無限の蒼穹に雷鳴は轟く IS× THUNDERBOLT 作:サンボル好き
ようやく、物語の下ごしらえが終わります。
一日が過ぎた
昨日、俺の偶然からシャルは母親の手記を見つけた。
部屋に戻り、彼女がそれを時間をかけて丁寧に読み進める様を、俺は後ろから見届けた。
けれども、結局その内容については何も言わなかった。
シャルは静かに、その手記を閉じて自分の部屋に戻った。机に残された一冊の本、そこにおいてあるタイトルはローランの手記。
前日、宿に泊まって一緒に寝ていた時のことだ。背中に寄り添った彼女が、その口から漏らした事実を、俺は思い出す。
寝静まった深夜だ。隣で聞こえる震えた声に俺は目を覚ました。俺の知らないシャルの記憶の中で、彼女はその人物の名を何度も口にしていた。
娘を捨て置き、失踪した母親の名を
「……」
今、俺は庭園の隅にある石碑、その前に立っている。
石に掘られた名、シャルが会いたくなかったと、複雑な気持ちを漏らした原因
「…イリス・ローラン」
聞きおぼえがあった。
密かに、俺は彼女の母親の名を検索にかけた。鉱山でのこと、元軍人の皆から聞いた世界情勢や、歴史のこと、この世界に順応するために俺はとにかく話を聞き続けた。
そんな中で、俺はその名前を確かに聞いたことがあった。
そして、その予感は的中した。
「……兵器開発の世界的権威、デュノア社の技術主任にして、医療サイバーテクノロジーにも精通する稀代の天才」
調べれば調べるほど、彼女の功績は湯水のように出てくる。
しかし、同時にその話題は一つの結果に帰結する。
ISの登場により、世界から消えた前時代の人間、時代遅れの兵器に固執した悲しき天才、出てくる見出しはそればかり
失踪したタイミングは8年前、ちょうど世界にISが広まった時期にあたる。
実の母親の経歴としてはあまりにも深く、そして謎の多い。
しかし、それこそが紛れもなく、彼女の
「……シャル、君は……知っていたのか」
「……ッ」
振り向かず、後ろにいる彼女に俺は言葉をかける。
その手には、昨日の手記が握られていた。
「………うん、叔父さんからは、聞いていたから。お母さんが、そういう仕事をしていたって」
「聞いて、いいのか?」
「……なにを、かな」
「あの手記、何が書いてあったんだ?」
「……」
「…言いたくないなら、別に構わないが」
「いいよ、そんなにたいそうなことじゃないし」
不自然なほどに、落ち着いた態度でシャルはその場にいる。
その日は祭事の三日目、疲れた叔父は家で休み、街に行かず彼女と俺もその場にとどまった。
そして、今は二人、イリス・ローランの墓前の前にたっている。
「……聞いてくれないかな、私の、お母さんのこと」
「…ああ、俺でいいなら。」
「…じゃあ」
手記を開く。
「………読むのか?」
「うん、聞いて、欲しいから」
そう言い、シャルは淡々と手記の内容を語りだす。
読み手の言葉を、書いた本人の視点になりきっているかのように
シャルロット自信の始まりの記録を、一つずつ紐解いていく。
「…身ごもってから二か月、お腹は既に大きく、日々に生活にも気を遣わずにいられない。生まれてくる命を前に、私は……」
「………」
語っていく。
それはすべてイリス・ローランと言う女性の記録
生まれて初めて得た新たな命への感謝、日々の困難や発見、そんな当たり障りのない、ごく普通の母親の記録が淡々と語られていく。
そして、それは突如終わりを迎える。
「?」
手記をめくる手が止まる。
「…ここで、終わっている。この次の日、あの人はいなくなった。」
「……」
渡された手記、手に取りその内容を見る。確かに半ばのあたりから続くのはずっと空白のみ。手付かずのレイアウトだけがむなしく流れていく。
「……でも、記録から見えるのはただの、一般的な母親だ。君を産んで、そして愛していた。」
「うん、だから、余計に混乱した。恨もうにもこれじゃあ何もわからない。」
「……期待、していたのか」
いなくなった理由を、失踪に至るその動機に、せめてもの手がかりが無いかと
「うん、もしかしたらって、でも、やっぱりそんなことなかった」
「……すまない、俺が不用意に見つけてしまったから」
「別に謝らなくてもいいよ。遅かれ早かれ、いつかは手に取るんだし。むしろ、必要なことだったと、思う」
「……そうか」
「気にしなくていいよ。」
「…ああ」
とは言うもののだ
実の親に対するデリケートな問題だ、それを俺のようにいなくなる人間の手で開いてしまったこと、それを容易には捨てられない。
「すまない、シャル」
「もう、いいって。お兄さんに、私は何も言えないよ。悪いこと、したから」
