無限の蒼穹に雷鳴は轟く IS× THUNDERBOLT    作:サンボル好き

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前半ゆるめ、後半シリアスです。


共犯者

 一人旅をするにあたって、何よりも大事なことは何か。

 

金か、身分証明か、それとも自衛の護身術か、どれも欠かせないといえば同じだが、ことダリルにとって最も欠かせないモノとなると

 

「ねえ、お兄さん」

 

「……」

 

ふたりベッドに腰掛け、俺が座る後ろでぴったりと背中をくっつけている。

 

「私、手伝えることあるかな?」

 

「……いや、一人でできるから、もう……これで」

 

義手の接続部を取り付ける。バンドを固定し、神経を繋ぐ肯定も滞りなく進む。

 

「……シャル、手を」

 

「?」

 

言われるまま手を差し出す。ダリルの義手がシャルの手を握手するように掴み、数回確かめるようににぎにぎと指が動く。

 

「……えへへ」

 

「よし、ちゃんと動く。……ていうか、何で嬉しそうなんだ?」

 

「さあ……なんとなく、かな」

 

「…そうか」

 

 義肢のメンテナンス、本来であれば専門の技術職の手を借りて行うものだが、現在ダリルが使用している義肢は大変安く、そして簡素な設計である。故に、一人でも容易に調整と間接部の掃除、油さしぐらいなら一人でも可能だ。

 

「……ふぅ、よっと」

 

両手が済み、次にダリルは片足のベルトを外し、そして接合部のロックを開き右足が完全に外れる。

 

「……へぇ」

 

「…手伝うか」

 

「いいの?」

 

「まあ、布で部品を綺麗にするぐらいだからな………いいのか」

 

「うん、するする!」

 

「……」

 

嬉々として、彼女は道具を受け取り俺の横に並んで作業を手伝う。

 

「…面白いか?」

 

「うん、なんか……ちょっとかっこいい、かなって。」

 

「…かっこいい、なのか?」

 

「うん………たぶん」

 

「なんだそれ?…はっきりしないな」

 

「ん~、だって冷静に考えると気にしたら悪いかなって。お兄さんのそれ、どこまで触れていいか私わからないから」

 

「……そうか」

 

「うん、だから……えっと」

 

「………」

 

 それ以上、上手く会話を続ける返しが出てこなかった。互いに無言で、俺は義足の部品を付け替え、その横でシャルは手渡した部品を布で拭き、油を塗る。

 

無言のまま、部屋の時計の音が耳にうるさく響くほど、ただ静かに時間が流れていく。

 

「………」

 

 一泊の宿泊、しかし、蓋を開ければそれが続けて二日、三日と続いていく。シャルとふたりでパリを観光しながら時間を過ごす。そして今日もこの宿に戻り、そして今に至る。二人、就寝する前のまったりとした時間がゆるやかに流れていく。

 

ちなみに、初日は仕方ないということで妥協したが当然俺はソファーを借りると主張し続けた。しかし、それでもと頑なに譲らない家主の希望に負け、俺はこの子と一緒に一つのベッドで寝ることになった。幸い、セミダブルサイズと言うことで窮屈とまではいかなかったが、しかし朝になると俺の胸元に生暖かい何かがくっついているわけで………やっぱり、ダメだよな。

 

と、そんな風に時折無防備なシャルに終始振り回されているダリルだが、なんだかんだでこの少女といる時間にすっかり慣れ親しんでいるのも事実。そして、それはこの子の方にも

 

 

 

…なんか、すごい懐かれてしまった。

 

 

 

 今日一日、街を遊歩しながら彼女は終始笑顔で、俺をもてなそうと懸命にパリをガイドしてくれた。さすが、ガイドで小金を稼いでいるというだけあってか、現代アートの名所や観光客に手付かずの隠れた名店など、彼女と過ごす時間は思いのほか、いやかなり良い時間だったと言える。

 

「……」

 

……良い、時間か

 

ふと、思う。彼女と過ごす時間に居心地の良さを感じている。それはいい、もう彼女への怒りも何もない。むしろ、今は親しい仲として関心すら抱いている。

 

だから、故に

 

 

「?…どうしたのお兄さん、手が止まってるよ」

 

「……ああ」

 

衝動的に振り向く。目と目が合い、彼女の顔を見ていると、どうしてか辛くなってしまう。

 

「……?」

 

「……シャル、俺は」

 

