無限の蒼穹に雷鳴は轟く IS× THUNDERBOLT 作:サンボル好き
ずっと日常パートが続きましたが、ようやく物語に火が付きます。
それではどうぞ
村に滞在して四日目
結局、色々とあったせいで2日と3日は街に降りられなかった。唯一降りていた叔父さんから聞く限り、歌や踊りと催しがあったらしく、正直、もったいない心境だ。
そんな俺を見て、シャルは若干申し訳なさそうな顔をしていて、互いに謝り続ける不毛なやり取りをしたり、まあ、それも今日のメインですべて払拭される。
滞在、最終日、その村の名にふさわしい、色どりに溢れたフィナーレがあるらしい。
「……ライトアップ、だったか」
「うん、祭りのフィナーレだから、結構すごいよ」
収穫祭、その最終日に行われる大規模な灯、集落から畑まで、広くたいまつやランプをともし地上を明かりで包み込む。豊穣の秋にふさわしいなんとも優美で暖かな光景が広がる。
だがしかし
「…なのに、俺たちは街にいるのか」
てっきり、どこか遠くの高台にでも行くのかと思いきや、そのまま集落の中央広場にいる。
「というか、やけに人の熱気が多いな。」
「皆、中央広場でやる踊りの方に集まっちゃうんだよ。特に、最終日にカップルで踊ると必ず幸せになれるとか、そういう言い伝えもあるし……なにより、集落の外は寒いから」
「あぁ、なるほど」
「どうしても見たかったら付き合うけど、……うぅ、ここ風が強いよ。もう少しあったかいもの買ってからにしない?」
「……そうか?」
秋の時期、イタリアの気候は急激に寒くなる。実際、山の方から集落に降りてくるまでかなり肺を冷たくした。
だが、今いるここはなんと暖かな
街を照らす綺羅やかなライトアップ、街路に集まる人込みの熱気、寒いイタリアの気候であっても街中はそれほど寒くない。
「……確かに、ここは居心地がいい」
広場のベンチで、俺とシャルは並び寄り添って座っている。
「まあ、しかし、このあと俺たちはどうする………」
「……ほっ」
「それ、何飲んでいるんだ」
口の周りに付いた茶色の泡、もこもことした冬の装いにあって、不思議とその幼げの可愛さが映えて見える。
「……これ、さっき買ったショコラだよ。ほら、お兄さんも一口」
ぐいっと、前に出される紙コップ、鼻腔を刺激するかカカオ特有の甘い香りに唾液が沸き上がる。
「一口、貰おうか」
「うん、どうぞ、あっ…間接キスならもう少し右だよ」
「……止めろ、冗談でもそう言うのは」
一応、少し飲み口を左にずらしてグイっとあおる。想像より、それはドロッとして、甘みも香りもココアより深く感じる。
飲んでいるというよりは、若干食べているような、濃度の濃い飲み物だ。
「……これ、ココアだよな?」
「違うよ、ショコラ=ショー、ココアは粉末だけど、これはチョコを直に溶かしたモノ、似てるけど違うんだから」
「……そうか」
「…って、私の分もあるんだよ、あっ、結構飲んでるし」
「すまない、つい………あぁもう、また買ってやるから、ほら拗ねるな」
分かりやすく頬を膨らましている。そのままつついてプシュット吐き出させたくなる。
いや、さすがにしないけど
おもむろに立ち上がり、ダリルは手を伸ばす。
「ほら、一緒に行こう。」
「………うん」
手を繋ぎ、人混みを掻き分けて進む。
「シャル、手を離すなよ」
「うん、分かってるって、もう子供扱いして」
「実際子供だろ、まだ13なんだから」
「………おっぱいは大きいのに」…ボソ
「次その手のはなししたらデコピンだからな」
相変わらず、軽口の多い。
確かに、この年にしては結構ある。考えたくはないけど、この子のフレンドリーな接し方はだいたいそれを意識させられる。
