「……シャル、おいシャル!!」

 

 義手の指でシャルの顔をつつき、その細い鼻をつまみ上げる。そうやって、ようやく

 

「んん……ふぇ、へっ?」

 

「はぁ、やっと起きたか。なあシャル、とりあえず一回布団から」

 

「……んっ……すぅ」

 

「…って、こら!……なんで三度寝に決め込もうとしてるんだ。いい加減離れないか!!」

 

「……だって、寒いし……くっついていると、あったかいよ」

 

「その相手が問題だって言ってるんだ。なあ、昨日のことで打ち解けたのは良いが、さすがに危機感は持ってくれ。あったばかりの男になんでこんな……!!」

 

「もう、うるさいよ。下にはお爺ちゃんだっているんだから。」

 

「……なんで俺はこの状況で普通に声の大きさを叱られているんだ。ちがう、そうじゃないだろ」

 

 体を起こし、半ば強引にシャルから離れる。座ったまま項垂れて、ひとまず今の状況を冷静に考える。

 

「……うん、やっぱり君の方がおかしい。そもそも君が強引にベッドを譲ったんだろうに、何でソファーじゃなくてこっちに………って」

 

 

どさっ……

 

 

「……なあ」

 

「…えへへ。……なにかなぁ」

 

「なんで、君はそう抱き着いてくるんだ」

 

 座ったダリルの上にかぶさるように、膝立ちのシャルがダリルに抱き着く。耳に掛かる吐息が少しくすぐったく、そして嫌でも感じてしまうその発育の良さには……いや、それは駄目だろ

 

 しかし、本人は一向に離れる気が無い。そうなってくると、動揺よりもダリルの中では疑問が強く表れる。

 

 

「なあ、シャル」

 

「うん、どうしたのお兄さん」

 

「……君は、どうしてこんなに」

 

…どうして、こんなに親しいのか、だが、その答えはよくよく考えれば想像できる。故に、言葉に詰まる。

 

触れてはいけない、そんな部分に気を遣わずにいられない

 

「……どうしてか、聞かないの?」

 

「……いや、やっぱり良い。」

 

「ふふ……じゃあ、もう少しだけ良いかな。お兄さん、あったかいから……もうちょっとだけ」

 

「……わかった。しかたないな、シャルは」

 

 一度は恐怖、怒りと恨みつらみで接したはずなのに、どうしてか俺はこの子の痛みを知り、そして今度は優しく諫めて

 

そして暖かく抱きしめた。

 

 

「……」

 

 今思えば、いずれはここを発つ自分のしたことは無責任かもしれない。一方的に与えて、結局俺はこの子を最後まで向き合うわけでもないのに。

 

「……ふぅ、すぅ」

 

 肩に顔をうずめたまま、一人また夢の世界へ落ちていく。お腹に回した手だけは決して離さないようにと、その手は力強く、まるで何かを手放したくない……そんな思いが込められているかのように

 

「……はぁ」

 

…やっぱり、無責任かもしれないな。

 

 木漏れ日の入る部屋の中、少しだけ、この平凡な朝のまどろみを、この子と一緒に続けたい。そう思い、自然と重くなる瞼に身を任せ、少し早めの朝はここで終わりを迎える。

 

 結局、二人が起床するのは昼頃の、互いが空腹でお腹を鳴らせるときまで続くのであった。

 




今回はここまで、ダリル君完全にセシリアほっぽってラブコメさせています。まあ、前世が辛み爆発なんでこれぐらいの役得はノープロブレム


次回から、また色々と陰謀とラブコメも渦巻く予定です。投稿はできるだけ早めに
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