 忘れそうになるが、そもそもこれはイギリスに向かうための途中旅だ。旅の滞在期間は無限ではないし、脱線事故も終わってダイヤが正常になった今、行こうと思えば当日にイギリスに向かうことさえできる。

 

 

「……」

 

「もう、どうしたの……黙ってちゃわからないよ?」

 

「……その」

 

「?」

 

 だから、これ以上抱える前に俺は発たなければならない。それを告げなくてはならない。もうこれ以上は、きっとこの子のためにもならないはずだから。

 

「シャル、俺は」

 

「……」

 

「……俺は、行かないといけないからさ。イギリスに」

 

「……そういえば、言っていたね。そうだね、じゃあ……もう、お別れなのかな?」

 

「さあ、でも近いうちに…」

 

 何時までもいられない。いずれ、ここを発って俺は彼女のもとに、セシリアのもとに行くのだ。

 

しかし、この場になってふと迷いが芽生える。

 

けど、行ってどうなるだろうか?

 

セシリアは俺に居場所をくれると言った。けど、何かを成すのは俺の意志だ。

 

なら、どんなに居場所があっても、結局意味はあるのか?

 

……ああ、だめだ。

 

 元の世界に帰る、それならもう少しまともな理由づけにはなるだろうか。しかし、そんなSFチックな方法なんてそう見つかるはずもない。なら、ここで……この過去の世界でできることは何か?

 

「……」

 

 過去に来て、未来では知りえなかったISという存在。いくつか疑問は消えないが、それでもあの自由な翼には惹かれるものがあった。

 

 だが、それでどこまで持つのだろうか。結局、何かを見つけられるという楽観視で、俺は何も見据えていないのではないか?

 

不安になる。では、何を求めればいい?

 

俺の求める物、欲しかったもの、それは

 

「……………」

 

「……ねえ、お兄さん」

 

「………」

 

「うぅ、もう!!」

 

がぶっ……!

 

「いっ!? シャル、なにするんだ!!」

 

「らにって、むひふるほうはわるひんはお」

 

 首筋にあたる尖った感覚、少し痛くて少しこそばゆい。というか、なんかちょっと変な感覚が全身に走る。

 

「!!……わ、悪かったから。というか、やめろって、はしたない!」

 

「…ぺっ……ふん、どうせ下町育ちで行儀がなっていませんよーだ」

 

 口を離し、どこか自慢げにそう言ってのける。やってることは幼いが、なんというかしぐさの一つ一つが妙に気に障る。

 

「……別に、そこまで言うつもりは無いが。何でいきなり噛むんだ?……痛っつ」

 

「あぁ、ごめん。甘噛みのつもりだったんだけど。傷、ないよね?」

 

「……いや、そこまでは、いきなりだから俺も驚きすぎた」

 

「……」

 

少し、反応が大げさだったかもしれない。そう思い、シャルに言葉を出そうとした時

 

ちらっ……

 

「!」

 

 何故か、シャルは着ているシャツの襟をずらし、首筋から肩とうなじ付近の肌を見せつける。顔を赤らめ、恥じらいながら晒す姿には少しだけ蠱惑的な感覚に見舞ってしまう

 

「…何をしているんだ、君は」

 

「……だって、仕返しされるかなって。だから、どうぞ」

 

「……やり返しはしない、というか照れるぐらいならするんじゃない」

 

一瞬、肌を晒すしぐさに思わずキてしまったが、それでも俺は理性のある大人だから、だから、大丈夫と言い切れない自分が悲しい。

 

「……そう」

 

いで立ちを直し、シャルと俺は再びメンテの作業に戻る。

 

……少しは警戒心を持ってくれ。頼むから

 

「……はぁ、話が逸れたな。とにかく、明日か明後日にはもう行くよ。さすがにずっとパリにいるのも飽きてきたし」

 

「…ふうん。で、パリを出てどこにいくの?そのままイギリス?」

 

「まあ、なにもなければ……」

 

「……」

 

「まあ、2~3日寄り道ぐらいなら……するかもしれない。あてはないけど」

 

 はたして、それほど滞在していいのか。ちなみに、今日の昼ぐらいに国際電話をかけたがセシリアにはつながらなかった。連絡がないままイギリスに向かっていいものか

 

…まだ、いいよな。少し遅れても、ちゃんと土産物抱えていけばいいし

 

 

「………」

 

「?……シャル」

 

「…2~3日ねえ………じゃあさ、お兄さん」

 

「……?」

 

「もしよかったらだけどさ、実はね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 パリ市、その中でも高層ビルひしめく摩天楼の一帯、最上階からは凱旋門の広場を中心に都市を一望できる、まさに殿上人の住まう世界がそこにはあった。

 

「……」

 

 デュノア・グループ本社ビル、社長室の前で男は数人の護衛をそのばに待機させ、一人扉を押し開け中へと入る。

 

…まったく、なんで私と言う人間がこうも若造に振り回されねばならんのだ!