「まったく、叔父さんにどやされても………」
振り返り、声をかける。
しかたない、と
言葉が喉元まで浮き上がるとき。
「?」
手にかかる負担が消えた。すぐに振り返り、いるべきはずのあの子を探す。人混みの流れに耐えながら
、俺は辺りを見渡す。
けれど、その姿はどこにもいない。
「………まったく、どこに」
〇
「……見えないや。」
うかつに、ダリルの手を離した瞬間、向かってくる波に流されてしまった。
人込みに流されて、あれよあれよと流れに押し込まれ、ようやく解放される頃には当然ダリルはいない。
目のまえの黒い頭髪を目印に、すぐに追いつけると高をくくって、声を出すことを渋ってしまったのが過ちだった。やっとこさ追いついて、苦心して拝んだその顔はまったくもって知らない他人だった。
ありきたりな顛末だが、シャルは祭りの中ではぐれてしまった事実を受け入れた。
「…待つしかないよね」
今いる場所は人込みが少なく、露店や人込みから外れた小さな広場。ベンチに腰掛けて、取り合えずダリルに連絡を送った。
「……」
あたりを見渡す。観光客と地元民がひしめく大通りから変わって、そこは少し余裕のある、というか特定の人込みしかないわけで
「……見事にカップルばっか」
街の暖かな光に包まれ、ペアの男女たちは思い思いにムードを作り、他人の視線など知らず独自の世界を作り並べている。
「…リア充爆発しろ、だっけ、その気持ちわかるな」
一人でいる、それがどこか変に罪悪感を感じてしまう。何も悪いことをしていないのに、場違いであることが罪なように
「……」
寂しい。そんな身近な感想が頭をよぎる。
「早く来ないかな。」
短く、場所だけは伝えた。電話で話さなかったのは何となくだ。
…お兄さん、すぐに来てくれるよね
期待を込めて、どこか依存したような考えなのは自覚している。別れも近い、だが、それでも
「……やっぱり、嫌だな」
母が出ていって、生まれた地を去って、思えば自分の周りにはこれほど親しい人間は全くいなかった。
作ろうとすれば作れたかもしれない、けれど、心のどこかで拒絶していたのだ。
深くつながればつながる程、失う傷は大きい。
だから、シャルロットは孤独を選んだ。そして求めた
失っても、愛情への渇望は容易に捨てられない。故に求める、本当のつながりを、血によって結ばれた本物の関係を
「……でも」
本物の関係を求めて、けど今自分が最も心を躍らせるのは全くの持って他人と言ってもいい、赤の他人だ。
「……馬鹿だな、私」
気づいている。自分がどれだけ彼に依存しているか、でもこれはもう内に秘めるべきものだ。
求めてはいけない。彼にも目指す者がある。求めたら、きっとそれは迷惑をかけることだろう。
「できないよね、そんなこと」
負担をかけたくない。大事だからこそ、彼を、ダリル・ローレンツを縛りたくない。
「……ダリル、ダリル」
わかっていても割り切れない。気が付けば、広場には誰もいなくなり、シャルは一人ベンチで足を組んで、鬱屈した感情に打ちひしがれていた。
町の喧騒も遠く、耳には入らない。
「……」
だから、気づけなかった。
…ザッ
「……へっ?」
視界が真っ暗になる。何が起こったかわかる前に、意識が先に消えていった。
強い蒸留酒のような刺激臭を感じながら、シャルはただ一人の男のことだけを脳裏に浮かべていた。
〇
「シャル!」
人気のない広場で、自分の声だけがむなしくこだまする。
連絡を受け取り、方々に通行人から場所を訪ね、ようやく足を運んだ今、そこには誰もいない、念のためにメールが更新されていないか確認すれど、そこには先ほどと変わらない一文のみ
「…いない、どこに行ったんだ?」