「そのことは、それこそ終わったことだ。」
「なら、これのことも昨日のこと、もう終わったことでいいでしょ」
「………それは」
「えへへ、言い返せないでしょ」
あどけなく、いたずらに成功したように俺に笑いかける。つられて、申し訳なくなっていたのが馬鹿らしく、つい耐えきれずに破顔してしまう。
「…ねえ、お兄さんはさ、覚えてる」
「?」
「私がさ、最初に言おうとしたこと」
「最初、それって、あの時の」
最初、それは思い出すには少し面映ゆい。
シャルが過ちを犯して、それでも、嗚咽を吐きながら叫んだ望み。
「…君が、目指すところのことか」
「うん、IS乗りになりたいって、でも、肝心な話はしてないよね」
手記をしまい、ポケットから取り出すは携帯端末
画像を出し、そこに映るのはとある人物の写真
「…それは」
「……私のお父さん、かもしれない人。イリス・ローランと交際があったって、スキャンダルを取り上げたゴシップ、これはその時の記事」
端末を手渡され、俺はたどしく受け取り、その記事を目に通す。
「…母さんのこと、調べてたんだ。そしたら、それを見つけて、一目見て予感がしたんだ。だから、会ってみたい。デマかもしれないけど、でも、お母さんにつながる情報はきっとあるはず」
「……」
「でも、私はね、この人だと思うの。実際にあったことないけど、でも感じるんだ。なんていうか、どんなに離れていても、つながりがある気がする。決して揺るがない、血のつながりを」
言葉を聞きながら、俺はその記事に目を通す。
そして、その人物の名前に、俺は言葉を失う。
「……ッ」
「でも、相手は世界トップの社長さん。下町の娘じゃどうあがいてもまともに会ってなんかくれない。だから、すごくお金がかかるけど日本のIS学園に行きたい。試験さえ受かれば、庶民の私でも国は注目する。そしたら……って、どうしたのお兄さん」
「……いや、なんでもない」
「?」
取り乱した。無理もない、その名前にはあまりにも心当たりがありすぎる。
「……デュノア、アルベール・デュノアが、君の父親なのか?」
「うん、まあ可能性だけどね。馬鹿らしいよね、こんなこと、急に」
「いや、そう言うわけじゃないんだ……少し、驚いただけだ」
正直ではない、内心、それはもう穏やかではない。かつて、命のやり取りを起こした原因の大本、その名を知らないままで通せという方が無理と言うもの。
だが、それは今この場では
「…だから、IS乗りに……この国の代表候補生になる、そういうことなんだな」
「うん、でもこの国ではまず無理。私みたいな庶民じゃあ普通に試験を受けることも難しい、かれど、IS学園に入学する資格が手に入れば……」
饒舌に語る。この国のシステムを、いかにその夢に至るまで難題があるかを
けれど、その話の大半は耳を通り過ぎるだけ
ダリルの中で、彼女の言う父親についてのことしか頭にない。
「……」
…デュノア社のトップ、なら、それはきっと
セシリアの暗殺に加担している、その可能性は大きい。
もし、対面に会おうものなら、俺は躊躇なく拳を振り切れるだろう。
けど、これは彼女の、シャルロット個人の問題だ。
だから、この場で俺が言うべきことは何もない。
望むことに、俺は肯定してやることしかできない。
だが、それでも
「………」
…言えないよな、そんなこと
「……ねえ、聞いてるの?」
「…あっ、うん……聞いてる、かな?」
「……はぁ、とにかく、この国じゃあIS乗りになるなんてまず不可能なんだよ。」
「それは、どういうことだ?」
「方法はないわけじゃないの。国が定めた制度では軍属になって目指す方法と、あとは大学からのデュノア社の就職。どっちもとにかくお金がかかるし、第一枠に足を踏み入れることも不可能。この国、結構腐ってるから。」
「……それは、あぁ」
言われて、それにはすぐに思い当たる。
確かに、初日にひどい目に遭ったのは観光街から外れたからで、シャルと叔父の住んでいる通りも清掃が行き届いていない。
「パリだって少し道を外れれば生活水準は雲泥の差、食っていくだけでも大変なのに、まともにスクールに通うなんてそれこそ体を売るか、体を売るために養子になるか、そんな環境だから、私は……焦って」
「……いや、そのことは」
「…私、本当はあんなこと、でも……うぅ」
「あぁ、もうほら、終わったことを自分から蒸し返すな。……はぁ」
義手で頭を撫でる。ぎこちない手つきのそれを、この子はただただ受け入れる。
慣れてしまった、と言うのはおかしな話だ。
出会って間もない、そんな短い時間で、俺たちは互いに心を許している。
「……どうしたの、お兄さん」
「……いや、なんでもないよ。シャル」