 

 モーレス・ガルディ、内心でそのような毒を吐きながら、しかしその感情は決して表に出すことはできない。

 

 モーレスは小物ではあるが、知恵も周り権力もある。積み上げたものは決して張りぼてなどではないと自信がある。しかし、目の前の人物に対して、モーレスは侮ることも、砕けた調子でいることもできない。

 

「やあ、来てくれたね。モーレス殿」

 

「…ええ」

 

 来客を待つ男、年齢は40半ばでフランス人らしい濃い金髪の若々しい出で立ち。名をアルベール・デュノア。第二世代機IS,ラファールを世界に広げ、フランス産業界を一身に背負うまさに時の人であり、そしてこの人物こそが先の騒動においてモーレスと共に陰謀を働いた共犯者でもある。

 

「わざわざお越ししていただきすまない。なにぶん、通話で済ますにはあまりにも重い話だ」

 

「……アルベール殿、直接顔を合わせる案件とはいったい何でしょうか?私自身、先のことがある故に下手には動けないのですよ、それは手を取ったあなたにはよくお判りでしょうに」

 

「…だが、あなたは今もまだイギリスに滞在しているはずでしょう。それなら、問題は起こらないはずでは?」

 

「……」

 

「まあ、しかし……貴方も私も暇ではないのだ、本題に入りましょう」

 

「…そうか。……だが、まずはあれだ。誤解だけは解いておきたい!」

 

「誤解…ですか」

 

「!!」

 

 席に坐する男の目はひどく冷徹で、自分よりも20は下の年であるのに、その眼光から感じる威圧は遥かに自分を超えている。

 

 底が見えない。デュノアグループのトップに坐すその男が、アルベール・デュノアという人間には未だ底知れぬ深い威圧感を感じてしまう。

 

「……モーレスさん、つまりあなたは全く無縁だと、そう主張したいのか?」

 

「えっ……ああ、そうですな。」

 

「……」

 

 無言で、アルベールはモーレスの前に一つの種類を投げ渡す。咄嗟に受け取ったそれにはいくつもの明細な数字の出入記録がある。そして、その数字と使用用途にモーレスは瞬時に理解が及ぶ。

 

「…こ、これはその」

 

「……南部にある、発電施設への設備管理……だが、その実際はこれだ」

 

「!」

 

 壁面に映るディスプレイに光が灯され、そこに映るのはなにやら人型の構造を移したかのような白黒の設計図である。数日前、ミラージュとニコラが発見した場所で得たISの開発記録である。

 

 元、デュノア・グループで兵器開発部門で技術主任を務めていた人物、イリス・ローランがひそかに作り上げたフランス製のIS、しかし、よくよく考えれば個人がISを開発するのにはどうあがいても資本と人員が必要であり、つまりそのイリスが行った研究のスポンサーこそが

 

「…イリス・ローラン、あれに金を回したのは君だな。」

 

「………どうやら、全部お見通しのようですな。それも、あの下品な女から聞かされたのですか、アルベール殿」

 

「……」

 

 無言で、目の前に置くPCを操作し、画面が数回ほど切り替わる。そしてそこに移り変わったのは動画のプレイヤーソフト、タンッ…と、高くキーを打ち付ける音と同時に、プレイヤーの動画が再開される。そこに映ったのは

 

『……いい、あんたにはこれを完成させる義務があるの。断るなんていわせないから、おわかり?』

 

「!」

 

 映像に映るのは二人の人間、特に目を引く今もなお乱雑な口調で会話を続ける女には心当たりがある。

 

セシリアを拉致せんとむかわしたデュノアの私兵部隊。その隊の指揮官であり、イギリスで護送中にその命を終えたはずだった。だが、映像に映る通りこの女は生きていた。

 

「ここに来るきっかけだよ。君が呼んでいると、この女が私のもとに現れたんだ。後ご丁寧に、そこにある物と同じ書類を携えてね」

 