土地勘のないダリルにとって、未だ慣れないこの街では今ダリル自身も迷子のようなものだ。
「…あぁ、とにかく交番にでも……って、フランスってこういう時かける番号とか、……はぁ、これは参ったな」
手に持つ端末が頼りになるようでそうはならない。来た道を戻り、もう一度人込みの多い露店の連なる通りを目指す。
あてもなく、とにかく行動を起こすしかないと、群衆の熱気を掻き分けダリルは進む。
…けど、何で出ないんだ?はぐれたなら、ずっと返信が無いか気を向けるはずだろうに
「……シャル」
まさか事件に巻き込まれているのか、一度そうした経験があるためか、思考はマイナスに偏る。
「……いない、どこにいるんだ?」
「あら、もしかしなくても、誰かお探しですか。」
「!」
突然、背後から響く声、間違いなく、それは他の他人ではなく自分に向けられたものだろう。
「あの、いったいどうして……!!」
振り返り、その声の主を拝む。
群衆の流れの中で、その一人だけが流れの中で静止した時間に存在する。
それほどに、その人物の存在は次元を超えて大きい。
「……あんた」
ファーの付いたレザーコート、フードに顔を隠してはいるが、その眼を、威圧を、俺は忘れない。
あの日、命を削り合い、スコープ越しに除いた女の顔を、俺は今再び拝んでいるのだ。
「……あれ、もしかして、お知合いですかぁ……はは、これはこれは、いやぁ奇遇じゃない。」
フードを上げ、その真っ赤な髪を晒し、前髪を後ろかき上げる。
「……!」
「ええ、そういうあなたはダリル・ローレンツ、相も変わらずみすぼらしい体してるじゃない」
息を吐くように侮蔑の言葉を漏らす。
鮮血を連想させるような荒々しいウルフヘア、獲物を前に殺意と歓喜を抱く狂人
忘れることのない、できるはずのない。二回にわたって、命を奪い合う戦場で関わった相手
「ダリル・ローレンツ、久しぶりね……ずっとあんたを殺したがってる女。ほら、お久しぶりの握手」
「……ミラ」
「くすくすっ……ずいぶん警戒されてるわね。」
何食わぬ顔で、ミラージュは手を差し出す。レザーのグローブに包まれた手は、どうあがいても親愛で差し出されるものには思えない。
「何がしたい、一体どういうつもりだ」
「何って、ただのあいさつよ。こんな場所で、いくらなんでも危険なことなんてしないわよ」
「民間人を皆殺しにしようとした人間の言葉を、どう信用しろと」
喧騒絶えない人込みの中で、雑多なbgmが白紙に感じるぐらいに、ダリルは目の前の一人に集中を裂いている。
レザーのコートの内側、スカート、ブーツの中、どこから凶器が出てきて、それが自分に向けられるのではと警戒が絶えない。
「…あらら、ずいぶん嫌われたわね。でも、まあそうよね。こんな女に構っている暇なんて、あんたにはないか」
「……どういう、意味だ」
「意味も何も、探してるんでしょ、あの子」
「……ッ!!」
「……手短に、伝えるけど……はい、これ」
差し出された手、警戒して足が後ろに地面を削る。
だが、その手にあるのは警戒すべき凶器の類でもなく、そこには
「これは、無線?」
「…付けて」
「……」
警戒すべきだが、その意を確かめるためにも、ダリルは無線機とイヤホンを受け取る。
「……おもしろいから、聞き逃したら駄目よ」
「……ッ」
イヤホンを挿し、ボリュームを上げる。
ノイズ音が整う。不協和音が一つ一つ、正しい音へと繋がっていく。
…た……って…………
「……これは?」
ノイズの中に埋もれている甲高い声。
妙に聞き覚えのあるその声に、回答はすぐに表れる。
たす………けて
……れか…………さん
「……ッ!?」
…まさか、どうして!!