彼女の目指す道、そこには明確に陰りがある。
けれど、その意思を、俺の意向で捻じ曲げるわけにはいかない。アルベール・デュノア、そしてイリス・ローラン、一般人である自分にはどこから手を付ければいいか、それすら見当もつかない。
…
…でも、あの子なら
脳裏に、セシリアのことが浮かぶ。けど、それは
「……なあ、シャル」
「?」
「君は、本当に父親に、アルベール・デュノアに会いたいのか」
疑念は消えない。だから、俺はそう彼女に問うてしまった。
「……それ、どういうこと」
「いや、どういう意味とかじゃなくて、その……」
どう言えばいい
君の父親は悪人かもしれない、と
人殺しをする外道かもしれない、と
そう、ありのままに打ち明ければいいのか
「……」
……言える、わけが無い。
「……すまない、やっぱり、何でもない」
「……そう。…でも、仕方ないよね、こんなの、一方的な思い込みだもん」
「いや、否定する気は「でも!!……お母さんはもう無理だけど、まだお父さんには、会えるかもしれない、から」
食い気味に、今までの様子から変わってひどく感情的に荒ぶる。
失言だった。
だけど、取り消す言葉は立てられない。
「……ッ」
感情的に、その先にある彼女の本音を、俺は知りたいと思ってしまった。
「……ただの勘違いかもしれない。けれどね、もし予感が、その可能性が現実になるなら、私は行くよ」
「……シャル」
「だって、知りたいから。お母さんのことも、お父さんのことも、全部知って、その上で、私は自分の生まれた意味を知りたい……!」
「……生まれた、意味」
「うん、だから……幼稚かもしれないけど、やりたいんだ。だって」
……私は、子供だから。子供は、親のつながりを切り離すことなんてできないから
墓前の前、彼女は吐き出すように言葉を連ねた。まるで、自らの罪を独白するように
その内側にある物を、今、曝け出したのだ。
「……そうか、君は」
親と子、そのつながりは絶対だ。
いい意味でも、悪い意味でも皆、同じだ。須らく、その選択には自分の生みの親が関わる。
選んだ道には理由がある。それは良い結果にもなるし、悪い道程に迷わすだけかもしれない。
つながりは呪縛か、それとも祈りか
少なくとも、その答えは今は
「……すまない、野暮なことを言った。」
「……ッ」
「正直に言う。俺は、アルベール・デュノアついて、あまりいい知らせを聞かない」
「……それは「だけど、これはあくまで俺が出した結論だ」……!」
シャルにとってのアルベール、それは実際に対峙しなければわからない。
結果は見えない、だから
「……会えばいい。どんなに時間がかかっても、どんな結果になっても、娘が父親に会うのに、ダメな道理なんてない」
「…お兄さん」
だから、俺は託す。
シャルの目で、目指すべき結果を、シャル自身の選択で見届けるべきと
それが、最善であると信じて
「………ありがとう。でも、なんだか不安だな。本当に良いお父さんなのか、そこまで考えていないもん。会うことばっかり考えてたから、その先なんて、わからない。…不安だな」
「……すまない、色々と吹き込んでしまったみたいで」
「大丈夫だよ、必要なことだし……まあ、でも」
ダリルは託した。
だが、二人は知らない。
この選択肢はあまりにも間違いであるということを
分岐点があるとすれば、それはここから始まっていた。
「…ねえ、お兄さん。……もしね、私がどうしようもないくらい、ひどい目に遭ったら。私が、生きる意味を見つけられなかったら」
「…急にどうした、そんな後ろ向きな」
「いいから、もしもだよ。親に会って、それで幸せになれるなら問題はないよ。でも、未来はわからないから、だから、保険が欲しい。」
「…保険?」
「うん、もしさ、私がひどい目に遭ったら。選んだ結果が、誰も望まない暗闇の未来なら」
「……シャル」
シャルロット・ローランの待つ未来、それは悲劇だ。
選択を間違えれば、その未来はバッドエンドしかない。
「だから、私がさ……もし、不幸な未来に足を踏みはずしたら。その前に、私を、助けて欲しい」
「…ッ」
結末は変わる。
全ては、そのまがい物の手に、委ねられる。
「……助ける、俺がか」
「うん、だって、私にとって」
「……ッ」
願いは託された。
シャルロット・ローランの未来は、今ダリルの手に委ねられる。
結末は残酷に、運命は生者の意志を踏みにじる。しかし、それを変える者がいるとするなら。
それは、この世界の定説から外れたものによってのみ可能になる。
異界から訪れた戦士によって、物語は正しき方向へ修正される。
今回はここまでで、次回からどんどん加速していきます。