「そうか。……君の言う通り、わざわざ隣国から呼び寄せたのも、彼女が全てを持ち込んだからだ」

 

 映像に映る赤髪の人物。そいつこそ、モーレスをこの場所に呼び寄せる根本の原因、提示された情報にはとあるISの設計思想、およびそのISを起動させるために必要なシステムのデータなど、それは本来存在することがあり得ない代物だった。

 

「今は北部の研究施設に保管している。検証データだけ見たが、あれはラファールを遥かに超えている。乗りこなし、操る者がいればな」

 

「……まさか、奴はいったい何者だ?あれの開発は中断になったはずなのに、なぜ……!!」

 

「……中断、それはどういうことだ?」

 

「言葉通りだ。確かに私はイリスと接触して、研究の資金を貸した。だが、あれは金を食いつぶすとだけとわかって、私は手を切ったのだ。故に、あのISは完成するはずがない!!」

 

「……だが、現実にあれは完成しつつある。そして、そのためには」

 

 

 映像が資料に切り替わる。数式と文字が羅列された項目が次々と変わり、その次に表示されるページには

 

「……イリス・ローラン、彼女の手記か!」

 

「ああ、それを見てね、私も驚いたよ。でも、君は知っていたんじゃないか?」

 

 

「……知っていた?何をだ」

 

「…イリスの背後は調べたのだろう。君が何もせず協力をかって出るとは思えないからね。」

 

「……それはそうだが、けどそれを………まさかっ!?」

 

「…察しが早くて助かるよ。」

 

「……ッ!!」

 

「…あれが去ってから、私はその情報を持ち合わせていない。疾走したと報告があったときにはすでに海外への逃亡と食って掛かったが、まさか国内にとどまっていたとはね。灯台下暗しだ。だが、幸運なことにあれは自ら君に接触した。そこから探ればあれの来歴はすぐにわかる。また、協力関係と行こうじゃないか。君も、関係者なのだからね」

 

「……それは、本気か?」

 

「……それを今さら確認する必要はあるかい?君だって、年儚い少女を手にかけようとしただろうに」

 

「……ッ!」

 

 アルベールは終始冷徹に、利益という合理的な目的のためにただことを成す。モーレスの質問の意味、それをアルベールは深く理解したうえで一切の躊躇なく決断する。イリス・ローランが残した未完のIS,それを完成させるために必要なもう一つのパーツ

 

 

「とにかく、あれを完成させることは私にも利がある。成功すれば、君を正式にフランスへ招待するよ。それで、良いはずだろう」

 

「……」

 

 本来の目的、自らの利益のために自分はトップに弓を引いた。いずれ、その対価をこのままでは清算しなければならない。であれば、この機会を逃すわけにはいかない。

 

「………開発に携わった人員、それをもう一度収集すればいいのですかな」

 

「ああ、それと並行して適正なパイロットを調達する。そのために、彼女の情報を提供してほしい。情報は当然調べているのだろう」

 

 彼らが策略する計画、未完のISを、イリス・ローランが残した聖剣を呼び覚ますために、その担い手を見つけ出す。

 

…まさか、あれとのつながりがこのようになって帰ってくるとは。まったく、女とは末恐ろしいものだ。

 

 かつて、愛人としての関係を数回経て、しかしその関係は一方的に突然なまでに途絶えた。だが、それは確かな始まりだった。

 

 

 

「手記に書かれていた少女、シャルロット・ローランの在りか、それを提供してほしい。」

 

 

 一切の躊躇なく、ただ静かのそう言葉に告げた。実のつながりがある、それを知った上で、アルベールは冷静に合理的に判断を下す。

 

「……いいのですかな。認知していないとはいえ、実の」

 

「構わんよ。父親が娘を迎えに行くのに、一体何をためらう必要がある。」

 

「……」

 

……父親、ねえ

 

 

 途中とはいえ、計画に携わったモーレスはその少女に与えられる顛末を想像できてしまう。故に、顔を知らぬその少女には同情の意を感じずにいられない。

 

同情はするが、仕方のない。同情など何の足しにもならない

 

 すべては利を得るため、暗躍は静かに、しかし確実にその魔の手は広がっていく。

 

 




今回はここまでです。少しずつ情報を開示していくスタイルですハイ

次回からシャルの過去について、まあ色々と掘り下げていくつもりです。というか、普通にシャルの方がラブコメ強すぎてセシリア完全に放置してる。はよダリルに手料理食べさせないと
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