『いや、助けて!!お兄さん……お兄さんッ!!!!』
「…シャル、シャルなのか!」
ノイズ越しに叫ぶその声、間違いなく、少し前まで共に過ごした彼女の声だ。
「おい、これは……いったい」
「何って、聞いたままよ。あの子は一足早く帰るの、ちょっと強引なやり方よね」
「帰る?ふざけるな…こんなの、どう聞いても誘拐じゃないか!……帰るだなんて、ふざけ……」
…ふざけ、ちがう。
…あいつには、そうだ……あいつの、父親が
もし、あの時言ったあの子の予感が、紛れもなく当たっているなら。
そして、俺の中で知るその男の評価と繋がるなら。
それは、面白いように一致する。
「……父親が、関わっているのか」
動機は不明、だが、推測が重なればそれは紛れもなく真実へ近づく。
「あら、意外に知ってたの。…そ、あたしの雇い主、その命令は」
おもむろに、ミラージュは懐から端末を取り出し、立体のAR表示で宙に二枚の資料を提示した。
隠し撮りのような写真、生々しいほどに精査された情報、その人物は紛れもなく、彼女のモノだ。
「……お前たちは、また」
「ええ、そう。今回もお仕事、ターゲットはアルベール・デュノアとイリス・ローランの隠し子、シャルロット・ローランの拘束……そしてターゲットは今捕獲されて山中の国道を走っているわ」
「……ッ!!」
「向かうのは良いけど。あんたにいったい何ができるのかしら!」
「…止めるのか、敵であるあんたなら、俺は女でも」
「何熱くなってんの……それよか、ほらッ」
「!!」
等速線上に投げられた物体を反射で手に取る。
義指の合間に引っかかるように止まったそれは、クリアブルーの角柱の形をした電子キーだった。
その用途に、ダリルはすぐに思考が結論を出す。
これと同タイプのものを、自分は使用していた。
「…これは」
「作業用のEOSの起動キー、あんたたちが鉱山で使ってたのと同じタイプよ。東に300メートル先の廃工場においてあるから、好きに使うといいわ」
「……本気か?」
「ええ、信じないなら結構よ。…ま、それ以外に頼る手があるなら、好きにしたら」
「……」
手に持つ鍵、目の前の相手を交互に一瞥する。
取るべき選択肢、だが目の前の選択に信用できる点は限りなく薄い。
…無線の情報、そして何よりこいつが手を貸そうとするなんて、まずどれも度し難い
「……だが」
あの時と違い、ここには頼るべき仲間も振るえる力もない。
であれば、取るべき選択肢は、おのずと
「……」
「さ、好きにしなさい……私は楽しむだけ、応援してるわ、ダリル」
「……ッ」
…乗るしかない。ここは、もう
「…借りを作ったとは思わない。後悔するなよ、ミラージュ」
「……もちろん、って……あら」
足早に、群衆を掻き分けダリルは走り去る。その後ろ姿を眺めながら、ミラージュはその喜色の面を冷たく落とす。
「……これで、いい」
フードをかぶり直し、女はその足を薄暗い裏路地へ向ける。
流れる群衆を背後に。ゴミや資材で狭まった道を進む。そこには、自分と同じ匂いをしたコートの男がいる。スキンヘッドを隠すつばの深い帽子をかぶった男。おもむろに取り出した煙草をミラはその手で受け取る。
「……いいんですかい」
言われずとも、上下関係がしっかりしているようで、銀色のジッポでその口に火をともす。
「……ふぅ」
「……ま、自分は良いんですけどね。あくまで、自分の立場はあんたの直属なんで」
タールと果物の混じった粘りつく甘い匂い。二人分の煙を交わしながら、ミラは男に、今の名前はスマイルだったか、ミラは白い吐息と共に静かに言葉を漏らす。
「…ねえ、スマイル」
「……はい」
「……なんでさ」
「?」
らしくない、どこか虚ろ気で、何を考えているかわからない。まあ、それはいつものことだが
「…あの、隊長?」
「……いや、いいわやっぱ」
「はっ、ちょっとはっきりしてくださいよ。というか、俺らもそろそろ行かないと、あのダリルって男に予備のEOSを渡したの、バレたらまずいんじゃないですかい?なにか、工作でもなんでも」
「……はっ?」
「……いや、だから……さっきあんたが渡した」
「………あ、あぁ」
「??」
珍しく、めったに見ない反応が、スマイルの目のまえにあった。
調子が掴み切れない、物事の概念が軽い女だから、何をしてもくるっているで割り切れる。
だから、理解が追い付かない、その不自然なまでの落ち着きに、どうにも疑問が絶えない。
「あの、もしかして薬でも……って、んなわけ、いや」
「……」
「…あの、たいちょ…」
…ジリリッ
「!?」
「……んっ、はあぁ」
口から離した煙草の先を、むき出しの腕にあろうことか押し付けた。
じりじりと、わずかながら肉の焦げるような、そんな錯覚を感じるような光景が目の前にはあった。
「あんた、なにを……ッ!」
「ん、ふぅ……ぁ、うん、そうね……大丈夫、私は、私ね」
「?」
「ほら、何してるの……そろそろ行くわよ。ターゲットの護衛、まだやることがあるわ」
「……ッ、あ……はぁ」
有無を言わさず、質問を介させない、ミラの足取りにスマイルはただついて行くのみ。
「……狂ってるのは、今更だよな」
「……」
「……ちょ、待ってください、隊長!!」
今回はここまでで、次回からは戦闘ですね。